説明

減速装置及び画像形成装置

【課題】ピッチ円直径の同軸誤差の積み上がりがなく回転伝達精度が高い減速装置及び画像形成装置を提供する。
【解決手段】ベースとなる固定部材(ハウジング)13に対して回転可能に設けられた入力軸(モータ軸)11aと、入力軸11aに設けられた太陽歯車12と、太陽歯車12に噛合う複数の遊星歯車と、前記複数の遊星歯車を自転自在かつ太陽歯車12の周りに公転自在に支持するキャリア15と、太陽歯車12に対して同軸に設けられ固定部材13に固定された固定内歯歯車14と、を備える減速装置において、固定部材13に、固定内歯歯車14の歯先面と嵌合する凸部13bを設ける。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、駆動源の回転数を減速して像担持体に伝達する減速装置及び画像形成装置に関する。
【背景技術】
【0002】
画像形成装置の分野において、モータ等の駆動源より減速手段を経て回転力を伝達する機構としては、歯車輪列を用いたもの、ウォームギヤを用いたもの、ベルト減速機構を用いたものなどが一般的に利用されている。画像形成装置における回転体には、感光体、中間転写体等の像担持体、記録材を搬送する記録材搬送部材、定着ローラなどがあるが、これらは、一般に、数十から百数十rpmで回転する。一方、回転体に回転力を伝達する駆動源の回転数は、一般に数千rpmであり、回転体に必要な回転数を得るためには、1/10〜1/30程度の減速比をもつ減速手段が必要となる。
【0003】
また、近年では、画像形成装置の小型化が要求されている。装置を小型化するためには、構成する部品を小型化するだけでなく、装置内の回転体駆動機構の小型化が必要である。装置内の回転体駆動機構の小型化のために駆動源を小型化する方法があり、一般的に小型の駆動源としてDCモータを使用することが、低騒音、高効率の点で有利である。このDCモータを4000rpm程度の回転速度で定常運転し、減速手段で1/40程度に減速することで、高効率で、負荷トルクが小さい運転ができ、低出力の小型のモータを使用することができる。従って、減速手段は高減速比であることに加えて、減速手段自体の小型化が要求される。
【0004】
画像形成装置に用いられる減速手段としては、感光体へモータの回転をすべりなく減速するために歯車輪列の減速装置を用いるのが一般的である。しかし、歯車輪列の減速装置の小型化には以下の課題がある。高減速比のために多段の減速にすると、軸方向に大型化してしまう。一方、一段で減速比を大きくしようとすると、感光体軸に設けられる歯車は大型化してしまい、特にカラーの装置においては感光体の配置ピッチ内に収まらない問題が生じてしまう。
【0005】
このように一般的に用いられている歯車輪列の減速装置は、歯車の歯数比、つまり、歯車の大きさの比によって減速比が決定されるため、小型化と高減速比との両方を達成することが非常に困難である。
【0006】
上記課題に対し、遊星歯車を用いた減速装置の技術が知られている。
図8は遊星歯車を用いた減速装置の説明図である。図8において、遊星歯車機構100は、駆動源の回転駆動力を受けて回転する太陽歯車(sun gear)101と、太陽歯車101と同軸上に配設された内歯歯車102と、太陽歯車101および内歯歯車102に噛み合う複数の遊星歯車(planetary gear)103と、遊星歯車103を回転自在に支持するとともに太陽歯車101および内歯歯車102と同軸上に回転自在に支持されたキャリア(planetary carrier)104とを備えている。この遊星歯車機構100は、太陽歯車101を中心として、複数の遊星歯車103が自転しつつキャリア104により公転して減速を行うため、少ない段数で大きな減速比が得られること、比較的大きなトルクを伝達できること、入力軸と出力軸とを同軸上に配置できることなどの利点を有している。
【0007】
また、遊星歯車機構のなかでも小型軽量で高減速比、大トルク伝達が可能なものとして、遊星差動歯車減速機構が知られている。この遊星差動歯車減速機構は、太陽歯車と、同軸上に設けられた互いに歯数の異なる固定内歯歯車及び回転内歯歯車と、それぞれの内歯歯車に噛み合う複数の2段構成遊星歯車と、キャリアとで構成されている。1段目の遊星歯車は太陽歯車と固定内歯歯車とに噛み合い、2段目の遊星歯車が回転内歯歯車と噛み合って差動減速する。さらに、複数の1段構成遊星歯車が、転位歯車を用いて歯数差を設けた固定内歯歯車と回転内歯歯車とに同時に噛み合う構成の遊星差動歯車減速機構も知られている。以上のような構成の遊星差動歯車減速機構では、複数の遊星歯車により荷重分担することで、大トルク伝達が可能となり、さらに差動減速することで高減速比が可能となる利点がある。
【0008】
上記遊星差動歯車減速機構では、同軸上に設けられた太陽歯車、固定内歯歯車、回転内歯歯車、キャリアの同軸精度が悪いと、キャリアに支持された複数の遊星歯車が公転するときにかみ合い誤差が生じ回転伝達誤差になる。
【0009】
図9は、上記遊星歯車機構100において、内歯歯車103が太陽歯車101に対して図中下側に偏心し、太陽歯車軸心101cと内歯歯車軸心102cとの間にずれδが生じたときの各歯車のピッチ円直径(Pitch Circle Diameter、以下「P.C.D.」ともいう)の軌跡であるピッチ円の関係を示す説明図である。図9において、太陽歯車軸心101cと内歯歯車軸心102cとの間にずれδが生じた状態では、内歯歯車ピッチ円102Pと各遊星歯車ピッチ円103Pとが均等に接触せず、1つの遊星歯車103(図示の例では上側の歯車)の負担は大きくなり、他の2つの遊星歯車103の負担は小さくなるという不均衡が生じてしまう。つまり内歯歯車102が偏心した状態で太陽歯車101が回転すると、キャリア104に支持された複数の遊星歯車103が公転するときにかみ合い誤差が生じ回転伝達誤差になる。
【0010】
上記遊星歯車機構100では、1つの遊星歯車に加わるトルクT(N・m)は、全体で伝達するトルク(N・m)をT’、遊星歯車の数をn、分散係数をkとすると、次の(1)式で表される。
T=k(T’/n)・・・(1)
【0011】
上記(1)式において、分散係数kとは、トルクを各遊星歯車にどれだけ均等に分散しているかを示す係数で、この値が小さいほど均一に分散され、より大きなトルクの伝達ができる。各遊星歯車の伝達トルクを均等に分散するためには、各部品の位置関係が正確に配置されていることが必要になる。特に、上記遊星差動歯車減速機構では、回転駆動力の入力から出力までの回転伝達精度を良くするために、歯車のピッチ円直径に対して各部品の同軸精度を確保する必要がある。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
従来、各部品の同軸精度を確保する方法として、駆動源を固定する固定部材に対して太陽歯車を位置決めするとともに、固定内歯歯車の外形部の一部周面を位置決めする構成が開示されている(特許文献1参照)。また、キャリアを固定内歯歯車や回転内歯歯車の歯車以外の内周面と位置決めする構成が開示されている(特許文献2参照)。しかしながら、特許文献1及び特許文献2で開示された位置決めの構成では、ピッチ円直径の同軸誤差が積み上がるため、回転伝達精度が悪くなるという問題があった。このような回転伝達精度が悪い遊星歯車機構の減速装置で画像形成装置の感光体を回転駆動すると、例えばドットの位置ずれが発生し色ずれやバンディングの大きな画像が形成されてしまう。
【0013】
本発明は、上記問題に鑑みなされたものであり、その目的とするところは、ピッチ円直径の同軸誤差の積み上がりがなく回転伝達精度が高い減速装置及びこの減速装置を用いた画像形成装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0014】
上記目的を達成するために、請求項1の発明は、ベースとなる固定部材に対して回転可能に設けられた入力軸と、前記入力軸に設けられた太陽歯車と、前記太陽歯車に噛合う複数の遊星歯車と、前記複数の遊星歯車を自転自在かつ前記太陽歯車の周りに公転自在に支持するキャリアと、前記太陽歯車に対して同軸に設けられ前記固定部材に固定された固定内歯歯車と、を備える減速装置であって、前記固定部材に、前記固定内歯歯車の歯先面と嵌合する凸部を設けたことを特徴とするものである。
また、請求項2の発明は、請求項1に記載の減速装置において、前記固定内歯歯車と同軸上に回転可能に配置され、該固定内歯歯車に対して歯数差を有して前記遊星歯車と噛み合う回転内歯歯車を更に備え、前記回転内歯歯車の軸方向における外周面の一部を、前記固定内歯歯車の歯先面に回転自在に嵌合させたことを特徴とするものである。
また、請求項3の発明は、請求項1又は2に記載の減速装置において、前記キャリアの外周面の軸方向における一部を、前記固定内歯歯車の歯先面に回転自在に嵌合させたことを特徴とするものである。
また、請求項5の発明は、請求項2ないし4のいずれかに記載の減速装置において、前記固定内歯歯車の少なくとも前記回転内歯歯車および前記キャリアと嵌合する部位における歯先のエッジと、前記回転内歯歯車の少なくとも該キャリアと嵌合する部位における歯先のエッジを、面取り形状又はR形状にしたことを特徴とするものである。
また、請求項6の発明は、請求項2ないし5のいずれかに記載の減速装置において、前記固定内歯歯車の少なくとも前記回転内歯歯車および前記キャリアと嵌合する部位における歯と歯との空間と、前記回転内歯歯車の少なくとも該キャリアと嵌合する部位における歯と歯との空間に、潤滑材を充填したことを特徴とするものである。
また、請求項7の発明は、請求項1ないし6のいずれかに記載の減速装置を、潜像担持体を駆動する駆動装置に用いたことを特徴とするものである。
また、請求項8の発明は、請求項1ないし6のいずれかに記載の減速装置を、転写ベルトを駆動する駆動装置に用いたことを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0015】
本発明は、固定部材に設けられた凸部と固定内歯歯車の複数の歯先とを嵌合して固定内歯歯車を位置決め固定することで、固定内歯歯車のピッチ円に近く、しかもピッチ円と同心の歯先円で位置決めすることになるので、従来固定内歯歯車の外形部で位置決めしていた構成に比べ、固定部材に対する固定内歯歯車の位置決め精度が向上する。また、固定内歯歯車と同様に固定部材に対して位置決めされた入力軸に配設された太陽歯車との同軸精度も良くなり、ピッチ円直径の同軸誤差の積み上がりがなく、両歯車に噛み合って公転する遊星歯車との噛み合い誤差も小さくなり、高い回転精度が得られる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】本発明を適用した画像形成装置の概略正面図である。
【図2】図1に示した画像形成装置に備えられた感光体駆動装置の概略正面図である。
【図3】図2に示した感光体駆動装置の部分断面図である。
【図4】図3に示した感光体駆動装置の矢視E−E断面図である。
【図5】図3に示した感光体駆動装置の遊星差動歯車減速装置部分の一部の部品を省略した分解斜視図である。
【図6】固定内歯歯車の歯形形状を示す説明図であって、(a)は通常の歯先のエッジの形状を示し、(b)は歯先のエッジを面取りした形状を示す説明図である。
【図7】図6に示した固定内歯歯車の歯と歯の間にグリスを充填した状態を示す説明図である。
【図8】従来技術の遊星歯車機構の説明図である。
【図9】図8に示した遊星歯車機構における太陽歯車の軸心と内歯歯車の軸心とのずれがある場合の各歯車のピッチ円の関係を示す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明を、画像形成装置である電子写真方式のカラー複写機(以下、「複写機」という。)に適用した一実施形態について説明する。尚、本実施形態における複写機は、いわゆるタンデム式の画像形成装置であって、乾式二成分現像剤を用いた乾式二成分現像方式を採用したものである。
【0018】
図1は、本実施形態に係る複写機における画像形成部全体の概略構成図である。この複写機は、図示しない画像読取部から画像情報である画像データを受け取って画像形成処理を行う。この複写機には、図に示すように、イエロー(以下、「Y」と省略する。)、マゼンタ(以下、「M」と省略する。)、シアン(以下、「C」と省略する。)、ブラック(以下、「Bk」と省略する。)の各色用の4個の回転体としての潜像担持体である感光体ドラム1Y,1M,1C,1Bkが並設されている。これら感光体ドラム1Y,1M,1C,1Bkは、駆動ローラを含む回転可能な複数のローラに支持された無端ベルト状の中間転写ベルト5に接触するように、そのベルト移動方向に沿って並んで配置されている。また、感光体ドラム1Y,1M,1C,1Bkの周りには、それぞれ、帯電器2Y,2M,2C,2Bk、各色対応の現像装置9Y,9M,9C,9Bk、クリーニング装置4Y,4M,4C,4Bk、除電ランプ3Y,3M,3C,3Bk等の電子写真プロセス用部材がプロセス順に配設されている。
【0019】
本実施形態に係る複写機でフルカラー画像を形成する場合、まず、図1に示すように、後述する感光体駆動装置により、感光体ドラム1Yを図中矢印の方向に回転駆動しながら帯電器2Yで一様帯電した後、図示しない光書込装置からの光ビームLYを照射して感光体ドラム1Y上にY静電潜像を形成する。このY静電潜像は、現像装置9Yにより、現像剤中のYトナーにより現像される。現像時には、現像ローラと感光体ドラム1Yとの間に所定の現像バイアスが印加され、現像ローラ上のYトナーは、感光体ドラム1Y上のY静電潜像部分に静電吸着する。
【0020】
このように現像されて形成されたYトナー像は、感光体ドラム1Yの回転に伴い、感光体ドラム1Yと中間転写ベルト5とが接触する1次転写位置に搬送される。この1次転写位置において、中間転写ベルト5の裏面には、1次転写ローラ6Yにより所定のバイアス電圧が印加される。そして、このバイアス印加によって発生した1次転写電界により、感光体ドラム1Y上のYトナー像を中間転写ベルト5側に引き寄せ、中間転写ベルト5上に1次転写する。以下、同様にして、Mトナー像、Cトナー像、Bkトナー像も、中間転写ベルト5上のYトナー像に順次重ね合うように1次転写される。
【0021】
このように、中間転写ベルト5上に4色重なり合ったトナー像は、中間転写ベルト5の回転に伴い、2次転写ローラ7と対向する2次転写位置に搬送される。また、この2次転写位置には、図示しないレジストローラにより所定のタイミングで転写紙が搬送される。そして、この2次転写位置において、2次転写ローラ7により転写紙の裏面に所定のバイアス電圧が印加され、そのバイアス印加により発生した2次転写電界及び2次転写位置での当接圧により、中間転写ベルト5上のトナー像が転写紙上に一括して2次転写される。その後、トナー像が2次転写された転写紙は、定着ローラ対8により定着処理がなされた後に装置外に排出される。
【0022】
次に、本発明の特徴部分である、減速手段としての遊星差動歯車減速装置を備える駆動手段としての減速機構付き駆動装置である感光体駆動装置について説明する。尚、各感光体ドラム1Y,1M,1C,1Bkは、同一構成の感光体駆動装置により回転駆動されているので、以下、感光体ドラム1Yを駆動する感光体駆動装置10について説明する。
【0023】
図2は、本実施形態における感光体ドラム1の軸方向一端部外方に設置される感光体駆動装置10の概略図である。この感光体ドラム1は感光体ドラム軸1aに固定され、感光体ドラム軸1aがカップリング50を介して感光体駆動装置10の出力軸19に連結されている。感光体駆動装置10は本体側板60に取り付けられており、その出力軸19が回転することによって感光体ドラム1が回転する。
【0024】
図3は本実施形態における感光体駆動装置10の部分断面図である。また、図4は図3中の矢視E−E断面図であり、図5は感光体駆動装置10の遊星差動歯車減速装置部分の一部の部品を省略して図示した分解斜視図である。
図3において、駆動源であるモータ11は、モータ軸11aとモータ軸11aと同心をなすボス11bとを有しており、ボス11bはモータ軸11a側の側面から突き出た段差部を形成している。このボス11bはリング形状をしており、モータフランジを削り出して一体で形成しても良く、あるいは別部材で形成したものをモータフランジに嵌め込んでもよい。モータ軸11aには太陽歯車12が、モータ軸11aの軸心と同心となるように、且つ、図示しないキー等の回り止め手段により一体で回転するように固設されている。また、ボス11bの内周面には図示しない軸受が配設されていてモータ軸11aを軸支し、外周面はモータ11を固定する固定部材としてのハウジング13のモータ取付孔13aとガタなく嵌合するはめあい寸法公差で形成されている。ハウジング13のモータ取付孔13aの内周面もボス11bとガタなく嵌合するはめあい寸法公差で形成されているので、モータ取付孔13aにボス11bを嵌合させてモータ11を取り付けた場合、太陽歯車12と、モータ軸11aと、ボス11bと、ハウジング13のモータ取付孔13aとの軸心が一致した状態で位置決めされる。
【0025】
また、ハウジング13にはモータ11を取付け固定する面とは反対側の面に、モータ取付孔13aと同心をなす環状の凸部13bが形成されている(図5参照)。この環状の凸部13bの外周面Aと、固定内歯歯車14の複数の歯先面14aとが嵌合して、固定内歯歯車14はハウジング13に位置決めされ、さらに図示しない4本のネジでモータ側からネジ止め固定される。このため、固定内歯歯車14の歯幅のうちハウジング13の凸部13bと嵌合する嵌合部A’の歯先面14aの歯先円直径と、凸部13bの外周面Aの外径とは、互いにガタなく嵌合するはめあい寸法公差が設定されている。望ましくは、しまりばめ若しくは中間ばめの嵌合とすることで、固定内歯歯車14はハウジング13により確実に位置決め固定される。これにより、固定内歯歯車14は、固定内歯歯車14のP.C.D.の軌跡であるピッチ円14pに近く、しかもピッチ円14pと同心である歯先面14aの歯先円14bで位置決めされることになるので、従来固定内歯歯車14の外形部で位置決めされていた構成に比べ、固定内歯歯車14の軸心とハウジング13のモータ取付孔13aで位置決めされたモータ軸11a及び太陽歯車12との間のピッチ円直径の同軸誤差の積み上がりがなく、同軸度誤差を小さくすることができる。
【0026】
固定内歯歯車14には歯先円を歯幅方向に延伸した円筒面を基準面として、さらにキャリア15と回転内歯歯車16とが同心状に嵌合して回転自在に支持されている。
キャリア15は遊星歯車17を遊星軸18を介して回転自在に支持すると共に自身が回転する機能を有するもので、遊星軸18の両端を支持する左右の側板15a,bと、それら左右の側板15a,bを繋ぐ3本の支柱15cとで構成されている。また、本実施形態では、遊星歯車17は2段構成で、1段目遊星歯車17aは太陽歯車12と固定内歯歯車14とに噛み合い、2段目遊星歯車17bは回転内歯歯車16と噛み合って一体で回転する。2段目遊星歯車17bから回転自在に支持された回転内歯歯車16へ動力が伝達されて回転する。
【0027】
この回転内歯歯車16には固定内歯歯車14側の外周面に段差部16aが設けられ、段差部16aの外周面Bが固定内歯歯車14の複数の歯先面14aの嵌合部B'に入れ子状に嵌合して回転自在に支持されている。段差部16aの外径と嵌合部B'の歯先面14aの歯先円直径とは、互いにガタなく、且つ回転自在に摺動できるはめあい寸法公差が設定されている。望ましくは、すきまばめのはめあい寸法公差が良い。これにより、回転内歯歯車16は、固定内歯歯車14のピッチ円14pに近く、しかもピッチ円14pと同心である歯先円14bで位置決めされることになるので、ピッチ円直径の同軸誤差の積み上がりがなく、固定内歯歯車14の軸心との同軸度誤差を小さくすることができる。
【0028】
また、キャリア15は、遊星軸18を支持する一方の右側板15aの外周面Cを固定内歯歯車14の複数の歯先面14aの嵌合部C’で、他方の左側板15bの外周面Dを回転内歯歯車16の複数の歯先面16bの嵌合部D’で回転自在に支持されて嵌合している。キャリア15の右側板15aの外周面Cの直径と嵌合部C’の歯先面14aの歯先円直径、及び、左側板15bの外周面Dの直径と嵌合部D’の歯先面16bの歯先円直径は、互いにガタなく、且つ回転自在に摺動できるはめあい寸法公差が設定されている。望ましくは、すきまばめのはめあい寸法公差が良い。これにより、キャリア15は、一方の右側板15b側が固定内歯歯車14のピッチ円14pに近く、しかもピッチ円14pと同心である歯先円14bで位置決めされる。また、他方の左側板15b側が回転内歯歯車16のP.C.D.の軌跡であるピッチ円に近く、しかもピッチ円と同心である歯先面16bの歯先円で位置決めされる。よって、ピッチ円直径の同軸誤差の積み上がりがなく、固定内歯歯車14の軸心と、キャリア15の軸心と、回転内歯歯車16の軸心との同軸度誤差を小さくすることができる。
【0029】
遊星歯車17は、本実施形態では図4に示すように3個で構成され、その間の空間部に支柱15cが3箇所設けられている。このように遊星歯車17を複数個で構成することによって歯車にかかる負荷を分散して、小さな遊星歯車で構成することが可能となる。
【0030】
回転内歯歯車16には同心状にフランジ部19aを有する出力軸19が図示しない4本のネジでネジ止め固定されており、回転内歯歯車16の回転が出力軸19へ出力される。出力軸19は軸受20を介して減速機のケース21に支持されており、ケース21は固定内歯歯車14に固定されている。図3において、出力軸19のフランジ中心部19bには軸受22を設け、モータ軸11aの延伸させた先端部を回転自在に支持している。
【0031】
遊星差動歯車減速機を構成する部品の材質として、少なくとも歯先面が摺動面となる固定内歯歯車14と回転内歯歯車16とは、摺動性の良い樹脂、例えば、ポリアセタールなどを用いることが望ましい。
【0032】
以上のような構成により、固定内歯歯車14、回転内歯歯車16、キャリア15及び太陽歯車12の同軸精度が確保でき、良好な回転伝達精度が得られる。
【0033】
図6は固定内歯歯車14の歯形形状を示す説明図で、同図(a)は通常の歯形形状を示し、同図(b)は歯幅方向の歯先のエッジを面取りした歯形形状を示す。固定内歯歯車14の歯幅方向のうち、少なくとも回転内歯歯車16と摺動する嵌合部B’、及びキャリア15の右側板15aの外周面Cと摺動する嵌合部C’の歯幅方向の歯先面14aのエッジ14cに同図(b)に示すような面取りをしておくことにより、歯先エッジの引っかかりや、バリやかえりの発生がなく、滑らかな回転が可能となる。また、歯先面14aのエッジ14cを面取りする構成に代えて、歯先面14aのエッジ14cをR形状としても良く、これにより同様の効果が得られる。
また、固定内歯歯車14の歯幅方向の全てのエッジ14cに面取り又はR形状としておくことで、固定内歯歯車14を転位歯車とした場合又は1段目遊星歯車17aの歯数が小さい場合に生じ得る、インボリュート干渉又はトロコイド干渉による歯先の干渉を防ぐことが可能となる。
【0034】
また、回転内歯歯車16の歯先のうち、少なくともキャリア15の左側板15bの外周面Dと摺動する嵌合部D’の歯幅方向の歯先面16のエッジに面取り又はR形状にしてもよい。これにより、歯先エッジの引っかかりや、バリやかえりの発生がなく、滑らかな回転が可能となる。
また、回転内歯歯車16の歯幅方向の全てのエッジに面取り又はR形状としておくことで、回転内歯歯車16を転位歯車とした場合又は2段目遊星歯車17bの歯数が小さい場合に生じ得る、インボリュート干渉又はトロコイド干渉による歯先の干渉を防ぐことが可能となる。
【0035】
図7は固定内歯歯車14の歯と歯の間の空間に潤滑剤としてグリスを充填した構成を示している。固定内歯歯車14の歯幅方向のうち、少なくとも回転内歯歯車16と摺動する嵌合部B’、及びキャリア15の右側板15aの外周面Cと摺動する嵌合部C’の領域の歯と歯の間の空間Sをグリスで充填することによって、キャリア15及び回転内歯歯車16がより滑らかに回転することができる。
【0036】
また、回転内歯歯車16の歯幅方向のうち、少なくともキャリア15の左側板15bの外周面Dと摺動する嵌合部D’の領域の歯と歯の間の空間をグリスで充填することによって、回転内歯歯車16がより滑らかに回転することができる。
【0037】
以上本発明の好ましい実施の形態について説明したが、本発明はかかる特定の実施形態に限定されるものではなく、上述の説明で特に限定していない限り、特許請求の範囲に記載された本発明の趣旨の範囲内において、種々の変形・変更が可能である。
【0038】
また、本発明は、中間転写体上に順次、各色のトナー像を重ね合わせて転写し、重ね合わされたトナー像を一括して記録媒体に転写するいわゆる中間転写方式の画像形成装置にも適用可能である。本発明は、1つの感光体ドラム上に順次各色のトナー像を形成して各色トナー像を順次重ね合わせてカラー画像を得るいわゆる1ドラム方式の画像形成装置にも適用可能である。本発明は、モノクロのみの画像形成が可能な画像形成装置にも適用可能である。
【0039】
本発明の実施の形態に記載された効果は、本発明から生じる最も好適な効果を列挙したに過ぎず、本発明による効果は、本発明の実施の形態に記載されたものに限定されるものではない。
【0040】
以上、本実施形態によれば、ベースとなる固定部材としてのハウジング13に対して回転可能に設けられた入力軸としてのモータ軸11aと、モータ軸11aに設けられた太陽歯車12と、太陽歯車12に噛合う複数の遊星歯車17と、複数の遊星歯車17を自転自在かつ太陽歯車12の周りに公転自在に支持するキャリア15と、太陽歯車12に対して同軸に設けられハウジング13に固定された固定内歯歯車14とを備えた減速装置において、ハウジング13に、固定内歯歯車14の複数の歯先面14aと嵌合する凸部13bを設けている。これにより、固定内歯歯車14は、固定内歯歯車14のピッチ円直径の軌跡であるピッチ円に近くしかもピッチ円と同心である歯先面14aの歯先円で位置決めされることになるので、従来の固定内歯歯車14の外形部で位置決めしていた構成に比べ、ハウジング13に対する固定内歯歯車14の位置決め精度が向上する。また、固定内歯歯車14と同様にハウジング13に対して位置決めされたモータ軸11aに配設された太陽歯車12との同軸精度も良くなり、ピッチ円直径の同軸誤差の積み上がりがなく、両歯車に噛み合って公転する遊星歯車17との噛み合い誤差も小さくなり、高い回転精度が得られる。
しかも、ハウジング13の凸部13bが嵌合して接触するのが、固定内歯歯車14の比較的剛性の低い歯先であるため、その歯先の部分で振動を減衰させることができる。
【0041】
また、本実施形態によれば、固定内歯歯車14と同軸上に回転可能に配置され、固定内歯歯車14に対して歯数差を有して遊星歯車17と噛み合う回転内歯歯車16を備え、回転内歯歯車16の軸方向における外周面の一部を、固定内歯歯車14の複数の歯先面14aに回転自在に嵌合させている。これにより、遊星差動歯車減速機構の構成となり、高減速比にすることができ、かつ、太陽歯車12と固定内歯歯車14と回転内歯歯車16との同軸精度がよくなり、ピッチ円直径の誤差の積み上がりがなく、それぞれの歯車に噛み合って公転する遊星歯車17との噛み合い誤差も小さくなり、高い回転精度が得られる。
【0042】
また、本実施形態によれば、キャリア15の軸方向における外周面の一部を、固定内歯歯車14の複数の歯先面14aに回転自在に嵌合させている。これにより、キャリア15と固定内歯歯車14と回転内歯歯車16と太陽歯車12との同軸精度が良くなり、ピッチ円直径の誤差の積み上がりがなく、それぞれの両歯車に噛み合って公転する遊星歯車との噛み合い誤差も小さくなり、高い回転精度が得られる。
【0043】
また、本実施形態によれば、キャリア15の外周面のうち固定内歯歯車14の複数の歯先面14aと嵌合していない部分のうちの少なくとも一部を、回転内歯歯車16の複数の歯先面16bに回転自在に嵌合させている。これにより、キャリア15と固定内歯歯車14と回転内歯歯車16と太陽歯車12の同軸精度がさらに良くなり、ピッチ円直径の誤差の積み上がりがなく、それぞれの両歯車に噛み合って公転する遊星歯車との噛み合い誤差も小さくなり、高い回転精度が得られる。
【0044】
また、本実施形態によれば、固定内歯歯車14の少なくとも回転内歯歯車16およびキャリア15と嵌合する部位における歯先面14a,16bのエッジと、回転内歯歯車16の少なくともキャリア15と嵌合する部位における歯先面14a,16bのエッジを、面取り形状あるいはR形状にしている。これにより、固定内歯歯車14と回転内歯歯車16およびキャリア15の摺動が滑らかになる。
【0045】
また、本実施形態によれば、固定内歯歯車14の少なくとも回転内歯歯車16およびキャリア15と嵌合する部位における歯と歯との空間Sと、回転内歯歯車16の少なくともキャリア15と嵌合する部位における歯と歯との空間Sのそれぞれに、潤滑材を充填している。これにより、固定内歯歯車14と回転内歯歯車16及びキャリア15との摺動が滑らかになる。
【0046】
また、本実施形態によれば、上記減速装置を、潜像担持体としての感光体ドラム1を駆動する感光体駆動装置10に用いることにより、小型でありながら高トルクを安定して伝達でき、しかも感光体ドラム1の配置について設計上の自由度を向上させることができる。また、上記感光体ドラム1を駆動する減速装置におけるピッチ円直径の同軸誤差の積み上がりがなく、両歯車に噛み合って公転する遊星歯車17との噛み合い誤差も小さくなり、感光体ドラム1の高い回転精度が得られるため、ドットの位置ずれの発生を抑制し、色ずれやバンディングのない良好な画像を形成することができる。
【0047】
なお、上記実施形態において、上記減速装置を、駆動ローラを介して中間転写ベルト5を駆動する転写ベルト駆動装置に用いてもよい。この場合は、小型でありながら高トルクを安定して伝達し、中間転写ベルト5を安定して駆動することができる。
【符号の説明】
【0048】
1(1Y、1M、1C、1BK) 感光体ドラム
10 感光体駆動装置
11 モータ
11a モータ軸(入力軸)
12 太陽歯車
13 ハウジング
13a モータ取付孔
13b 環状の凸部
14 固定内歯歯車
14a 歯先
14b 歯先円
14c エッジ
14p ピッチ円
15 キャリア
15a 右側板
15b 左側板
15c 支柱
16 回転内歯歯車
16a 段差部
16b 歯先
17 遊星歯車
17a 1段目遊星歯車
17b 2段目遊星歯車
18 遊星軸
19 出力軸
【先行技術文献】
【特許文献】
【0049】
【特許文献1】特開2007−78035号公報
【特許文献2】特開2003−130143号公報

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ベースとなる固定部材に対して回転可能に設けられた入力軸と、
前記入力軸に設けられた太陽歯車と、
前記太陽歯車に噛合う複数の遊星歯車と、
前記複数の遊星歯車を自転自在かつ前記太陽歯車の周りに公転自在に支持するキャリアと、
前記太陽歯車に対して同軸に設けられ前記固定部材に固定された固定内歯歯車と、を備える減速装置であって、
前記固定部材に、前記固定内歯歯車の歯先面と嵌合する凸部を設けたことを特徴とする減速装置。
【請求項2】
請求項1に記載の減速装置において、
前記固定内歯歯車と同軸上に回転可能に配置され、該固定内歯歯車に対して歯数差を有して前記遊星歯車と噛み合う回転内歯歯車を更に備え、
前記回転内歯歯車の軸方向における外周面の一部を、前記固定内歯歯車の歯先面に回転自在に嵌合させたことを特徴とする減速装置。
【請求項3】
請求項1又は2に記載の減速装置において、
前記キャリアの軸方向における外周面の一部を、前記固定内歯歯車の歯先面に回転自在に嵌合させたことを特徴とする減速装置
【請求項4】
請求項3に記載の減速装置において、
前記キャリアの外周面のうち前記固定内歯歯車の歯先面と嵌合していない部分の少なくとも一部を、前記回転内歯歯車の歯先面に回転自在に嵌合させたことを特徴とする減速装置。
【請求項5】
請求項2ないし4のいずれかに記載の減速装置において、
前記固定内歯歯車の少なくとも前記回転内歯歯車および前記キャリアと嵌合する部位における歯先のエッジと、前記回転内歯歯車の少なくとも該キャリアと嵌合する部位における歯先のエッジを、面取り形状又はR形状にしたことを特徴とする減速装置。
【請求項6】
請求項2ないし5のいずれかに記載の減速装置において、
前記固定内歯歯車の少なくとも前記回転内歯歯車および前記キャリアと嵌合する部位における歯と歯との空間と、前記回転内歯歯車の少なくとも該キャリアと嵌合する部位における歯と歯との空間に、潤滑材を充填したことを特徴とする減速機構。
【請求項7】
請求項1ないし6のいずれかに記載の減速装置を、潜像担持体を駆動する駆動装置に用いたことを特徴とする画像形成装置。
【請求項8】
請求項1ないし6のいずれかに記載の減速装置を、転写ベルトを駆動する駆動装置に用いたことを特徴とする画像形成装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2010−217363(P2010−217363A)
【公開日】平成22年9月30日(2010.9.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−62538(P2009−62538)
【出願日】平成21年3月16日(2009.3.16)
【出願人】(000006747)株式会社リコー (37,907)
【Fターム(参考)】