説明

添加物含有シリカを用いたマイクロスフェア型光イオン・センサ

【課題】 目的イオンを結合し得るイオノフォアと、前記イオノフォアによる目的イオンの結合に応答して検出可能な信号を生成し得るインジケータと、をドープした微粒子状シリカを含む液体試料中の該目的イオンの濃度を決定するセンサを提供する。
【解決手段】 センサは、液体試料中の目的イオンの濃度を決定するセンサであって、目的イオンを結合し得るイオノフォアと、該イオノフォアによる該目的イオンの結合に応答して検出可能な信号を生成し得るインジケータとをドープした微粒子状シリカを含む。前記検出可能な信号は、前記液体試料中の目的イオンの濃度に関連する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連する出願の参照
本出願は、2005年1月31日出願の米国特許出願第60/648,527号に対する優先権を主張し、その全文をここに参照によって引用する。
【0002】
連邦政府による資金提供を受けた研究開発に関する申し立て
本発明は、国立保健衛生研究所から交付された米国政府による資金援助第DE14950号に基づいて実施された。米国政府は本発明における然るべき権利を有する。
【0003】
本発明はマイクロスフェア型化学センサに関し、特に添加物含有シリカ・テンプレートを利用したマイクロスフェア型光イオン・センサに関する。
【背景技術】
【0004】
センサの小型化に関する集中的な努力の一部として、マイクロスフェア型化学センサ及びバイオセンサの製造への関心がこの10年間で高まってきた。マイクロスフェアを用いるセンシングのプラットフォームには、幾つかの利点がある。このマイクロメートル・サイズのセンサは、例えば単細胞内の様な、或る特定の局所環境内における被分析物の濃度を問いかけることができる。また、必要な試料体積が非常に少ないことから、感度が向上し、応答時間が短縮され、試薬にかかる付帯費用が減少し、検出下限を改善することができる。さらに、多数の同じマイクロスフェアから読み取りを行うことで、センシング情報の冗長度が増し、精度が向上する。マイクロスフェアを用いたセンシングの原理は、光イメージング・ファイバ及びフロー・サイトメトリーといった或る種の読取形式に適用されて成果を上げている。例えば「イオン検出用マイクロスフェアとその使用方法」と題する米国特許公開第2004/0058384号公報にその説明がなされており、その全文をここに参照によって引用する。
【0005】
マイクロスフェアに組み込まれ得る様々な分析手法の中でも、中性担体を用いたマイクロスフェア型オプトードは一般的な解質のイオン活量を信頼性良く測定することができる。イオン又は分子センシング用マイクロスフェアは、これまでに様々な手法で調製されており、例えば、W.Seitzら,Anal.Chim.Acta,400(1999)55、及びZ.Shakhsherら,Microchim.Acta,144(2004)147に記載されるポリマー膨潤法によって調製される。マイクロスフェアはまた、S.Peperら,Anal.Chim.Acta,442(2001)25に記載される不均一重合、S.Shibataら,Jpn.J.Appl.Phys.,37(1998)41に記載される微粒子テンプレートを用いた表面吸着、及びI.Tsagkatakisら,Anal.Chem.,73(2001)315に記載されるソルベント・キャスト法によっても調製されている。
【0006】
また、粒径制御可能な光センシング用マイクロスフェアを穏やかな非反応的条件下で大量生産する目的で、米国特許第4,162,282号に開示されているものと類似した音波散布機を構築した旨が、I.Tsagkatakisら,Anal.Chem.,73(2001)6083に解説されている。ここで作成された光イオン・センシング用マイクロスフェアは古典的なバルク状態でのオプトード理論に従っていることが解っており、Na,K,Ca2+,Pb2+及びClの測定に用いられている。より近年では、可塑剤浸出の問題を回避するための努力の一つとして、メタクリル酸メチル−メタクリル酸デシル(MMADMA)共重合体マトリクスを用いたK検出用の可塑剤非含有マイクロスフェアが、微粒子散布機を用いて開発され、S.Peper,A.Ceresa,Y.Qin,E.Bakker,Anal.Chim.Acta,500(2003)127に記載されている。
【0007】
しかしながら、上述の各方法は以下の欠点の1つ又はそれ以上を抱えている。マイクロスフェアを製造するための装置には、大方の研究室では入手不可能な特殊な機械部品や付属品が必要である。製造されたマイクロスフェアは水中に懸濁されており、あらゆる用途に適しているとは言えない。マイクロスフェアの寿命はこれまでのところ6ヶ月以内、より典型的には2〜6週間である。従前のこれら微粒子は機械的安定性に乏しく、超音波処理により破壊され、測定の妨げとなる微小な破片(断片)を生ずる場合がある。さらに、従前のこれら微粒子は互いに、又は器壁と癒着する場合がある。かかる癒着は微粒子が高い局所濃度で保存された場合に一層生じやすく、微粒子沈降物の保管中にはごく普通に生ずる。
【0008】
シリカ微粒子は、クロマトグラフィー用カラムを充填する静止相として広く用いられている。シリカの表面はキラル分離の用途に合わせて化学修飾される場合があり、W.Pirkleら,J.Org.Chem.,44(1979)1957、及びN.Oiら,J.Chromatogr.,292(1984)427にその記載がある。また、シリカの表面を適当なポリマーで被覆して最適な分離を可能とする静止相を製造することが、H.Figgeら,J.Chromatogr.,351(1986)393に記載されている。
【0009】
色素を含む添加物含有シリカ微粒子を蒸気のセンシングに用いた例がK.J.Albertら,Anal.Chem.,72(2000)1947に、また生体分子マーカーとして用いた例がY.Qinら,Anal.Chem.,75(2003)3038に記載されている。しかし、添加物含有シリカ微粒子のこれら利用法の多くは単一成分のセンシング・システム用であり、イオン・センシングの目的には適さない。
【0010】
したがって、イオン・センシング用の改良型マイクロスフェアが要望されている。
【0011】
【特許文献1】米国特許出願第2002/0183608号
【特許文献2】米国特許第第5,383,454号公報
【特許文献3】米国特許第5,891,034号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
本発明は、目的イオンを結合し得るイオノフォアと、前記イオノフォアによる目的イオンの結合に応答して検出可能な信号を生成し得るインジケータと、をドープした微粒子状シリカを含む液体試料中の該目的イオンの濃度を決定するセンサを提供することを目的とする。前記検出可能な信号は前記液体試料中の前記目的イオンの濃度に関連している。前記インジケータは、クロモイオノフォアとすることができる。
【0013】
前記センサは、自己増塑型(self-plasticizing)ポリマーを有するものであってよい。任意的に、前記センサは支持ポリマーと可塑剤とを含む。前記支持ポリマーはPVCとすることができ、前記可塑剤はセバシン酸ビス(2−エチルヘキシル)(DOS)とすることができる。
【0014】
前記微粒子状シリカは、球状又は他の三次元的形状を有していてよい。任意的に、前記微粒子状シリカはシラン処理される。前記センサは親油性陽イオン交換体を含むこともできる。前記親油性陽イオン交換体は、ホウ酸テトラキス[3,5−ビス(トリフルオロメチル)−フェニル]ナトリウム(NaTFPB)とすることができる。
【0015】
本発明はまた、前記センサを用いて液体試料のイオンを検出する方法を提供することを目的とする。任意的に、水を含むシリカゲル・マイクロスフェアからなるセンサを乾燥させ、使用時までの保存用として乾燥センサを作製することができる。前記乾燥センサは再懸濁させて再懸濁センサを作製し、検出に用いることができる。任意的に、前記センサはフローサイトメーターを通過させ、検出可能な信号の計測に用いることができる。
【0016】
前記センサは、光ファイバ束の中で用いることもできる。
【0017】
本発明の上述した特徴、側面及び利点は、以下の記載、添付の特許請求の範囲及び付随する図面によってさらに明らかとなる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
一実施例によれば、本発明は添加物含有(doped)微粒子状シリカ・テンプレートを用いたイオン選択性光学センサと、その製造方法及び使用方法を提供することを目的とする。本発明はまた、Analytica Chimica Acta,537,29 April 2005,pp.135〜143、題名“Microsphere Optical Ion Sensors Based On Doped Silica Gel Templates(添加物含有シリカゲル・テンプレートを用いたマイクロスフェア型光イオン・センサ)”の論文の内容であり、その全文をここに参照によって引用する。
【0019】
好ましくは、前記センサは多孔質シリカ基材を有するマイクロスフェアから製造される。本発明の一実施例において、前記シリカ基材は平均粒径約3.5μmのEKA Chemicals社(スウェーデン)製、Kromasil 100Å球状シリカである。中でも、本発明に用いられる場合がある追加的なシリカ基材は、十分に狭い粒径分布を有する他の球状シリカを含み、例えば粒径5,7,10,13又は16μmのKromasil 100Åが挙げられる。前記マイクロスフェアの粒径は約0.2μm〜約50μmの範囲とされる場合があり、好ましくは0.5μm〜約20μmの範囲とされる場合がある。
【0020】
前記センサは、液体試料中の目的イオンを結合し得、これに対して高い選択性を示すイオノフォアを有する。前記センサは、色々な目的イオンを検出するための広範なイオノフォアとの関連において用いられる場合がある。この様なイオノフォアの例として、例えば水素、Li、Na、K、Ca2+又はMg2+、又はPb2+、Cu2+、Hg2+、Ag等の金属イオン、及びUO2+等の酸化物に選択性を示すイオノフォアが挙げられるが、これらに限定されるものではない。
【0021】
本発明の一実施例において、前記イオノフォアはtert−ブチルカリックス[4]アレン・テトラエチル・エステル(ナトリウム・イオノフォアX)であった。また本発明の他の実施例において、前記イオノフォアはポリ(アクリル酸n-ブチル)にグラフトされたCa2+ イオノフォアAU−1であった。イオノフォアの濃度は、約0.1〜約200mmoles/kg、好ましくは約10〜約50mmole/kgとすることができる。
【0022】
本発明に用いられる場合がある他のイオノフォアは、例えばカリウム・イオノフォアI(バリノマイシン)、カリウム・イオノフォアII(ビス[(ベンゾ−15−クラウン−4)−4’−イルメチル]ピメラート)、カリウム・イオノフォアIII(BME44;[2−ドデシル−2−メチル−1,3−プロパンジイル−ビス[N−(5’−ニトロ(ベンゾ−15−クラウン−5)−4’−イル)カルバメート]]、塩化物イオノフォアI(5,10,15,20−テトラフェニル−21H,23H−ポルフィン・マンガン(III)塩化物;Mn(III)TPPCl)、塩化物イオノフォアII(ETH9009;[4,5−ジメチル−3,6−ジオクチルオキシ−1,2−フェニレン]−ビス−(水銀−トリフルオロ酢酸)、ナトリウム・イオノフォアI(ETH 227;N,N‘,N”−トリヘプチル−N,N’,N”−トリメチル−4,4’,4−プロピリジントリス(3−オクサブチルアミド))、ナトリウム・イオノフォアII,(ETH 157;N,N‘−ジベンジル−N,N‘−ジフェニル−1,2−フェニレンジオキシジアセトアミド)、ナトリウム・イオノフォアIII(ETH 2120; N,N,N‘,N‘−テトラシクロヘキシル−1,2−フェニレンジオキシジアセトアミド)、ナトリウム・イオノフォアIV(DD−16−C−5,2,3:11,12−ジデカリノ−16−クラウン−5)、ナトリウム・イオノフォアV(ETH4120;4−オクタデカノイルオキシメチル−N,N,N‘,N‘−テトラシクロヘキシル−1,2−フェニレンジオキシジアセトアミド)、ナトリウム・イオノフォアVI(ビス[(12−クラウン−4)メチル]ドデシルメチルマロネート)、ナトリウム・イオノフォアVIII(ビス[(12−クラウン−4)メチル]2,2−ジドデシルマロネート)、ナトリウム・イオノフォアX(4−tert−ブチルカリックス[4]アレン−四酢酸テトラエチル・エステル)、カルシウム・イオノフォアI(ETH1001;(−)−(R,R)−N,N‘−(ビス(11−エトキシカルボニル)ウンデシル)−N,N‘−4,5−テトラメチル−3,6−ジオキサオクタンジアミド;ジエチルN,N‘−[(4R,5R)−4,5−ジメチル−1,8−ジオキソ−3,6−ジオキサオクタメチレン]−ビス(12−メチルアミノ−ドデカノエート)、カルシウム・イオノフォアII(ETH 129;N,N,N‘,N‘−テトラシクロ−3−オキサペンタンジアミド)、カルシウム・イオノフォアIII(A23187;カルシマイシン)、及びカルシウム・イオノフォアIV(ETH5234;N,N−ジシクロヘキシル−N‘,N‘−ジオクタデシル−3−オキサペンタンアミド)を含み、いずれもFluka社(ウィスコンシン州ミルウォーキー)より入手可能である。
【0023】
前記センサはまた、イオノフォアによる目的イオンの結合に応答して検出可能な信号を生成し得るインジケータを含む。一実施例において、前記インジケータはクロモイオノフォアである。前記クロモイオノフォアは、前記試料中の目的イオンの定量及び/又は検出を行うことができる。前記イオノフォアに結合する目的イオンによってプロトンが交換されるとクロモイオノフォアが脱プロトン化され、クロモイオノフォアのプロトン化に生ずる変化が光学的挙動の測定可能な変化となって現れる。
【0024】
前記クロモイオノフォアは、例えば9−(ジエチルアミノ)−5−オクタデカノイルイミノ−5H−ベンゾ[a]フェノキサジン(クロモイオノフォアI,ETH5294)とすることができる。本発明で用いられる場合がある他のインジケータは、例えばクロモイオノフォアII;ETH2439;9−ジメチルアミノ−5−[4−(16−ブチル−2,14−ジオキソ−3,15−ジオキサエイコシル)フェニルイミノ]ベンゾ[a]フェノキサジン;クロモイオノフォア VI;ETH 7075; 4’,5’−ジブロモフルオレセイン・オクタデシル・エステル及びクロモイオノフォアIII;ETH5350;9−(ジエチルアミノ)−5−[(2−オクチルデシル)イミノ]ベンゾ[a]フェノキサジンを含む。
【0025】
前記センサは、その全文をここに参照によって引用する2002年12月5日出願の米国特許出願第10/313,090号に記載されるポリアクリル酸(n−ブチル)、又はメタクリル酸メチル(MMA)とメタクリル酸デシルの各モノマーの共重合体の様な自己増塑型(self-plasticizing)ポリマーを含むことができる。
【0026】
さらに、前記センサは支持ポリマー及び可塑剤を含むことができる。前記支持ポリマーは、例えば高分子量ポリ(塩化ビニル)(PVC)とすることができる。前記可塑剤は、例えばFluka社(ウィスコンシン州ミルウォーキー)製のセバシン酸ビス(2−エチルヘキシル)(DOS)とすることができる。別の可塑剤は、フタル酸ビス(2-エチルヘキシル)及び2−ニトロフェニルオクチル・エーテルを含む。
【0027】
本発明のセンサは、試料からの目的イオンの抽出及び目的イオンのイオノフォアへの移動を促進する目的で、イオン交換体の様な他の添加剤を含む場合もある。好ましくは、前記イオン交換体は親油性陽イオン交換体である。前記親油性陽イオン交換体は、例えば、米国Dojindo Molecular Technologies社製テトラキス[3,5−ビス(トリフルオロメチル)−フェニル]硼酸ナトリウム(NaTFPB)とすることができる。
【0028】
他の有用な陽イオン交換体は、カルバ−クロソ−ドデカホウ酸、特にハロゲ化カルボラン陰イオンを含む。ハロゲン化ドデカカルボラン陽イオン交換体の例は、トリメチルアンモニウム−2,3,4,5,6,7,8,9,10,11,12十一臭化カルボラン(TMAUBC)(米国特許第10/313,090を参照)、及び十一塩素化カルボラン(UCC),六臭素化カルボラン(HBC)及び十一ヨウ素化カルボラン(UIC)の各陰イオンの塩(例、トリメチルメチルアンモニウム塩)を含む。
【0029】
本発明の一実施例にかかるマイクロスフェアの調製について述べる。シリカ微粒子の疎水性を高めるために、ドーピングに先立ち、その全文をここに参照によって引用するK.Wygladaczら,Sens.Actuators, B83(2002)109及びM.E.McGovernら,Langmuir(1994)360に基づいてシラン化処理を行うことができる。好ましくは、前記シリカ・テンプレートはボトル、又は他の容器内に注意深く封入され、細孔を脱気するために真空中で保管される。前記シリカ微粒子はその後、適当なセンシング成分でドーピングされる。
【0030】
前記イオノフォアと前記インジケータとを含む前記センシング成分は、テトラヒドロフラン(THF)の様な適当な溶媒に溶解し、シリカ・テンプレートと共に穏やかに混合する。この混合物を例えばアルミ箔で覆い、前記溶媒の蒸発と共に多孔質シリカ・テンプレートにセンシング成分が導入されるまで、好ましくは暗所に保存する。好ましくは、作製されたマイクロスフェアは使用するまでの期間、暗所で保存する。
【0031】
好ましくは、前記マイクロスフェア型光学センサには、陽イオン交換体(“R−”)と、イオノフォア(“L”)と、H選択性クロモイオノフォア(“Ind”)とがドープされる。かかるバルク型のオプトードを作製するには、電荷(“z+”)を持つ用イオン性の被分析物(“Iz+”)を水溶液から有機センシング相に抽出し、下記のイオン交換機構にしたがって水素を追い出す。
z+(aq)+nL(org)+zIndH(org)+zR(org) = Lz+(org)+zInd(org)+zR(org)+zH(aq) (1)
【0032】
電荷と質量バランスをひとまとめにし(combining)、プロトン化された“Ind”のモル分率を(“1−α”)と定義すると、被分析物の活量は次の様に表される。

【0033】
pHが既知の緩衝液中では、被分析イオンの活量はクロモイオノフォア (“1−α”)のプロトン化度で決まり、これはクロモイオノフォアのプロトン化体(“Rpro”)と非プロトン化体(“Rdep”)の発光強度の観測値から算出される。

【0034】
実施例に関連して後述するように、蛍光顕微鏡観察及びフロー・サイトメトリー測定は、本発明のマイクロスフェア型光学センサの応答が古典的なバルク状態でのオプトード理論に従っていることを示している。測定範囲は生理学的な電解質の濃度に匹敵し、得られる選択性のデータはシリカを含まないセンシング用微粒子のそれに匹敵する。さらに、本発明のマイクロスフェア型光学センサは、乾燥状態で保存した場合、6ヶ月以上の貯蔵期限がある。
【0035】
実施例
Ca2+イオノフォアAU−1の調製
Ca2+イオノフォアN,N−ジシクロヘキシル−N’−フェニル−N’−3−(2−プロペノイル)オキシフェニル−3−オキサペンタンジアミド(AU−1)を、その全文をここに参照によって引用するY.Qin,S.Peper,A.Radu,A.Ceresa,E.Bakker,Anal.Chem.,75(2003)3038にしたがって合成し、以下に述べるように2%(w/w)及び5%(w/w)の割合でポリ(アクリル酸n−ブチル)にグラフトした。アクリル酸n−ブチルはPolysciences社(ペンシルバニア州ウォリントン)より入手した。
【0036】
概要を述べると、AU−1は下記の方法により合成した。工程1:無水ジグリコール酸(1.16g,10mmol)を100mLの乾燥ジクロロメタンに溶解した溶液を攪拌しながら、ジシクロヘキシルアミン(3.62g,20mmol)を添加した。この混合液を室温で3時間攪拌した。続いて、この反応混合物に6N HClを20mL加えた。固体を濾別し、濾液の有機層を分取し、無水硫酸ナトリウムで乾燥した。ジクロロメタンをロータリーエヴァポレータを用いて除去した。3−オキサペンタン酸−N,N’−ジシクロヘキシルアミド(I)の白色結晶を酢酸エチルから収率92%(2.74g)で再結晶化した。工程2:N保護下で、25mLの乾燥THFに3−ヒドロキシルジフェニルアミン(3.33g,18mmol)を溶解した。続いて、この溶液にトリエチルアミン(1.98g,19.5mmol)を添加した。その後、N保護下、−5Cでこの反応混合物に塩化アクリロイル(1.62g,18mmol)をシリンジを用いて滴下した。25分後、飽和NaHCO溶液30mLを添加して反応を停止させた。有機層を分取し、水洗した。溶媒を蒸発除去した後、粗製物をフラッシュ・クロマトグラフィー(1:1 EtOAc/ヘキサン)により精製した。淡黄色固体のアクリル酸m−アニリノフェニル(II) が収率60%(2.88g)で得られた。工程3:30mLの乾燥CHClにI(0.736g)及びII(0.529g)を溶解した溶液を攪拌しながら、EtN(0.8g)を室温で添加した。続いて、0.612gのBOP−Clを添加した。この混合物を24時間環流した。この反応混合物を10mLの飽和NaHCO及び水で洗浄した。有機相を分取し、溶媒を蒸発させた。残渣をフラッシュ・クロマトグラフィー(1:5 EtOAc/ヘキサン)で精製した。淡黄色固体(C3138,分子量518.65)が収率50%で得られた。
【0037】
AU−1を導入したポリマーは、熱開始フリーラジカル溶液重合により合成した。アクリル酸n−ブチル(1g)と適量のイオノフォアAU−1(2 又は5wt%)を含む酢酸エチル溶液をNで10分間パージし、その後、重合開始剤としてAldrich社(ウィスコンシン州ミルウォーキー)製、純度98%のアゾビス−(イソブチロニトリル)を5.1mg添加した。この均一溶液を攪拌し続け、温度を90Cまで上げ、この温度に16時間保った。
【0038】
反応終了後、溶媒を蒸発させ、ポリマーを10mLのジオキサンに再溶解した。ポリマー溶液の一部(2mL)を100mLの蒸留水に勢いよく攪拌しながら添加した。白色沈殿を集めて25mLのジクロロメタンに溶解し、無水NaSOで脱水し、濾過した。溶媒を蒸発させ、得られた透明ポリマーを室内環境で乾燥させた。ポリ(アクリル酸n−ブチル)にイオノフォアAU−1を異なる濃度でグラフトさせた2種類のバッチを合成した:(1)AU−1の2wt%標品(38.6mmol/kg)、及び(2)AU−1の5wt%標品(96.5mmol/kg)。
【0039】
マイクロスフェアの調製
下記の方法で、異なる数種類のマイクロスフェアを作製した。ドーピングに先立ち、シラン化処理を行った。平均粒径約3.5μmのKromasil 100Å球状シリカ微粒子をトルエンで洗浄して不純物を除去し、真空装置に接続して脱気し、平底の反応容器内でメタクリル酸3−(トリメトキシシリル)プロピル(10%,v/v,トルエン中)と混合した。水で環流させながら、温度60〜70Cに3〜4時間保った。その後、余分な試薬と溶媒を除去し、シラン化処理されたマイクロスフェアを洗浄し、引き続き真空装置に接続した。
【0040】
シラン化処理されたシリカ・テンプレートに適当なセンシング成分を全量20mg(ドーピング成分+シリカ・テンプレート)にてドープした。シリカ・テンプレートを注意深くボトルに密封し、秤量の前後で真空下に保ち、細孔から空気を除去した。センシング成分をTHFに溶解し、シリカ・テンプレートと静かに混合した。この混合物を155アルミ箔で覆い、暗所に72時間保った。センシング成分は、この時、溶媒の蒸発に伴って多孔質シリカ・テンプレート中に導入された。このようにして製造されたマイクロスフェアは、キャラクタリゼーションを行うまで暗所に保存した。
【0041】
ナトリウム選択性マイクロスフェア
40mmol/kgのナトリウム・イオノフォア(X)、10mmol/kgのETH5294、20mmol/kgのNaTFPB及び種々の分量のDOS(10,20,30,40,50%,w/w)からなるタイプNa−A〜Na−Eに、適量のシリカ・テンプレート(17.1,15.1,13.1,11.1又は9.1mg)をそれぞれ混合した。変形例である組成物は、ナトリウム・イオノフォア(X)と、ETH5294と、NaTFPBとについては上記と同じ濃度を有し、DOSは5又は10%ポリ(アクリル酸n−ブチル)(タイプNa−F及びNa−G)のいずれか、又は5wt%PVC(タイプNa−H)又は(5wt%PVC+10wt%DOS)(タイプNa−I)のいずれかにそれぞれ置き換えられている。タイプNa−Jは39.3mmol/kgのナトリウム・イオノフォア(X)、9.7mmol/kgのETH5294、19.1mmol/kgのNaTFPB、2wt%のPVC及び17.6mgのシリカ・テンプレートにドープした10wt%のDOSを含む(総重量20mg)。
【0042】
カルシウム選択性マイクロスフェア
イオノフォアCa(IV)をドープしたマイクロスフェア
タイプCa−A,B,C及びDに、N,N−ジシクロヘキシル−N’,N’−ジオクタデシル−3−オキサペンタンアミド(CaイオノフォアIV,ETH5234)(10.9,21.5,39.0又は48.9mmol/kg),ETH5294(2.0,4.1,5.0又は6.2mmol/kg),NaTFPB(3.4,6.0,7.5又は9.1mmol/kg)及び10%(w/w)DOSをドープした16.0,15.5,15.1及び14.7mgのシリカ・テンプレートをそれぞれ含む。
【0043】
タイプCa−E〜Ca−Gは、5又は10wt%のいずれかのポリ(アクリル酸n−ブチル)と組み合わせる(タイプCa−E及びCa−Fの場合)か、又は5wt%PVCとの組み合わせる(タイプCa−Gの場合)形で、39.0mmol/kgのCa(IV)イオノフォア、5.0mmol/kgのETH5294、及び7.5mmol/kgのNaTFPBをドープした。
【0044】
ポリ(アクリル酸n−ブチル)にグラフトされたAU−1イオノフォアをドープしたマイクロスフェア
タイプCa−H〜Ca−Kは、ポリ(アクリル酸n−ブチル)にグラフトされた2wt%のAU−1を含む。タイプCa−H〜Ca−Kは、総質量に対して15,30,40又は50%(w/w)のポリマーを含み、これは5.8,11.6,15.4及び19.3mmol/kgのAU−1、0.6,1.2,3.0又は3.6mmol/kgのETH5294、1.1,2.3,4.6又は5.8mmol/kgのNaTFPB、17.4,14.3,9.7又は8.0mgのシリカ・テンプレートにドープされた10wt%DOSに、それぞれ相当する。
【0045】
タイプCa−Lは、ポリ(アクリル酸n−ブチル)にグラフトされた5wt%のAU−1を含む。AU−1は最近、イオン選択膜及びオプトード薄膜の様な可塑剤を含まないイオン・センシング・システムを製造するためのMMA−DMA共重合体マトリクス中にグラフトされている。Y.Qin,S.Peper,A.Radu,A.Ceresa,E.Bakker, Anal.Chem.75(2003)3038を参照のこと。ポリ(アクリル酸n−ブチル)は、Heng及びHallにより、有用な内分可塑化ポリマーとして既に報告されている(L.Heng,E.Hall,Anal.Chem.,72(2000)42)。タイプCa−Lは、16wt%のポリマー(30.1mmol/kgのCa2+イオノフォアAU−1),4.2mmol/kgのETH5294,8.0mmol/kgのNaTFPB、及び11.9mgのシラン化シリカ・テンプレートにドープされた10wt%DOSを含む。
【0046】
試験例
イメージング分光器PARISS(Light Form社、ニュージャージー州ベルミード)と顕微鏡Eclipse E400(ニコン社製)とを組合せ、蛍光顕微鏡観察を行った。このシステムは、Pariss分光イメージング・ソフトウェア(Light Form社)で操作されるモータ駆動式ステージ(Prior Optiscan社製ES9,英国ケンブリッジ、ファルボーン)に加え、2台のCCDカメラEDC 1000L(Electrim Corp社、ニュージャージー州プリンストン)と、エピ蛍光水銀ランプ(Southern Micro Instruments社製、ジョージア州)とを備える。製造されたマイクロスフェアのキャラクタリゼーション及びスペクトル分離を行うために、Plan Fluor40×0.75対物レンズ(ニコン社製)とEX510−560nmフィルタを組み合わせて用いた。十分な蛍光強度を得るために、露光時間は200〜600msの範囲で選択した。
【0047】
マイクロスフェアを衝試化試料溶液中で平衡化し、20から40分間、暗所に保管する。10mMのHCl又は10mMのNaOHを、完全プロトン化状態又は脱プロトン化状態におけるスペクトルをそれぞれ記録するために用いた。6〜10個のマイクロスフェアをランダムに選択し、スペクトルを記録した。プロトン化度は、ETH5294の645及び675nmにおける2つの蛍光ピーク強度の比を計算することにより求めた。
【0048】
標準装備のレーザーを635nmのダイオード・レーザーに交換し、650−675nmの波長域の蛍光測定用に選択したフィルタと検出器とを備えた改造Coulter EPICS XLフローサイトメーター(ベックマン社製)を用い、フロー・サイトメトリー実験を行った。650〜675nmの波長域で発光する蛍光を、650nmロングパス発光フィルタと、660(±15)nmバンドパス・フィルタとを用いて集光した。シリカゲル・ベースのマイクロスフェアは、緩衝化試料溶液中に20〜30分間浸漬し、平衡化させた。
【0049】
DSM 940走査型電子顕微鏡(Zeiss社製)を5kVで用い、その全文をここに参照によって引用するI.Tsagkatakisら,Anal.Chem,73(2001)6083に詳述されている方法にしたがって、シリカ・テンプレート及び添加物含有マイクロスフェア・センサのSEM画像を得た。測定前に、乾燥マイクロスフェアをアルミナ片上に析出させ、約60秒間のスパッタリングを行うことにより10〜20nmのAu/Pd膜で被覆した。
【0050】
緩衝化試料液
緩衝液はいずれも、Nanopureで製造した脱イオン水(18.2MΩcm)を用いて調製した。10−3Mトリス(Fluka社(ウィスコンシン州ミルウォーキー)製、トリス[ヒドロメチル]アミノ−メタン)又は10−2M MESを用いて濃度10−5〜1MのNaCl又はCaClの緩衝液をそれぞれ調製し、トリス緩衝液についてはpHを7.4(MES緩衝液については5.5)に調節した。選択性の測定には、その全文をここに参照によって引用するM.Lerchiら,Anal.Chem.,64(1992)1534及びE.Bakkerら,Anal.Chem.,64(1992)1805に詳述されている様に、分離溶液法を適用した。
【0051】
バルク状態のオプトードの選択性を決定するには、関与するイオン種の各々について完全な較正曲線が必要である。これらの曲線は、全てのイオン種について同じpHで同じ膜組成を用いた場合に理想的な形で得られる。較正を別々に行うことにより、熱力学的交換及び共抽出定数に関するすべての被分析イオンの挙動に関する最も正確な情報が得られる。
【0052】
他のいかなる妨害イオンにも勝る選択係数を与えるイオンの各応答曲線は、E.Bakkerら,Anal.Chem.,64(1992)1805の式27及び式36を用いてグラフィックにプロットし、計算することができる。
【0053】
応答は、1種類の妨害イオンの塩1モルを含むpH7.4の10−3Mトリス緩衝液中で記録した。シリカ・テンプレートを用いたNa選択性マイクロスフェアでは、妨害陽イオンとしてK,Mg2+及びCa2+を測定し、Ca2+選択性マイクロスフェアではK,Na及びMg2+を測定した。
【0054】
試験結果
Na選択性マイクロスフェア
可塑剤DOSを用いて作製したタイプNa−Aマイクロスフェアは、Na 活量の変化に対して定量的に応答した。しかし、微粒子間の偏差及び理論的に予測される応答挙動からのずれは極めて大きく、24時間後には可塑剤成分の浸出が顕微鏡下で検出された。いずれも可塑剤DOSを異なる濃度で使用している代替的な組成物Na−B〜Na−Eでは、実際、可塑剤含量の増加につれて浸出レベルが増大した。
【0055】
また、可塑剤DOSに替えてポリ(アクリル酸n−ブチル)が用いられているか、又はカクテル処方にPVCが添加されているタイプNa−F〜Na−Jの結果は、タイプNa−Jの様にPVCを添加することにより、作製されたマイクロスフェアの応答特性が最も良く改善されることを示した。図2にタイプNa−Jすなわちシリカ・ベースのNa−センシング用マイクロスフェアにおいて、その色素が完全プロトン化体(10−2M NaOH)である場合と脱プロトン体(10−2M HCl)である場合の三次元応答スペクトルを示す。いずれもPVCベースのマイクロスフェアのそれらと類似したピーク形状を示した。
【0056】
これは、シリカ・テンプレートにドープされた後のクロモイオノフォアの基本的な機能性を確認するものであった。色素ETH5294(クロモイオノフォアI)は、添加物含有シリカ・テンプレートにおいて645nm(脱プロトン化)及び675nm(プロトン化)の2ヶ所の蛍光発光極大を示すH選択性クロモイオノフォアである。これら2つのピークの強度比をとることにより、クロモイオノフォアのプロトン化度を、式(2)を用いて算出した。このレシオ測定には、光退色のリスクを低減しながら信頼性の高い信号を得、光源の不安定性やマイクロスフェアの寸法ばらつきの影響が少ないという利点がある。
【0057】
図3Aに、対応するNa応答曲線を、蛍光顕微鏡でキャラクタライズされた、これに付随するタイプNa−Jミクロ微粒子のpH7.4における選択性と共に示す。プロットされた各データ点は平均実験値であり、誤差は5〜10個体の測定から得られた標準偏差を示す。
【0058】
理論曲線は、実験的な組成物を用いた式(2)より導出した。理論曲線用の適切なイオン交換定数(式(2)のKex)と、共通の妨害イオンに対する種々のセンシング・システムの選択性係数を、図4の表にまとめ、音波微粒子散布装置を用いて作製されたシリカを含まないPVC−DOS微粒子のデータと比較した。
【0059】
本発明のマイクロスフェアは、K,Ca2+及びMg2+に対し、音波微粒子散布装置を用いて作製されたシリカを含まないPVC−DOS微粒子とほぼ同様の選択性を有する。シリカ・テンプレートから作製された マイクロスフェアについては、その測定範囲はヒト唾液(刺激分泌,pH 7.0〜7.5、典型的なNa濃度は4.3〜28mM)の直接測定に適する。シリカ・テンプレートを用いて作製されたマイクロスフェアも、10倍希釈したヒト血漿(pH 7.4においてNa135〜150mM)の測定に用いることができる。
【0060】
Ca2+選択性マイクロスフェア
イオノフォアCa(IV),ETH5294,NaTFPB及びDOSを様々な組成で含むタイプCa−A〜Ca−Dには、適切なカルシウム応答が観測されなかった。ポリ(アクリル酸n-ブチル)を含むか、又はPVCを添加した代替的なマトリクスを用いたタイプCa−E〜Ca−Gでも、観測されるカルシウム応答はまだ満足できるものではなかった。
【0061】
ポリ(アクリル酸n−ブチル)にAU−1をグラフト(2%,w/w)したタイプCa−H〜Ca−Kのマイクロスフェアでは、得られたクロモフォアの機能濃度が信頼性の高い蛍光顕微鏡観察を行うには低すぎた。グラフトするイオノフォアの濃度をさらに高めると、マイクロスフェアが強く凝集する結果となった。
【0062】
ポリ(アクリル酸n−ブチル)ポリマー中AU−1濃度を5%(w/w)としたタイプCa−Lのマイクロスフェアでは,Ca2+に対する優れた選択性が観測された。図3BにpH7.4にて観測されたタイプCa−LのCa2+の応答を、式(2)により求めた理論的な較正曲線と共に示す。
【0063】
生理学的サンプル中に普通にみられる妨害陽イオンに対するタイプCa−Lのマイクロスフェアについて観測された選択性は、オプトード薄膜について得られたデータと一致していた(図4参照)。その量の多さ故に重要な妨害因子であるNaに対する選択性は、3桁以上であった。
【0064】
クロモイオノフォアのプロトン化度が半分(α=0.5)の時、pH7.4における対応するCa2+の活量は約1mMであり、その測定範囲がpH 7.4におけるヒト血漿中のCa2+(1〜1.2mM)、又はpH7.0〜7.5における刺激分泌されたヒト唾液中のCa2+(0.8〜2.8mM)の直接決定に適することを示している。
【0065】
添加物含有シリカゲル・テンプレートを用いて作製されたマイクロスフェアについて観測された典型的な平衡化時間は約10分間であり、通常の可塑化PVC微粒子を用いた場合よりはわずかに長かったが、MMA−DMAベースの微粒子を用いた場合よりは短かった。グラフトAU−1がドープされたカルシウム選択性光学センシング用マイクロスフェアは、自由溶解イオノフォアを用いたナトリウム選択性マイクロスフェアに比べてより長い平衡化時間(約25分)を示した。
【0066】
マイクロスフェアのフロー・サイトメトリー分析
フロー・サイトメトリーは、可塑化PVCを用いた蛍光マイクロスフェア光学センサのキャラクタリゼーションに適し、ここではクロモイオノフォアETH5294の脱プロトン体の単一パラメータ・ヒストグラムを記録して蛍光変化を決定した。作製したマイクロスフェアのキャラクタリゼーションには、フロー・サイトメトリーと蛍光顕微鏡観察の両方を適用した。フロー・サイトメトリーは、蛍光顕微鏡観察の様に個々の微粒子の蛍光を空間的あるいは分光的に分離することはできないが、多数の微粒子の統計的挙動に関する情報を提供する場合がある。
【0067】
660nmバンドパス・フィルタ(±15nm)を次段に控えた650nmロングパス・フィルターを備えたFL1チャネルから得られるヒストグラムでは、観測されたカウントをピーク・チャネル蛍光の対数値に対してプロットし、累積微粒子カウントからガウス型分布曲線を生成した。試料中のイオン濃度が増大するにしたがって、脱プロトン体のETH5294に由来する蛍光強度が増大すると共に、そのイオン応答を反映してガウス曲線のピーク・シフトが生ずることがわかった。約1万個のマイクロスフェアによるヒストグラム全体の変動係数(CV)は7.13〜29.33であった。この値は、音波散布法による通常のPVC微粒子で観測される値よりも大きく、元々のシリカゲル・テンプレートの寸法分布の限界に起因して寸法再現性が乏しいことが示唆された。
【0068】
図5A及び図5Bは、フロー・サイトメトリー測定で得られた較正曲線と、それに付随するナトリウム選択性(タイプNa−H)又はカルシウム選択性(タイプCa−L)マイクロスフェアの選択性データを示す。製造されたマイクロスフェアのオプトード挙動を仮定すると、プロトン化度(“1−α”)はFL1チャネルの単一パラメータ・ヒストグラムにおける蛍光ピーク位置(P)を用い、次式(4)で表された。

【0069】
図5Aのナトリウム応答に関する理論曲線(式(2))についてはlogKexは−5.6であり、カルシウムについてはlogKex=−9.1であった。これらのデータは、各微粒子の蛍光顕微鏡観察で得られたデータと同様である(NaについてはlogKex=−5.0、Ca2+については−9.0、図4参照)。強力な妨害種について実験的に求めた選択係数(logkOselI,J値)も図4に示す。測定範囲も、蛍光顕微鏡観察で得られた範囲と近かった。フロー・サイトメトリーと顕微鏡観察による応答性及び選択性のデータは概してよく互いに一致しており、どちらの手法も本発明のマイクロスフェアのキャラクタリゼーションには適していた。
【0070】
シリカ・ベースのマイクロスフェアのファイバ型光学センサ・アレイへの応用
通常のPVC光学イオン・センシング用マイクロスフェアは、何万本ものセンサの応答について並列検討を可能とする光ファイバ束に好適に応用されている。光ファイバ束はかかる目的のプラットホームとして開発されてきており、その主な理由は、製造されたマイクロスフェア・センサに寸法に合わせて高度に均一な「ウェル」をエッチングで簡単に作れるからである。光ファイバ束のセンシング端を濃度の異なる被分析物の緩衝液に浸すと、クロモイオノフォアの蛍光スペクトルを光ファイバ束の他端から捉え、蛍光顕微鏡でキャラクタライズすることができる。直径2mmの光ファイバ束上に、コア径約4.6μmのファイバ・スレッド糸が約3500本存在する。
【0071】
異なるイオンに選択性を有する可塑化PVCマイクロスフェアが同じ光ファイバ束上にランダムに被着され、多重光学センシングがこれまでに達成されている。可塑化PVCマイクロスフェアの代替として、添加物含有シリカゲル微粒子を利用した本発明のイオン・センシング用マイクロスフェアを、光ファイバ束のエッチングされた遠位端に被着させることができる。
【0072】
五角形光ファイバ束を、その全文をここに参照によって引用する例えばJ.R.Epsteinら,Biosens.Bioelectron.,18(2003)541に説明されている公知の方法で研磨、洗浄、エッチング、超音波処理した。作製した例Na−HのNa選択性マイクロスフェアを脱イオン水と混合し、この懸濁混合物の1μLを分取し、ファイバ束の末端のエッチング形成ウェルに入れた。マイクロスフェアをウェルに入れた後、脱イオン水を用いて余剰な微粒子を洗浄除去する。その後、光ファイバ束のエッチング端を10−2M HClに20分間浸し、スペクトル応答を取得した。
【0073】
図6に示すように、光ファイバ束上で微粒子による90%の被覆率が蛍光モードにより観察された。製造したマイクロスフェアの直径(約3.5μm)は、 エッチング形成ウェル(約4.6μm)の寸法に適合している。図7は、光ファイバ束のエッチング形成ウェル内で1列に並んだ5個のNa選択性マイクロスフェア(例Na−H)の三次元蛍光スペクトルを観測結果を示す。これらの同様な形状と互いに近い強度値は、近接するマイクロスフェア同士の間で蛍光スペクトルの再現性が高いことを示している。
【0074】
本発明のマイクロスフェアは、信頼性の高いイオン応答及び一般的な妨害イオンに対する選択性など、生理学的試料への多くの適用基準を満たしている。シリカ・テンプレートの存在はセンシングの化学現象に何ら影響を及ぼさないことが明らかとなり、マイクロスフェアの応答はバルク状態におけるオプトードの原理を反映している。検出された応答は、オプトード薄膜や音波散布ポリマー型マイクロスフェアにより得られる応答と匹敵する。
【0075】
さらに、本発明のマイクロスフェアは通常のPVCベースのマイクロスフェアと同様、硬化プロセスを必要としない。本発明のマイクロスフェアは、ドーピング後すぐに使用することができる場合がある。本発明のマイクロスフェアは密度が高く、遠心して乾燥物又は水溶液として容易に取り扱うことができる。
【0076】
密封して暗所に保管すれば、本発明のマイクロスフェアは6ヶ月以上保存できる。マイクロスフェアはその後再懸濁させて、再懸濁組成物とすることができる。タイプNa−H及びCa−Lのミクロスフェアについて、ドーピングから6ヶ月後にフロー・サイトメトリー測定を再び行ったところ、得られた応答は最初の測定時の応答を再現していることがわかった。
【0077】
以上、本発明を説明したが、本発明は上記の本文及び後記の特許請求の範囲で述べるその範囲と正当な解釈から逸脱することなく様々な変形や適応に委ねることができることは明らかである。
【0078】
本発明を或る好ましい態様を参照しながら詳細に述べてきたが、他の態様も可能である。したがって、添付の特許請求の範囲の精神と範囲はここで述べた好ましい態様に限定されてはならない。特許請求の範囲、要約書及び図面を含む本明細書で開示された全ての特徴、及びいかなる方法又はプロセスの工程も、それらの特徴及び/又は工程が互いに相容れない場合を除き、どのように組み合わせてもよい。特許請求の範囲、要約書及び図面を含む本明細書で開示する各特徴は, 特に断らない限り、同一の、同等の、又は類似の目的を持つ代替的な特徴により置き換えることができる。したがって、特に断らない限り、開示される個々の特徴は、総体的な一連の同等又は類似の特徴の一つに過ぎない。
【0079】
また、或る請求項において、特定の機能を発揮するための「手段」、又は特定の機能を実施する「工程」と明示されていない要素については、いずれも米国特許法第112条(35U.S.C.§112)に規定される「手段」又は「工程」条項と解釈してはならない。
【図面の簡単な説明】
【0080】
【図1A】センシング成分をドープする前の、本発明において有用なシラン処理シリカ微粒子の走査型電子顕微鏡写真である。
【図1B】例Na−Jのセンシング成分をドープした後の図1Aの微粒子の走査型電子顕微鏡写真である。
【図2】例Na−Jの単一シリカ・ベースNa選択性マイクロスフェア型光学センサを(A)10−2M HCl及び(B)10−2M NaOHに接触させた場合の空間分解蛍光スペクトルの3次元プロットである。
【図3A】蛍光電子顕微鏡写真からキャラクタライズされた、例Na−J のマイクロスフェアのpH7.4における応答を示すプロットである。
【図3B】蛍光電子顕微鏡写真からキャラクタライズされた、例Ca−LのマイクロスフェアのpH7.4における応答を示すプロットである。
【図4】pH7.4で正規化した種々のイオノフォアを含むオプトードの選択係数の実験値を示す表である。
【図5A】分析用フロー・サイトメトリーからキャラクタライズされた、例Na−JのマイクロスフェアのpH7.4における応答を示すプロットである。
【図5B】分析用フロー・サイトメトリーからキャラクタライズされた、例Ca−LのマイクロスフェアのpH7.4における応答を示すプロットである。
【図6】例Na−HのNa選択性マイクロスフェアによる光ファイバ束のエッチング・ウェルの空間被覆性を観察した光学顕微鏡写真である。
【図7】光ファイバ束のエッチング・ウェル上における隣接する5個の例Na−HのNa選択性マイクロスフェアの蛍光スペクトルを示す三次元プロットである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
目的イオンを結合できるイオノフォアと、
前記イオノフォアによる目的イオンの結合に応答して検出可能な信号を生成できるインジケータとによってドープされた微粒子状シリカを含み、
前記検出可能な信号は液体試料中の目的イオンの濃度に関連する、液体試料中の目的イオンの濃度を決定するセンサ。
【請求項2】
前記インジケータはクロモイオノフォアである、請求項1に記載のセンサ。
【請求項3】
前記イオノフォアはtert−ブチルカリックス[4]アレンテトラエチルエステルである、請求項1に記載のセンサ。
【請求項4】
自己増塑型ポリマーを含む、請求項1に記載のセンサ。
【請求項5】
前記自己増塑型ポリマーはポリ(アクリル酸n−ブチル)である、請求項4に記載のセンサ。
【請求項6】
前記イオノフォアは前記自己増塑型ポリマーにグラフトされたAU−1である、請求項4に記載のセンサ。
【請求項7】
支持ポリマーと可塑剤とを含む、請求項1に記載のセンサ。
【請求項8】
前記支持ポリマーがPVCであり、前記可塑剤がDOSである、請求項7に記載のセンサ。
【請求項9】
前記粒子状シリカは球状微粒子である、請求項1に記載のセンサ。
【請求項10】
前記微粒子状シリカはシラン処理を施されている、請求項1に記載のセンサ。
【請求項11】
親油性陽イオン交換体を含む、請求項1に記載のセンサ。
【請求項12】
前記親油性陽イオン交換体はNaTFPBである、請求項11に記載のセンサ。
【請求項13】
a)複数の請求項1記載のセンサを液体試料に接触させ、イオノフォアを前記液体試料中の目的イオンに結合させる工程と、
b)前記検出可能な信号を測定する工程とを含む、液体試料中の目的イオンを検出する方法。
【請求項14】
前記検出可能な信号を測定する工程はフローサイトメーターに前記センサを通過させることを含む、請求項13に記載の方法。
【請求項15】
a)水を含むシリカゲル・マイクロスフェアを複数準備する工程と、
b)センサの懸濁液を作成するために、液体試料中のイオンを結合できるイオノフォアと、前記イオノフォアによるイオン結合に応答して検出可能な信号を生成できるインジケータとを前記シリカゲル・マイクロスフェアにドープする工程と、
c)実質的に全量の水を除去するために前記センサを乾燥する工程とを含む、センサに液体試料中のイオン濃度を決定させる方法。
【請求項16】
乾燥した前記センサを再懸濁して再懸濁センサを調製する工程を含む、請求項15に記載の方法。
【請求項17】
a)複数のファイバを有する光ファイバ束と、
b)複数のミクロ微粒子とを含み、
各ファイバはウェルを備えた試料端を有し、
各ミクロ微粒子は液体試料中のイオンを結合できるイオノフォアと、前記イオノフォアによるイオン結合に応答して検出可能な信号を生成できるインジケータとによってドープされたシリカ基材を含み、
前記検出可能な信号は前記液体試料中のイオン濃度に関連し、
前記複数のミクロ微粒子は前記ファイバの前記ウェル内に配置される、液体試料中のイオン濃度を決定する装置。
【請求項18】
請求項15に記載の方法によって調製される、液体試料のイオン濃度を決定するセンサ。
【請求項19】
請求項16に記載の方法によって調製される、液体試料のイオン濃度を決定するセンサ。

【図1A】
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【図1B】
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【図2】
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【図3A】
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【図3B】
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【図4】
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【図5A】
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【図5B】
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【図6】
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【図7】
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【公表番号】特表2008−529014(P2008−529014A)
【公表日】平成20年7月31日(2008.7.31)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−553375(P2007−553375)
【出願日】平成18年1月31日(2006.1.31)
【国際出願番号】PCT/US2006/003546
【国際公開番号】WO2006/083960
【国際公開日】平成18年8月10日(2006.8.10)
【出願人】(591028256)ベックマン コールター インコーポレイテッド (24)
【氏名又は名称原語表記】BECKMAN COULTER,INCORPORATED
【住所又は居所原語表記】4300N.Harbor Boulevard Fullerton,California 92834−3100 U.S.A.
【Fターム(参考)】