説明

混注管

【課題】 シール弁をスムーズに開放することができ、しかも液漏れの発生を確実に防止できる混注管を提供する。
【解決手段】 管本体10に主流路2を形成し、主流路2から分岐した分岐流路3にシール弁30を配置する。シール弁30に、管本体10とキャップ部材20との間に密着保持されたベース部31と、ベース部31より主流路2から離反する方向に立ち上がり、上方ほどない径方向に漸次変位させた起立部32と、起立部32の内径側に設けられ、シール開放部材と当接可能であり、かつスリット34を有する弁部33とを設ける。また、管本体10に、主流路2から離反する方向に突出し、かつシール弁30の内周面と密着する突出部17を設ける。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、点滴や人工透析等に際し、シリンジ等の器具を取り付けて流体(血液や薬液等)の抽出・注入、あるいは各種測定を行う混注管に関する。
【背景技術】
【0002】
混注管としては、例えば図6に示す構成が公知である(例えば特許文献1参照)。この混注管は、血液や薬剤等の流体が流れる主流路102と、主流路102から分岐した分岐流路103とを備えている。主流路110は、両端に輸液配管4,5を接続した中空状の管本体110の内空部に形成される。分岐流路103にシリンジ等を接続することで、主流路102を流れる流体を外部に抽出したり、主流路102を流れる流体に薬剤等を注入することができる。分岐流路103には、常時は分岐流路103を閉塞し、シリンジ等の器具を装着した際に分岐流路103を開放するシール弁130が配置される。シール弁130は、液漏れを起こさないように、管本体110に設けた支持部116と、管本体110に取付けたキャップ部材120との間に密着保持されている。
【0003】
シール弁130は、ゴム等の弾性材料にスリット134を形成した構造である。図7に示すように、混注管にシリンジ141を装着すると、シリンジ141に押し込まれたシール開放部材144がシール弁130のスリット134を押し開き、これによりシリンジ141への流体の抽出、あるいはシリンジ141からの薬液の注入が可能となる。シリンジ141をキャップ部材120から抜くと、シール弁130の弾性復元力で瞬間的にシール弁130が閉じ、流体の漏れが防止される。
【特許文献1】特開2003−154017号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、図6および図7に示す従来の混注管では、シール弁のスリットの内面同士が強く密着しているため、シール開放部材144をシール弁130に押し込んでも、シール弁130が変形するだけで、スリット134がスムーズに開放されず、流体の抽出・注入に支障を来す場合があった。また、シール弁130と管本体110の支持部116との間の密着度が不充分となり、使用条件によっては液漏れを生じる場合があった。
【0005】
そこで、本発明ではシール弁をスムーズに開放することができ、さらに好ましくは液漏れの発生を確実に防止することができる混注管の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記目的の達成のため、本発明は、管本体に形成された主流路と、主流路から分岐した分岐流路と、分岐流路に配置されたシール弁と、管本体に形成され、シール弁を支持する支持部と、支持部との協働でシール弁を密着保持するキャップ部材とを有し、シール開放部材をシール弁に押し当てることでシール弁を開放する混注管において、シール弁に、支持部とキャップ部材との間に密着保持されたベース部と、ベース部より主流路から離反する方向に立ち上がった起立部と、起立部の内径側に設けられ、シール開放部材と当接可能であり、かつスリットを有する弁部とを設けたことを特徴とする。
【0007】
かかる構成において、シール開放部材をシール弁の弁部に押し当てると、その変形力がシール弁の起立部と弁部とに集中的に作用し、両者がシール開放部材の形状に倣って変形する。この変形部分は、起立部がベース部より主流路から離反する方向に立ち上がった形状である関係上、当初は全体として上(主流路から離反する方向)に凸の形状であるが、変形後は、シール開放部材の形状に倣って下(主流路に接近する方向)に凸の形状となる。そのため、変形後は、弁部の下側でスリットの間隙を拡大させる方向の大きな引張力が作用させることができ、これによりシール開放部材の押し込み後、早い段階で弁部のスリット幅を拡大させてシール弁を確実に開放させることができる。
【0008】
また、管本体の支持部に、主流路から離反する方向に突出し、かつシール弁の内周面と密着する突出部を設けることにより、シール弁が支持部のみならず突出部に対しても密着した状態となるので、シール弁の管本体に対する密着面積が増す。また突出部は、ベース部の表面と支持部の表面との間の隙間に入り込もうとする流体に対する障壁となる。従って、管本体とシール弁との間の隙間からの液漏れを確実に防止することができる。加えて、シール弁の起立部が突出部の先端を折り返し点として屈曲変形するので、起立部や弁部の変形度合いが大きくなり、スリット周辺に作用する引張力を大きくしてシール弁の開放性を高めることができる。
【0009】
弁部のスリットを含む主流路側の面に、主流路に向けて膨らんだ凸状面を設けることにより、シール弁の閉鎖中は、主流路で生じる流体の内圧によって、凸状面が平面的な形状に変形しようとする。従って、弁部にスリットを閉じる方向の圧縮力を作用させることができ、凸状面の部分を平面状に形成した場合に比べてスリットが開きにくくなる。そのため、シール弁が内圧によって開放される事態を防止し、混注管の耐圧性を向上させることができる。その一方、弁部をシール開放部材で押圧した際には、スリットの両側にこれを離反させる方向の曲げモーメントが作用するので、より確実にシール弁を開放状態に切替えることができる。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、シール開放部材をシール弁に押し当てることにより、シール弁の弁部でスリットの間隙を拡大させる方向の引張力を作用させることができる。従って、シール開放部材の押し込み後、早い段階で弁部のスリット幅を拡大させて開放することができ、シール弁の動作不良を確実に防止することができる。
【0011】
また、管本体の支持部に突出部を設けることにより、シール弁のベース部が支持部のみならず突出部に対しても密着状態となること、および突出部がベース部の表面と支持部の表面との間に入り込もうとする流体に対する障壁として機能することから、管本体とシール弁との間からの液漏れを確実に防止することができる。
【0012】
さらに、弁部の、スリットを含む主流路側の面に、主流路に向けて膨らんだ凸状面を設けることにより、混注管の耐圧性向上とシール弁の開放性の向上とを同時に達成することが可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
以下、本発明の実施の形態を添付図面を参照して説明する。
【0014】
図1に、本発明にかかる混注管の全体構造を示す。このうち、図1(a)は平面図であり、同図(b)は図1(a)中のB−B断面図であり、同図(c)は同じくC−C線断面図である。
【0015】
この混注管1は、主流路2と、主流路2から直角方向に分岐した分岐流路3とを備える。この主流路2および分岐流路3を形成するため、混注管1は、管本体10、キャップ部材20、およびシール弁30といった構成部品で組み立てられる。以下では、説明の便宜上、分岐流路3が主流路2から離反する方向を「上」とし、分岐流路3が主流路2に接近する方向を「下」として説明を進める。
【0016】
管本体10は、貫通孔11を有する中空筒体で、例えば樹脂の射出成形等で一体に成形される。管本体10の両端には、貫通孔11に輸液配管(図6の符号4,5)を接続するための接続部12a、12bが設けられる。接続部12a、12b間の中間部に、貫通孔11の内空部と管本体10の上面10aとにそれぞれ開口した分岐孔13が形成されている。管本体10の上面10aの外周縁部には、上方に突出する円筒部14が形成される。円筒部14は、その上端に外径方向へ突出した係止部15を有する。円筒部14よりも内径側の管本体10の上面10aには、一段低くなった環状の支持部16が形成され、さらにこの支持部16の内周縁部に、上方へ突出する円筒状の突出部17が形成されている。本実施形態では、突出部17として、内周面を円筒面状に形成すると共に、外周面を、外径寸法を上方ほど徐々に小さくした曲面状に形成したものを例示しているが、突出部の断面形状自体は任意である。突出部17の高さは、例えば支持部16の外径側に形成された管本体10の上面10aと同レベル、もしくはこれよりも高い位置に設定する。このように管本体10は、貫通孔11、分岐孔13、円筒部14、支持部16、および突出部17を有する複雑な形状であるが、上記のとおり樹脂の射出成形品とすることで、かかる複雑な形状の管本体10を精度良く低コストに一体成形することができる。
【0017】
キャップ部材20は、スリーブ部21とスリーブ部21の下端に形成されたフランジ部22とを備え、例えば樹脂の射出成形により一体成形される。スリーブ部21の外周面には、雄ねじ23が形成されている。フランジ部22の外径部には、軸方向に延び、かつ下方を開口させた環状凹部24が形成されている。環状凹部24の外周面には、内径方向に突出する凸部25が形成され、凸部25の最小内径寸法は、管本体10の円筒部14に形成した係止部15の最大外径寸法よりも小さくなっている。
【0018】
キャップ部材20を管本体10に装着する際には、環状凹部24に管本体10の円筒部14を挿入しながら、キャップ部材20を押し下げる。これにより、フランジ部22の環状凹部24よりも外径側の領域26が凸部25と係止部15の干渉で外径方向に押し広げられ、係止部15が凸部25を乗り越えると同時に前記領域26が内径側に弾性復帰し、キャップ部材20が管本体10に装着される。この際、凸部25と係止部15の軸方向係合により、キャップ部材20の抜け止めがなされる。
【0019】
シール弁30は、弾性材料、例えばシリコンゴムや天然ゴム等のゴム材料で一体形成され、円板状のベース部31と、ベース部31から管本体10の突出部17を超えて上方に立ち上がった起立部32と、起立部32の内径側に形成された弁部33とを具備している。図示例の起立部32は、ベース部31の内径端部から突出すると共に、ベース部31よりも薄肉であり、かつ上方ほど内径側に漸次変位させた傾斜状をなし、図示例ではその内面(主流路2側の面)および外面(主流路2と反対側の面)の双方を上に凸の部分球面状に形成している。起立部32の形状は、ベース部31の内径端部から突出した形で上方に立ち上がったものである限り任意で、図示例のように内面および外面の双方を球面状に形成する他、何れか一方又は双方を曲率を持たない傾斜状のストレートな面で形成することもできる。弁部33はリップ弁としして機能するもので、その中心にはスリット34が形成される。スリット34の上端には、図2に示すように、スリット34の開放を促進するための溝35形成されている。
【0020】
弁部33の上面の外径端には環状凸部36が形成されており、シリンジ41を分岐流路3に押し込んだ際には、この環状凸部36がシリンジ41の口部44先端と当接する(図3参照)。弁部33の下面には、スリット34の開口部を頂点とした下に凸の凸状面37が形成され、図示例では一例として部分球面状に形成した凸状面37を例示している。起立部32の下面32aと凸状面37は滑らかに繋がっている。
【0021】
このシール弁30は、ベース部31を支持部16と突出部17で区画された空間に収容した後、キャップ部材20を管本体10に装着することによって混注管1に組込まれる。キャップ部材20の装着により、シール弁30のベース部31が管本体10の支持部16、突出部17、およびキャップ部材20で形成される空間内で圧迫されて弾性変形し、ベース部31がこれら各部に密着する。
【0022】
以上の組立により、管本体10の貫通孔11で主流路2が形成され、管本体10に形成された分岐孔13とキャップ部材20のスリーブ部21の内部空間とで分岐流路3が形成される。シール弁30の弁部33は、分岐流路3の途中に配置された形となる。
【0023】
シール弁30を解除するシール開放部材としては、例えば図4に示す注射器40のシリンジ41を使用することができる。例示した注射器40は、注射針42を、押子43が挿入されたシリンジ41の口部44に対して螺合させることで装着可能にした所謂ツイストロック式のものである。この注射器40では、シリンジ41の口部44の周りにカラー45が形成され、このカラー45の内周に雌ねじ46が形成されている。注射器40は、注射針42を取り外したシリンジ41の状態で、混注管1の分岐流路3に装着される。
【0024】
シリンジ41を装着する前の状態では、図2に示すようにシール弁20のスリット34が閉鎖しているため、主流路2を流れる流体がシール弁30を越えて分岐流路3に流れ込むことはない。この際、弁部33の下面に下を凸とする凸状面37が形成されているため、シール弁20よりも主流路2側の空間を流体で満たした場合、その内圧によって、弁部33に形成した凸状面37が平面に変形しようとする。従って、弁部33の主として下部には、スリット34を閉じる方向の圧縮力が作用し、凸状面37を平面状に形成する場合に比べてスリットが開きにくくなる。そのため、内圧に対するシール弁30の耐圧性を向上させることができる。
【0025】
次に、混注管1の分岐流路3にシリンジ41を装着した場合を説明する。この場合、図3に示すように、シリンジ41の口部44がスリーブ部21の内径部に挿入され、シリンジ41のカラー45がスリーブ部21の外径部に配置される。さらに、カラー45の雌ねじ46をキャップ部材20の雌ねじ23と螺合させることにより、シリンジ41を混注管1に固定することができる。
【0026】
シリンジ口部44を弁部33に押し当ててシリンジ41を押し進めると、シール弁30の起立部32が突出部17の先端を折り返し点として屈曲変形する。さらにシリンジ41を押し進めると、起立部32が口部44の外周面と突出部17の内周面との間の隙間に巻き込まれ、起立部32から弁部33にかけての部分が口部44の先端形状に倣う形で変形する。変形前の起立部32および弁部33は、起立部32がベース部31から傾斜状に立ち上がっているため、全体としては上に凸の形状となっているが、変形後は全体として下に凸の形状に変形する。この場合、図5に示すように、弁部33の下側でスリット34の間隙を拡大させる方向の引張力F1が作用し、かつこの引張力F1は弁部33の上側で生じる引張力F2よりも大きくなる。この引張力F1,F2の差からスリット34の幅をスムーズに拡大させ、シール弁20を確実に開放状態に切り替えることが可能となる。特に本発明では、起立部32が突出部17の先端を折り返し点として屈曲変形するので、起立部32や弁部33の変形度合いを大きくすることができ、スリット周辺に作用する引張力を大きくすることができる。また、弁部33の下面に凸状面37を形成しているため、シリンジ41の押し込み時に弁部33のスリット両側に生じる曲げモーメントが互いに離反する方向に作用する。以上の構成から、シリンジ41をシール弁30に押し当てた後、早期にかつ確実にシール弁を開放させることができる。
【0027】
このようにしてシール弁30を開放させた後、主流路2を流れる流体(例えば血液)をシリンジ41に抽出し、あるいは主流路2を流れる流体(例えば薬液)に他の薬液を注入する。
【0028】
以上の構成では、シール弁30のベース部31は、管本体10の支持部16およびキャップ部材20のフランジ部22下面と密着するのみならず、突出部17の外周面とも密着する。この場合、管本体10とシール弁30の密着面積が増大すること、さらには突出部17が障壁となることから、支持部16の上面とベース部31の下面との間を伝わって生じる液漏れを確実に防止することができる。
【0029】
以上の説明では、注射器40としてツイストロック式のものを例示したが、注射器の構造は当該形式に限定されず、他の形式の注射器を使用することもできる。
【0030】
また、以上の説明では、注射器40のシリンジ口部44をシール開放部材として使用する場合を例示したが、シール開放部材としては他の部材を使用することもできる。例えば図6および図7に示す従来例と同様に、分岐流路3にシリンジ口部44とは別体の部材144を配置し、この部材144をシリンジ41の口部44で押し込んでシール弁30を開放することもできる。この他、配管端部に接続したコネクタを分岐流路3に接続する場合には、このコネクタをシール開放部材として使用することもできる。
【図面の簡単な説明】
【0031】
【図1】(a)図は、本発明にかかる混注管の平面図であり、(b)図は、(a)図中のB−B断面図であり、(c)図は、(a)図中のC−C線断面図である。
【図2】本発明にかかる混注管の拡大断面図である(シール弁閉鎖状態)。
【図3】本発明にかかる混注管の拡大断面図である(シール弁開放状態)。
【図4】ツイストロック式注射器の断面図である。
【図5】開放状態のシール弁を示す断面図である。
【図6】従来の混注管の断面図である(シール弁閉鎖状態)。
【図7】従来の混注管の断面図である(シール弁開放状態)。
【符号の説明】
【0032】
1 混注管
2 主流路
3 分岐流路
4 輸液配管
5 輸液配管
10 管本体
11 貫通孔
13 分岐孔
14 円筒部
16 支持部
17 突出部
20 キャップ部材
21 スリーブ部
22 フランジ部
30 シール弁
31 ベース部
32 起立部
33 弁部
34 スリット
40 注射器
41 シリンジ
44 口部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
管本体に形成された主流路と、主流路から分岐した分岐流路と、分岐流路に配置されたシール弁と、管本体に形成され、シール弁を支持する支持部と、支持部との協働でシール弁を密着保持するキャップ部材とを有し、シール開放部材をシール弁に押し当てることでシール弁を開放する混注管において、
シール弁に、支持部とキャップ部材との間に密着保持されたベース部と、ベース部より主流路から離反する方向に立ち上がった起立部と、起立部の内径側に設けられ、シール開放部材と当接可能であり、かつスリットを有する弁部とを設けたことを特徴とする混注管。
【請求項2】
管本体の支持部に、主流路から離反する方向に突出し、かつシール弁の内周面と密着する突出部を設けた請求項1記載の混注管。
【請求項3】
弁部の、スリットを含む主流路側の面に、主流路に向けて膨らんだ凸状面を設けた請求項1記載の混注管。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate