減衰力可変ダンパ
【課題】 MRFを用いた可変減衰力ダンパに於いて、電流を通電しないときの減衰力を小さくすることにより、車両の乗り心地性能を向上させる。
【解決手段】 ピストン16の外周側部分に環状のインナヨーク26及びアウタヨーク40を所定の間隙をもって同軸的に対峙するように設け、両ヨーク間に形成される空隙41をMRFが流通するようにする。インナヨークの外周に凹設された環状溝28内にコイル30を配置し、コイルに選択的に通電することにより、空隙41を横切る磁束を発生させ、空隙を通過するMRFに対する流路抵抗を制御する。インナヨークの、環状溝の外周部側には、コイルの外周に向けてオーバハングするような軸線方向延出部31を設ける。
【解決手段】 ピストン16の外周側部分に環状のインナヨーク26及びアウタヨーク40を所定の間隙をもって同軸的に対峙するように設け、両ヨーク間に形成される空隙41をMRFが流通するようにする。インナヨークの外周に凹設された環状溝28内にコイル30を配置し、コイルに選択的に通電することにより、空隙41を横切る磁束を発生させ、空隙を通過するMRFに対する流路抵抗を制御する。インナヨークの、環状溝の外周部側には、コイルの外周に向けてオーバハングするような軸線方向延出部31を設ける。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、自動車用サスペンションを構成するテレスコピック式の減衰力可変ダンパに係り、詳しくは、減衰力の可変幅を大きくする技術に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、自動車のサスペンションに用いられる筒型ダンパでは、乗り心地や操縦安定性の向上を図るべく、減衰力の可変制御が可能な減衰力可変ダンパが種々開発されている。減衰力可変ダンパとしては、オリフィス面積を変化させるロータリバルブをピストンに設け、このロータリバルブをアクチュエータによって回転駆動する機械式のものが主流であったが、構成の簡素化や応答性の向上等を実現すべく、作動液に磁気粘性流体を用い、ピストンと一体に形成された磁気流体バルブによって磁気粘性流体の粘度を制御するものが出現している(特許文献1参照)。
【0003】
特許文献1の減衰力可変ダンパでは、ピストンが、外周にコイルが巻き回された円柱状のインナヨークと、インナヨークの両端に配置された一対のエンドプレートと、インナヨークと両エンドプレートを収容する円筒状のアウタヨークとから主に構成されている。インナヨークおよびアウタヨークはともに強磁性体を素材としており、エンドプレートによって保持されることによって両者の間に環状流路が形成される。エンドプレートは、非磁性体を素材とした円盤状のものであり、環状流路に連通する複数の円弧状孔と、インナヨーク端部の凸部が係合する環状凹部と、ピストンロッド固定用のリングが係合する環状溝とを有している。また、インナヨークおよびエンドプレートは、アウタヨークの両端外縁を加締めることによって固定されている。
【特許文献1】米国特許6,260,675号公報
【0004】
このような減衰力可変ダンパに於いては、好適な或いは広範囲の用途に適用可能なものであるためには、減衰力の可変幅が大きく、かつ応答性が良好であることが望まれる。特許文献2及び特許文献3には、ピストンの外周に軸線方向溝を設け、非通電時の減衰力を小さくしたり、ピストン速度に対する減衰力を最適化することが提案されている。
【特許文献2】米国特許6,637,556号公報
【特許文献3】米国特許6,318,519号公報
【0005】
一般に、減衰力の可変幅を大きくし、非通電時の減衰力を小さくすると良く、応答性を向上させるためには、コイルのインダクタンスを小さくすると良い。しかしながら、実際には、非通電時の減衰力を効果的に小さくすることが困難であり、減衰力の応答性に遅れが出る等の問題があった。
【0006】
その原因としては、従来のMRFを用いた可変減衰力ダンパは減衰力を発生させる流路の中間部にコイルを配置していたため流路全長が長くなってしまい、結果電流を通電しないときの減衰力が大きくなってしまい、乗り心地性能を悪化させていたという問題があった、また、従来のMRFを用いた可変減衰力ダンパでは、コイルを流路内周面近傍に配置しており、インダクタンスが大きくなり制御指示電流に対する減衰力の応答性を悪化させていた。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
このような従来技術の問題点に鑑み、本発明の主な目的は、MRFを用いた可変減衰力ダンパに於いて、電流を通電しないときの減衰力を小さくすることにより、車両の乗り心地性能を向上させることにある。
【0008】
本発明の第2の目的は、MRFを用いた可変減衰力ダンパに於いて、コイルのインダクタンスを小さくして、制御指示電流に対する減衰力の応答性を向上させることにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
このような目的は、本発明によれば、磁性流体または磁気粘性流体が充填されるとともに車体側部材と車輪側部材とのどちらか一方に連結されたシリンダと、前記シリンダを一側液室と他側液室とに区画するとともに前記磁性流体または磁気粘性流体を当該一側液室と他側液室との間で流通させる流路が形成されたピストンと、前記車体側部材と車輪側部材とのどちらか他方を当該ピストンに連結するピストンロッドとを有し、前記流路を通過する前記磁性流体または前記磁気粘性流体に磁界を印加することで減衰力が制御される減衰力可変式ダンパであって、前記ピストンは、前記ピストンの外周側部分を形成するアウタヨークと、前記アウタヨークの内側に所定の間隙をもって設置され、当該アウタヨークとの間に前記流路を画成するインナヨークと、前記インナヨークに保持され、前記磁界の形成に供されるコイルとを備え、前記コイルが、前記インナヨークの外周に凹設された環状溝内に受容され、かつ前記インナヨークが、前記コイルの外周に向けてオーバハングするように、前記環状溝の外周部側にて軸線方向延出部を有することを特徴とする減衰力可変ダンパを提供することにより達成される。
【0010】
この場合、前記インナヨークの前記軸線方向延出部が、前記環状溝の両側から略対称に延出するものとすれば、インナヨークとアウタヨークとの間に形成される空隙内にて、強い磁界を均一に形成することができ、高い磁気効率を確保することができる。
【0011】
このような目的は、また、本発明によれば、磁性流体または磁気粘性流体が充填されるとともに車体側部材と車輪側部材とのどちらか一方に連結されたシリンダと、前記シリンダを一側液室と他側液室とに区画するとともに前記磁性流体または磁気粘性流体を当該一側液室と他側液室との間で流通させる流路が形成されたピストンと、前記車体側部材と車輪側部材とのどちらか他方を当該ピストンに連結するピストンロッドとを有し、前記流路を通過する前記磁性流体または前記磁気粘性流体に磁界を印加することで減衰力が制御される減衰力可変式ダンパであって、前記ピストンは、前記ピストンの外周側部分を形成するアウタヨークと、前記アウタヨークの内側に所定の間隙をもって設置され、当該アウタヨークとの間に前記流路を画成するインナヨークと、前記インナヨークに保持され、前記磁界の形成に供されるコイルとを備え、 前記インナヨークに保持され、前記磁界の形成に供されるコイルとを備え、前記コイルの外周側に於ける前記インナヨークの軸線方向長が、少なくとも部分的に、前記コイルを通過する前記インナヨークの軸線方向長よりも大きいことを特徴とする減衰力可変ダンパを提供することによっても達成される。
【発明の効果】
【0012】
このようにすれば、MRFを用いた可変減衰力ダンパに於いて、環状溝の開口部分に形成される磁気的に無効な部分の軸線方向長を最小化し得ることから、MRFのピストンを横切る流路長を短縮し、電流を通電しないときの減衰力を小さくすることができる。それにより、車両の乗り心地性能を向上させることができる。また、コイルを、流路内周面からやや離反した、半径方向内側に配置することができ、コイルのインダクタンスを小さくして、制御指示電流に対する減衰力の応答性を向上させることができる。また、磁気的に無効な部分の軸線方向長を最小化することにより、ピストンの全体的な軸線方向長を短縮し得る効果も得られ、ダンパのコンパクト化に寄与することができる。
【0013】
特に、前記インナヨークが軸方向で分割され、かつ締結部材によって締結/一体化される少なくとも2つの部分からなるものであると良い。このようにすれば、環状溝の外周部側にてコイルの外周に向けてオーバハングする軸線方向延出部を設けた場合でも、コイルを環状溝内に容易に組み付けることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
以下、図面を参照して、本発明を4輪自動車のリヤサスペンションに適用した実施形態を詳細に説明する。
【0015】
図1に示すように、本実施形態のリヤサスペンション1は、いわゆるH型トーションビーム式サスペンションであり、左右のトレーリングアーム2、3や、両トレーリングアーム2、3の中間部を連結するトーションビーム4、懸架ばねである左右一対のコイルスプリング5、左右一対のダンパ6等から構成されており、左右のリヤホイール7、8を懸架している。ダンパ6は、MRF(Magneto-Rheological Fluid:磁気粘性流体)を作動流体とする減衰力可変型ダンパであり、トランクルーム内等に設置されたECU9によってその減衰力が可変制御される。
【0016】
図2に示すように、本実施形態のダンパ6は、モノチューブ式(ド・カルボン式)であり、MRFが充填された円筒状のシリンダ12と、このシリンダ12に対して軸方向に摺動するピストンロッド13と、ピストンロッド13の先端に装着されてシリンダ12内を上部液室(一側液室)14と下部液室(他側液室)15とに区画するピストン16と、シリンダ12の下部に高圧ガス室17を画成するフリーピストン18と、ピストンロッド13等への塵埃の付着を防ぐカバー19と、フルバウンド時における緩衝を行うバンプストップ20とを主要構成要素としている。
【0017】
シリンダ12は、下端のアイピース12aに嵌挿されたボルト21を介して、車輪側部材であるトレーリングアーム2の上面に連結されている。また、ピストンロッド13は、上下一対のブッシュ22とナット23とを介して、その上部ねじ軸13aが車体側部材であるダンパベース(ホイールハウス上部)24に連結されている。
【0018】
図3はピストン16の詳細を示す。ピストン16の中心部には、円柱状をなす強磁性体からなるインナヨーク26が設けられ、その一方の軸線方向端に設けられた孔35にピストンロッド13の一端が突入している。インナヨーク26は、軸線方向に分割された2つの部分26a、26bからなり、ピストンロッド13に対して離反する側の軸線方向端面から挿入された計4つの締結ねじ27により互いに一体化されている。
【0019】
インナヨーク26の、外周の軸線方向中間部分には環状溝28が設けられ、その内部にコイル30が受容され、樹脂モールド29内に埋め込まれている。この場合コイル30は、インナヨーク26の周方向に巻かれたコイルをなしている。また、環状溝28の外周部側には、コイル30の外周に向けてオーバーハングするようにインナヨーク26の部分が軸線方向に延出することにより形成される軸線方向延出部31が設けられている。図示された実施例では、この軸線方向延出部31は、環状溝28の両側から軸線方向に対称に延出している。このようにして、インナヨーク26の外周部分は、全体として概ね一定半径の円周面をなす外周面を画定すると共に、環状溝28の両側に位置する部分が、インナヨーク26の両部分26a、26bをなしている。
【0020】
また、インナヨーク26の両部分の分割面33は、ピストンロッド13と離反する側の環状溝28の側面と同一面上に位置している。インナヨーク26の、両軸線方向端面には、非磁性体からなり、環状をなすエンドプレート34(34a、34b)が重ね合わされ、ピストンロッド13の側のエンドプレート34aの中心孔を、ピストンロッド13が貫通している。エンドプレート34は、それぞれ外周部に周方向に等間隔に設けられた4つの円弧状スロット36を備えている。
【0021】
更に、両エンドプレート34の外周縁間には、強磁性体からなる円筒状のフラックスリング即ちアウタヨーク40が挟持され、アウタヨーク40の内周面は、インナヨーク26の外周面に対して同心状に所定の間隔の空隙41をおいて対峙している。アウタヨーク40及び両エンドプレート34の、互いに協働して概ね一定半径の円周面をなす外周面には、筒状をなす非磁性体からなるピストンリング43が外装され、かつその両軸線方向端部43a、43bを両エンドプレート34の外周縁に向けてかしめ付け、それによって、両エンドプレート34、インナヨーク26及びアウタヨーク40を互いに一体的に保持している。
【0022】
更に、ピストンロッド13側のエンドプレート34の内孔のインナヨーク側の縁部には、べべル加工部分37が設けられ対応するピストンロッド13の外周面には環状溝36が設けられている。これらにより画定される環状凹部内にCリング38を嵌め入れることにより、ピストンロッド13を、ピストン16に対して固定している。
【0023】
ピストンロッド13の中心部には、軸線方向孔46が設けられ、インナヨーク26に設けられた同様の中心孔と同軸的に整合している。インナヨーク26のピストンロッド13側部分26aの中心部には凹部47が設けられ、ディスク状の部材からなるハーメチックシール部材45が受容されている。コイル30のリード線44は、ピストンロッド13の中心孔46からインナヨークの中心孔を経て、ハーメチックシール45の中心部をシール可能に通過した後、図示されない、インナヨーク26の両部分26a、26bのいずれか一方の部分の、分割面33側の端面に半径方向に設けられた溝(図示せず)内を通過した後にコイル30に達している。さらに、インナヨーク26とピストンロッド13の突入端との間には、Oリング39が設けられ、ピストンロッド13の中心孔46を作動流体に対してシールするとともに、ハーメチックシール部材45の外周をインナヨーク26の部材に溶接することにより同じく液密なシールを形成している。
【0024】
特に、本実施例に於いては、図4に示されるように、コイルの外周側に於けるインナヨーク26の軸線方向長(Lb1+Lb2:但し、Lb1は同部分に於けるインナヨークの一方の部分26aの軸線方向長であり、Lb2は同部分に於けるインナヨークの他方の部分26bの軸線方向長である。)が、少なくとも部分的に、コイルを通過するインナヨークの軸線方向長(La1+La2:但し、La1はインナヨークの同部分に於ける一方の部分26aの軸線方向長であり、La2はインナヨークの同部分に於ける他方の部分26bの軸線方向長である。)よりも小さい。即ち、(Lb1+Lb2)<(La1+La2)となる。
【0025】
このようにすれば、MRFを用いた可変減衰力ダンパに於いて、環状溝の開口部分に形成される磁気的に無効な部分の軸線方向長を最小化し得ることから、MRFのピストンを横切る流路長を短縮し、電流を通電しないときの減衰力を小さくすることができる。それにより、車両の乗り心地性能を向上させることができる。また、コイルを、流路内周面からやや離反した、半径方向内側に配置することができ、コイルのインダクタンスを小さくして、制御指示電流に対する減衰力の応答性を向上させることができる。また、磁気的に無効な部分の軸線方向長を最小化することにより、ピストンの全体的な軸線方向長を短縮し得る効果も得られ、ダンパのコンパクト化に寄与することができる。
【0026】
次に、このダンパ6の作動の要領を説明する。車両の走行などにより、車体に対して車輪が相対変位すると、その変位は、ピストンロッド13を介してピストン16に伝達され、ピストン16とシリンダ12との間に相対変位が引き起こされる。その結果、両液室14、15の容積が変化し、その変化に応じて、MRF(Magneto-Rheological Fluid:磁気粘性流体)が、一方のエンドプレート34aの円弧状スロット36、インナヨーク26とアウタヨーク40との間の空隙41及び他方のエンドプレート34bの円弧状スロット36を通過する。非通電時であれば、MRFは比較的抵抗を受けることなく流れ、概ねピストン16とシリンダ12との間の相対速度に比例する低い減衰力を発生する。コイル30に通電した場合には、MRFがインナヨーク26とアウタヨーク40との間の空隙を通過するときに、空隙41内に形成された磁界により強い流路抵抗が引き起こされ、概ねピストン16とシリンダ12との間の相対速度に比例する高い減衰力を発生する。このような特性を利用し、コイル30に制御された電流を供給することにより、所望のダンパ制御が実現される。
【0027】
図5は、通電時に、インナヨーク26とアウタヨーク40との間に形成される磁束を示す。これは、インナヨークとアウタヨークの材質をS25C、コイルの材質を銅、ピストンリングの材質をSUS304、エンドプレート材質をA6061−T6、コイル巻き数を50巻としてピストンを構成し、空隙41にMRFが充填された状態で、コイルに5Aの電流を流した場合の磁場をシュミレーションしたものである。この場合、コイル30を受容する環状溝28の外周側が、軸線方向延出部31により、両側から対称的に狭められているが、インナヨーク26とアウタヨーク40との間の空隙41に於いては、空隙の全軸線方向長さに渡って、即ちピストン16の全軸線方向長さに渡って、磁束が平行にしかも実質的に等間隔に形成されている。
【0028】
図6は、コイル30を受容する環状溝28が、全深さに渡って概ね一定の幅を有し、ピストンの軸線方向長が僅かに長い以外は、図5に於けるピストンと同様の構造を有する従来形式のピストン16に於ける、通電時に、インナヨーク26とアウタヨーク40との間に形成される磁束を示す。図5の場合と同様に、ピストン16の全軸線方向長さに渡って、磁束が平行にしかも実質的に等間隔に形成されているが、環状溝28に対応する部分に於いては、磁束密度が低い部分が形成されている。これは、ピストン16の軸線方向長さの内、環状溝28の幅に対応する部分が磁気的には無効であることを意味する。それに対して、図5に示された、本発明に基づく構成の場合には、ピストン16の軸線方向長さの内、磁気的には無効である部分が最小化される。この場合、環状溝28の最外周の開口幅を過度に小さくすると、磁気的な短絡が生じ、インナヨーク26からアウタヨーク40に至る全体的な磁束が減少し、十分な粘性減衰力が得られなくなる。逆に、環状溝28の最外周の開口幅を過度に大きくすると、磁気的には無効である部分が増大し、非通電時の粘性減衰力を低減する効果が得られない。そこで、実験的に最適な開口幅を求め、それを実際の構造に採用すると良い。
【0029】
特に、本実施例では、軸線方向延出部31が、環状溝28の両側から略対称に延出するものとしたことから、インナヨーク26とアウタヨーク40との間に形成される空隙41内にて、強い磁界を均一に形成することができ、高い磁気効率を確保することができる。必要があれば、軸線方向延出部31の一方が他方よりも長いものとしたり、軸線方向延出部が一方のみから延出するようにすることもできる。
【0030】
図7は、図5及び図6に示された構造について、他の条件は極力同様となるようにして、電流値が0及び5Aである場合に、それぞれの構造により得られる減衰力を比較したものである。これによれば、非通電時(電流値=0A)には、特にピストン速度が高い領域で、減衰力を従来のものよりもかなり低めることができ、通電時(電流値=5A)には、ピストン速度が低い領域では、やや減衰力を高めることができることが見出された。特に、サスペンションの好適な制御で重要なことは、減衰力の可変幅を大きくし、非通電時の減衰力を小さくすることであることから、図示された実施例は、好適な懸架装置の制御を行なう上で有用である。
【0031】
図8及び9は、本発明のダンパ6の第2の実施形態に於けるピストン16の詳細を示す。図8及び9に於いては、前記実施例に対応する部分には同様の符合を付し、その詳しい説明を省略する。
【0032】
この場合、インナヨーク26は、前記実施例と同様に、軸線方向両端部から互いに組み合わされた2つの部分からなるが、ピストンロッド13側の第1の部分26aの、ピストンロッド13から離反する側の端部の中心部には、雌ねじ孔49が設けられ、第2の部分26bの、雌ねじ孔49に対向する部分には、雄ねじ突部48が設けられ、かつ雌ねじ孔49に螺合されている。第2の部分26bの外側の軸線方向端部の中心には、インナヨーク26の両部分を互いに螺合して締結するための工具を係合するための凹部50が設けられている。
【0033】
インナヨーク26の両部分26a、26bの互いに離反する側の軸線方向端面外周には、半径方向フランジ25a、25bが設けられ、これらフランジ25a、25b間には、エンドピース32を介して、強磁性体からなる円筒状のフラックスリング即ちアウタヨーク40が挟持されている。即ち、インナヨーク26の両部分26a、26bを互いに捩じ込むことにより、両フランジ25a、25b間に、エンドピース32及びアウタヨーク40が緩みなく挟持されるようになっている。エンドピース32は、非磁性体からなり、それぞれ周方向に等間隔に設けられた4つの円弧状スロット36を備えている。また、アウタヨーク40の内周面は、インナヨーク26の外周面に対して同心状に所定の間隔の空隙41をおいて対峙している。エンドピース32及びアウタヨーク40の外周面は、互いに協働して、ピストン16の外周面を画定している。この外周面自体がピストン16の摺動面をなすものでも、或いは別途図示されないピストンリング部材或いはコーティングを用いて、それをピストン16の摺動面とすることもできる。
【0034】
更に、ピストンロッド13は、インナヨーク26の対向端面の中心に設けられた凹部35の底面に対して、摩擦圧接法により結合されている。摩擦圧接法とは、接合する部材(たとえば金属や樹脂など)を高速で擦り合わせ、その
とき生じる摩擦熱によって部材を軟化させると同時に圧力を加えて接合する技術である。
【0035】
図10に最も良く示されているように、コイル30は、インナヨーク26の両部分間に画定された環状空間内に、樹脂モールド29により保持されている。樹脂モールド29は、環状の本体部分56に加えて、本体部分56のピストンロッド13側の端面に対して、直径線方向に架設された直径部分51と、該直径部分の中心からピストンロッド13に向けて突出する大径ロッド部52と、大径ロッド部の遊端面から同軸的に突出する小径ロッド部53とを有する。コイル30のリード線44は、コイル30から、直径部分51を経て、大径ロッド部52及び小径ロッド部53の内部を通過して、ピストンロッド13の内孔46内から外部に引き出されている。
【0036】
また、小径ロッド部53は、インナヨーク26の第1の部分26a内の中心孔54内に突入し、かつ両部分間にOリング55が挟持され、これにより、リード線44を引き出すために設けられたピストンロッド13の内孔46を、ダンパ内のMRF流体に対してシールしている。
【0037】
図11は、本発明のダンパ6の第3の実施形態に於けるピストン16の詳細を示す。図11に於いては、前記実施例に対応する部分には同様の符合を付し、その詳しい説明を省略する。
【0038】
本実施例に於いては、インナヨーク26の第1の部分26aの外周から、薄肉円筒部62が、第2の部分26bの方向に延出している。薄肉円筒部62の外周は、インナヨーク26の第1の部分26aの外周の輪郭と同一の円筒面を画定し、薄肉円筒部62の内周は、インナヨーク26の第2の部分26bの外周の輪郭と補完的円筒面を画定し、かつ同外周に対して実質的に隙間無く密接している。インナヨーク26の第2の部分26bの、軸線方向外端近傍の外周には、環状溝63が設けられ、その内部に受容されたOリング64が薄肉円筒部62の内周に当接することにより、ピストン16の内部を、MRF流体に対してシールしている。
【0039】
薄肉円筒部62は、インナヨーク26の第1の部分26aと同様の強磁性体からなる基端部と、コイル30の軸線方向中央部の所定長に渡って、非磁性体からなる磁気的空隙部60と、インナヨーク26の第2の部分26bと同様の強磁性体からなる遊端部61とを有する。この薄肉円筒部62は、異種金属を摩擦溶接、電熱による溶接等の方法により、対応する形状の異種金属のピースを結合することにより形成される。
【0040】
この実施例の場合も、磁気的空隙部60を中心とするインナヨーク26の軸線方向長を、コイルの外周側に於いてLb1+Lb2(但し、Lb1は同部分に於けるインナヨークの一方の部分26aの軸線方向長であり、Lb2は同部分に於けるインナヨークの他方の部分26bの軸線方向長である。)、コイルを通過する部分に於いてLa1+La2(但し、La1はインナヨークの同部分に於ける一方の部分26aの軸線方向長であり、La2はインナヨークの同部分に於ける他方の部分26bの軸線方向長である。)であるとすると、(Lb1+Lb2)<(La1+La2)となる。
【0041】
コイル30のリード線44は、環状の樹脂モールド29の内周部から延出するフレキシブルプリント基板状のストリップ65を介して、ピストンロッド13の内孔46内から外部に引き出されている。インナヨーク26の第1の部分26aには、このストリップ65を受容するための半径方向及び軸線方向に延在するスロットが設けられている。
【0042】
図12及び13は、本発明のダンパ6の第4の実施形態に於けるピストン16の詳細を示す。図12及び13に於いては、前記実施例に対応する部分には同様の符合を付し、その詳しい説明を省略する。
【0043】
インナヨーク26は、軸方向で分割された2つの部分からなり、両部分は、コイル30を埋設した樹脂モールド29を挟持するように互いに衝当している。インナヨーク26の第1の部分26aの衝当面の外周には、軸方向フランジ82が設けられ、該フランジにより、円形の凹部80が画定されている。樹脂モールド29は、凹部80の内周面に沿って配置されている。インナヨーク26の第2の部分26bの衝当面の外周にも、同様の軸方向フランジ82が設けられ、第1の部分26aの軸方向フランジ82との間に磁気的な空隙84が画定されている。第2の部分26bの衝当面の中心には円筒形の突部81が設けられ、樹脂モールド29の内周面に嵌め込まれている。第1の部分26aの衝当面には、更に、樹脂モールド29の直径部分を受容する溝が設けられている。
【0044】
本実施例に於いては、強磁性体からなるアウタヨーク71は、有底筒状をなし、ディスク状のスペーサ85を介して、その底面がインナヨーク26の第1の部分26aのピストンロッド側の面に衝当するように、インナヨーク26に同軸的に嵌装されている。アウタヨーク71の開口端即ち遊端は薄肉部73をなし、インナヨーク26の第2の部分26bの外側軸線方向端面に重合されたディスク状の蓋板72を介して、インナヨーク26の第2の部分26bに対してかしめ付けられている。第2の部分26bの外側軸線方向端面及び蓋板72の対向面の一方には凹部、その他方には、同凹部に突入する補完的な突部が設けられている。
【0045】
一方、アウタヨーク71の本体側の底面の中心には、中空ボス74が同軸的に突出し、インナヨーク26の第1の部分26aの中心孔を同軸的に貫通し、かつインナヨーク26の第2の部分26bの中心凹部内に同軸的かつ補完的に嵌入することにより、インナヨーク26が、アウタヨーク71に対して中心位置決めされる。中空ボス74の中心孔内には、樹脂モールド29の直径部分から同軸的に突出するロッド部75が、同軸的かつ補完的に嵌入している。中空ボス74の中心孔の内周面には、環状溝76が設けられ、ロッド部75と中空ボス74の中心孔との間のシールを形成するOリング77が受容されている。前記実施例と同様に、コイル30のリード線44は、樹脂モールド29の直径部分及びロッド部75の内部を経て、ピストンロッド13の内孔46から外部に引き出されている。
【0046】
本実施例の場合も、磁気的空隙部84を中心とするインナヨーク26の軸線方向長を、コイルの外周側に於いてLb1+Lb2(但し、Lb1は同部分に於けるインナヨークの一方の部分26aの軸線方向長であり、Lb2は同部分に於けるインナヨークの他方の部分26bの軸線方向長である。)、コイルを通過する部分に於いてLa1+La2(但し、La1はインナヨークの同部分に於ける一方の部分26aの軸線方向長であり、La2はインナヨークの同部分に於ける他方の部分26bの軸線方向長である。)であるとすると、(Lb1+Lb2)<(La1+La2)となる。
【0047】
上記したような(Lb1+Lb2)<(La1+La2)なる関係を実現するために様々な形状のインナヨークが可能である。図14から図17には、そのような例が示されている。上記した実施例では、磁気的空隙が、平坦な端面を有する2つの筒状部により画定され、端面間の距離が、コイル30を軸線方向に横切る部分の軸線方向長よりも小さくなるようにされているが、図14の実施形態に於いては、磁気的空隙が、2つの筒状部の互いに対向する同軸的な(インナヨークの中心軸を通過する縦断面に於いて傾斜線により表される)円錐面により画定されている。特に、これらの円錐面は、筒状部の内周側に設けられ、筒状部の外周は、インナヨークの残りの部分と協働して全体的に円筒形の輪郭を画定する。
【0048】
図15の実施形態に於いては、磁気的空隙は、平坦な端面を有する2つの筒状部により画定されるが、コイル30を受容する環状溝の側面即ち環状溝に対して軸線方向に対向する面が円錐面により画定されている。特に、半径方向内方に向けて、環状溝の軸線方向長が漸減するように円錐面の向きが定められている。図16の実施形態は、これと同様であるが、環状溝の側面がそれぞれ1つの円錐面のみによって画定され、互いに対向する平坦な端面が退化して、その幅が0となるような構造である。
【0049】
図17の実施形態は、図15の実施形態に類似するが、コイル30を受容する環状溝の側面が、インナヨークの中心軸を通過する縦断面に於いて円弧又はそれに類似する曲線により表されるような構造をなしている。この場合も、半径方向内方に向けて、環状溝の軸線方向長が漸減するように曲線の形状が定められている。
【0050】
以上で具体的実施形態の説明を終えるが、本発明は上記実施形態に限定されることなく幅広く変形実施することができる。例えば、上記実施形態は4輪自動車のリヤサスペンションを構成する減衰力可変式ダンパに本発明を適用したものであるが、本発明は、フロントサスペンション用の減衰力可変式ダンパにも適用できるし、2輪自動車等の減衰力可変ダンパ等にも適用可能である。また、インナヨークに設けられる環状溝或いは軸線方向延出部の形状、寸法及び配置等についても、上記実施形態における例示に限るものではなく、設計や製造上の要請に応じて自由に設定可能である。更に、インナヨークの分割面を、環状溝28の側面に整合させる代わりに、環状溝28の中心と一致させ、インナヨークの両部分を概ね同形とすることもできる。その他、アウタヨークやインナヨークの具体的形状やダンパの具体的構造等についても、本発明の趣旨を逸脱しない範囲であれば適宜変更可能である。
【図面の簡単な説明】
【0051】
【図1】本発明が適用されたリヤサスペンションの斜視図である。
【図2】本発明に基づくダンパの縦断面図である。
【図3】本発明の第1の実施例を示す、図2中のIII部拡大図である。
【図4】本発明の原理を示すダイヤグラム図である。
【図5】図3に示された本発明に基づくピストンに於ける磁束の分布を示すダイヤグラム図である。
【図6】従来技術に基づくピストンに於ける磁束の分布を示すダイヤグラム図である。
【図7】本発明に基づくダンパと従来技術に基づくダンパが発生する減衰力を比較するグラフである。
【図8】本発明の第2の実施例を示す図3と同様の縦断面図である。
【図9】本発明の第2の実施例を示す、図8の断面に対して直交する断面について見た図3と同様の縦断面図である。
【図10】コイルが埋設された樹脂モールドを、その延長部と共に一部を破断して示す斜視図である。
【図11】本発明の第3の実施例を示す図3と同様の縦断面図である。
【図12】本発明の第4の実施例を示す図3と同様の縦断面図である。
【図13】本発明の第4の実施例を示す、図12の断面に対して直交する断面について見た図3と同様の縦断面図である。
【図14】本発明の変形実施例を単純化して示す縦断面図である。
【図15】本発明の更なる変形実施例を単純化して示す縦断面図である。
【図16】本発明の更なる変形実施例を単純化して示す縦断面図である。
【図17】本発明の更なる変形実施例を単純化して示す縦断面図である。
【符号の説明】
【0052】
2 トレーリングアーム(車輪側部材)
6 ダンパ
12 シリンダ
13 ピストンロッド
14 上部液室(一側液室)
15 下部液室(他側液室)
16 ピストン
22 ダンパベース(車体側部材)
26 インナヨーク
27 締結ねじ
28 環状溝
30 コイル
31 軸線方向延出部
34 エンドプレート
40、71 アウタヨーク(フラックスリング)
【技術分野】
【0001】
本発明は、自動車用サスペンションを構成するテレスコピック式の減衰力可変ダンパに係り、詳しくは、減衰力の可変幅を大きくする技術に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、自動車のサスペンションに用いられる筒型ダンパでは、乗り心地や操縦安定性の向上を図るべく、減衰力の可変制御が可能な減衰力可変ダンパが種々開発されている。減衰力可変ダンパとしては、オリフィス面積を変化させるロータリバルブをピストンに設け、このロータリバルブをアクチュエータによって回転駆動する機械式のものが主流であったが、構成の簡素化や応答性の向上等を実現すべく、作動液に磁気粘性流体を用い、ピストンと一体に形成された磁気流体バルブによって磁気粘性流体の粘度を制御するものが出現している(特許文献1参照)。
【0003】
特許文献1の減衰力可変ダンパでは、ピストンが、外周にコイルが巻き回された円柱状のインナヨークと、インナヨークの両端に配置された一対のエンドプレートと、インナヨークと両エンドプレートを収容する円筒状のアウタヨークとから主に構成されている。インナヨークおよびアウタヨークはともに強磁性体を素材としており、エンドプレートによって保持されることによって両者の間に環状流路が形成される。エンドプレートは、非磁性体を素材とした円盤状のものであり、環状流路に連通する複数の円弧状孔と、インナヨーク端部の凸部が係合する環状凹部と、ピストンロッド固定用のリングが係合する環状溝とを有している。また、インナヨークおよびエンドプレートは、アウタヨークの両端外縁を加締めることによって固定されている。
【特許文献1】米国特許6,260,675号公報
【0004】
このような減衰力可変ダンパに於いては、好適な或いは広範囲の用途に適用可能なものであるためには、減衰力の可変幅が大きく、かつ応答性が良好であることが望まれる。特許文献2及び特許文献3には、ピストンの外周に軸線方向溝を設け、非通電時の減衰力を小さくしたり、ピストン速度に対する減衰力を最適化することが提案されている。
【特許文献2】米国特許6,637,556号公報
【特許文献3】米国特許6,318,519号公報
【0005】
一般に、減衰力の可変幅を大きくし、非通電時の減衰力を小さくすると良く、応答性を向上させるためには、コイルのインダクタンスを小さくすると良い。しかしながら、実際には、非通電時の減衰力を効果的に小さくすることが困難であり、減衰力の応答性に遅れが出る等の問題があった。
【0006】
その原因としては、従来のMRFを用いた可変減衰力ダンパは減衰力を発生させる流路の中間部にコイルを配置していたため流路全長が長くなってしまい、結果電流を通電しないときの減衰力が大きくなってしまい、乗り心地性能を悪化させていたという問題があった、また、従来のMRFを用いた可変減衰力ダンパでは、コイルを流路内周面近傍に配置しており、インダクタンスが大きくなり制御指示電流に対する減衰力の応答性を悪化させていた。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
このような従来技術の問題点に鑑み、本発明の主な目的は、MRFを用いた可変減衰力ダンパに於いて、電流を通電しないときの減衰力を小さくすることにより、車両の乗り心地性能を向上させることにある。
【0008】
本発明の第2の目的は、MRFを用いた可変減衰力ダンパに於いて、コイルのインダクタンスを小さくして、制御指示電流に対する減衰力の応答性を向上させることにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
このような目的は、本発明によれば、磁性流体または磁気粘性流体が充填されるとともに車体側部材と車輪側部材とのどちらか一方に連結されたシリンダと、前記シリンダを一側液室と他側液室とに区画するとともに前記磁性流体または磁気粘性流体を当該一側液室と他側液室との間で流通させる流路が形成されたピストンと、前記車体側部材と車輪側部材とのどちらか他方を当該ピストンに連結するピストンロッドとを有し、前記流路を通過する前記磁性流体または前記磁気粘性流体に磁界を印加することで減衰力が制御される減衰力可変式ダンパであって、前記ピストンは、前記ピストンの外周側部分を形成するアウタヨークと、前記アウタヨークの内側に所定の間隙をもって設置され、当該アウタヨークとの間に前記流路を画成するインナヨークと、前記インナヨークに保持され、前記磁界の形成に供されるコイルとを備え、前記コイルが、前記インナヨークの外周に凹設された環状溝内に受容され、かつ前記インナヨークが、前記コイルの外周に向けてオーバハングするように、前記環状溝の外周部側にて軸線方向延出部を有することを特徴とする減衰力可変ダンパを提供することにより達成される。
【0010】
この場合、前記インナヨークの前記軸線方向延出部が、前記環状溝の両側から略対称に延出するものとすれば、インナヨークとアウタヨークとの間に形成される空隙内にて、強い磁界を均一に形成することができ、高い磁気効率を確保することができる。
【0011】
このような目的は、また、本発明によれば、磁性流体または磁気粘性流体が充填されるとともに車体側部材と車輪側部材とのどちらか一方に連結されたシリンダと、前記シリンダを一側液室と他側液室とに区画するとともに前記磁性流体または磁気粘性流体を当該一側液室と他側液室との間で流通させる流路が形成されたピストンと、前記車体側部材と車輪側部材とのどちらか他方を当該ピストンに連結するピストンロッドとを有し、前記流路を通過する前記磁性流体または前記磁気粘性流体に磁界を印加することで減衰力が制御される減衰力可変式ダンパであって、前記ピストンは、前記ピストンの外周側部分を形成するアウタヨークと、前記アウタヨークの内側に所定の間隙をもって設置され、当該アウタヨークとの間に前記流路を画成するインナヨークと、前記インナヨークに保持され、前記磁界の形成に供されるコイルとを備え、 前記インナヨークに保持され、前記磁界の形成に供されるコイルとを備え、前記コイルの外周側に於ける前記インナヨークの軸線方向長が、少なくとも部分的に、前記コイルを通過する前記インナヨークの軸線方向長よりも大きいことを特徴とする減衰力可変ダンパを提供することによっても達成される。
【発明の効果】
【0012】
このようにすれば、MRFを用いた可変減衰力ダンパに於いて、環状溝の開口部分に形成される磁気的に無効な部分の軸線方向長を最小化し得ることから、MRFのピストンを横切る流路長を短縮し、電流を通電しないときの減衰力を小さくすることができる。それにより、車両の乗り心地性能を向上させることができる。また、コイルを、流路内周面からやや離反した、半径方向内側に配置することができ、コイルのインダクタンスを小さくして、制御指示電流に対する減衰力の応答性を向上させることができる。また、磁気的に無効な部分の軸線方向長を最小化することにより、ピストンの全体的な軸線方向長を短縮し得る効果も得られ、ダンパのコンパクト化に寄与することができる。
【0013】
特に、前記インナヨークが軸方向で分割され、かつ締結部材によって締結/一体化される少なくとも2つの部分からなるものであると良い。このようにすれば、環状溝の外周部側にてコイルの外周に向けてオーバハングする軸線方向延出部を設けた場合でも、コイルを環状溝内に容易に組み付けることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
以下、図面を参照して、本発明を4輪自動車のリヤサスペンションに適用した実施形態を詳細に説明する。
【0015】
図1に示すように、本実施形態のリヤサスペンション1は、いわゆるH型トーションビーム式サスペンションであり、左右のトレーリングアーム2、3や、両トレーリングアーム2、3の中間部を連結するトーションビーム4、懸架ばねである左右一対のコイルスプリング5、左右一対のダンパ6等から構成されており、左右のリヤホイール7、8を懸架している。ダンパ6は、MRF(Magneto-Rheological Fluid:磁気粘性流体)を作動流体とする減衰力可変型ダンパであり、トランクルーム内等に設置されたECU9によってその減衰力が可変制御される。
【0016】
図2に示すように、本実施形態のダンパ6は、モノチューブ式(ド・カルボン式)であり、MRFが充填された円筒状のシリンダ12と、このシリンダ12に対して軸方向に摺動するピストンロッド13と、ピストンロッド13の先端に装着されてシリンダ12内を上部液室(一側液室)14と下部液室(他側液室)15とに区画するピストン16と、シリンダ12の下部に高圧ガス室17を画成するフリーピストン18と、ピストンロッド13等への塵埃の付着を防ぐカバー19と、フルバウンド時における緩衝を行うバンプストップ20とを主要構成要素としている。
【0017】
シリンダ12は、下端のアイピース12aに嵌挿されたボルト21を介して、車輪側部材であるトレーリングアーム2の上面に連結されている。また、ピストンロッド13は、上下一対のブッシュ22とナット23とを介して、その上部ねじ軸13aが車体側部材であるダンパベース(ホイールハウス上部)24に連結されている。
【0018】
図3はピストン16の詳細を示す。ピストン16の中心部には、円柱状をなす強磁性体からなるインナヨーク26が設けられ、その一方の軸線方向端に設けられた孔35にピストンロッド13の一端が突入している。インナヨーク26は、軸線方向に分割された2つの部分26a、26bからなり、ピストンロッド13に対して離反する側の軸線方向端面から挿入された計4つの締結ねじ27により互いに一体化されている。
【0019】
インナヨーク26の、外周の軸線方向中間部分には環状溝28が設けられ、その内部にコイル30が受容され、樹脂モールド29内に埋め込まれている。この場合コイル30は、インナヨーク26の周方向に巻かれたコイルをなしている。また、環状溝28の外周部側には、コイル30の外周に向けてオーバーハングするようにインナヨーク26の部分が軸線方向に延出することにより形成される軸線方向延出部31が設けられている。図示された実施例では、この軸線方向延出部31は、環状溝28の両側から軸線方向に対称に延出している。このようにして、インナヨーク26の外周部分は、全体として概ね一定半径の円周面をなす外周面を画定すると共に、環状溝28の両側に位置する部分が、インナヨーク26の両部分26a、26bをなしている。
【0020】
また、インナヨーク26の両部分の分割面33は、ピストンロッド13と離反する側の環状溝28の側面と同一面上に位置している。インナヨーク26の、両軸線方向端面には、非磁性体からなり、環状をなすエンドプレート34(34a、34b)が重ね合わされ、ピストンロッド13の側のエンドプレート34aの中心孔を、ピストンロッド13が貫通している。エンドプレート34は、それぞれ外周部に周方向に等間隔に設けられた4つの円弧状スロット36を備えている。
【0021】
更に、両エンドプレート34の外周縁間には、強磁性体からなる円筒状のフラックスリング即ちアウタヨーク40が挟持され、アウタヨーク40の内周面は、インナヨーク26の外周面に対して同心状に所定の間隔の空隙41をおいて対峙している。アウタヨーク40及び両エンドプレート34の、互いに協働して概ね一定半径の円周面をなす外周面には、筒状をなす非磁性体からなるピストンリング43が外装され、かつその両軸線方向端部43a、43bを両エンドプレート34の外周縁に向けてかしめ付け、それによって、両エンドプレート34、インナヨーク26及びアウタヨーク40を互いに一体的に保持している。
【0022】
更に、ピストンロッド13側のエンドプレート34の内孔のインナヨーク側の縁部には、べべル加工部分37が設けられ対応するピストンロッド13の外周面には環状溝36が設けられている。これらにより画定される環状凹部内にCリング38を嵌め入れることにより、ピストンロッド13を、ピストン16に対して固定している。
【0023】
ピストンロッド13の中心部には、軸線方向孔46が設けられ、インナヨーク26に設けられた同様の中心孔と同軸的に整合している。インナヨーク26のピストンロッド13側部分26aの中心部には凹部47が設けられ、ディスク状の部材からなるハーメチックシール部材45が受容されている。コイル30のリード線44は、ピストンロッド13の中心孔46からインナヨークの中心孔を経て、ハーメチックシール45の中心部をシール可能に通過した後、図示されない、インナヨーク26の両部分26a、26bのいずれか一方の部分の、分割面33側の端面に半径方向に設けられた溝(図示せず)内を通過した後にコイル30に達している。さらに、インナヨーク26とピストンロッド13の突入端との間には、Oリング39が設けられ、ピストンロッド13の中心孔46を作動流体に対してシールするとともに、ハーメチックシール部材45の外周をインナヨーク26の部材に溶接することにより同じく液密なシールを形成している。
【0024】
特に、本実施例に於いては、図4に示されるように、コイルの外周側に於けるインナヨーク26の軸線方向長(Lb1+Lb2:但し、Lb1は同部分に於けるインナヨークの一方の部分26aの軸線方向長であり、Lb2は同部分に於けるインナヨークの他方の部分26bの軸線方向長である。)が、少なくとも部分的に、コイルを通過するインナヨークの軸線方向長(La1+La2:但し、La1はインナヨークの同部分に於ける一方の部分26aの軸線方向長であり、La2はインナヨークの同部分に於ける他方の部分26bの軸線方向長である。)よりも小さい。即ち、(Lb1+Lb2)<(La1+La2)となる。
【0025】
このようにすれば、MRFを用いた可変減衰力ダンパに於いて、環状溝の開口部分に形成される磁気的に無効な部分の軸線方向長を最小化し得ることから、MRFのピストンを横切る流路長を短縮し、電流を通電しないときの減衰力を小さくすることができる。それにより、車両の乗り心地性能を向上させることができる。また、コイルを、流路内周面からやや離反した、半径方向内側に配置することができ、コイルのインダクタンスを小さくして、制御指示電流に対する減衰力の応答性を向上させることができる。また、磁気的に無効な部分の軸線方向長を最小化することにより、ピストンの全体的な軸線方向長を短縮し得る効果も得られ、ダンパのコンパクト化に寄与することができる。
【0026】
次に、このダンパ6の作動の要領を説明する。車両の走行などにより、車体に対して車輪が相対変位すると、その変位は、ピストンロッド13を介してピストン16に伝達され、ピストン16とシリンダ12との間に相対変位が引き起こされる。その結果、両液室14、15の容積が変化し、その変化に応じて、MRF(Magneto-Rheological Fluid:磁気粘性流体)が、一方のエンドプレート34aの円弧状スロット36、インナヨーク26とアウタヨーク40との間の空隙41及び他方のエンドプレート34bの円弧状スロット36を通過する。非通電時であれば、MRFは比較的抵抗を受けることなく流れ、概ねピストン16とシリンダ12との間の相対速度に比例する低い減衰力を発生する。コイル30に通電した場合には、MRFがインナヨーク26とアウタヨーク40との間の空隙を通過するときに、空隙41内に形成された磁界により強い流路抵抗が引き起こされ、概ねピストン16とシリンダ12との間の相対速度に比例する高い減衰力を発生する。このような特性を利用し、コイル30に制御された電流を供給することにより、所望のダンパ制御が実現される。
【0027】
図5は、通電時に、インナヨーク26とアウタヨーク40との間に形成される磁束を示す。これは、インナヨークとアウタヨークの材質をS25C、コイルの材質を銅、ピストンリングの材質をSUS304、エンドプレート材質をA6061−T6、コイル巻き数を50巻としてピストンを構成し、空隙41にMRFが充填された状態で、コイルに5Aの電流を流した場合の磁場をシュミレーションしたものである。この場合、コイル30を受容する環状溝28の外周側が、軸線方向延出部31により、両側から対称的に狭められているが、インナヨーク26とアウタヨーク40との間の空隙41に於いては、空隙の全軸線方向長さに渡って、即ちピストン16の全軸線方向長さに渡って、磁束が平行にしかも実質的に等間隔に形成されている。
【0028】
図6は、コイル30を受容する環状溝28が、全深さに渡って概ね一定の幅を有し、ピストンの軸線方向長が僅かに長い以外は、図5に於けるピストンと同様の構造を有する従来形式のピストン16に於ける、通電時に、インナヨーク26とアウタヨーク40との間に形成される磁束を示す。図5の場合と同様に、ピストン16の全軸線方向長さに渡って、磁束が平行にしかも実質的に等間隔に形成されているが、環状溝28に対応する部分に於いては、磁束密度が低い部分が形成されている。これは、ピストン16の軸線方向長さの内、環状溝28の幅に対応する部分が磁気的には無効であることを意味する。それに対して、図5に示された、本発明に基づく構成の場合には、ピストン16の軸線方向長さの内、磁気的には無効である部分が最小化される。この場合、環状溝28の最外周の開口幅を過度に小さくすると、磁気的な短絡が生じ、インナヨーク26からアウタヨーク40に至る全体的な磁束が減少し、十分な粘性減衰力が得られなくなる。逆に、環状溝28の最外周の開口幅を過度に大きくすると、磁気的には無効である部分が増大し、非通電時の粘性減衰力を低減する効果が得られない。そこで、実験的に最適な開口幅を求め、それを実際の構造に採用すると良い。
【0029】
特に、本実施例では、軸線方向延出部31が、環状溝28の両側から略対称に延出するものとしたことから、インナヨーク26とアウタヨーク40との間に形成される空隙41内にて、強い磁界を均一に形成することができ、高い磁気効率を確保することができる。必要があれば、軸線方向延出部31の一方が他方よりも長いものとしたり、軸線方向延出部が一方のみから延出するようにすることもできる。
【0030】
図7は、図5及び図6に示された構造について、他の条件は極力同様となるようにして、電流値が0及び5Aである場合に、それぞれの構造により得られる減衰力を比較したものである。これによれば、非通電時(電流値=0A)には、特にピストン速度が高い領域で、減衰力を従来のものよりもかなり低めることができ、通電時(電流値=5A)には、ピストン速度が低い領域では、やや減衰力を高めることができることが見出された。特に、サスペンションの好適な制御で重要なことは、減衰力の可変幅を大きくし、非通電時の減衰力を小さくすることであることから、図示された実施例は、好適な懸架装置の制御を行なう上で有用である。
【0031】
図8及び9は、本発明のダンパ6の第2の実施形態に於けるピストン16の詳細を示す。図8及び9に於いては、前記実施例に対応する部分には同様の符合を付し、その詳しい説明を省略する。
【0032】
この場合、インナヨーク26は、前記実施例と同様に、軸線方向両端部から互いに組み合わされた2つの部分からなるが、ピストンロッド13側の第1の部分26aの、ピストンロッド13から離反する側の端部の中心部には、雌ねじ孔49が設けられ、第2の部分26bの、雌ねじ孔49に対向する部分には、雄ねじ突部48が設けられ、かつ雌ねじ孔49に螺合されている。第2の部分26bの外側の軸線方向端部の中心には、インナヨーク26の両部分を互いに螺合して締結するための工具を係合するための凹部50が設けられている。
【0033】
インナヨーク26の両部分26a、26bの互いに離反する側の軸線方向端面外周には、半径方向フランジ25a、25bが設けられ、これらフランジ25a、25b間には、エンドピース32を介して、強磁性体からなる円筒状のフラックスリング即ちアウタヨーク40が挟持されている。即ち、インナヨーク26の両部分26a、26bを互いに捩じ込むことにより、両フランジ25a、25b間に、エンドピース32及びアウタヨーク40が緩みなく挟持されるようになっている。エンドピース32は、非磁性体からなり、それぞれ周方向に等間隔に設けられた4つの円弧状スロット36を備えている。また、アウタヨーク40の内周面は、インナヨーク26の外周面に対して同心状に所定の間隔の空隙41をおいて対峙している。エンドピース32及びアウタヨーク40の外周面は、互いに協働して、ピストン16の外周面を画定している。この外周面自体がピストン16の摺動面をなすものでも、或いは別途図示されないピストンリング部材或いはコーティングを用いて、それをピストン16の摺動面とすることもできる。
【0034】
更に、ピストンロッド13は、インナヨーク26の対向端面の中心に設けられた凹部35の底面に対して、摩擦圧接法により結合されている。摩擦圧接法とは、接合する部材(たとえば金属や樹脂など)を高速で擦り合わせ、その
とき生じる摩擦熱によって部材を軟化させると同時に圧力を加えて接合する技術である。
【0035】
図10に最も良く示されているように、コイル30は、インナヨーク26の両部分間に画定された環状空間内に、樹脂モールド29により保持されている。樹脂モールド29は、環状の本体部分56に加えて、本体部分56のピストンロッド13側の端面に対して、直径線方向に架設された直径部分51と、該直径部分の中心からピストンロッド13に向けて突出する大径ロッド部52と、大径ロッド部の遊端面から同軸的に突出する小径ロッド部53とを有する。コイル30のリード線44は、コイル30から、直径部分51を経て、大径ロッド部52及び小径ロッド部53の内部を通過して、ピストンロッド13の内孔46内から外部に引き出されている。
【0036】
また、小径ロッド部53は、インナヨーク26の第1の部分26a内の中心孔54内に突入し、かつ両部分間にOリング55が挟持され、これにより、リード線44を引き出すために設けられたピストンロッド13の内孔46を、ダンパ内のMRF流体に対してシールしている。
【0037】
図11は、本発明のダンパ6の第3の実施形態に於けるピストン16の詳細を示す。図11に於いては、前記実施例に対応する部分には同様の符合を付し、その詳しい説明を省略する。
【0038】
本実施例に於いては、インナヨーク26の第1の部分26aの外周から、薄肉円筒部62が、第2の部分26bの方向に延出している。薄肉円筒部62の外周は、インナヨーク26の第1の部分26aの外周の輪郭と同一の円筒面を画定し、薄肉円筒部62の内周は、インナヨーク26の第2の部分26bの外周の輪郭と補完的円筒面を画定し、かつ同外周に対して実質的に隙間無く密接している。インナヨーク26の第2の部分26bの、軸線方向外端近傍の外周には、環状溝63が設けられ、その内部に受容されたOリング64が薄肉円筒部62の内周に当接することにより、ピストン16の内部を、MRF流体に対してシールしている。
【0039】
薄肉円筒部62は、インナヨーク26の第1の部分26aと同様の強磁性体からなる基端部と、コイル30の軸線方向中央部の所定長に渡って、非磁性体からなる磁気的空隙部60と、インナヨーク26の第2の部分26bと同様の強磁性体からなる遊端部61とを有する。この薄肉円筒部62は、異種金属を摩擦溶接、電熱による溶接等の方法により、対応する形状の異種金属のピースを結合することにより形成される。
【0040】
この実施例の場合も、磁気的空隙部60を中心とするインナヨーク26の軸線方向長を、コイルの外周側に於いてLb1+Lb2(但し、Lb1は同部分に於けるインナヨークの一方の部分26aの軸線方向長であり、Lb2は同部分に於けるインナヨークの他方の部分26bの軸線方向長である。)、コイルを通過する部分に於いてLa1+La2(但し、La1はインナヨークの同部分に於ける一方の部分26aの軸線方向長であり、La2はインナヨークの同部分に於ける他方の部分26bの軸線方向長である。)であるとすると、(Lb1+Lb2)<(La1+La2)となる。
【0041】
コイル30のリード線44は、環状の樹脂モールド29の内周部から延出するフレキシブルプリント基板状のストリップ65を介して、ピストンロッド13の内孔46内から外部に引き出されている。インナヨーク26の第1の部分26aには、このストリップ65を受容するための半径方向及び軸線方向に延在するスロットが設けられている。
【0042】
図12及び13は、本発明のダンパ6の第4の実施形態に於けるピストン16の詳細を示す。図12及び13に於いては、前記実施例に対応する部分には同様の符合を付し、その詳しい説明を省略する。
【0043】
インナヨーク26は、軸方向で分割された2つの部分からなり、両部分は、コイル30を埋設した樹脂モールド29を挟持するように互いに衝当している。インナヨーク26の第1の部分26aの衝当面の外周には、軸方向フランジ82が設けられ、該フランジにより、円形の凹部80が画定されている。樹脂モールド29は、凹部80の内周面に沿って配置されている。インナヨーク26の第2の部分26bの衝当面の外周にも、同様の軸方向フランジ82が設けられ、第1の部分26aの軸方向フランジ82との間に磁気的な空隙84が画定されている。第2の部分26bの衝当面の中心には円筒形の突部81が設けられ、樹脂モールド29の内周面に嵌め込まれている。第1の部分26aの衝当面には、更に、樹脂モールド29の直径部分を受容する溝が設けられている。
【0044】
本実施例に於いては、強磁性体からなるアウタヨーク71は、有底筒状をなし、ディスク状のスペーサ85を介して、その底面がインナヨーク26の第1の部分26aのピストンロッド側の面に衝当するように、インナヨーク26に同軸的に嵌装されている。アウタヨーク71の開口端即ち遊端は薄肉部73をなし、インナヨーク26の第2の部分26bの外側軸線方向端面に重合されたディスク状の蓋板72を介して、インナヨーク26の第2の部分26bに対してかしめ付けられている。第2の部分26bの外側軸線方向端面及び蓋板72の対向面の一方には凹部、その他方には、同凹部に突入する補完的な突部が設けられている。
【0045】
一方、アウタヨーク71の本体側の底面の中心には、中空ボス74が同軸的に突出し、インナヨーク26の第1の部分26aの中心孔を同軸的に貫通し、かつインナヨーク26の第2の部分26bの中心凹部内に同軸的かつ補完的に嵌入することにより、インナヨーク26が、アウタヨーク71に対して中心位置決めされる。中空ボス74の中心孔内には、樹脂モールド29の直径部分から同軸的に突出するロッド部75が、同軸的かつ補完的に嵌入している。中空ボス74の中心孔の内周面には、環状溝76が設けられ、ロッド部75と中空ボス74の中心孔との間のシールを形成するOリング77が受容されている。前記実施例と同様に、コイル30のリード線44は、樹脂モールド29の直径部分及びロッド部75の内部を経て、ピストンロッド13の内孔46から外部に引き出されている。
【0046】
本実施例の場合も、磁気的空隙部84を中心とするインナヨーク26の軸線方向長を、コイルの外周側に於いてLb1+Lb2(但し、Lb1は同部分に於けるインナヨークの一方の部分26aの軸線方向長であり、Lb2は同部分に於けるインナヨークの他方の部分26bの軸線方向長である。)、コイルを通過する部分に於いてLa1+La2(但し、La1はインナヨークの同部分に於ける一方の部分26aの軸線方向長であり、La2はインナヨークの同部分に於ける他方の部分26bの軸線方向長である。)であるとすると、(Lb1+Lb2)<(La1+La2)となる。
【0047】
上記したような(Lb1+Lb2)<(La1+La2)なる関係を実現するために様々な形状のインナヨークが可能である。図14から図17には、そのような例が示されている。上記した実施例では、磁気的空隙が、平坦な端面を有する2つの筒状部により画定され、端面間の距離が、コイル30を軸線方向に横切る部分の軸線方向長よりも小さくなるようにされているが、図14の実施形態に於いては、磁気的空隙が、2つの筒状部の互いに対向する同軸的な(インナヨークの中心軸を通過する縦断面に於いて傾斜線により表される)円錐面により画定されている。特に、これらの円錐面は、筒状部の内周側に設けられ、筒状部の外周は、インナヨークの残りの部分と協働して全体的に円筒形の輪郭を画定する。
【0048】
図15の実施形態に於いては、磁気的空隙は、平坦な端面を有する2つの筒状部により画定されるが、コイル30を受容する環状溝の側面即ち環状溝に対して軸線方向に対向する面が円錐面により画定されている。特に、半径方向内方に向けて、環状溝の軸線方向長が漸減するように円錐面の向きが定められている。図16の実施形態は、これと同様であるが、環状溝の側面がそれぞれ1つの円錐面のみによって画定され、互いに対向する平坦な端面が退化して、その幅が0となるような構造である。
【0049】
図17の実施形態は、図15の実施形態に類似するが、コイル30を受容する環状溝の側面が、インナヨークの中心軸を通過する縦断面に於いて円弧又はそれに類似する曲線により表されるような構造をなしている。この場合も、半径方向内方に向けて、環状溝の軸線方向長が漸減するように曲線の形状が定められている。
【0050】
以上で具体的実施形態の説明を終えるが、本発明は上記実施形態に限定されることなく幅広く変形実施することができる。例えば、上記実施形態は4輪自動車のリヤサスペンションを構成する減衰力可変式ダンパに本発明を適用したものであるが、本発明は、フロントサスペンション用の減衰力可変式ダンパにも適用できるし、2輪自動車等の減衰力可変ダンパ等にも適用可能である。また、インナヨークに設けられる環状溝或いは軸線方向延出部の形状、寸法及び配置等についても、上記実施形態における例示に限るものではなく、設計や製造上の要請に応じて自由に設定可能である。更に、インナヨークの分割面を、環状溝28の側面に整合させる代わりに、環状溝28の中心と一致させ、インナヨークの両部分を概ね同形とすることもできる。その他、アウタヨークやインナヨークの具体的形状やダンパの具体的構造等についても、本発明の趣旨を逸脱しない範囲であれば適宜変更可能である。
【図面の簡単な説明】
【0051】
【図1】本発明が適用されたリヤサスペンションの斜視図である。
【図2】本発明に基づくダンパの縦断面図である。
【図3】本発明の第1の実施例を示す、図2中のIII部拡大図である。
【図4】本発明の原理を示すダイヤグラム図である。
【図5】図3に示された本発明に基づくピストンに於ける磁束の分布を示すダイヤグラム図である。
【図6】従来技術に基づくピストンに於ける磁束の分布を示すダイヤグラム図である。
【図7】本発明に基づくダンパと従来技術に基づくダンパが発生する減衰力を比較するグラフである。
【図8】本発明の第2の実施例を示す図3と同様の縦断面図である。
【図9】本発明の第2の実施例を示す、図8の断面に対して直交する断面について見た図3と同様の縦断面図である。
【図10】コイルが埋設された樹脂モールドを、その延長部と共に一部を破断して示す斜視図である。
【図11】本発明の第3の実施例を示す図3と同様の縦断面図である。
【図12】本発明の第4の実施例を示す図3と同様の縦断面図である。
【図13】本発明の第4の実施例を示す、図12の断面に対して直交する断面について見た図3と同様の縦断面図である。
【図14】本発明の変形実施例を単純化して示す縦断面図である。
【図15】本発明の更なる変形実施例を単純化して示す縦断面図である。
【図16】本発明の更なる変形実施例を単純化して示す縦断面図である。
【図17】本発明の更なる変形実施例を単純化して示す縦断面図である。
【符号の説明】
【0052】
2 トレーリングアーム(車輪側部材)
6 ダンパ
12 シリンダ
13 ピストンロッド
14 上部液室(一側液室)
15 下部液室(他側液室)
16 ピストン
22 ダンパベース(車体側部材)
26 インナヨーク
27 締結ねじ
28 環状溝
30 コイル
31 軸線方向延出部
34 エンドプレート
40、71 アウタヨーク(フラックスリング)
【特許請求の範囲】
【請求項1】
磁性流体または磁気粘性流体が充填されるとともに車体側部材と車輪側部材とのどちらか一方に連結されたシリンダと、前記シリンダを一側液室と他側液室とに区画するとともに前記磁性流体または磁気粘性流体を当該一側液室と他側液室との間で流通させる流路が形成されたピストンと、前記車体側部材と車輪側部材とのどちらか他方を当該ピストンに連結するピストンロッドとを有し、前記流路を通過する前記磁性流体または前記磁気粘性流体に磁界を印加することで減衰力が制御される減衰力可変式ダンパであって、
前記ピストンは、
前記ピストンの外周側部分を形成するアウタヨークと、
前記アウタヨークの内側に所定の間隙をもって設置され、当該アウタヨークとの間に前記流路を画成するインナヨークと、
前記インナヨークに保持され、前記磁界の形成に供されるコイルとを備え、
前記コイルが、前記インナヨークの外周に凹設された環状溝内に受容され、かつ前記インナヨークが、前記コイルの外周に向けてオーバハングするように、前記環状溝の外周部側にて軸線方向延出部を有することを特徴とする減衰力可変ダンパ。
【請求項2】
前記インナヨークの前記軸線方向延出部が、前記環状溝の両側から略対称に延出することを特徴とする請求項1に記載の減衰力可変ダンパ。
【請求項3】
磁性流体または磁気粘性流体が充填されるとともに車体側部材と車輪側部材とのどちらか一方に連結されたシリンダと、前記シリンダを一側液室と他側液室とに区画するとともに前記磁性流体または磁気粘性流体を当該一側液室と他側液室との間で流通させる流路が形成されたピストンと、前記車体側部材と車輪側部材とのどちらか他方を当該ピストンに連結するピストンロッドとを有し、前記流路を通過する前記磁性流体または前記磁気粘性流体に磁界を印加することで減衰力が制御される減衰力可変式ダンパであって、
前記ピストンは、
前記ピストンの外周側部分を形成するアウタヨークと、
前記アウタヨークの内側に所定の間隙をもって設置され、当該アウタヨークとの間に前記流路を画成するインナヨークと、
前記インナヨークに保持され、前記磁界の形成に供されるコイルとを備え、
前記コイルの外周側に於ける前記インナヨークの軸線方向長が、少なくとも部分的に、前記コイルを通過する前記インナヨークの軸線方向長よりも大きいことを特徴とする減衰力可変ダンパ。
【請求項4】
前記インナヨークが軸方向で分割され、かつ締結部材によって締結/一体化される少なくとも2つの部分からなることを特徴とする請求項1若しくは3に記載の減衰力可変ダンパ。
【請求項1】
磁性流体または磁気粘性流体が充填されるとともに車体側部材と車輪側部材とのどちらか一方に連結されたシリンダと、前記シリンダを一側液室と他側液室とに区画するとともに前記磁性流体または磁気粘性流体を当該一側液室と他側液室との間で流通させる流路が形成されたピストンと、前記車体側部材と車輪側部材とのどちらか他方を当該ピストンに連結するピストンロッドとを有し、前記流路を通過する前記磁性流体または前記磁気粘性流体に磁界を印加することで減衰力が制御される減衰力可変式ダンパであって、
前記ピストンは、
前記ピストンの外周側部分を形成するアウタヨークと、
前記アウタヨークの内側に所定の間隙をもって設置され、当該アウタヨークとの間に前記流路を画成するインナヨークと、
前記インナヨークに保持され、前記磁界の形成に供されるコイルとを備え、
前記コイルが、前記インナヨークの外周に凹設された環状溝内に受容され、かつ前記インナヨークが、前記コイルの外周に向けてオーバハングするように、前記環状溝の外周部側にて軸線方向延出部を有することを特徴とする減衰力可変ダンパ。
【請求項2】
前記インナヨークの前記軸線方向延出部が、前記環状溝の両側から略対称に延出することを特徴とする請求項1に記載の減衰力可変ダンパ。
【請求項3】
磁性流体または磁気粘性流体が充填されるとともに車体側部材と車輪側部材とのどちらか一方に連結されたシリンダと、前記シリンダを一側液室と他側液室とに区画するとともに前記磁性流体または磁気粘性流体を当該一側液室と他側液室との間で流通させる流路が形成されたピストンと、前記車体側部材と車輪側部材とのどちらか他方を当該ピストンに連結するピストンロッドとを有し、前記流路を通過する前記磁性流体または前記磁気粘性流体に磁界を印加することで減衰力が制御される減衰力可変式ダンパであって、
前記ピストンは、
前記ピストンの外周側部分を形成するアウタヨークと、
前記アウタヨークの内側に所定の間隙をもって設置され、当該アウタヨークとの間に前記流路を画成するインナヨークと、
前記インナヨークに保持され、前記磁界の形成に供されるコイルとを備え、
前記コイルの外周側に於ける前記インナヨークの軸線方向長が、少なくとも部分的に、前記コイルを通過する前記インナヨークの軸線方向長よりも大きいことを特徴とする減衰力可変ダンパ。
【請求項4】
前記インナヨークが軸方向で分割され、かつ締結部材によって締結/一体化される少なくとも2つの部分からなることを特徴とする請求項1若しくは3に記載の減衰力可変ダンパ。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【公開番号】特開2009−133472(P2009−133472A)
【公開日】平成21年6月18日(2009.6.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−62301(P2008−62301)
【出願日】平成20年3月12日(2008.3.12)
【出願人】(000005326)本田技研工業株式会社 (23,863)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成21年6月18日(2009.6.18)
【国際特許分類】
【出願日】平成20年3月12日(2008.3.12)
【出願人】(000005326)本田技研工業株式会社 (23,863)
【Fターム(参考)】
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