説明

添加剤及び汚染土壌及び/又は汚染地下水の浄化方法

【課題】嫌気性微生物の働きを利用した有機塩素化合物による汚染土壌等の浄化処理に要する期間を短縮すること。
【解決手段】トリクロロエチレン等の有機塩素化合物で汚染された土壌及び/又は地下水に、前記有機塩素化合物の分解に関与する脱塩素化菌等の増殖を促進する添加剤として、有機酸系の物質と、たんぱく質系の物質と、を含む添加剤を用いる。有機酸系の物質としては、クエン酸及び/又はその塩のような有機酸及び/又はその塩を用いることができる。たんぱく質系の物質としては、酵母エキスやペプトンのようなたんぱく質及び/又はその加水分解物を用いることができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、有機塩素化合物で汚染された土壌や地下水の浄化に用いられる添加剤、及び、添加剤を添加して微生物の働きにより有機塩素化合物で汚染された土壌等を浄化する浄化方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、トリクロロエチレン等の揮発性の有機塩素化合物により汚染された土壌や地下水を原位置で浄化する方法として、バイオレメディエーション技術の一種である嫌気性バイオ法が知られている。嫌気性バイオ法は、汚染された土壌等に微生物の栄養源となる添加剤を添加して、微生物の働きにより有機塩素化合物を還元的に分解させる方法である。嫌気性バイオ法では、汚染された土壌等に添加される添加剤の種類や量により、有機塩素化合物を分解する微生物の活性が異なるため、添加剤の選択は浄化処理に要する期間を左右する要素となっている。
【0003】
そこで、嫌気性バイオ法で用いられる添加剤について検討がなされ、従来、乳糖や蔗糖のような糖類を添加剤とする方法や、クエン酸及び/又はその塩のような有機酸及び/又はその塩を添加剤とする方法が提案されている(例えば特許文献1)。
【0004】
特許文献1において添加剤として用いられるクエン酸及び/又はその塩は、食品添加物として利用されている物質であり安全性が高く、入手が容易で処理コストを低くできる。また、クエン酸及び/又はその塩は鉄等の金属イオンに対するキレート能を有するため、地下水に添加された場合に金属イオンの沈殿を防止できる。さらに、有機塩素化合物の分解に関与する微生物は中性域を示適pH域とし、また、クエン酸及び/又はその塩は中性域でのpH緩衝能を有するため、添加剤としてクエン酸及び/又はその塩を用いることにより、pH調整剤を添加することなく、微生物の活動に好適な環境を調整できる。
【特許文献1】特開2002−1304号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで嫌気性バイオ法は、微生物活動を利用して有機塩素化合物を分解させるため、酸化剤の注入や、地下水の揚水及び曝気等を行って物理化学的に汚染を除去する方法に比して浄化処理に時間を要する傾向がある。このため嫌気性バイオ法において、微生物の活性を促進して浄化効率を向上させ、汚染場所の浄化に要する期間をより短縮することが求められている。そこで、本発明は嫌気性バイオ法において用いられる添加剤であって、微生物の活性を促進して処理時間を短縮化できる添加剤を提供することを目的とする。本発明はまた、安全性が高く、安価かつ容易に入手でき、処理コストの上昇を防止できる添加剤を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、有機塩素化合物で汚染された土壌や地下水等を微生物の働きにより、浄化するバイオレメディエーションにおいて用いられる添加剤であって、有機酸系の物質と、たんぱく質系の物質と、を含み、嫌気性微生物の活性を促進できる添加物を提供する。より具体的には、本発明は以下を提供する。
【0007】
(1) 有機塩素化合物により汚染された土壌及び/又は汚染された地下水に添加される添加剤であって、有機酸及び/又はその塩と、たんぱく質及び/又はその加水分解物と、を含む添加剤。
【0008】
(2) 前記有機酸及び/又はその塩は、キレート能を有する有機酸及び/又はその塩である(1)に記載の添加剤。
【0009】
(3) 前記キレート能を有する有機酸及び/又はその塩は、クエン酸、アスコルビン酸、クエン酸塩、及びアスコルビン酸塩からなる群より選ばれる1種又は2種以上の物質である(2)に記載の添加剤。
【0010】
(4) 前記たんぱく質及び/又はその加水分解物は、酵母エキス、麦芽エキス、肉エキス、魚肉エキス、及びペプトンからなる群より選ばれる1種又は2種以上の物質である(1)から(3)のいずれかに記載の添加剤。
【0011】
(5) 前記有機酸及び/又はその塩と、前記たんぱく質及び/又はその加水分解物と、を1:0.001〜0.1の重量比で混合する(1)から(4)のいずれかに記載の添加剤。
【0012】
(6) 有機塩素化合物により汚染された土壌及び/又は汚染された地下水に添加剤を添加して、前記有機塩素化合物を嫌気性微生物により還元的に分解させる汚染土壌及び/又は汚染地下水の浄化方法であって、前記添加剤は、有機酸及び/又はその塩と、たんぱく質及び/又はその加水分解物と、を含む汚染土壌及び/又は汚染地下水の浄化方法。
【0013】
(7) 前記汚染場所における前記有機酸及び/又はその塩の濃度を0.5〜5g/Lとし、前記汚染場所における前記たんぱく質及び/又はその加水分解物の濃度を、前記有機酸及び/又はその塩の濃度の0.001〜0.1倍とする(6)記載の汚染土壌及び/又は汚染地下水の浄化方法。
【0014】
本発明で分解対象となる有機塩素化合物の具体例としては、塩化ビニル、1,1,1−トリクロロエタン、1,2−ジクロロエタン、テトラクロロエチレン(PCE)、トリクロロエチレン(TCE)、四塩化炭素、及びジクロロエチレン(DCE)等が挙げられ、ダイオキシン類を含むポリクロロビフェニル(PCB)も本発明の有機塩素化合物に含まれる。
【0015】
有機酸及び/又はその塩としては、クエン酸、酢酸、アスコルビン酸、エリソルビン酸、シュウ酸、酒石酸、マロン酸、リンゴ酸、及びコハク酸等のカルボン酸及び/又はその塩が挙げられる。クエン酸、アスコルビン酸、エリソルビン酸、シュウ酸、酒石酸、マロン酸、リンゴ酸、及びコハク酸は、キレート能を有する有機酸として特に好適に使用できる。中でもクエン酸及びアスコルビン酸、並びにこれらの塩は、キレート能を有し、安全性が高く、中性域でpHの緩衝能を有するため、特に好適に使用できる。また、有機酸の塩としては、ナトリウム塩、カリウム塩、カルシウム塩、及びアンモニウム塩等が挙げられる。
【0016】
たんぱく質及び/又はその加水分解物としては、安全性が高く、微生物に資化されやすい酵母エキス、麦芽エキス、肉エキス、魚肉エキス及びペプトンからなる群より選ばれた1種又は2種以上の物質が好適に使用できる。これらの物質の他、大豆や落花生等の豆抽出物、卵白、及び乳たんぱく等の植物又は動物性のたんぱく質、並びにこれらのたんぱく質をプロテアーゼやペプシン等で部分的に分解した加水分解物も、たんぱく質及び/又はその加水分解物として利用できる。たんぱく質の加水分解物は、平均分子量で1500〜10000程度の分子量を備えることが好ましい。
【0017】
添加剤は、土壌のみ、地下水のみ、又は土壌と地下水の両方(以下、「土壌等」という)に添加され、水溶液又は水分散液として液状で使用されることが好ましい。添加剤を液状とする場合、有機酸及び/又はその塩と、たんぱく質及び/又はその加水分解物と、を別々に液状としてもよく、両者を混合した混合液としてもよい。混合液においては、有機酸及び/又はその塩を1とした場合に、たんぱく質及び/又はその加水分解物が0.001〜0.1、特に0.005〜0.06の割合(重量比)で含まれることが好ましい。
【0018】
本発明に係る添加剤を液状とする場合、汚染された土壌等における有機酸及び/又はその塩の濃度が0.1g/L以上、より具体的には0.5〜5g/Lで、かつ、たんぱく質及び/又はその塩の濃度が1mg/L以上、より具体的には1〜100mg/Lとなるよう、添加剤に含まれる有機酸及び/又はその塩、並びにたんぱく質及び/又はその塩の濃度を調整することが好ましい。
【0019】
本発明に係る添加剤は、土壌の掘削及び/又は地下水の揚水を伴わずに汚染された土壌等を原位置で浄化する、いわゆる原位置浄化法に用いることができる。しかし本発明は、土壌等を掘削する掘削除去法での処理に用いることもでき、この場合は掘削及び/又は揚水した土壌等に添加剤を添加する。
【0020】
添加剤を原位置で添加する方法としては、汚染土壌等に添加剤を散布する方法や、汚染された土壌や地下水の層まで延びる注入管を設置してこの注入管から添加剤を注入する方法等が挙げられる。土壌等に添加剤を散布する場合、液状とした有機酸及び/又はその塩(以下、「有機酸系液」という)と、液状としたたんぱく質及び/又はその加水分解物(以下、「たんぱく質系液」という)と、を別々に散布してもよく、両者の混合液を散布してもよい。
【0021】
有機酸系液とたんぱく質系液とを別々に散布する場合、散布順序は特に限定されないが、たんぱく質系液を先に散布することが好ましい。また、注入管から添加剤を汚染土壌等に添加する場合も、混合液を用いてもよく、有機酸系液とたんぱく質系液とを用いてもよい。有機酸系液とたんぱく質系液とを別々に注入する場合、2種類の液体を交互に注入することが好ましい。
【0022】
掘削又は揚水した土壌等に添加剤を添加する方法としては、掘削等した土壌等に添加剤を混合した後、土壌等を埋め戻す等して原位置に戻す方法が挙げられる。また、掘削した土壌を略筒状の容器に入れて濾床とし、この濾床に液状の添加剤を通水してもよい。濾床には、汚染された地下水を被処理液として、添加剤と被処理液とを交互に通水することにより、汚染された土壌及び地下水を共に浄化することもできる。
【発明の効果】
【0023】
本発明によれば、有機酸及び/又はその塩と、たんぱく質及び/又はその加水分解物と、を併用することにより、有機塩素化合物の分解に関与する嫌気性微生物の増殖を促進することができる。このため、本発明によれば有機塩素化合物で汚染された土壌等の分解効率を高め、浄化処理に要する時間を短縮できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0024】
以下、注入管を設置して添加剤を汚染土壌と地下水とに注入して添加する原位置浄化法を本発明の一実施形態として、図面を参照しながら本発明について詳細に説明する。
【0025】
図1は、汚染土壌及び地下水の原位置浄化法を説明するための土壌の断面模式図である。図1において、符号21は地表面に存在する飽和層、22は有機塩素化合物に汚染された地下水が流れる帯水層、23は粘土等が堆積した不透水層を示す。本実施態様においては、汚染された地下水及び土壌を嫌気性微生物の働きにより浄化するため、地表から注入管11を地中に挿入し、注入管11から帯水層22に添加剤を注入する。
【0026】
注入管11は、汚染物質の濃度にもよるが、汚染された土壌等が存在する場所に、5〜20m間隔で複数設けることが好ましい。注入管11はポンプ13を介してタンク12と接続され、タンク12に保持された添加剤がポンプ12及び注入管11を介して地中へ添加される。
【0027】
添加剤は、有機酸及び/又はその塩と、たんぱく質及び/又はその加水分解物とを含む混合液としてもよく、これらを別々の液体として添加してもよい。有機酸系液とたんぱく質系液とを別々に添加する場合、これら2種の液体は複数の注入管11のそれぞれにおいて交互に添加されることが好ましいが、隣接する2つの注入管11の一方から有機酸系液を注入し他方からたんぱく質系の液体を注入することも本発明の範囲から排除されない。
【0028】
本実施形態では添加剤は有機酸及び/又はその塩と、たんぱく質及び/又はその加水分解物と、を予め混合して水に分散させた液状物で、注入管11から帯水層22及びその周辺土壌23(以下、「帯水層22等」という)に添加される。添加剤に含まれる有機酸及び/又はその塩と、たんぱく質及び/又はその加水分解物と、の濃度は、帯水層22における地下水の流速や注入管11の設置密度、添加剤の流動性等を考慮して定められるが、帯水層22等に添加されたときの有機酸及び/又はその塩の濃度が0.1g/L以上、特に0.5〜5g/Lで、かつ、たんぱく質及び/又はその加水分解物の濃度が1mg/L以上、特に1〜100mg/Lとなるように調整する。
【0029】
帯水層22等での有機酸及び/又はその塩の濃度が、0.1g/L未満では水素の供給が不足することにより、微生物の活動が停滞して有機塩素化合物の効率的な分解が行なわれない。一方、上記範囲を超える量の有機酸及び/又はその塩を添加しても、有機塩素化合物の分解効率に大差はなく、薬品の過剰添加による処理コストの増大となるため、好ましくない。
【0030】
また、帯水層22等でのたんぱく質及び/又はその加水分解物の濃度が1mg/L未満では、たんぱく質等と有機酸等とを併用することによる脱塩素化反応の促進効果が得られない。一方、100mg/Lを超える濃度のたんぱく質及び/又はその加水分解物が帯水層22等に添加しても、添加量に見合う効果の増大は得られない。
【0031】
注入管11から注入された添加剤に含まれるたんぱく質及び/又はその加水分解物は、有機酸及び/又はその塩に比して微生物により分解され易い。このため、有機酸及び/又はその塩に対して、0.001〜0.1倍量(重量比)程度の少量のたんぱく質及び/又はその加水分解物を添加することにより、有機酸及び/又はその塩を分解して水素を生成する水素生成菌の増殖を促進し、水素生成菌による有機酸等の分解を促進できる。脱塩素化菌は、水素生成菌により生成された水素を利用して帯水層22等に含まれる有機塩素化合物を分解する。そのため、たんぱく質及び/又はその加水分解物と、有機酸及び/又はその塩とを帯水層22等に添加することにより、汚染された地下水や土壌の浄化期間を短縮できる。
【0032】
なお、本発明において、添加剤はたんぱく質及び/又はその加水分解物と、有機酸及び/又はその塩以外の物質を含んでもよい。また、帯水層22等において有機塩素化合物がエチレンやエタンにまで分解されず、中間生成物としての塩化ビニルやジクロロエチレン等が蓄積する場合には、デハロコッコイデス(Dehalococoides)属のようにジクロロエチレン等を分解できる微生物を注入管11から添加してもよい。
【実施例】
【0033】
以下、実施例に基づき、本発明についてさらに詳細に説明する。
【0034】
[実施例1]
実施例1として、TCE、シス1,2ジクロロエチレン(cis−1,2−DCE)、トランス1,2ジクロロエチレン(trans−1,2−DCE)、1,1ジクロロエチレン(1,1−DCE)及び塩化ビニルモノマー(VC)で汚染されている地下水100mlを容積125mlのバイアル瓶に入れた。このバイアル瓶に、有機酸の塩としてクエン酸ナトリウム及びたんぱく質として酵母エキスを含む添加剤を添加し、ブチルゴムのゴム栓をした後、窒素ガスと二酸化炭素ガスとを7:3の割合で混合した混合ガスでパージした。これをアルミキャップでシールして嫌気条件として30℃で静置培養した。バイアル瓶からは定期的に内容物をサンプリングして、ガスクロマトグラフを用いて有機塩素化合物の濃度測定を行なった。なお、添加剤として添加したクエン酸ナトリウムの添加量は500mg/L、酵母エキスの添加濃度は50mg/L(たんぱく質及びその加水分解物の添加濃度としては14mg/L)とした。
【0035】
[比較例1]
比較例1として、酵母エキスを添加しなかった以外は実施例1と同様にし、クエン酸のみを添加剤として添加された地下水の入ったバイアル瓶を調製した。表1に、実施例1及び比較例1について、添加剤添加前、並びに添加後20日、40日、及び90日での有機塩素化合物濃度の測定結果を示す。測定値の単位はいずれもmg/Lである。
【0036】
【表1】

【0037】
[実施例2]
実施例2として、純水に窒素、リン、カリウム、カルシウム、ナトリウム、マグネシウム、鉄、及び微量金属等の無機化合物を添加して作成した合成培地を用いた実験を行なった。合成培地を用いた理由は、実施例1及び比較例1で用いた地下水自体に何らかの微生物活動を活性化、又は阻害する物質が含まれている可能性を考慮したためである。
【0038】
合成培地は実施例1で用いたものと同様のバイアル瓶に入れ、有機酸塩としてのクエン酸ナトリウム500mg/Lと、たんぱく質及びその加水分解物としての酵母エキス50mg/L(たんぱく質及びその加水分解物の添加濃度としては14mg/L)と、を添加剤として合成培地に添加した。次いで、このバイアル瓶にブチルゴムのゴム栓をして、窒素ガスと二酸化炭素ガスとを7:3の割合で混合した混合ガスでパージした。これをアルミキャップでシールして嫌気条件とした後、汚染物質としてcis−1,2−DCEを20mg/Lの濃度で添加した。さらにcis−1,2−DCEを含む培養液中で嫌気性微生物を培養した培養液を、0.05重量%の濃度で添加することにより、水素生成菌と脱塩素化菌とを含む嫌気性菌群を植菌し、30℃で静置培養した。バイアル瓶の内容物は定期的にサンプリングして、実施例1と同様にしてcis−1,2−DCEの濃度を測定した。
【0039】
[実施例3〜5]
実施例3として、たんぱく質及びその加水分解物として酵母エキスを用いる代わりに麦芽エキス50mg/L(たんぱく質及びその加水分解物の添加濃度としては3mg/L)を用いた以外は実施例2と同様にして実験した。実施例4は、たんぱく質及びその加水分解物として酵母エキスに代えて魚肉エキス50mg/L(たんぱく質及びその加水分解物の添加濃度としては10mg/L)を用いた他は実施例2と同様にした。実施例5は、酵母エキスに代えてたんぱく質の加水分解物としてのカゼインペプトン50mg/L(たんぱく質の加水分解物としての添加濃度は25mg/L)を用いた以外は実施例2と同様にした。
【0040】
[比較例2]
比較例2として、たんぱく質の代わりにビタミンを用い、クエン酸ナトリウム及びビタミンを添加剤として添加した以外は実施例2と同様にして実験した。ビタミンとしては、Wolin培地のビタミン溶液(The Journal of Biological Chemistry vol.238, No.8, August 1963参照)を用い、添加濃度は0.5mg/Lとした。
【0041】
[比較例3]
比較例3として、添加剤をクエン酸ナトリウムのみとした以外は実施例2と同様の条件で実験した。
【0042】
表2に実施例2〜5、並びに比較例2及び比較例3について、実験開始時(初期)と添加剤添加20日後のcis−1,2−DCE濃度の測定結果を示す。なお、表中、クエン酸以外の添加剤の添加濃度は、たんぱく質及び/又はその分解物としての添加濃度で示す。また、表2の※印で示したビタミンの添加濃度は、Wolin培地の濃度と同じ濃度としたことを意味する。
【0043】
【表2】

【0044】
表1及び表2に示すように、添加剤としてクエン酸ナトリウムのみ、またはクエン酸ナトリウムとビタミンとを加えた場合でも、有機塩素化合物は分解されるが、たんぱく質又はその加水分解物をクエン酸ナトリウムと併用すると、分解に要する時間を半分又はそれ以下に短縮できる。このように、本発明によれば、クエン酸ナトリウムのような有機酸系の物質と、酵母エキス等のたんぱく質系の物質とを添加剤とすることにより、有機塩素化合物の微生物による分解処理速度を大きくできる。
【0045】
さらに、有機酸及び/又はその塩と、たんぱく質及び/又はその加水分解物との添加量について検討するため、実施例2で用いた合成培地を用いて実験を行なった(参考例1〜9)。参考例1〜9では、有機酸塩としてクエン酸ナトリウム又はL−アスコルビン酸ナトリウムを用い、たんぱく質及びその加水分解物として酵母エキスを用い、それぞれの添加量を変化させた。
【0046】
具体的には、合成培地を実施例2と同様にバイアル瓶に入れ、参考例1については、クエン酸ナトリウム500mg/Lのみを添加剤として合成培地に添加した後、実施例2と同様の操作を行い嫌気条件とした後、汚染物質としてcis−1,2−DCEを20mg/Lの濃度で添加し、さらに実施例2と同様にして、水素生成菌と脱塩素化菌とを含む嫌気性菌群を植菌し、30℃で静置培養した。バイアル瓶の内容物は定期的にサンプリングして、実施例1および2と同様にしてcis−1,2−DCEの濃度を測定した。
【0047】
参考例2については、添加剤としてクエン酸ナトリウム500mg/Lと酵母エキス1mg/L(たんぱく質及びその加水分解物としての濃度は0.28mg/L)を添加した以外は参考例1と同様にした。参考例3〜6については、酵母エキスの添加量を変えた以外は参考例2と同様にした。具体的には、酵母エキスの添加量は、参考例3は10mg/L(たんぱく質及びその加水分解物としての濃度は2.8mg/L)、参考例4は50mg/L(たんぱく質及びその加水分解物としての濃度は14mg/L)、参考例5は100mg/L(たんぱく質及びその加水分解物としての濃度は28mg/L)、参考例6は1000mg/L(たんぱく質及びその加水分解物としての濃度は280mg/L)とした。
【0048】
参考例7は添加剤を酵母エキス50mg/L(たんぱく質及びその加水分解物としての濃度は14mg/L)のみとし、参考例8は添加剤をL−アスコルビン酸ナトリウム500mg/Lのみとした以外は参考例1と同様にした。参考例9は、添加剤としてL−アスコルビン酸ナトリウム500mg/Lと酵母エキス50mg/L(たんぱく質及びその加水分解物としての濃度は14mg/L)を添加した以外は参考例1と同様にした。
【0049】
表3に参考例1〜9について、実験開始時(初期)と添加剤の添加13日後のcis−1,2−DCE濃度の測定結果を示す。なお、表3において符号Aはクエン酸ナトリウム、符号BはL−アスコルビン酸ナトリウムを示し、酵母エキス添加量の「全体」というのは酵母エキスとしての添加濃度を示し、「たんぱく質」というのはたんぱく質及びその加水分解物としての添加濃度を示す。
【0050】
【表3】

【0051】
表3に示すように、有機酸塩または酵母エキスのみの添加では、cis−1,2−DCEの分解率は5%程度に留まった(参考例1、7および8)。一方、たんぱく質及びその加水分解物を1mg/L以上となるようにして有機酸塩とともに添加した参考例3〜6および9では分解率が2倍以上になった。また、参考例4、5では、酵母エキスの添加量を2倍にすることにより、分解率を2倍以上にできたが、参考例5の10倍の酵母エキスを添加した参考例6では、分解率は飛躍的には増大せず、添加量の増大に応じた分解効果の向上は確認されなかった。さらに、参考例4および9の比較から、有機酸塩としては、クエン酸ナトリウムより、L−アスコルビン酸ナトリウムを用いる方が高い効果を得られることが判明した。
【産業上の利用可能性】
【0052】
本発明は、トリクロロエチレンのような有機塩素化合物で汚染された土壌や地下水の浄化に用いることができる。
【図面の簡単な説明】
【0053】
【図1】土壌及び地下水の原位置浄化法を説明するための土壌の断面模式図である。
【符号の説明】
【0054】
11 注入管
12 タンク
21 飽和層
22 帯水層
23 不透水層

【特許請求の範囲】
【請求項1】
有機塩素化合物により汚染された土壌及び/又は汚染された地下水に添加される添加剤であって、
有機酸及び/又はその塩と、たんぱく質及び/又はその加水分解物と、を含む添加剤。
【請求項2】
前記有機酸及び/又はその塩は、キレート能を有する有機酸及び/又はその塩である請求項1に記載の添加剤。
【請求項3】
前記キレート能を有する有機酸及び/又はその塩は、クエン酸、アスコルビン酸、クエン酸塩、及びアスコルビン酸塩からなる群より選ばれる1種又は2種以上の物質である請求項2に記載の添加剤。
【請求項4】
前記たんぱく質及び/又はその加水分解物は、酵母エキス、麦芽エキス、肉エキス、魚肉エキス、及びペプトンからなる群より選ばれる1種又は2種以上の物質である請求項1から3のいずれかに記載の添加剤。
【請求項5】
前記有機酸及び/又はその塩と、前記たんぱく質及び/又はその加水分解物と、を1:0.001〜0.1の重量比で混合する請求項1から4のいずれかに記載の添加剤。
【請求項6】
有機塩素化合物により汚染された土壌及び/又は汚染された地下水に添加剤を添加して、前記有機塩素化合物を嫌気性微生物により還元的に分解させる汚染土壌及び/又は汚染地下水の浄化方法であって、
前記添加剤は、有機酸及び/又はその塩と、たんぱく質及び/又はその加水分解物と、を含む汚染土壌及び/又は汚染地下水の浄化方法。
【請求項7】
前記汚染場所における前記有機酸及び/又はその塩の濃度を0.5〜5g/Lとし、
前記汚染場所における前記たんぱく質及び/又はその加水分解物の濃度を、前記有機酸及び/又はその塩の濃度の0.001〜0.1倍とする請求項6記載の汚染土壌及び/又は汚染地下水の浄化方法。

【図1】
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【公開番号】特開2006−142140(P2006−142140A)
【公開日】平成18年6月8日(2006.6.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−332453(P2004−332453)
【出願日】平成16年11月16日(2004.11.16)
【出願人】(000001063)栗田工業株式会社 (1,536)
【Fターム(参考)】