説明

温度センサの故障判定装置

【課題】 内燃機関の始動時の環境にかかわらず、温度センサの故障を迅速かつ適正に判定することができる温度センサの故障判定装置を提供する。
【解決手段】エンジン3の始動時からの運転の進行度合を表すパラメータを演算するパラメータ演算手段2と、エンジン3の停止時にエンジン水温センサ4が検出した温度を記憶する温度記憶手段2と、エンジン3が停止してから始動するまでの停止時間を計測する停止時間計測手段2と、エンジン3の前回の運転時に演算されたパラメータが所定値を上回り(ステップ7〜9)且つエンジン3の今回の運転の始動時までの停止時間が所定時間を上回った(ステップ26)場合に、エンジン3の今回の運転の始動時にエンジン水温センサ4によって検出された温度と、温度記憶手段2に記憶した温度との偏差が、判定値以下のときに(ステップ32)、エンジン水温センサ4が故障していると判定する故障判定手段2と、を備えている。

【発明の詳細な説明】
【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は、内燃機関の運転状態に応じて変化する温度を検出する温度センサの故障判定装置に関する。
【0002】
【従来の技術】従来、この種の温度センサの故障判定装置として、特公平3−56417号公報に記載のものが知られている。この故障判定装置は、サーミスタを有する吸気温センサやエンジン水温センサなどを対象として、温度が上昇したときにセンサの出力値が低下することを前提として、故障判定を行うものである。故障判定装置は、温度センサに接続された制御回路を備えており、この制御回路が、温度センサの出力値に基づき、次のようにして、温度センサの故障を判定する。すなわち、まず、内燃機関の始動時から第1所定時間(例えば10分)が経過したか否かを判別する。これは、内燃機関を暖機することで、温度センサで検出される温度を高くし、これにより、温度センサの実際の出力値を十分に低くするためである。そして、内燃機関の始動時から第1所定時間が経過したときに、温度センサの出力値と所定の判定値とを比較し、出力値が判定値よりも大きい状態が、第2所定時間を超えて継続したときに、温度センサが故障していると判定する。つまり、この故障判定装置では、温度センサが判定値を上回る値を一時的に出力したときに、そのことをもって温度センサが故障していると直ちに判定するのではなく、温度センサが第2所定時間の間、判定値を上回る大きな値を出力し続けたときに、温度センサが固着したとして、温度センサが故障していると判定する。これにより、この故障判定装置では、温度センサの一時的な誤検出やノイズなどに起因する温度センサの故障の誤判定を回避するようになっている。
【0003】
【発明が解決しようとする課題】しかし、上記故障判定装置では、内燃機関が始動してから温度センサの故障を最終的に判定するまでに、長時間(第1所定時間+第2所定時間)かかってしまう。このため、例えば、上記温度センサで検出された温度に応じて、内燃機関の始動時の燃料供給量を決定する場合、温度センサが故障していることで、その内燃機関が冷間始動しているのにもかかわらず、温度センサが暖機完了後の高い温度を示し、それに応じて燃料供給量を決定すると、燃料が不十分であることにより、内燃機関の始動後の運転が安定化しないとともに、暖機に時間がかかってしまうことがある。
【0004】また、上記故障判定装置では、温度センサの出力値と判定値との比較の開始を、単に、始動時からの時間のみで決定しているため、例えば、内燃機関が極冷間で始動された場合や、その後、アイドル運転が継続した場合には、始動時から第1所定時間が経過しても、内燃機関が十分に暖機しないことで、温度センサの出力値が十分に低くならず、判定値を下回らないことがある。この場合、その状態が第2所定時間、継続すると、温度センサが正常であるにもかかわらず、故障であると誤判定してしまうことになる。
【0005】本発明は、以上のような課題を解決するためになされたものであり、内燃機関の始動時の環境にかかわらず、温度センサの故障を迅速かつ適正に判定することができる温度センサの故障判定装置を提供することを目的とする。
【0006】
【課題を解決するための手段】本発明に係る温度センサの故障判定装置は、内燃機関3の運転状態に応じて変化する温度を検出する温度センサの故障判定装置1であって、内燃機関の始動時からの運転の進行度合を表す運転進行パラメータ(例えば、実施形態における(以下、本項において同じ)運転時間積算値TENGON、走行距離積算値DISTANCE、燃料噴射時間積算値TOUTX)を演算する運転進行パラメータ演算手段(ECU2)と、内燃機関が停止された時に温度センサ(エンジン水温センサ4)によって検出された温度TWを記憶する温度記憶手段(ECU2のRAM)と、内燃機関が停止してから始動するまでの停止時間TENGOFFを計測する停止時間計測手段(ECU2)と、内燃機関の前回の運転時に演算された運転進行パラメータが所定値(#TENGONJUD、#DISTANCEJUD、#TOUTXJUD)を上回り(ステップ7〜9)、且つ、内燃機関の今回の運転の始動時までの停止時間が所定時間#TENGOFFJUDを上回った(ステップ26)場合において、内燃機関の今回の運転の始動時に温度センサによって検出された温度TWと、温度記憶手段に記憶された温度TWOFFとの偏差が、所定の判定値#TWSTKJUD以下のときに(ステップ32)、温度センサが故障していると判定する故障判定手段(ECU2)と、を備えていることを特徴とする。
【0007】この構成によれば、内燃機関が運転されると、その運転状態に応じて変化する温度が温度センサで検出されるとともに、内燃機関の始動時からの運転の進行度合を表す運転進行パラメータが運転進行パラメータ演算手段によって演算される。そして、内燃機関の運転が停止されると、その停止時に温度センサによって検出された温度が温度記憶手段によって記憶される。内燃機関の停止後、再度、内燃機関の始動までの停止時間が停止時間計測手段によって計測される。そして、前回の運転時の運転進行パラメータが所定値を上回り、且つ、停止時間が所定時間を上回った場合において、今回の運転の始動時に温度センサによって検出された温度と、温度記憶手段に記憶された温度との偏差が、所定の判定値以下のときに、温度センサが故障していると判定する。つまり、温度センサが正常である場合には、前回の運転時に内燃機関が十分に運転されていれば、その停止時に温度センサで検出されるべき温度は、十分に高くなっている一方、その運転後、内燃機関の停止時間が十分長ければ、今回の運転の始動時に温度センサで検出されるべき温度は、停止時のそれに比べて十分に低下しており、その結果、両検出温度の偏差は大きくなる。したがって、上述したように、そのように本来、大きくなるべき両検出温度の偏差が、所定の判定値以下のときに、故障していると判定することによって、内燃機関の始動時の環境にかかわらず、温度センサの故障を適正に判定することができる。また、今回の運転の始動時に温度センサの故障判定を実行できるので、従来と異なり、温度センサの故障を迅速に判定することができる。
【0008】この場合、運転進行パラメータは、始動時からの、内燃機関の運転時間の積算値TENGON、内燃機関を搭載した車両の走行距離の積算値DISTANCE、および内燃機関への燃料供給量の積算値(燃料噴射時間積算値TOUTX)の少なくとも1つであることが好ましい。
【0009】この構成によれば、一般に、内燃機関の温度は、始動時からの、運転時間の積算値、車両の走行距離の積算値および燃料供給量の積算値が大きくなるほど、高くなるので、それらの少なくとも一つを運転進行パラメータとすることにより、内燃機関の温度が十分に高い状態にあるか否かを適切に判別でき、したがって、温度センサの故障判定を適正に行える。
【0010】
【発明の実施の形態】以下、図面を参照しながら、本発明の好ましい実施形態を詳細に説明する。図1は、本発明の一実施形態による温度センサの故障判定装置およびそれを適用した内燃機関の概略構成を示している。同図に示すように、この故障判定装置1は、ECU2(運転進行パラメータ演算手段、温度記憶手段、停止時間計測手段および故障判定手段)を備えており、本実施形態では、内燃機関(以下「エンジン」という)3の運転状態に応じて変化する温度を検出する温度センサとして、後述するエンジン水温センサ4の故障が判定される。
【0011】エンジン3は、例えば直列4気筒タイプなどのものであり、エンジン3の本体には、サーミスタなどで構成されたエンジン水温センサ4が取り付けられている。このエンジン水温センサ4は、エンジン3のシリンダブロック内を循環する冷却水の温度であるエンジン水温TWを検出し、その検出信号をECU2に送る。また、エンジン3には、クランク角センサ5が設けられている。クランク角センサ5は、マグネットロータおよびMREピックアップを組み合わせたものであり、エンジン3の図示しないクランクシャフトの回転に伴い、所定のクランク角ごとに、パルス信号であるCRK信号およびTDC信号をECU2に出力する。ECU2は、このCRK信号に基づき、エンジン3のエンジン回転数NEを算出する。TDC信号は、エンジン3の各気筒におけるピストン(図示せず)の吸気行程開始時の上死点付近の所定タイミングで発生し、したがって、4気筒タイプの場合には、クランクシャフトが180度回転するごとに、1パルスがECU2に出力される。
【0012】また、エンジン3の吸気管6には、スロットル弁7が設けられており、このスロットル弁7にスロットル弁開度センサ8が取り付けられている。スロットル弁開度センサ8は、スロットル弁7の開度(スロットル弁開度)THを検出し、その検出信号をECU2に送る。吸気管6のスロットル弁7とエンジン3との間には、インジェクタ9、吸気圧センサ10および吸気温センサ11が取り付けられている。インジェクタ9は、その燃料噴射時間TOUTがECU2からの駆動信号によって制御されることで、燃料を吸気管6内に噴射し、これにより、燃料供給量が制御される。吸気圧センサ10は、吸気管6内の絶対圧(吸気管内絶対圧)PBAを検出し、その検出信号をECU2に送る。また、吸気温センサ11は、サーミスタなどで構成されており、吸気管6内の吸気温TAを検出し、その検出信号をECU2に送る。
【0013】さらに、エンジン3の排気管12には、排気温センサ13が取り付けられている。排気温センサ13は、サーミスタなどで構成されており、排気管12内の排気ガスの温度TGASを検出し、その検出信号をECU2に送る。また、ECU2には、エンジン3を搭載した車両の走行速度(車速)VPを検出する車速センサ14が電気的に接続され、その検出信号が送られる。
【0014】ECU2は、I/Oインターフェース、CPU、RAMおよびROMなどからなるマイクロコンピュータで構成されており、RAMは、バックアップ電源などにより、記憶したデータをエンジン3の停止時にも保持するバックアップRAMを備えている。上述した各種センサからの検出信号はそれぞれ、I/OインターフェースでA/D変換や整形がなされた後、CPUに入力される。CPUは、上記各種センサからの検出信号に応じ、ROMに記憶された制御プログラムなどに従って、エンジン3の運転状態を判別し、その結果に応じてエンジン3を制御するとともに、エンジン水温センサ4の故障を判定する。
【0015】図2は、エンジン水温センサ4の故障判定処理を示すフローチャートである。本処理は、例えば、クランク角センサ5からのTDC信号がECU2に入力されるのに同期して実行される。なお、以下では、説明の便宜上、エンジン3の始動後、その運転の停止から次の運転という、エンジン3の運転の流れに沿って説明する。
【0016】本処理ではまず、ステップ1(「S1」と図示する。以下同じ)において、エンジン3の運転が始動モードであるか否かを判別する。この判別は、例えば、エンジン回転数NEに基づいて行われ、エンジン3がクランキング中である場合など、エンジン回転数NEが所定回転数(例えば400rpm)以下であるときに、始動モードであると判別する。
【0017】このステップ1の判別結果がNO、すなわちエンジン3の始動が終了し、通常の運転に移行したときには、運転中のエンジン3が停止してから始動するまでの停止時間を計測するために、アップカウントタイマであるエンジン停止時間計測タイマのタイマ値TENGOFFをリセットする(ステップ2)。そして、続くステップ3において、故障判定許可フラグF_STICKが「1」であるか否かを判別する。この故障判定許可フラグF_STICKは、後述するように、エンジン水温センサ4の故障判定の実行条件が成立したときに「1」にセットされるものである。
【0018】ステップ3の判別結果がNO、すなわち故障判定の実行条件が成立していないときには、運転時間積算値TENGON、走行距離積算値DISTANCEおよび燃料噴射時間積算値TOUTX(燃料供給量の積算値)にそれぞれ、本処理の前回実行時から今回実行時までの変化分を加算する(ステップ4、5および6)。これらの運転時間積算値TENGON、走行距離積算値DISTANCEおよび燃料噴射時間積算値TOUTXは、エンジン3の始動時からの運転の進行度合を表す運転進行パラメータとして演算される。具体的には、運転時間積算値TENGONは、エンジン3の始動終了後の運転時間を積算したものであり、また走行距離積算値DISTANCEは、エンジン3の始動終了後の車両の走行距離を、車速センサ14で検出された車速VPなどに基づいて積算したものである。さらに、燃料噴射時間積算値TOUTXは、エンジン3の始動終了後の燃料噴射時間TOUTを積算したものである。
【0019】次に、上記の演算結果に基づき、運転時間積算値TENGONが、その所定のしきい値#TENGONJUD(例えば20分)を上回っているか否か(ステップ7)、走行距離積算値DISTANCEが、その所定のしきい値#DISTANCEJUD(例えば5マイル)を上回っているか否か(ステップ8)、および燃料噴射時間積算値TOUTXが、その所定のしきい値#TOUTXJUD(例えば50秒)を上回っているか否か(ステップ9)を判別する。これらの判別は、エンジン3が十分に運転されることで、エンジン水温TWが十分に高い状態にあるか否かを判別するものである。
【0020】これらのステップ7、8および9の判別結果のいずれか1つがNO、すなわち運転時間積算値TENGON、走行距離積算値DISTANCEおよび燃料噴射時間積算値TOUTXのいずれかが、それぞれの所定のしきい値以下であるときには、エンジン3の運転が不十分であることで、エンジン水温TWが十分に高い状態になっていない可能性がある。したがって、この場合には、エンジン水温センサ4の故障判定を適正に行えないおそれがあるので、故障判定のための運転条件が成立していないとして、運転条件成立フラグF_TWSTKGOを「0」にセットし(ステップ10)、本プログラムを終了する。一方、ステップ7、8および9の判別結果のすべてがYES、すなわち運転時間積算値TENGON、走行距離積算値DISTANCEおよび燃料噴射時間積算値TOUTXのいずれもが、それぞれの所定のしきい値を上回っているときには、エンジン3の運転が十分であり、エンジン水温TWが十分に高い状態になっていて、エンジン水温センサ4の故障判定を適正に行えるとして、運転条件成立フラグF_TWSTKGOを「1」にセットする(ステップ11)とともに、エンジン水温センサ4によって検出されたそのときのエンジン水温TWを、エンジン停止時水温TWOFFとして設定し(ステップ12)、本プログラムを終了する。
【0021】以上のステップ1〜12は、エンジン3の始動の終了後、エンジン3が停止するまで繰り返される。なお、運転条件成立フラグF_TWSTKGOおよびエンジン停止時水温TWOFFについては、ECU2のバックアップRAMに記憶されることで、エンジン3の停止後もそれぞれのデータが保持される。
【0022】次に、エンジン3の停止後、再度、エンジン3が始動されると、ステップ1の判別結果がYESとなり、ステップ21に進む。このステップ21では、上記ステップ10あるいはステップ11でセットされた運転条件成立フラグF_TWSTKGOが、「1」であるか否かを判別する。この判別結果がNO、すなわちF_TWSTKGO=0で、故障判定のための運転条件が成立していないときには、始動後における各運転進行パラメータの演算(ステップ4〜6)およびそれらに基づく運転条件の判別(ステップ7〜9)に備えて、運転時間積算値TENGON、走行距離積算値DISTANCEおよび燃料噴射時間積算値TOUTXをそれぞれ、値0に設定することで初期化するとともに(ステップ22、23および24)、エンジン水温センサ4の故障判定を実行すべきでないとして、故障判定許可フラグF_STICKを「0」にセットし(ステップ25)、本プログラムを終了する。
【0023】一方、上記ステップ21の判別結果がYES、すなわちF_TWSTKGO=1で、故障判定のための運転条件が成立しているときには、ステップ26に進み、エンジン停止時間計測タイマのタイマ値TENGOFFが、その所定時間#TENGOFFJUD(例えば8時間)を上回っているか否かを判別する。すなわち、この判別では、エンジン3の前回の運転の停止時から今回の運転の始動時までの時間であるエンジン3の停止時間が、上記所定時間を上回っているか否かが判別される。この判別結果がNO、すなわちTENGOFF≦#TENGOFFJUDであるときには、エンジン3の停止時間が短いために、エンジン水温TWがエンジン3の停止中に十分に低下しておらず、エンジン水温センサ4の故障判定を適切に行えないおそれがあるとして、運転条件成立フラグF_TWSTKGOを「0」にセットし(ステップ27)、上述したステップ22〜25を実行して本プログラムを終了する。なお、このステップ27で運転条件成立フラグF_TWSTKGOが「0」にセットされることにより、エンジン3の以降の始動中は、ステップ21の判別結果が常にNOとなり、ステップ22〜25が繰り返される。
【0024】上記ステップ26の判別結果がYES、すなわちエンジン3の停止時間が、所定時間#TENGOFFJUDを上回っているときには、エンジン3の停止時間が十分に長いことにより、その間、エンジン水温TWが十分に低下しており、エンジン水温センサ4の故障判定を適正に実行可能であるとして、カウントダウンタイマである故障判定ディレイタイマのタイマ値TTWSTKを所定時間#TMTWSTK(例えば1秒)に設定するとともに(ステップ28)、故障判定許可フラグF_STICKを「1」にセットし(ステップ29)、本プログラムを終了する。
【0025】その後、エンジン3の始動が終了すると、ステップ1の判別結果がNOとなり、上述したステップ2以降の処理が実行される。すなわち、始動中に故障判定許可フラグF_STICKが「0」にセットされたとき(ステップ25)には、上述したように、ステップ3の判別結果がNOとなることで、上記ステップ22〜24で初期化された運転時間積算値TENGONや走行距離積算値DISTANCEなどの演算が最初から行われるとともに(ステップ4〜6)、それらに基づく運転条件の判別が行われる(ステップ7〜9)。
【0026】一方、ステップ3の判別結果がYES、すなわち上記ステップ29で故障判定許可フラグF_STICKが「1」にセットされ、故障判定の実行条件が成立しているときには、ステップ31に進む。このステップ31では、上記ステップ28で設定されたタイマ値TTWSTKが0であるか否かを判別し、その判別結果がNOのときには、そのまま本プログラムを終了する。一方、ステップ31の判別結果がYES、すなわちエンジン3の始動後、所定時間#TMTWSTKが経過したときには、エンジン3の始動が確実に終了しているとして、ステップ32に進む。
【0027】このステップ32では、前回運転のエンジン停止時水温TWOFFと、今回運転のそのときのエンジン水温TWとの偏差(TWOFF−TW)が、所定の判定値#TWSTKJUD(例えば3℃)を上回っているか否かを判別する。この判別結果がYES、すなわち上記偏差(TWOFF−TW)が判定値#TWSTKJUDを上回っているときには、その偏差が十分に大きいことで、エンジン水温センサ4が正常であると判定し、エンジン水温センサ正常フラグF_OKTWを「1」にセットする(ステップ33)。一方、上記ステップ32の判別結果がNO、すなわち上記偏差(TWOFF−TW)が、判定値#TWSTKJUD以下であるときには、本来、大きくなるべき偏差が大きくないことで、エンジン水温センサ4が故障していると判定し、エンジン水温センサ故障フラグF_FSDTWを「1」にセットする(ステップ34)。
【0028】次いで、上記ステップ33または34の後、運転時間積算値TENGON、走行距離積算値DISTANCEおよび燃料噴射時間積算値TOUTXをそれぞれ、値0に初期化するとともに(ステップ35、36および37)、エンジン水温センサ4の故障判定が終了したことを表すために、故障判定許可フラグF_STICKを「0」にセットして(ステップ37)、本プログラムを終了する。このように、故障判定が終了した後は、ステップ38で故障判定許可フラグF_STICKが「0」になることで、それ以降、今回の運転では故障判定は行われない。すなわち、故障判定は1回の運転に対して1回のみ行われる。また、次回以降のループでは、ステップ3の判別結果がNOとなることで、次回の故障判定に備えて、運転時間積算値TENGONや走行距離積算値DISTANCEなどの演算が行われるとともに(ステップ4〜6)、それらに基づく運転条件の判別が行われる(ステップ7〜9)。
【0029】なお、エンジン水温センサ4が故障していると判定されると、その旨を運転者に報知するために、図示しない計器盤に設けられた警告灯を点灯するとともに、フェールセーフ処理が実行される。
【0030】以上詳述したように、本実施形態の故障判定装置によれば、前回の運転でエンジン3が十分に運転されることで、エンジン水温TWが十分に高い状態になるとともに、その運転後、エンジン3が十分な時間、停止されることで、エンジン水温TWが十分に低下していることを条件として、今回の運転の始動時のエンジン水温TWと、前回の運転の停止時のエンジン水温TWOFFとの偏差に基づいて、エンジン水温センサ4の故障判定を実行するので、エンジン3の始動時の環境にかかわらず、エンジン水温センサ4の故障を適正に判定することができる。また、その故障判定を、今回の運転の始動時に行うので、従来と異なり、エンジン水温センサ4の故障を迅速に判定することができる。
【0031】なお、本発明は、説明した上記実施形態に限定されることなく、種々の態様で実施することができる。例えば、実施形態では、前回の運転時に、エンジン3が十分に運転され、エンジン水温TWが十分に高い状態になっているか否かの判別を、運転時間積算値TENGON、走行距離積算値DISTANCEおよび燃料噴射時間積算値TOUTXのいずれもが、それぞれのしきい値を上回ったことを条件として行ったが、本発明は、これに限定されるものではなく、運転時間積算値TENGON、走行距離積算値DISTANCEおよび燃料噴射時間積算値TOUTXの少なくとも1つがそれぞれのしきい値を上回ることを条件とすることも可能である。また、上記運転時間積算値TENGON、走行距離積算値DISTANCEおよび燃料噴射時間積算値TOUTX以外の適当なパラメータを、運転の進行度合を表す運転進行パラメータとすることも可能である。
【0032】また、実施形態では、エンジン水温センサ4を対象として、故障判定を行っているが、本発明は、エンジン3の運転状態に応じて変化する温度を検出する他の温度センサ、例えば吸気温センサ11、排気温センサ13および潤滑油温センサ(図示せず)を対象とし、同様に故障判定を行うことも可能である。
【0033】
【発明の効果】以上詳述したように、本発明の温度センサの故障判定装置は、内燃機関の始動時の環境にかかわらず、温度センサの故障を迅速かつ適正に判定することができるなどの効果を有する。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明の一実施形態による温度センサの故障判定装置およびそれを適用した内燃機関の概略構成を示すブロック図である。
【図2】図1の温度センサの故障判定装置による判定処理を示すフローチャートである。
【符号の説明】
1 故障判定装置
2 ECU(運転進行パラメータ演算手段、温度記憶手段、停止時間計測手段および故障判定手段)
3 内燃機関
4 エンジン水温センサ(温度センサ)
TW エンジン水温
TWOFF エンジン停止時水温
TENGOFF エンジン停止時間計測タイマのタイマ値
F_STICK 故障判定許可フラグ
F_TWSTKGO 運転条件成立フラグ
TENGON 運転時間積算値(運転進行パラメータ)
DISTANCE 走行距離積算値(運転進行パラメータ)
TOUTX 燃料噴射時間積算値(運転進行パラメータ)(燃料供給量の積算値)
#TENGONJUD 運転時間積算値のしきい値
#DISTANCEJUD 走行距離積算値のしきい値
#TOUTXJUD 燃料噴射時間積算値のしきい値
#TENGOFFJUD 停止時間しきい値

【特許請求の範囲】
【請求項1】 内燃機関の運転状態に応じて変化する温度を検出する温度センサの故障判定装置であって、前記内燃機関の始動時からの運転の進行度合を表す運転進行パラメータを演算する運転進行パラメータ演算手段と、前記内燃機関が停止された時に前記温度センサによって検出された温度を記憶する温度記憶手段と、前記内燃機関が停止してから始動するまでの停止時間を計測する停止時間計測手段と、前記内燃機関の前回の運転時に演算された前記運転進行パラメータが所定値を上回り、且つ、前記内燃機関の今回の運転の始動時までの前記停止時間が所定時間を上回った場合において、前記内燃機関の今回の運転の始動時に前記温度センサによって検出された温度と、前記温度記憶手段に記憶された温度との偏差が、所定の判定値以下のときに、前記温度センサが故障していると判定する故障判定手段と、を備えていることを特徴とする温度センサの故障判定装置。
【請求項2】 前記運転進行パラメータは、始動時からの、前記内燃機関の運転時間の積算値、当該内燃機関を搭載した車両の走行距離の積算値、および当該内燃機関への燃料供給量の積算値の少なくとも1つであることを特徴とする請求項1に記載の温度センサの故障判定装置。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2003−20988(P2003−20988A)
【公開日】平成15年1月24日(2003.1.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2001−204527(P2001−204527)
【出願日】平成13年7月5日(2001.7.5)
【出願人】(000005326)本田技研工業株式会社 (23,863)
【Fターム(参考)】