説明

清酒の製造方法

【課題】 低グルテリン米を用いた清酒製造において、従来問題の特異香や低い酒化率を解消し、良好な酒質及び酒化率の増加を実現する。
【解決手段】 清酒醸造の常法通りに一般の酒造米を用いて麹を作り、低グルテリン米を掛米に用いて清酒を醸造する。更に、醸造工程初期における酵母の正常な代謝に必要なアミノ酸量を富化するような条件で仕込みを行う。そのために、或る実施態様では、アルギニン、メチオニンなどのアミノ酸を添加して仕込みを行う。別の実施態様では、低グルテリン米と低グルテリン米ではない一般の酒造米とを掛米に用いて、清酒を醸造する。更に別の実施態様では、アミノ酸を富化した米液化物、米糖化物または麹糖化物を醸造工程初期に添加する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、低グルテリン米を原料に用いた清酒の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
清酒醸造において、原料米のタンパク質は清酒醪中で麹酵素によりアミノ酸やペプチドに分解され、これが製成酒に旨味や濃厚さを与えたり香味成分となる反面、雑味の原因となって酒質を低下させることがある。米タンパク質は玄米の外周部に多く含まれ、中心部は少ないので、一般に酒造用原料米は高度に精米を行うことにより、そのタンパク質含量を低減させている。また、清酒に対する消費者の嗜好の多様化に伴い、アミノ酸の少ない軽快な酒質が要望されている。
【0003】
他方、近年農林水産省のスーパーライス計画に基づいて各種新形質米の育成が盛んで、酒造好適米の品種改良も行われ、米タンパク質のうち易消化性タンパク質であるグルテリンの含量を低減させた低グルテリン米が開発されている。そして、低グルテリン米を酒造用原料米に用いた清酒が提案され(例えば特許文献1、非特許文献1,2を参照)、また実際に製品化されている(例えば非特許文献3を参照)。
【0004】
特許文献1は、グルテリン含量が2.0g%(w/w)以下の低グルテリン米を用いた酒類の製造方法を開示している。同文献によれば、低グルテリン米は、消化され易いグルテリン含量が少なくかつ消化され難いプロラミン含量が多いので、製成酒は雑味が低減され、香味が改良されると共に、原料利用率の向上、低コスト化が実現できると記載されている。特に低グルテリン米・LGC−1(現品種名「エルジーシー1」)を用いた清酒の仕込試験では、対照の「日本晴」に比較して粕歩合が低く、製成酒のアミノ酸度及び全窒素量が低く、芳香成分は酢酸イソアミルなどの吟醸香が多い反面、好ましくないイソブタノールが少なく、官能的に異臭、異味、雑味がなく、スッキリとした淡麗な清酒が得られたとしている。
【0005】
また、高橋享らは、低グルテリン米である北陸183号(現品種名「春陽」)について清酒醸造を目的とした適性評価を行い、その結果を報告している(非特許文献1を参照)。この報告によれば、北陸183号は、対照品種の「トヨニシキ」に比較して粕歩合が高く、酒化率が悪い反面、製成酒の酒質はスッキリ、キレイで、特徴的な酒質であったとしている。
【0006】
本願発明者らは、低グルテリン米「エルジーシー1」、及びそれと酒造好適米「兵庫北錦」又は「灘錦」との交雑により酒造用低グルテリン米として開発された「中国酒185号」などの系統について、その酒造適性を詳細に検討した(非特許文献2を参照)。その結果、これら品種の低グルテリン米は、それらを掛米に用いた清酒醸造試験において、対照の一般品種と比較して酒化率が低いという特徴がある。これは、低グルテリン米(LGC−1)仕込の酒化率が対照品種の日本晴と同等である、という特許文献1の記載とは異なる結果であった。また、これらの低グルテリン米から得た製成酒は、対照品種と比較してアミノ酸度がきわめて低く、特徴のある酒質であるが、低沸点香気成分のうち、官能的に不快臭とされるイソアミルアルコール含量が高く、更に官能的に異臭と感じられる特異香(未同定)を有していた。
【0007】
このような酒化率の低さ及び不快臭、特異香という特徴は、低グルテリン米を用いた清酒醸造の実用化に際して問題となり得る。低沸点香気成分のイソアミルアルコール含量が高い原因は、低グルテリン米のタンパク質組成は易消化性タンパク質であるグルテリンの含量が低く、その結果清酒醪中で米から溶出されるアミノ酸量が少なくなるために、生合成経路を通してイソアミルアルコールが高生産されたものと推察した。更に、異臭と感じられる特異香は、醸造工程初期の窒素欠乏が酵母の正常な代謝に影響を及ぼしたことが原因で生産されたものであると推察した。そこで、本願発明者らは、低グルテリン米を原料に用いた清酒の醸造工程において、酵素剤の添加または麹歩合の調整によりグルコアミラーゼ仕込み活性が72単位/g・総米以上となるように仕込みを行い、醸造工程初期の液相中の窒素成分(アミノ態窒素)含量を高めることによって、上記問題点を解消した(特許文献2を参照)。
【0008】
【特許文献1】特許第3357478号公報
【特許文献2】特開2004−187673号公報
【非特許文献1】高橋亨、他1名,「次世代型水稲(西海187号、北陸183号)の酒造適性評価」,岩手県工業技術センター研究報告,2000年8月,第7号,p.99−101
【非特許文献2】水間智哉、他9名,「酒造用低グルテリン米の酒造適性」,生物工学会誌,2002年11月,第80巻,第11号,p.503−511
【非特許文献3】独立行政法人農業・生物系特定産業技術研究機構中央農業総合研究センター北陸研究センター、原酒造株式会社、”プレスリリース「大粒・低グルテリン水稲品種「春陽」から造ったお酒−淡麗で,のどごしが良くワイン風味−」”、[online]、平成16年3月19日、[平成16年8月11日検索]、インターネット<URL:http://narc.naro.affrc.go.jp/inada/press/shunyo.htm>
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
更に本願発明者らは、低グルテリン米から得た製成酒と対照品種から得た製成酒のアミノ酸組成を詳細に比較した。その結果、低グルテリン米から得た製成酒は、個々のアミノ酸含量が対照品種の製成酒よりも全体的に低いこと、特にアルギニン及びメチオニン含量が顕著に低いという特徴が認められた。
【0010】
そこで、本願発明者らは、かかる知見に基づいて更に検討を行い、創意工夫を重ねた結果、本発明を創出するに至ったものである。即ち、本発明の目的は、低グルテリン米を用いた清酒の製造において、上述した従来の問題点を解消し得る新規な方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明によれば、上記目的を達成するために、清酒の醸造工程において低グルテリン米を掛米に使用し、酒母・添・仲・留仕込みを含む醸造工程の初期における酵母の正常な代謝に必要なアミノ酸量を富化するように仕込みを行う清酒の製造方法が提供される。このような仕込み条件で低グルテリン米を原料に用いた清酒の製造を行うことにより、特に上述した官能的に異臭と感じられる特異香を解消し、かつ酒化率を大幅に向上させ得ることが、本願発明者らにより確認された。
【0012】
このような仕込み条件を実現するため、或る実施例では、アルギニン若しくはメチオニン、またはアルギニン及びメチオニンの両方、またはそれらと他の複数のアミノ酸を醸造工程初期に添加する。上述したように、低グルテリン米から得た製成酒は特にアルギニン及びメチオニンの含量が顕著に低いという特徴が認められることから、このようにアミノ酸を添加することによって、前記特異臭の解消及び酒化率の大幅な向上が実現できる。
【0013】
別の実施例では、低グルテリン米ではない通常品種の酒造米を掛米として、酒母仕込み、添仕込み、仲仕込み、留仕込みのいずれか1つ又は2つ以上の仕込みに使用することによって、清酒醸造工程初期における酵母の正常な代謝に必要なアミノ酸量を富化する仕込み条件を実現することができる。
【0014】
更に別の実施例では、清酒の醸造工程において、アミノ酸を富化した米液化物、米糖化物または麹糖化物を醸造工程初期に添加することによって、同様に清酒醸造工程の初期における酵母の正常な代謝に必要なアミノ酸量を富化する仕込み条件を実現することができる。この米液化物及び米糖化物は、低グルテリン米または低グルテリン米ではない通常品種の酒造米に液化酵素とタンパク質分解酵素とを添加し、更に必要に応じて糖化酵素を添加し、液化させ又は液化及び糖化させることにより調製することができる。また、麹糖化物は、低グルテリン米または低グルテリン米ではない一般品種の酒造米に麹を添加し、麹酵素により糖化させて調製することができる。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、このように清酒の醸造工程において、醸造工程初期における酵母の正常な代謝に必要なアミノ酸量を富化するように仕込みを行うことによって、低グルテリン米を用いた清酒醸造を実用化することができ、従来問題となっていた特異香や雑味の発生を解消し、かつ酒化率を増加させ、アミノ酸の少ない軽快な酒質の清酒を得ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
以下に、本発明による清酒の製造方法をその好適な実施態様を用いて詳細に説明する。本発明の第1の実施態様によれば、清酒醸造の常法に従い、一般の酒造米を用いて麹を作る。次に、低グルテリン米を掛米として用いて、酒母仕込みの場合は酒母掛米及び添・仲・留仕込みにより、または酒母省略仕込みの場合は添・仲・留仕込みにより清酒醪を仕込む。本実施例では、酒母、添、仲、留の全ての段階の仕込みにおいてそれぞれ全量に低グルテリン米を使用する。別の実施例では、酒母、添、仲、留のいずれか1つ又はいくつかの仕込みに低グルテリン米を用い、又は各仕込みにおいてその一部に低グルテリン米を用いることもできる。
【0017】
更に、醸造工程初期における酵母の正常な代謝に必要なアミノ酸量を富化するような条件で仕込みを行う。本実施例では、添・仲・留の全ての段階の仕込みにおいて、アルギニン若しくはメチオニンを添加し、またはアルギニン及びメチオニンを添加し、またはアルギニン及びメチオニンと他の複数のアミノ酸とを添加する。アルギニン、メチオニン以外のアミノ酸には、アスパラギン酸、グルタミン酸、アスパラギン、セリン、グリシン、スレオニン、アラニン、チロシン、バリン、フェニルアラニン、ロイシン、イソロイシンなどが含まれる。
【0018】
アミノ酸の添加量は、使用するアミノ酸によって異なるが、低グルテリン米を原料に用いた製成酒中のアミノ酸含量と、低グルテリン米ではない一般の酒造米を原料に用いた製成酒中のアミノ酸含量との差から算出する。これは、予め低グルテリン米による製成酒と対照品種の一般酒造米による製成酒とについてそれぞれのアミノ酸含量を測定しておき、それらの差をアミノ酸の添加量とすることによって、容易に決定することができる。例えば、低グルテリン米として「中国酒185号」を使用し、対照品種として「吟おうみ」を用いた場合、アミノ酸にメチオニンを用いたときにその添加量は最少となり、総米重量の1/170万量である。
【0019】
このようにして熟成した醪を上槽する。得られた上槽酒は、酒化率が大幅に向上し、上述したように官能的に異臭と感じられる特異香が感知されなくなる。更に、製成酒の液量が多くかつ粕重量が少なくなり、酒化率が大幅に上昇する。他方、アミノ酸の添加に拘わらず、製成酒のアミノ酸度は、対照品種と比較しても顕著に低いことが本願発明者らにより確認された。
【0020】
本発明の第2の実施態様によれば、低グルテリン米と低グルテリン米ではない一般の酒造米とを掛米に用いて、清酒醸造工程初期における酵母の正常な代謝に必要なアミノ酸量を富化するような仕込み条件を実現する。本実施例では、同様に清酒醸造の常法に従い、一般の酒造米を用いて麹、酒母を作り、添仕込みについて一般の酒造米を掛米として使用し、仕込みの他の段階については、低グルテリン米を掛米に使用して、清酒醪を仕込む。これにより、製成酒は、同様に上述した異臭と感じられる特異香が感知されなくなり、かつ酒化率が大幅に上昇する。
【0021】
別の実施例では、添仕込み及び仲仕込みについて一般の酒造米を掛米として使用し、仕込みの他の段階については、低グルテリン米を掛米に使用して、清酒醪を仕込む。この場合にも、清酒醸造工程初期における酵母の正常な代謝に必要なアミノ酸量を富化することが可能で、同様に前記特異香が感知されなくなり、かつ酒化率が大幅に上昇する。
【0022】
本発明の第3の実施態様によれば、同様に清酒醸造の常法に従い、一般の酒造米を用いて麹、酒母を作り、低グルテリン米を掛米に用いて清酒醪の仕込みを行い、かつアミノ酸を富化した米液化物、米糖化物または麹糖化物を醸造工程初期に添加する。本実施例では、仕込みの酒母、添、仲、留の全ての段階に低グルテリン米を使用する。別の実施例では、酒母、添、仲、留のいずれか1つ又はいくつかの仕込みに低グルテリン米を用いることができ、また各仕込みにおいてその一部に用いることもできる。
【0023】
本実施例で使用する米液化物及び米糖化物は、低グルテリン米または低グルテリン米ではない一般品種の酒造米に液化酵素とタンパク質分解酵素とを添加し、更に必要に応じて糖化酵素を添加し、所定の温度条件下で液化及び/又は糖化させて調製する。また、麹糖化物は、低グルテリン米または低グルテリン米ではない一般品種の酒造米に麹を添加し、所定の温度条件下で麹酵素により反応させて調製する。この米液化物、米糖化物または麹糖化物は、酒母、添、仲、留のいずれか1つ又はいくつかの仕込みに添加することにより、清酒醸造工程初期における酵母の正常な代謝に必要なアミノ酸量を富化するような仕込み条件を実現することができる。
【実施例1】
【0024】
上述した本発明の第1の実施態様に従い、表1に示す仕込み配合で清酒小仕込み試験を実施した。麹は、精米歩合65%の「五百万石」を麹米の原料に用いたものを使用した。掛米は、精米歩合70%の低グルテリン米「中国酒185号」を用いた。対照米として、精米歩合70%の通常の酒造品種「吟おうみ」を用いた。アミノ酸の種類は、表2に示すようにアルギニン及びメチオニンを含む14種類を使用した。アミノ酸の添加量は表2に示す8種類とし、添・仲・留の全ての段階の仕込みにおいて、アルギニン若しくはメチオニンを単独で、またはアルギニン及びメチオニンを、またはそれらと他のアミノ酸を組み合わせて、同表に示す量を添加した。尚、表2において各項目の下段かっこ内は、各アミノ酸の量(mg)をアミノ酸度に換算した値である。留後18日目に遠心分離により上槽した。
【0025】
【表1】

【0026】
【表2】

【0027】
得られた上槽酒について、その日本酒度、アルコール濃度、酸度、アミノ酸度、液量、粕重量、低沸点香気成分(酢酸イソアミル、イソアミルアルコール、カプロン酸エチル)を測定した。その結果を表3、4に示す。更に、この上槽酒の官能評価を行った。その結果を表5に示す。
【0028】
【表3】

【0029】
【表4】

【0030】
【表5】

【0031】
この結果から分かるように、低グルテリン米「中国酒185号」の製成酒は、アミノ酸の添加により、液量が多く粕重量が少なくなり、酒化率の上昇が確認された。また、アミノ酸を添加したにも拘わらず、製成酒のアミノ酸度は、対照品種と比較すると顕著に低かった。官能評価においても、アミノ酸の添加により、評価の大幅な向上がみられるだけでなく、従来異臭と感じられた特異香は全く感知されなかった。
【0032】
他方、対照品種「吟おうみ」の製成酒は、液量及び粕重量についてアミノ酸の添加による大きな影響は認められず、低グルテリン米の場合と比較して、酒化率の上昇は僅かであった。また、製成酒のアミノ酸度も、低グルテリン米のそれと比較すると2倍程度であるが、アミノ酸の添加による大きな影響は認められなかった。むしろ官能評価においては、アミノ酸の添加により評価が下がる結果となった。
【0033】
以上の結果から、低グルテリン米を原料米として用いた清酒醸造において、従来問題となっていた特異香は、醸造工程初期の窒素欠乏が酵母の正常な代謝に影響を及ぼしていたことが原因であることが検証された。従って、このように本発明を適用して清酒醸造工程初期における酵母の正常な代謝に必要なアミノ酸量を富化することは、低グルテリン米を原料米として用いた清酒醸造における従来の問題点を解消するための有効な方法であることが確認された。
【実施例2】
【0034】
上述した本発明の第2の実施態様に従い、表6に示す仕込み配合で、表7に示す3つの試験区の清酒小仕込み試験を実施した。即ち、添・仲・留の全ての段階の仕込みにおいてそれぞれ掛米全量に低グルテリン米を使用する場合、添仕込みにのみ通常品種の酒造米を掛米に使用する場合、添仕込み及び仲仕込みに通常品種の酒造米を掛米に使用する場合である。上記実施例1と同様に、低グルテリン米に「中国酒185号」を、通常の酒造品種に「吟おうみ」を用い、精米歩合はいずれも70%であった。
【0035】
【表6】

【0036】
【表7】

【0037】
得られた上槽酒について、前記特異香の有無を評価した。その結果を表7に示す。同表に示すように、低グルテリン米を掛米全量に用いた場合には、特異香が感じられた。ところが、本発明を適用して添仕込みにのみ、または添仕込み及び仲仕込みに通常品種の酒造米を掛米として使用した場合に、特異香は感じられなかった。従って、これらの方法も、実施例1に示したアミノ酸添加と同様に、低グルテリン米を原料米として用いた清酒醸造において、醸造工程初期における酵母の正常な代謝に必要なアミノ酸量を富化することができ、上述した従来の問題点を解消し得る有効な方法であることが確認された。
【実施例3】
【0038】
上述した本発明の第3の実施態様に従い、表8に示す仕込み配合で清酒小仕込み試験を実施した。本実施例では、添・仲・留の全ての掛米に低グルテリン米を使用し、添掛米として液化酵素とタンパク質分解酵素により液化した米液化物を添加した。米液化物は、液化酵素:TC3(大和化成(株))を白米重量の1/1000量と、タンパク質分解酵素:プロチンFN(大和化成(株))を白米重量の1/2000量とを添加し、55℃で2時間保温後、85℃で30分間保温し、90℃で15分間保温後、放冷することにより調製した。低グルテリン米に「中国酒185号」を用いた。
【0039】
【表8】

【0040】
得られた上槽酒について、前記特異香の有無を評価した。その結果を表10に示す。この結果から分かるように、本発明を適用して液化酵素とタンパク質分解酵素により液化した米液化物を添加する仕込みを行った場合、特異香は感じられなかった。従って、この方法も、実施例1に示したアミノ酸添加と同様に、低グルテリン米を原料米として用いた清酒醸造において、醸造工程初期における酵母の正常な代謝に必要なアミノ酸量を富化することができ、上述した従来の問題点を解消し得る有効な方法であることが確認された。
【0041】
【表9】

【実施例4】
【0042】
上述した本発明の第3の実施態様に従い、表10に示す仕込み配合で清酒小仕込み試験を実施した。本実施例では、仲・留の掛米に低グルテリン米を使用し、麹の添加により通常品種の酒造米を糖化した麹糖化物を添仕込みに添加した。麹糖化物は、蒸米に水と麹を添加したものを55℃で反応させて調製した。低グルテリン米に「中国酒185号」を、通常の酒造品種に「吟おうみ」を用いた。
【0043】
【表10】

【0044】
得られた上槽酒について、前記特異香の有無を評価した。その結果を同じく表9に示す。この結果から分かるように、本発明を適用して麹により通常品種の酒造米を糖化して添加する仕込みを行った場合、特異香は感じられなかった。従って、この方法も、実施例1に示したアミノ酸添加と同様に、低グルテリン米を原料米として用いた清酒醸造において、醸造工程初期における酵母の正常な代謝に必要なアミノ酸量を富化することができ、上述した従来の問題点を解消し得る有効な方法であることが確認された。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
清酒の醸造工程において、低グルテリン米を掛米に使用し、醸造工程初期における酵母の正常な代謝に必要なアミノ酸量を富化するように仕込みを行うことを特徴とする清酒の製造方法。
【請求項2】
前記清酒の醸造工程において、アルギニン若しくはメチオニン、またはアルギニン及びメチオニンの両方、またはそれらと他の複数のアミノ酸を醸造工程初期に添加することを特徴とする請求項1に記載の清酒の製造方法。
【請求項3】
前記清酒の醸造工程において、低グルテリン米ではない通常品種の酒造米を掛米として、酒母仕込み、添仕込み、仲仕込み、留仕込みのいずれか1つ又は2つ以上の仕込みに使用することを特徴とする請求項1に記載の清酒の製造方法。
【請求項4】
前記清酒の醸造工程において、アミノ酸を富化した米液化物、米糖化物または麹糖化物を醸造工程初期に添加することを特徴とする請求項1に記載の清酒の製造方法。
【請求項5】
低グルテリン米または低グルテリン米ではない通常品種の酒造米に液化酵素とタンパク質分解酵素とを添加し、液化させることにより、前記米液化物を調製することを特徴とする請求項4に記載の清酒の製造方法。
【請求項6】
低グルテリン米または低グルテリン米ではない通常品種の酒造米に液化酵素とタンパク質分解酵素と糖化酵素とを添加し、液化及び糖化させることにより、前記米糖化物を調製することを特徴とする請求項4に記載の清酒の製造方法。
【請求項7】
低グルテリン米または低グルテリン米ではない一般品種の酒造米に麹を添加し、麹酵素により糖化させることにより、前記麹糖化物を調製することを特徴とする請求項4に記載の清酒の製造方法。

【公開番号】特開2006−75017(P2006−75017A)
【公開日】平成18年3月23日(2006.3.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−259861(P2004−259861)
【出願日】平成16年9月7日(2004.9.7)
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り 平成16年8月25日 社団法人日本生物工学会発行の「日本生物工学会大会講演要旨集」に発表
【出願人】(593134472)黄桜酒造株式会社 (10)
【出願人】(501203344)独立行政法人農業・生物系特定産業技術研究機構 (827)
【Fターム(参考)】