説明

温度履歴表示材

【課題】簡単な構成で、製造後、使用状態に至るまでの管理が容易で、熱履歴を偽造しにくい、温度履歴表示材を提供する。
【解決手段】光透過性の密封容器と、密封容器内に封入した物質と、物質に溶解または分散させたフォトクロミック材とを含む温度履歴表示材である。温度履歴表示材を物質の凝固点以下に置くと、物質が凝固する。物質が凝固した状態で、光を用いて、フォトクロミック材を発色させる。この温度履歴表示材が管理温度以上の温度に曝された際には、凝固した物質が溶解して、発色のパターンが失われる。発色のパターンに特徴をつけておけば、再度冷却しても、同一のパターンは得られない。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、新規な温度履歴表示材に関する。
【背景技術】
【0002】
冷凍技術や冷蔵技術の発達により、多くの食品や医薬品が長期間にわたり、品質や安全性を保つことができるようになった。また、低温輸送技術の発達と普及により、市場にも様々な冷凍食品・冷蔵食品が出回るようになってきている。このため、流通過程あるいは貯蔵過程における温度管理が重要である。特に食品の場合、停電などの不慮の出来事で、所定の温度管理ができなくなると、細菌が繁殖し、腐敗・変質などの原因となる。また、物品が国際的に流通されるようになっている現在、食品物流業界では、赤道下の船舶輸送時における商品の温度管理(安全性)が問題となっている。物品が、一度でも管理温度以上の温度に曝された否かは、物品を見ただけではわかりにくい。このため、低温保存食品等の個々の物品に、温度インジケータや感温色材などを貼付して、物品の温度管理を行うことが試みられている。
【0003】
物品が、一度でも管理温度以上の温度に曝されたことを容易に判断するためには、物品が、管理温度以上の温度に曝された際に変色し、その状態がその後長時間にわたって保持されることが望ましい。すなわち、変色が不可逆型であることが望ましい。低温で不可逆に着色する温度履歴表示体として、例えば、発色剤層と検温剤層と顕色剤層とを備える温度履歴表示体が開発されている(例えば、特許文献1参照)。また、支持体上に染料前駆体および、該染料前駆体と加熱時反応して着色体を形成する顕色剤を主成分として含有する感熱記録層、顔料とバインダーを主成分とする浸透層、融点が0℃以上の感温物質を内包したマイクロカプセル含有層、保護層を順次積層した示温ラベルが開発されている(例えば、特許文献2参照)
【特許文献1】特開平10−287863号公報
【特許文献2】特開2004−184920号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし、これらの文献に記載の温度履歴表示体や示温ラベルは、特定の融点を有する検温剤、感温物質を用いる。このため、温度履歴表示体や示温ラベルの製造後、使用状態に至るまでの輸送・保管時に、所定の温度以下に置く必要がある。また、一旦発色すると、不可逆なため実際に使用することができなくなる。このため、これらの温度履歴表示体や示温ラベルには、温度変化機構を作動可能にするスイッチオン機構を備えておく必要がある。
【0005】
このように、従来の温度履歴表示体や示温ラベルは、構造が複雑であり、使用に際し、温度変化機構を作動可能にするための前処理をする必要がある。また、ラベル等を貼付すると、物理的な作用によりはがれるおそれを生じる。
【0006】
すなわち、本発明は、上記問題に鑑みなされたものであり、その目的は、簡単な構成で、製造後、使用状態に至るまでの管理が容易な温度履歴表示材を提供することにある。
【0007】
また、本発明は、簡単な構成で、熱履歴を偽造しにくい、温度履歴表示材を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、上記課題を鋭意検討した結果、密封容器と、密封容器内に封入した物質と、物質に溶解または分散させたフォトクロミック材とを含む温度履歴表示材とすることで、本発明を完成した。
【0009】
また、本発明の温度履歴表示材は、前記密封容器の少なくとも一部が、光透過性であるとよい。
【0010】
本発明の温度履歴表示材を物質の凝固点以下に置くと、物質が凝固する。物質が凝固した状態で、光を用いて、フォトクロミック材を発色させる。この温度履歴表示材が管理温度以上の温度に曝された際には、凝固した物質が溶解して、発色のパターンが失われる。発色のパターンに特徴をつけておけば、再度冷却しても、同一のパターンは得られない。この結果、簡単な構成で温度履歴を表示することができる。また、凝固させた後で、発色させるので、凝固させるまでの温度履歴を反映しない。さらに、フォトクロミック材を用いるので、使用前に発色していても、例えば可視光を照射することで、脱色することができる。
【0011】
また、本発明の温度履歴表示材では、前記フォトクロミック材は、照射する波長により異なる色を発色する、フォトクロミック材であってもよく、照射する光により不可逆に発色する、フォトクロミック材であってもよい。あるいは、前記密封容器表面には、接着剤層が設けられていてもよく、前記密封容器表面の少なくとも一部に、紫外線感光層が設けられていてもよい。
【0012】
このような構成とすることで、温度履歴の偽造を容易に防止できる。
【発明の効果】
【0013】
本発明の温度履歴表示材は、密封容器と、密封容器内に封入した物質と、物質に溶解または分散させたフォトクロミック材とを含むので、簡単な構成で、製造後、使用状態に至るまでの管理が容易な温度履歴表示材を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
本発明の温度履歴表示材は、密封容器と、密封容器内に封入した物質と、物質に溶解または分散させたフォトクロミック材とを含む。
【0015】
[密封容器]
本発明に用いる密封容器は、物質とフォトクロミック材とを封入できるものであれば、形状、材料等は特に制限されない。用途に応じ適時選択すればよい。具体的には、フィルムを貼り合わせた袋状容器、可撓性プラスチック容器またはガラスや硬質プラスチックなどの成形容器などが挙げられる。密封容器の大きさは、特に定めるものではないが、封入物を視覚的に判別できる程度であればよい。
【0016】
密封容器は、その少なくとも一部が、光透過性であるとよい。フォトクロミック材を発色する場合、例えばレーザ光や紫外線ランプなどの光を照射する。そのためには、光透過性である必要がある。また、密封容器は、その少なくとも一部が、透明または半透明である必要がある。
【0017】
[物質]
本発明の温度履歴表示材に用いることのできる物質としては、フォトクロミック材を溶解または分散できる物質であればよい。このような物質としては、低分子化合物であってもよく、重合体であってもよい。
【0018】
低分子化合物としては、所望の管理温度近傍に融点を有するものを適宜用いることができる。例えば、水(融点:0℃)、炭化水素化合物、アルコール化合物、ハロゲン化炭化水素化合物、フェノール化合物、エーテル化合物、ケトン系化合物、脂肪酸、エステル化合物、窒素化合物、イオウ化合物、2つ以上の官能基を持つ化合物などが挙げられる。これらの物質は、単独で用いてもよく、2種以上の物質を混合して所望の管理温度近傍に融点を有するものとして用いてもよい。
【0019】
炭化水素化合物としては、ペンタン(融点:−130℃)、2−メチルブタン(融点:−160℃)、ヘキサン(融点:−95.3℃)、2−メチルペンタン(融点:−154℃)、2,2−ジメチルブタン(融点:−100℃)、2,3−ジメチルブタン(融点:−128.4℃)、ヘプタン(融点:−91℃)、オクタン(融点:−56.8℃)、イソオクタン(融点:−107℃)、ノナン(融点:−53.5℃)、2,5,5−トリメチルヘキサン(融点:−105.8℃)、デカン(融点:−30℃)、ドデカン(融点:−9.5℃)、1−ヘプテン(融点:119℃)、ドコサン(融点:43℃〜46℃)などの飽和不飽和の脂肪族炭化水素、ベンゼン(融点:5.5℃)、トルエン(融点:−95℃)、o−キシレン(融点:−25℃)、m−キシレン(融点:−48℃)、p−キシレン(融点:13℃)、エチルベンゼン(融点:−95℃)、クメン(融点:−96℃)、メシチレン(融点:−45℃)、ナフタレン(融点:80℃)、テトラリン(融点:−35.7℃)、ブチルベンゼン(n−体:融点:−88℃、sec−体:融点:−75℃、tert−体:融点:−58℃)、p−シメン(融点:−68℃)、シクロヘキシルベンゼン(融点:7℃)、ジエチルベンゼン(o−体:融点:−31℃、m−体:融点:−84℃、p−体:融点:−43℃)、ペンチルベンゼン(融点:−75℃)、ジペンチルベンゼン(融点:−75℃)、ドデシルベンゼン(融点:−7〜3℃)、ビフェニル(融点:69℃)、スチレン(融点:−31℃)、ビベンジル(融点:50℃〜54℃)、などの芳香族炭化水素、シクロペンタン(融点:−94℃)、メチルシクロペンタン(融点:−142.5℃)、シクロヘキサン(融点:6.5℃)、メチルシクロヘキサン(融点:−127℃)、エチルシクロヘキサン(融点:−111.3℃)、ビシクロヘキシル(シス−シス体:融点:−2.25℃)、シクロヘキセン(融点:−103.5℃)、α−ピネン(融点:−64℃)、ジペンテン(融点:−96.6℃)、デカリン(シス体:融点:−43℃、トランス体:融点:−30.4℃)などの脂環式炭化水素などが挙げられる。
【0020】
アルコール化合物としては、メタノール(融点:−97.5℃)、エタノール(融点:−114.5℃)、1−プロパノール(融点:−126.2℃)、2−プロパノール(融点:−89.5℃)、1−ブタノール(融点:−89.8℃)、2−ブタノール(融点:−114.7℃)、イソブタノール(融点:−108℃)、tert−ブタノール(融点:−26℃)、1−ペンタノール(融点:−78.2℃)、3−メチル−1−ブタノール(融点:−117.2℃)、2−メチル−2−ブタノール(融点:−12℃)、2,2−ジメチル−1−プロパノール(凝固点:53℃)、1−ヘキサノール(凝固点:−44.6℃)、4−メチル−2−ペンタノール(凝固点:−90℃)、2−エチル−1−ブタノール(凝固点:−114.4℃)、1−ヘプタノール(凝固点:−35℃)、3−ヘプタノール(凝固点:−70℃)、1−オクタノール(凝固点:−15.2℃)、2−オクタノール(融点:−38℃)、2−エチル−1−ヘキサノール(凝固点:−70℃)、1−ノナール(凝固点:−5℃)、3,5,5−トリメチル−1−ヘキサノール(融点:−70℃以下)、1−デカノール(凝固点:6.9℃)、1−ウンデカノール(凝固点:19℃)、1−ドデカノール(凝固点:24℃)、アリルアルコール(融点:−129℃)、2−プロピン−1−オール(凝固点:−51.8℃)、ベンジルアルコール(融点:−15℃)、シクロヘキサノール(融点:25℃)、1−メチルシクロヘキサノール(融点:20〜22℃)、2−メチルシクロヘキサノール(融点:−9℃(シス)、−20.5℃(トランス))、α−テルピネオール(融点:36℃)、1,2−エタンジオール(融点:−12.6℃)、1,2−プロパンジオール(流動点:−59.5℃)、1,3−プロパンジオール(融点:−32℃)、1,3−ブタンジオール(融点:−50℃以下)、1,4−ブタンジオール(融点:20℃)、2,3−ブタンジオール(融点:34.2〜34.4℃)、1,5−ペンタンジオール(融点:−15.6℃)、2−ブテン−1,4−ジオール(融点:4℃、11.8℃)、2−メチル−2,4−ペンタンジオール(融点:−50℃以下)、2−エチル−1,3−ヘキサンジオール(融点:−40℃)、3−ヘキサデシロキシ−1,2−プロパンジオール(融点:64℃)、グリセリン(融点:18℃)、2−エチル−2−(ヒドロキシメチル)−1,3−プロパンジオール(融点:58.5℃)、2−(トリフルオロメチル)フェネチルアルコール(融点:−3℃〜−2℃)、などが挙げられる。
【0021】
ハロゲン化炭化水素としては、ジクロロベンゼン(o−体:融点:−17℃、m−体:融点:−25℃、p−体:融点:53℃)、1,2,4−トリクロロベンゼン(融点:17℃)、1−クロロナフタレン(融点:−2.3℃)、1,1,2,2−テトラブロモエタン(融点:0.1℃)、1,2−ジブロモエタン(融点:10℃)、o−ジブロモベンゼン(融点:5℃)、1−ブロモナフタレン(融点:6℃)などが挙げられる。
【0022】
フェノール類としては、フェノール(融点:41℃)、クレゾール(o−体:融点:31℃、m−体:融点:12℃、p−体:融点:35℃)、キシレノール類(2,3−体:融点:72〜75℃、2,4−体:融点:24.5〜26℃、2,5−体:融点74.5〜76℃、2,6−体:融点:45.5〜48℃、3,4−体:融点:62〜65℃、3,5−体:融点:63〜66℃)、ブチルフェノール(融点:−7℃)などが挙げられる。
【0023】
エーテル化合物としては、フェネトール(融点:−30.℃〜−28.6℃)、ジフェニルエーテル(融点:28℃)、ジベンジルエーテル(融点:4〜5℃)、ベラトロール(融点:22.5℃)、ジオキサン(融点:11.8℃)、トリオキサン(融点:64℃)、シネオール(融点:1.3℃)、クラウンエーテル(融点:26℃以下〜209℃)などが挙げられる。
【0024】
ケトン系化合物としては、アセトニルアセトン(融点:−9℃)、ホロン(融点:28℃)、イソホロン(融点:−8℃)、メチルシクロヘキサノン(融点:−20℃)、アセトフェノン(融点:20℃)、カンファー(融点:178.8℃)などが挙げられる。
【0025】
脂肪酸としては、ギ酸(融点:8.3℃)、酢酸(融点:16.7℃)、プロピオン酸(融点:−21℃)、酪酸(融点:−5.2℃)、イソ酪酸(融点:−46℃)、ピバル酸(融点:35℃)、カプロン酸(融点:−4℃)、カプリル酸(融点:16.5℃)、オレイン酸(融点:13.4℃)などが挙げられる。
【0026】
エステル化合物としては、ステアリン酸エステル(ステアリン酸エチル(融点:33℃〜35℃)、ステアリン酸ブチル(融点:27.5℃)、ステアリン酸ペンチル(融点:30℃))、安息香酸エステル(安息香酸メチル(融点:−12.5℃)、安息香酸エチル(融点:−35℃)、安息香酸プロピル(融点:−51.6℃)、安息香酸ブチル(融点:−22.4℃)、安息香酸ベンジル(融点:21℃))、桂皮酸エチル(融点:12℃)、シュウ酸ジペンチル(融点:−9℃)、マレイン酸エステル(マレイン酸ジメチル(融点:−19℃)、マレイン酸ジエチル(融点:−8.8℃)、酒石酸ジブチル(融点:21℃)、クエン酸トリブチル(融点:−20℃)、セバシン酸ジブチル(融点:1℃)、フタル酸ジメチル(融点:5.5℃)、フタル酸ジオクチル(融点:−25℃)、ラウリン酸モノエステル(融点:27.5℃)、パルミチン酸モノエステル(融点:47.5℃〜51.5℃)、パルミチン酸エチル(融点:20℃〜25℃)、パルミチン酸メチル(融点:25℃〜31℃))、ステアリン酸モノエステル(融点:56℃〜58.5℃)、ステアリン酸エチル(融点:33℃〜35℃)、オレイン酸モノエステル(融点:1℃)、トリデカン酸メチル(融点:5.5℃)、ミリスチン酸エチル(融点:10℃〜13℃)、ギ酸ジエステル(融点:−10℃)、ラウリン酸ジエステル(融点:49℃〜54℃)、ミリスチン酸ジエステル(融点:63℃〜64℃)、パルミチン酸ジエステル(融点:65℃〜72℃)、ステアリン酸ジエステル(融点:73℃〜79℃)、炭酸エチレン(融点:36.4℃)、リン酸トリブチル(融点:71℃〜75℃)、リン酸トリフェニル(融点:49℃〜51℃)、リン酸トリクレシル(o−体:融点:90℃〜91℃、m−体:融点:25℃〜26℃、p−体:融点:77.5℃〜78℃)などが挙げられる。
【0027】
窒素化合物としては、ニトロベンゼン(融点:5.76℃)、スクシノニトリル(融点:57.9℃)、ベンゾニトリル(融点:−12.75℃)、アニリン(融点:−6℃)、N,N−ジメチルアニリン(融点:2.0℃)、N,N−ジエチルアニリン(融点:−21.3℃、−34,4℃)、o−トルイジン(融点:−24.4℃(α型)、−16.3℃(β型))、p−トルイジン(融点:43.7℃〜45℃)、シクロヘキシルアミン(融点:−17.7℃)、ジシクロヘキシルアミン(融点:−0.1℃)、ピロール(融点:−24℃)、ピペリジン(融点:−9℃)、β−ピコリン(融点:−17.7℃)、γ−ピコリン(融点:4.3℃)、2,6−ルチジン(融点:−6.16℃〜−5.9℃)、キノリン(融点:−15.6℃)、イソキノリン(融点:24.6℃〜26.5℃)、エチレンジアミン(融点:10.65℃〜11.3℃)、アセトアミド(融点:69.5℃)、N−メチルアセトアミド(融点:30.55℃)、2−ピロリドン(融点:25℃)、ε−カプロラクタム(融点:69.2℃)、カルバミド酸メチル(融点:54.2℃)、カルバミド酸エチル(融点:48.2℃)などが挙げられる。
【0028】
イオウ化合物としては、チオフェン(融点:−38.3℃)、ジメチルスルホキシド(融点:18.5℃)、スルホラン(融点:28.5℃)、1,3−プロパンスルトン(融点:31℃)などが挙げられる。
【0029】
2つ以上の官能基を持つ化合物としては、2−フェノキシエタノール(融点:14℃)、フルフリルアルコール(融点:−29℃(準安定状態)、−14.6℃(安定状態))、ジエチレングリコール(融点:−10.45℃〜−6.5℃)、トリエチレングリコール(融点:−7.2℃〜−4.3℃)、ポリエチレングリコール(融点:−15℃〜63℃)、2−アミノエタノール(融点:10.5℃)、ジエタノールアミン(融点:28℃)、トリエタノールアミン(融点:21.5℃)、トリイソプロパノールアミン(融点:46℃、58℃)、2,2’−チオジエタノール(融点:−10℃)、o−ニトロアニソール(融点:9.4℃)、サリチル酸メチル(融点:−8.6℃)、2−フェノキシエチルアセテート(融点:−2.7℃)などが挙げられる。
【0030】
また、上記溶媒に、食塩などの公知の凝固点降下剤を添加して、上記溶媒の融点を調整してもよい。
【0031】
使用できる重合体としては、例えば、ポリオキシメチレン(融点:184℃)、ポリエチレンオキシド(融点:69℃)、ポリテトラメチレンオキシド(融点:57℃)、ポリ−ε−カプロラクトン(融点:64℃)などが挙げられる。あるいは、液晶ポリマーの相転移を用いることもできる。例えば、エチレンテレフタレートとパラヒドロキシ安息香酸との重縮合体、フェノールおよびフタル酸とパラヒドロキシ安息香酸との重縮合体、2,6−ヒドロキシナフトエ酸とパラヒドロキシ安息香酸との重縮合体などの液晶ポリマーを用いる。
【0032】
[フォトクロミック材]
本発明で使用できるフォトクロミック材としては、公知のフォトクロミック材が挙げられる。フォトクロミック材とは、光により可逆的に吸収波長が変化しうる機能を有する化合物をいう。フォトクロミック材の発色団はいかなるものであってもよい。例えば、フルギド類、ジアリールエテン類、アゾベンゼン類、スピロピラン類、スピロオキサジン類、シクロファン類、スチルベン系類、ジヒドロピレン類、チオインジゴ類、ビピリジン類、アジリジン類、芳香族多環類、アリチリデンアニリン類、キサンテン類などが挙げられる。
【0033】
本発明の温度履歴表示材に使用する上記フォトクロミック材の種類は、特に限定されず、公知または未知のフォトクロミック材から適宜選択して使用すればよい。好ましくは、使用温度において一定期間(例えば半年など)熱安定性を維持できるフォトクロミック材である。
【0034】
フォトクロミック材は、紫外線などを照射して発色する。本発明の温度履歴表示材に使用する上記フォトクロミック材の発色光は特に制限はない。好ましくは、温度履歴表示材の外部から観察する際に、色の変化が容易に把握できるものを選択して使用すればよい。
【0035】
また、フォトクロミック材は、単独で用いてもよく、2種以上を混合して用いてもよい。特に、照射する光の波長によって発色が異なるフォトクロミック材を混合して用いるとよい。
【0036】
以下に、ジアリールエテン類を用いて、本発明の温度履歴表示材に使用できるフォトクロミック材を例示するが、これらに限定されるものではない。
【0037】
(1)赤色を示すフォトクロミック材
【化1】

【0038】
青色を示すフォトクロミック材
【化2】

【0039】
黄色を示すフォトクロミック材
【化3】

【0040】
緑色を示すフォトクロミック材
【化4】

【0041】
あるいは、以下に示すように、光を照射することで、不可逆に発色するフォトクロミック材を用いてもよい。
【化5】

【0042】
封入物は、上記物質にフォトクロミック材を溶解または分散させて得る。フォトクロミック材の物質への添加量は、フォトクロミック材の色変化が可視で把握できる程度であればよい。例えば、1mg/mL〜4mg/mL程度である。さらに、フォトクロミック材をマイクロカプセルなどの封入材に封入したものを、物質中に分散させたものであってもよい。
【0043】
また、必要に応じて、グリセリン脂肪酸エステル、ショ糖脂肪酸エステル、ソルビタン脂肪酸エステル、ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステル、プロピレングリコール脂肪酸エステル又はレシチンなどの界面活性剤を溶媒に添加したものを用いてもよい。界面活性剤を添加することで、例えば水に不溶なフォトクロミック材であっても、水に溶解または分散可能となる。
【0044】
本発明の温度履歴表示材は、通常、常温下で保存・輸送などが可能である。例えば、冷凍食品の低温補償材として用いる場合には、0℃以下の融点を持つ物質を使用し、融点以下の温度で物質を凝固させる。物質を凝固させた後で、レーザや紫外線ランプなどを用いて、紫外線を照射し、フォトクロミック材を発色させる。この場合に、フォトマスクなどを用い、日付、模様などのパターンを付けると好ましい。この温度履歴表示材は、例えば、冷凍食品の個包装の中に入れる、あるいは個包装が複数個入れられた箱内などに入れて、流通させる。冷凍食品が管理温度を超えると、溶媒が溶解して発色状態が変わる。これにより、冷凍食品が管理温度を超えたことが容易に判断できる。特に、パターンが付けられている場合は、一旦管理温度を超えて、再度管理温度以下に置かれた場合には、パターンが崩れる。これにより、一旦管理温度を超えて、再度管理温度以下に置かれたことがわかる。
【0045】
また、フォトクロミック材を発色した後の温度履歴表示材は、光を遮蔽した状態に置くことが好ましい。これにより、付したパターンが破壊されることを防止できる。通常は、光を遮蔽できる包装材の中に入れて流通すればよい。さらに、光を遮蔽できる袋、容器などの中に入れる、光遮蔽性のシール材で覆うなどにより、光の照射下であっても、本発明の温度履歴表示材を有効に使用することができる。
【0046】
また、融点の異なる物質を用いた複数の温度履歴表示材を用いてもよい。これにより、管理温度を超えた場合に、その間の時間と温度履歴を評価することができる。
【0047】
本発明の温度履歴表示材は、さらに以下のような態様で使用することで、温度履歴の詐称を容易に防ぐことができる。
【0048】
(1)例えば、上記した照射する光の波長によって発色が異なるフォトクロミック材を複数種混合して用いる。パターンを付ける際に照射波長を変えてパターン化することができる。例えば、同一の温度履歴表示材に色彩や発色濃度が異なる複数のバーコードを付すなどである。これにより、一旦パターンが失われた後に同一のパターンを作るのが困難となる。
【0049】
(2)上記した光を照射することで不可逆に発色するフォトクロミック材を用いてもよい。これにより、一旦付したパターンが管理温度以上の温度に曝されて破壊されると、温度履歴表示材全体が、先に発色したパターンの色で薄く発色する。このため、再度同一のパターンを付しても、パターン以外の場所も薄く発色している。これにより、再度パターンを付したことを容易に判断できる。
【0050】
(3)図1は、本発明の温度履歴表示材を温度履歴の詐称を防止するために使用する一例を説明する図である。図1の例では、第1の温度履歴表示材1には、あるパターン(図1の例では、「A」)を付し、第2の温度履歴表示材2には、別のパターン(図1の例では、「B」)を付す。この第1の温度履歴表示材1と第2の温度履歴表示材2とを接着層3を介して接着する。接着層3は、光透過性の材料を用いる。接着層3は、あらかじめ温度表示材上に設けていてもよく、接着時に設けてもよい。この温度履歴表示材が管理温度以上の状態に置かれてパターンが失われた場合に、再度パターンを形成すると、第1の温度履歴表示材1と第2の温度履歴表示材2とのパターンが同一になる。このため温度履歴の詐称を有効に防止できる。
【0051】
なお、図1の例では、第1の温度履歴表示材1と第2の温度履歴表示材2との両方にパターンを付したが、いずれか一方にパターンを付してもよい。また、第1の温度履歴表示材1と第2の温度履歴表示材2とを接着層3を介して接着する際に、第1の温度履歴表示材1と第2の温度履歴表示材2との間に紫外線感光材を挟持して接着してもよい。
【0052】
(4)図2は、本発明の温度履歴表示材を温度履歴の詐称を防止するために使用する他の例を説明する図である。図2の例では、温度履歴表示材4の光照射面の一部に、感光層5が設けられている。温度履歴表示材4に紫外線を照射してパターンを形成した後に、感光層5を設ける。これにより、この温度履歴表示材が管理温度以上の状態に置かれてパターンが失われた場合に、再度パターンを形成しても、感光層5が感光して、再度パターンを付したことを容易に判断できる。
【実施例】
【0053】
以下、実施例により本発明を説明するが、本発明はかかる実施例に限定されるものではない。
【0054】
(実施例1)
下記化学式に示すフォトクロミック化合物1(2mg)をシクロヘキサン10mLに溶かし、ポリ袋(横7cm、縦10cm)に入れ、溶封した。−10℃の冷凍庫に入れ、凝固させた。そこに、フォトマスクを用いて紫外光照射すると、フォトマスクのパターンが赤色に写し出された。そのパターンは冷凍庫で1ヶ月以上保存しても消えることはなかった。しかし、室温で30分間放置すると、内容物のシクロヘキサンが融けだし均一な溶液となった。再び冷凍庫に保存したが、パターンを形成させたものとは全く違うものであった。
【化6】

【0055】
(実施例2)
下記化学式に示すフォトクロミック化合物2(2mg)をシクロヘキサン10mLに溶かし、ポリ袋(横7cm、縦10cm)に入れ、溶封した。−10℃の冷凍庫に入れ、凝固させた。そこに、フォトマスクを用いて紫外光照射すると、フォトマスクのパターンが青色に写し出された。そのパターンは冷凍庫で1ヶ月以上保存しても消えることはなかった。しかし、室温で30分間放置すると、内容物のシクロヘキサンが融けだし均一な溶液となった。再び冷凍庫に保存したが、パターンを形成させたものとは全く違うものであった。
【化7】

【0056】
(実施例3)
フォトクロミック化合物1(2mg)を少量の界面活性剤(ドデシル硫酸ナトリウム)と水10mLに溶かし、ポリ袋(横7cm、縦10cm)に入れ、溶封した。−10℃の冷凍庫に入れ、凝固させた。そこに、フォトマスクを用いて紫外光照射すると、フォトマスクのパターンが赤色に写し出された。そのパターンは冷凍庫で1ヶ月以上保存しても消えることはなかった。しかし、室温で30分間放置すると、内容物が融けだし均一な溶液となった。再び冷凍庫に保存したが、パターンを形成させたものとは全く違うものであった。
【0057】
(実施例4)
フォトクロミック化合物4(3mg)をシクロヘキサン10mLに溶かし、ポリ袋(横7cm、縦10cm)に入れ、溶封した。−10℃の冷凍庫に入れ、凝固させた。そこに、フォトマスクを用いて紫外光照射すると、フォトマスクのパターンが黄色に写し出された。そのパターンは冷凍庫で1ヶ月以上保存しても消えることはなかった。しかし、室温で30分間放置すると、内容物のシクロヘキサンが融けだし均一な溶液となった。再び冷凍庫に保存したが、パターンを形成させたものとは全く違うものであった。
【化8】

【0058】
(実施例5)
フォトクロミック化合物5(5mg)をシクロヘキサン10mLに溶かし、ポリ袋(横7cm、縦10cm)に入れ、溶封した。−10℃の冷凍庫に入れ、凝固させた。そこに、フォトマスクを用いて紫外光照射すると、フォトマスクのパターンが赤色に写し出された。そのパターンは冷凍庫で1ヶ月以上保存しても消えることはなかった。しかし、室温で30分間放置すると、内容物のシクロヘキサンが融けだし均一な溶液となった。再び冷凍庫に保存したが、パターンを形成させたものとは全く違うものであった。
【化9】

【0059】
(比較例1)
フォトクロミック化合物3(2mg)をシクロヘキサン10mLに溶かし、ポリ袋(横7cm、縦10cm)に入れ、溶封した。−10℃の冷凍庫に入れ、凝固させた。そこに、フォトマスクを用いて紫外光照射したが、フォトマスクのパターンははっきりと写し出されなかった。
【化10】

【図面の簡単な説明】
【0060】
【図1】図1は、本発明の温度履歴表示材を温度履歴の詐称を防止するために使用する一例を説明する図である。
【図2】図2は、本発明の温度履歴表示材を温度履歴の詐称を防止するために使用する別の一例を説明する図である。
【符号の説明】
【0061】
1 第1の温度履歴表示材
2 第2の温度履歴表示材
3 接着層
4 温度履歴表示材
5 感光層





【特許請求の範囲】
【請求項1】
密封容器と、密封容器内に封入した物質と、前記物質に溶解または分散させたフォトクロミック材とを含む温度履歴表示材。
【請求項2】
前記密封容器の少なくとも一部が、光透過性である、請求項1に記載の温度履歴表示材。
【請求項3】
前記フォトクロミック材は、照射する波長により異なる色を発色する、フォトクロミック材である、請求項1または2に記載の温度履歴表示材。
【請求項4】
前記フォトクロミック材は、照射する光により不可逆に発色する、フォトクロミック材である、請求項1または2に記載の温度履歴表示材。
【請求項5】
前記密封容器表面には、接着剤層が設けられている、請求項1ないし4のいずれかに記載の温度履歴表示材。
【請求項6】
前記密封容器表面の少なくとも一部に、紫外線感光層が設けられている、請求項1ないし4のいずれかに記載の温度履歴表示材。






【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2009−128137(P2009−128137A)
【公開日】平成21年6月11日(2009.6.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−302436(P2007−302436)
【出願日】平成19年11月22日(2007.11.22)
【出願人】(506122327)公立大学法人大阪市立大学 (122)
【Fターム(参考)】