説明

深UVラマンスペクトロスコピーを用いるスタンドオフ爆発物検出器

【課題】深UVスペクトル領域のレーザー光を用いてスタンドオフラマンスペクトロスコピーを行うためのシステムおよび方法を提供すること。
【解決手段】ラマンスペクトロスコピーを行う方法、および、レーザー光を用いて、塗装された表面上に配置される標的物質の微量を照射することと、標的物質の微量から反射されたレーザー光およびラマンリターン信号を受信することと、標的物質に対するラマンシグネチャーを得るために、少なくとも分光写真器およびカメラを用いてラマンリターン信号を処理することと、標的物質に対するラマンシグネチャーおよびラマンシグネチャーのデータベースに基づいて標的物質を識別することとを含む方法を行うための装置。レーザー光の波長は、ラマンリターン信号の電力対蛍光電力の比率に基づいて、選択され得る。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本出願は、2010年8月17日に出願した米国仮出願番号61/374,465の利益を主張する。上記仮出願は参照することによって、その全体が本明細書に組み込まれる。
【0002】
(本発明の分野)
本発明は、ラマンスペクトロスコピーに関し、特に、深紫外線スペクトル領域のレーザー光を用いてスタンドオフラマンスペクトロスコピーを行うためのシステムおよび方法に関する。
【背景技術】
【0003】
(本発明の背景)
化学因子または生物学的因子に曝されることの危険は、深刻であり得る。例えば、事故による意図しなかった放出の結果、または、故意の送達の結果であろうが、(1)放出される因子のタイプおよび(2)汚染の正確なエリアを迅速かつ正確に識別することが望ましい。このような危険な物質の迅速かつ正確な検出は、起こり得る負傷者を減らし、そして、例えば、風、人および動物の接触等による因子のさらなる拡散を制限することにおいて重要な要因であり得る。
【0004】
同様に、爆発性の物質を迅速かつ正確に識別することを可能にするのが重要である。このような検出は、セキュリティおよび軍事環境において特に重要である。検出がより早く行われ得るほど、職員がより早く避難され得、または他の適切な対策が取られ得る。
【0005】
表面堆積した化学汚染を測定するように設計される、従来の遠隔センサーテクノロジーは、汚染の物理的なサンプルを回収する乗り物および関連のテスト装備を用い、そして次にサンプルを分析するための極めて厄介かつ時間がかかるプロセス、例えば、化学因子に対するテストのための質量スペクトロメータと連結される機械的サンプリングホイールシステムを使う。
【0006】
このようなアプローチの複雑さを考慮して、より新しく、より簡単なテクノロジーが所望された。この所望に応答する1つの新興のテクノロジーは、一般的に、「スタンドオフ表面検出」と呼ばれ、実際に物質と物理的に接触する必要なしに、物質の検出を可能にするテクノロジーのカテゴリを指す。これらの検出システムの目標は、化学的脅威および生物学的脅威を検出し、識別し、位置決定し、定量し、警告し、そして報告するための能力を提供することによって、(さらなる)汚染を避けるように軍事部隊または民間職員に十分早い警告を与え、そして適切な反撃対策を展開することである。
【0007】
スタンドオフ表面検出を可能にするテクノロジーのうちの1つは、ラマンスペクトロスコピーである。ラマンスペクトロスコピーは、材料を特徴づけ、その後このような材料を識別するために使われる。典型的に、レーザートランスミッタは、高い放射照度を有する、スペクトル的に狭い光源として役に立つ。レーザーは、とりわけ、化学的化合物、生物学的因子、または爆発性の材料のような既知または未知の物質を照射する。入射光の一部分は、物質によってラマン散乱される。この光は、全空間方向に散乱されるだけではなく、離散したな波長にスペクトル的にシフトされる。これらの波長シフトは、物質の分子結合に関連する固有振動エネルギーに対応する。
【0008】
従来のスタンドオフラマンスペクトロスコピーシステムにおいて、ラマン散乱光は、テレスコープによって収集され、分散光学システム内に結合される。テレスコープは、収集された光を、例えば、光学ファイバーバンドル上に集光する。ファイバーバンドルの反対の末端において、個々のファイバーは、格子ベースの分光写真器に対して入口スリットを形成するように直線状に配向される。電気光学検出器アレイは、ラマン散乱光の光学スペクトルを記録する。このスペクトルは、既知または未知の物質の「指紋」として役に立つ。分析コンピュータは、既知の物質を識別する情報を加えて、参照スペクトル情報を格納し、大低、事前に分析され、かつ「指紋化された」参照物質のスペクトルライブラリーから未知の物質を識別するためにパターンマッチングアルゴリズムを使用する。
【0009】
実験室ベースのラマンスペクトロスコピーシステムは、長年使われている。最近、ポータブルラマンシステムは、サイズが減少した部品および固有の組み込み技術の結果として可能になった。1つのこのようなポータブルシステムの記述は、特許文献1に見出され得、上記文献が参照することによって本明細書に組み込まれる。バックパックにインプリメントされた、人間可搬型ラマンセンサーはまた、最近ITT(Wilmington、DE)によって実地利用されてきた。そのシステムの側面は、「Method, Apparatus and System for Rapid and Sensitive Standoff Detection of Surface Contaminants」という名称の特許文献2に記載され、上記文献も参照することによって本明細書に組み込まれる。トラック搭載型のラマンセンサーはまた、今日までに実地利用されてきた。なおラマンスペクトル測定法のさらなる議論のために、特許文献3にも参照がなされ得、上記文献も参照することによって本明細書に組み込まれる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】米国特許第6,608,677号明細書
【特許文献2】米国特許第7,796,251号明細書
【特許文献3】米国特許第6,788,407号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
これらの公知のシステムがあるのにかかわらず、特に、極微量または残余の爆発性の物質を識別することに責任がある民間および軍事職員の両方のニーズに合うように異なる形態のラマンセンサーを提供するニーズが残る。
【課題を解決するための手段】
【0012】
(発明の実施形態の要約)
本発明は、危険な物質またはアイテムのすぐ近くに存在する必要性を避けるために使用され得るラマンスペクトロスコピーシステムの固有のインプリメンテーションを提供する。より具体的には、本発明に従う実施形態によって、職員は、爆発性の材料(例えば、TNTおよびRDX)、手製の爆発物およびそれらの前駆体、ならびに化学兵器(CWA)と有毒の工業化学因子(TIC)を含む化学物質を含むがそれらに制限されない未知の物質またはアイテムの存在に対して、建物、機器、乗り物、航空機、および他の人工または自然な表面の検査を含む遠隔であるが、感度の高いサイト利用を行うための能力を提供される。本発明の実施形態の有意な利点の1つは、爆発物が隠され得る位置に職員を配置する必要がなく、急造爆発性のデバイス(IED)または乗り物上の少量の爆発物を捜索し、かつ検出するための能力である。
【0013】
本発明の実施形態の他の利点は、テクノロジーが、(1)非接触スタンドオフシステムであり、(2)表面汚染のマッピングを可能にし、(3)迅速な応答(典型的に、検出を行うために数秒のみ)を提供することを含む。
【0014】
本発明の実施形態のこれらおよび他の特徴と、それらの付帯の利点は、関連する図面に関する以下の詳細な説明を読むことでより完全に認識される。
【0015】
例えば、本発明は、以下の項目を提供する。
(項目1)
ラマンスペクトロスコピーを行う方法であって、該方法は、
レーザー光を用いて、塗装された表面上に配置された極微量の標的物質を照射することと、
該極微量の標的物質から反射されたレーザー光およびラマンリターン信号を受信することと、
該標的物質に対するラマンシグネチャーを得るために、少なくとも分光写真器およびカメラを用いて該ラマンリターン信号を処理することと、
該標的物質に対する該ラマンシグネチャーおよびラマンシグネチャーのデータベースに基づいて該標的物質を識別することと
を含み、
該ラマンリターン信号の電力対蛍光電力の比率が、少なくとも約0.1である、方法。
(項目2)
上記ラマンリターン信号の上記電力対蛍光電力の上記比率は、0.1と0.5との間である、上記項目のいずれかに記載の方法。
(項目3)
上記ラマンリターン信号の上記電力対蛍光電力の上記比率は、0.5より大きい、上記項目のいずれかに記載の方法。
(項目4)
上記標的物質は、乗り物のパネル上に位置決定される、上記項目のいずれかに記載の方法。
(項目5)
上記レーザー光は、約248nmの波長を有する、上記項目のいずれかに記載の方法。
(項目6)
上記標的物質は、約100μg/cm以下の濃度である爆発性の材料の残余を含む、上記項目のいずれかに記載の方法。
(項目7)
上記標的物質は、約50μg/cm以下の濃度である爆発性の材料の残余を含む、上記項目のいずれかに記載の方法。
(項目8)
上記標的物質は、約5μg/cm以下の濃度である爆発性の材料の残余を含む、上記項目のいずれかに記載の方法。
(項目9)
上記レーザー光の上記電力は、約100mWである、上記項目のいずれかに記載の方法。
(項目10)
上記ラマンリターン信号は、少なくとも10メートルのスタンドオフ距離から検出され、上記標的物質は、45μg以下のPETNである、上記項目のいずれかに記載の方法。
(項目11)
上記ラマンリターン信号は、少なくとも10メートルのスタンドオフ距離から検出され、上記標的物質は、5μg以下のRDXである、上記項目のいずれかに記載の方法。
(項目12)
上記ラマンリターン信号は、少なくとも10メートルのスタンドオフ距離から検出され、上記標的物質は、500ng以下のANである、上記項目のいずれかに記載の方法。
(項目13)
レーザー光を用いて、塗装された表面上に配置された極微量の標的物質を照射することと、
該極微量の標的物質から反射されたレーザー光およびラマンリターン信号を受信することと、
該標的物質に対するラマンシグネチャーを得るために、少なくとも分光写真器およびカメラを用いて該ラマンリターン信号を処理することと
を含み、
該レーザー光の波長が、248nmであり、該ラマンリターン信号の電力対蛍光電力の比率が、少なくとも約0.2である、方法。
(項目14)
上記標的物質は、乗り物のパネル上に配置される、上記項目のいずれかに記載の方法。
(項目15)
上記レーザー光の上記電力は、約100mWである、上記項目のいずれかに記載の方法。
(項目16)
上記レーザー光を放射するレーザーと上記標的物質とのスタンドオフ距離は、約10メートルである、上記項目のいずれかに記載の方法。
(項目17)
上記標的物質は、45μg以下のPETNである、上記項目のいずれかに記載の方法。
(項目18)
248nmの波長でレーザー光を生成するレーザーと、
該レーザー光によって励起された極微量の標的物質からラマンリターン信号を受信するように構成されるテレスコープと、
該テレスコープを介して受信される該ラマンリターン信号を、該ラマンリターン信号の構成波長に分散することと、対応する光学信号を生成することとを行うように構成される分光写真器と、
該分光写真器と連絡し、該分光写真器から出力された該光学信号を電気信号に変換するように構成されるカメラと
を含む装置であって、
該装置が使用中であるとき、該ラマンリターン信号の電力対蛍光電力の比率が、少なくとも約0.1である、装置。
(項目19)
上記電気信号を、ライブラリー内に格納されるラマンシグネチャーのうちのそれぞれと比較することと、上記標的物質を識別することとを行うように構成される分析コンピュータをさらに含む、上記項目のいずれかに記載の装置。
(項目20)
上記レーザー光の上記電力は、約100mWである、上記項目のいずれかに記載の装置。
【0016】
(摘要)
ラマンスペクトロスコピーを行う方法、および、レーザー光を用いて、塗装された表面上に配置される標的物質の微量を照射することと、標的物質の微量から反射されたレーザー光およびラマンリターン信号を受信することと、標的物質に対するラマンシグネチャーを得るために、少なくとも分光写真器およびカメラを用いてラマンリターン信号を処理することと、標的物質に対するラマンシグネチャーおよびラマンシグネチャーのデータベースに基づいて標的物質を識別することとを含む方法を行うための装置。レーザー光の波長は、ラマンリターン信号の電力対蛍光電力の比率に基づいて、選択され得る。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】図1は、本発明の実施形態に従うラマンスペクトロスコピーシステムの概略的な機能ダイヤグラムである。
【図2】図2は、3つの識別された共鳴領域を含むラマンフォトン効率因子のプロットを描く。
【図3】図3A−Cは、本発明の実施形態に従って行われる実験に関連して使われる乗り物パネルから記録される蛍光スペクトルのプロットを描く。
【図4A】図4Aは、爆発性の物質PETNに対して、ラマン対蛍光の電力比率のデータを示す。
【図4B】図4Bは、爆発性の物質Semtexに対して、ラマン対蛍光の電力比率のデータを示す。
【図5】図5Aおよび5Bは、本発明の実施形態に従って行われる実験に関連して使われる、選択された乗り物パネルのスペクトルのプロットを描く。
【図6】図6Aは、10メートルスタンドオフで248ナノメートル励起を用いて、PETNに対するラマンシフトのプロットを描く。図6Bは、10メートルスタンドオフで248ナノメートル励起を用いて、TNTに対するラマンシフトのプロットを描く。
【図7】図7Aは、本発明の実施形態に従う方法に関連してアルミニウムコートのガラス上のANの残余に対するラマンシフトのプロットを描く。図7Bは、本発明の実施形態に従う方法に関連して乗り物パネルの表面上のANの残余に対するラマンシフトのプロットを描く。
【発明を実施するための形態】
【0018】
ラマンシグネチャーは、材料に対して独特かつ特有である傾向があり、従ってスタンドオフ距離で爆発物を識別するためのこの「光学指紋」技術は、多くの注目を受けてきた。ラマン信号は、レーザー励起を用いて生成され得、多くの研究は、近赤外線、可視、およびUVスペクトル領域において爆発物の検出のためのラマンスペクトロスコピーを評価するように行われている。この柔軟性は、ラマンシステムの開発を促し、いくつかのラマンシステムが、数十メートルから爆発物を検出することを可能にする。
【0019】
この点において、多くの学術研究は、長いスタンドオフ距離の実行可能性または特定の二重センサーコンセプトのポテンシャルを証明するような、爆発物の検出のためのラマンスペクトロスコピーの1つの側面のみに集中する。概して、これらの研究は、特に実世界の実地動作に類似していない実験状況下で行われる。例えば、Pettersson,A.;Wallin,S.;Oestmark,H.;Ehlerding,A.;Johansson,I.;Nordberg,M.;Ellis,H.;Al−Khalili,A.、Proc. of SPIE,2010,7664,76641K−1に示される研究は、硝酸アンモニウム(AN)が、532nmラマンシステムを用いて室外で470メートルの距離から検出され得ることを証明したが、データは、基本的に実験室状況を用いて記録された。具体的に、バルクANの500mL容器は、10Hzの繰り返しレートで320mJのパルスエネルギー(すなわち、約3.2ワットのレーザー電力)を用いて、1−10秒の周期に対して調査された。
【0020】
距離を増やすことおよび非常に低い濃度で多くのタイプの爆発物を検出することは、興味のエリアであり続ける。本明細書に記述されるのは、中程度のレーザー電力(約100ミリワット)を用いて10メートルのスタンドオフ距離から、3μg/cm〜50μg/cmほど低い濃度で、TNT、PETN、およびANを検出するために示されるUVラマンセンサーである。重要なことには、この感度のレベルは、数秒のオーダーの時間フレームで実地に関連する背景上の爆発物の残余に対して証明される。上記のことは、乗り物パネルの塗装された表面のような実世界の背景が、しばしば蛍光でラマン信号を圧倒することによってラマンスペクトロスコピーの感度を制限するので、キーポイントである。さらに、励起波長の選択は、存在する材料の量に関連する。
【0021】
いくつかの爆発物を検出することは、これらの材料からのラマン散乱が吸収によって課される制限を克服するのに不十分であるので、特に困難であり得る。概して、強い吸収は、入射レーザービームによる標的内の侵入を制限し、ラマン信号に寄与し得る材料の体積を最小限にする。新興のラマン信号はまた、受信機へのパスに沿う標的によって吸収される。その結果、ラマン信号に寄与し得る材料の量は、強い吸収の爆発物に対して薄い層に制限される。RDXおよびHMXは、225nmと275nmとの間に強く吸収し、信号に寄与する材料の厚さは、(257nmの励起に対して)0.3μm未満であると予測される。最終的に、信号強度は、吸収だけではなくラマン散乱の効率にも依存する。例えば、TNTからのラマン散乱が、257nmの励起を用いると、RDXからのラマン散乱より約100倍強いので、吸収がTNTに対する理論的相互作用の深さを約100nmに制限することにもかかわらず、TNTから得られるラマン信号は、RDXから得られるラマン信号よりかなり大きい。
【0022】
本発明の実施形態は、表面の化学因子からラマン散乱を生成するために深UVレーザーを使う。ラマン散乱は、概して、周知のν効果および共鳴増加として知られる現象の発生のために、可視および赤外線光よりUVレーザー光を用いて大いに強い。重要なことには、可視および赤外線レーザーを用いて得られるラマン信号と異なり、共鳴増加は、背景から得られるスペクトル特徴と比較されるときに標的の爆発物のスペクトル特徴を強調する傾向があり、小さい量の爆発物を検出することを可能にさせる。さらに、システムは、ソーラブラインドであり、背景の蛍光からの干渉は、最小である。単一周波数レーザーは、使用され得、処理は、差分イメージング技術に対して必要とされるピクチャ間の位置合わせを必要としない。
【0023】
図1は、本発明の一つの可能なインプリメンテーションに従うラマンスペクトロスコピーシステムを描く。スキャナ170は、以下により詳細に議論されるように、関連表面からの蛍光を避けるために、400nm未満、好ましくは250nm未満、より好ましくは約248nmの波長領域で単一周波数に同調されるUVレーザー10を含む。レーザーの出射UVビームは、安全シャッタ20およびビーム調整光学系30を介して標的物質に放射することを可能にされる。ビーム調整光学系30は、受信器テレスコープ70の調査スポットサイズにマッチするようにビームの特性を調整する。このビームは、システムから、例えば、爆発性の材料または前駆体のような極微量の未知の化学因子の微量が体積される表面に放射する。本明細書において使われる場合、句「極微量」は、物質の残余、標本等を指すように意味され、かつバルク材料と区別されるように意味される。極微量は、例えば、約100μg/cmであり得る。
【0024】
UVレーザー光は、標的表面および表面の堆積された化学因子と相互作用する。リターン光は、表面および標的化学因子からのレイリー散乱光およびラマン散乱光からなる。UVレーザーと平行に、距離計40は、システムから調査の表面までの範囲を検出する。距離計40からのデータは、ビーム調整光学系30をコントロールし、自動焦点コントロールモジュール60を介して受信するテレスコープ70の集光をコントロールするためにコントロール電子系50によって使われ得る。
【0025】
テレスコープ70は、レイリー散乱光およびラマン散乱光を受信し、それを光学フィルタリングおよびビーム成形または調整モジュール80上に集光する。光学フィルタリング部分は、レイリー散乱(基本的なUVレーザー光)をフィルタし、結果のフィルタされた光をファイバー光学バンドル90の末端上に集光する。ファイバー光学バンドルの近い末端は、結合を最大限にするために、ほぼ円形の配置で配列される。遠い末端、分光写真器100に最も近い末端は、好ましくは、個々のファイバーの直線アレイで配列され、スリットを作る。具体的な設計に依存して、直線アレイは、分光写真器100内に生じる光学効果をオフセットするための浅いv配列で配列され得る。分光写真器100は、受信された光をその構成波長に分散し、光を電荷結合デバイスまたは他のアレイ検出器(カメラ110と呼ばれる)上に集光するために、格子および光学部品を使う。カメラ110は、ラマンリターン信号を増幅するために増倍型CCD(ICCD)であり得る。カメラ110は、光学信号を、各波長ビンにおいて光の振幅を表す電子波形に変換する。次に、この信号は、処理され、そして分析コンピュータ120内のシグネチャーのライブラリーに対して比較される。処理は、測定された信号およびライブラリースペクトルが同じシステムによって測定されるように現れるように、受信された信号から任意の残余のベースラインの除去とシステムのスペクトル応答を用いてライブラリースペクトルを事前に調整することとを含み得る。分析コンピュータ120がマッチを決定するとき、コンピュータは、オペレータに検出された材料の存在、名前等を示す可視、可聴、および/またはテキストの通知(参照数字130で示される)を提供する。
【0026】
分析されるべき光景は、ビデオカメラ140を用いて観察され得る。システムは、システムオペレータに調査エリアを示す指示子150を用いて観察のテレスコープのフィールドを照射する。いくつかの適用において、距離計40のビームは、指示子として使われ得る。オペレータは、スキャナ170全体をコントロールするスキャンコントロールコンピュータ160を用いて興味のエリアをスキャンするようにシステムを指示する。スキャンは、ビデオの光景を見ると同時に手動で完成され得、またはオペレータは、ビデオディスプレイ上、彼がスキャンしたいエリアを指定し得る。次に、スキャンコントロールコンピュータ160は、UVレーザー10およびテレスコープ70のスキャンパスを計算する。スキャンは、1つ以上の標的物質の存在に関して興味のエリアをマップするためのマッピング機能の一部分としても使われ得る。
【0027】
当業者によって認識されるように、このシステムは、爆発物およびそれらの前駆体を含む特定の化学因子に対して表面を遠隔に調査するように使われ得る。他の化学因子はまた、それらのスペクトルがアルゴリズムによって使われるアクティブなライブラリーに含まれる場合、検出され得る。一可能なインプリメンテーションにおいて、システムは、移動可能またはモバイル乗り物上に展開され得る。
【0028】
本明細書に記述される重要な側面は、レーザー光の波長の選択である。実世界の背景の蛍光からの干渉を最小限にすると同時にサンプル劣化を避けることは、より複雑かつ速いゲートの検出器を使わないシステムにおいて適切なレーザー波長を選択するための一次ドライバーであるように決定される。現象論の研究は、32枚の乗り物パネル(そのうちのいくつかが後の表にリストされる)を含む実世界の背景上の爆発物をスペクトロスコピー的に特徴づけるように着手される。以下より詳細に議論されるように、248ナノメートルでのレーザー励起は、蛍光干渉およびサンプル劣化を十分に最小限にする。
【0029】
いくつかの爆発物からのラマン応答は、225nmと275nmとの間のレーザー励起を用いて調査された。以下の理由のために、257nm付近の励起が爆発物の残余を検出するのに対してよく適し得ることが結論される。
【0030】
1)少数のランダムに選択された乗り物パネルから記録される予備データは、257nmより長い波長でのレーザー励起によって生成される蛍光が、微量爆発物に対する感度を大いに減らし得ることを示す。
【0031】
2)簡単な予測は、ラマン信号の強度がより長い励起波長を好み、257nmでテストされる爆発物のうちのいくつに対して最大であることを示す。
【0032】
3)強く吸収するサンプルは、257nmより短いレーザー波長を用いて記録されるときに、光劣化に対して証拠を示すラマンシグネチャーを生む傾向がある。
【0033】
これらの要因は、概して、ラマン信号強度が励起波長によって分けられる「ラマンフォトン効率因子」を記述する。Albrecht理論が、最も大きいラマン断面に対して波長を予測し得るが、この近似はただ、再吸収の効果とサンプルへの光侵入とをラマン信号強度に取り入れていない。図2は、3つの領域に記述され得るラマンフォトン効率因子のプロットである。
【0034】
・非共鳴波長:ν依存の支配;モル吸光係数由来の小さい分散
・共鳴に接近または共鳴の前:ラマン散乱の急激な増大およびモル吸光係数の比較的により小さい増大
・高共鳴、高吸光係数:結果としてフォトン/熱誘起の変化または劣化の高い可能性を生じるモル吸光係数に対して少量のラマン散乱強度増加
励起波長が共鳴に接近するとき、ラマン信号強度が増大された散乱強度、しかしより小さいフォトン−分子相互作用によってバランスを保たれることが見出される。励起波長が最適共鳴により近く移動するとき、ラマン信号強度の増大は、信号強度がシステムのノイズ/干渉または効率と競争するポイントに対して非常に小さいフォトン−分子相互作用によってさらに抑えられる。活性/爆発性の材料が小さいセットのグループで分類され得るが、各材料は、特有のラマンフォトン効率プロフィールを有する。信号強度対レーザー波長のデータを収集するための実験は、257nm付近の励起が、100マイクロメートルの厚さである爆発性の材料PETNと、爆発性の材料の成分UNおよびANとのサンプルに対して(理論的に)可能な最大信号に近いことを示した。爆発性の材料TNT、RDX、およびHNXに対する類似なデータは、100マイクロメートルのサンプルに対してより小さい程度の変化を示し、しかし、信号強度は、常により長い波長でより強くなる。
【0035】
追加のデータを得るために、さらなる研究は、蛍光がひどく感度を制限するか否かを決定するために、爆発物の257nmのラマン信号をランダムに選択された乗り物パネルから得られたスペクトルと比較する。乗り物パネルのうちのいくつかは、257nmの照射で蛍光を圧倒することを示す。このように、3つの追加のレーザー波長(253nm、248nm、および244nm)も評価される。励起波長は、小さいステップ(Δλ=4nmまたは5nm)で増大されるので、ラマン信号が、背景からの干渉信号およびラマンフォトン効率因子に対して最適である「ラマン対蛍光の電力比率」を識別することが可能である。
【0036】
図3A〜3Cに示されるのは、それぞれに257nm、253nm、および248nmで動作するTi:サファイアレーザーを用いて記録され、17枚のランダムに選択される、塗装された乗り物パネルから得られる蛍光スペクトルである。理解され得るように、観察された蛍光の強度は、励起波長が257nmから248nmにシフトされるとき、著しく減少する。重要なことには、研究は、興味の爆発物からのラマン信号の強度が、励起波長に対して劇的に変化しないことを示す。従って、248nmの励起でより大きいラマン対蛍光の電力比率は、重要である。このポイントは、爆発性の材料に対する背景として示された乗り物上に、それぞれに処理されるPETNおよびSemtex(PETNおよびRDXを含む調合物)に対するラマン対蛍光の電力比率を示す図4Aおよび4Bに示されるデータによって理解される。
【0037】
本明細書に記述される実験において使われる乗り物の詳細は、
【0038】
【表1】

を含む。アステリクスによって示される乗り物からのパネルは、以下さらに議論されるように別個の実験で使用される。
【0039】
興味のウェーブバンドにおけるラマン対蛍光の電力比率は、700−2000波数(cm−1)のラマン信号ウェーブバンドにわたって絶対スペクトル差を算出することによって引き出される。シグネチャーの炭素−水素結合(CH)領域(ウェーブバンド2000−3000)を含むことが、値をさらに減少し得、しかし爆発物の残余を検出し、かつ識別することにおいて使われる主な情報が、使われるウェーブバンドに含まれ、従ってより優れたシステム設計法が作られることを注意する。
【0040】
実験は、適度のレーザー電力(約100mW)を用いて、10メートルのスタンドオフ距離から3μg/cm〜50μg/cm程度の低い濃度でTNT、PETNおよびANを検出する能力を示す。特に、明確な検出は、45μg程度の質量のPETN、5μg程度の質量のRDX、および500ng程度の質量のANを含むサンプルに対して報告される。
【0041】
より具体的には、乗り物パネル#5、#15、#31、および#32(上記の表を参照)は、堆積された爆発物の残余を用いてテストするためにランダムに選択される。これらのパネルから得られるスペクトルは、図5Aおよび5Bに示される。このセットのラマンスペクトルは、観察される4つのタイプのスペクトルを量的に表す。乗り物パネル#15からの記録された信号の強度が、他の乗り物パネルのそれらによりかなり強いと見出されることを注意する。#31のスペクトルは、明確さのために図5Bにおいて垂直にオフセットされる。周囲の窒素および酸素に起因されるラマンバンドがマークされる。酸素のラマンバンドは、各表面からのラマンバンドとのオーバーラップによって明瞭ではない。
【0042】
図6Aおよび6Bと図7Aおよび7Bとに示されるのは、248ナノメートル励起を用いて、10メートルのスタンドオフでさまざまな表面上に堆積されるPETN(図6A)、TNT(図6B)およびAN(図7Aおよび7B)の残余から得られたスペクトルである。図6Aおよび6Bに示される各スペクトルは、25回連続の取得(850ミリ秒の全積算時間)の平均に対応し、図7Aおよび7Bのそれらは、信号加算平均の変化量を対応する。より具体的には、図7Aは、アルミニウムコートのガラス上のANの残余のUVスペクトルを描き、図7Bは、乗り物表面#31のプロットを示す。対応する取得の回数(各回数では34ミリ秒)は、図7Bの右手側に示される。トレースは、明確さのために垂直にオフセットされる。図7Aおよび図7Bに対するANの推定の表面濃度は、それぞれに、目でほとんど検出されない約10μg/cmおよび約20μg/cmである。
【0043】
全部の場合において、1秒未満の全積算(25回取得)でANの顕著なバンドに対して、10より大きい信号対ノイズの比率を生むデータセットの一部分を見出すことが可能である。
【0044】
留意されるように、本発明の実施形態は、「深UV」レーザー波長、すなわち250nm以下の波長を使用する。262nmでの蛍光が、もしかしたら250nmから1000nmまでの全波長に対して、不可能ではないが、著しいスタンドオフ範囲(5メートル超)で極微量の爆発物の検出を難しくするので、上記特定の波長範囲の使用は、重要である。本明細書に記述されるラマンセンサーは、極微量よりも多くのバルクサンプルを調査する能力も有する。
【0045】
留意されるように、検出可能な物質は、ラマンシグネチャーを有する爆発性の材料、有毒の化学因子、生物学的および化学兵器、および他の材料を含む。
【0046】
本明細書に記述されるシステムおよび方法は、本明細書の真意または基本的な特性から離れることがなく、他の特定な形で具体化され得る。それゆえ、上記の実施形態は、全ての観点において例示的であると考慮されるべきであり、かつ限定しないように意味される。
【符号の説明】
【0047】
10 UVレーザー
20 安全シャッタ
30 ビーム調整光学系
40 距離計
50 コントロール電子系
60 自動焦点コントロールモジュール
70 受信器テレスコープ
80 光学フィルタリングおよびビーム成形または調整モジュール
90 ファイバー光学バンドル
100 分光写真器
110 カメラ
120 分析コンピュータ
140 ビデオカメラ
150 指示子
160 スキャンコントロールコンピュータ
170 スキャナ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ラマンスペクトロスコピーを行う方法であって、該方法は、
レーザー光を用いて、塗装された表面上に配置された極微量の標的物質を照射することと、
該極微量の標的物質から反射されたレーザー光およびラマンリターン信号を受信することと、
該標的物質に対するラマンシグネチャーを得るために、少なくとも分光写真器およびカメラを用いて該ラマンリターン信号を処理することと、
該標的物質に対する該ラマンシグネチャーおよびラマンシグネチャーのデータベースに基づいて該標的物質を識別することと
を含み、
該ラマンリターン信号の電力対蛍光電力の比率が、少なくとも約0.1である、方法。
【請求項2】
前記ラマンリターン信号の前記電力対蛍光電力の前記比率は、0.1と0.5との間である、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記ラマンリターン信号の前記電力対蛍光電力の前記比率は、0.5より大きい、請求項1に記載の方法。
【請求項4】
前記標的物質は、乗り物のパネル上に位置決定される、請求項1に記載の方法。
【請求項5】
前記レーザー光は、約248nmの波長を有する、請求項1に記載の方法。
【請求項6】
前記標的物質は、約100μg/cm以下の濃度である爆発性の材料の残余を含む、請求項1に記載の方法。
【請求項7】
前記標的物質は、約50μg/cm以下の濃度である爆発性の材料の残余を含む、請求項1に記載の方法。
【請求項8】
前記標的物質は、約5μg/cm以下の濃度である爆発性の材料の残余を含む、請求項1に記載の方法。
【請求項9】
前記レーザー光の前記電力は、約100mWである、請求項1に記載の方法。
【請求項10】
前記ラマンリターン信号は、少なくとも10メートルのスタンドオフ距離から検出され、前記標的物質は、45μg以下のPETNである、請求項9に記載の方法。
【請求項11】
前記ラマンリターン信号は、少なくとも10メートルのスタンドオフ距離から検出され、前記標的物質は、5μg以下のRDXである、請求項9に記載の方法。
【請求項12】
前記ラマンリターン信号は、少なくとも10メートルのスタンドオフ距離から検出され、前記標的物質は、500ng以下のANである、請求項9に記載の方法。
【請求項13】
レーザー光を用いて、塗装された表面上に配置された極微量の標的物質を照射することと、
該極微量の標的物質から反射されたレーザー光およびラマンリターン信号を受信することと、
該標的物質に対するラマンシグネチャーを得るために、少なくとも分光写真器およびカメラを用いて該ラマンリターン信号を処理することと
を含み、
該レーザー光の波長が、248nmであり、該ラマンリターン信号の電力対蛍光電力の比率が、少なくとも約0.2である、方法。
【請求項14】
前記標的物質は、乗り物のパネル上に配置される、請求項13に記載の方法。
【請求項15】
前記レーザー光の前記電力は、約100mWである、請求項13に記載の方法。
【請求項16】
前記レーザー光を放射するレーザーと前記標的物質とのスタンドオフ距離は、約10メートルである、請求項13に記載の方法。
【請求項17】
前記標的物質は、45μg以下のPETNである、請求項16に記載の方法。
【請求項18】
248nmの波長でレーザー光を生成するレーザーと、
該レーザー光によって励起された極微量の標的物質からラマンリターン信号を受信するように構成されるテレスコープと、
該テレスコープを介して受信される該ラマンリターン信号を、該ラマンリターン信号の構成波長に分散することと、対応する光学信号を生成することとを行うように構成される分光写真器と、
該分光写真器と連絡し、該分光写真器から出力された該光学信号を電気信号に変換するように構成されるカメラと
を含む装置であって、
該装置が使用中であるとき、該ラマンリターン信号の電力対蛍光電力の比率が、少なくとも約0.1である、装置。
【請求項19】
前記電気信号を、ライブラリー内に格納されるラマンシグネチャーのうちのそれぞれと比較することと、前記標的物質を識別することとを行うように構成される分析コンピュータをさらに含む、請求項18に記載の装置。
【請求項20】
前記レーザー光の前記電力は、約100mWである、請求項18に記載の装置。

【図1】
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【図2】
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【図4A】
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【図4B】
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【図3】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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