説明

混気ジェット噴射装置及びその方法

【課題】 鋼構造物や鋼材等の金属材料を対象とする場合であっても、錆を発生させることなく、対象物の表面処理や洗浄を行うことができる混気ジェット噴射装置及びその方法を提供することを目的とする。
【解決手段】 先端にジェットノズル8を有する混気ジェッター2と、この混気ジェッター2に窒素ガスを高圧で供給する窒素ガスボンベ3と、混気ジェッター2に液体を高圧で供給する高圧ポンプ5とによって構成され、窒素ガス置換によって溶存酸素濃度が低減された液体を、ジェットノズル8から液滴化状態で噴射できるように構成した。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、液体と気体を混合した混気ジェットを被処理物に対して噴射し、被処理物の表面改質や洗浄などを行う混気ジェット噴射方法及びそのための装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、鋼構造物や鋼材の塗装前素地調整、或いは、摩擦接合面処理として、ブラスト施工が行われている。ブラストの方式としては様々なものがあり、大別すると、乾式ブラストと湿式ブラストとがある。これらのうち、乾式ブラストには、遠心式ブラスト(回転するディスクの遠心力によって研削材を投射する方式)と、エアーブラスト(圧縮空気の流れに研削材を供給し、ノズルから噴射する方式)とがある。
【0003】
一方、湿式ブラストには、ウォータージェットブラスト(高圧水に研削剤を加えてジェット水流として噴射する方式)や、混気ジェッターへ圧縮エアー、水(高圧水)、及び、研削材を供給し、高圧水によって水を液滴化させ圧縮エアーと研削材を液滴化状態の水と共に吹き付ける混気ジェットブラストがある(例えば、特開2002−79145号公報)。
【0004】
また、ジェット洗浄装置には、ウォータージェット洗浄装置(高圧水をジェット水流として噴射する方式)や、混気ジェッターへ圧縮エアー、及び水(高圧水)を供給し、高圧水によって水を液滴化させ圧縮エアーを液滴化状態の水と共に吹き付ける混気ジェット洗浄装置がある(例えば、特開2002−79145号公報)。
【0005】
【特許文献1】特開2002−79145号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
乾式ブラストは、施工時に粉塵が飛散するため、施工に際しては粉塵の飛散に対処するための手段が必要となる。一方、湿式ブラストは、水噴射流に研削材を添加するため、粉塵の飛散を防止することができる。しかしながら、水が使用されるため、鋼構造物や鋼材等の塗装前処理に適用しようとする場合には、錆が発生する可能性があり、この場合、塗装前素地調整等の要求品質が得られないという問題がある。
【0007】
尚、湿式ブラストにおける防錆対策として、インヒビター(腐食抑制剤)を使用する(水に混入する)という方法も適用されているが、毒性があるため、施工時において適切に回収することが必要となる。また、乾燥後、施工面にはインヒビターが皮膜の状態で残留することになるため、その後に実施される塗装工程に悪影響を及ぼす可能性がある。従って、湿式ブラストを、鋼材等の塗装前素地調整に適用しようとする場合においては、インヒビターの使用には問題がある。
【0008】
また、「使用される水の溶存酸素濃度が高いこと」が、錆の原因であるため、既知の溶存酸素低減法を適用して、湿式ブラストに使用する水の溶存酸素濃度を低下させれば、錆を防止することができる、とも考えられるが、従来の湿式ブラスト装置に溶存酸素低減法を適用しようとする場合、実用性の面で様々な障害があり、実用化は困難であった。
【0009】
より具体的に説明すると、既知の溶存酸素低減方法のうち、最も効率が良いとされる「窒素ガス置換法」は、タンク内の水に窒素ガスをバブリングし、攪拌機を用いて10分以上攪拌することによって、溶存酸素を窒素ガスと置換する、というものであるが、この方法は、作業工程に時間がかかるという問題があり、また、ブラスト作業中に水を使い切ってしまった場合、ブラスト作業を中断し、新たに溶存酸素を低減させた水を用意しなければならず、ブラスト作業を連続的に行うことができないという問題がある。
【0010】
また、従来のジェット洗浄装置において、鋼材等の汚れ、油等を洗浄したり、表面塗装を剥離する場合等においても、エアーと水が混在するため溶存酸素が高く、洗浄後の被処理物の表面に錆が発生しやすいという問題がある。
【0011】
本発明は、このような従来技術の問題点を解決すべくなされたものであって、鋼構造物や鋼材等の金属材料を対象とする場合であっても、錆を発生させることなく、対象物の表面処理や洗浄を行うことができる混気ジェット噴射装置及びその方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明の混気ジェット噴射装置は、先端にジェットノズルを有する混気ジェッターと、この混気ジェッターに窒素ガスを高圧で供給する窒素ガス供給手段と、この混気ジェッターに液体を高圧で供給する高圧液体供給手段とによって構成され、窒素ガス置換によって溶存酸素濃度が低減された液体を、ジェットノズルから液滴化状態で噴射できるように構成されていることを特徴としている。
【0013】
尚、この混気ジェット噴射装置は、窒素ガス供給手段から混気ジェッターに窒素ガスを供給するガス供給通路に、研削材を供給する研削材供給手段が接続されるように構成することもできる。
【0014】
本発明の混気ジェット噴射方法は、先端にジェットノズルを有する混気ジェッターに、窒素ガス供給手段から高圧の窒素ガスを供給するとともに、高圧液体供給手段から高圧の液体を供給して窒素ガスと液体を混気することにより、液体の溶存酸素濃度を窒素ガス置換によって低減し、ジェットノズルから窒素ガスと液体を液滴化状態で噴射することを特徴としている。
【0015】
尚、この混気ジェット噴射方法においては、窒素ガス供給手段から供給される窒素ガス中に研削材を供給するようにしてもよい。
【発明の効果】
【0016】
本発明の混気ジェット噴射装置は、鋼構造物や鋼材等の金属材料を対象とする場合であっても、錆を発生させることなく、対象物の表面処理や洗浄を行うことができる。
【0017】
また、本発明の混気ジェット噴射方法によれば、鋼構造物や鋼材等の金属材料を対象とする場合であっても、錆を発生させることなく、対象物の表面処理や洗浄を行うことができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
以下、本発明の好適な実施形態について説明する。図1は、本発明に係るジェットブラスト装置1の構成図である。図示されているように、このジェットブラスト装置1は、混気ジェッター2、窒素ガスボンベ3、液体タンク4、高圧ポンプ5、及び、研削材供給装置6によって構成されている。
【0019】
混気ジェッター2は、先端に混気ジェットノズル8を有しており、この混気ジェッター2には、窒素ガスが、窒素ガスボンベ3から所定の圧力(0.5MPa)でガス供給通路21を介して供給されるようになっており、更に、液体タンク4内に貯留されている水又は水道水が、液体供給通路22に設けられた高圧ポンプ5を介して高圧で供給されるようになっている。
【0020】
また、研削材供給装置6は、下方に定量送り装置7を有しており、内部に収容されている研削材(砂等)が、研削材供給通路23を介して窒素ガスの供給通路21から窒素ガスと共に混気ジェッター2へ定量的に供給されるようになっている。
【0021】
混気ジェッター2に供給された高圧水は、図2(図1に示した混気ジェッター2の内部構造を示す図)に示すように、混気ジェッター2の内部空間に設けられた液体ノズル2aから高速で混気室2bに噴射され、同様に混気ジェッター2内に流入した高圧窒素ガスが気体ノズル2cから高速で混気室2bに噴射されることによって、水は液滴化されることになる。そして、混気ジェットノズル8の先端8bからは、液滴化状態の水、研削材、及び、窒素ガスが、前方に向けて噴射されることになる。
【0022】
このようにして混気ジェットノズル8から研削材等を噴射させ、施工対象面に向けて吹き付けることにより、施工対象物についての塗装前素地調整等を目的とする混気ジェットブラスト施工を行うことができる。
【0023】
ところで、鋼材などの金属材料に水を接触させると、水の中の溶存酸素によって錆が発生することになるため、前述したように、従来は湿式ブラストを鋼材等の塗装前処理に適用することは困難であった。しかし、本発明に係るジェットブラスト装置1を使用した場合、錆を発生させることなく、鋼材等を対象として混気ジェットブラスト施工を行うことができる。
【0024】
この点について詳細に説明すると、図2に示したように、混気ジェッター2の混気室2b内には、水と共に窒素ガスが高圧で流入することになるため、混気室2b内において液滴化状態となった水は、高圧窒素ガスの雰囲気に晒されることになり、これによって「窒素ガス置換」が行われることになる。従って、混気室2b内への流入前においては、酸素が水の中に高濃度で溶存していた場合であっても、混気室2b内において「窒素ガス置換」が行われることによって、液滴内の溶存酸素濃度は瞬間的に低減することになる。
【0025】
このように、本発明に係るジェットブラスト装置1を使用して混気ジェットブラスト施工を行った場合、施工対象物に吹き付けられる水の溶存酸素濃度が低減されているため、施工対象物が鋼材等の金属材料であったとしても、錆の発生を有効に回避することができる。また、「窒素ガス置換」は、瞬間的に、かつ、連続的に行われるので、使用される水の溶存酸素低減処理のために、ブラスト作業が中断されるというような事態を好適に回避することができ、ブラスト作業を効率よく実施することができる。
【0026】
図3は、本発明に係るジェット洗浄装置11の構成図である。図示されているように、このジェット洗浄装置11は、混気ジェッター2、窒素ガスボンベ3、液体タンク14、及び、高圧ポンプ5によって構成されており、図1に示したジェットブラスト装置1とは異なり、ジェットブラストを行うための装置ではなく、主として金属材料を対象とするジェット洗浄に使用されるものである。
【0027】
従って、図1のジェットブラスト装置1のように、研削材供給装置6は構成に含まれておらず、また、液体タンク14には洗浄液(洗剤、或いは、水)が貯留されている。つまり、混気ジェットノズル8からは、液滴化状態の洗浄液、及び、窒素ガスが噴射されるようになっている。
【0028】
その他の点(混気ジェッター2の構造、窒素ガスの供給圧力、高圧ポンプ5の性能等)は、図1のジェットブラスト装置1と共通しており、供給される洗浄液は、混気ジェッター2内において「窒素ガス置換」が行われ、溶存酸素濃度が低減された状態で、混気ジェットノズル8から噴射されることになる。従って、本発明に係るジェット洗浄装置11を使用してジェット洗浄を行った場合、施工対象物が鋼材等の金属材料であったとしても、錆の発生を有効に回避することができる。
【0029】
尚、「窒素ガス置換」を行った場合、水或いは洗浄液の溶存酸素濃度は、少なくとも20分程度は上昇せずに低濃度のまま維持されるが、20分を経過すると、溶存酸素濃度が上昇し、錆が発生する可能性がある。従って、湿式ブラスト施工、或いは、ジェット洗浄を行うことによって施工対象面に付着、残留した水分は、圧縮エアー等により、施工後20分以内に除去することが望ましい。
【図面の簡単な説明】
【0030】
【図1】本発明のジェットブラスト装置1の構成図。
【図2】図1に示した混気ジェッター2の内部構造を示す図。
【図3】本発明のジェット洗浄装置11の構成図。
【符号の説明】
【0031】
1:ジェットブラスト装置、
2:混気ジェッター、
2a:液体ノズル、
2b:混気室、
2c:気体ノズル、
3:窒素ガスボンベ、
4,14:液体タンク、
5:高圧ポンプ、
6:研削材供給装置、
7:定量送り装置、
8:混気ジェットノズル、
8b:先端、
11:ジェット洗浄装置

【特許請求の範囲】
【請求項1】
先端にジェットノズルを有する混気ジェッターと、この混気ジェッターに窒素ガスを高圧で供給する窒素ガス供給手段と、この混気ジェッターに液体を高圧で供給する高圧液体供給手段とによって構成され、
窒素ガス置換によって溶存酸素濃度が低減された液体を、前記ジェットノズルから液滴化状態で噴射できるように構成されていることを特徴とする混気ジェット噴射装置。
【請求項2】
前記窒素ガス供給手段から混気ジェッターに窒素ガスを供給するガス供給通路に、研削材を供給する研削材供給手段を備えたことを特徴とする、請求項1に記載の混気ジェット噴射装置。
【請求項3】
先端にジェットノズルを有する混気ジェッターに、窒素ガス供給手段から高圧の窒素ガスを供給するとともに、高圧液体供給手段から高圧の液体を供給して窒素ガスと液体を混気することにより、液体の溶存酸素濃度を窒素ガス置換によって低減し、前記ジェットノズルから窒素ガスと液体を液滴化状態で噴射することを特徴とする混気ジェット噴射方法。
【請求項4】
前記窒素ガス供給手段から供給される窒素ガス中に研削材を供給することを特徴とする、請求項3に記載の混気ジェット噴射方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2006−123141(P2006−123141A)
【公開日】平成18年5月18日(2006.5.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−318043(P2004−318043)
【出願日】平成16年11月1日(2004.11.1)
【出願人】(000200367)川田工業株式会社 (41)
【出願人】(393028357)シブヤマシナリー株式会社 (77)