説明

減衰力可変ダンパ

【課題】 減衰力可変範囲の増大等を実現した減衰力可変ダンパを提供する。
【解決手段】 ピストン16は、ピストンカバー30と、ピストンカバー30の内側に保持されたアウタヨーク31と、アウタヨーク31の内側に配置されたインナヨーク32と、アウタヨーク31およびインナヨーク32を軸方向に挟持する上下一対のエンドプレート33,34と、インナヨーク32の軸方向中央部に樹脂モールディングされたMLVコイル35と、ピストン16をピストンロッド13に固定するための係止リング36とを主要構成要素としている。アウタヨーク31は、等角度間隔で分割された8個の分割ヨーク41と、隣接する分割ヨーク41を連結する薄肉の連結片42とからなっている。各分割ヨーク41は、連結片42によって拡径状態に保持されており、自由状態においてはその外周面がピストンカバー30の内周面に密着している。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、磁性流体または磁気粘性流体を作動流体として用いた減衰力可変ダンパに係り、詳しくは、減衰力可変範囲の増大等を実現する技術に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、自動車のサスペンションに用いられる筒型ダンパでは、乗り心地や操縦安定性の向上を図るべく、減衰力の可変制御が可能な減衰力可変ダンパが種々開発されている。減衰力可変ダンパとしては、オリフィス面積を変化させるロータリバルブをピストンに設け、このロータリバルブをアクチュエータによって回転駆動する機械式のものが主流であったが、構成の簡素化や応答性の向上等を実現すべく、磁気粘性流体を作動流体として用い、ピストンと一体に形成された磁界生成手段(コイル)によって磁気粘性流体の粘度(すなわち、減衰力)を可変制御するものが出現している(特許文献1参照)。
【0003】
特許文献1の減衰力可変ダンパでは、ピストンが、外周にコイルが巻き回された円柱状のインナヨークと、インナヨークの両端に配置された一対のエンドプレートと、インナヨークと両エンドプレートを収容する円筒状のアウタヨークとから主に構成されている。インナヨークおよびアウタヨークはともに磁性体を素材としており、エンドプレートによって保持されることによって両者の間に環状流路が形成される。エンドプレートは、非磁性体を素材とした円盤状のものであり、環状流路に連通する複数の円弧状孔と、インナヨーク端部の凸部が係合する環状凹部と、ピストンロッド固定用のリングが係合する環状溝とを有している。また、インナヨークおよびエンドプレートは、アウタヨークの両端外縁を加締めることによって固定されている。減衰力制御装置は、コイルに供給する駆動電流を変化させることによって環状流路を流通する磁気粘性流体の粘度を増減させ、磁気粘性流体の流通抵抗(すなわち、減衰力)を可変制御する。
【特許文献1】米国特許6260675号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1の減衰力可変ダンパでは、磁界印加手段に供給する駆動電流を変化させることによって減衰力を可変制御する都合上、減衰力の可変範囲をあまり大きくすることができなかった。すなわち、この種の減衰力可変ダンパで高い減衰力を得るためにはコイルに大きな駆動電流を供給する必要があるが、この方法は電力消費や給電回路の負荷が増大すること等を考えると現実的ではなかった。また、減衰力の最大値を高めるには環状流路の流路面積を小さく方法も採り得るが、この場合には減衰力の最小値も高くなり、悪路走行時等における乗り心地が低下することになる。
【0005】
本発明は、このような背景に鑑みなされたもので、減衰力可変範囲の増大等を実現した減衰力可変ダンパを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
第1の発明は、磁性流体または磁気粘性流体が充填されるとともに車体側部材と車輪側部材とのどちらか一方に連結されたシリンダと、前記シリンダを一側液室と他側液室とに区画するとともに前記磁性流体または磁気粘性流体を当該一側液室と他側液室との間で流通させる環状流路が形成されたピストンと、前記車体側部材と車輪側部材とのどちらか他方を当該ピストンに連結するピストンロッドとを有し、前記環状流路を通過する前記磁性流体または前記磁気粘性流体に磁界を印加することで減衰力が制御される減衰力可変式ダンパであって、前記ピストンは、周方向に隣接する複数の分割ヨークから構成された円筒状のアウタヨークと、前記アウタヨークを拡径状態に保持する保持手段と、前記アウタヨークの内周面に対して所定の間隙をもって設置され、当該アウタヨークとの間に前記環状流路を画成するインナヨークと、前記インナヨークに保持され、前記磁界の形成に供される磁界印加手段とを備え、前記分割ヨークが磁性体を素材とすることを特徴とする。
【0007】
また、第2の発明は、第1の発明に係る減衰力可変ダンパにおいて、前記保持手段は、前記分割ヨークと一体に形成され、隣接する分割ヨークの連結に供される連結片であることを特徴とする。
【0008】
また、第3の発明は、第1の発明に係る減衰力可変ダンパにおいて、前記保持手段は、その両端が前記分割ヨークにそれぞれ固着または係合され、隣接する分割ヨークの連結に供される弾性連結部材であることを特徴とする。
【発明の効果】
【0009】
第1の発明に係る減衰力可変ダンパによれば、磁界印加手段によって強い磁界が形成されると、磁性流体や磁気粘性流体の粘度が上昇すると同時に、分割ヨークが保持手段の保持力にうちかってインナヨーク側に磁力吸引されることで環状流路の流路面積が減少し、従来の減衰力可変ダンパに較べて減衰力が有意に増大する。また、第2の発明に係る減衰力可変ダンパによれば、保持手段を分割ヨークと一体に形成したため、構成部品点数や組立工数が低減できる。また、第3の発明に係る減衰力可変ダンパによれば、分割ヨークの素材として弾性に乏しいものを採用しても、分割ヨークに対する拡径状態の保持を効果的かつ高い耐久性をもって行える。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
以下、図面を参照して、本発明を4輪自動車のリヤサスペンションに適用した2つの実施形態を詳細に説明する。
【0011】
[実施形態]
図1は実施形態に係るリヤサスペンションの斜視図であり、図2は実施形態に係るダンパの縦断面図であり、図3は図2中のIII部拡大図であり、図4は実施形態に係るピストンの分解斜視図であり、図5は実施形態に係るアウタヨークの平面図である。
【0012】
《実施形態の構成》
図1に示すように、本実施形態のリヤサスペンション1は、いわゆるH型トーションビーム式サスペンションであり、左右のトレーリングアーム2,3や、両トレーリングアーム2,3の中間部を連結するトーションビーム4、懸架ばねである左右一対のコイルスプリング5、左右一対のダンパ6等から構成されており、左右のリヤホイール7,8を懸架している。ダンパ6は、MRF(Magneto-Rheological Fluid:磁気粘性流体)を作動流体とする減衰力可変型ダンパであり、トランクルーム内等に設置されたECU9によってその減衰力が可変制御される。
【0013】
<ダンパ>
図2に示すように、本実施形態のダンパ6は、モノチューブ式(ド・カルボン式)であり、MRFが充填された円筒状のシリンダ12と、このシリンダ12に対して軸方向に摺動するピストンロッド13と、ピストンロッド13の先端に装着されてシリンダ12内を上部液室(一側液室)14と下部液室(他側液室)15とに区画するピストン16と、シリンダ12の下部に高圧ガス室17を画成するフリーピストン18と、ピストンロッド13等への塵埃の付着を防ぐカバー19と、フルバウンド時における緩衝を行うバンプストップ20とを主要構成要素としている。
【0014】
シリンダ12は、下端のアイピース12aに嵌挿されたボルト21を介して、車輪側部材であるトレーリングアーム2の上面に連結されている。また、ピストンロッド13は、上下一対のブッシュ22とナット23とを介して、その上部ねじ軸13aが車体側部材であるダンパベース(ホイールハウス上部)24に連結されている。
【0015】
<ピストン>
ピストン16は、MLV(Magnetizable Liquid Valve:磁気流体バルブ)と一体となっており、図3,図4に示すように、その外周面がシリンダ12の内壁面に摺接する鋼板製のピストンカバー30と、ピストンカバー30の内側に保持されたアウタヨーク31と、アウタヨーク31の内側に配置されたインナヨーク32と、アウタヨーク31およびインナヨーク32を軸方向に挟持する上下一対のエンドプレート33,34と、インナヨーク32の軸方向中央部に樹脂モールディングされたMLVコイル(磁界印加手段)35と、ピストン16をピストンロッド13に固定するための係止リング36とを主要構成要素としている。
【0016】
アウタヨーク31やインナヨーク32、エンドプレート33,34は、ピストンカバー30の両端部を加締めることによって固定されている。また、係止リング36は、ばね鋼を素材とする線材をC字状に成形したものであり、ピストンロッド13に形成されたリング保持溝13bに外嵌するとともに、インナヨーク32とエンドプレート33との間に所定のばね力をもって係合/保持されている。図3中に符号37で示す部材はインナヨーク32の軸心に嵌挿されたプラグであり、符号38で示す部材は液圧シール用のOリングである。
【0017】
アウタヨーク31は、強磁性材料を素材とした円筒状の一体成形品であり、エンドプレート33,34に形成された外縁フランジ33a,34aが内嵌する環状段差部31a,31bをその両端に有している。また、インナヨーク32も、強磁性材料を素材とした円柱状の一体成形品であり、エンドプレート33,34の端面に突設された円盤状凸部33b,34bが内嵌する環状フランジ32a,32bをその両端に有している。アウタヨーク31の内周面とインナヨーク32の外周面とは所定の間隙をもって対峙しており、これにより、アウタヨーク31とインナヨーク32との間に環状流路39が画成されている。
【0018】
両エンドプレート33,34は、非磁性体であるアルミニウム合金(ジュラルミン)を素材とした円盤状のものであり、環状流路41を介して上部液室14と下部液室15とを連通させる4つの円弧状孔33c、34cをそれぞれ有している。また、エンドプレート33は、ピストンロッド13が内嵌するロッド孔33dを有している。
【0019】
<アウタヨーク>
図5に示すように、アウタヨーク31は、等角度間隔で分割された複数個(本実施形態では、8個)の分割ヨーク41と、隣接する分割ヨーク41を連結する薄肉の連結片(保持手段)42とからなっている。各分割ヨーク41は、連結片42によって拡径状態に保持されており、自由状態においてはその外周面がピストンカバー30の内周面に密着している。
【0020】
《実施形態の作用》
自動車が走行を開始すると、ECU9は、前後Gセンサ、横Gセンサ、および上下Gセンサから得られた車体の加速度や、車速センサから入力した車体速度、車輪速センサから得られた各車輪の回転速度等に基づき各車輪についてダンパ6の目標減衰力を設定した後、MLVコイル35に対して駆動電流(励磁電流)を供給する。すると、図6に示すように、ピストン16内に磁界が形成され、環状流路39を流通するMRFの粘度が変化し、ダンパ6の減衰力が増大あるいは減少する。この際、本実施形態では、磁界によってアウタヨーク31を構成する分割ヨーク41がインナヨーク32側に引き寄せられ、環状流路39の流路面積が有意に減少して減衰力が従来装置に較べて有意に増大する。なお、環状流路39の流路面積は磁界の強さに対応して変化し、磁界が全く印加されない状態においては、図3に示すように最大となる。
【0021】
本実施形態ではこのような構成を採ったことにより、MLVコイル35に供給する駆動電流の値を比較的小さく設定しながら減衰力の可変範囲を大きくすることができ、電力消費の低減や減衰力制御性(すなわち、操縦安定性や乗り心地)の向上等を実現できた。また、内径の異なるアウタヨーク31を複数種用意することにより、自動車の用途や車重等に応じてダンパ6の減衰力可変範囲を容易に変更できる。
【0022】
<一部変形例>
図7は上記実施形態の一部変形例に係るアウタヨークを示す平面図である。
一部変形例は、上述した実施形態と略同様の構成を採っており、その作用も実施形態と同様であるが、アウタヨーク31の構造のみが異なっている。すなわち、一部変形例のアウタヨーク31では、分割ヨーク41が独立しているとともに、隣接する分割ヨーク41がばね鋼板製の連結プレート(弾性連結部材)43によって連結されている。連結プレート43は各分割ヨーク41を拡径方向に付勢しており、自由状態においては、実施形態と同様に各分割ヨーク41の外周面がピストンカバー30の内周面に密着する。一部変形例では、このような構成を採ったことにより、分割ヨーク41の素材としてフェライト等の弾性に乏しいものを用いても、拡径状態の保持が効果的かつ高い耐久性をもって行える。
【0023】
以上で具体的実施形態の説明を終えるが、本発明は上記実施形態に限定されることなく幅広く変形実施することができる。例えば、上記実施形態は4輪自動車のリヤサスペンションを構成する減衰力可変式ダンパに本発明を適用したものであるが、本発明は、フロントサスペンション用の減衰力可変式ダンパにも適用できるし、2輪自動車等の減衰力可変ダンパ等にも適用可能である。また、保持手段としては、例えば、分割ヨークの両端に設置する環状スプリング等を採用してもよい。その他、アウタヨークやインナヨーク、エンドプレート等の具体的形状やダンパの具体的構造等についても、本発明の趣旨を逸脱しない範囲であれば適宜変更可能である。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【図1】実施形態に係るリヤサスペンションの斜視図である。
【図2】実施形態に係るダンパの縦断面図である。
【図3】図2中のIII部拡大図である。
【図4】実施形態に係るピストンの分解斜視図である。
【図5】実施形態に係るアウタヨークの平面図である。
【図6】実施形態の作用を示すダンパの要部縦断面図である。
【図7】一部変形例に係るアウタヨークの平面図である。
【符号の説明】
【0025】
2 トレーリングアーム(車輪側部材)
6 ダンパ
12 シリンダ
13 ピストンロッド
14 上部液室(一側液室)
15 下部液室(他側液室)
16 ピストン
22 ダンパベース(車体側部材)
30 ピストンカバー
31 アウタヨーク
32 インナヨーク
33 エンドプレート
34 エンドプレート
35 MLVコイル
39 環状流路
41 分割ヨーク
42 連結片(保持手段)
43 連結プレート(弾性連結部材:保持手段)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
磁性流体または磁気粘性流体が充填されるとともに車体側部材と車輪側部材とのどちらか一方に連結されたシリンダと、前記シリンダを一側液室と他側液室とに区画するとともに前記磁性流体または磁気粘性流体を当該一側液室と他側液室との間で流通させる環状流路が形成されたピストンと、前記車体側部材と車輪側部材とのどちらか他方を当該ピストンに連結するピストンロッドとを有し、前記環状流路を通過する前記磁性流体または前記磁気粘性流体に磁界を印加することで減衰力が制御される減衰力可変式ダンパであって、
前記ピストンは、
周方向に隣接する複数の分割ヨークから構成された円筒状のアウタヨークと、
前記アウタヨークを拡径状態に保持する保持手段と、
前記アウタヨークの内周面に対して所定の間隙をもって設置され、当該アウタヨークとの間に前記環状流路を画成するインナヨークと、
前記インナヨークに保持され、前記磁界の形成に供される磁界印加手段と
を備え、
前記分割ヨークが磁性体を素材とすることを特徴とする減衰力可変ダンパ。
【請求項2】
前記保持手段は、前記分割ヨークと一体に形成され、隣接する分割ヨークの連結に供される連結片であることを特徴とする、請求項1に記載の減衰力可変ダンパ。
【請求項3】
前記保持手段は、その両端が前記分割ヨークにそれぞれ固着または係合され、隣接する分割ヨークの連結に供される弾性連結部材であることを特徴とする、請求項1に記載の減衰力可変ダンパ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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