説明

清酒の製造方法

【課題】 本発明は、トレハロース若しくはマルトースにデンプンに老化抑制作用があることに鑑み、トレハロース若しくはマルトースの特性を利用することでアルコール収得率の高い製造方法を提供することを課題とする。
【解決手段】 米を原材料とし、米に吸水させる工程、吸水させた米を蒸して蒸し米を作成する工程、蒸し米に種麹を加えて麹を作成する工程、蒸し米に麹、酵母及び水を加えて酒母を作成する工程、蒸し米に酒母、麹及び水を加えて醪を作成する工程、醪を清酒と酒粕に分離する工程を行うことにより清酒を製造する清酒の製造方法であって、前記製造工程途時にトレハロース若しくはマルトースを添加する清酒の製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、トレハロース若しくはマルトースを添加する清酒の製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、清酒は例えば非特許文献1に開示されているように、次のとおり製造される。図1を参照して以下に具体的に説明する。
【0003】
まず玄米を精米することで米糠を取り除いて白米にし、次にこの白米を洗米することで白米に付着した米糠を取り除いて洗米を得る。次にこの洗米を浸漬タンクに投入し、浸漬させて米に吸水させ、次にこの吸水させた米を蒸して蒸し米とする。
【0004】
一方、蒸し米に種麹を加えて麹を作成し、また蒸し米に酵母及び麹を加えて酒母を作成する。
【0005】
次に前記蒸し米に、前記麹、前記酒母及び水を加え、仕込み工程により醪を作成し、発酵させてアルコールを生成させ、上槽後、清酒とする。尚、溶けずに残った醪中の不溶性固形物は、いわゆる酒粕となる。
【0006】
ところで、清酒の製造において、アルコール収得率が高いほど原料米の利用率が向上するため効率的な製造方法となり、よって、業界ではアルコール収得率の高い製造方法が要望されている。
【0007】
【非特許文献1】サントリーホームページ掲載の「サントリー お酒・飲料大事典」 清酒の製造工程(図)[online][平成18年6月28日検索] インターネット〈URL:http://www.suntory.co.jp/jiten/word/b_i_006.html〉
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、上記要望に答えるもので、トレハロース若しくはマルトースにデンプンの老化抑制作用があることに鑑み、トレハロース若しくはマルトースのこの作用を利用することでアルコール収得率の高い清酒の製造方法を提供することを課題とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
添付図面を参照して本発明の要旨を説明する。
【0010】
米を原材料とし、米に吸水させる工程、吸水させた米を蒸して蒸し米を作成する工程、蒸し米に種麹を加えて麹を作成する工程、蒸し米に麹、酵母及び水を加えて酒母を作成する工程、蒸し米に酒母、麹及び水を加えて醪を作成する工程、醪を清酒と酒粕に分離する工程を行うことにより清酒を製造する清酒の製造方法であって、前記製造工程途時にトレハロース若しくはマルトースを添加することを特徴とする清酒の製造方法に係るものである。
【0011】
また、請求項1記載の清酒の製造方法において、前記トレハロース若しくはマルトースの添加は、前記蒸し米を作成する工程の前に行われることを特徴とする清酒の製造方法に係るものである。
【0012】
また、請求項1記載の清酒の製造方法において、前記トレハロース若しくはマルトースの添加は、前記蒸し米を作成する工程の際に行われることを特徴とする清酒の製造方法に係るものである。
【0013】
また、請求項1記載の清酒の製造方法において、前記トレハロース若しくはマルトースの添加は、前記蒸し米を作成する際の米が糊化する前に行われることを特徴とする清酒の製造方法に係るものである。
【0014】
また、請求項1記載の清酒の製造方法において、前記トレハロース若しくはマルトースの添加は、前記米に吸水させる工程の前に行われることを特徴とする清酒の製造方法に係るものである。
【0015】
また、請求項1記載の清酒の製造方法において、前記トレハロース若しくはマルトースの添加は、前記米に吸水させる工程の際に行われることを特徴とする清酒の製造方法に係るものである。
【発明の効果】
【0016】
本発明は上述のようにするから、加熱、加水により原料米に含有されたデンプン(α−デンプン)は、トレハロース若しくはマルトースにより老化(β化)が抑制され、よって、糖への分解が良好に行われ、アルコールの収得率が向上する。
【0017】
また、アルコールの収得率が向上するということは未分解固形分(不溶性固形物)である酒粕が少量となることを意味し、原料米の利用率が向上する。
【0018】
更に、醪中のデンプンにはβ−デンプンが少ないから(溶解性に優れたα−デンプンが多い)、米のエキスが良好に溶出し、濃醇な酒質の清酒が得られることとなる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0019】
好適と考える本発明の実施形態を、本発明の作用を示して簡単に説明する。
【0020】
米を原材料とする清酒の製造における製造工程途時、例えば米に吸水させる工程でトレハロース若しくはマルトースを添加する。
【0021】
具体的には、米に吸水させる浸漬水にトレハロース若しくはマルトースを添加し、米に吸水させると、水とともにトレハロース若しくはマルトースも吸収される。
【0022】
この際、上記トレハロース若しくはマルトースはデンプンの老化抑制作用(β化抑制作用)があるため、蒸されることでα化したデンプン(α−デンプン)は、トレハロース若しくはマルトースの上記作用が奏されて、β化が抑制され(α−デンプンはトレハロース若しくはマルトースの作用でβ−デンプンに戻る(老化)ことが抑制され)、β−デンプンの存在が減少し、従って、麹の酵素により多量の糖が得られる(β−デンプンが少ないため)。よって、酵母の作用によって多量のアルコールが生成される。
【実施例】
【0023】
本発明の具体的な実施例について説明する。
【0024】
米を原材料とし、米に吸水させる工程、吸水させた米を蒸して蒸し米を作成する工程、蒸し米に種麹を加えて麹を作成する工程、蒸し米に麹、酵母及び水を加えて酒母を作成する工程、蒸し米に酒母、麹及び水を加えて醪を作成する工程、醪からアルコールを分離する工程を行うことにより清酒を製造する清酒の製造方法であって、前記製造工程途時にトレハロース若しくはマルトースを添加する方法である。この製造方法によればアルコール収得率が高くなる。
【0025】
本実施例の上記工程は一般的な清酒の製造工程であり、この工程途時にトレハロース若しくはマルトースを添加する。以下、本実施例の工程を図2をもとに詳述する。
【0026】
原料となる玄米を精米する(精米工程)。この精米工程では、玄米を精米することで米糠を取り除いて白米にする。
【0027】
次に、上記白米を洗米し(洗米工程)、この白米に付着した米糠を水洗いして取り除ぞく。尚、予め米糠を取り除いてある無洗米を用いても良い。
【0028】
次に、この洗米に吸水させる。具体的には、浸漬水にこの洗米を投入し、15〜30分程度浸漬することで米に吸水させ、水切りをする。
【0029】
この際、この浸漬水にトレハロース若しくはマルトースを予め添加しておく。従って、吸水と同時に、米の内部にトレハロース若しくはマルトースが浸透する。
【0030】
次に、上記吸水させた吸水米を45分程度蒸して蒸し米を作成する(蒸し工程)。この蒸し工程により吸水米中のβ−デンプンはα−デンプンにかわる。
【0031】
このα−デンプンは、経時によりβ−デンプンに戻ろうとするが、前記トレハロース若しくはマルトースの作用により、このβ−デンプンへの戻りは抑制される。
【0032】
一方、蒸し米に種麹を加えて麹を作成する(製麹工程)。具体的には、所定温度に冷ました前記蒸し米に種麹と呼ばれる黄麹菌の胞子を大量に振りかけて二日程度措くことで麹を生成する。
【0033】
α−デンプンは溶解性に優れているから、種麹の黄麹菌の胞子をまぶすだけで、良好に麹となる。尚、麹にはさまざまな作用を行う酵素、例えば消化性酵素が多量に含まれる。
【0034】
また、前記蒸し米に前記麹、酵母及び水を加えることで酒母を生成する。前記蒸し米に前記麹、酵母及び水を加えた酒母は二週間程度措くことで、酵母を大量に培養した熟成酒母となる。
【0035】
続いて、前記蒸し米に前記熟成酒母を加えることで醪を作成する(仕込み工程)。
【0036】
この仕込みは、多段階で行うのが一般的であって、本実施例は、初添、仲添、留添の3段階で仕込みを行う。
【0037】
仕込み工程においては、蒸し米中には溶解性に優れるα−デンプンが多いから、麹中の種々の酵素が良好に作用して、糖が分解生成し、また、酒母の酵母が良好に作用して糖が発酵しアルコールが生成される。
【0038】
この際、上記トレハロース若しくはマルトースはデンプンの老化抑制作用(β化抑制作用)があるため、蒸されることでα化したデンプン(α−デンプン)は、トレハロース若しくはマルトースの上記作用が奏されて、β化が抑制され(α−デンプンはトレハロース若しくはマルトースの作用でβ−デンプンに戻る(老化)ことが抑制され)、β−デンプンの存在が減少し、従って、麹の酵素により多量の糖が得られる(β−デンプンが少ないため)。よって、酵母の作用によって多量のアルコールが生成される。
【0039】
次に、仕込み工程の後、熟成期間を措き、上槽によって清酒と酒粕に分離することで清酒が製造される。尚、前記を清酒を分離した後残った酒粕は、蒸し米のうち溶けずに残った醪中の不溶性固形物である。
【0040】
また、得られた前記清酒は検定を行うことで品質を確認した後、滓引きし、その後、濾過工程を経て火入れをすることで殺菌し、貯蔵した後瓶詰めし、出荷する。
【0041】
尚、前記濾過後に貯蔵し、そのまま生酒として出荷しても良いし、前記貯蔵後に加熱殺菌を行い、生貯蔵酒として出荷しても良い。また、前記熟成時に、副原料を含み、加水した調味液を添加することで、より味わい深い清酒となる。
【0042】
次にトレハロース及びマルトースについて説明する。
【0043】
トレハロースは自然界に広く見られる動植物、酵母、カビ、微生物に存在する天然の糖質と言われるもので、ブドウ糖2分子がα−1,1結合した二糖類であり、α−デンプンに対して老化(β化)抑制作用がある(例えば特開平11−42057号参照)。
【0044】
また、トレハロースは、ジャガイモやトウモロコシなどのデンプンを原料に、微生物由来の酵素の力により量産が可能な安価に入手できる成分である。
【0045】
トレハロースは白米の重量の0.1〜10%重量を添加することが望ましいことを確認している。尚、白米の重量の0.5〜3.0%重量を添加すれば充分トレハロースの上記老化抑制作用が奏される。
【0046】
また、マルトースはブドウ糖2分子がα−1,4結合した二糖類(麦芽糖)である(例えば特開2006−6232号参照)。尚、麦芽糖は水あめの原料として使用されている成分である。
【0047】
マルトースは白米の重量の0.1〜10%重量を添加することが望ましいことを確認している。尚、白米の重量の0.5〜3.0%重量を添加すれば充分マルトースの上記老化抑制作用が奏される。
【0048】
トレハロースは、増醸法上のブドウ糖と見なされる為、酒造に使用することが認められている。また、マルトースは水飴の主成分であり、水飴は酒造に使用が認められている。従って、トレハロース及びマルトースは安全性に問題はない。
【0049】
<実験例1>
実験例1による予備試験(酒米統一分析消化性分析法に準ずる)を行い、トレハロ
ースの添加量による米のデンプンの溶解性を糖度を測ることで確認した。
【0050】
白米の重量に対し、夫々0、0.1、0.5、1、3、5、7、10%重量のトレハ
ロースを米に吸水させる浸漬時に添加し、1昼夜(15時間程度)浸漬時間を措いて
水切りし、蒸して所定の酵素液中に24時間消化させ、アミノ酸度とBrix値を測
り、得られた数値を表1にあらわした。
【0051】
【表1】

【0052】
アミノ酸度(Aa)とは、酒の場合アミノ酸が多すぎると飲んだ際に雑味を感じて味が悪いと感じるが、この感じを示す指標であり、数値が大きい程味が悪いと評価される。
【0053】
また、Brix値は、糖度測定によりデンプンの溶解性を表す数値であり(デンプンが分解されると糖が生成されることから糖度を測定することでデンプンの溶解性を知ることができる。)、数値が大きい程糖度が高く、溶解性が高いと評価される。
【0054】
実験例1によれば、トレハロースを0%添加して得たBrix値に対し、トレハロースを0.5%重量以上添加して得たBrix値は高い数値を示した。また5%重量以上添加して得たBrix値は0.5〜3%重量添加して得たBrix値に対し僅かに高い数値を示したに過ぎないことから、0.5〜3%重量程度の添加で充分デンプンの溶解性の向上が認められるといえる。
【0055】
また、デンプンの溶解性が向上したことからアミノ酸度の向上が懸念されたが、トレハロースを0%添加して得たアミノ酸度に対し、トレハロースを0.1〜5%重量添加して得たアミノ酸度は同じ数値を示し、トレハロースを7%重量以上添加して得たアミノ酸度はわずかに向上したことが認められることから、トレハロースを白米の重量の0.5〜5%重量程度添加しても、アミノ酸度は向上しないことが確認された。
【0056】
以上のことからトレハロースを白米の重量の0.5〜3%重量程度添加することで米のデンプンの溶解性は向上する。即ち、トレハロースの前記老化抑制作用によりβ化が減少し、α−デンプンが多量に存在するといえる。尚、上記量のトレハロースの添加によっては、アミノ酸度は増加しないことも確認された。
【0057】
<実験例2>
実験例2により予備試験(酒米統一分析消化性分析法に準ずる)を行い、マルトー
スの添加量による白米のデンプンの溶解性を糖度を測ることで確認した。
【0058】
白米の重量に対し、夫々0、0.1、0.5、1、3、5、7、10%重量のマルト
ースを米に吸水させる浸漬時に添加し、1昼夜(15時間程度)浸漬時間を措いて水
切りし、蒸して所定の酵素液中に24時間消化させ、アミノ酸度とBrix値を測り
、得られた数値を表2にあらわした。
【0059】
【表2】

【0060】
実験例2によれば、マルトースを0%添加して得たBrix値に対し、マルトースを0.5%重量以上添加して得たBrix値は高い数値を示した。
【0061】
また、5%重量以上添加して得たBrix値は0.5〜3%重量添加して得たBrix値に対しわずかに高い数値を示したに過ぎないことから、0.5〜3%重量程度の添加で充分デンプンの溶解性の向上が認められるといえる。
【0062】
また、デンプンの溶解性が向上したことからアミノ酸度の向上が懸念されたが、マルトースを0%添加して得たアミノ酸度に対し、マルトースを0.1〜5%重量添加して得たアミノ酸度は同じ数値を示し、マルトースを7%重量以上添加して得たアミノ酸度がわずかに増えたことが認められたことから、マルトースを白米の重量の0.5〜5%重量程度添加しても、アミノ酸は増えないことが確認された。
【0063】
以上のことからマルトースを白米の重量の0.5〜3%重量程度添加することで米のデンプンの溶解性は向上するがアミノ酸は増えないことが確認された。
【0064】
尚、トレハロースの添加量とマルトースの添加量が同量の場合、トレハロースのBrix値の増加率がマルトースのBrix値より高いことが認められたことから、トレハロースを添加させる場合の方がデンプンの溶解性が高いといえ、よって、トレハロースの方が上記老化抑制作用が高いと推測できる。
【0065】
<実験例3>
実験例3により予備試験(酒米統一分析消化性分析法に準ずる)を行い、トレハロ
ースの添加量及び浸漬時間による米のデンプンの溶解性を糖度を測ることで確認した

【0066】
白米の重量に対し、夫々0、0.1、0.5、1、3、5%重量のトレハロースを白
米に吸水させる浸漬時に添加し、30分、60分、120分の浸漬時間を措いて水切
りし、アミノ酸度とBrix値を測り、得られた数値を表3にあらわした。
【0067】
【表3】

【0068】
実験例3によれば、トレハロースの添加量に関わらず、Brix値は浸漬時間が30分の場合、浸漬時間が2倍の60分の場合、4倍の120分の場合、いずれもさほどの変化がなかった。
【0069】
以上のことから、トレハロースの添加量に関わらず、浸漬時間の短長による差は認められず、30分の浸漬時間で充分良好な米のデンプンの溶解性が得られ、しかも、アミノ酸度は増えないことが確認された。
【0070】
従って、実験例1で得られた結果と併せて考察すると、トレハロースを0.5〜3%重量添加し、30分程度の浸漬時間で良好にデンプンの溶解性が得られることが確認された。
【0071】
<実験例4>
実験例4により予備試験(酒米統一分析消化性分析法に準ずる)を行い、マルトー
スの添加量及び浸漬時間による米のデンプンの溶解性を糖度を測ることで確認した。
【0072】
白米の重量に対し、夫々0、0.1、0.5、1、3、5%重量のマルトースを白米
に吸水させる浸漬時に添加し、30分、60分、120分の浸漬時間を措いて水切り
し、アミノ酸度とBrix値を測り、得られた数値を表4にあらわした。
【0073】
【表4】

【0074】
実験例4によれば、マルトースの添加量に関わらず、浸漬時間が30分の場合に対して浸漬時間が2倍の60分、4倍の120分になってもBrix値はさほどの変化がなかったことから、マルトースの添加量に関わらず、浸漬時間の短長による差は認められず30分の浸漬時間で充分良好な米のデンプンの溶解性が得られ、アミノ酸は増えないことが確認された。
【0075】
従って、実験例2で得られた結果と併せて考察すると、マルトースを0.5〜3%重量添加し、30分程度の浸漬時間で良好にデンプンの溶解性が得られることが確認された。
【0076】
本実施例は上述のようにするから、加熱、加水により原料米に含有されたデンプン(α−デンプン)は、トレハロース若しくはマルトースにより老化(β化)が抑制され、よって、糖への分解が良好に行われ、アルコールの収得率が向上する。
【0077】
また、アルコールの収得率が向上するということは未分解固形分(不溶性固形物)である酒粕が少量となることを意味し、原料米の利用率が向上する。
【0078】
また、従来処分が厄介であった酒粕が少量となる為、それだけ製造工程が容易となる。
【0079】
更に、醪中のデンプンにはβ−デンプンが少ないから(溶解性に優れたα−デンプンが多い)、米のエキスが良好に溶出し、濃醇な酒質の清酒が得られることとなる。
【0080】
以上、本実施例により得られる清酒は高濃度のアルコールが含まれ、且つ米のエキスが豊富に含まれた濃醇な酒質の清酒となるから、例えば加水して低アルコール酒にした場合でも所謂水っぽさの無い呈味の豊かな酒質の味わい深い低アルコール酒を提供できることとなる。
【0081】
尚、本実施例の蒸し米を作成する工程の前、本実施例の蒸し米を作成する工程の際、実施例の蒸し米を作成する工程の際の米が糊化する前、本実施例の米に吸水させる工程の前、本実施例の米に吸水させる工程の際にトレハロース若しくはマルトースを添加しても、前記本実施例同様の効果が得られることを確認している。
【0082】
以下に本実施例により製造した清酒の官能評価を示す。
【0083】
<対照>
トレハロース及びマルトースを添加していない対照は、白米:水=1:1.5量の
浸漬水に白米を15時間浸漬した後、蒸し米40gとし、酵母は701号を1ml,
麹歩合20%(麹米10g),水140%(70ml)を加えて醪とし、醪後品温1
5℃で15日措き、上槽は遠心分離機にて4000rpm,15分行い清酒とし、下
記のデータを得た。
【0084】
<トレハロース添加の実施例>
トレハロースを用いた場合は、白米:水=1:1.5量の浸漬水に白米の重量の3
%のトレハロースを添加し、白米を15時間浸漬した後、蒸し米40gとし、酵母は
701号を1ml,麹歩合20%(麹米10g),水140%(70ml)を加えて醪
とし、醪後品温15℃で15日措き、上槽は遠心分離機にて4000rpm,15分
行い、清酒とし、下記のデータを得た。
【0085】
<マルトース添加の実施例>
マルトースを用いた場合は、白米:水=1:1.5量の浸漬水に白米の重量の3%
のマルトースを添加したものに白米を15時間浸漬した後、蒸し米40gとし、酵母
は701号を1ml,麹歩合20%(麹米10g),水140%(70ml)を加えて
醪とし、醪後品温15℃で15日措き、上槽は遠心分離機にて4000rpm,15
分行い清酒として、下記のデータを得た。
【0086】
【表5】

【0087】
表5は醪の炭酸ガスの減量重量を経時的に測ってあらわしたものである。前記炭酸ガスの減量は、糖が発酵してアルコールと炭酸ガスが生成されることから、アルコールが生成されるほど炭酸ガスが抜けて重量が軽くなることによる。
【0088】
【表6】

【0089】
表6は表5の右欄と左欄との差をあらわしたものである。即ち、第1欄は基準(4日目)であり、第2欄は表5の6日目と4日目の差であり、以下同様である。
【0090】
表5、表6によると醪の経過は健全な発酵を示している。醪後半において、減少推移で示すように、トレハロースは対照よりも多く減少していることから発酵状態として比較的活発な発酵状態を維持しているといえ、デンプンは適度な溶解を継続していることがわかった。
【0091】
【表7】

【0092】
表7が各清酒から得たアルコール度,酸度,アミノ酸度,グルコースについて分析値である。
【0093】
得られた各清酒の官能評価を3名で行ったところ、次のような結果であり、3名とも同様の結論であった。
【0094】
甘味の強度について、トレハロース>>マルトース>対照の順に甘味が強く、また、味感について、トレハロース>マルトース>対照の順に対照が最も薄く、酸味について、対照>トレハロース>マルトースの順に酸味を強く感じた。
【0095】
また、各清酒の量については、トレハロース若しくはマルトースを添加したものが対照と比較して若干多く回収されたことから、トレハロース若しくはマルトースを添加した場合の方が酒化率が向上するといえる。よって、大型仕込みにした場合には、相当量の清酒増加が期待できるといえる。
【0096】
また、アルコール度については、トレハロース若しくはマルトースを添加したものは対照と比較して高いことから、前記老化抑制効果が顕著に見られ、アルコール収得率が向上したことが確認された。
【0097】
また、アミノ酸度については、トレハロース若しくはマルロースを添加したものは酒量が対照と比較して多いにも関わらず低い値を示した。従って、酵母の活性が失活せずに健全な発酵が進んだものと推察され、よって、雑味を感じない味の良いものといえる。
【0098】
また、糖化作用によって得られたグルコース量においてトレハロース若しくはマルトースを添加したものは著しく多量となったことから米のエキスが豊富にふくまれることが確認された。
【図面の簡単な説明】
【0099】
【図1】図1は従来の清酒の製造方法を示すフローチャートである。
【図2】図2は本実施例の清酒の製造方法を示すフローチャートである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
米を原材料とし、米に吸水させる工程、吸水させた米を蒸して蒸し米を作成する工程、蒸し米に種麹を加えて麹を作成する工程、蒸し米に麹、酵母及び水を加えて酒母を作成する工程、蒸し米に酒母、麹及び水を加えて醪を作成する工程、醪を清酒と酒粕に分離する工程を行うことにより清酒を製造する清酒の製造方法であって、前記製造工程途時にトレハロース若しくはマルトースを添加することを特徴とする清酒の製造方法。
【請求項2】
請求項1記載の清酒の製造方法において、前記トレハロース若しくはマルトースの添加は、前記蒸し米を作成する工程の前に行われることを特徴とする清酒の製造方法。
【請求項3】
請求項1記載の清酒の製造方法において、前記トレハロース若しくはマルトースの添加は、前記蒸し米を作成する工程の際に行われることを特徴とする清酒の製造方法。
【請求項4】
請求項1記載の清酒の製造方法において、前記トレハロース若しくはマルトースの添加は、前記蒸し米を作成する際の米が糊化する前に行われることを特徴とする清酒の製造方法。
【請求項5】
請求項1記載の清酒の製造方法において、前記トレハロース若しくはマルトースの添加は、前記米に吸水させる工程の前に行われることを特徴とする清酒の製造方法。
【請求項6】
請求項1記載の清酒の製造方法において、前記トレハロース若しくはマルトースの添加は、前記米に吸水させる工程の際に行われることを特徴とする清酒の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2008−5808(P2008−5808A)
【公開日】平成20年1月17日(2008.1.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−182085(P2006−182085)
【出願日】平成18年6月30日(2006.6.30)
【出願人】(397012484)朝日酒造 株式会社 (5)
【Fターム(参考)】