説明

混色画像を形成するためのインク及び画像形成方法

【課題】 フタロシアニン骨格を持つ色材を含有させたインクと共に混色画像を形成する場合において、高発色でありかつ耐候性にも優れた画像を与えることができるようなインクと混色画像を形成するための方法を提供すること。
【解決手段】 フタロシアニン骨格を持つ色材を含有したインクと共に用いる、混色画像を形成するためインクであって、該インクが少なくとも特定の色材及びC.I.ダイレクトイエロー132を含有することを特徴とする混色画像を形成するためのインク。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は混色画像を形成するためのインク及び画像形成方法に関するものであり、更には高発色かつ耐候性に優れた混色画像を与えることができるインクとその画像形成方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
インクジェット記録とは、インクの微小液滴を種々の作動原理により飛翔させて記録材料に付着させ、画像、文字などの画像形成を行うものである。このインクジェット記録は高速、低騒音、多色化が容易、記録パターンの融通性が高い、現像及び定着が不要などの特徴があり、様々な用途において急速に普及している。
【0003】
近年、インクジェット記録には、銀塩写真に匹敵するほどの高画質な画像を提供することが求められている。インクジェット記録では、フルカラーの画像を形成する際、減法混色に基づき画像を形成する。つまり、印刷の三原色であるイエロー、マゼンタ及びシアンを用いた色再現が行われている。高画質なインクジェット画像を実現するためには、この三原色であるイエロー、マゼンタ及びシアンそれぞれが高明度、高彩度であるインクが必要とされてきている。
【0004】
更に、画像と共に耐候性に対しても優れた画像の提供が強く求められている。特にインクジェット記録においては、太陽光や各種照明光などによる変腿色(耐光性)や、大気中に微量に含まれる酸化性ガス(オゾン、NOx、SOx等)に対する変腿色(耐ガス性)といった耐候性に優れた画像を与えるようなインク及び記録システムの開発が強く求められている。
【0005】
このような背景の中で、イエロー領域の色再現範囲を広げるために有効な高発色であり、かつ、耐候性に優れた色材として特定構造を有するアゾピリドン型染料及びこれを用いたインクが開示されている(例えば、特許文献1参照)。
【特許文献1】特表2002−504613号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明者らが特許文献1に記載の一般式Iで表される色材を含有させたインクを作製し画像形成を行ったところ、このインクを単独で用いて形成した画像は発色性、耐候性は良好なものであった。しかしながら、他のインク(マゼンタ、シアン、ブラックインク)を用いて混色画像を形成したところ、混色部分において画像の発色性は十分であったものの、耐候性が悪くそのレベルはインク個々の耐候性の実力以下であることがわかった。
【0007】
本発明者らが検討した結果、特に一般式Iの色材を含有させたインクとフタロシアニン骨格をもつ色材を含有させたインクとを併用させて混色画像の形成を行った場合に耐候性が悪くなるという知見を得た。
【0008】
特許文献1には、一般式Iで表される色材を含有させたインクと他の色のインクを用いて混色画像を形成した場合での耐候性に関する言及はない。このように従来技術では、フタロシアニン骨格をもつ色材を含むインクと混色画像を形成した場合に耐候性が悪くなるという課題があり、十分解決がなされていないのが現状である。
【0009】
従って、本発明の目的は、フタロシアニン骨格を持つ色材を含有させたインクと共に混色画像を形成する場合において、高発色でありかつ耐候性にも優れた画像を与えることができるようなインクと混色画像を形成するための方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは上記課題に鑑みて鋭意検討した結果、C.I.ダイレクトイエロー132を一般式Iの色材と共に第1のインク中に含有させ、フタロシアニン骨格をもつ色材を含有した第2のインクと共に混色画像を形成することで優れた発色性を有しかつ耐候性にも優れた画像が得られるという知見を得て、本発明に至った。
【0011】
即ち本発明にかかる混色画像を形成するためのインクは、フタロシアニン骨格を持つ色材を含有したインクと共に用いる、混色画像を形成するためインクであって、該インクが少なくとも下記一般式Iで表される色材及びC.I.ダイレクトイエロー132を含有することを特徴とする。
【0012】
更に本発明にかかる画像形成方法は、色材として少なくとも下記一般式Iで表される色材及びC.I.ダイレクトイエロー132を含有した第1のインクと、フタロシアニン骨格を持つ色材を含有した第2のインクとにより混色画像を形成することを特徴とする。
【0013】
(一般式I)
【0014】
【化1】

【0015】
(式中、R1及びR2は、それぞれ独立にH、置換されていてもよいアルキル、置換されていてもよいアリール又は置換されていてもよいアリールアルキルであり;それぞれのW及びそれぞれのXは、独立に−COOH、−SOH、−PO又は−COOH、−SOH、−POから選択された一つ若しくはそれ以上の基で置換されたアルキルであり;それぞれのY及びそれぞれのZは独立に、W及びXに対して定義した以外の置換基であり;a及びdは、それぞれ独立に1ないし5であり;b及びcは、それぞれ独立に0ないし4であり;(a+b)は、5以下の値を有し;そして(c+d)は、5以下の値を有する)
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、一般式Iで表される色材及びC.I.ダイレクトイエロー132を含有した第1のインクと、フタロシアニン骨格を持つ色材を含有した第2のインクとを用いて混色画像を形成させた際に、得られた画像が一般式Iの持つ発色性を損なうことなく耐候性が良好となる。その結果、高発色でありかつ耐候性がよい混色画像を与えることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
次に、発明を実施するための最良の形態を挙げて本発明を更に詳しく説明する。
【0018】
<インク>
本発明のインクは水を主体とする水性媒体に色材を溶解させて用いる。この水性媒体としては、水単独、あるいは水と水溶性有機溶剤を含むものが利用できる。各成分について以下に詳細を述べる。
【0019】
(色材)
・第1のインク用の色材
第1のインクは、少なくとも下記一般式Iで表される色材及びC.I.ダイレクトイエロー132を色材として含有する。この2つの色材を併用することで、とりわけイエローインクとして好ましく用いられる。
【0020】
第1のインクに用いられる一般式Iの色材は、発色性がよく特にイエロー領域の色再現範囲を広げることを可能とする色材である。したがって、第1のインクに含有させることでとりわけイエロー領域の発色性がよくなる。又、この色材は耐候性にも優れている。
【0021】
(一般式I)
【0022】
【化2】

【0023】
(式中、R1及びR2は、それぞれ独立にH、置換されていてもよいアルキル、置換されていてもよいアリール又は置換されていてもよいアリールアルキルであり;それぞれのW及びそれぞれのXは、独立に−COOH、−SOH、−PO又は−COOH、−SOH、−POから選択された一つ若しくはそれ以上の基で置換されたアルキルであり;それぞれのY及びそれぞれのZは独立に、W及びXに対して定義した以外の置換基であり;a及びdは、それぞれ独立に1ないし5であり;b及びcは、それぞれ独立に0ないし4であり;(a+b)は、5以下の値を有し;そして(c+d)は、5以下の値を有する)
上記一般式Iの色材と共に含有する必須の色材としてC.I.ダイレクトイエロー132を用いる。C.I.ダイレクトイエロー132を併用することで本発明の効果が奏されるメカニズムは明らかではないが、C.I.ダイレクトイエロー132を使用したインクはフタロシアニン骨格を持つ色材を含有させたインクと混色画像を形成しても、耐候性が悪くならない。
【0024】
特に一般式Iにおいて例示化合物1に示される化合物を用いるのが好ましい形態である。例示化合物1が好ましい理由としては、例示化合物1自体が発色性と耐候性に優れかつ被記録媒体上での色相がC.I.ダイレクトイエロー132と近いためである。例示化合物1とC.I.ダイレクトイエロー132の被記録媒体上での色相が近いことで、フタロシアニン骨格をもつ色材を含有させたインクと形成した混色画像の混色部に光やガスによる変腿色が生じ例示化合物1の消失が起こった場合でも、色相の近いC.I.ダイレクトイエロー132が残留するために退色画像の変化が小さく、結果として耐候性がより一層向上するからである。
(例示化合物1)
【0025】
【化3】

【0026】
又、必要に応じてこれらの色材と共に、他の色材を含有させてもよい。他の色材としては、以下のようなものが挙げられるが、これに限定されたものではない。
C.I.ダイレクトイエロー:8、11、12、27、28、33、39、44、50、58、85、86、87、88、89、98、100、110、132、173等
C.I.アシッドイエロー:1、3、7、11、17、23、25、29、36、38、40、42、44、76、98、99等
インク中に含有させる色材の含有量としては発色性、耐候性、信頼性の観点から、下限は好ましくは0.1%以上、より好ましくは1.0%以上がよい。又、上限は好ましくは15%以下、より好ましくは7%以下がよい。
【0027】
又、第1のインクが一般式Iで表される色材とC.I.ダイレクトイエロー132の含有量の合計がインク中に含まれる色材の総量の85%以上であることによって発色性、耐候性が共に優れる画像を与えることができる。又、一般式Iで表される色材の含有量がC.I.ダイレクトイエロー132の含有量の0.3倍〜2倍であることによっても発色性、耐候性が共に優れる画像を与えることができる。
・第2のインク用の色材
第2のインクは、フタロシアニン骨格を有する色材を用いることが好ましい。フタロシアニン骨格を持った色材は、シアン及びグリーンの色相領域において発色性と耐光性に優れているため好ましい色材であり、シアンインク及びグリーンインク用色材として広く好適に用いられる。
【0028】
水溶性染料としてカラーインデックスに記載されている色材の具体例を例示する。又、これ以外にも効果のあった色材について記載する。しかし、本発明はこれに限定されるものではない。
【0029】
C.I.ダイレクトブルー:86、199等
特開平9−291240号公報にあるようなフタロシアニン骨格にイエロー成分の光吸収性の構造を導入した染料(例えばフタロシアニン残基とモノアゾ染料残基とを縮合させたもの)。
下記一般式IIで示される化合物
(一般式II)
【0030】
【化4】

【0031】
(式中、CuPcは、銅フタロシアニン残基を表し、Qはアルカリ金属又はアンモニウムであり、xは1、2、3又は4であり、yは0、1、2又は3である。但しx+y=2以下のものを含まないか、或いは実質的に含まない)即ち、具体的には下記表1の構造を有する染料の何れか、若しくはそれらの混合物を含み、x+y=2の構造のものは含んでいないか、或いは実質的に含んでいない。
【0032】
【表1】

【0033】
更に、一般式IIで表される色材は、x+y=3の成分よりx+y=4の成分をより多く含有する場合、耐ガス性の上で、特に良好になる。その比率は、一般式IIで表される色材を波長254nmにおいて高速液体クロマトグラフィーによって各分子量での比率を算出することによって求められる。
【0034】
この中でもシアン染料の中で耐候性に優れる観点から、下記一般式IIで示される化合物が好ましい。
【0035】
本発明の第2の色材に用いられる色材としては、上述のフタロシアニン骨格を持つ色材を単独もしくは混合して用いることができる。
【0036】
又、更に必要に応じてこれらの色材と共に、他の色材を含有させてもよい。他の色材としては、以下のようなものが挙げられるが、これに限定されたものではない。
【0037】
C.I.ダイレクトブルー:1、15、22、25、41、76、77、80、90、98、106、108、120、158、163、168、226等
C.I.アシッドブルー:1、7、9、15、22、23、25、29、40、43、59、62、74、78、80、90、100、102、104、112、117、127、138、158、161、203、204、221、244等
インク中に含有させる色材の含有量としては発色性、耐候性、信頼性の観点から、下限は好ましくは0.1%以上、より好ましくは1.0%以上がよい。又上限は好ましくは15%以下、より好ましくは7%以下がよい。
【0038】
又、フルカラー出力を行う上で、上記第1のインク、第2のインクの他にマゼンタインク、ブラックインクを併用するのが好ましい。更に、同一色調の淡インクを組み合わせて用いることもできる。マゼンタインク、ブラックインクの色材としては一般的に用いられている染料や顔料などの公知の色材であっても新規に合成された色材であっても適宜選択して用いることができる。又、インク中に含有させる色材は単独でも、あるいは2種以上を混合しても用いることができる。
【0039】
以下に、マゼンタ、ブラック用色材の具体例を色調別に例示するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
・マゼンタインク用の色材
C.I.ダイレクトレッド:2、4、9、11、20、23、24、31、39、46、62、75、79、80、83、89、95、197、201、218、220、224、225、226、227、228、229、230等
C.I.アシッドレッド:6、8、9、13、14、18、26、27、32、35、42、51、52、80、83、87、89、92、106、114、115、133、134、145、158、198、249、265、289等
C.I.フードレッド:87、92、94等
C.I.ダイレクトバイオレット107等
一般式IIIで表される染料等
遊離酸の形で一般式IVで表される染料等
(一般式III)
【0040】
【化5】

【0041】
(上記一般式III中、R1は、置換若しくは未置換のアルコキシ基、又は置換若しくは未置換のアリール基を表し、R2及びR4は、各々独立に、水素原子又は置換若しくは未置換のアルキル基を表し、R3は、水素原子、置換若しくは未置換のアルキル基、置換若しくは未置換のアルコキシ基、置換若しくは未置換のアリールオキシ基又はハロゲン原子を表す。X1は、遊離酸の形でカルボキシル基、又はスルホン酸を表す。)
(一般式IV)
【0042】
【化6】

【0043】
(上記一般式IV中、Arは置換もしくは未置換のフェニル基、又は置換もしくは未置換のナフチル基を表し、Arは置換もしくは未置換のアセチル基、ベンゾイル基、1,3,5−トリアジニル基、SO−C基又はSO−C−CH基の何れかを表す。)
インク中に含有させる色材の含有量としては発色性、耐候性、信頼性の観点から、下限は好ましくは0.1%以上、より好ましくは1.0%以上がよい。又上限は好ましくは15%以下、より好ましくは7%以下がよい。
【0044】
・ブラックインク用の色材
C.I.ダイレクトブラック:17、19、22、31、32、51、62、71、74、112、113、154、168、195等
C.I.アシッドブラック:2、48、51、52、110、115、156等
C.I.フードブラック1、2等
カーボンブラック等
前記カーボンブラックとしては例えば、ファーネスブラック、ランプブラック、アセチレンブラック、チャンネルブラック等のカーボンブラック顔料で、例えば、レイヴァン(Raven)7000、レイヴァン5750、レイヴァン5250、レイヴァン5000、レイヴァン3500、レイヴァン2000、レイヴァン1500、レイヴァン1250、レイヴァン1200、レイヴァン1190ULTRA−II、レイヴァン1170、レイヴァン1255(以上コロンビア製)、ブラックパールズ(Black Pearls)L、リーガル(Regal)400R、リーガル330R、リーガル660R、モウグル(Mogul)L、モナク(Monarch)700、モナク800、モナク880、モナク900、モナク1000、モナク1100、モナク1300、モナク1400、ヴァルカン(Valcan)XC−72R(以上キャボット製)、カラーブラック(Color Black)FW1、カラーブラックFW2、カラーブラックFW2V、カラーブラックFW18、カラーブラックFW200、カラーブラックS150、カラーブラックS160、カラーブラックS170、プリンテックス(Printex)35、プリンテックスU、プリンテックスV、プリンテックス140U、プリンテックス140V、スペシャルブラック(SpecialBlack)6、スペシャルブラック5、スペシャルブラック4A、スペシャルブラック4(以上デグッサ製)、No.25、No.33、No.40、No.47、No.52、No.900、No.2300、MCF−88、MA600、MA7、MA8、MA100(以上三菱化学製)等を使用することができる。又、マグネタイト、フェライト等の磁性体微粒子やチタンブラック等を黒色顔料として用いても良い。
【0045】
又、上記した顔料を用いる場合には分散剤を併用することが好ましい。分散剤としては、アニオン性基の作用によって上記の顔料を水性媒体に安定に分散させることのできるものが好適に用いられる。分散剤の具体例は、例えばスチレン−アクリル酸共重合体、スチレン−アクリル酸−アクリル酸アルキルエステル共重合体、スチレン−マレイン酸共重合体、スチレン−マレイン酸−アクリル酸アルキルエステル共重合体、スチレン−メタクリル酸共重合体、スチレン−メタクリル酸−アクリル酸アルキルエステル共重合体、スチレン−マレイン酸ハーフエステル共重合体、ビニルナフタレン−アクリル酸共重合体、ビニルナフタレン−マレイン酸共重合体、スチレン−無水マレイン酸−マレイン酸ハーフエステル共重合体あるいはこれらの塩等が含まれる。又これらの分散剤は、重量平均分子量が1000〜30000の範囲のものが好ましい。
【0046】
又、色材として、顔料表面にイオン性基(アニオン性基)を結合させることによって分散剤なしで水性媒体に分散させることのできる顔料、いわゆる自己分散型顔料を用いることもでき、このような顔料の一例として例えば、自己分散型カーボンブラックを挙げることができる。
【0047】
自己分散型カーボンブラックとしては、例えばアニオン性基がカーボンブラック表面に結合したものを挙げることができる。
【0048】
インク中に含有させる色材の含有量としては発色性、耐候性、信頼性の観点から、下限は好ましくは0.1%以上、より好ましくは1.0%以上がよい。又上限は好ましくは15%以下、より好ましくは7%以下がよい。
【0049】
(水溶性有機溶剤)
水溶性有機溶剤としては、水溶性を示すものであれば特に限定はなく、アルコール、多価アルコール、ポリグリコール、グリコールエーテル、含窒素極性溶媒、含硫黄極性溶媒、尿素類、糖類、及びこれらの誘導体など、一般的にインクジェット用インクの溶剤として用いられているものであれば、問題なく使用することができる。これらの溶剤はインクの保湿性維持や色材の溶解性、インクの記録紙への浸透剤などの用途として用いられる。又、これらの溶剤は単独でも複数を組み合わせて用いることもできる。
【0050】
水溶性有機溶剤の含有量は、一般的にはインク全体の1〜50質量%の範囲が好ましく、より好ましくは3〜40質量%の範囲である。又、インク中の水の含有量は、染料の溶解性やインクの吐出安定性を良好に保つために、30〜95質量%の範囲が好ましい。
【0051】
更に、本発明のインクには上記成分以外にも必要に応じて界面活性剤、pH調整剤、防錆剤、防腐剤、防カビ剤、酸化防止剤、還元防止剤、蒸発促進剤、キレート化剤、水溶性ポリマー等、種々の添加剤を含有させてもよい。
【0052】
例えば界面活性剤としては、脂肪酸塩類、高級アルコール硫酸エステル塩類、液体脂肪油硫酸エステル塩類、アルキルアリルスルホン酸塩類等の陰イオン界面活性剤、ポリエキシエチレンアルキルエーテル類、ポリオキシエチレンアルキルエステル類、ポリエキシエチレンソルビタンアルキルエステル類、アセチレンアルコール、アセチレングリコール等の非イオン性界面活性剤があり、これらの1種又は2種以上を適宜選択して使用できる。上記したなかでも、特にアセチレンアルコール類や、アセチレングリコール類が普通紙への浸透性に優れた効果を発揮するために好適に用いることができる。その適用量は界面活性剤の種類により異なるが、インク全量に対して、0.01〜5質量%が望ましい。この際、インクの25℃における表面張力は10mN/m(dyn/cm)以上が好ましく、より好ましくは20mN/m(dyn/cm)以上となるように、又表面張力が60mN/m(dyn/cm)以下となるように活性剤の添加する量を決定することが好ましい。なぜなら、本発明で使用するインクジェット記録方式においては、ノズル先端の濡れによる印字ヨレ(インク滴の着弾点のズレ)等の発生を有効に抑えることができるからである。又、インクはインクジェット記録装置で良好な吐出特性を得るために、所望の粘度やpHを有するように調製することが好ましい。
【0053】
<被記録媒体>
本発明に用いることのできる被記録媒体としては、普通紙、あるいは光沢紙、コート紙、光沢フィルムと呼ばれるような、表面にコート層あるいはインク受容層を有する特殊媒体等、一般的に用いられている記録媒体を用いることができる。これらの中でも、より鮮やかさ、コントラスト、透明感の高い画像が得られる記録媒体の一例として、基材上に親水性の多孔質粒子層、多孔質高分子層等を有する特殊媒体を挙げることができる。
【0054】
本発明で用いられる被記録媒体としての特殊媒体の一例を更に詳述すると、染料や顔料などの色材をインク受容層内の親水性多孔質構造を形成する微粒子に吸着させて、少なくともこの吸着した色材によって画像が形成される被記録媒体であり、インクジェット法を利用する場合には特に好適である。このような被記録媒体としては支持体上のインク受容層に形成された空隙によりインクを吸収するいわゆる吸収タイプであることが好ましい。
【0055】
吸収タイプのインク受容層は、微粒子を主体とし、必要に応じて、バインダーやその他の添加剤を含有する親水性多孔質層として構成される。微粒子の例としては、シリカ、クレー、タルク、炭酸カルシウム、カオリン、アルミナあるいはアルミナ水和物等の酸化アルミニウム、珪藻土、酸化チタン、ハイドロタルサイト、酸化亜鉛等の無機顔料や尿素ホルマリン樹脂、エチレン樹脂、スチレン樹脂等の有機顔料が挙げられ、これらの1種以上が使用される。
【0056】
バインダーとして好適に使用されているものには水溶性高分子やラテックスを挙げることができる。例えば、ポリビニルアルコール又はその変性体、澱粉又はその変性体、ゼラチン又はその変性体、アラビアゴム、カルボキシメチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、ヒドロキシプロオイルメチルセルロースなどのセルロース誘導体、SBRラテックス、NBRラテックス、メチルメタクリレート−ブタジエン共重合体ラテックス、官能基変性重合体ラテックス、エチレン酢酸ビニル共重合体などのビニル系共重合体ラテックス、ポリビニルピロリドン、無水マレイン酸又はその共重合体、アクリル酸エステル共重合体などが使用され、必要に応じて2種以上を組み合わせて用いることができる。その他、添加剤を使用することもでき、例えば、必要に応じて分散剤、増粘剤、pH調整剤、潤滑剤、流動性変性剤、界面活性剤、消泡剤、離型剤、蛍光増白剤、紫外線吸収剤、酸化防止剤などが使用される。
【0057】
次に、上述したインクを用いて被記録媒体に画像記録を行うのに好適な画像記録装置、及び、それを用いた画像記録方法について説明する。
【0058】
<画像記録装置>
上記した本発明にかかるインクを用いて記録を行うのに好適な方法及び装置としては、例えば、記録ヘッドの室内のインクに記録信号に対応した熱エネルギーを与え、該熱エネルギーにより液滴を発生させる方法及び装置が挙げられる。
【0059】
(装置本体)
図1及び図2にインクジェット記録方式を用いたプリンタの概略構成例を示す。図1において、この実施形態におけるプリンタの装置本体M1000の外郭は、下ケースM1001、上ケースM1002、アクセスカバーM1003及び排出トレイM1004を含む外装部材と、その外装部材内に収納されたシャーシM3019(図2参照)とから構成される。
【0060】
シャーシM3019は、所定の剛性を有する複数の板状金属部材によって構成され、記録装置の骨格をなし、後述の各記録動作機構を保持するものとなっている。又、前記下ケースM1001は装置本体M1000の外装の略下半部を、上ケースM1002は装置本体M1000の外装の略上半部をそれぞれ形成しており、両ケースの組合せによって内部に後述の各機構を収納する収納空間を有する中空体構造をなしている。装置本体M1000の上面部及び前面部には、それぞれ、開口部が形成されている。
【0061】
更に、排出トレイM1004は、その一端部が下ケースM1001に回転自在に保持され、その回転によって下ケースM1001の前面部に形成される前記開口部を開閉させ得るようになっている。このため、記録動作を実行させる際には、排出トレイM1004を前面側へと回転させて開口部を開成させることにより、ここから記録シートが排出可能となると共に排出された記録シートPを順次積載し得るようになっている。又、排紙トレイM1004には、2枚の補助トレイM1004a、M1004bが収納されており、必要に応じて各トレイを手前に引き出すことにより、用紙の支持面積を3段階に拡大、縮小させ得るようになっている。
【0062】
アクセスカバーM1003は、その一端部が上ケースM1002に回転自在に保持され、上面に形成される開口部を開閉し得るようになっており、このアクセスカバーM1003を開くことによって本体内部に収納されている記録ヘッドカートリッジH1000或いはインクタンクH1900等の交換が可能となる。尚、ここでは特に図示しないが、アクセスカバーM1003を開閉させると、その裏面に形成された突起がカバー開閉レバーを回転させるようになっており、そのレバーの回転位置をマイクロスイッチなどで検出することにより、アクセスカバーの開閉状態を検出し得るようになっている。
【0063】
又、上ケースM1002の後部上面には、電源キーE0018及びレジュームキーE0019が押下可能に設けられると共に、LED E0020が設けられており、電源キーE0018を押下すると、LED E0020が点灯し記録可能であることをオペレータに知らせるものとなっている。又、LED E0020は点滅の仕方や色の変化をさせたり、プリンタのトラブル等をオペレータに知らせる等種々の表示機能を有する。尚、トラブル等が解決した場合には、レジュームキーE0019を押下することによって記録が再開されるようになっている。
【0064】
(記録動作機構)
次に、プリンタの装置本体M1000に収納、保持される本実施形態における記録動作機構について説明する。
【0065】
本実施形態における記録動作機構としては、記録シートPを装置本体内へと自動的に給送する自動給送部M3022と、自動給送部から1枚ずつ送出される記録シートPを所定の記録位置へと導くと共に、記録位置から排出部M3030へと記録シートPを導く搬送部M3029と、記録位置に搬送された記録シートPに所望の記録を行う記録部と、前記記録部等に対する回復処理を行う回復部(M5000)とから構成されている。
【0066】
(記録部)
ここで、記録部について説明するに、その記録部は、キャリッジ軸M4021によって移動可能に支持されたキャリッジM4001と、このキャリッジM4001に着脱可能に搭載される記録ヘッドカートリッジH1000とからなる。
【0067】
(記録ヘッドカートリッジ)
つづいて記録部に用いられる記録ヘッドカートリッジについて図3〜10に基づき説明する。
【0068】
本発明の記録ヘッドH1001は、図3(a)及び図3(b)の斜視図でわかるように、記録ヘッドカートリッジH1000を構成する一構成要素であり、記録ヘッドカートリッジH1000は、記録ヘッドH1001と記録ヘッドH1001に着脱自在に設けられたインクタンクH1900(H1901、H1902、H1903、H1904)とで構成されている。この記録ヘッドカートリッジH1000は、インクジェット記録装置本体に載置されているキャリッジM4001の位置決め手段及び電気的接点によって固定支持されるとともに、該キャリッジM4001に対して着脱可能となっている。インクタンクH1901はブラックのインク用、インクタンクH1902は本発明の第2のインク用、インクタンクH1903はマゼンタのインク用、インクタンクH1904は本発明の第1のインク用である。このようにインクタンクH1901、H1902、H1903、H1904のそれぞれが記録ヘッドH1001に対して着脱自在となり、それぞれのインクタンクが交換可能となっていることにより、インクジェット記録装置における印刷のランニングコストが低減される。
【0069】
次に記録ヘッドH1001に関して更に詳しく記録ヘッドを構成しているそれぞれの構成要素毎に順を追って説明する。図4から図10は、本発明が実施もしくは適用される好適なヘッドカートリッジ、記録ヘッド、インクタンクのそれぞれ及びそれぞれの関係を説明するための説明図である。以下、これらの図面を参照して各構成要素の説明を行う。
(1)記録ヘッド
記録ヘッドH1001は、電気信号に応じて膜沸騰をインクに対して生じせしめるための熱エネルギーを生成する電気熱変換体を用いて記録を行うバブルジェット(登録商標)方式のサイドシュータ型とされる記録ヘッドである。
【0070】
記録ヘッドH1001は、図4の分解斜視図に示すように、記録素子ユニットH1002とインク供給ユニットH1003とタンクホルダーH2000から構成される。
【0071】
更に、図5の分解斜視図に示すように、記録素子ユニットH1002は、第一の記録素子基板H1100、第二の記録素子基板H1101、第1のプレートH1200、電気配線テープH1300、電気コンタクト基板H2200、第2のプレートH1400で構成されており、又、インク供給ユニットH1003は、インク供給部材H1500、流路形成部材H1600、ジョイントゴムH2300、フィルターH1700、シールゴムH1800から構成されている。
(1−1)記録素子ユニット
図6は、第一の記録素子基板H1100の構成を説明するために一部分解した斜視図である。第一の記録素子基板H1100は、例えば、厚さ0.5〜1mmのSi基板H1110にインク流路として長溝状の貫通口からなるインク供給口H1102がSiの結晶方位を利用した異方性エッチングやサンドブラスト等の方法で形成され、インク供給口H1102のを挟んだ両側に電気熱変換素子H1103がそれぞれ1列ずつ千鳥状に配列され、前記電気熱変換素子H1103と、電気熱変換素子H1103に電力を供給するAl等の電気配線は成膜技術により形成されている。更に、前記電気配線に電力を供給するための電極部H1104が電気熱変換素子H1103の両外側に配列されており、電極部H1104にはAu等のバンプH1105が形成されている。そして、前記Si基板上には、電気熱変換素子H1103に対応したインク流路を形成するためのインク流路壁H1106と吐出口H1107が樹脂材料でフォトリソ技術によりに形成され、吐出口群H1108を形成している。従って、前記電気熱変換素子H1103に対向して前記吐出口が設けられているため、インク流路H1102から供給されたインクは電気熱変換素子H1103により発生した気泡により吐出される。
【0072】
又、図7は第二の記録素子基板H1101の構成を説明するために一部分解した斜視図である。第二の記録素子基板H1101は3色のインクを吐出させるための記録素子基板であり、3個のインク供給口H1102が並列して形成されており、それぞれのインク供給口を挟んだ両側に電気熱変換素子とインク吐出口が形成されている。もちろん第一の記録素子基板H1100と同じようにSi基板にインク供給口や電気熱変換素子、電気配線、電極部等が形成されておりその上に樹脂材料でフォトリソ技術によりインク流路やインク吐出口が形成されている。
【0073】
そして第一の記録素子基板と同様に電気配線に電力を供給するための電極部H1104にはAu等のバンプH1105が形成されている
次に第1のプレートH1200は、例えば、厚さ0.5〜10mmのアルミナ(Al)材料で形成されている。尚、第1のプレートの素材は、アルミナに限られることなく、記録素子基板H1100の材料の線膨張率と同等の線膨張率を有し、かつ、記録素子基板H1100材料の熱伝導率と同等もしくは同等以上の熱伝導率を有する材料で作られてもよい。第1のプレートH1200の素材は、例えば、シリコン(Si)、窒化アルミニウム(AlN)、ジルコニア、窒化珪素(Si)、炭化珪素(SiC)、モリブデン(Mo)、タングステン(W)のうちいずれであってもよい。第1のプレートH1200には、第一の記録素子基板H1100にブラックのインクを供給するためのインク供給口H1201と第二の記録素子基板H1101にシアン、マゼンタ、イエローのインクを供給するためのインク供給口H1201が形成されており、記録素子基板のインク供給口1102が第1のプレートH1200のインク供給口H1201にそれぞれ対応し、かつ、第一の記録素子基板H1100と第二の記録素子基板H1101はそれぞれ第1のプレートH1200に対して位置精度良く接着固定される。接着に用いられる第1の接着剤H1202は、低粘度で硬化温度が低く、短時間で硬化し、硬化後比較的高い硬度を有し、かつ、耐インク性のあるものが望ましい。その第1の接着剤H1202は、例えば、エポキシ樹脂を主成分とした熱硬化接着剤であり、接着層の厚みは50μm以下が望ましい。
【0074】
電気配線テープH1300は、第一の記録素子基板H1100と第二の記録素子基板H1101に対してインクを吐出するための電気信号を印加するものであり、それぞれの記録素子基板を組み込むための複数の開口部と、それぞれの記録素子基板の電極部H1104に対応する電極端子H1302(不図示)と、この配線テープ端部に位置し本体装置からの電気信号を受け取るための外部信号入力端子H1301を有した電気コンタクト基板H2200と電気的接続をおこなうための電極端子部H1303(不図示)を有しており電極端子H1302と電極端子1303は連続した銅箔の配線パターンでつながっている。
【0075】
電気配線テープH1300と第一の記録素子基板1100と第二の記録素子基板H1101は、それぞれ電気的に接続されており、接続方法は、例えば、記録素子基板の電極部1104と電気配線テープH1300の電極端子H1302が熱超音波圧着法により電気接合されている。
【0076】
第2のプレートH1400は、例えば、厚さ0.5〜1mmの一枚の板状部材であり、例えばアルミナ(Al)等のセラミックや、Al、SUS等の金属材料で形成されている。そして、第1のプレートH1200に接着固定された第一の記録素子基板H1100と第二の記録素子基板H1101の外形寸法よりも大きな開口部をそれぞれ有する形状となっている。又、第一の記録素子基板H1100及び第二の記録素子基板H1101と電気配線テープH1300を平面的に電気接続できるように第1のプレートH1200に第2の接着剤H1203により接着されており、電気配線テープH1300の裏面が第3の接着剤H1306により接着固定される。
【0077】
第一の記録素子基板H1100及び第二の記録素子基板H1101と電気配線テープH1300の電気接続部分は、第1の封止剤H1307(不図示)及び第2の封止剤H1308により封止され、電気接続部分をインクによる腐食や外的衝撃から保護している。第1の封止剤は、主に電気配線テープの電極端子H1302と記録素子基板の電極部H1105との接続部の裏面側と記録素子基板の外周部分を封止し、第2の封止剤は、前記接続部の表側を封止している
更に電気配線テープの端部に本体装置からの電気信号を受け取るための外部信号入力端子H1301を有した電気コンタクト基板H2200を異方性導電フィルム等を用いて熱圧着して電気的に接続する。
【0078】
そして電気配線テープH1300は、第1のプレートH1200の一側面で折り曲げられ、第1のプレートH1200の側面に第3の接着剤H1306(不図示)で接着される。第3の接着剤H1306は、例えば、エポキシ樹脂を主成分とした厚さ10〜100μmの熱硬化接着剤が使用される。
(1−2)インク供給ユニット
インク供給部材H1500は、例えば、樹脂成形により形成されている。該樹脂材料には、形状的剛性を向上させるためにガラスフィラーを5〜40%混入した樹脂材料を使用することが望ましい。
【0079】
図5、図8に示すように、インク供給部材H1500は、インクタンクH1900から記録素子ユニットH1002にインクを導くためのインク供給ユニットH1003の一構成部品であり、流路形成部材H1600を超音波溶着することによりインク流路H1501を形成している。又、インクタンクH1900と係合するジョイントH1517には、外部からのゴミの進入を防ぐためのフィルターH1700が溶着により接合されており、更に、ジョイントH1517部からのインクの蒸発を防止するために、シールゴムH1800が装着されている。
【0080】
又、インク供給部材H1500は、着脱自在のインクタンクH1900を保持する機能も一部有しており、インクタンクH1900の第2の爪H1910を係合する第1の穴H1503を有している。
【0081】
又、記録ヘッドカートリッジH1000をインクジェット記録装置本体のキャリッジM4001に装着位置に案内するための装着ガイドH1601、記録ヘッドカートリッジをヘッドセットレバーによりキャリッジM4001に装着固定するための係合部H1508、及びキャリッジM4001の所定の装着位置に位置決めするためのX方向(キャリッジスキャン方向)の突き当て部H1509、Y方向(記録メディア搬送方向)の突き当て部H1510、Z方向(インク吐出方向)の突き当て部H1511を備えている。又、記録素子ユニットH1002の電気コンタクト基板H2200を位置決め固定する端子固定部H1512を有し、端子固定部H1512及びその周囲には複数のリブが設けられ、端子固定部H1512を有する面の剛性を高めている。
(1−3)記録ヘッドユニットとインク供給ユニットの結合
先述の図4に示した通り、記録ヘッドH1001は、記録素子ユニットH1002をインク供給ユニットH1003に結合し更にタンクホルダーH2000と結合することにより完成する。結合は以下のように行われる。
【0082】
記録素子ユニットH1002のインク供給口(第1のプレートH1200のインク供給口H1201)とインク供給ユニットH1003のインク供給口(流路形成部材H1600のインク供給口H1601)をインクがリークしないように連通させるため、ジョイントゴムH2300を介してそれぞれの部材を圧着するようビスH2400で固定する。この際同時に、記録素子ユニットH1002はインク供給ユニットのX方向、Y方向、Z方向の基準位置に対して正確に位置決めがされ固定される。
【0083】
そして記録素子ユニットH1002の電気コンタクト基板H1301はインク供給部材H1500の一側面に、端子位置決めピンH1515(2ヶ所)と端子位置決め穴H1309(2ヶ所)により位置決めされ、固定される。固定方法は、例えば、インク供給部材H1500に設けられた端子結合ピンH1515をしめることにより固定されるが、その他の固定手段を用いて固定しても良い。完成図を図9に示す
更にインク供給部材H1500のタンクホルダーとの結合穴及び結合部をタンクホルダーH2000に勘合させ結合することにより記録ヘッドH1001が完成する。完成図を図10に示す。
(2)記録ヘッドカートリッジ
先述の図3(a)、(b)は、記録ヘッドカートリッジH1000を構成する記録ヘッドH1001とインクタンクH1901、H1902、H1903、H1904の装着を説明する図であり、インクタンクH1901、H1902、H1903、H1904の内部には、対応する色のインクが収納されている。又、図8に示すようにそれぞれのインクタンクには、インクタンク内のインクを記録ヘッドH1001に供給するためのインク供給口H1907が形成されている。例えばインクタンクH1901が記録ヘッドH1001に装着されると、インクタンクH1901のインク供給口H1907が記録ヘッドH1001のジョイント部H1520に設けられたフィルターH1700と圧接され、インクタンクH1901内のブラックインクがインク供給口H1907から記録ヘッドH1001のインク流路H1501を介して第一のプレートH1200を通り第一の記録素子基板に供給される。
【0084】
そして、電気熱変換素子H1103と吐出口H1107のある発泡室H1109にインクが供給され、電気熱変換素子H1103に与えられる熱エネルギーによって被記録媒体である記録用紙に向けて吐出される。
【0085】
尚、ここでは記録ヘッドの一形態として、電気信号に応じて膜沸騰をインクに対して生じさせるための熱エネルギーを生成する電気熱変換体(記録素子)を用いて記録を行うバブルジェット(登録商標)方式の記録ヘッドについて一例を挙げて述べた。又、第二の力学的エネルギーを利用したインクジェット記録装置の形態として、複数のノズルを有するノズル形成基板と、ノズルに対向して配置される圧電材料と導電材料からなる圧力発生素子と、この圧力発生素子の周囲を満たすインクを備え、印加電圧により圧力発生素子を変位させ、インクの小液滴をノズルから吐出させるオンデマンドインクジェット記録ヘッドを挙げることができる。
【0086】
そのほか、インクカートリッジとしては、記録ヘッドにインク供給部材、例えば、チューブを介して供給されるインクを収容したものも用いられる。
【0087】
又、本発明で使用されるインクジェット記録装置としては、上述の様にヘッドとインクカートリッジとが別体となったものに限らず、それらが一体になったものにも好適に用いられる。
【0088】
又、インク吸収体を用いず、例えばインク収容部が内部にバネ等を仕込んだインク袋であるような構造でもよい。
【0089】
<画像形成方法>
本発明の画像形成方法は、少なくとも、一般式Iの色材及びC.I.ダイレクトイエロー132とを含む第一のインクと、フタロシアニン骨格を有する色材を含む第二のインクを用い、被記録媒体上に混色画像を形成することに特徴がある。
【0090】
本構成要件を詳しく説明するにあたり、画像形成方法の一例としてインクジェット記録方法を用い、イエローインクとして第1のインク、シアンインクとして第2のインクを用いた場合について述べる。
【0091】
インクジェット記録方法では、被記録媒体上でイエローインクとシアンインクを任意の割合で組み合わせることにより、イエロー〜グリーン〜シアンまで連続的な色相を持つ画像を被記録媒体上に形成することができ、好ましい記録技術である。ここで、イエローインクとシアンインクとを同一画像領域に付与して混色画像を形成するにあたり、特にそれぞれの付与量や付与する順序、各インクドットの配置等に限定はない。特に本発明の耐候性を向上する効果を奏するトータル染料付与密度としては、上限として好ましいのは0.5mg/inch2以下であり、より好ましいのは0.35mg/inch2以下である。又、下限としては好ましいのは、0.10mg/inch2以上である。又、付与している第1のインク中の色材の量は第2のインク中のフタロシアニン骨格を有する色材の量の0.1〜10倍がよい。更により好ましい形態として、色再現範囲を広げ、混色画像の耐候性を効果的に向上させるために、被記録媒体上でのインクドットの形成状態として、被記録媒体上で形成されるシアンインクのドットとイエローインクの両方のドットが隣接若しくは一部又は全部が重なって存在している状態で、混色画像を形成するのが好ましい形態である。
【0092】
この場合、画像データを形成する際に、後述する二値化処理の前段階の入力データ上で、シアンインクの画像データにて画素データが非ゼロ(少なからず該色成分を有する)となる画素では、イエローインクの画像データも同じく非ゼロとなるように入力画像データを形成しても良いし、二値化処理後にそれぞれのドットが重なる領域ができるだけ広く確保されるように二値化処理後の出力データを形成してもよい。
【0093】
この場合の画素データとは入力画像データに対して後述する二値化処理部において実施される処理の中で、入力画像データの最小構成単位を画素と称し、その画素に格納されるデータを画素データと呼ぶことにする。
【0094】
とりわけ、ドットの重なる確率の高さや、処理のし易さの点で、該入力データの画素データ内でシアンインクのデータが非ゼロとなる画素にはイエローインクの画素データを同じく非ゼロとするように画像データを形成するのが好ましい。よって、画素データ内にそれぞれのインクのデータを含むことによって、上述のような重ね打ちが実現される。
【0095】
本実施形態では、基本的に単一のサイズのドットを用いるものであり、画素毎にドットのON/OFF情報である二値データを生成して画像形成を実行する。ここでは、インクジェット記録装置に接続されるデータ処理装置(ホストコンピュータ)において画像情報の二値化処理が行われる。二値化手法としては、誤差拡散法やディザ法、あるいはこれらの併用方式を含めて多くの手法があるが、システムや画像情報の特性に応じて最適な手法を選択するものである。ホストPCによって生成された二値データはインクジェット記録装置へと転送される。
【0096】
ここで、本実施形態の二値化処理である誤差拡散法について簡単に説明する。誤差拡散法は、注目画素をP、その画素の濃度をV、P点の周辺の未2値化画素P0、P1、P2、P3の濃度をそれぞれV0、V1、V2、V3、二値化のための閾値をTとすると、着目点Pにおける二値化誤差Eを周辺画素P0、P1、P2、P3に経験的に求めた重み係数W0、W1、W2、W3で重み付け処理をして振り分ける。次に、振り分けられた誤差を周辺画素データに加算していき、マクロ的に出力画像の平均濃度を入力画像の濃度と等しくする。この時、出力される二値画像データをOとすると、以下の式により周辺画素P0、P1、P2、P3に対する誤差E0、E1、E2、E3を求めることができる。
【0097】
O=1、E=V−Vmax(V≦T) ・・・(1)
O=0、E=V−Vmin(V>T) ・・・(2)
(Vmax:最大濃度、Vmin:最小濃度)
二値化誤差は、以下のようになる。
【0098】
E0=E×W0 ・・・(3)
E1=E×W1 ・・・(4)
E2=E×W2 ・・・(5)
E3=E×W3 ・・・(6)
以上の操作を入力画素毎に順次行っていく。
【0099】
本実施形態においては、前述のように、シアンインクとイエローインクを用いて被記録媒体上に混色画像を記録する際に、シアンインクが含まれる画素データに対しイエローインクの各々のデータを含むことで、被記録媒体上にそれぞれのインクを重ね打ちして画像を記録するようにしている。
【0100】
尚、本発明に用いられる画像形成方法は、インクジェット記録方法以外にも、オフセット印刷方法、グラビア印刷方法、電子写真印刷方法等、従来から一般に用いられている方法を用いることができる。
【0101】
又、本発明の実施形態として、イエローインク、シアンインク以外に、フルカラーの画像を得るために、例えばマゼンタインク、ブラックインクなど別の色相を持つ基本色のインクを追加することは、全色相の色再現範囲を広げるのに効果的であるため好ましい形態である。又、これらのインクと同一色調の淡インクを組み合わせて用いる画像形成方法の場合、中間調の粒状性や連続的な色の表現が更に向上するために好ましく用いることができる。
【0102】
以下、実施例を用いて更に具体的に説明するが、本発明はその要旨を超えない限り、下記実施例により限定されるものではない。尚、以下の記載で「%」とあるものは、特に断りのない限り質量基準である。
【0103】
<第1のインク>
下記に示した各成分を添加し、総量が100部になるように水を混合した後、十分に攪拌して溶解させた。その後、ポアサイズ0.2μmのミクロフィルターにて加圧ろ過し、実施例1〜6及び比較例1に用いられる、第1のインクを調製した。
・グリセリン 7.5部
・1,5−ペンタンジオール 7.5部
・エチレン尿素 6.0部
・アセチレングリコールエチレンオキサイド付加物 0.8部
(商品名:アセチレノールEH;川研ファインケミカル製)
・染料 所定量部
・水 残部
第1のインクの色材には、下記表2に示す色材を用いた。
【0104】
【表2】

【0105】
(例示化合物I)
【0106】
【化7】

【0107】
<第2のインク>
下記に示した各成分を混合し、第1のインクと同様の方法でフタロシアニン骨格を有する色材を含有した第2のインクを調製した。
・グリセリン 10部
・ジエチレングリコール 10部
・アセチレングリコールエチレンオキサイド付加物 1部
(商品名:アセチレノールEH;川研ファインケミカル製)
・色材 0.7部
・水 残部
第2のインクの色材には、一般式IIの色材を用いた。(この時、一般式IIで表される色材における(x+y=4)/(x+y=3)の値は2.3)
(一般式II)
【0108】
【化8】

【0109】
上記のように調製した記録インクを、インクジェット式画像形成装置であるPIXUS950i用のインクカートリッジに詰め、前記画像形成装置を用いて、記録媒体SP−101(キヤノン製)上に印字を行い、以下の評価を行った。本画像形成装置で記録されるベタ印字部の100%デューティとは、2400×1200dpiの解像度ですべての画素を1ドット付与した場合を示し、このとき、1ドットあたり2.5ngのインクを付与している。画像のL、a、bの測定にはGretag Spectrolino(Gretag製)を用いた。測定条件は、観測光源:D50、観測視野:2度にて行った。
(1)発色性
第1のインクと第2のインクを用いて、各100%デューティを同一画像領域に付与した200%デューティのベタ画像を形成したのち、画像のL、a、bの測定を行った。測定したL、a、bから、彩度(C)を下記式にて算出した。
【0110】
【数1】

【0111】
算出した彩度(C)を用いて、下記基準にて発色性の評価を行った。結果を表3に示す。
【0112】
AA:85以上
A:80以上85未満
B:75以上80未満
C:75未満
(2)耐光性
第1のインクのデューティを0〜100%デューティまで段階的に振り、第2のインクは常に100%デューティというような条件で第1、第2のインクによる段階的に階調を振った画像を形成した。
【0113】
評価装置:キセノンフェードメータCi35(アトラス製)
暴露条件:槽内温度25℃、相対湿度55%、照度キセノンランプ0.39W/m2、30時間
評価方法:暴露前、暴露後の試験サンプルのCIE Lを測定。下記計算式より色差ΔEを算出した。
【0114】
【数2】

【0115】
特に耐光性の悪い中間調の部分(第1のインク30%デューティ+第2のインク100%デューティ、総染料付与密度0.11mg/inch2)のΔEを算出し、下記基準にて評価を行った。結果を表3に示す。
【0116】
AA:30未満
A:30以上35未満
B:35以上40未満
C:40以上
(3)耐ガス性
第1のインクと第2のインクを用いて、各100%デューティを同一画像領域に付与した200%デューティのベタ画像(総染料付与密度0.26mg/inch2)を形成した。
【0117】
評価装置:オゾンフェードメーター
暴露条件:槽内温度40℃、相対湿度55%、3ppmのオゾン雰囲気下の条件で、2時間
評価方法:暴露前、暴露後の試験サンプルのCIE Lを測定。下記計算式より色差ΔEを算出した。
【0118】
【数3】

【0119】
算出したΔEを用いて、下記基準にて評価を行った。結果を表3に示す。
【0120】
AA:25未満
A:25以上30未満
B:30以上35未満
C:35以上
【0121】
【表3】

【0122】
実施例1〜6では、発色性と耐候性がともに優れた画像が得られた。一方比較例1では、耐候性が劣る結果となった。
【図面の簡単な説明】
【0123】
【図1】本発明の実施形態におけるインクジェットプリンタの外観構成を示す斜視図である。
【図2】図1に示すものの外装部材を取り外した状態を示す斜視図である。
【図3】図3(a)は本発明のインクジェット記録ヘッドを搭載可能な、好適な記録ヘッドカートリッジの斜視図、図3(b)はその分解斜視図である。
【図4】図3に示す記録ヘッドの構成を示す分解斜視図である。
【図5】図3に示す記録ヘッドを更に細かく分解した分解斜視図である。
【図6】図3の記録ヘッドカートリッジの記録素子基板の構成を示す一部切りかき説明斜視図である。
【図7】図3の記録ヘッドカートリッジの他の記録素子基板の構成を示す一部切りかき説明斜視図である。
【図8】図3の記録ヘッドカートリッジの要部断面図である。
【図9】図3の記録ヘッドカートリッジの記録素子ユニットとインク供給ユニットを組み立てたものを示す斜視図である。
【図10】図3の記録ヘッドカートリッジの底面側を示す斜視図である。
【符号の説明】
【0124】
M1000 装置本体
M1001 下ケース
M1002 上ケース
M1003 アクセスカバー
M1004 排出トレイ
M2015 紙間調整レバー
M3001 LFローラ
M3006 排紙ローラ
M3019 シャーシ
M3022 自動給送部
M3029 搬送部
M3030 排出部
M4001 キャリッジ
M4002 キャリッジカバー
M4007 ヘッドセットレバー
M4021 キャリッジ軸
M5000 回復系ユニット
E0001 キャリッジモータ
E0002 LFモータ
E0018 電源キー
E0019 レジュームキー
E0020 LED
H1000 記録ヘッドカートリッジ
H1001 記録ヘッド(インクジェット記録ヘッド)
H1002 記録素子ユニット
H1003 インク供給ユニット
H1100 第1の記録素子基板
H1101 第2の記録素子基板
H1102 インク供給口(供給口)
H1103 電気熱変換素子(記録素子)
H1104 電極
H1105 バンプ
H1106 インク流路壁
H1107 吐出口
H1108 吐出口群
H1110 Si基板
H1200 第1のプレート(第1の支持部材)
H1201 インク連通口
H1202 第1の接着剤
H1203 第2の接着剤
H1300 電気配線テープ(可撓性の配線基板)
H1301 外部信号入力端子
H1302 電極リード
H1306 第3の接着剤
H1307 第1の封止剤
H1308 第2の封止剤
H1309 端子位置決め穴
H1310 端子固定部
H1400 第2のプレート
H1500 インク供給部材
H1501 インク流路
H1503 第1の穴
H1509 X突き当て部
H1510 Y突き当て部
H1511 Z突き当て部
H1512 端子固定部
H1516 端子位置決めピン
H1520 ジョイント部
H1600 流路形成部材
H1601 装着ガイド
H1602 インク連通口
H1700 フィルター
H1800 シールゴム
H1900 インクタンク
H1901 ブラックインクタンク
H1902 第2のインクタンク
H1903 マゼンタインクタンク
H1904 第1のインクタンク
H1907 インク連通口
H1910 第2の爪
H2000 タンクホルダー
H2200 電気コンタクト基板
H2300 ジョイントシール部材
H2400 ビス

【特許請求の範囲】
【請求項1】
フタロシアニン骨格を持つ色材を含有したインクと共に用いる、混色画像を形成するためインクであって、該インクが少なくとも下記一般式Iで表される色材及びC.I.ダイレクトイエロー132を含有することを特徴とする混色画像を形成するためのインク。
(一般式I)
【化1】

(式中、R1及びR2は、それぞれ独立にH、置換されていてもよいアルキル、置換されていてもよいアリール又は置換されていてもよいアリールアルキルであり;それぞれのW及びそれぞれのXは、独立に−COOH、−SOH、−PO又は−COOH、−SOH、−POから選択された一つ若しくはそれ以上の基で置換されたアルキルであり;それぞれのY及びそれぞれのZは独立に、W及びXに対して定義した以外の置換基であり;a及びdは、それぞれ独立に1ないし5であり;b及びcは、それぞれ独立に0ないし4であり;(a+b)は、5以下の値を有し;そして(c+d)は、5以下の値を有する)
【請求項2】
一般式Iで表される色材及びC.I.ダイレクトイエロー132の含有量の合計が、前記混色画像を形成するためインク中に含まれる色材の総量の85%以上である請求項1に記載の混色画像を形成するためのインク。
【請求項3】
一般式Iで表される色材の含有量が、C.I.ダイレクトイエロー132の含有量の0.3倍〜2倍である請求項1に記載の混色画像を形成するためのインク。
【請求項4】
一般式Iで表される色材が、下記構造式Iで表される、請求項1〜3の何れか1項に記載の混色画像を形成するためのインク。
(構造式I)

【化2】

【請求項5】
色材として少なくとも一般式Iで表される色材及びC.I.ダイレクトイエロー132を含有した第1のインクと、フタロシアニン骨格を持つ色材を含有した第2のインクとにより混色画像を形成することを特徴とする画像形成方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2006−169320(P2006−169320A)
【公開日】平成18年6月29日(2006.6.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−361427(P2004−361427)
【出願日】平成16年12月14日(2004.12.14)
【出願人】(000001007)キヤノン株式会社 (59,756)
【Fターム(参考)】