説明

混合免疫賦活剤を含む新規ワクチン

【課題】少ない抗原量で十分なワクチン効果を奏する実用可能な経鼻接種用ワクチン製剤を提供すること。
【解決手段】粘膜投与のためのワクチンであって、
(I)病原体の不活化抗原、並びに
(II)以下の免疫賦活剤の組み合わせ;
(1)2本鎖RNA、および
(2)グルカン類、糖脂質、リン脂質、ポリアミノ酸又は水酸化アルミニウム
を含むワクチン。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、少なくとも2種類以上の免疫賦活剤を含む新規ワクチンに関する。新規ワクチンに含まれる免疫賦活剤としては、2本鎖RNA(dsRNA)、グルカン類、糖脂質、ポリアミノ酸、ウイルス由来のRNA、ウイルスNP等を用いる。
【背景技術】
【0002】
免疫賦活剤は抗原の免疫原性を高めるために使用される物質の総称であり、これまでに多くの物質が検討されている。例えば、インフルエンザワクチンの有効性を高めるため、アルミニウム化合物を免疫賦活剤として併用することも検討されている(特許文献1)。また、ポリオキシエチレンエーテル(Tween(登録商標))等の非イオン性界面活性剤を粘膜投与用ワクチンの免疫賦活剤として使用することも知られている(特許文献2)。
【0003】
インフルエンザウイルスは、ヒトと動物のウイルス間で遺伝子の組換えが起こり、その結果新しい抗原性を有する亜型ウイルス(新型ウイルス)が出現し、およびこの新型ウイルスが免疫を持たないヒトの集団に大流行をもたらすとされている。
インフルエンザは、毎年抗原を変化させつつ流行を繰り返すウイルス性感染症である。本邦においては、その予防のためのワクチンは皮下接種するもののみが認可されている。このワクチン接種は、血清中に中和活性を持つIgG抗体を誘導するため、肺炎などの重症化の予防には有効性が高い。しかしながら、感染箇所である上気道粘膜においては、IgAが感染防御の主体であり、これは皮下接種では誘導されないため、感染防御効果は十分とは言えない。そのため、感染を予防できるワクチンの開発が長年の課題となっている。粘膜への免疫誘導のためには、粘膜への抗原刺激が必須であるが、抗原単独では大量の抗原を必要とし、現実的ではない。そこで、効果的なアジュバントを開発して実用に足るワクチンの開発が切望されている。
さらに、新型インフルエンザ発生時には十分な感染防御効果を具えたパンデミックインフルエンザワクチン製剤の開発が必要である。また、その場合、ワクチンをいかに多くの人に供給できるかは大きな命題である。インフルエンザワクチンの供給量を十分に確保するために、少ない抗原量でヒトに対して有効な免疫応答を誘導可能な新規な免疫賦活剤が切望されている。さらに、集団免疫を容易にする観点から、ワクチンの投与経路は多数の人に容易かつ確実に投与可能な投与経路であることが好ましく、経鼻などの粘膜投与可能なワクチン製剤の開発が望まれる。
【0004】
免疫賦活剤としては、ザイモサン、糖脂質、ポリアミノ酸、2本鎖RNAなどが知られている。
【0005】
ザイモサンは酵母の細胞壁から抽出されたものであり、グルカン、マンナンなどの多糖類、タンパク質、キチン質、糖脂質および灰分を含む未分離の複合粗精製物である。抗癌治療薬として製品化されており、抗腫瘍作用を有することが知られている。
ザイモサンの主要成分であるβ−1,3グルカンは、抗腫瘍作用、コレステロール低減作用、抗ウイルス作用、創傷の早期回復作用、骨髄増殖能力増強による白血球増加作用、抗原に侵された場所に白血球細胞が移動する能力(細胞走性)の向上、免疫細胞が非自己細胞を捕らえる貪食作用など多岐にわたる研究が発表されてきた。ザイモサンは、現在知られている11種のToll様受容体(TLR)のうち、TLR2およびTLR6に結合してサイトカイン産生を促進することが明らかになっている(非特許文献1)。したがって、ザイモサンを用いてサイトカイン産生増大などの免疫応答を増強させることは、これまでも試みられてきた。
特許文献3では、ザイモサンを刺激物(免疫賦活剤)として使用することにより、IL−2が効率的に誘導されることが記載されている。
特許文献4では、ザイモサンを抗原提示細胞に抗原として接触させることにより抗原応答を生じさせることが開示されている。
特許文献5では、特定の中性可溶性β−グルカンを免疫賦活物質として用いることにより、IL−1やTNFなどのサイトカインの産生を刺激したり惹起したりせずに、免疫応答が増強されることが開示されている。
特許文献6では、免疫賦活性オリゴヌクレオチドをシゾフィランのようなβ−1,3グルカンと複合体化することにより、免疫力増強に優れた安全な免疫賦活剤を開示している。
特許文献7では、免疫賦活性オリゴヌクレオチドを長鎖のβ−1,6グルコシド結合側鎖を有するβ−1,3グルカン(例えばザイモサン)と複合体化し、免疫賦活剤として投与することにより、サイトカイン類の産生量を顕著に増大させることが開示されている。
【0006】
糖脂質としてはIP-PA1(Immuno potentiator from Pantoea agglomerans 1)、Isoglobotrihexosylceramide (iGb3)などが知られている。
【0007】
ポリアミノ酸としてはPoly L-Argなどが知られている。
【0008】
2本鎖RNA(dsRNA)として、Poly(I:C)は、ポリイノシン酸とポリシチジン酸とを含む2本鎖RNAであり、これらの2本鎖RNAはTLR3に結合することが明らかにされている(非特許文献1)。特許文献8には、Poly(I:C)とサブユニット抗原または不活化抗原とを組み合わせて用いた場合、Poly(I:C)は免疫賦活作用を有することが開示されている。
【0009】
さらに、ザイモサンとPoly(I:C)とを組み合わせて免疫賦活剤として使用することも検討されている。
特許文献9では、これらの免疫賦活剤の少なくとも1種をリポソームに含めた場合、2種の免疫賦活剤を組み合わせた作用は、2種の同時投与した「フリーの」免疫賦活剤の作用よりも強力であることが開示されている。
特許文献10では、ザイモサンと2本鎖RNAまたはPoly(I:C)とを免疫賦活剤として使用するDNAワクチンが開示されている。
しかしながら、特許文献9では、免疫賦活剤がリポソーム化されており、特許文献10ではインフルエンザ抗原における実施例はない。前述のようにザイモサン自身はグルカン、マンナンなどの多糖類、タンパク質などの混合物であり、活性の本体はグルカンであろうと想像されるのみで、明らかではない。
【0010】
前述のように、インフルエンザワクチンは、粘膜投与可能なワクチンであることが好ましいが、現在までに粘膜投与可能なワクチンとして開発されたものでは、十分な免疫賦活効果や製造の容易さの点に依然問題があった。一般には多種類の免疫賦活剤を併用すると、免疫干渉が生じるために各免疫賦活剤の相乗効果は得られない。
【特許文献1】WO00/015251
【特許文献2】WO99/52549
【特許文献3】特表2005−550842号公報
【特許文献4】特表2005−500721号公報
【特許文献5】特開2005−264167号公報
【特許文献6】WO2004/100965
【特許文献7】特開2007−70307号公報
【特許文献8】WO2005/014038
【特許文献9】特表2007−515451号公報
【特許文献10】特表2007−505827号公報
【非特許文献1】Akira, S. et. al. Nature Immunol. 4. 499-511 (2004)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
本発明は、粘膜投与するとき、従来の免疫賦活剤以上の免疫賦活能を有する少なくとも2種類以上の免疫賦活剤の新規な組み合わせを提供し、少ない抗原量で十分なワクチン効果を奏する実用可能な経鼻接種用ワクチン製剤を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明者らは、インフルエンザHA抗原を用いて上記課題を解決するために混合免疫賦活剤を鋭意検討した。グルカン類としてほぼ純粋な直鎖のβ−1,3−グルカンであるカードラン(Curdlan)、CM−カードラン、β−(1→6)の分岐が3:1の割合であるシゾフィラン(Sizofiran、SPG、販売名ソニフィラン)、主鎖はβ−(1→3)結合で、β−(1→6)の分岐が5:2の割合であるレンチナン(Lentinan)、ユーグレナ由来のβ−1,3−グルカンを2本鎖RNAであるPoly(I:C)あるいはPolyI:PolyC12U(Ampligen)に混合した免疫賦活剤で免疫賦活作用を比較した。その結果、グルカン類のレンチナン、シゾフィランを2本鎖RNAに加えることにより相乗的な免疫賦活効果が得られることを見出した。また、糖脂質のiGb3を2本鎖RNAに加えることにより相乗的な免疫賦活効果が得られることを見出した。さらに、ポリアミノ酸のPoly L−Argを2本鎖RNAに加えることにより相乗的な免疫賦活効果が得られることを見出し、本発明を完成させるに至った。また、本発明者らは、抗原によっては2種類の免疫賦活剤の他にさらにウイルス由来RNAあるいはウイルスNP(核タンパク質)を免疫賦活剤して添加することによって、非常に高い相乗的な免疫賦活効果を得られることを見出した。
【0013】
すなわち、本発明は以下を提供するものである。
〔1〕 粘膜投与のためのワクチンであって、
(I)病原体の不活化抗原、並びに
(II)以下の免疫賦活剤の組み合わせ;
(1)2本鎖RNA、および
(2)グルカン類、糖脂質、リン脂質、ポリアミノ酸又は水酸化アルミニウム
を含むワクチン。
〔2〕 該粘膜が鼻の粘膜である、〔1〕に記載のワクチン。
〔3〕 該病原体がインフルエンザウイルスである、〔1〕に記載のワクチン。
〔4〕 該免疫賦活剤の組み合わせが分泌型IgAを産生するに十分な含有量でワクチン中に含まれる、〔1〕に記載のワクチン。
〔5〕 免疫賦活剤(2)がグルカン類である、〔1〕に記載のワクチン。
〔6〕 該2本鎖RNAの含有量がグルカン類1重量部に対して0.01〜10重量部である、〔5〕に記載のワクチン。
〔7〕 該2本鎖RNAがPoly(I:C)で、グルカン類がレンチナンである、〔5〕に記載のワクチン。
〔8〕 該2本鎖RNAがPoly(I:C)で、グルカン類がシゾフィランである、〔5〕に記載のワクチン。
〔9〕 該2本鎖RNAがPolyI:PolyC12Uで、グルカン類がレンチナンである、〔5〕に記載のワクチン。
〔10〕 該2本鎖RNAがPolyI:PolyC12Uで、グルカン類がシゾフィランである、〔5〕に記載のワクチン。
〔11〕 免疫賦活剤(2)が糖脂質である、〔1〕に記載のワクチン。
〔12〕 該2本鎖RNAの含有量が糖脂質1重量部に対して0.01〜10重量部である、〔11〕に記載のワクチン。
〔13〕 該2本鎖RNAがPoly(I:C)で、糖脂質がiGb3又はIP−PA1である、〔11〕に記載のワクチン。
〔14〕 該2本鎖RNAがPolyI:PolyC12Uで、糖脂質がiGb3又はIP−PA1である、〔11〕に記載のワクチン。
〔15〕 免疫賦活剤(2)がポリアミノ酸である、〔1〕に記載のワクチン。
〔16〕 該2本鎖RNAの含有量がポリアミノ酸1重量に対して0.01〜10重量部である、〔15〕に記載のワクチン。
〔17〕 該2本鎖RNAがPoly(I:C)で、ポリアミノ酸がPoly L−Argである、〔15〕に記載のワクチン。
〔18〕 該2本鎖RNAがPolyI:PolyC12Uで、ポリアミノ酸がPoly L−Argである、〔15〕に記載のワクチン。
〔19〕 さらにウイルス由来RNA又はウイルスNP(核タンパク質)を含む、〔1〕に記載のワクチン。
〔20〕 粘膜投与のためのワクチンであって、
(I)病原体の不活化抗原、並びに
(II)以下の免疫賦活剤の組み合わせ;
(1’)ポリアミノ酸、および
(2’)リン脂質
を含むワクチン。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、粘膜投与により簡単にワクチン接種し、かつ、高い免疫賦活作用を有するワクチン形態が提供される。本発明によれば、とくに高いIgA抗体価が得られる。インフルエンザウイルスの進入門戸である呼吸器粘膜上皮でのIgA抗体を誘導することにより、免疫賦活作用が増強される。したがって、本発明によれば、少ない抗原量でヒトに対して有効な免疫応答が誘導可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
以下、具体例を用いて本発明を詳細に説明する。
【0016】
本発明は、病原体の不活化抗原、及び少なくとも2種類の免疫賦活剤の組み合わせを含有するワクチンに関する。
【0017】
ワクチンとは、身体中に投与されて、活性な免疫を生成する、通常感染性因子または感染性因子のある部分を含む抗原性懸濁液または溶液をいう。
【0018】
本発明のワクチンには、病原体の不活化抗原が含まれる。
【0019】
本明細書において「不活化抗原」とは、ワクチン用抗原として使用される、感染能を失わせた病原体(ウイルス、細菌等)の抗原をいい、完全ウイルス粒子であるビリオン、不完全ウイルス粒子、ビリオン構成粒子、ウイルス非構造タンパク質、感染防御抗原、中和反応のエピトープなどが挙げられるがそれらに限定されない。不活化抗原は、感染力を失っているが免疫原性は保持している。不活化抗原がワクチンとして使用されるときは、「不活化ワクチン」という。そのような不活化抗原としては、物理的操作(X線、熱、超音波など)、化学的操作(ホルマリン、水銀、アルコール、塩素など)などの操作により不活化されたものが挙げられる。サブユニット抗原、不活化ウイルス全粒子、不活化全菌体自体も、通常感染力が喪失されていることから、不活化抗原の定義内に入る。あるいは、不活化抗原として死滅したウイルスを使用してもよい。
【0020】
本発明で不活化抗原に用いるウイルスとしては、例えば、水痘ウイルス、麻疹ウイルス、ムンプスウイルス、ポリオウイルス、ロタウイルス、インフルエンザウイルス、アデノウイルス、ヘルペスウイルス、風疹ウイルス、SARSウイルス(コロナウイルスの一種)、HIV、天然痘ウイルス、牛疫ウイルス、ニューカッスル病ウイルス、日本脳炎ウイルス、マレック病ウイルス、呼吸器性シンシチウムウイルスが挙げられるがそれらに限定されない。このようなウイルスは、好ましくはインフルエンザウイルスである。
【0021】
インフルエンザウイルスは、オルソミクソウイルス科に属するマイナス鎖の1本鎖RNAウイルスである。脂質二重膜のエンベロープを持ち、M1(膜タンパク質)に裏打ちされ、その膜にM2、HA(血球凝集素)、NA(ノイラミニダーゼ)およびM2の糖タンパク質といった特徴的な膜タンパク質がはまり込んでいる。RNAは8つに分節しており、これらは核タンパク質とともに複合体RNP(リボヌクレオシドカプシド)を形成し、エンベロープ裏打ちタンパク質M1に弱く結合している。
【0022】
インフルエンザウイルスには、ウイルス粒子を構成するタンパク質の抗原性の異なるA型、B型及びC型のウイルスが存在するが、いずれの型のインフルエンザウイルスも、本発明のワクチンの不活化抗原に用いることが出来る。また、A型インフルエンザウイルスには、HAとNAの抗原性の異なる多くの亜型(H1N1〜H16N9;例えば、H3N2、H1N1、H5N1等)が存在するが、いずれの亜型のインフルエンザウイルスも、本発明のワクチンの不活化抗原に用いることが出来る。
【0023】
インフルエンザウイルスでは、サブユニット抗原として使用する場合、ヘマグルチニン(HA)、ノイラミニダーゼ(NA)、マトリクス(M1、M2)、非構造(NS)、ポリメラーゼ(PB1、PB2:塩基性ポリメラーゼ1および2、酸性ポリメラーゼ(PA))、核タンパク質(NP)、ウイルス由来RNAなどが抗原として好ましい。特にウイルス表面に提示されているサブユニット(HA、NA)が抗原として好ましい。ウイルス表面に提示されているサブユニットを使用することによって、より有効な抗原抗体反応を惹起し得、中和抗体を惹起することが可能となるからである。
【0024】
本発明で不活化抗原に用いる細菌としては、百日咳菌、髄膜炎菌、インフルエンザb型菌、肺炎球菌およびコレラ菌、ジフテリア菌、破傷風菌、結核菌などが挙げられるがそれらに限定されない。
【0025】
通常、本発明のワクチンに使用する不活化抗原は、ウイルスなどを発育鶏卵などを用いて増殖し、増殖したウイルスなどを不活化することまたはその中から成分を分離精製することによって製造することができる。インフルエンザウイルスワクチンを製造する場合は、例えば、9〜11日齢発育鶏卵胚中で継代により増殖させ、必要に応じて、培養細胞(例えば、MDCK細胞)中で増殖させる。ウイルスは、Massicot et al.(Virology 101,242−249(1980))が記載した方法またはその変法により精製することができる。
【0026】
本発明のワクチン中の不活化抗原の含有量は、ワクチン接種により抗体(分泌型IgA)産生を誘導し、対応する病原体感染に対する防御効果を達成し得る限り特に限定されないが、例えば0.0002〜2重量%であり、より好ましくは0.0005〜0.6重量%であり、さらに好ましくは0.0015〜0.2重量%である。
【0027】
本発明のワクチンは、少なくとも2種類の免疫賦活剤の組み合わせを含有する。
【0028】
免疫賦活剤は、抗原と組み合わせることで抗体産生の増大、免疫応答の増強を起こす物質の総称であり、より好ましい実施形態では、変調させるか、または効力のある無毒の免疫賦活剤が使用される。免疫賦活剤は通常のワクチン抗原とともに使用して、より早い、より効力のある、あるいはより延長した応答を誘発するために要求される。このような免疫賦活剤は、また、抗原の供給が限定されるか、あるいは産生にコストがかかる場合において有用である。
【0029】
本発明のワクチンに含まれる免疫賦活剤の組み合わせは以下のいずれかである。
[組み合わせA]
(1)2本鎖RNA、および
(2)グルカン類、糖脂質、リン脂質(リポ多糖)、ポリアミノ酸又は水酸化アルミニウム;
[組み合わせB]
(1’)ポリアミノ酸、および
(2’)リン脂質。
【0030】
上述の免疫賦活剤の組み合わせを用いることにより、それぞれの免疫賦活剤を単独で用いた場合と比較して、ワクチンを対象者の粘膜へ投与した際に、その対象者の粘膜面におけるIgA分泌がより強力に亢進され、その病原体感染に対する相乗的な防御効果を得ることが出来る。
【0031】
本発明のワクチンに用いられる2本鎖RNAは、免疫賦活活性を有するものであれば限定されない。2本鎖RNAには、免疫賦活効果を有する任意の長さ及び配列の2本鎖RNAのみならず、任意の2本鎖のRNAの混合物も含まれる。2本鎖RNAのサイズは、本発明のワクチンが病原体感染に対する防御効果を達成し得る限り特に限定されないが、好ましいサイズは、例えば、10bp以上であり、より好ましくは300bp以上である。2本鎖RNAのサイズの上限は限定されないが、例えば、10bpが挙げられる。したがって、2本鎖RNAの好ましいサイズは10〜10bpであり、さらに好ましくは300〜10bpである。2本鎖RNAのサイズは、たとえば、ゲル電気泳動などで測定され得る。2本鎖RNAとしては、Poly(I:C)、Poly(A:U)、Poly(G:C)、PolyI:PolyC12Uなどが挙げられ、好ましくはPoly(I:C)及びPolyI:PolyC12Uである。Poly(I:C)は、ポリイノシン酸(pI)とポリシチジン酸(pC)とを含む2本鎖RNAであればどのようなものを用いても良く、ヌクレオチドが改変されていても改変されていなくても良い。Poly(I:C)は、J.Clinical Investigation, 110(8), 1175-1184, (2002)、Invest, Ophthalmol., 10(10), 750-759(1971)、Invest, Ophthalmol., 10(10), 760-769(1971)に記載の方法などにより製造することができる。また、シグマ・アルドリッチジャパン(株)、ヤマサ醤油、Flukaなどから入手可能である。PolyI:PolyC12Uは、Poly(I:C)のCの部分が12個に1個Uに置換された構造を有する。PolyI:PolyC12Uは、「Ampligen」として市販されている。
【0032】
グルカンはグルコースがグリコシド結合で連なった多糖である。本発明において、グルカン類とは、このグルカン自体またはグルカンを含有する化合物や組成物を包括的に意味する。従ってグルカン類には、β−グルカン、ザイモサン等が含まれる。β−グルカンは、グルコースがβ型の結合で連なった多糖である。β−グルカンとしては、結合の型の違いにより、β−1,3グルカンとβ−1,6グルカンとがある。β−グルカンは、カードラン(curdlan)、シゾフィラン(Sizofiran)、レンチナン(lentinan)、ユーグレナ(euglena)などに含有される主要な活性成分、可溶性β−1,3グルカン(Soluble B−1,3G)として知られているので、β−グルカンをこれらの態様で本発明のワクチンに用いても良い。ザイモサンは、酵母の細胞壁から抽出されたものであり、グルカン、マンナンなどの多糖類、タンパク質、キチン質、糖脂質および灰分を含む未分離の複合粗精製物である。ザイモサンはSIGMAなどから市販されており、入手可能である。カードランはAgrobacteriumやAlcaligenesなどの細菌が発酵により培地中に生産する多糖で、ほぼ純粋な直鎖のβ−1,3グルカンからなる。カードランはキリンなどから市販されており、入手可能である。シゾフィランはスエヒロタケが産生するβ−グルカンであり、β−1,3グルカンの主鎖に、β−(1→6)の分岐が3:1の割合で含まれている。シゾフィランは、ソニフィランの販売名で科研製薬から販売されており、入手可能である。レンチナンはシイタケの子実体から抽出されるβ−グルカンであり、β−1,3グルカンの主鎖に、β−(1→6)の分岐が5:2の割合で含まれている。
【0033】
本発明のワクチンに用いられる糖脂質は、免疫賦活活性を有するものであれば特に限定されない。糖脂質としては、IP−PA1(Immuno potentiator from Pantoea agglomerans 1)、イソグロボトリヘキソシルサラミド(iGb3)、ガラクトシルセラミド(Gal−Cer)、ガングリオシドジシアド3(GD3)等が挙げられるが、これらに限定されない。
【0034】
本発明のワクチンに用いられるリン脂質は、免疫賦活活性を有するものであれば特に限定されない。リン脂質は、例えば肺サーファクタント製剤の態様で用いられる。肺サーファクタント製剤とは、ウシ等の哺乳動物肺抽出物で、一定比率のリン脂質、遊離脂肪酸及びトリグリセライドを有する組成物をいう。
【0035】
ポリアミノ酸とは、アミノ酸がペプチド縮重合した重合体をいう。本発明のワクチンに用いられるポリアミノ酸は、免疫賦活活性を有するものであれば特に限定されない。ポリアミノ酸としては、ポリLアルギニン(Poly L−Arg)、γポリグルタミン酸(γ−PGA)等が挙げられるが、これらに限定されない。
【0036】
本発明のワクチンに含まれる好ましい免疫賦活剤の組み合わせとしては以下を挙げることが出来る。
(1)Poly(I:C)/(2)ザイモサン
(1)Poly(I:C)/(2)カードラン
(1)Poly(I:C)/(2)レンチナン
(1)Poly(I:C)/(2)シゾフィラン
(1)Poly(I:C)/(2)ユーグレナ
(1)Poly(I:C)/(2)可溶性β−1,3グルカン
(1)PolyI:PolyC12U/(2)レンチナン
(1)PolyI:PolyC12U/(2)シゾフィラン
(1)Poly(I:C)/(2)IP−PA1
(1)Poly(I:C)/(2)Poly L−Arg
(1)PolyI:PolyC12U/(2)IP−PA1
(1)Poly(I:C)/(2)iGb3
(1)Poly(I:C)/(2)α−GalCer
(1)Poly(I:C)/(2)GD3
(1)PolyI:PolyC12U/(2)PolyL−Arg
(1’)PolyL−Arg/(2’)サーファクテン
【0037】
本発明のワクチンにおいては、好ましくは、免疫賦活剤の組み合わせが、分泌型IgAを産生するのに十分な含有量で含まれる。「分泌型IgAを産生するに十分な含有量」とは、対象者がワクチンを接種された後、対応する抗原(又は病原体)に暴露され、該抗原(又は病原体)に対する免疫反応が起こった場合に、該抗原に対する分泌型IgAの産生を誘導することができる、免疫賦活剤の含有量をいう。IgAは、外分泌液中の主要な免疫グロブリンで、粘膜表面の感染防御に役立っている。唾液、鼻汁、腸、気管などの分泌液中、あるいは初乳中に多く見られるが血清中にも存在する。分泌型IgAは、分泌性である(膜結合型でない)IgAをいう。このような分泌型IgAの測定方法としては、免疫拡散法などが挙げられる。
【0038】
分泌型IgAを産生するに十分な免疫賦活剤の組み合わせの含有量は、免疫賦活剤の種類、抗原の種類、抗原量等に応じて、当業者は適宜設定することが出来る。各免疫賦活剤について、分泌型IgAを産生するに十分な具体的含有量を以下に例示する。
【0039】
本発明のワクチンが免疫賦活剤の組み合わせAを含む場合
ワクチン中の2本鎖RNAの含有量は、例えば0.001〜9重量%であり、より好ましくは0.003〜3重量%であり、さらに好ましくは0.009〜0.9重量%である。
【0040】
2本鎖RNAとしてPoly(I:C)を使用する場合、ワクチン中のPoly(I:C)の含有量は、例えば0.001〜9重量%であり、より好ましくは0.003〜3重量%であり、さらに好ましくは0.009〜0.9重量%である。
【0041】
2本鎖RNAとしてPolyI:PolyC12Uを使用する場合、ワクチン中のPolyI:PolyC12Uの含有量は、例えば0.001〜9重量%であり、より好ましくは0.003〜3重量%であり、さらに好ましくは0.009〜0.9重量%である。
【0042】
免疫賦活剤としてグルカン類を使用する場合、ワクチン中のグルカン類の含有量は、例えば0.001〜9重量%であり、より好ましくは0.003〜3重量%であり、さらに好ましくは0.009〜0.9重量%である。
【0043】
グルカン類としてβ−グルカンを使用する場合、ワクチン中のβ−グルカンの含有量は、例えば0.001〜9重量%であり、より好ましくは0.003〜3重量%であり、さらに好ましくは0.009〜0.9重量%である。
【0044】
β−グルカンとしてカードランを使用する場合、ワクチン中のカードランの含有量は、0.001〜9重量%であり、より好ましくは0.003〜3重量%であり、さらに好ましくは0.009〜0.9重量%である。
【0045】
β−グルカンとしてレンチナンを使用する場合、ワクチン中のレンチナンの含有量は、0.001〜9重量%であり、より好ましくは0.003〜3重量%であり、さらに好ましくは0.009〜0.9重量%である。
【0046】
β−グルカンとしてシゾフィランを使用する場合、ワクチン中のシゾフィランの含有量は、0.001〜9重量%であり、より好ましくは0.003〜3重量%であり、さらに好ましくは0.009〜0.9重量%である。
【0047】
β−グルカンとしてユーグレナを使用する場合、ワクチン中のユーグレナの含有量は、0.001〜9重量%であり、より好ましくは0.003〜3重量%であり、さらに好ましくは0.009〜0.9重量%である。
【0048】
β−グルカンとして可溶性β−1,3グルカンを使用する場合、ワクチン中の可溶性β−1,3グルカンの含有量は、0.001〜9重量%であり、より好ましくは0.003〜3重量%であり、さらに好ましくは0.009〜0.9重量%である。
【0049】
グルカン類としてザイモサンを使用する場合、ワクチン中のザイモサンの含有量は、0.002〜18重量%であり、より好ましくは0.006〜6重量%であり、さらに好ましくは0.009〜1.8重量%である。
【0050】
免疫賦活剤として糖脂質を使用する場合、ワクチン中の糖脂質の含有量は、例えば0.001〜9重量%であり、より好ましくは0.003〜3重量%であり、さらに好ましくは0.009〜0.9重量%である。
【0051】
糖脂質としてIP−PA1を使用する場合、ワクチン中のIP−PA1の含有量は、例えば0.001〜9重量%であり、より好ましくは0.003〜3重量%であり、さらに好ましくは0.009〜0.9重量%である。
【0052】
糖脂質としてiGb3を使用する場合、ワクチン中のiGb3の含有量は、例えば0.001〜9重量%であり、より好ましくは0.003〜3重量%であり、さらに好ましくは0.009〜0.9重量%である。
【0053】
糖脂質としてGal−Cerを使用する場合、ワクチン中のGal−Cerの含有量は、例えば0.001〜9重量%であり、より好ましくは0.003〜3重量%であり、さらに好ましくは0.009〜0.9重量%である。
【0054】
糖脂質としてGD3を使用する場合、ワクチン中のGD3の含有量は、例えば0.001〜9重量%であり、より好ましくは0.003〜3重量%であり、さらに好ましくは0.009〜0.9重量%である。
【0055】
免疫賦活剤としてリン脂質を使用する場合、ワクチン中のリン脂質の含有量は、例えば0.001〜9重量%であり、より好ましくは0.003〜3重量%であり、さらに好ましくは0.009〜0.9重量%である。
【0056】
免疫賦活剤としてポリアミノ酸を使用する場合、ワクチン中のポリアミノ酸の含有量は、例えば0.001〜9重量%であり、より好ましくは0.003〜3重量%であり、さらに好ましくは0.009〜0.9重量%である。
【0057】
ポリアミノ酸としてγ−PGAを使用する場合、ワクチン中のγ−PGAの含有量は、例えば0.001〜9重量%であり、より好ましくは0.003〜3重量%であり、さらに好ましくは0.009〜0.9重量%である。
【0058】
ポリアミノ酸としてポリLアルギニンを使用する場合、ワクチン中のポリLアルギニンの含有量は、例えば0.001〜9重量%であり、より好ましくは0.003〜3重量%であり、さらに好ましくは0.009〜0.9重量%である。
【0059】
本発明のワクチンが免疫賦活剤の組み合わせBを含む場合
ワクチン中のポリアミノ酸の含有量は、例えば0.001〜9重量%であり、より好ましくは0.003〜3重量%であり、さらに好ましくは0.009〜0.9重量%である。
【0060】
ポリアミノ酸としてγ−PGAを使用する場合、ワクチン中のγ−PGAの含有量は、例えば0.001〜9重量%であり、より好ましくは0.003〜3重量%であり、さらに好ましくは0.009〜0.9重量%である。
【0061】
ポリアミノ酸としてポリLアルギニンを使用する場合、ワクチン中のポリLアルギニンの含有量は、例えば0.001〜9重量%であり、より好ましくは0.003〜3重量%であり、さらに好ましくは0.009〜0.9重量%である。
【0062】
ワクチン中のリン脂質の含有量は、例えば0.001〜9重量%であり、より好ましくは0.003〜3重量%であり、さらに好ましくは0.009〜0.9重量%である。
【0063】
リン脂質としてサーファクテンを使用する場合、ワクチン中のサーファクテンの含有量は、例えば0.001〜9重量%であり、より好ましくは0.003〜3重量%であり、さらに好ましくは0.009〜0.9重量%である。
【0064】
本発明のワクチンにおいては、上述の免疫賦活剤(1)と(2)、又は免疫賦活剤(1’)と(2’)が、分泌型IgAの産生を相乗的に亢進する比率で含まれていることが好ましい。「分泌型IgAの産生を相乗的に亢進する比率」とは、対象者へ本発明のワクチンを接種された対象者が対応する抗原(又は病原体)へ暴露された場合に粘膜部位において誘導される分泌型IgAの産生を相乗的に亢進し得る比率をいう。「分泌型IgAの産生を相乗的に亢進する比率」は、免疫賦活剤の種類に応じて適宜設定することが出来る。以下、「分泌型IgAの産生を相乗的に亢進する比率」の具体例について記載する。
【0065】
本発明のワクチンが免疫賦活剤の組み合わせAを含む場合
免疫賦活剤(2)としてグルカン類を使用する場合、分泌型IgAの産生を相乗的に亢進する比率(2本鎖RNA:グルカン類(重量比))は、例えば1:500〜50:1であり、好ましくは1:100〜10:1である。
【0066】
2本鎖RNAとしてPoly(I:C)を使用し、グルカン類としてレンチナンを使用する場合、分泌型IgAの産生を相乗的に亢進する比率(Poly(I:C):レンチナン(重量比))は、例えば1:1〜1:100であり、好ましくは1:100〜10:1である。
【0067】
2本鎖RNAとしてPoly(I:C)を使用し、グルカン類としてカードランを使用する場合、分泌型IgAの産生を相乗的に亢進する比率(Poly(I:C):カードラン(重量比))は、例えば1:1〜1:100であり、好ましくは1:5〜1:25である。
【0068】
2本鎖RNAとしてPoly(I:C)を使用し、グルカン類としてシゾフィランを使用する場合、分泌型IgAの産生を相乗的に亢進する比率(Poly(I:C):シゾフィラン(重量比))は、例えば1:1〜1:100であり、好ましくは1:5〜1:25である。
【0069】
2本鎖RNAとしてPoly(I:C)を使用し、グルカン類としてユーグレナを使用する場合、分泌型IgAの産生を相乗的に亢進する比率(Poly(I:C):ユーグレナ(重量比))は、例えば1:1〜1:100であり、好ましくは1:5〜1:25である。
【0070】
2本鎖RNAとしてPoly(I:C)を使用し、グルカン類として可溶性β−1,3グルカンを使用する場合、分泌型IgAの産生を相乗的に亢進する比率(Poly(I:C):可溶性β−1,3グルカン(重量比))は、例えば1:1〜1:100であり、好ましくは1:5〜1:25である。
【0071】
2本鎖RNAとしてPolyI:PolyC12Uを使用し、グルカン類としてレンチナンを使用する場合、分泌型IgAの産生を相乗的に亢進する比率(PolyI:PolyC12U:レンチナン(重量比))は、例えば1:100〜10:1であり、好ましくは1:1〜1:25である。
【0072】
2本鎖RNAとしてPolyI:PolyC12Uを使用し、グルカン類としてシゾフィランを使用する場合、分泌型IgAの産生を相乗的に亢進する比率(PolyI:PolyC12U:シゾフィラン(重量比))は、例えば1:100〜10:1であり、好ましくは1:1〜1:25である。
【0073】
免疫賦活剤(2)として糖脂質を使用する場合、分泌型IgAの産生を相乗的に亢進する比率(2本鎖RNA:糖脂質(重量比))は、例えば1:100〜10:1であり、好ましくは1:1〜1:25である。
【0074】
2本鎖RNAとしてPoly(I:C)を使用し、糖脂質としてGD3を使用する場合、分泌型IgAの産生を相乗的に亢進する比率(Poly(I:C):GD3(重量比))は、例えば1:100〜10:1であり、好ましくは1:5〜1:25である。
【0075】
2本鎖RNAとしてPoly(I:C)を使用し、糖脂質としてiGb3を使用する場合、分泌型IgAの産生を相乗的に亢進する比率(Poly(I:C):iGb3(重量比))は、例えば1:100〜10:1であり、好ましくは1:5〜1:25である。
【0076】
2本鎖RNAとしてPoly(I:C)を使用し、糖脂質としてIP−PA1を使用する場合、分泌型IgAの産生を相乗的に亢進する比率(Poly(I:C):IP−PA1(重量比))は、例えば1:1〜1:100であり、好ましくは1:5〜1:25である。
【0077】
2本鎖RNAとしてPolyI:PolyC12Uを使用し、糖脂質としてIP−PA1を使用する場合、分泌型IgAの産生を相乗的に亢進する比率(PolyI:PolyC12U:IP−PA1(重量比))は、例えば1:20〜1000:1であり、好ましくは1:10〜100:1であり、より好ましくは1:1である。
【0078】
免疫賦活剤(2)としてポリアミノ酸を使用する場合、分泌型IgAの産生を相乗的に亢進する比率(2本鎖RNA:ポリアミノ酸(重量比))は、例えば1:100〜10:1であり、好ましくは1:10〜1:100である。
【0079】
2本鎖RNAとしてPoly(I:C)を使用し、ポリアミノ酸としてPoly L−Argを使用する場合、分泌型IgAの産生を相乗的に亢進する比率(Poly(I:C):Poly L−Arg(重量比))は、例えば1:1〜1:300であり、好ましくは1:10〜1:100である。
【0080】
2本鎖RNAとしてPolyI:PolyC12Uを使用し、ポリアミノ酸としてPoly L−Argを使用する場合、分泌型IgAの産生を相乗的に亢進する比率(PolyI:PolyC12U:Poly L−Arg(重量比))は、例えば1:1〜1:2000であり、好ましくは1:20〜1:1000であり、より好ましくは1:10〜1:100である。
【0081】
免疫賦活剤(2)としてリン脂質を使用する場合、分泌型IgAの産生を相乗的に亢進する比率(2本鎖RNA:リン脂質(重量比))は、例えば1:500〜50:1であり、好ましくは1:100〜10:1である。
【0082】
本発明のワクチンが免疫賦活剤の組み合わせBを含む場合
免疫賦活剤(2)としてリン脂質を使用する場合、分泌型IgAの産生を相乗的に亢進する比率(ポリアミノ酸:リン脂質(重量比))は、例えば200:1〜3:1であり、好ましくは100:1〜10:1である。
【0083】
ポリアミノ酸としてPoly L−Argを使用し、リン脂質としてサーファクテンを使用する場合、分泌型IgAの産生を相乗的に亢進する比率(Poly L−Arg:サーファクテン(重量比))は、例えば200:1〜3:1であり、好ましくは100:1〜10:1である。
【0084】
本発明のワクチンは、上述の免疫賦活剤の組み合わせに加えて、更に別の免疫賦活剤を含んでいてもよい。このように、別の免疫賦活剤を添加することにより、分泌型IgA産生を誘導する効果が更に増強される可能性がある。更に添加される免疫賦活剤としては、上に列挙した各免疫賦活剤のほか、ウイルス由来RNA、ウイルスNP(核タンパク質)等を用いることが出来る。
【0085】
ウイルス由来RNAとは、RNAウイルスから抽出されるRNAを意味する。RNAウイルスの種類は特に限定されないが、例えば上述のインフルエンザウイルスが好適に用いられる。ウイルス由来RNAは、RNAウイルスの懸濁液を原材料として、RNA抽出試薬を用いて調製することが出来る。
【0086】
ウイルスNPとしては、例えば上述のインフルエンザウイルスのNPが好適に用いられる。ウイルスNPは、ウイルスの懸濁液を原材料として、抗NP抗体カラム等を用いて調製することが出来る。
【0087】
本発明のワクチンは、薬学的に受容可能なキャリアと配合して非経口的に投与することができる。
【0088】
本発明のワクチンで用いられ得る薬学的に受容可能なキャリアとしては、抗酸化剤、保存剤、着色料、風味料、および希釈剤、乳化剤、懸濁化剤、溶媒、フィラー、増量剤、緩衝剤、送達ビヒクル、希釈剤、賦形剤、安定化剤および/または薬学的免疫賦活剤が挙げられるがそれらに限定されない。代表的には、本発明のワクチンは、2本鎖RNA、グルカン類および不活化抗原を、1つ以上の薬学的的に受容可能なキャリア(例えば、賦形剤または希釈剤)とともに含む組成物の形態で投与される。例えば、適切なビヒクルは、注射用水、生理的溶液、または人工脳脊髄液であり得、これらには、非経口送達のための組成物に一般的な他の物質を補充することが可能である。
【0089】
賦形剤または安定化剤は、レシピエントに対して非毒性であり、そして好ましくは、使用される投薬量および濃度において不活性である。これらは、例えば、リン酸塩、クエン酸塩、または他の有機酸;アスコルビン酸、α−トコフェロール;低分子量ポリペプチド;タンパク質(例えば、血清アルブミン、ゼラチンまたは免疫グロブリン);親水性ポリマー(例えば、ポリビニルピロリドン);アミノ酸(例えば、グリシン、グルタミン、アスパラギン、アルギニンまたはリジン);モノサッカリド、ジサッカリドおよび他の炭水化物(グルコース、マンノース、またはデキストリンを含む);キレート剤(例えば、EDTA);糖アルコール(例えば、マンニトールまたはソルビトール);塩形成対イオン(例えば、ナトリウム);ならびに/あるいは非イオン性表面活性化剤(例えば、Tween、プルロニック(pluronic)またはポリエチレングリコール(PEG))などが挙げられるがそれらに限定されない。
【0090】
適切なキャリアとしては、中性緩衝化生理食塩水、または血清アルブミンと混合された生理食塩水が挙げられる。好ましくは、その生成物は、適切な賦形剤(例えば、スクロース)を用いて凍結乾燥剤として処方される。他の標準的なキャリア、例えば希釈剤および賦形剤は所望に応じて含まれ得る。他のキャリアは、pH7.0〜8.5のTris緩衝剤またはpH4.0〜5.5の酢酸緩衝剤を含み、これらは、さらに、ソルビトールなどを含み得る。
【0091】
本発明のワクチンは、必要に応じて薬学的に受容可能なキャリア、賦形剤または安定化剤と、所望の程度の純度を有する糖鎖組成物とを混合することによって、凍結乾燥されたケーキまたは水溶液の形態で調製され保存され得る(第15改正日本薬局方、Remington's Pharmaceutical Sciences, 18th Edition, A.R.Gennaro, ed., Mack Publishing Company, 1990などを参照)。
【0092】
本発明のワクチンは、液状または乾燥した形態で、密栓したバイアル瓶、シリンジ、アトマイザーまたはそれに類するもの、あるいは熔封したアンプルに入れて提供され得る。
【0093】
本発明のワクチンは、好ましくは、ヒトでの使用の前にインビトロで、そして次いでインビボで、および動物レベルで、所望の治療活性または予防活性について試験される。細胞株および/または組織サンプルに対するワクチンの効果は、当業者に公知である技術を利用して決定され得る。例えば、インビトロアッセイとしては、抗原と抗体との結合を観察することなどが挙げられる。動物レベルの試験では、ヒトと同様にワクチンを投与し、抗体力価の上昇を確認(例えば、ELISA法による)、あるいは細胞障害性T細胞の活性化などを確認することなどが挙げられる。
【0094】
本発明のワクチンは、粘膜投与されるが、投与部位の粘膜面のみならず、その他の組織の粘膜面においてもIgA分泌亢進可能であるような粘膜面に局所的に投与することが望まれ得る。「粘膜投与」とは、粘膜を経由する投与形態をいう。粘膜は、脊椎動物において、消化器、呼吸器、泌尿生殖器など特に外通性の中腔器官の内壁である。従って、そのような粘膜投与としては、例えば、鼻腔投与(経鼻投与)、口腔投与、膣内投与、上気道投与、肺胞投与などが挙げられるが、好ましくは鼻腔投与である。鼻腔は特に、インフルエンザウイルスなどの呼吸器系感染疾患の感染経路でもあることから、粘膜投与によりIgA反応を引き起こすことも可能であるからである。経鼻投与は、鼻粘膜を経由した投与方法をいう。ワクチンの粘膜投与は、投与される部位に応じて適切な方法で行うことがでる。例えば、経鼻投与の場合、噴霧、塗布、あるいは直接ワクチン液をたらすなどの方法を用いることができる。さらに、例えば、肺投与の場合、吸入器または噴霧器の使用、およびエアロゾル化剤を用いた処方により行われ得る。
【0095】
本発明のワクチン投与の際には、免疫賦活剤(グルカン類、2本鎖RNA等)および不活化抗原は、他の生物学的に活性な薬剤と一緒に投与され得る。本発明のワクチンを投与するために用いられ得る技術としては、例えば、リポソーム、微粒子、マイクロカプセルなどが挙げられる。
【0096】
本発明のワクチンを被験体(または患者)に対して投与する頻度は、使用目的、対象疾患(種類、重篤度など)、患者の年齢、体重、既往歴、および経過などを考慮して、当業者が容易に決定することができる。頻度としては、例えば、毎日〜数ヵ月に1回(例えば、1週間に1回〜1ヵ月に1回)の投与、あるいは毎年流行前に1回の頻度などが挙げられる。1週間〜1ヵ月に1回の投与を、経過を見ながら施すことが好ましく、少なくとも約1週間の間隔をあけて追加免疫をすることが有利である。より好ましくは、追加免疫の間隔は少なくとも約3週間であり得る。追加免疫を行うことによって、より効果の高い感染防御効果を奏することができる。
【0097】
本発明のワクチンの使用量は、抗原の種類、免疫賦活剤の種類、被験体の年齢、体重、症状または投与方法などにより異なり、特に限定されないが、例えば、免疫賦活剤の量にして通常成人1日あたり、経口投与の場合、10μg〜100mgであり得る。粘膜(例えば経鼻)投与の場合、1μg〜15mgであり、好ましくは、5μg〜1.5mgであり得る。抗原の量にして通常成人1日あたり、経口投与の場合、10μg〜10mgであり得る。粘膜(例えば経鼻)投与の場合、1μg〜1.5mgであり、好ましくは、5μg〜150μgであり得る。
【0098】
本発明のワクチンは、単独で、または他の治療剤と組み合わせて投与され得る。組み合わせは、例えば、混合物として同時に、別々であるが同時にもしくは並行して;または逐次的にかのいずれかであり得る。これは、組み合わされた薬剤が、治療混合物としてともに投与されることを含み、そして組み合わせた薬剤が、別々であるが同時に(例えば、同じ個体へ別々の粘膜を通じての場合)投与されることもまた含む。「組み合わせ」投与は、第1に与えられ、続いて第2に与えられる化合物または薬剤のうちの1つを別々に投与することをさらに含む。
【0099】
本発明のワクチン投与による予防処置の終了の判断は、市販のアッセイもしくは機器使用によって惹起される抗体を確認することによって行うことができる。
【0100】
予防、処置または予後上有効な量は、当該分野において周知の技法(例えば、「ワクチンハンドブック」、国立予防衛生研究所学友会編(1994);「予防接種の手引き 第8版」、木村三生夫、平山宗宏、堺春美編、近代出版(2000);「生物学的製剤基準」、細菌製剤協会編(1993)など))を用いて当業者が種々のパラメータを参酌しながら決定することができる。パラメータとしては、例えば、使用目的、対象疾患(種類、重篤度など)、患者の年齢、体重、既往歴などが挙げられる。
【0101】
以下に、実施例に基づいて本発明を説明するが、以下の実施例は、例示の目的のみに提供される。従って、本発明の範囲は、実施例のみに限定されるものではなく、特許請求の範囲によってのみ限定される。
【実施例】
【0102】
以下の実施例では、「研究機関等における動物実験等の実施に関する基本指針」(文部科学省告示第71号、平成18年6月1日)に基づいた試験をおこなっている。動物の取り扱いは、国立感染症研究所および阪大微生物病研究会において規定される基準を遵守した。
【0103】
本実施例では有効で安全なワクチンの開発のため、経鼻投与に着目し、ヒト用流行株HAワクチンを抗原として用い、2本鎖RNA(dsRNA)をはじめとする多種類の免疫賦活剤を用いて、マウスにおける経鼻接種試験を検討した。粘膜において感染防御に有意な免疫応答は鼻腔洗浄液のIgA抗体価の測定から、また血清のHI抗体価あるいはIgG抗体価の上昇から免疫応答の上昇していることを明らかにした。
この免疫応答は、免疫賦活剤(アジュバント)として、2本鎖RNA、グルカン類(β-グルカン)、糖脂質、ポリアミノ酸、リン脂質、ウイルス由来RNA、ウイルスNPから選ばれたものを少なくとも2種類以上併用することで実用可能なレベルまで高められることを明らかにしている。また、免疫賦活剤の相乗効果の見られなかった例も同時に示してある。したがって、免疫賦活剤の組み合わせで干渉が見られず相乗効果が見られた場合、同等レベルの効果であった場合は、用いる抗原の種類によっては十分な感染防御をえられる適切な組み合わせを選択できるようにいくつもの組み合わせを提供している。
【0104】
本実施例では、抗原は0.1μg(低用量)、1μg(高用量)を検討し、試験に用いたインフルエンザウイルスのHA抗原、全粒子は以下の表1に示してある。
【0105】
【表1】

【0106】
なお、チャレンジウイルスのA/PR8インフルエンザウイルスは国立感染研究所(以下、感染研ともいう。東京都新宿区戸山1-23-1)から提供され、A/広島/52/2005(H3N2)、A/広島/52/2005(H3N2)、A/広島/52/2005(H3N2)、A/NewCaledonia/20/99は阪大微生物病研究会(以下、阪大微研会ともいう)でワクチン製造用として鶏卵により培養されているものを使用した。
本実施例に用いた免疫賦活剤は、表2に示した。
【0107】
【表2−1】

【0108】
【表2−2】

【0109】
本実験に用いたマウスは、BALB/cマウス(6-8週齢、雌、日本エスエルシー株式会社)である。
感染研で行われた場合のワクチンの接種、採血スケジュールをザイモサンの例で図1に示した。
阪大微研会で行われた場合のワクチンの接種、採血スケジュールをザイモサンの例で図2に示した。
【0110】
実験方法の一例を以下に記した。BALB/c slcマウスを、アモバルビタール麻酔(イソミタール(登録商標)、2mgを腹腔投与)して、例えばインフルエンザHAワクチンまたはホルマリン添加全粒子ワクチン(例えば0.1〜1μgHA/匹、抗原の種類はA/広島/52/2005(H3N2)またはA/New Caledonia/20/99(H1N1)に2本鎖RNAであるPolyriboinosinic polyribocytidylic acid [poly(I:C)] またはAmpligen [Poly(I:C12U)]を0.1〜10μg添加した試作ワクチンをマイクロピペットでマウスの両鼻孔に点鼻投与(2〜4μl/鼻孔)した。3〜4週間隔で2回接種し、10〜14日後に鼻腔洗浄液と血清を回収した。
鼻腔洗浄液からは特異的IgA-ELISA抗体価を、血清からはHI抗体価を(更に一部のものに関してはIgG−ELISA抗体価も)測定した。
また、HI抗体価は、次のようにして測定した。検体は、2回目の免疫から13日後に心臓採血して取得した血清100μlにRDE300μlを添加して18時間処理した後、56℃、1時間加熱して非働化し、生理食塩水600μl(この時点で血清10倍希釈)を添加し、ニワトリ赤血球で吸収処理した上清を使用した。この検体、又はその2倍段階希釈液(M/100 PBS)25μlとインフルエンザウイルスA/広島/52/2005(H3N2)の4HA/25μl溶液(M/100 PBS)を室温にて15分間反応させ、0.5%ニワトリ赤血球50μlを添加して30分後に凝集反応が阻止されているか否かを観察した。
【0111】
実施例1
(Poly(I:C)とザイモサンを添加したインフルエンザHAワクチンの経鼻接種試験における2本鎖RNAとβ-グルカンの相乗作用:抗原量1μg)
合成2本鎖RNAであるPoly(I:C)とザイモサンを免疫賦活剤として用いて不活化ウイルスまたはサブユニット抗原の中和抗体惹起能、ひいては感染防御効果を以下の条件で確認した。
【0112】
(条件)抗原量が1μgの条件で、表3に1〜10群についての実験条件を示した。なお、この試験は感染研の免疫スケジュール条件(図1)で実施された。
【0113】
【表3】

【0114】
(結果)
抗原量が1μgにおいて、免疫賦活剤としてPoly(I:C)単独(5、10μg)、ザイモサン単独(0、1、10、50、100μg)、Poly(I:C)とザイモサンの併用時(Poly(I:C):ザイモサン、1μg:10μg、5μg:10μg)の鼻腔洗浄液中IgA、血清中IgG、鼻腔洗浄液中のウイルス力価、血清中和抗体、HI抗体価を図3に示した。
ザイモサンを単独で1〜100μgまで添加すると鼻腔洗浄液中IgA、血清中IgGは、免疫賦活剤の用量と相関がみられ、鼻腔洗浄液中のウイルス力価は、50μg以上で有効であった。また、Poly(I:C)を単独で5、10μgまで添加すると鼻腔洗浄液中IgA、血清中IgGは免疫賦活剤の増加と相関がみられ、鼻腔洗浄液中のウイルス力価は、10μg以上で有効であった。
Poly(I:C)とザイモサンを併用した群では、鼻腔洗浄液中IgA、血清中IgG、血清中和抗体、HI抗体価は著しく増加し、驚異的な相乗効果が確認された。鼻腔洗浄液中のウイルス力価はザイモサン単独では効果の見られなかった10μgでもPoly(I:C)と併用することで効果が見られた。図3に示したように、ザイモサンに対してPoly(I:C)の比率を上げると、鼻腔洗浄液中IgA、血清中IgG、血清中和抗体は相関して増加した。
【0115】
実施例2
(Poly(I:C)とザイモサンを添加したインフルエンザHAワクチンの経鼻接種試験における2本鎖RNAとβ-グルカンの相乗作用:抗原量0.1μg)
(条件)抗原量が0.1μgの条件で、表4に1〜20群についての実験条件を示した。なお、この試験は阪大微研会の免疫スケジュール条件(図2)で実施された。
【0116】
【表4】

【0117】
(結果)
結果を図4、表5に示した。粘膜IgA抗体価はPoly(I:C)単独の添加により、HAワクチン単独の数十倍となり、さらにザイモサンの添加でHAワクチン単独の100倍前後となった。血清HI抗体価は、HAワクチン単独では一部の個体に弱い反応が見られるにとどまったが、Poly(I:C)とザイモサンを添加したワクチンを接種した群ではほぼ全ての個体にHI反応が見られ、一部の個体、群では感染防御レベル(HI≧40)に達するものが見られた。以上より、HAワクチン(HA含量0.1μg)の経鼻接種の場合、粘膜のIgA抗体価は、Poly(I:C)の添加でHAワクチン単独の30〜50倍、さらにザイモサンを添加すると100〜200倍に、血清のHI抗体価は、Poly(I:C)またはザイモサンの添加だけではHAワクチン単独とほぼ同等で、Poly(I:C)(0.3〜3μg)とザイモサン(1〜10μg)を併用して添加することで数倍になることが分かった。
【0118】
【表5】

【0119】
実施例3
(ザイモサンとPolyI:Cの併用時のサイトカイン産生量)
Poly(I:C)と添加するザイモサンの比率によるサイトカイン産生量を、腫瘍壊死因子(TNF−α)を指標にして調べた。
【0120】
(結果)
結果を図5に示した。ザイモサンが1μgの時、Poly(I:C)の量を0μg、0.1μg、1μg、10μgで検討した。ザイモサンと2本鎖RNAとを併用した場合に混合比に応じた相乗効果が認められた。
【0121】
実施例4
(Poly(I:C)とグルカン類を添加したインフルエンザHAワクチンの経鼻接種試験)
本実施例では、Poly(I:C)、グルカン類として5種(ザイモサン、カードラン、レンチナン、ソニフィラン、ユーグレナ)を免疫賦活剤として用いて、不活化ウイルスまたはサブユニット抗原の中和抗体惹起能、ひいては感染防御効果を確認した。
【0122】
(方法)実験条件は表6に示した。
【0123】
【表6】

【0124】
(結果)
血清HI抗体および鼻腔洗浄液中のIgA抗体、血清IgG抗体の測定結果は表7に示す。
いずれのグルカン類を利用したときも、Poly(I:C)との併用で相乗効果が得られた。
Poly(I:C)を添加することにより、IgAの幾何平均値はワクチン単独を接種した場合よりも45倍以上高い値を示した。また、Poly(I:C)を添加した場合の値は、免疫賦活剤無添加かつ全粒子ワクチン接種の群よりも高い値であった。
使用したβ−1,3グルカンの中で特異的粘膜IgA産生に関し、併用効果の高いものはユーグレナ由来>レンチナン>ソニフィラン (シゾフィラン)≒ザイモサン>CM−カードラン(表7にデータ記載なし)>カードランの順であった(下位2種はPoly (I:C)単独と同程度であった)。
【0125】
【表7】

【0126】
実施例5
(ウイルス由来RNA、ウイルスNP、Poly L-Argの添加したインフルエンザHAワクチンの経鼻接種試験における免疫賦活効果)
Poly L−Argは粘膜上皮細胞のtight junctionを拡大すると考えられており、低分子薬物の粘膜投与では1〜3%が至適濃度とされている。Poly(I:C)と単独比較対照のため、ウイルス由来のRNAまたはウイルスNPを免疫賦活剤とした経鼻免疫試験を上記と同様に行った。また、同様に、Poly(I:C)との併用が有用と見られるPoly L−Argを0.05〜5%の範囲内でA/New Caledonia HAワクチンに添加し、経鼻接種時の免疫応答を調べた結果を表8に示す。Poly L−Argは0.25%(4μl投与なので10μg/匹に相当)まで免疫応答が上昇が確認され、ウイルス由来RNAまたはPoly L−Argの添加群で粘膜免疫応答(鼻腔洗浄液中IgA抗体価)の上昇を確認した。また、Poly L−Arg 2μg/匹群は血清のHI抗体価も上昇した。
【0127】
【表8】

【0128】
実施例6
(2本鎖RNAと糖脂質の併用、糖脂質とグルカン類の併用の検討:グルカン類と糖脂質の干渉、2本鎖RNAと糖脂質の効果)
2本鎖RNAと糖脂質、糖脂質とグルカン類を添加したインフルエンザHAワクチンの経鼻接種試験を行った。表9に、用いた抗原、免疫賦活剤の種類などの試験系を示した。
【0129】
【表9】

【0130】
(結果)
表10に鼻腔洗浄液中IgA、血清HI、血清IgGの結果を示す。鼻腔粘膜洗浄液中のIgAは、IP-PA1単独に比べて2本鎖RNAを併用するとでは同等であったが、グルカン類を併用すると干渉が見られた。
【0131】
【表10】

【0132】
実施例7
(2本鎖RNAと糖脂質の併用:2本鎖RNAと糖脂質の効果)
Poly(I:C)とiGb3、ザイモサン、可溶性β−1,3グルカン、GD3との併用試験の結果を図6に示す。
A/広島HAワクチンを抗原として図6に示した条件で添加したものをBALB/cマウスに経鼻接種して調べた。
Isoglobotrihexosylceramide (iGb3)は単独でも強力な免疫応答増強作用を持っていた。これを、Poly(I:C)と併用すると特異的血清IgG免疫応答を増強しPoly(I:C)とα-galactoceramideの併用により免疫応答は増強された。
【0133】
実施例8
(2本鎖RNAとPoly L-Arg、Poly L-Argとリポ多糖の併用の検討:2本鎖RNA、Poly L-Arg、リポ多糖の併用効果)
表11に2本鎖RNA、Poly L-Arg、リポ多糖の併用効果の試験系を示した。
【0134】
【表11】

【0135】
(結果)
表12に鼻腔洗浄液中IgA、血清HI、血清IgGを示す。表12に示したように鼻腔粘膜洗浄液中のIgAは、2本鎖RNA単独に比べてPoly L-Argを併用するとでは相乗効果が見られる。Poly L-Argにサーファクテンを併用するとさらに相乗効果が見られる。
【0136】
【表12】

【図面の簡単な説明】
【0137】
【図1】図1は、ザイモサンと一緒にPR8 HAワクチンを経鼻接種した場合のスケジュールを示す図である。
【図2】図2は、阪大微研会で行われた場合のワクチンの接種、採血スケジュールを示す図である。
【図3】図3は、Poly(I:C)とザイモサンを添加したインフルエンザHAワクチンの経鼻接種試験において誘導された鼻腔洗浄液中IgA抗体、血清中IgG抗体、鼻腔洗浄液中のウイルス力価、血清中和抗体、HI抗体価の抗体産生およびウイルス価を示す図である。
【図4】図4は、Poly(I:C)とザイモサンを添加したインフルエンザHAワクチンの経鼻接種試験により誘導されたIgA抗体価およびHI抗体価を示す図である。
【図5】図5は、Poly(I:C)とザイモサンを添加したインフルエンザHAワクチンを経鼻接種したマウスにおける骨髄樹状細胞におけるTNF−α産生を示す図である。
【図6】図6は、Poly(I:C)および/またはザイモサン、iGb3、可溶性β−1,3グルカン、GD3より誘導された鼻腔洗浄液中IgAを示す図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
粘膜投与のためのワクチンであって、
(I)病原体の不活化抗原、並びに
(II)以下の免疫賦活剤の組み合わせ;
(1)2本鎖RNA、および
(2)グルカン類、糖脂質、リン脂質、ポリアミノ酸又は水酸化アルミニウム
を含むワクチン。
【請求項2】
該粘膜が鼻の粘膜である、請求項1に記載のワクチン。
【請求項3】
該病原体がインフルエンザウイルスである、請求項1に記載のワクチン。
【請求項4】
該免疫賦活剤の組み合わせが分泌型IgAを産生するに十分な含有量でワクチン中に含まれる、請求項1に記載のワクチン。
【請求項5】
免疫賦活剤(2)がグルカン類である、請求項1に記載のワクチン。
【請求項6】
該2本鎖RNAの含有量がグルカン類1重量部に対して0.01〜10重量部である、請求項5に記載のワクチン。
【請求項7】
該2本鎖RNAがPoly(I:C)で、グルカン類がレンチナンである、請求項5に記載のワクチン。
【請求項8】
該2本鎖RNAがPoly(I:C)で、グルカン類がシゾフィランである、請求項5に記載のワクチン。
【請求項9】
該2本鎖RNAがPolyI:PolyC12Uで、グルカン類がレンチナンである、請求項5に記載のワクチン。
【請求項10】
該2本鎖RNAがPolyI:PolyC12Uで、グルカン類がシゾフィランである、請求項5に記載のワクチン。
【請求項11】
免疫賦活剤(2)が糖脂質である、請求項1に記載のワクチン。
【請求項12】
該2本鎖RNAの含有量が糖脂質1重量部に対して0.01〜10重量部である、請求項11に記載のワクチン。
【請求項13】
該2本鎖RNAがPoly(I:C)で、糖脂質がiGb3又はIP−PA1である、請求項11に記載のワクチン。
【請求項14】
該2本鎖RNAがPolyI:PolyC12Uで、糖脂質がiGb3又はIP−PA1である、請求項11に記載のワクチン。
【請求項15】
免疫賦活剤(2)がポリアミノ酸である、請求項1に記載のワクチン。
【請求項16】
該2本鎖RNAの含有量がポリアミノ酸1重量に対して0.01〜10重量部である、請求項15に記載のワクチン。
【請求項17】
該2本鎖RNAがPoly(I:C)で、ポリアミノ酸がPoly L−Argである、請求項15に記載のワクチン。
【請求項18】
該2本鎖RNAがPolyI:PolyC12Uで、ポリアミノ酸がPoly L−Argである、請求項15に記載のワクチン。
【請求項19】
さらにウイルス由来RNA又はウイルスNPを含む、請求項1に記載のワクチン。
【請求項20】
粘膜投与のためのワクチンであって、
(I)病原体の不活化抗原、並びに
(II)以下の免疫賦活剤の組み合わせ;
(1’)ポリアミノ酸、および
(2’)リン脂質
を含むワクチン。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2009−242367(P2009−242367A)
【公開日】平成21年10月22日(2009.10.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−94360(P2008−94360)
【出願日】平成20年3月31日(2008.3.31)
【出願人】(000173692)財団法人阪大微生物病研究会 (23)
【出願人】(591222245)国立感染症研究所長 (48)
【Fターム(参考)】