説明

混合生物試料のための高速分析法

本発明は、異なる細胞の混合物又は汚染成分を有する細胞の混合物を含む生物試料から核酸を増幅するための高速法であって、そのような細胞が、溶解溶液(A)において溶解され、その直後に、溶解物が、核酸を増幅する方法を用いた分析のために使用され得る方法に関する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、異なる細胞の混合物又は汚染成分を有する細胞の混合物を含む生物試料から核酸を増幅するための高速法であって、そのような細胞が、溶解溶液(A)において溶解され、その直後に、溶解物が、核酸が増幅される方法を用いた分析のために使用され得る方法に関する。
【背景技術】
【0002】
現在、その助けを借りて、遺伝学的試料を検査することが可能であり、適切な場合ヒトに適用できる、高速分析法が強く求められている。このような分析法の必要条件は、単離されたDNA又はRNAの形態の遺伝物質が、該分析法において利用可能であること、すなわち、該遺伝物質が、分析可能な量として、かつ、該遺伝物質の分析を可能とするほど十分な純度において供給されることである。そのような分析は、現在、通常、遺伝物質が増幅される、ポリメラーゼ連鎖反応(PCR)を用いて実施される。
【0003】
PCRそのものも分析法である。なぜなら、特定のプライマーを選ぶことによって、単離した核酸において対応する配列の存在を同定することが可能となるからである。一方、PCR増幅産物そのものが、その後の分析の対象となる場合がある。
【0004】
このような分析のためには、安価で、手間のかからない方法を採用することが望ましい。なぜなら、比較的大量の異なる試料を同時に処理しなければならないことがしばしば起こるからである。適切な条件下では、ポリメラーゼ連鎖反応はきわめて選択性が高く、かつ高感度な方法である。しかしながら、不適切な条件又はバッファー系を選択すると、該反応は、好ましくない結果をもたらす場合がある。
【0005】
WO 03/102184 A1には、固体表面に好ましくは結合される細胞「凝集」剤 cell-"aggregating" agent(「凝集剤」 "flocculating agent")を加えることによって、異なる細胞の混合物から、又は汚染物質を有する細胞から核酸含有細胞を分離する方法、及び、それに続く得られた細胞からの核酸の単離が記載されている。
【0006】
US5,523,231には、試料を冷却することにより添加した大きな表面を有する小球(「ビーズ」)に核酸を非特異的に付着させること、及び該核酸をビーズから解離させることによる、核酸の単離が記載されている。
【0007】
WO 2006/103094には、溶解バッファーに窒素含有化合物を使用することによって核酸収率の向上が得られる、生物材料から核酸を単離する方法が開示されている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明の課題は、細胞が、他の細胞又は汚染物質との混合物として存在する生物試料の遺伝学的分析のための高速法であって、簡便かつ高速に実施することが可能であり、検査される遺伝物質をバッファーシステムを変えることなく単離することが可能であり、かつ、例えば、ポリメラーゼ連鎖反応などの分析法を実施することが可能な方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
この課題は、請求項1に記載される方法、及び、請求項4に記載される溶解溶液(A)によって解決され、好ましい実施態様は従属請求項に詳述される。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】H18リアルタイムPCRの結果:示されるデータは、各場合において、溶液(A)の変形における4個の独立した調製物の平均C(t)値である。
【図2】キアアンプ・ブラッド・ミニプレップ(QIAamp Blood Mini-prepped)コントロール(抗凝固剤1のみを用いて実施した、"1 QA"と呼ぶ)との比較による、1〜6と番号を付した異なる抗凝固剤を含む2つの異なるドナー(ドナー1及び2)の血液試料のβ-アクチン・リアルタイムPCRの結果。 抗凝固剤/血液収集システムの数字の表示内容:1)ザルスタット(Sarstedt)(モノベット;Monovette) EDTA KE/9 ml; 2)ザルスタット(Sarstedt)(モノベット;Monovette) Li-ヘパリン LH/7.5 ml; 3)ザルスタット(Sarstedt)(モノベット;Monovette) 凝固 9 NC/10 ml; 4) B-Dバクテイナー(Vacutainer) K2E 18 mg/10 ml; 5) B-Dバクテイナー(Vacutainer)9NC 0.105M/9 ml; 6) B-Dバクテイナー(Vacutainer)K3E 15% 0.12 ml/10 ml。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本発明の溶解溶液(A)は、検査される生物試料の細胞壁の溶解を補助し、かつタンパク質凝集物を溶解する(a)少なくとも一つの非イオン性界面活性剤を含む、低い塩濃度を有するバッファー溶液に基づくものである。この目的のために適切な物質は、原則として、検査される核酸に対して有害作用を有さない、非イオン性界面活性剤であればいずれのものでもよいが、ツイーン20(Tween 20)、タージトル(Tergitol)、トリトンX-100(Triton X-100)、ブリッジ-58(Brij-58)、及びノニデット-P40(Nonidet-P40)を用いることが好ましい。
【0012】
使用される溶解溶液(A)における非イオン性界面活性剤の濃度は、0.05から5%、好ましくは0.1から2%、より好ましくは0.2から0.8%である。
【0013】
溶液(A)の成分(b)は、結合剤及び増粘剤として働く少なくとも一つのポリマーである。該ポリマーは、潜在的な阻害物質を非特異的複合体形成させることによって、その後の分析法が阻害されるのを阻止するために用いられる。このようなポリマー系結合剤及び増粘剤は、当業者においては公知である。しかしながら、本発明の範囲内において好ましいのは、ポリビニルピロリドン、ポリオキサゾリン、ポリエチレングリコール、ポリビニールアルコール;ルビテック(Luvitec)(BASF)である。このポリマーは、溶液(A)において、0.05から0.5%、好ましくは0.1%から0.2%の範囲の濃度において使用される。
【0014】
本溶解溶液において使用され得るもう一つの成分(c)は、プロテイナーゼであってもよい;耐熱性プロテイナーゼを使用するのが好ましく、特に好ましくは、プロテイナーゼK、又はスブチリシン(subtilisin)から選ばれる耐熱性プロテイナーゼである。本溶解溶液において耐熱性プロテイナーゼKを用いるのが特に好ましい。プロテイナーゼは、1ミリリットルの溶解溶液当たり、0.5から10μ単位、好ましくは1.5から4μ単位(国際単位)を供給する量として使用されることが好ましい。
【0015】
溶液(A)のさらなる成分は、トリス(Tris)、モップス(MOPS)、ヘペス(HEPES)又はリン酸塩から成る群から選択される、10〜20mMの濃度のpHバッファー物質である。pHは、7.5から11とすることが好ましい。pHは特に好ましくは9.0である。
【0016】
さらに、核酸分解酵素(nucleinase)を不活性化するために、2価陽イオンのキレート剤を用いることが可能である。これらのキレート剤は、1mMの濃度で用いられ、EDTA及びEGTAから成る群から選択される。
【0017】
核酸分析法における工程(i)では、先ず、核酸含有細胞が血液から濃縮される。この目的のために、当業者には種々の方法が利用可能であるが、これらの方法は、それ自体原理的には、当業者において公知である。
【0018】
そのような適切な方法としては、ただしこれらに限定されないが、例えば、混合物における不要細胞の溶解又は破壊、表面であって、その上に、溶解される細胞又は汚染物質が吸着又は結合される表面の添加、或いは、ろ過、沈殿、選択、又は遠心、又は、複数のこれらの方法の組合せが挙げられる。この工程(i)の好ましい目的は、遺伝物質を含む細胞を、他の細胞又は汚染成分から分離すること、又は、その様な細胞を、他の成分に対して濃縮することである。
【0019】
本発明による方法において用いてもよい出発材料は、核酸含有細胞に加えて、他の細胞又は他の汚染成分を含む試料である。そのような生物試料の例としては、全血、軟膜(バフィーコート)、血液と、他の材料、例えば、組織、精液、リンパ、尿、糞便、又は類似物との混合物、及び、血液検査カードとして公知の検査から得られるパンチディスクがある。本発明による方法は、遺伝物質を有する細胞を、他の細胞又は汚染成分から分離することが好ましい場合、特に好適である。
【0020】
本発明による好ましい実施態様では、血液試料は先ず、赤血球溶解バッファー(B)によって、該試料中の赤血球が溶解されるように処理される。次いで、残存する白血球は、遠心によって溶解混合物から分離される。上清は廃棄され、白血球細胞は、さらなる処理のために直ちに利用することが可能である。
【0021】
溶解バッファー(B)は、もっぱら、血液中に存在する赤血球の溶解のために使用される。当業者において公知の赤血球分解バッファーであれば、いずれのものであってもこの目的のために、本発明をそれに限定することなく、使用することが可能である。溶解バッファーとして好ましいのはELB1(320mMスクロース;50mM Tris/Cl pH7.5;5mM MgCl2;1%トリトンX-100(Triton X-100))、又は ELB2 (155mM NH4Cl;10mM KHCO3)である。
【0022】
さらに好ましい実施態様では、試料は、溶解される細胞が吸着又は結合する表面に接触させられる。その後、試料の残存成分は、その大部分が分離法によって除去される。このために、試料は、細胞が吸収又は結合する適切な表面に接触させられる。この目的のために好適な表面の例としては、小球、別にビーズとも呼ばれるもので、例えば、ガラス、シリカ、ポリマー製のビーズ、又はコートされたビーズ、好ましくは磁気ビーズがある。しかしながら、結合のために、例えば、反応容器、反応フィルター、フィルターカラム、スピンフィルターミニカラム、膜、フリット(frits)、グラスファイバー繊維、皿、チューブ、(ピペット)チップ、又は結合用のマルチウェルプレートのウェルなどの消耗品の表面を修飾することも可能である。特に好ましい実施態様では、磁気ビーズが使用される。
【0023】
赤血球の溶解のためには、表面は、修飾型磁気粒子の形態で導入することができる。白血球は、表面に吸着し、磁気分離によって濃縮することができる。
【0024】
本方法のために好適なビーズは、磁気コアがガラス又はポリマーコーティングによってコートされ、かつ、ビーズへの核酸含有細胞の非特異的付着又は結合を可能とする基をその表面に保持する、今日までに知られるどの型の磁気ビーズを含んでもよい。その表面が親水性であるビーズ、例えば、酸性基、好ましくはカルボン酸基、リン酸基、又は硫酸基、又はその塩、より好ましくはカルボン酸基又はその塩を保持するビーズを使用することが好ましい。上述の基は、表面に直接結合するか、又は、表面コーティングを形成するポリマーの一部となるか、又は、スペーサー分子を介して表面に結合するか、又は、ビーズの表面に結合する化合物の一部となることが可能である。好ましい実施態様では、ビーズは、その表面に、総体的に弱い負の全体電荷を保持する。なぜなら、細胞は、そのような条件が支配する場合、特に効果的に結合するからである。本方法にとっては好ましくないが、ビーズが中性から弱い正電荷を持つことも可能である。ビーズのためのコーティング材料として好適で、本発明のために好適な表面を提供する好適なカルボキシル化ポリマーの例は、独国特許出願DE10 2005 040 259.3.に詳述されている。表面に結合されてもよい化合物の例としては、ただしこれらに限定されないが、グリシン、ヒドラジン、アスパラギン酸、6-アミノカプロン酸、NTA(ニトリロ3酢酸)、ポリアクリル酸(PAA)、グリセリン、ジグリム(diglyme)(ジエチレングリコールジメチルエーテル)、グリム(glyme)(ジメトキシエタン)、ペンタエリスリトール、トルエン、又は、それらの組み合わせがある。同様に好ましい磁気ビーズは、独国特許出願DE 10 2005 058 979.9.に記載されるものである。これらの好適な磁気ビーズは市販されている。
【0025】
好適なビーズのさらなる例として、シリカビーズ、例えば、マグアトラクト・サスペンジョン-B(MagAttract Suspension-B)、マグアトラクト・サスペンジョン-G(MagAttract Suspension-G)(全て、キアゲン(Qiagen)による)がある。
細胞は、十分な長期間磁気ビーズと接触させられる。十分な長期間とは、すなわち、細胞がそれ自体でビーズに結合/付着することを可能とするほど十分な期間である。このような期間は、少なくとも30秒、好ましくは少なくとも1分、さらに好ましくは少なくとも3分である。
【0026】
細胞が磁気粒子に付着/結合した後、細胞がビーズと一緒に入れられている容器に磁場を印加することによって、細胞を取り囲む媒体から、細胞を収集又は分離することができる。好ましい実施態様では、マグネットは、細胞と磁気ビーズが位置する容器に対し外部から印加され、試料の残りは、例えば、デカントによって、又は、適切なデバイス、例えば、ピペットにより吸引することによって、容器から取り除かれる。磁気粒子は細胞と一緒に、適切な洗浄媒体に任意に再懸濁することが可能であり、それによって洗浄され、その後、再び磁場が容器に印加され、再び洗浄媒体が容器から除去される。したがって、本法は、細胞の特に穏やかな取扱いを提供する。
【0027】
工程(i)における、溶解する核酸含有細胞の濃縮後、工程(ii)において、これらの細胞は、上に詳述した溶解溶液(A)に接触させられる。細胞が、溶解溶液(A)に接触した後、この溶解混合物は、工程(iii)において、1分から3時間、好ましくは2分から1時間、より好ましくは5分から20分の期間、室温から100℃未満、好ましくは少なくとも60℃、より好ましくは少なくとも70℃、特に好ましくは75から80℃の温度においてインキュベートされる。よの代わりに、2段階インキュベーションを実施してもよい。したがって、例えば、先ず、56℃で10分、その後80℃で5分間インキュベートすることも可能である。
【0028】
インキュベーション工程(iii)後、任意の工程(iv)において、核酸から細胞の不溶成分を分離するために、溶解混合物を遠心してもよい。しかしながら、このような工程は必ずしも必要とされない。前述のように、赤血球の溶解に磁気粒子が使用される場合、磁気粒子の持ち込みを避けるため、その後の検出反応のために溶解物を取り出す前に、磁気分離を実施してもよい。
【0029】
ビーズは混合物の中に残留していてもよいが、好ましくは、検出反応に持ち込まれてはならない。DNA及びRNAは、遊離形として溶解物の中に存在する。なぜならば、溶解物は、ビーズに対する核酸の結合を支持する特性をまったく持たないからである。
【0030】
さらなる工程(v)では、このようにして得られる核酸が、該核酸を増幅する方法によって増幅される。このような方法は当業者には周知であり、本発明用として限定されない。このような方法の好ましい例としては、ポリメラーゼ連鎖反応(PCR)、適切な場合、先行する逆転写を伴う反応(RT-PCR)がある。増幅は、特異的プライマーによって、又は、非特異的プライマーによって実施してもよい。特異的プライマーを用いることによって、遺伝物質から、一つ以上の特異的遺伝子配列(単数又は複数)を増幅することが可能であり、或いは、国際標準による特異的プライマーを用いると、遺伝子フィンガープリントを生成することが可能である。さらに、未知の試料の起源を探求するために該未知の試料と既知の試料を比較するとき、非特異的プライマーを使用することも可能である。
【0031】
本方法のために使用される成分は、本法の実施を単純化するキットの形態で提供されてもよい。このようなキットは、少なくとも溶解溶液(A)、又はその出発材料、すなわち、成分(a)、(b)及び(c)、及び、適切な場合、低い塩濃度を有するバッファー、及び、どのようなやり方で、どんな比率で上記成分を混ぜ合わせるべきかに関する指示書、及び、好ましくは、溶解バッファー(B)、又は、溶解する細胞又は汚染成分が吸着又は結合する固体表面を含む。さらに、キットは、PCRを実施するために適切な成分を含んでもよい。
【0032】
本方法の利点は、細胞混合物から、又は、遺伝物質を有する細胞と汚染成分との混合物から、遺伝物質を、増幅法に直接使用することができる品質において、数工程で取得することが可能であることである。これによって、例えば、法医学、人物の特定、又は遺伝物質について、その材料が得られた人物に対して、その材料を含む試料を割り当てる試みにおいて、種々の、大量試料中に存在する遺伝物質を調べるためにそれらの試料の同時的処理が可能とされる。
【0033】
本明細書に記載される方法のさらなる利点は、実行される処理工程がごく僅かであるために、試料の汚染を最小レベルに維持することが可能であることである。なぜなら、特に、試料の全体処理が同じ容器の中で行われるため、分析される試料の移動が不要とされるからである。
【実施例】
【0034】
実施例1:遠心を伴う2工程法における血液プロトコル
血液は、赤血球溶解バッファーによって処理され、それによって、赤血球は直ちに溶解する。白血球、又はその核及び/又はミトコンドリアは、遠心によって沈殿される。沈殿物は、洗浄後、溶液(A)によって溶解される。溶解産物は、PCR反応に直接使用することができる。
【0035】
上記を実際に行う場合、200μLの血液を、600μLの赤血球溶解バッファー(106mMスクロース、16mM Tris/Cl pH 7.5、1.6mM MgCl2、0.33%トリトンX-100(Triton X-100))と共に、1.5 mlの反応マイクロ容器に入れる。容器を密閉した後、液体成分を混合するために該容器を5回反転させる。次に、容器を、10 000×gで20秒遠心し、上清を捨てる。沈殿物を、400μLの洗浄バッファー(80mMスクロース、12.5mM Tris/Cl pH 7.5、1.25mM MgCl2、0.25%トリトンX-100(Triton X-100))に再懸濁し、遠心(20秒、10 000×g)によって再び沈殿させる。次に、沈殿物を溶液(A)に再懸濁し、エッペンドルフ・サーモフィキサー(Eppendorf Thermofixer)において、80℃、1400rpmで5分間インキュベートする。溶解産物が調製され、PCRに直接使用することができる。
【表1】

【0036】
定量PCR(ヒトH18遺伝子に対して特異的)
H18-特異的リアルタイムPCRを実施した。そのために、12.5μLのキアゲン・クオンチテクト・プローブ・ピーシーアール・マスターミックス(QIAGEN QuantiTect Probe PCR Mastermix)、0.10μLのH18フォワード・プライマー(100μM)、0.10μLのH18リバース・プライマー(100μM)、0.05μLのH18プローブ(100μM)、8.75μLの再蒸留水、及び4.0μLの溶解物アリコートを用いた。温度サイクルは、95℃で15分、及び40×(95℃で15秒、60℃で1分)である。増幅は、各場合において、4個の別々の核酸調製物から得られる溶出液について行った。
【0037】
結果
図1のリアルタイムPCRの結果は、本法の働きがきわめて優れていることを明瞭に示す。溶液(A)の組成に関する一側面は、pH範囲の維持にあるようである。バッファリングされていない溶液(A)の変形(A3)の場合、結果は顕著に劣悪なものとなるが、一方、pH 10.5(A4)では、結果は顕著に改善する。
【0038】
実施例2:マグビーズ(MagBeads)による2工程法における血液プロトコル
血液は、カルボキシル化表面を有する磁気粒子を同時に含む、赤血球溶解バッファーによって処理される。赤血球は直ちに溶解するが、白血球、又はその核及び/又はミトコンドリアは、磁気粒子に結合し、磁気分離によって濃縮される。磁気粒子に結合する細胞/細胞分画を洗浄した後、それらは溶液(A)によって溶解される。磁気分離後、溶解産物は、PCR反応に直接使用することができる。キアゲン・ブラッド・ミニ・プロトコル(QIAamp Blood Mini Protocol)(キアゲン・ジーエムビーエイチ(QIAGEN GmbH);ヒルデン(Hilden))を、マニュアルの説明の通り、比較手順にならって実施した。
【0039】
上記を実際に行う場合、200μLの血液を、600μLの赤血球溶解バッファー(106mMスクロース、16mM Tris/Cl pH 7.5、1.6mM MgCl2、0.33%トリトンX-100(Triton X-100))、及び、60μLのカルボキシル化磁気粒子(50mg/mL)と共に、1.5mLの反応マイクロ容器に入れる。次に、容器を、エッペンドルフ・サーモフィキサー(Eppendorf Thermofixer)において、1400rpmで5分間振とうさせる。チューブを磁気分離ラックに納め、磁気粒子が完全に分離された後、上清を捨てる。500μLの洗浄バッファー(80mMスクロース、12.5mM Tris/Cl pH 7.5、1.25mM MgCl2、0.25%トリトンX-100(Triton X-100))の添加後、磁気沈殿物を、短時間ボルテックスすることにより再懸濁し、磁気分離後、再び上清を捨てる。次に、沈殿物を、75μLの溶液(A) (0.1%PVP、0.45%ツイーン-20(Tween-20)、0.45% NP-40、10mM Tris/Cl pH 7.5、1mM EDTA)、及び0.5μLのプロテイナーゼKに再懸濁し、エッペンドルフ・サーモフィキサー(Eppendorf Thermofixer)において、80℃、1400 rpmで5分間インキュベートする。分解産物が整えられ、直ちにPCRに使用することが可能である。チューブは、磁気粒子のPCRへの転送を避けるため、吸引前に磁気分離ラックに収められることが好ましい。
【0040】
定量PCR(β-アクチン遺伝子に対して特異的)
β-アクチン特異的リアルタイムPCRを、12.5μLのキアゲン・クアンチテクト・プローブ・ピーシーアール・マスターミックス(QIAGEN QuantiTect Probe PCR Mastermix)、0.10μLのβ-アクチン・フォワードプライマー(100μM)、0.10μLのβ-アクチン・リバースプライマー(100μM)、0.05μLのβ-アクチンプローブ(100μM)、8.75μLの再蒸留水、及び4.0μLの溶解物アリコートを用いた。温度サイクルは、95°Cで15分、及び40×(95°Cで15秒、60°Cで1分)である。増幅は、各場合において、4個の別々の核酸調製物から得られる溶出液について行った。
【0041】
結果
調製されるDNAの濃度は、キアアンプ(QIAamp)-精製試料とほぼ等しい。定量濃度の変動は、血液ドナー、及び、使用した種々の抗凝固剤を含む血液収集チューブによって引き起こされるもので、「正常」と考慮できる。本手順の時間的利点を別にしても、本発明の背景の範囲において提案される本方法は、確立された参照方法とほぼ等しい結果を与える。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
異なる細胞の混合物又は細胞及び汚染成分の混合物を含む生物試料からの核酸を分析する方法であって、遺伝物質を含有する細胞が存在し、以下を特徴とする方法:
(i)核酸含有細胞を濃縮すること;
(ii)工程(i)の細胞を、少なくとも以下の成分を含む溶解溶液(A)と接触させること:(a)少なくとも一つの非イオン性界面活性剤、(b)結合剤及び増粘剤として働く少なくとも一つのポリマー;
(iii)試料を溶解溶液中でインキュベートすること;
(iv)適切な場合に、溶解混合物を遠心すること;
(v)続いて直ちに核酸を増幅する方法を実施すること、但し、工程(ii)と工程(v)との間での核酸の精製を必要としない。
【請求項2】
溶解溶液(A)が、(c)プロテイナーゼをさらに含むことを特徴とする、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
溶解溶液(A)が、(d)2価陽イオンのキレート剤をさらに含むことを特徴とする、請求項1に記載の方法。
【請求項4】
溶解溶液(A)が、pHが7.5から10.5となるように(e)バッファー物質をさらに含むことを特徴とする、請求項1に記載の方法。
【請求項5】
工程(iii)におけるインキュベーションが、少なくとも60℃、好ましくは少なくとも70℃、及び特に好ましくは75℃から80℃で実施されることを特徴とする、請求項1又は2に記載の方法。
【請求項6】
生物試料の細胞を溶解するための溶解溶液(A)であって、(a)少なくとも一つの非イオン性界面活性剤、(b)結合剤として働く少なくとも一つのポリマー、及び(c)少なくとも一つのプロテイナーゼ、好ましくは耐熱性プロテイナーゼを含む、溶解溶液。
【請求項7】
溶液(A)における成分(a)が、ツイーン(Tween)、タージトル(Tergitol)、トリトンX100(Triton X 100)、ノニデット(Nonidet)、P40、ブリッジ58(Brij58)から選択されることを特徴とする、請求項1から4のいずれか1項に記載の方法又は溶液。
【請求項8】
溶液(A)における成分(b)が、ポリビニルピロリドン、ポリオキサゾリン、ポリエチレングリコール、ポリビニールアルコール、ルビテック(Luvitec)から選択されることを特徴とする、請求項1から5のいずれか1項に記載の方法又は溶液。
【請求項9】
溶液(A)におけるプロテイナーゼ(c)が、プロテイナーゼKであることを特徴とする、請求項2から6のいずれか1項に記載の方法又は溶液。
【請求項10】
工程(i)において、核酸含有細胞が以下によって濃縮されることを特徴とする、請求項1から7のいずれか1項に記載の方法:不要細胞の溶解又は破壊;核酸含有細胞又は汚染成分が吸着又は結合する表面の添加;遠心;ろ過;沈殿;解剖;選択、又は複数のこれらの方法の組合せ。
【請求項11】
生物試料が全血、軟膜、血液及び尿の混合物、糞便、リンパ又は組織又は血液検査カードからのパンチディスクであり、かつ工程(i)において濃縮される核酸含有細胞が白血球であることを特徴とする、請求項1から8のいずれか1項に記載の方法。
【請求項12】
核酸の増幅が、PCR又はRT−PCRによって実施される、請求項1から9のいずれか1項に記載の方法。
【請求項13】
請求項1から10のいずれか1項に記載の方法を実施するためのキットであって、少なくとも一つの溶解溶液(A)、又はその成分(a)、(b)及び(c)を含む、キット。
【請求項14】
溶解バッファー(B)、又は溶解される細胞若しくは汚染成分が吸着又は結合する固体表面をさらに含む、請求項11に記載のキット。

【図1】
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【図2】
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【公表番号】特表2011−527185(P2011−527185A)
【公表日】平成23年10月27日(2011.10.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−516979(P2011−516979)
【出願日】平成21年6月6日(2009.6.6)
【国際出願番号】PCT/EP2009/004078
【国際公開番号】WO2010/003493
【国際公開日】平成22年1月14日(2010.1.14)
【出願人】(599072611)キアゲン ゲゼルシャフト ミット ベシュレンクテル ハフツング (83)
【Fターム(参考)】