説明

混練判定システム

【課題】外部要因の影響による混練時間の違いを考慮した混練状態判定を行える混練判定システムを提供する。また、ステップ途中の混練波形の変化を考慮に入れた品質管理が可能な混練判定手段を提供する。
【解決手段】各ステップの混練状態判定において、入力混練波形における混練時間と、基準混練波形における混練時間の長さが異なる場合は、混練時間が同一の長さとなるように入力混練波形を変換する混練波形変換部130を備える。また、混練状態判定部120では、入力混練波形が基準混練波形に許容幅(判定幅)の範囲内にあるか否かに基づいて、ステップを単位として混練状態判定を行う。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、混練開始からの時間、及び、各時間における負荷、被混練物温度を含む混練データを入力する混練データ入力部と、正常な混練波形の基準として用いる基準混練波形を設定する基準混練波形設定部と、前記混練データ入力部から入力された混練データの混練波形である入力混練波形と前記基準混練波形とを比較して前記混練データに係る混練について混練状態を判定する混練状態判定部とを備える混練判定システムに関する。
【背景技術】
【0002】
混練における品質のバラツキの原因としては、例えば、原料投入量のバラツキ、配合種の間違い等の人為的ミスと、適切な混練が行われなかった混練不良とが考えられる。従来は、混練後に品質のバラツキを判定するためには、被混練物の物性の測定や、計量値による比重の確認等が行われていた。
【0003】
しかしながら、上記のような混練ゴムの物性や計量値、比重を確認する方法は、判定に時間が掛かる上、混練時のどの工程において異常が生じたかを把握できず、原因の追究を行えない等の問題がある。
【0004】
そこで、混練ゴムの品質の安定化を図る方法として、混練のステップ毎の時間、温度、あるいは積算電力を測定し、これらが目標値に到達した時点をもって混練を完了とする自動運転管理や、直近の正常時の混練波形から平均の基準波形を作製して制御装置に入力し、ゴム混練時における各混練バッチの波形の変化を前記制御装置に入力して、正常時の基準波形と照合し、混練の異常判定を行う方法が用いられている(例えば、特許文献1、特許文献2参照)。
ここでいう「混練バッチ」とは、一の被混練物に対して、その混練開始から混練完了品として取り出し可能な混練終了までをいい、通常、複数ステップを含んでいる。そして、各ステップで時間、温度、積算電力を管理することで、被混練物に与えた混練エネルギー、被混練物の熱履歴等を管理することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平06−344334号公報
【特許文献2】特開平06−344335号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
混練を時間で管理した場合(所定の目標時間だけ混練するものとした場合)は、気温や装置の冷却水の温度の違い等の外部要因の影響によって、実際に被混練物に付与されるエネルギーが異なる場合があり、バラツキのない好ましい混練が行われるとは言い難い。
また、混練を被混練物温度で管理した場合(所定の被混練物温度となるまで混練するものとした場合)は、気温や装置の冷却水の温度の違い等の外部要因による影響を大きく受けることになる。すなわち、これらの外部要因の影響により実際の混練時間と目標とする混練時間とは異なる場合があるが、基準波形との照合による混練状態判定では、混練異常の有無を正確に判断できない。
【0007】
そこで、混練制御の条件として積算電力量(被混練物に付与する動力量)が用いられることがある。しかし、所定の積算電力量だけ混練を行うことに基づいて制御を行った場合も、気温や冷却水温度等の外部要因の影響により、その積算電力量に到達する時間が基準とする時間とは異なる場合があり、同様に、混練異常の有無を正確に判断できない。
さらに、一般に混練作業時の負荷電力は時間に対して一様に変化せず、ステップ途中で大きく変化する場合が多く、また、ステップ中にその変化を経ることが品質上重要な意味を持つことが多いが、積算電力による制御では、ステップ途中の負荷電力の変化を考慮しないため、ステップ途中で異常が発生しても最終的に目標値に到達すれば異常と判定されることはなく、品質管理上、十分な信頼性を持った品質管理方法とは言えなかった。
【0008】
本発明の目的は、上記従来の混練判定方法及び制御方法の有する問題点に鑑み、外部要因の影響による混練時間の違いを考慮した混練状態判定を行える混練判定システムを提供することにある。また、従来は検出していなかったステップ途中の混練波形の変化を考慮に入れた品質管理が可能な混練判定システムを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記目的を達成するための本発明に係る混練判定システムは、混練開始からの時間、及び、各時間における負荷、被混練物温度を含む混練データを入力する混練データ入力部と、正常な混練波形の基準として用いる基準混練波形を設定する基準混練波形設定部と、前記混練データ入力部から入力された混練データの混練波形である入力混練波形と前記基準混練波形とを比較して、その乖離により前記混練データに係る混練について混練状態を判定する混練状態判定部とを備える混練判定システムであって、その特徴構成は、前記混練状態判定部が、混練条件毎に混練工程を区分したステップを単位として混練状態を判定する構成とされ、各ステップの混練状態の判定において、前記入力混練波形において混練に要した時間である入力混練時間と、前記基準混練波形において混練に要した時間である基準混練時間との長さが異なる場合は、前記入力混練時間と前記基準混練時間とが同一の長さとなるように前記入力混練波形を変換する混練波形変換部を備える点にある。
【0010】
すなわち、上記の特徴構成によれば、例えば、被混練物の追加投入や回転速度の変更等により混練条件が異なる場合に、それらの混練条件毎に混練工程を区分したステップを単位として混練状態判定を行う。また、各ステップの混練状態の判定において、実際の混練に要した時間である入力混練時間の長さと、正常な混練波形の基準である基準混練波形において混練に要した時間である基準混練時間の長さが異なる場合は、前記入力混練時間と前記基準混練時間とが同一の長さとなるように前記入力混練波形を変換した上で、基準混練波形と比較して、その乖離により混練状態判定を行う。
上記のように、ステップを単位とした混練状態判定を行うことにより、混練状態がどの程度、基準となる混練状態に近いかを判定することができるとともに、混練に問題があるとする場合に、どのステップにおいて混練異常が発生したかを把握することができる。また、例えば、前記入力混練波形において、気温や装置の冷却水の温度の違い等の外部要因の影響により、ステップ終了条件(温度、電力等の目標値到達)に到達するまでの時間に差が生じ、入力混練時間が基準混練時間と異なった場合には、入力混練波形を基準混練波形と同じ時間幅の波形に変換した上で基準混練波形に基づいた混練状態判定を行うため、これらの外部要因の影響を除外した混練状態判定を行うことができる。
【0011】
本発明に係る混練判定システムの更なる特徴構成は、前記基準混練波形設定部において、前記基準混練波形からの判定幅として、前記基準混練波形に上限及び下限を設定できる点にある。
【0012】
すなわち、上記の特徴構成によれば、前記基準混練波形に上限及び下限を設定できるため、正常な混練が行われたと判断される混練の合格ラインに許容幅を持たせることができる。
また、混練機稼動時に、入力混練波形がステップ全般にわたって合格ラインの許容幅を外れることがなく混練が完了したかを判定すれば、発生すべきピークが発生していない等のステップ途中での異常発生についても判定を行うことができる。これにより、従来は検出していなかったステップ途中の混練波形の変化を考慮した混練の品質管理を行うことができるようになり、十分な信頼性を持った品質管理方法を提供することができる。
【0013】
本発明に係る混練判定システムの更なる特徴構成は、前記基準混練波形からの判定幅として設定した前記基準混練波形の前記上限及び前記下限を、設定した1つの基準混練波形を基準として、該基準混練波形に対する混練データの増減率であるゲイン幅、混練データの増減量であるオフセット幅、時間軸方向への増減量である時間オフセット幅、の1種以上に基づいて設定することができる点にある。
【0014】
すなわち、上記の特徴構成によれば、混練の合格ラインの許容幅である前記基準混練波形の上限及び下限を、設定した1つの基準混練波形を基準として、ゲイン幅、オフセット幅、時間オフセット幅に基づいて設定できる。
ゲイン幅を設定する場合は、被混練物に各時点で与える負荷、或いは、その負荷に対応した被混練物温度の許容幅を、基準混練波形に対する割合で適切に設定できる。増減量であるオフセット幅を設定する場合は、基準混練波形に対する許容幅を絶対量で適切に設定できる。さらに、時間オフセット幅を設定する場合は、基準混練波形に対して、混練の早まり、遅れを許容した許容幅を設定することができる。
これらのゲイン幅、オフセット幅による許容幅の設定により、判定の厳しさ、緩やかさを、基準混練波形に基づいて設定することが可能となり、混練の合格ラインの設定が容易となる。
【0015】
本発明に係る混練判定システムの更なる特徴構成は、前記ゲイン幅、前記オフセット幅、前記時間オフセット幅について、ステップ開始からの時間に応じて、異なる値を設定することができる点にある。
【0016】
すなわち、上記の特徴構成によれば、ゲイン幅、オフセット幅、時間オフセット幅について、ステップ開始からの時間に応じて、異なる値を設定できるため、例えば混練波形にピークが現れる場合に、混練波形のピーク時までは上限及び下限の許容幅を小さく設定し、混練状態判定を厳しくする一方、混練波形のピーク後は許容幅を大きくし、混練状態判定を緩やかにすることができる。これにより、ピーク発生前の混練波形を重視し、ピーク発生後の混練波形はさほど重視しないという設定も可能となる。
【0017】
本発明に係る混練判定システムの更なる特徴構成は、混練データを蓄積する混練データ蓄積部を有し、前記混練データ蓄積部に蓄積された混練データを前記混練データ入力部より入力し、前記混練データに対して前記混練状態の判定を行うことができる点にある。
【0018】
すなわち、上記の特徴構成によれば、混練データ蓄積部に蓄積された過去の混練実績についての混練データを前記混練データ入力部より入力し、前記混練データに対して混練状態判定を行うことができる。これにより、混練ゴム製品の品質保証を目的とした、混練作業品質のトレーサビリティの実現手段を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】混練機及びこれに接続された本発明の一実施形態に係る混練判定システムの構成を示すブロック図である。
【図2】本発明の混練判定システムにおける混練判定の処理手順を示すフロー図である。
【図3】正常な混練が行われた場合の電力及び被混練物温度の混練波形を示すグラフ図である。
【図4】許容幅を設定した基準混練波形を示すグラフ図である。
【図5】入力混練時間と基準混練時間が異なる場合の、入力混練波形の混練波形変換の様子を示すグラフ図である。
【図6】混練状態判定において、混練が正常と判断される場合を示すグラフ図である。
【図7】混練状態判定において、混練が正常と判断されない場合を示すグラフ図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、本発明に係る混練判定システムの一実施形態を、図面に基づいて説明する。まず、図1に基づいて、本発明の一実施形態に係る混練機及びこれに接続された混練判定システムの構成について説明する。
【0021】
図1に示すように、本発明に係る混練判定システム10は、正常な混練波形の基準として用いる基準混練波形を設定する基準混練波形設定部100、混練開始からの時間、及び、各時間における負荷、被混練物温度を含む混練データを入力する混練データ入力部110、前記混練データ入力部110から入力された混練データの混練波形である入力混練波形と前記基準混練波形とを比較して、その乖離により前記混練データに係る混練について混練状態を判定する混練異常判定部(混練状態を判定する混練状態判定部120の一例)、各ステップの混練異常の有無の判定(混練状態の判定の一例)において、前記入力混練波形において混練に要した時間である入力混練時間と前記基準混練波形において混練に要した時間である基準混練時間との長さが異なる場合に、前記入力混練時間と前記基準混練時間とが同一の長さとなるように前記入力混練波形を変換する混練波形変換部130、混練データを蓄積する混練データ蓄積部200を備えている。
本発明に係る混練判定システム10は、密閉式混練機1と接続されており、混練データ入力部110を介して、密閉式混練機1から混練バッチ名、配合名、混練波形データを含む混練データの入力を受ける。そして、入力された当該混練データに対して、図2に示す所定の処理手順により、混練状態判定を行う。
以下では、(1)混練波形の一般的な説明、(2)基準混練波形の設定、(3)入力混練波形の混練状態判定及び事後処理、の順に説明する。
【0022】
(1)混練波形
図3に基づいて混練波形の例について説明する。
図3は、X軸(横軸)を時間、Y軸(縦軸)を電力及び被混練物温度とした混練波形である。実線が混練負荷である電力(単位はkW)を表し、鎖線が被混練物温度(単位は℃)を表すものである。
通常の混練では、主にポリマーやフィラー、可塑剤等の添加剤を混練機の混練槽に投入し、混練を開始する。フィラーは固体の細粒状のものが多く、針状物も含まれる。添加剤には固形物のほか、液状のものやペースト状のものも含まれる。
混練は1つの「バッチ」を単位として行われ、1つのバッチには、少なくとも2つ以上の「ステップ」が含まれる。ステップとは、被混練物の追加投入や混練機の回転速度の変更等の混練条件の変更に基づいて混練工程を時間で区分したものであり、各ステップの終了条件は、積算電力量あるいは被混練物温度、あるいはそれらの両方が所定値に達すること、あるいは当該ステップにおける所定時間の経過等を条件として、本発明とは別の判定手段等により判断する。
ここで、本発明の波形変換の対象となるのは、時間以外の条件を終了条件とするステップにおける波形である。すなわち、外部要因の影響を受ける積算電力量あるいは被混練物温度をステップの終了条件とすると、基準混練時間と入力混練時間とに違いが生じる場合がある。そこで、基準混練時間と入力混練時間とに違いが生じた場合に、本発明の波形変換を行う。
1つのステップが終了し、次のステップに移る前のステップの合間には、フィラーや架橋剤等の薬品類の投入、混練機の回転数の変更等の混練条件の変更を行う。混練条件の変更後、次のステップを開始する。通常、各ステップ間では、混練操作を停止し、他の薬品の投入等を行うため、図3に示すように、混練に必要な電力は0となり、温度は順次低下する。
所定数のステップを経て1つのバッチが終了すると、1つの混練が終了する。
【0023】
図3は、ポリマー100に対し、カーボン50、オイル5、その他薬品類を微量(3未満)の重量比で投入を行い、混練を開始した例である。図3の混練バッチは3つのステップを含んでおり、第1ステップは、主にポリマーにフィラーが入り込む工程である。第1ステップは負荷を掛けて練り込みを行う工程であるため、図3の混練波形においても、しばらくの間、負荷は増大している。その後、フィラーが入り込みを終えた時点で負荷はピークに達し、やがて混練が進むにつれて、フィラーが均一に分散されるとともにポリマーが軟化(粘度低下)するため、負荷は単調に減少している。
そして、図3の混練では、第1ステップの終了条件を積算電力としているところ、積算電力が所定の電力量に達した時点を以って、第1ステップを終了している(なお、ステップ終了条件である積算電力量は、ここに記載しない本発明とは別の判定手段等により測定し、判断する)。
【0024】
また、図3の混練では、第1ステップ終了後、第2ステップの開始に先立ち、混練機の動作を停止して、混練槽に薬品類を投入した上で、混練動作を再開している。なお、図3に見られる第1ステップと第2ステップの間の低い電力での時間の経過は、再作動開始後のしばらくの間、薬品類を混ぜ合わせるならし運転が行われていることを示すものである。しばらくの間、このならし運転を行った後、混練機は混練動作を再開し、第2ステップが開始する。当該ステップの終了条件が満たされるまで、当該ステップの混練動作が行われる。
【0025】
なお、図3の混練では、第2ステップは被混練物温度が所定値に達したことを終了条件としており、被混練物温度が所定値に達したことを以って、前記混練は第2ステップを終了している。
被混練物温度をステップの終了条件とする場合として、例えば、樹脂や配合剤の混練がある。樹脂の混練では、被混練物温度を樹脂の軟化温度まで上げる必要があるためである。また、その他にも、溶融させて分散させる方が好ましい配合剤では、融点まで被混練物温度を上げる必要があるためである。
逆にゴム材料に硫黄等の架橋剤を投入した場合は、温度を上げると架橋反応が進行して固形化してしまい、プレス成形等の後工程での成形ができなくなるため、上限温度を設定して、ステップ終了の条件とすることがある。
【0026】
図3の混練では、第3ステップ開始前においても薬品類の投入を行っている。第2ステップ終了後、第3ステップ開始前のしばらくの間のならし運転による低電力状態、及び、その後の混練動作の再開については、前記第2ステップと同様の挙動である。
【0027】
図3の混練の第3ステップは所定時間の経過を終了条件としており、第3ステップ開始後に所定時間が経過したことを以って、前記混練は第3ステップを終了している。そして、図3の混練は、第3ステップまでの3つのステップを1バッチとしているため、これをもって混練を終了している。
【0028】
また、図3では、実線で示される電力とともに、鎖線で被混練物温度を示している。混練時の被混練物温度は、混練負荷が掛かるにつれ高くなるが、負荷が下がり、材料に対する冷却能力が混練負荷と同程度になると、所定の温度周辺に保たれる状態になる。図3においても、被混練物温度のグラフは同様の動きを示している。
【0029】
なお、図3では、第1ステップ終了条件を積算電力、第2ステップ終了条件を被混練物温度、第3ステップ終了条件を時間とする例を示したが、これはあくまで一例に過ぎない。ステップ終了条件は前記の組合せに限定されるものではなく、混練バッチ毎に、最適な終了条件を設定することができる。
【0030】
(2)基準混練波形の設定
図2に示すステップS1では、基準混練波形設定部100から基準混練波形を設定する。基準混練波形とは、正常な混練が行われた場合の基準として用いる混練波形である。
基準混練波形の設定に当たっては、ステップS100に示す基準混練波形選択として、混練データ蓄積部200に蓄積されている過去の実績である混練データから選択して入力することができる。当然、正常と判定できる波形の平均を算出して用いてもよい。
【0031】
また、ステップS1の基準混練波形設定では、ステップS110に示す許容幅(判定幅)設定により、対話形式で、混練データの増減率であるゲイン幅、混練データの増減量であるオフセット幅、時間軸方向の増減量である時間オフセット幅、の1種以上に基づいて、基準混練波形の上限及び下限、すなわち、基準混練波形の許容幅を設定することができる。例えば、ゲイン幅及びオフセット幅の設定により、基準混練波形の許容幅は以下のように設定される。
許容幅上限=基準値×(100+ゲイン幅(上)(%))/100+オフセット幅(上)
許容幅下限=基準値×(100−ゲイン幅(下)(%))/100−オフセット幅(下)
【0032】
図4に許容幅を設定した基準混練波形のグラフ図を示す。図4は、太い実線を基準混練波形とし、細い実線を許容幅上限、鎖線を許容幅下限として設定したものである。許容幅上限及び下限は、前記の数式で示されるゲイン幅及びオフセット幅、あるいは時間軸方向への時間オフセット幅の設定により定められる。
【0033】
また、上記の許容幅(判定幅)の設定において、ステップ開始からの時間に応じて、上限幅、下限幅に異なる値を設定可能とすることで、例えば、ピーク前後で混練状態判定の判定条件の厳しさを調整することができる。例えば、ピーク前の許容幅は小さく、ピーク後の許容幅は大きく設定することで、ピーク前の混練状態は厳しく判定を行い、一方、ピーク後の判定は緩やかなものとするといった、重み付けを持たせた混練状態判定が可能となる。このような重み付けは、特にピーク前の混練波形が製品品質上重要な意味を持つ、といった性質を持つ混練の状態判定において有用である。
【0034】
例えば、図4の第1ステップでは、ピーク前の許容幅aはピーク後の許容幅Aより小さく、ピーク後の許容幅Aはピーク前の許容幅aより大きく設定されている。これにより、ピーク前の混練状態については厳しく判定を行い、また、ピーク後については、ピーク前に比べて緩やかな判定を行うことができる。
【0035】
なお、本願では、基準混練波形の設定とその基準混練波形を使用した入力混練波形(評価・判定対象の混練波形)との評価・判定を一連の手順として説明するが、特定の製品に対して基準混練波形の設定を一度行った場合は、それ以降の同一製品の混練状態判定では基準混練波形を自動的に生成するものとしてもよいし、混練判定システムに備えられる基準混練データ記憶部105に記憶された基準混練データを呼び出して、前記基準混練データに基づく基準混練波形を、前記製品の混練バッチ毎の混練状態判定に用いるものとしてもよい。
【0036】
(3)入力混練波形判定及び事後処理
ステップS1で基準混練波形が設定されると、続くステップS2で、混練状態判定の対象とする混練データを入力する。本発明に係る混練判定システム10は、図1に図示しないインバータ盤におけるインバータドライブ、制御盤におけるシーケンサを経て、混練データ入力部110を介し、密閉式混練機1から混練データの入力を受ける。なお、混練データには、混練バッチ名、配合名、時間に対する電力や時間を示す混練波形データ、等の混練に関する各種のデータが含まれている。
【0037】
ステップS2で混練状態判定の対象である混練データが入力されると、本発明に係る混練判定システム10は、混練状態判定部120により、入力された前記混練データの混練波形である入力混練波形に含まれる全てのステップに対して混練状態判定を行う(ステップS3〜S6)。
【0038】
本発明は、前記混練状態判定において、ステップS3〜S5に示されるように、前記入力混練波形において混練に要した時間である入力混練時間と前記基準混練波形において混練に要した時間である基準混練時間との長さが異なる場合は(ステップS3)、入力混練時間と基準混練時間の長さが同一となるよう、混練波形変換部130により入力混練波形の混練波形変換を行った上で(ステップS4)、混練状態判定を行う(ステップS5)。混練波形変換については、次の段落以降で説明する。
一方、入力混練時間と基準混練時間との長さが等しい場合は(ステップS3)、混練波形変換(ステップS4)を行うことなく、そのまま混練状態判定を行う(ステップS5)。
【0039】
図5に基づき、混練波形変換(ステップS4)について説明する。
本発明の混練判定システム10では、混練状態判定を入力混練波形と基準混練波形との比較により行っているが、実際の混練作業においては、気温や装置の冷却水の温度の違い等の外部要因により、入力した混練波形の混練時間と基準混練波形の混練時間の長さが異なる場合がある。この場合、適切な比較を行うためには、入力混練波形と基準混練波形の混練時間の長さを同一とする必要がある。そこで、本発明では、入力混練波形と基準混練波形の混練時間が異なる場合、混練波形変換部130において、入力混練時間と基準混練時間の長さが同一となるよう混練波形変換を行う。
【0040】
例えば、図5(a)は混練波形変換を行う前の波形図である。図5(a)では、鎖線が実績である入力混練波形を、実線が基準となる基準混練波形を示している。
図5(a)の混練では、第1ステップの終了条件を積算電力が所定の値に到達するまで、第2ステップの終了条件を被混練物温度が所定の温度に到達するまで、第3ステップの終了条件を当該ステップにおける混練時間が所定の時間に到達するまで、としている。
図5(a)では、第1ステップ及び第2ステップにおいて、入力混練波形と基準混練波形の混練時間が異なっている。第1ステップでは、入力混練波形の電力ピークは基準混練波形の電力ピークより低く、所定の積算電力量に到達するために、基準混練波形に比べて、より長い混練時間を要している。
また、第2ステップの混練時間の違いは、終了条件が被混練物温度であるところ、気温や冷却水の温度の影響を受け、基準混練波形に比べ、入力混練波形の方が短時間で当該ステップを完了している。
なお、第3ステップについては、終了条件を当該ステップにおける混練時間としているため、入力混練波形と基準混練波形の混練時間は同一である。
【0041】
混練波形変換は、ステップ毎に、入力混練波形の各ステップにおける混練時間が、対応する基準混練波形の各ステップの混練時間と同一となるように変換して行う。
例えば、図5(a)の第2ステップにおいて、入力混練波形の当該ステップにおける混練時間(第2ステップ開始から第2ステップ終了までの時間)がT2であるところ、それに対応する基準混練波形の混練時間はT1となっている。
この場合、本発明の混練判定システム10は、混練波形変換部130により、入力混練時間と基準混練時間の長さが同一となるよう、入力混練波形の混練波形変換を行う。すなわち、入力混練波形の第2ステップ開始からの経過時間t2における混練データを、当該ステップ開始からの経過時間t2´=(T1/T2)×t2における混練データとする。
このような変換を行うことにより、当該ステップにおける混練時間は基準混練波形、入力混練波形ともにT1で同一となり、当該ステップにおける入力混練波形と基準混練波形の比較が可能となる。
【0042】
図5(b)は、図5(a)の入力混練波形に対して混練波形変換を行った後の波形を示したものである。鎖線が混練波形後の入力混練波形を、実線が基準混練波形を示している。混練波形変換後の入力混練波形は、混練時間が基準混練波形と同一であるため、入力混練波形と基準混練波形の比較が可能となっている。
【0043】
なお、本発明が対象とする密閉式混練機1の被混練物は、化学的変化を引き起こすものでなく、材料を物理的に混練するものにすぎないため、このような混練時間の変換を行った上で混練データの比較を行うことができる。
【0044】
ステップS5の混練状態判定部120による混練状態判定は、混練状態判定の対象となる混練バッチに含まれる各々のステップについて、混練状態判定を行う。混練状態の判定は、入力混練波形と前記基準混練波形とを比較して、その乖離に基づいて行う。
すなわち、乖離による混練状態判定として、基準混練波形のみが設定されている場合は、入力混練波形の基準混練波形からの乖離に基づいて混練状態判定を行う。
また、基準混練波形に許容幅(判定幅)である上限又は下限が設定されている場合は、入力混練波形が基準混練波形からの許容幅(判定幅)の範囲内であるか否かという乖離に基づいて混練状態判定を行う。
前記混練状態判定の対象となる混練バッチのあるステップにおいて、入力混練波形が基準混練波形の許容幅上限及び許容幅下限を外れることなく前記混練のステップを完了していた場合は、前記混練の当該ステップについては、混練に異常がなかったものと判断される。
一方、前記混練状態判定の対象となる混練バッチのあるステップにおいて、入力混練波形が基準混練波形の許容幅上限又は許容幅下限から外れている部分がある場合は、前記混練の当該ステップにおいて、混練に異常があったものと判断される。
【0045】
混練判定システム10は、前記混練状態判定の対象となる前記混練バッチの各々のステップについての混練状態判定を、前記混練バッチに含まれる全てのステップに対して行う(S6の分岐によるステップS3〜S6の反復)。そして、前記混練バッチに含まれる全てのステップについて前記混練状態判定が完了した後(ステップS6)、混練判定システム10は、それらのステップを含む前記混練バッチについて、混練状態判定を行う(ステップS7)。
【0046】
前記混練バッチの混練状態判定では、前記混練バッチに含まれる全てのステップについて混練が正常と判断された場合は(ステップS7)、混練判定システム10は前記混練バッチは正常であったと判断し、前記混練バッチに係る混練データを実績データとして混練データ蓄積部200に保存し(ステップS9)、被混練物を次工程に送る。
一方、前記混練バッチに混練異常と判断されるステップが1つでも含まれていた場合は(ステップS7)、管理者が混練異常の有無を判定し、混練の合否判定を確定後、判定完了信号を出力する(ステップS8)。そして、実績データとして前記混練に係る混練データを混練データ蓄積部200に保存し(ステップS9)、被混練物を次工程へ送る。
【0047】
上記の混練状態判定を図6及び図7に基づいて説明する。図6及び図7では、ともに、実績である入力混練波形が太い実線で、許容幅上限が細い実線で、許容幅下限が鎖線で示されている。
図6に示される混練では、第1ステップから第3ステップまでの全てのステップについて、入力混練波形(太い実線)が、許容幅上限(細い実線)、及び、許容幅下限(鎖線)の範囲内にある。よって、混練バッチ全体として、当該混練は正常であったと判断される。
一方、図7に示される混練は、第2ステップ、第3ステップは太い実線で示される入力混練波形(太い実線)が、許容幅上限(細い実線)、及び、許容幅下限(鎖線)の範囲内にあるため、正常な混練が行われたと判断されるものの、第1ステップのピーク付近において、入力混練波形(太い実線)が許容幅下限(鎖線)を下回っている部分がある。よって、図7の混練は、第1ステップにおいて混練に異常があったものと判断される。したがって、この場合、図7の混練は、混練バッチ全体として混練が正常であったとは判断されず(ステップS7)、当該混練バッチは管理者による混練状態判定を経ることになる(ステップS8)。そして、この場合、管理者が混練異常の有無を判定し、混練の合否判定を確定後、判定完了信号を出力し、その後、前記混練データは実績データとして混練データ蓄積部200に保存されることになる(ステップS9)。
【0048】
なお、本発明に係る混練判定システムは、混練データを蓄積する混練データ蓄積部200を有し、前記混練データ蓄積部200に過去の混練データを蓄積している。そして、前記過去の混練データを前記入力混練データとして、前記混練状態判定を行うことができる。これにより、過去に混練したゴム製品の品質保証を目的とした、混練作業品質のトレーサビリティの実現手段を提供できる。
【0049】
[別実施形態]
(1)上記実施形態の図4、図6及び図7では、許容幅(判定幅)をゲイン幅、オフセット幅に基づいて設定しているが、これらに加え、時間軸方向への許容幅(判定幅)を設定しても良い。時間軸方向への許容幅(判定幅)は、時間オフセット幅により設定する。
(2)上記実施形態は混練バッチ完了後のバッチ単位での混練状態判定を想定したものだが、本発明に係る混練判定システムは、混練工程と並行して混練状態判定を行うオンライン処理に対応したものとしても良い。その場合、前記混練判定システムは、ステップ毎に混練状態判定を行い、混練データ表示部300に、生産中の混練データの混練波形をチャートとして表示することが考えられる。
(3)前記の混練バッチ完了後のバッチ単位での混練状態判定、及び、前記の混練工程と並行してのオンライン処理に対応した混練状態判定の他、混練判定システム10に混練データを蓄積する混練データ蓄積部200を持たせ、前記混練データ蓄積部200に過去の混練データを蓄積し、かつ、前記過去の混練データを前記入力混練データとして、前記混練状態判定を行うことを可能とすることにより、過去に混練したゴム製品の品質保証を目的とした、混練作業品質のトレーサビリティ実現手段を提供できる。
(4)基準混練データを基準混練データ記憶部105に登録し、管理番号による管理を可能としても良い。また、登録された基準混練データを、管理番号で上記混練データ表示部300に波形表示として反映できるようにしてもよい。基準混練波形の許容幅は、正常混練範囲(上限、下限)として表記される。混練データ蓄積部200に保存された混練の実績データは、混練データ表示部300に、実績チャートとして表示や印刷、PDF出力することができる。
(5)上記実施形態では、混練状態の判定として混練異常の判定を行う例を示したが、本願にあっては、基準混練波形と入力混練波形とを比較判定した際に、その適合度を数値化し、その適合度情報を被混練物に対応させて提供できる構成としてもよい。
各被混練物に対応付けて、正常・異常の評価のみならず、適合度情報を提供しておくことで、被混練物の評価に使用できる有用な検討指標を提供することができる。
(6)上記実施形態では、気温、冷却水温度等の外部要因での混練時間の変化に対応する例を示したが、原料、添加物の品質のばらつき、誤った原料の投入によるばらつき等の内的要因での混練時間の変化に対する対応も、本願構成で可能となる。
【0050】
以上、本発明の密閉式混練機の混練判定システムについて、その実施例に基づいて説明したが、本発明は上記実施例に記載した構成に限定されるものでなく、その趣旨を逸脱しない範囲において、適宜その構成を変更することができるものである。
【産業上の利用可能性】
【0051】
本発明の混練判定システムによれば、外部要因の影響による混練時間の違いを考慮した混練判定システムを提供することができる。また、従来は検出していなかったステップ途中の混練波形の変化を考慮に入れた品質管理が可能な混練判定システムを提供することができる。
【符号の説明】
【0052】
1 密閉式混練機
10 混練判定システム
100 基準混練波形設定部
110 混練データ入力部
120 混練状態判定部
130 混練波形変換部
200 混練データ蓄積部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
混練開始からの時間、及び、各時間における負荷、被混練物温度を含む混練データを入力する混練データ入力部と、
正常な混練波形の基準として用いる基準混練波形を設定する基準混練波形設定部と、
前記混練データ入力部から入力された混練データの混練波形である入力混練波形と前記基準混練波形とを比較して、その乖離により前記混練データに係る混練について混練状態を判定する混練状態判定部とを備える混練判定システムであって、
前記混練状態判定部が、混練条件毎に混練工程を区分したステップを単位として混練状態を判定する構成とされ、
各ステップの混練状態の判定において、前記入力混練波形において混練に要した時間である入力混練時間の長さと前記基準混練波形において混練に要した時間である基準混練時間の長さが異なる場合は、前記入力混練時間と前記基準混練時間とが同一の長さとなるように前記入力混練波形を変換する混練波形変換部を備えることを特徴とする混練判定システム。
【請求項2】
前記基準混練波形設定部において、前記基準混練波形からの判定幅として、前記基準混練波形に上限及び下限を設定できることを特徴とする請求項1に記載の混練判定システム。
【請求項3】
前記基準混練波形からの判定幅として設定した前記基準混練波形の前記上限及び前記下限を、設定した1つの基準混練波形を基準として、該基準混練波形に対する混練データの増減率であるゲイン幅、混練データの増減量であるオフセット幅、時間軸方向の増減量である時間オフセット幅、の1種以上に基づいて設定できることを特徴とする請求項2に記載の混練判定システム。
【請求項4】
前記ゲイン幅、前記オフセット幅、前記時間オフセット幅について、ステップ開始からの時間に応じて、異なる値を設定できることを特徴とする請求項3に記載の混練判定システム。
【請求項5】
混練データを蓄積する混練データ蓄積部を有し、
前記混練データ蓄積部に蓄積された混練データを前記混練データ入力部より入力し、
前記混練データに対して前記混練状態の判定を行うことができる請求項1乃至請求項4のいずれか1項に記載の混練判定システム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2010−214661(P2010−214661A)
【公開日】平成22年9月30日(2010.9.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−61901(P2009−61901)
【出願日】平成21年3月13日(2009.3.13)
【出願人】(595057720)株式会社モリヤマ (26)
【Fターム(参考)】