説明

温度応答性配列を含むデプシペプチド構造と親水性高分子構造からなるブロック共重合体

【課題】疎水部に温度応答性配列を含むデプシペプチド構造を、親水部に親水性高分子構造を用いて、水または緩衝液中にて転移温度以下ではミセルを形成し、転移温度以上では凝集または相転移する、ブロック共重合体を提供し、水系溶媒中での優れたミセル形成能と加温によって相転移を起こす組成物を提供する。
【解決手段】親水性高分子構造部分と温度応答性配列を含むデプシペプチド構造部分を有するブロック共重合体、および当該ブロック共重合体を含む組成物。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、新規なブロック共重合体に関する。更に詳しくは、温度応答性配列を含むデプシペプチド構造と親水性高分子構造からなるブロック共重合体に関する。本発明のブロック共重合体は温度応答性デプシペプチドの配列と化学修飾を精密に分子設計することができ、水または緩衝液中にて転移温度以下ではミセルを形成し、転移温度以上では凝集または相転移する性質を利用して、生体吸収性組成物、環境分解性組成物、細胞接着剤、マイクロカプセル、バイオマシン、バイオセンサー、検査キット、診断材料、医薬組成物などを構成するのに有用である。
【背景技術】
【0002】
(1)ブロック共重合体および関連材料の現況:
両親媒性ブロック共重合体からなる高分子ミセルを難溶性薬物の溶解性向上や内核からの薬物徐放に適用する研究は1970年後半から始まった(非特許文献1,2)。抗ガン剤であるドキソルビシンを含有した高分子ミセルについて、特に固形ガンへの集積は1980年代後半からはじまった(非特許文献3〜7)。1990年代より、ブロック共重合体はpolymer therapeutics研究の主要材料として、世界中の多くの研究者によって研究が展開されている(非特許文献8,9)。
【0003】
固形ガンを標的とするのに用いられた高分子ミセルには、疎水性抗ガン剤としてアドリアマイシン(別名ドキソルビシン)(非特許文献10)、パクリタキセル(別名タキソール)(非特許文献11)、シスプラチン(非特許文献12)を内包した例が知られている。その他に抗真菌薬であるアンホテリシンB(非特許文献13,14)を内包した例も知られている。これらの高分子ミセルに用いられているのは、親水部にポリエチレングリコールと疎水部にポリアスパラギン酸を有するブロック共重合体である。共重合体は水系ではミセル会合体を形成し、疎水性抗ガン剤を疎水部に内包することができる。
【0004】
ポリアスパラギン酸やポリリジンに代表される、ポリアミノ酸を用いることの利点は、生体適合性や生体内分解性に優れること、カルボキシル基やアミノ基を化学修飾することによってミセル内核の薬物保持や薬物放出が制御できること、の2点である。また、ポリアミノ酸を用いることの欠点は、(a) ポリエチレングリコールとのブロック共重合体の水溶性が低いこと、(b)分子構造が単一モノマーの重合体またはランダム共重合体に限定されること、の2点である。(a)はポリアミノ酸の分子内と分子間での水素結合による分子会合が難溶性の原因である。(b)は従って化学修飾の部位を精密に決めることはできず、ポリアミノ酸のモノマーユニットに対する相対的な置換率や修飾率でしか評価できない。
【0005】
(2)温度応答性高分子および関連材料の現況:
近年、温度を上昇させることで凝集する温度応答性材料の研究に注目が集まっている。これらは水を多く含有する性質を利用して薬物運搬体、創傷被覆材料、人工筋肉、マイクロカプセル、バイオマシン、バイオセンサー、分離膜などへの利用が期待されている。
【0006】
温度応答性のメカニズムは一般的に、疎水性水和した水分子が熱エネルギーによる分子運動の増大で側鎖から遊離して、側鎖間に疎水性相互作用を起こすこと(加熱による温度応答性の凝集現象)、またその逆の過程が起こること(冷却による温度応答性の溶解現象)で、可逆的な温度応答性を引き起こすと考えられている(非特許文献15)。これらの温度応答性相転移は一般性のある現象であり、低分子(例えば、Acryloyl-L-alanine-methyl ester)でも高分子(例えば、Poly(acryloyl-L-alanine-methyl ester))でも観察する
ことができる(奥ら、2000年、未発表データ)。
【0007】
(2a:ビニルポリマー)
温度応答性材料中でも最も研究が盛んであるのは、ポリ(N置換メタクリルアミド)またはポリ(N置換アクリルアミド)というビニルポリマーを主成分とした材料である(特許文献1〜6)。ビニルポリマーは生体内や土壌中での分解ができないためにこれを改良する研究も盛んである。例えばデンプン(特許文献7)、デキストラン(特許文献8)、ポリエチレングリコールやポリプロピレングリコール(特許文献9)との共重合体が用いられているが、生体や土壌で分解されないビニルオリゴマーの残留は依然として問題となりうる。
【0008】
(2b:ペプチド)
生分解性や環境分解性や精密な分子設計に利点を持つ、アミノ酸を用いた温度応答性ペプチドが報告されている。ウリーらは、エラスチンと呼ばれる蛋白質のモデル物質の化学合成やその構造研究によって温度応答性材料を開発している。主に用いられている基本配列は-Gly-Aaa-Gly-Baa-Pro-(配列番号1:Aaaはバリンをはじめとするほとんどのα−アミノ酸、Baaはバリンまたはイソロイシン)である。これらはアミノ酸配列や組成を変化させて幅広い特性を持つ温度応答性材料とすることが可能である。(BaaがVal残基での例として、非特許文献16〜18、BaaがIle残基での例として、非特許文献19)しかしながら、ウリーらは温度応答性ペプチドとポリエチレングリコールのブロック共重合体について合成研究は行っていない。
【0009】
化学合成ではなく、近年発達した遺伝子組み換えによる方法も温度応答性ペプチドの開発に用いられている(特許文献10,11)。これらもウリーらによるエラスチンモデル物質の化学合成やその構造研究がもとになっている(非特許文献18)。遺伝子組み換え法によって生体材料を製造する際の問題点としては菌体を破砕して抽出精製する際の、発熱物質と呼ばれる菌体由来の不純物の混入に注意しなくてはならない。また数グラム単位での合成には、数百リットル以上の大規模な培養設備が必要となる。また別に、遺伝子組み換え法によって製造された温度応答性ペプチドを用いる際の大きな問題点としては、ブロック共重合体を合成する際に、ポリエチレングリコールと結合させる反応が低収率であることが挙げられる。
【0010】
(2c:デプシペプチド)
デプシペプチドを用いた方法によっても近年、温度応答性材料が開発された(特許文献12,13)。デプシペプチドとはアミノ酸やヒドロキシカルボン酸が脱水縮合によって配列した、式(A)に示すような主鎖がエステル結合とアミド結合で連結されたポリマーまたはオリゴマーである。その構造の骨格はアミド結合とエステル結合からできている。
【化1】

これらの温度応答性デプシペプチドの分子構造は例えば、-Gly-Val-Gly-Hmb-Pro-(Hmb =
バリン酸残基)、-Gly-Val-Gly-Hmb-Ala-Pro-、-Gly-Val-Gly-Lac-Pro-(Lac = 乳酸残基)、-Gly-Ile-Gly-Lac-Pro-、-Ala-Ile-Gly-Lac-Pro-、-Gly-Ile-Gly-Lac-Pro- を繰り返し単位としている。
【0011】
温度応答性の発現と相転移温度温度の制御には、例えば、-Gly-Lac-Pro- または -Gly-Hm
b-Pro- または -Gly-Hmb-Ala-Pro- の配列を用いること、配列全体の疎水性・親水性バランス、の2点が重要であると考えられている。温度応答性デプシペプチドの利点は、用いるアミノ酸やヒドロキシカルボン酸の種類や組成、配列を変化させることで製剤や分解性に幅広い特性を持たせることができる点にある。すなわち、生分解性や環境分解性や精密な分子設計に利点を持つ点で温度応答性ペプチドと同様であり、有機溶媒や水系溶媒への溶解度に優れる点で温度応答性ペプチドよりも優れている。
【0012】
有機溶媒や水系溶媒への溶解度に優れる理由は、ペプチド主鎖のアミド結合がデプシペプチドでは形式的にエステル結合に置換された構造になっているためである。即ちアミド結合同士では、分子レベルでは分子内と分子間の水素結合による、強すぎる相互作用を起こしてしまう。またエステル結合同士では、分子レベルでは水素結合による分子間と分子内の相互作用が生じない。よって巨視的には溶媒への溶解性の向上が観察される。
【0013】
興味深い研究として、温度応答性が調べられてはいないものの、関連したデプシペプチド配列が、1990年に報告されている。(非特許文献20)ここでは-Val-Pro-Gly-Hmb-Gly-と -Val-Ala-Pro-Gly-Hmb-Gly-の2種類の繰り返し配列をもつポリマーが報告されている。これらは、温度応答性が示されていない、合成ステップ数が多い、縮合反応と呼ばれるエステル結合又はアミド結合を生成する最も重要な反応が低収率であること(5つの反応が記載され、それぞれ23、33,54,70、76%)、低収率の結果最終生成物のポリマー体が10 mgしか得られていないこと、の4点に於いて問題があった。実際、論文中には、この配列の合成がいかに困難であるか述べてある点は注目される。
【0014】
即ち、我々の報告した事例(特許文献12,13)を除き、一般には現在まで、温度応答性材料に関連したポリデプシペプチドおよびオリゴデプシペプチド配列の合成は非常に困難であり、実用的ではないと考えられてきた。
【0015】
デプシペプチドは、合成方法の点からも近年改良が行われている。例えば反応ステップ数を削減する研究である。すなわち、アミノ基を保護されたアミノ酸のカルボキシル基と、無保護のカルボキシル基を有するヒドロキシカルボン酸のヒドロキシル基とを、アミノピリジン化合物を触媒として反応させ、ジデプシペプチドを生成することができるようになった。(特許文献14;非特許文献21,22)ヒドロキシカルボン酸のカルボキシル基の保護基を形成せずに繰り返し配列をもつデプシペプチドをより簡便に製造できるようになった。
【0016】
我々の関連研究によって現在では、実験室レベルの合成設備(数mL〜数百mL)でも、純粋なポリデプシペプチドを数百mg〜数gの単位で一度に合成することが可能となっている。即ち、工場設備(数L〜数百L)へ規模拡大した場合は数kg単位での製造を十分に行うことができ、デプシペプチドを実用的に製造して用いることが大いに期待されている。
【0017】
(3)温度応答性ビニルポリマーを用いたブロック共重合体および関連材料の現況:
温度応答性の両親媒性ブロック共重合体および関連材料を用いた高分子ミセルの研究は、ビニルポリマーを温度応答性配列として用いた基材がほとんどである。これらにはポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、ポリ乳酸との共重合体が用いられているが、生体や土壌で分解されないビニルオリゴマーの残留は依然として問題となりうる。例えば下記の3種類の高分子ミセルが研究されている。
【0018】
(3a) poly(N-(2-hydroxypropyl) methacrylamide lactate)-b-poly(ethylene glycol) (非特許文献23〜25)。これはポリメタクリル酸を主鎖とする疎水部に於いて側鎖のポリ乳酸鎖長を変化させることにより相転移の温度を10〜65℃までで可変できる点に特徴がある。親水部はポリエチレングリコール鎖である。例えば1 mg/mLのパクリタキセルを
含有した9 mg/mLの高分子ミセルを用いて、37℃ pH7.4の条件下、20時間後までに70%の薬物を放出することが報告されている。
【0019】
(3b) poly(N-isopropylacrylamide-b-D,L-lactide)(非特許文献26)および相転移温度を体温以上にするために親水部をコポリマーとしたpoly(N-isopropylacrylamide-co-dimethylacrylamide)-b-poly(D,L-lactide)(非特許文献27)。これらは親水部に温度応答性のビニルポリマーを疎水部にポリD,L-乳酸を用いている。後者の共重合体は5 mg/mLのリン酸緩衝生理食塩水中で40℃に相転移を見ることができる。また、アドリアマイシンを含有させた高分子ミセルの作成が報告されている。
【0020】
(3c) poly(N-isopropylacrylamide-co-N,N-dimethylacrylamide-co-2-aminoethyl methacrylate)-b-poly(10-undecenoic acid) (非特許文献28)。疎水部に温度応答性のビニルポリマーを用いて、2-aminoethyl methacrylateの側鎖は葉酸をグラフトさせている。親水部にはポリカルボン酸のビニルポリマーを用いている。相転移温度はリン酸緩衝食塩水中5 mg/mLの濃度にて、pH7.4で38℃、pH6.6で36℃である。カルボン酸があるためにpHが高くなると親水性が増加すると解釈されている。また、ドキソルビシンを含有させた高分子ミセルの作成が報告されている。
【0021】
(4)温度応答性ペプチドを用いたブロック共重合体および関連材料の現況:
我々は温度応答性ポリペプチドを用いた両親媒性ブロック共重合体の合成研究を行った。これは温度応答性ビニルポリマーを用いた研究と異なり、生分解性と生体適合性に優れている。また、ポリエチレングリコールの末端から高分子重合反応でポリアミノ酸を伸ばすのとは異なり、5残基のオリゴペプチドを繰り返しフラグメント縮合することによってペプチド鎖の伸長を行っている。例えば下記の高分子ミセルが研究されている。
【0022】
(4a) Boc-(Gly-Val-Gly-Val-Pro)n-Phe-PEG4000 (n = 1-6)(配列番号2:非特許文献29,30)この研究は本明細書の発明者らによって行われた。ブロック共重合体は疎水部に温度応答性ペプチドを、親水部には平均分子量4000のポリエチレングリコールを用いている。温度応答性の検討はn = 6の化合物について行われた。これは濃度によって大きく変化し、水溶液中100 mg/mLでは42℃、20 mg/mLでは70℃となった。また、デキサメタゾンパルミテート(dexamethasone palmitate)を含有させた高分子ミセルの作成が報告されている。
【0023】
この温度応答性ペプチドを用いた、ブロック共重合体の利点はフラグメント縮合による鎖の伸長方法にある。これによって、従来の重合反応による高分子鎖と異なり、ブロック共重合体の配列を自由に分子設計できるようになった。例えば任意の位置に化学修飾を行うことができる。欠点は相転移を発現するのに高温度と高濃度を必要とすること、ペプチド鎖が長くなるに従い水系溶媒や有機溶媒への溶解性が低くなることにある。一般に有機溶媒への溶解性の低下は基材の化学合成を困難にし、水系溶媒への溶解性の低下は薬物を内包させたミセル製剤の再溶解を困難にする点で不利な性質となる。
【0024】
(5)デプシペプチドを用いたブロック共重合体および関連材料の現況:
我々は温度応答性ではないデプシペプチドを用いた両親媒性ブロック共重合体の合成研究を行った。これは温度応答性を示さないが、生分解性と生体適合性に優れている。また、ポリエチレングリコールの末端に4残基のオリゴデプシペプチドを繰り返しフラグメント縮合することによってデプシペプチド鎖の伸長を行っている。例えば下記の高分子ミセルが研究されている。
【0025】
(5a) Boc-(Leu-Leu-Ala-Lac)3-(Leu-Leu-Ala-Hea)2-Phe-PEG4000 (Hea = 2-hydroxyethanoic acid)(非特許文献31,32)この研究は本明細書の発明者らによって行われた。
例えば21 mg/mLのデキサメタゾンパルミテート(dexamethasone palmitate)を含有した250 mg/200 mLの高分子ミセルを用いて、37℃の条件下、20時間後までに50%の薬物を放出することが報告されている。
【0026】
このデプシペプチドを用いた、ブロック共重合体の利点は(4)の場合と同様にフラグメント縮合による鎖の伸長方法にあり、配列を自由に分子設計できる。デプシペプチド鎖を用いることでペプチド鎖を用いた(4)のブロック共重合体と異なり、デプシペプチド鎖が長い場合でも水系溶媒や有機溶媒への溶解性は問題となりにくい利点がある。
【特許文献1】特開平7-228639号公報
【特許文献2】特開平8-143631号公報
【特許文献3】特開平9-169850号公報
【特許文献4】特開平10-273451号公報
【特許文献5】特開2000-212144号公報
【特許文献6】特開2000-344834号公報
【特許文献7】特開2002-256075号公報
【特許文献8】特開2003-252936号公報
【特許文献9】特開平11-322941号公報
【特許文献10】特表2001-514263号公報
【特許文献11】特表2004-501784号公報
【特許文献12】国際公開2006/043644号パンフレット
【特許文献13】PCT/JP2007/065720
【特許文献14】特開2004-269462号公報
【非特許文献1】H. Baderら、 Angew. Macromol. Chem.、1984年、123,124巻、457-485ページ
【非特許文献2】I. R. Schmolka、J. Oil Chem. Soc.、1977年、54巻、110-116ページ
【非特許文献3】M. Yokoyamaら、Makromol. Chem.、1989年、190巻、2041-2054ページ
【非特許文献4】M. Yokoyamaら、Journal of Controlled Release, 1990年、11巻、269-278ページ
【非特許文献5】K. Kataokaら、Journal of Controlled Release、1993年、24巻、119-132ページ
【非特許文献6】G. S. Kwonら、Journal of Controlled Release、1994年、29巻、17-23ページ
【非特許文献7】M. Yokoyamaら、Cancer Research、1991年、51巻、3229-3236ページ
【非特許文献8】K. L. Kiick、Science、2007年、317巻、1182-1183ページ
【非特許文献9】R. Haag, F. Kratz、Angew. Chem. Int. Ed.、2006年、45巻、1198-1215ページ
【非特許文献10】Y. Matsumuraら、British Journal of Cancer、2004年、91巻、1775-1781ページ
【非特許文献11】T. Hamaguchiら、British Journal of Cancer、 2005年、92巻、1240-1246ページ
【非特許文献12】H. Uchinoら、British Journal of Cancer、2005年、 93巻、678-687ページ
【非特許文献13】B. G. Yuら、J Control Release.、1998年、53巻、131-136ページ
【非特許文献14】B. G. Yuら、J Control Release.、1998年、56巻、285-291ページ
【非特許文献15】S. Hirotrsuら、J. Chem. Phys.、1987年、87巻、1392-1395ページ
【非特許文献16】チャン、ウリーら、Biochemistry and Biophysics Research Communication、1977年、79巻、700ページ
【非特許文献17】ウリーら、Biopolymers、1989年、28巻、819ページ
【非特許文献18】ウリーら、Progress in Biophysics and Molecular Biology、1992年、57巻、23ページ
【非特許文献19】ウリーら、Biopolymers、1986年、25巻、1939ページ
【非特許文献20】O. AradとM. Goodman、Biopolymers、1990年、29巻、1633-1649ページ
【非特許文献21】片貝ら、Biopolymers、2004年、73巻、641-644ページ
【非特許文献22】奥ら、Acta Crystallographica Section E、2004年、E60巻、o927-o929ページ
【非特許文献23】O. Sogaら、Journal of Controlled Release、2005年、103巻、341-353ページ
【非特許文献24】O. Sogaら、Biomacromolecules、2004年、5巻、818-821ページ
【非特許文献25】W. Y. Seowら、Biomaterials、2004年、25巻、2409-2418ページ
【非特許文献26】F. Kohoriら、Journal of Controlled Release、1998年、55巻、87-98ページ
【非特許文献27】F. Kohoriら、Journal of Controlled Release、2002年、78巻、155-163ページ
【非特許文献28】S. Q. Liuら、Biomaterials、2007年、28巻、1423-1433ページ
【非特許文献29】A. Inoueら、Peptide Science 2006
【非特許文献30】H. Ishida and H. Mihara Eds., The Japanese Peptide Society、2006年、54-55ページ
【非特許文献31】T. Sudaら、Peptide Science 2005:
【非特許文献32】T. Wakamiya Ed., The Japanese Peptide Society、2006年、495-498ページ
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0027】
本発明の目的は、疎水部に温度応答性配列を含むデプシペプチド構造を、親水部に親水性高分子構造を用いて、水または緩衝液中にて転移温度以下ではミセルを形成し、転移温度以上では凝集または相転移する、ブロック共重合体を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0028】
本発明者等は、上記目的を達成するために、これまでに報告例のなかった温度応答性デプシペプチドとポリエチレングリコールを用いた両親媒性のブロック共重合体の化学合成に着手した。即ち合成が困難と考えられているために注目されてこなかった、温度応答性のあるエラスチン様デプシペプチドの配列を疎水部に、ポリエチレングリコールを親水部に持つブロック共重合体の合成を計画した。例えば、温度応答性デプシペプチド配列として、-X1-X2-Gly-Hmb-Pro-(Hmb = バリン酸残基)と-X1-X2-Gly-Lac-Pro-(Lac = 乳酸残基)に着目した。
【0029】
はじめに-X1-X2-Gly-Hmb-Pro-と-X1-X2-Gly-Lac-Pro-の配列を持つ温度応答性デプシペプチドのフラグメントとして、Boc-Gly-Ile-Gly-Hmb-Pro-OBzlとBoc-Ala-Ile-Gly-Lac-Pro-OBzlを用いることにした。合成方法や各反応段階での条件はWO2006/043644A1およびPCT/JP2007/065720に記載した方法で、実験室規模の設備(数mL〜数百mL)にも関わらず、数g〜十数gの単位を一度の工程で化学合成を行うことができている。
【0030】
Boc-Gly-Ile-Gly-Hmb-Pro-OBzlとBoc-Ala-Ile-Gly-Lac-Pro-OBzlは、C末端をPd-C/H2(接触水素還元法)によって脱保護し、続いてN-ヒドロキシスクシンイミドによって活性エステル化(-OSu)して、Boc-Gly-Ile-Gly-Hmb-Pro-OSuとBoc-Ala-Ile-Gly-Lac-Pro-OSuを得た。続いてPEG4000(平均分子量4000のポリエチレングリコール、Merck製)とPEG5000-OMe(平均分子量5000のモノメトキシ化ポリエチレングリコール)にそれぞれ縮合反応を行い、Boc-Gly-Ile-Gly-Hmb-Pro-PEG4000とBoc-Ala-Ile-Gly-Lac-Pro-PEG5000-OMeを得た。次にN末端を4M HCl/ジオキサンによって脱保護し、HCl.H-Gly-Ile-Gly-Hmb-Pro- PEG4
000とHCl.H-Ala-Ile-Gly-Lac-Pro- PEG5000-OMeを得た。同様にしてBoc-Gly-Ile-Gly-Hmb-Pro-OSuとBoc-Ala-Ile-Gly-Lac-Pro-OSuをそれぞれ縮合反応させて2量体のBoc-(Gly-Ile-Gly-Hmb-Pro)2-PEG4000とBoc-(Ala-Ile-Gly-Lac-Pro)2-PEG5000-OMeを得た。引き続きフラグメント縮合反応を行うことで、Boc-(Gly-Ile-Gly-Hmb-Pro)n-PEG4000とBoc-(Ala-Ile-Gly-Lac-Pro)n-PEG5000-OMe (n = 1-6) を得た。
【0031】
本発明で得られるブロック共重合体は、ペプチド鎖の場合と異なり、驚くべきことに長いデプシペプチド鎖を有する場合でも容易に水系溶媒や有機溶媒に溶解することができた。更に驚くべきことにその水溶液は目視や測定装置によって明瞭な温度応答性が確認された。N端のBoc基を脱保護してコール酸やパルミチン酸を縮合反応させるとより鋭い温度応答性を示すことがわかった。また、臨床薬のデキサメタゾンパルミテート(dexamethasone palmitate)、デキサメタゾン(dexamethasone)、アドリアマイシン、パクリタキセルを含有させた高分子ミセルの作製とミセルからの薬物放出を観測することができた。このように種々の温度応答性デプシペプチド配列と鎖長を有するブロック共重合体を合成し、臨床薬との組成物を作成するなど、これらを鋭意検討した結果、本発明を完成するに至った。
【0032】
すなわち、本発明は以下のとおりである。
(1)親水性高分子構造部分と温度応答性を示すデプシペプチド構造部分からなるブロック共重合体。
(2)親水性高分子構造部分としてポリエチレングリコール鎖を有する(1)に記載のブロック共重合体。
(3)下記一般式 (I)または(II)で表される(2)に記載のブロック共重合体。
Y1−(F1−F2−F3−F4−F5n−Z−PEG (I)
Y1−(F1−F2−F3−F4−F5−F6n−Z−PEG (II)
(式中、Y1はデプシペプチド構造部分の末端に結合した疎水性修飾基を表し、F1、F2、F3、F4、F5およびF6はアミノ酸またはヒドロキシカルボン酸の残基を表し、式 (I)ではF1、F2、F3、F4およびF5の少なくとも1つ、式 (II)ではF1、F2、F3、F4、F5およびF6の少なくとも1つがヒドロキシカルボン酸残基を表し、nは2〜20の整数であり、PEGは一つまたは複数のポリエチレングリコール鎖を表し、Zはデプシペプチド構造部分とポリエチレングリコール構造を連結するスペーサー又は単結合を表す。)
(4)ヒドロキシカルボン酸がバリン酸または乳酸である、(3)に記載のブロック共重合体。
(5)式(I)におけるF1−F2−F3−F4−F5が-Xaa1-Xaa2-Gly-Lac-Pro- および/または -Xaa1-Xaa2-Gly-Hmb-Pro- であり、式(II)におけるF1−F2−F3−F4−F5−F6が-Xaa1-Xaa2-Gly-Hmb-Ala-Pro-である、(3)に記載のブロック共重合体(Xaa1、Xaa2は任意のアミノ酸残基を示し、Hmbは式(III)で示されるバリン酸残基を表し、Lacは式(IV)で示される乳酸残基を表す)。
【化2】

(6)式(I)におけるF1−F2−F3−F4−F5が-Ala-Ile-Gly-Lac-Pro-、-Gly-Ile-Gly-Hmb-Pro-または-Gly-Val-Gly-Hmb-Pro-であり、式(II)におけるF1−F2−F3−F4−F5−F6が-Gly-Val-Gly-Hmb-Ala-Pro-である、(5)のブロック共重合体。
(7)Zが疎水性アミノ酸又は疎水性アミノ酸からなるペプチド鎖である、(3)〜(6)のいずれかに記載のブロック共重合体。
(8)式(V)または式(VI)で表される、(1)〜(7)の何れかに記載のブロック共重合体。(式中、Y1はデプシペプチド構造部分の末端に結合した疎水性修飾基を表し、Rはポリエチレングリコール構造部分の末端に結合した修飾基または水素原子を表し、nは2〜20の整数を表し、mは2〜1000の整数を表す)
【化3】

(9)担体に固定化された、(1)〜(8)の何れかに記載のブロック共重合体。
(10)(1)〜(9)の何れかに記載のブロック共重合体からなる薬物内包用の担体。(11)(1)〜(9)のいずれかに記載のブロック共重合体を、水、緩衝液、食塩水、または含水有機溶媒と混合することにより得られる、溶媒和、ゲル、懸濁物、均一な溶液、または相分離状態を形成する組成物。
(12)(1)〜(9)の何れかに記載のブロック共重合体と薬剤を含む、医薬組成物。
【発明の効果】
【0033】
本発明に従ってブロック共重合体を合成することで温度応答性組成物を得ることができる
。本発明の方法で得られた材料や組成物は薬物を内包しうるミセルを形成し、薬物を温度応答性に放出することが出来るため、生体内で分解吸収される組成物、土壌などの環境下で分解吸収される組成物、細胞接着剤、薬物運搬体、創傷被覆材料、人工筋肉、マイクロカプセル、バイオマシン、バイオセンサー、分離膜、検査キットなどを構成するのに利用できる。これは発明者らの関連研究を踏まえれば容易に開発することが可能である(T. Sudaら、Peptide Science 2005: T. Wakamiya Ed., The Japanese Peptide Society、2006年、495-498ページ; A. Inoueら、Peptide Science 2006: H. Ishida and H. Mihara Eds., The Japanese Peptide Society、2006年、54-55ページ)。
【発明を実施するための最良の形態】
【0034】
本発明のブロック共重合体は、親水性高分子構造部分と温度応答性を示すデプシペプチド構造部分からなる。
親水性高分子としてはポリアルキレングリコール鎖が挙げられ、ポリエチレングリコール鎖が好ましい。ポリアルキレングリコール鎖の分子量は100〜40,000が望ましく、3,000〜10,000がさらに望ましく、4,000〜6,000がとくに望ましい。
本発明で述べている、ポリアルキレングリコール鎖には直線状または分岐状のものを用いることができる。これらのポリアルキレングリコール化合物は市販のものを購入または公知文献を参考にして合成することで得ることができる。
【0035】
ポリエチレングリコールを親水性高分子構造部分とする本発明のブロック共重合体の例として、次の(I)または(II)が挙げられる。
Y1−(F1−F2−F3−F4−F5n−Z−PEG (I)
Y1−(F1−F2−F3−F4−F5−F6n−Z−PEG (II)
【0036】
式(I)および(II)において、温度応答性を示すデプシペプチド構造部分を構成するF1、F2、F3、F4、F5およびF6はアミノ酸またはヒドロキシカルボン酸の残基を表し、式 (I)ではF1、F2、F3、F4およびF5の少なくとも1つ、式 (II)ではF1、F2、F3、F4、F5およびF6の少なくとも1つがヒドロキシカルボン酸残基である。なお、デプシペプチド構造部分を構成するアミノ酸はL体であることが好ましい。
上記ヒドロキシカルボン酸はバリン酸((S)-2-hydroxy-3-methylbutanoic acid)または乳酸が好ましい。
【0037】
式(I)および(II)において、デプシペプチドの繰り返しを表すnは2〜20の整数であり、2〜12の整数がより好ましい。
そして、繰り返し単位であるF1−F2−F3−F4−F5またはF1−F2−F3−F4−F5−F6は2種類以上の配列であってもよい。また、5残基の配列と6残基の配列が任意の順序で並んだ下記のようなものでもよい。
Y1−(F1−F2−F3−F4−F5o−(F1−F2−F3−F4−F5−F6p−Z−PEG
oは1〜19の整数、pは19〜1の整数を表す。
【0038】
繰り返し単位であるデプシペプチドの配列は温度応答性を示す配列であればよいが、例えば、以下のようなものが例示される。
式(I)におけるF1−F2−F3−F4−F5としては、-Xaa1-Xaa2-Gly-Lac-Pro- または -Xaa1-Xaa2-Gly-Hmb-Pro- が挙げられ、式(II)におけるF1−F2−F3−F4−F5−F6としては-Xaa1-Xaa2-Gly-Hmb-Ala-Pro-が挙げられる。
ここで、Xaa1、Xaa2は任意のアミノ酸残基を示し、Hmbは式(III)で示されるバリン酸残基を表し、Lacは式(IV)で示される乳酸残基を表す。
【化4】

【0039】
デプシペプチドを構成する「任意のアミノ酸残基」は温度応答性組成物の成分に合わせて、応答温度や溶解性や膨潤性の調節を目的として選択できる。例えば一般に電荷を帯びることがなければ、アミノ酸側鎖の疎水性が大きいほど応答温度が低温側へ、親水性が大きいほど高温側に調節することが可能である。これは発明者らの関連研究(例えばMacromolecules、1998年、31巻、3383ページ;Macromolecules、1996年、29巻、1065ページなど)やウリーらの研究例(特表2004-501784)により示されている。
【0040】
さらに好ましくは、式(I)におけるF1−F2−F3−F4−F5が-Ala-Ile-Gly-Lac-Pro-、-Gly-Ile-Gly-Hmb-Pro- または -Gly-Val-Gly-Hmb-Pro-であり、式(II)におけるF1−F2−F3−F4−F5−F6が -Gly-Val-Gly-Hmb-Ala-Pro-である。
【0041】
本発明のブロック共重合体を得るためには、重合反応によるポリマーまたはオリゴマーの合成、またはセグメント縮合と呼ばれる一単位ずつの伸長反応による適当な鎖長を持つ化合物の合成、の二種類の方法を用いることができる。
本発明で述べているデプシペプチド単位、-Xaa1-Xaa2-Gly-Hmb-Pro-、-Xaa1-Xaa2-Gly-Hmb-Ala-Pro-または-Xaa1-Xaa2-Gly-Lac-Pro-を利用する場合、重合反応は、例えば、H-X1-X2-Gly-Hmb-Pro-PEG、H-X1-X2-Gly-Hmb-Ala-Pro-PEG、H-X1-X2-Gly-Lac-Pro-PEGの何れかとH-X1-X2-Gly-Hmb-Pro-OSu、H-X1-X2-Gly-Hmb-Ala-Pro-OSu、H-X1-X2-Gly-Lac-Pro-OSuなどの温度応答性配列の活性化フラグメントを混合することで可能である。
【0042】
式(I)において、Zはデプシペプチド構造部分とポリエチレングリコール構造を連結するスペーサー又は単結合を表す。ここで、スペーサーとしては、例えば、アミド基、エステル基、エーテル基、スルホン基およびこれを含むアルキルリンカーやポリオキシエチレンリンカーのような低分子の化合物を用いることができる。好ましくは、フェニルアラニン、イソロイシン、ロイシンおよびトリプトファンから選ばれる疎水性アミノ酸またはこれらの疎水性アミノ酸からなる疎水性ペプチド鎖が挙げられる。
【0043】
以下にデプシペプチド構造部分とポリエチレングリコール構造がフェニルアラニン残基またはロイシンとフェニルアラニンからなるジペプチド残基を介して連結された本発明のブロック共重合体の例を示す。
ここで、Rはポリエチレングリコール構造部分の末端に結合した修飾基または水素原子を表し、nは2〜20の整数を、mは2〜1000の整数を表す。
【化5】

【0044】
本発明のブロック共重合体においては、式(IX)のようにポリエチレングリコール鎖がデプシペプチド鎖と1:1で結合したものでも良いし、または式(X)のようにデプシペプチド鎖に複数のポリエチレングリコール鎖が結合したブロック共重合体でもよいし、式(XI)のように1つのポリエチレングリコール鎖に複数のデプシペプチド鎖が結合したものでもよいし、式(XII)のように本発明のブロック共重合体がリンカーに複数結合したものでもよい。
【化6】

【0045】
上記式(I)および(II)において、Y1はデプシペプチド構造部分の末端に結合した疎水性修飾基を表す。疎水性修飾基を付加することで、疎水性が高まり、鋭敏な温度応答性相転移を起こすことができる。修飾基としては、アルキル基、アリール基、コール酸、デオキシコール酸、アルキル脂肪酸、パルミチン酸、抗ガン剤、アドリアマイシン(ドキソルビシン)、パクリタキセル(タキソール)、抗真菌薬、アンホテリシンB、抗生物質、デキサメタゾン、オリゴペプチド、オリゴデプシペプチド、蛍光色素、フルオレッセイン誘導体、ローダミン誘導体、シアニン誘導体、放射性ラベル化剤などが例示される。これらの修飾基はデプシペプチドの末端のアミノ基と反応させることによって導入することができる。
【0046】
一方、デプシペプチド鎖の結合していないポリエチレングリコール鎖の末端には、何らかの修飾基が結合していてもよい(上記式(V)〜(XII)のR)。修飾基としては例えば、アセチル基、ベンジル基、アルキル基、カルバモイル基、蛍光色素、放射性ラベル化剤、キレート剤、糖鎖配列、タンパク質、多糖、金属錯体、ヒドロキシカルボン酸配列、核
酸などが例示される。特に、糖鎖配列による修飾は薬剤を内包した本発明のブロック共重合体を標的組織に集積するために有用である。
なお、本発明のブロック共重合体は、デプシペプチド構造部分に含まれるアミノ酸残基の側鎖を介して上記のような修飾基が導入されたものであってもよい。
また、本発明のブロック共重合体は、高分子担体、ゲル、フィルム、ラテックス粒子、金属微粒子、シリコーン樹脂、シリカ、ゼオライト、ガラスプレート、またはプラスチックプレートなどの担体に結合したものでもよい。
これらの担体への固定化は、デプシペプチド鎖の結合していないポリエチレングリコール鎖の末端を介して、あるいは、デプシペプチド構造部分に含まれるアミノ酸残基の側鎖を介して行うことができる。
【0047】
本発明のブロック共重合体を、水、緩衝液、食塩水、または含水有機溶媒と混合することにより、溶媒和、ゲル、懸濁物、均一な溶液、または相分離状態を形成する組成物を得ることができる。
そして、本発明のブロック共重合体は水、緩衝液、食塩水、または含水有機溶媒の中でミセルを形成するため、薬物内包用の担体として使用できる。デプシペプチド構造部分は温度応答性を示すため、加温により溶媒分子や薬物を放出し、冷却により溶媒分子や薬物を取り込むことから、徐放性の医薬として特に有効である。
内包させる医薬組成物の種類は特に制限されないが、アドリアマイシン、パクリタキセルなどの抗癌剤、デキサメタゾンなどのステロイド化合物、抗生物質、光線力学療法のための色素(ポルフィリン類やクロロフィル類)などが挙げられる。
本発明のブロック共重合体は生体吸収性組成物、環境分解性組成物、細胞接着剤、マイクロカプセル、バイオマシン、バイオセンサー、検査キット、診断材料などを構成するのにも有用である。
【実施例】
【0048】
以下本発明の実施態様である、Boc-(Gly-Ile-Gly-Hmb-Pro)n-Phe-PEG4000 (n = 1-6) のフラグメント縮合法による合成方法(実施例1)と物性測定(実施例2〜8)、およびこれらを用いて得られるコール酸(CA)修飾体、例えば、CA-(Gly-Ile-Gly-Hmb-Pro)n-Phe-PEG4000 (n = 3)の合成方法(実施例9)と物性測定(実施例10)について詳細を示す。
【0049】
本発明のその他の実施態様である、Boc-(Ala-Ile-Gly-Lac-Pro)n-Leu-Phe-PEG5000-OMe (n = 1-6)のフラグメント縮合法による合成方法(実施例11)と物性測定(実施例12)についても示した。
【0050】
また実施に於いて共通した操作は合成手順1、2として示した。しかし以下の具体例は本発明を限定するものではなく、例えば保護基や縮合剤を他の慣用のものと置換することなど、適宜変更できることは勿論である。
【0051】
フラグメント縮合反応は特願2007-156743の方法を参考にした。フラグメント縮合に用いる、温度応答性配列、例えばBoc-Gly-Ile-Gly-Hmb-Pro-OBzlやBoc-Ala-Ile-Gly-Lac-Pro-OBzlなど、の合成方法はWO2006/043644A1およびPCT/JP2007/065720の記載を参考にした。
【0052】
その他の温度応答性配列、つまり例えば、-X1-X2-Gly-Hmb-Pro-と-X1-X2-Gly-Hmb-Ala-Pro-と-X1-X2-Gly-Lac-Pro- に於けるX1とX2への任意のアミノ酸残基の導入は実施例のN-α-t-ブトキシカルボニル-L-グリシン(またはN-α-t-ブトキシカルボニル-L-アラニン)とN-α-t-ブトキシカルボニル-L-イソロイシンに代えて、対応するN-α-t-ブトキシカルボニル-アミノ酸を使用することで同様に実施される。
【0053】
なお、以下の実施例では次のような略号を使用した。
(親水性高分子)
PEG4000: 平均分子量4000のポリエチレングリコール
PEG5000-OMe: 平均分子量5000のモノメトキシポリエチレングリコール
【0054】
(アミノ酸誘導体)
Boc-Gly-OH: N-α-t-ブトキシカルボニル-グリシン
Boc-Ala-OH: N-α-t-ブトキシカルボニル-L-アラニン
Boc-Ile-OH: N-α-t-ブトキシカルボニル-L-イソロイシン
Boc-Phe-OH: N-α-t-ブトキシカルボニル-L-フェニルアラニン
HCl・H-Pro-OBzl: L-プロリン ベンジルエステル 塩酸塩
【0055】
(ヒドロキシカルボン酸)
H-Lac-OH: L-乳酸
H-Hmb-OH: L-バリン酸
【0056】
(アミノ酸の主鎖および側鎖保護基)
Boc:tert-ブトキシカルボニル(t-Bu-O-CO-)
OBzl:ベンジル(-O-CH2-C6H5
CA-OH:コール酸(cholic acid)
【0057】
(ペプチド合成用試薬、その関連化合物)
DCC: N,N'-ジクロロへキシルカルボジイミド
DCUrea: ジシクロへキシルウレア
HOSu: N-ヒドロキシスクシンイミド
(Boc)2O: ジ-t-ブチルカルボネート
NMM: N-メチルモルホリン
DMAP: N,N'-ジメチルアミノピリジン
TFA: トリフルオロ酢酸
【0058】
(溶媒)
THF: テトラヒドロフラン
CHCl3: クロロホルム
AcOEt: 酢酸エチル
D2O: 重水
DMSO-d6: 重水素化ジメチルスルホキシド
MeOH: メタノール
Et2O: ジエチルエーテル
【0059】
(その他)
TLC: 薄相クロマトグラフィー
【0060】
[合成手順1:Boc-L-アミノ酸の合成]
L-アミノ酸または側鎖を保護したL-アミノ酸(1.0 mol)を4M NaOH (250 mL, 1.0 mol)に溶かし、氷-MeOHで徐々に冷却しながら最小量のジオキサンに溶かした(Boc)2O (240.0 g,
1.1 mol)を30分かけて徐々に加えた。氷浴で1時間、室温で1時間半攪拌した。析出したNaHCO3をろ別した後、pH3.0にしてAcOEtで抽出する。抽出溶液は10%クエン酸水溶液で洗浄の後、Na2SO4で乾燥させた。乾燥剤をろ別後、ろ液は減圧濃縮し、残渣にヘキサンを加えて結晶化させた。その後、AcOEt-ヘキサンで再結晶を行い、Boc-L-アミノ酸を得た。
【0061】
[合成手順2:アミノ基末端の脱保護反応、脱Boc化合物の合成]
アミノ基をN-α-t-ブトキシカルボニル保護したペプチド化合物を300 mLナスフラスコに入れドラフト内でTFA(または4M HClのジオキサン溶液)を加え溶解させた。直ちに塩化カルシウム管で蓋をし、水分の混入を防いだ。TLCにより反応の終了を確認後、濃縮しTFA臭(または塩酸臭)がなくなるまで繰り返し蒸留Et2Oを加えて濃縮すると最終的にTFA塩(または塩酸塩)の白色粉末を得る。収率は、ほぼ定量的である。
【0062】
[実施例1]
(1)Boc-(Gly-Ile-Gly-Hmb-Pro)n-Phe-PEG4000 (n = 1-6)の合成
(1a: Boc-Gly-Ile-Gly-Hmb-Pro-OHの合成)
300 mLナスフラスコにBoc-Gly-Ile-Gly-Hmb-Pro-OBzl (5.4 g, 8.5 mmol) を入れ、少量のMeOHによって溶解させた。5%Pd-Cと水素ガスによって接触還元反応を13時間行った。反応終了後、フィルターを用いて5%Pd-Cをろ別し、反応溶液を濃縮後、目的物を無色oilとして得た。収量4.3 g (収率93%)
【0063】
(1b: Boc-Gly-Ile-Gly-Hmb-Pro-OSuの合成)
300 mLナスフラスコにBoc-Gly-Ile-Gly-Hmb-Pro-OH (4.3 g, 7.8 mmol)を入れ、少量の蒸留THFで溶解させた。その中に、HOSu (1.0 g, 8.6 mmol)を加え、さらに氷冷撹拌しながらDCC (1.8 g, 8.6 mmol)を加え氷冷下で1時間、室温で一晩撹拌しながら反応させた。21時間後、TLCにより反応の終了を確認後、反応溶液中のDCUをろ去した。ろ液を濃縮し、AcOEt-Et2O-石油エーテルから結晶化させた。ろ取、減圧乾燥した後に再びAcOEt-Et2O-石油エーテルから再結晶化し、無色固体のBoc-Gly-Ile-Gly-Hmb-Pro-OSuを得た。収量4.7 g (収率95%)
【0064】
(1c: Boc-Phe-OSuの合成)
500 mLナスフラスコにBoc-Phe-OH (15.9 g, 60.0 mmol)を入れ、蒸留THFで溶解させた。その中に、HOSu (8.3 g, 72.0 mmol)を加え、さらに氷冷撹拌しながらDCC (14.9 g, 72.0 mmol)を加え氷冷下で1時間、室温で一晩撹拌しながら反応させた。13時間後、TLCにより反応の終了を確認後、反応溶液中のDCUをろ去した。ろ液を濃縮し、AcOEt-ヘキサンで結晶化させた。ろ取、減圧乾燥した後、同様にAcOEt-ヘキサンより再結晶化させた。ろ取、減圧乾燥した後、無色固体のBoc-Phe-OSuを得た。収量23.0 g (収率は〜100%で定量的)
【0065】
(1d: Boc-Phe-PEG4000の合成)
1000 mLナスフラスコに平均分子量4000のポリエチレングリコール(PEG4000, Merck社,
80.0 g, 20.0 mmol)を入れ、蒸留THF-アセトニトリル(=1:2 (v/v)) (300.0 mL) で溶解させた。38℃の湯浴で撹拌しながら、その中にBoc-Phe-OSu (21.7 g, 60.0 mmol)を加えた。さらに、DMAP (0.50 g, 4.0 mmol)を加え5日間反応させた。反応終了後、反応溶液を濃縮し、CH2Cl2に置換後、飽和炭酸水素ナトリウム水溶液で3回、蒸留水で2回、10%クエン酸水溶液で3回、蒸留水で2回、飽和食塩水で1回洗浄した。有機相はNa2SO4を加えて乾燥させた後に濃縮し、ベンゼン共沸を行い、CHCl3-Et2Oで結晶化させた。ろ取、減圧乾燥した後、ベンゼンによって脱水を行った。CHCl3-Et2Oより再結晶、ろ取、減圧乾燥した後、生成物の1H NMRスペクトルを測定したところ、反応が未完全であったため、再び反応させた。同様の手順で反応を行い、目的物の無色固体を得た。PEG40001分子に対して2等量のBoc-Pheの導入が可能である。収量55.3 g (収率61.5%)
【0066】
(1e: Boc-Gly-Ile-Gly-Hmb-Pro-Phe-PEG4000の合成)
500 mLナスフラスコ中でHCl.H-Phe-PEG4000 (48.8 g, 11.7 mmol; 合成手順2の方法でBoc-Phe-PEG4000より生成し、HCl.H-Phe- のモル比はPEG4000 に対し、およそ1等量であることを1H-NMRより確認した) を蒸留THFで溶解し、撹拌しながらNMM (1.3 mL, 11.7 mmol)で中和した。更にBoc-Gly-Ile-Gly-Hmb-Pro-OSu (11.5 g, 17.6 mmol)を加え3日間反応させた。反応終了後、反応溶液を濃縮し、CH2Cl2に置換後、飽和炭酸水素ナトリウム水溶液
で3回、蒸留水で2回、10%クエン酸水溶液で3回、蒸留水で2回、飽和食塩水で1回洗浄した。有機相はNa2SO4によって乾燥、濃縮し、CHCl3-Et2Oにより結晶化した。AcOEt-Et2Oより再結晶し、目的物の無色固体を得た。収量50.1 g (収率92%)
【0067】
(1f: Boc-(Gly-Ile-Gly-Hmb-Pro)2-Phe-PEG4000の合成)
500 mLナスフラスコ中でHCl.H-Gly-Ile-Gly-Hmb-Pro-Phe-PEG4000 (48.1 g, 10.4 mmol; 合成手順2で合成) を蒸留THFで溶解し、撹拌しながらNMM(1.1 mL, 10.4 mmol)で中和した。その中にBoc-Gly-Ile-Gly-Hmb-Pro-OSu (10.0 g, 15.6 mmol)を加え3日間反応させた。反応終了後、反応溶液を濃縮し、CH2Cl2に置換後、飽和炭酸水素ナトリウム水溶液で3回、蒸留水で2回、10%クエン酸水溶液で3回、蒸留水で2回、飽和食塩水で1回洗浄した。有機相はNa2SO4によって乾燥、濃縮し、CHCl3-Et2Oにより結晶化した。CHCl3-Et2Oより再結晶し、目的物の無色固体を得た。収量49.0 g (収率92%)
【0068】
(1g: Boc-(Gly-Ile-Gly-Hmb-Pro)3-Phe-PEG4000の合成)
500 mLナスフラスコ中でHCl.H-(Gly-Ile-Gly-Hmb-Pro)2-Phe-PEG4000 (35.7 g, 7.0 mmol; 合成手順2で合成) を蒸留THFで溶解し、撹拌しながらNMM (0.8 mL, 7.0 mmol)で中和した。次にBoc-Gly-Ile-Gly-Hmb-Pro-OSu (6.7 g, 10.5 mmol)を加え3日間反応させた。反応終了後、反応溶液を濃縮し、CH2Cl2に置換後、飽和炭酸水素ナトリウム水溶液で3回、蒸留水で2回、10%クエン酸水溶液で3回、蒸留水で2回、飽和食塩水で1回洗浄した。有機相はNa2SO4によって乾燥、濃縮し、CHCl3-Et2Oにより結晶化した。アセトニトリル-Et2Oより再結晶し、目的物の無色固体を得た。収量33.2 g (収率85%)
【0069】
(1h: Boc-(Gly-Ile-Gly-Hmb-Pro)4-Phe-PEG4000の合成)
500 mLナスフラスコにHCl.H-(Gly-Ile-Gly-Hmb-Pro)3-Phe-PEG4000 (16.4 g, 3.0 mmol; 合成手順2で合成) を蒸留THFで溶解し、撹拌しながらNMM (0.3 mL, 3.0 mmol)で中和した。次にBoc-Gly-Ile-Gly-Hmb-Pro-OSu (2.9 g, 4.5 mmol)を加え3日間反応させた。反応終了後、反応溶液を濃縮し、CH2Cl2に置換後、飽和炭酸水素ナトリウム水溶液で3回、蒸留水で2回、10%クエン酸水溶液で3回、蒸留水で2回、飽和食塩水で1回洗浄した。有機相はNa2SO4によって乾燥、濃縮し、CHCl3-Et2Oにより結晶化した。アセトニトリル-Et2Oより再結晶し、目的物の無色固体を得た。収量15.1 g (収率84%)
【0070】
(1i: Boc-(Gly-Ile-Gly-Hmb-Pro)5-Phe-PEG4000の合成)
300 mLナスフラスコにHCl.H-(Gly-Ile-Gly-Hmb-Pro)4-Phe-PEG4000 (8.9 g, 1.5 mmol; 合成手順2で合成)を入れ、蒸留THFで溶解させ、撹拌しながらNMM (0.2 mL, 1.5 mmol, 1.0 eq.)で中和した。その中にBoc-Gly-Ile-Gly-Hmb-Pro-OSu(1.4 g, 2.3 mmol, 1.5 eq.)を加え4日間反応させた。反応終了後、反応溶液を濃縮し、CH2Cl2に置換後、飽和炭酸水素ナトリウム水溶液で3回、蒸留水で2回、10%クエン酸水溶液で3回、蒸留水で2回、飽和食塩水で1回洗浄した。有機相はNa2SO4によって乾燥、濃縮し、アセトニトリルに溶解した。不溶物を遠心分離によって沈降させた後、上澄み液を濃縮し、Et2Oで結晶化し、目的物の無色固体を得た。収量8.7 g (収率90%)
【0071】
(1j: Boc-(Gly-Ile-Gly-Hmb-Pro)6-Phe-PEG4000の合成)
300 mLナスフラスコにHCl.H-(Gly-Ile-Gly-Hmb-Pro)5-Phe-PEG4000 (5.8 g, 0.9 mmol; 合成手順2で合成) を入れ、蒸留THFで溶解させ、撹拌しながらNMM (0.1 mL, 0.9 mmol)で中和した。その中にBoc-Gly-Ile-Gly-Hmb-Pro-OSu (0.9 g, 1.4 mmol)を加え4日間反応させた。反応終了後、反応溶液を濃縮し、CH2Cl2に置換後、飽和炭酸水素ナトリウム水溶液で3回、蒸留水で2回、10%クエン酸水溶液で3回、蒸留水で2回、飽和食塩水で1回洗浄した。有機相はNa2SO4によって乾燥、濃縮し、アセトニトリルに溶解した。不溶物を遠心分離によって沈降させた後、上澄み液を濃縮し、Et2Oで結晶化し、目的物の無色固体を得た。収量4.9 g (収率77%)
【0072】
[実施例2]
(2)Boc-(Gly-Ile-Gly-Hmb-Pro)n-Phe-PEG4000 (n = 1-6)の1H-NMRスペクトル
実施例1に記載した、フラグメント縮合反応によるデプシペプチド鎖の伸長を1H-NMRスペクトルにより追跡した(図1)。表1には観測された積分値のまとめを示した。これにより、プリエチレングリコール鎖1分子に対し1分子のデプシペプチド鎖に相当する積分値がそれぞれのブロック共重合体に対して観測された。
【表1】

【0073】
[実施例3]
(3)見かけの吸光度による温度応答性の観測
本発明により得られたブロック共重合体、Boc-(Gly-Ile-Gly-Hmb-Pro)n-Phe-PEG4000 (n = 1-6)について、それらの水溶液を加温することによる温度応答性変化をみかけの吸光度により観測した。観測波長には350 nmを用いた。これは目視による光の散乱即ち白濁する現象に対応している。図2〜7はn = 1〜6の鎖長を持つそれぞれのブロック共重合体水溶液を加温することによって観測された濁度データを示した。グラフの縦軸は透過率から換算した濁度を用いた。これにより温度応答の開始温度を比較することができる。ここには冷却による濁度変化を示していないが、n = 2〜6の水溶液は全て可逆な温度応答性を示した。n = 1では温度応答性が見られなかった。
【0074】
相転移挙動で興味深いことはn = 2〜6のブロック共重合体の水溶液は、高濃度(20 mg/mL以上)では2回の相転移が見られたことである。0℃から70℃の観測範囲内に於いてそれぞれの溶液を加温することによって1度目の相転移を起こす。溶液中のブロック共重合体が凝集して相分離し、透明な水溶液が白濁する。続いて温度を上昇させてゆくと再び透明になるが、また相転移を起こして2回目の凝集を起こす。これらは一般に、濁度を生じる温度である下限臨界温度(LCST)、濁りがなくなって透明になる温度(UCST)として現象が議論されている。図3〜7に見られるようなUCSTのあとにLCSTが観測される例は珍しい。2回の相転移挙動は2つの構成成分に由来していると考えられ、本発明のブロック共重合体の大きな特徴である。
【0075】
一方、低濃度(10 mg/mL以下)のブロック共重合体の水溶液では、1回の相転移による溶液の白濁しか観測されない(n = 5,6)。低濃度の条件では2つの相転移のほぼ中間温度でおきていることもグラフからわかる。
【0076】
表2はn = 5,6の鎖長を持つそれぞれのブロック共重合体水溶液について最初に起こる相転移が開始する温度(濁度の上昇し始める温度)をまとめた。これは目視による観測と測定された濁度の比較で、濁度がおおよそ10%を越えた時点でも十分に凝集が進行していると感じることに基づいている。
【0077】
【表2】

【0078】
[実施例4]
(4)粒子径測定と温度変化
本発明により得られたブロック共重合体のミセル形成を調べるために、動的光散乱(DLS)測定装置(製品名、Zetasizer Nano)による粒子径測定を行った。この測定に於いて粒子径とは、測定している粒子の拡散速度と同じ拡散速度を示す球体の直径を粒子径と称する。これは、試料溶液中のブラウン運動している微粒子にレーザー光を照射し、粒子からの散乱光がブラウン運動の速度に対応した揺らぎ(光の強度の変動)であり、散乱光強度の変動速度を測定し、粒子径を求めるものである。そのため、DLSで測定する粒子径分布は光強度分布 (散乱光強度、Intensity) に対応している。粒子の体積分布や個数分布は、光強度分布を換算することで求めることができる。
【0079】
温度応答性のあるブロック共重合体のミセルは水溶液中で温度により粒子サイズが変化することが期待される。ここではブロック共重合体のうち、 Boc-(Gly-Ile-Gly-Hmb-Pro)5-Phe-PEG4000の水溶液(20 mg/mL)を用いて各温度に於ける粒子径測定データを示した(図8)。粒子径測定に於いては図6の濁度測定と同様に相転移が2回観測された。図8には1回目の相転移と2回目の相転移の前後で粒子径分布データが記載されている。
【0080】
図8(a)〜(d)に示すように、濁度測定で見られた1回目の相転移前(10℃)、1回目の相転移後(30℃)、2回目の相転移前(48℃)、2回目の相転移後(61℃)に対応して粒径分布が変化している。ナノサイズの粒子は低温条件(10℃)では不安定であることがわかる。これは温度応答性配列のデプシペプチド鎖は低温条件では親水性構造としてポリエチレングリコール構造と同様に水和して存在し、ミセルを形成しにくいためである。従って、1回目の相転移後は温度応答性配列のデプシペプチド鎖が疎水性となり脱水和するためにミセルを形成できる。実際に30℃の測定データでは384 nmの粒径を有するミセルが観測されている。UCSTを経て透明になった溶液(48℃)ではさらに小さな粒径(29 nm)のミセルになっている。これは温度上昇によってポリエチレングリコール鎖の運動性が増して凝集体が溶解して小さなミセルを生じたと考えられる。更に温度を上げてゆくとポリエチレングリコール鎖も脱水和を起こして、小さなミセルが再凝集し、2回目の相転移を起こすと考えられる。実際に2回目の相転移後(61℃)の粒径分布では小さなミセル(30 nm)と大きなミセル(1010 nm)が観測されている。これらはそれぞれ凝集前のミセルと凝集後の大きなミセルと解釈できる。
【0081】
[実施例5]
(5)固体分散法によるミセルへの薬物導入効率
本発明により得られたブロック共重合体、Boc-(Gly-Ile-Gly-Hmb-Pro)5-Phe-PEG4000 の形成するミセルが薬物を内包する効率を固体分散法によって調べた(図9)。薬物にはデ
キサメタゾンパルミテート(dexamethasone palmitate, Dexpal)を用いた。薬物導入は2回目の相転移を起こす前の温度(〜38℃)で行った。得られた溶液は凍結乾燥し、Dexpal導入ミセルとして各種測定(粒径分布や1H-NMRスペクトル)に用いた。薬物導入効率のデータを表3に示した。
【0082】
【表3】

【0083】
[実施例6]
(6)固体分散法により形成された薬物内包ミセルの1H-NMRスペクトル
本発明により得られたブロック共重合体、Boc-(Gly-Ile-Gly-Hmb-Pro)5-Phe-PEG4000 の形成するミセルが薬物を内包していることを1H-NMRスペクトルによって調べた(図10)。DMSO-d6中のスペクトル(10 mg/mL、図10(c))では、ブロック共重合体とDexpalの両方のピークが観測された。一方、D2O中のスペクトル(15 mg/mL、図10(a))では、ポリエチレングリコールのピークが主に検出された。また小さく見えるのはデプシペプチド鎖のシグナルである。Dexpalのシグナルは観測されなかった。これらはD2O中で、ブロック共重合体がミセルを形成し、内核に取り込まれたDexpalのように、運動性が低い部分の1HシグナルがT2ブロードニングを起こすため観測されにくくなることに由来している。
【0084】
[実施例7]
(7)薬物導入型ミセルの粒子径測定と温度変化
本発明により得られたブロック共重合体、Boc-(Gly-Ile-Gly-Hmb-Pro)5-Phe-PEG4000 によって作成された薬物内包ミセルの粒径分布と温度変化を動的光散乱(DLS)測定装置(製品名、Zetasizer Nano)によって測定した(20 mg/mL、図11)。驚くべきことに、薬物を内包しているミセルは低温(10℃)でも安定なナノ粒子を形成し、高温(61℃)に於いて相転移が1回観測されただけであった。これは長鎖アルキル基であるパルミチン酸を有するDexpalは疎水性が高く、ミセルの内核を安定にしていることが考えられる。さらに驚くべきことはDexpalによって安定化されたミセルは観測された直径が広い温度範囲(10〜48℃)に於いても変化しない(109〜119 nm)ことがわかった(図11(a〜e))。高温に於ける相転移直後(図11(d))は1100 nmの粒径が一時的に観測されたが、30分後(図11(e))にはこのシグナルも観測されなくなり、大きな凝集体のみへと変化することも、ブロック共重合体の相転移挙動として非常に興味深い。より薄い濃度(10 mg/mL)に於いても同様な粒子径と相転移によるの粒子径の変化が観測された。
【0085】
[実施例8]
(8)薬物導入型ミセルからの薬物放出挙動
本発明により得られたブロック共重合体、Boc-(Gly-Ile-Gly-Hmb-Pro)5-Phe-PEG4000 によって作成された薬物内包ミセルからの薬物の放出挙動を調べた。薬物にはデキサメタゾン(dexamethasone, Dex)を用いた。薬物導入は22℃で行った。得られた溶液は凍結乾燥し、Dex導入ミセルとして本測定に用いた。Dex導入ミセル10 mg(薬物は1 mg内包)を
蒸留水 1 mLに溶解させて、透析チューブ(Spectra-Por Float-A-Lyzer Dialysis Tubes
(cellulose ester) MWCO = 5,000)に入れた。透析チューブは50 mLの蒸留水が入ったナスフラスコに乗せて、放出測定を開始した。ナスフラスコは水浴によって22℃、37℃、57℃に保温した。ナスフラスコ内には撹拌子を入れてゆっくり撹拌を行った。放出されたDexは240 nmの吸光度を測定して定量した。
【0086】
図12には得られた薬物放出挙動を示した。即ち、57℃では初期放出のない、ほぼ0次の放出挙動が見られた。22℃では、24時間後もほとんどの薬物を保持していることがわかった。37℃では22℃と57℃の中間の薬物放出挙動が見られた。このように、驚くべきことにBoc-(Gly-Ile-Gly-Hmb-Pro)5-Phe-PEG4000 によって作成された薬物内包ミセルは温度に依存して薬物放出を行うことが明らかになった。しかも薬物放出は、初期放出の無い、理想的な0次放出挙動に近いことがわかった。
【0087】
[実施例9]
(9)CA-(Gly-Ile-Gly-Hmb-Pro)5-Phe-PEG4000の合成
(9a: CA-OSuの合成)
100 mLナスフラスコにCA-OH (4.06 g, 9.94 mmol) を蒸留THF、アセトニトリル、DMFの混合溶液中で加温しながら溶解させ、その中にHOSu (1.26 g, 10.9 mmol) を加えた。さらに氷冷撹拌しながら DCC (2.22 g, 10.7 mmol) を加えて氷冷下で1時間、室温で19時間反応させた。反応終了後、DCUをろ去し、真空ポンプでDMFを濃縮し、酢酸エチル置換を行った。残渣に酢酸エチル/へキサンを加えて結晶化させた。それをろ取し、減圧乾燥後、同じく酢酸エチル/へキサンを加えて再結晶化させた。減圧乾燥後、目的物である白色固体を得た。収量4.90 g(収率97%)。
【0088】
(9b: CA-(Gly-Ile-Gly-Hmb-Pro)3-Phe-PEG4000の合成)
100 mLナスフラスコにHCl・H-(Gly-Ile-Gly-Hmb-Pro)3-Phe-PEG4000 (0.69 g, 0.12 mmol; 合成手順2で合成) を入れ、蒸留THFとベンゼンに溶解させベンゼン共沸を行った。溶媒を完全に除去した後、蒸留THFを加え、氷冷撹拌しながらNMM (13 μL, 0.126 mmol) で中和した。次に、CA-OSu (95.8 mg, 0.18 mmol) を加えた。CA-OSuは蒸留THFだけでは溶解しなかったため、蒸留クロロホルムを少量加えて溶解させ、反応させた。途中から37 oC付近で加温しながら5日間反応させた。反応終了後、反応溶液を濃縮し、ジクロロメタンに置換し、10%クエン酸水溶液で3回、イオン交換水で2回、飽和食塩水で1回洗浄した。その後、有機層に無水Na2SO4を加え脱水した。Na2SO4をろ去し、ろ液を濃縮し、残渣にクロロホルム/エーテルを加えて結晶化させた。それをろ取し、減圧乾燥後、同じくクロロホルム/エーテルを加えて再結晶化させた。減圧乾燥後、目的物である白色固体を得た。収量470 mg(収率64%)。
【0089】
[実施例10]
(10)見かけの吸光度による温度応答性の観測
本発明により得られたブロック共重合体、CA-(Gly-Ile-Gly-Hmb-Pro)3-Phe-PEG4000 について、その水溶液を加温することによる温度応答性変化をみかけの吸光度により観測した。観測波長には350 nmを用いた。これは目視による光の散乱即ち白濁する現象に対応している。図13は観測された濁度データを示した。グラフの縦軸は透過率から換算した濁度を用いた。これにより温度応答の開始温度を比較することができる。
【0090】
相転移挙動で興味深いことはBoc基の代わりにコール酸(CA基)の付加したブロック共重合体では、より鋭い温度応答性相転移が見られたことである。これによってより明瞭な温度応答挙動および付随する現象(例えば薬物の放出)を起こすことが期待される。
【0091】
[実施例11]
(11)Boc-(Ala-Ile-Gly-Lac-Pro)n-Leu-Phe-PEG5000-OMe (n = 1-6)の合成
(11a: Boc-Ala-Ile-Gly-Lac-Pro-OHの合成)
300 mLナスフラスコにBoc-Ala-Ile-Gly-Lac-Pro-OBzl (13.2 g, 21.3 mmol) を入れ、少量のMeOHによって溶解させた。5%Pd-Cと水素ガスによって接触還元反応を10時間行った。反応終了後、フィルターにより5%Pd-Cをろ別し、反応溶液を濃縮後、AcOEt-hexaneから結晶化させた。ろ取、減圧乾燥した後に再びAcOEt-hexaneから再結晶化し、白色固体のBoc-Ala-Ile-Gly-Lac-Pro-OHを得た。収量11.1 g (収率99%)。
【0092】
(11b: Boc-Ala-Ile-Gly-Lac-Pro-OSuの合成)
300 mLナスフラスコにBoc-Ala-Ile-Gly-Lac-Pro-OH (3.2 g, 6.0 mmol)を入れ、少量の蒸留THFで溶解させた。その中に、HOSu (0.7 g, 6.0 mmol)を加え、さらに氷冷撹拌しながらDCC (1.4 g, 6.6 mmol)を加え氷冷下で1時間、室温で一晩撹拌しながら反応させた。30時間後、TLCにより反応の終了を確認後、反応溶液中のDCUをろ去した。ろ液を濃縮し、AcOEt-hexaneから結晶化させた。ろ取、減圧乾燥した後に再びAcOEt-hexaneから再結晶化し、白色固体のBoc-Ala-Ile-Gly-Lac-Pro-OSuを得た。収量4.7 g (収率95%)。
【0093】
(11c: Boc-Phe-PEG5000-OMeの合成)
1000 mLナスフラスコに平均分子量5000のモノメトキシポリエチレングリコール(PEG5000-OMe, Merck社, 50.0 g, 10.0 mmol)を入れ、蒸留THF-アセトニトリル(=1:2 (v/v)) (300.0 mL) で溶解させた。38℃の湯浴で撹拌しながら、その中にBoc-Phe-OSu (5.4 g, 15.0 mmol)を加えた。さらに、DMAP (0.18 g, 1.5 mmol)を加え5日間反応させた。反応終了後、反応溶液を濃縮し、CH2Cl2に置換後、飽和炭酸水素ナトリウム水溶液で3回、蒸留水で2回、10%クエン酸水溶液で3回、蒸留水で2回、飽和炭酸水素ナトリウム水溶液で3回、蒸留水で1回、飽和食塩水で1回洗浄した。飽和食塩水で1回洗浄した。有機相はNa2SO4を加えて乾燥させた後に濃縮し、ベンゼン共沸を行い、CHCl3-Et2Oで結晶化させた。ろ取、減圧乾燥した。CHCl3-Et2Oより再結晶、ろ取、減圧乾燥した後、生成物の1H NMRスペクトルを測定したところ、反応が未完全であったため、再び反応させた。同様の手順で反応を行い、目的物の無色固体を得た。収量49.7 g (収率95%)。
【0094】
(11d: Boc-Leu-Phe-PEG5000-OMeの合成)
HCl・H-Phe-OPEG5,000-OCH3 (48.9g, 9.4 mmol; 合成手順2で合成)を500 mLナスフラスコに入れ、蒸留THFを加えて溶解させた。さらに、NMM (9.4 mmol)を加え、中性になったことを確認後、Boc-Leu-OSu (4.63 g, 14.1 mmol)を室温中で加え、38℃で撹拌しながら反応させた。128時間後、反応溶液を濃縮した。その後CHCl3を加えて、10%クエン酸水溶液で2回、蒸留水で1回、飽和炭酸水素ナトリウム水溶液で2回、蒸留水で1回、飽和食塩水で1回洗浄した。洗浄後の有機相に無水Na2SO4を加えて脱水した。無水Na2SO4をろ去し、ろ液を濃縮後、CH2Cl2/脱水etherを加えて結晶化させた。それをろ取し減圧乾燥させた。その後、再びCH2Cl2/脱水etherを加えて結晶化させ、ろ取し減圧乾燥させた。目的物である白色粉末固体のBoc-Leu-Phe-OPEG5000-OCH3を得た。収量46.8 g (収率93%); mp 54-55℃; [α]D20 = -27.8°(MeOH, c0.1)。
【0095】
(11e: Boc-Ala-Ile-Gly-Lac-Pro-Leu-Phe-PEG5000-OMeの合成)
HCl・H-Leu-Phe-OPEG5000-OCH3 (22.7 g, 4.3 mmol; 合成手順2で合成)を500 mLナスフラスコに入れ、蒸留THFを加えて溶解させた。さらに、NMM (470μL, 4.3 mmol)を加え、中性になったことを確認後、Boc-Ala-Ile-Gly-Lac-Pro-OSu (4.34 g, 6.9 mmol )を室温中で加え、38℃で撹拌しながら反応させた。65時間後、反応溶液を濃縮した。その後CHCl3を加えて、10%クエン酸水溶液で2回、蒸留水で1回、飽和炭酸水素ナトリウム水溶液で2回、蒸留水で1回、飽和食塩水で1回洗浄した。洗浄後の有機相に無水Na2SO4を加えて脱水した。無水Na2SO4をろ去し、ろ液を濃縮後、CH2Cl2/脱水etherを加えて結晶化させた。それをろ取し減圧乾燥させた。その後、再びCH2Cl2/脱水etherを加えて結晶化させ、ろ取し
減圧乾燥させた。目的物である白色粉末固体のBoc-Ala-Ile-Gly-Lac-Pro-Leu-Phe-OPEG5000-OCH3を得た。収量23.2 g (収率94%); mp 55-56℃; [α]D20 = 18.2°(MeOH, c0.1).
【0096】
(11f: Boc-(Ala-Ile-Gly-Lac-Pro)2-Leu-Phe-PEG5000-OMeの合成)
HCl・H-Ala-Ile-Gly-Lac-Pro-Leu-Phe-OPEG5000-OCH3 (21.0 g, 3.7 mmol; 合成手順2で合成)を500 mLナスフラスコに入れ、蒸留THFを加え溶解させた。さらに、pyridine (295μL, 3.7 mmol)、NMM (404μL, 3.7 mmol)を加え、中性になったことを確認後、Boc-Ala-Ile-Gly-Lac-Pro-OSu (3.45 g, 5.5 mmol)を室温中で加え、38℃で撹拌しながら反応させた。12時間後、反応溶液がゲル状になりスターラーが回らなくなった。そこで蒸留THFを濃縮し、蒸留CHCl3とCH3CNを加えて反応を再び開始させた。72時間後、反応を終了させ、反応溶液を濃縮し、ゲル状になった。これにCH2Cl2を加えて、飽和炭酸水素ナトリウム水溶液で2回、蒸留水で2回、10%クエン酸水溶液で2回、蒸留水で2回、飽和食塩水で2回洗浄した。有機相に無水Na2SO4を加えて脱水した。無水Na2SO4をろ去したところ、洗浄の際エマルジョンになり、多量に塩が析出してしまった。そこで回転数3000-3500 rpmで遠心分離を6分間行った。その後、上澄み液を回収し、ろ液を濃縮後、CH2Cl2/脱水etherを加えて結晶化させた。それをろ取し、減圧乾燥させた。その後、再びCH2Cl2/脱水etherを加えて結晶化させ、ろ取し減圧乾燥させた。そして目的物である白色粉末固体のBoc-(Ala-Ile-Gly-Lac-Pro)2-Leu-Phe-OPEG5,000-OCH3を得た。収量19.8 g (収率87% ); mp 54-56℃; [α]D20 = -29.5°(MeOH, c0.1).
【0097】
(11g: Boc-(Ala-Ile-Gly-Lac-Pro)3-Leu-Phe-PEG5000-OMeの合成)
HCl・H-(Ala-Ile-Gly-Lac-Pro)2-Leu-Phe-OPEG5000-OCH3 (17.5 g, 2.8 mmol; 合成手順2で合成)を500 mLナスフラスコに入れ、蒸留CHCl3とCH3CN (各200 mL, 100 mL)を加え溶解させた。さらに、pyridine (228μL, 2.8 mmol)、NMM (313μL, 2.8 mmol)を加え、中性になったことを確認後、Boc-Ala-Ile-Gly-Lac-Pro-OSu (2.67 g, 4.3 mmol)を室温中で加え、38℃で撹拌しながら反応させた。69時間後、反応を終了させ、反応溶液を濃縮し、ゲル状になった。これにCH2Cl2を加えて、10%クエン酸水溶液で1回、蒸留水で1回、飽和食塩水で2回洗浄した。有機相に無水Na2SO4を加えて脱水した。無水Na2SO4をろ去したところ、洗浄の際エマルジョンになってしまったため、多量に塩が析出した。そこで回転数3000-3500 rpmで遠心分離を6分間2回行った。その後、上澄み液を回収し、ろ液を濃縮後、CH2Cl2/脱水etherを加えて結晶化させた。それをろ取し、減圧乾燥させた。その後、再びCH2Cl2/脱水etherを加えて結晶化させ、ろ取し減圧乾燥させた。白色粉末固体のBoc-(Ala-Ile-Gly-Lac-Pro)3-Leu-Phe-OPEG5,000-OCH3を得た。収量19.8 g (収率87%); mp 52-54℃; [α]D20 = -17.2°(MeOH, c0.1).
【0098】
(11h: Boc-(Ala-Ile-Gly-Lac-Pro)4-Leu-Phe-PEG5000-OMeの合成)
HCl・H-(Ala-Ile-Gly-Lac-Pro)3-Leu-Phe-OPEG5000-OCH3 (14.5 g, 2.2 mmol; 合成手順2で合成)を500 mLナスフラスコに入れ、蒸留CHCl3とCH3CN (各200 mL, 100 mL)を加え溶解させた。さらに、pyridine (177μL, 2.2 mmol)、NMM (243μL, 2.2 mmol)を加え、中性になったことを確認後、Boc-Ala-Ile-Gly-Lac-Pro-OSu (2.08 g, 3.3 mmol)を室温中で加え、38℃で撹拌しながら反応させた。88時間後、反応を終了させ、反応溶液を濃縮し、ゲル状になった。これにCHCl3を加えて、10%クエン酸水溶液で1回、蒸留水で2回、飽和食塩水で2回洗浄した。有機相に無水Na2SO4を加えて脱水した。無水Na2SO4をろ去したところ、洗浄の際エマルジョンになってしまったため、多量に塩が析出した。そこで回転数3000-3500 rpmで遠心分離を6分間行った。その後、上澄み液を回収し、ろ液を濃縮後、CH2Cl2/脱水etherを加えて結晶化させた。それをろ取し、減圧乾燥させた。その後、再びCH2Cl2/脱水etherを加えて結晶化させ、ろ取し減圧乾燥させた。白色粉末固体のBoc-(Ala-Ile-Gly-Lac-Pro)4-Leu-Phe-OPEG5000-OCH3を得た。収量14.0 g (収率90%); [α]D20 = -55.5°(MeOH, c0.1).
【0099】
(11i: Boc-(Ala-Ile-Gly-Lac-Pro)5-Leu-Phe-PEG5000-OMeの合成)
HCl・H-(Ala-Ile-Gly-Lac-Pro)4-Leu-Phe-OPEG5000-OCH3 (9.84 g, 1.4 mmol; 合成手順2で合成)を300 mLナスフラスコに入れ、蒸留CHCl3とCH3CN (各150 mL, 70 mL)を加え溶解させた。さらに、pyridine (114μL, 1.4 mmol)、NMM (156μL, 1.4 mmol)を加え、中性になったことを確認後、Boc-Ala-Ile-Gly-Lac-Pro-OSu (1,33 g, 2.1 mmol)を室温中で加え、38℃で撹拌しながら反応させた。119時間後、反応を終了させ、反応溶液を濃縮し、ゲル状になった。これにCHCl3を加えて、10%クエン酸水溶液で1回、蒸留水で2回、飽和食塩水で2回洗浄した。有機相に無水Na2SO4を加えて脱水した。無水Na2SO4をろ去したところ、洗浄の際エマルジョンになり、多量に塩が析出した。そこで回転数3000-3500 rpmで遠心分離を6分間行った。その後、上澄み液を回収し、ろ液を濃縮後、CH2Cl2/脱水etherを加えて結晶化させた。それをろ取し、減圧乾燥させた。その後、再びCH2Cl2/脱水etherを加えて結晶化させ、ろ取し減圧乾燥させた。その後、1H NMR測定を行ったところ、クエン酸と見られるピークが観測されたので、その後CHCl3を加えて、蒸留水で1回、飽和炭酸水素ナトリウム水溶液で2回、蒸留水で2回、飽和食塩水で1回洗浄した。洗浄後の有機相に無水Na2SO4を加えて脱水した。無水Na2SO4をろ去し、ろ液を濃縮後、CH2Cl2/脱水etherを加えて結晶化させた。それをろ取し減圧乾燥させた。そして目的物である白色粉末固体のBoc-(Ala-Ile-Gly-Lac-Pro)5-Leu-Phe-OPEG5000-OCH3を得た。収量7.40 g (収率 70%); [α]D20 = -48.3°(MeOH, c0.1).
【0100】
(11j: Boc-(Ala-Ile-Gly-Lac-Pro)6-Leu-Phe-PEG5000-OMeの合成)
HCl・H-(Ala-Ile-Gly-Lac-Pro)5-Leu-Phe-OPEG5000-OCH3 (3.9 g, 0.53 mmol; 合成手順2で合成)を300 mLナスフラスコに入れ、蒸留CHCl3とCH3CN (各100 mL, 50 mL)を加え溶解させた。さらに、pyridine (43μL, 0.53 mmol)、NMM (59μL, 0.53 mmol)を加え、中性になったことを確認後、Boc-Ala-Ile-Gly-Lac-Pro-OSu (0.66 g, 1.05 mmol)を室温中で加え、38℃で撹拌しながら反応させた。48時間後、Boc-Ala-Ile-Gly-Lac-Pro-OSu (0.22 g, 0.35 mmol)を追加した。135時間後、反応を終了させ、反応溶液を濃縮するとゲル状になった。これにCH2Cl2を加えて、10%クエン酸水溶液で1回、蒸留水で2回、飽和炭酸水素ナトリウム水溶液で2回、蒸留水で2回、飽和食塩水で1回洗浄した。有機相に無水Na2SO4を加えて脱水した。無水Na2SO4をろ去したところ、洗浄の際にエマルジョンになり、多量に塩が析出した。そこで回転数3000-3500 rpmで遠心分離を6分間行った。その後、上澄み液を回収し、ろ液を濃縮後、CH2Cl2/脱水etherを加えて結晶化させた。それをろ取し、減圧乾燥させた。その後、再びCH2Cl2/脱水etherを加えて結晶化させ、ろ取し減圧乾燥させた。白色粉末固体のBoc-(Ala-Ile-Gly-Lac-Pro)6-Leu-Phe-OPEG5000-OCH3を得た。収量3.34 g (収率80%).
【0101】
(11k: Boc-(Ala-Ile-Gly-Lac-Pro)7-Leu-Phe-PEG5000-OMeの合成)
Boc-(Ala-Ile-Gly-Lac-Pro)7-Leu-Phe-PEG5000-OMeについても、Boc-Ala-Ile-Gly-Lac-Pro-OSu とHCl・H-(Ala-Ile-Gly-Lac-Pro)6-Leu-Phe-OPEG5000-OCH3から同様な方法で合成することができる。収量1.50 g (収率80%).
【0102】
[実施例12]
(12)見かけの吸光度による温度応答性の観測
本発明により得られたブロック共重合体、Boc-(Ala-Ile-Gly-Lac-Pro)n-Leu-Phe-PEG5000-OMe (n = 5,6)について、その水溶液を加温することによる温度応答性変化をみかけの吸光度により観測した。観測波長には350 nmを用いた。これは目視による光の散乱即ち白濁する現象に対応している。図14と図15は観測された濁度データを示した。グラフの縦軸は透過率から換算した濁度を用いた。これにより温度応答の開始温度を比較することができる。
【0103】
図14の結果から、n = 5では相転移挙動を引き起こすことが分かった。図中、30 mg/mL
(■), 50 mg/mL (●)の相転移挙動は2つの相転移を確認できた。一方、濃度の低い10 mg/mL (△)は、高温側の相転移挙動は大きな濁度の上昇が見られなかった。高温側の相転移の温度は30 mg/mLで約43℃であり、50 mg/mLでは約30℃とわかった。よって、高温側の相転移温度はポリエチレングリコール鎖を持たないpoly(Ala-Ile-Gly-Lac-Pro)と同様に濃度依存性があった。また濁度上昇は比較的緩やかになることがわかった。これは共重合体による効果と考えられる。
【0104】
図15の結果から、n = 6では相転移挙動を引き起こすことが分かった。図中、10 mg/mL (■)の濁度曲線から2つの相転移を確認した。高温側の相転移温度は、10 mg/mLで約33℃になった。n = 5と比較してより低濃度で相転移を起こすことがわかった。一方、より高濃度の20 mg/mL (●)では、1回目と2回目の相転移の間で顕著な濁度低下が見られなかった。これは、n = 5と同様に、2回目の相転移に濃度依存性があると考えられる。つまり、2回目の相転移が低温側にシフトし、1回目の相転移と重なった可能性が考えられる。これは、濁度測定時の昇温間隔を5℃/5 minから1℃/3 min.とさらに細かく測定することで再確認できる。さらに、濃度の低い5 mg/mL (△)は、高温側の相転移挙動は大きな濁度の上昇が見られなかった。この挙動は5量体の場合にも観測され、同様な傾向があることが分かった。
【図面の簡単な説明】
【0105】
【図1】図1は本発明の一実施態様である、Boc-(Gly-Ile-Gly-Hmb-Pro)n-PEG4000 (n = 1-6) のの500 MHz 1H NMRスペクトル (DMSO-d6溶媒、30℃)である。(a)〜(f)はそれぞれn = 1〜6のブロック共重合体のスペクトルである。
【図2】図2は本発明の一実施態様である、Boc-Gly-Ile-Gly-Hmb-Pro-PEG4000 の水溶液(濃度は図中に記載)を1 mm厚の石英製吸収スペクトル用セルに入れ、1℃/5分の速度で温度を上昇させた。1℃毎に各温度での350 nmの光に対して透過率(%)を測定し、100−透過率(%) = 濁度(%)としてプロットしたグラフである。
【図3】図3は本発明の一実施態様である、Boc-(Gly-Ile-Gly-Hmb-Pro)2-PEG4000 の水溶液(濃度は図中に記載)を1 mm厚の石英製吸収スペクトル用セルに入れ、1℃/5分の速度で温度を上昇させた。1℃毎に各温度での350 nmの光に対して透過率(%)を測定し、100−透過率(%) = 濁度(%)としてプロットしたグラフである。
【図4】図4は本発明の一実施態様である、Boc-(Gly-Ile-Gly-Hmb-Pro)3-PEG4000 の水溶液(濃度は図中に記載)を1 mm厚の石英製吸収スペクトル用セルに入れ、1℃/5分の速度で温度を上昇させた。1℃毎に各温度での350 nmの光に対して透過率(%)を測定し、100−透過率(%) = 濁度(%)としてプロットしたグラフである。
【図5】図5は本発明の一実施態様である、Boc-(Gly-Ile-Gly-Hmb-Pro)4-PEG4000 の水溶液(濃度は図中に記載)を1 mm厚の石英製吸収スペクトル用セルに入れ、1℃/5分の速度で温度を上昇させた。1℃毎に各温度での350 nmの光に対して透過率(%)を測定し、100−透過率(%) = 濁度(%)としてプロットしたグラフである。
【図6】図6は本発明の一実施態様である、Boc-(Gly-Ile-Gly-Hmb-Pro)5-PEG4000 の水溶液(濃度は図中に記載)を1 mm厚の石英製吸収スペクトル用セルに入れ、1℃/5分の速度で温度を上昇させた。1℃毎に各温度での350 nmの光に対して透過率(%)を測定し、100−透過率(%) = 濁度(%)としてプロットしたグラフである。
【図7】図7は本発明の一実施態様である、Boc-(Gly-Ile-Gly-Hmb-Pro)6-PEG4000 の水溶液(濃度は図中に記載)を1 mm厚の石英製吸収スペクトル用セルに入れ、1℃/5分の速度で温度を上昇させた。1℃毎に各温度での350 nmの光に対して透過率(%)を測定し、100−透過率(%) = 濁度(%)としてプロットしたグラフである。
【図8】図8は本発明の一実施態様である、Boc-(Gly-Ile-Gly-Hmb-Pro)5-PEG4000 の水溶液(20 mg/mL、セル長1.2 mm)の動的光散乱法によって測定した光散乱強度に基づく粒径分布を示した。(a)〜(d)の測定温度はそれぞれ1回目の相転移前(10℃)、1回目の相転移後(30℃)、2回目の相転移前(48℃)、2回目の相転移後(61℃)である。
【図9】図9は本発明の一実施態様である、Boc-(Gly-Ile-Gly-Hmb-Pro)n-PEG4000 (n = 5, 6)固体分散法による薬物導入試験の手順を示した。
【図10】図10は本発明の一実施態様である、Boc-(Gly-Ile-Gly-Hmb-Pro)5-PEG4000 に固体分散法でDexpalを導入した薬物内包ミセルの500 MHz 1H-NMRスペクトル (20oC)。(a) D2Oに溶解させたDexpal内包ミセル、(b) DMSO-d6に溶解させたDexpal、(c) DMSO-d6に溶解させたDexpal内包ミセル、を示している。
【図11】図11は本発明の一実施態様である、Boc-(Gly-Ile-Gly-Hmb-Pro)5-PEG4000 に固体分散法でDexpalを導入した薬物内包ミセル水溶液(20 mg/mL、セル長1.2 mm)の動的光散乱法によって測定した光散乱強度に基づく粒径分布を示した。(a)〜(d)の測定温度はそれぞれ1回目の相転移前(20℃)、1回目の相転移後(37℃)、2回目の相転移前(40℃)、2回目の相転移後(51℃)である。(e)は2回目の相転移後(51℃)30分経過した後の粒径分布である。
【図12】図12は本発明の一実施態様である、Boc-(Gly-Ile-Gly-Hmb-Pro)5-PEG4000 を用いた薬物内包ミセルからのDex放出量のグラフである。
【図13】図13は本発明の一実施態様である、CA-(Gly-Ile-Gly-Hmb-Pro)3-Phe-PEG4000 の水溶液(濃度は図中に記載)を1 mm厚の石英製吸収スペクトル用セルに入れ、1℃/5分の速度で温度を上昇させた。1℃毎に各温度での350 nmの光に対して透過率(%)を測定し、100−透過率(%) = 濁度(%)としてプロットしたグラフである。
【図14】図14は本発明の一実施態様である、Boc-(Ala-Ile-Gly-Lac-Pro)5-Leu-Phe-OPEG5000-OMeの水溶液(濃度は図中に記載)を1 mm厚の石英製吸収スペクトル用セルに入れ、5℃/5分の速度で温度を上昇させた。5℃毎に各温度での350 nmの光に対して透過率(%)を測定し、100−透過率(%) = 濁度(%)としてプロットしたグラフである。(吸光光度計による透過率測定in H2O, Turbidity = [100−Transmittance(%)], 5℃/5 min間隔,波長 350 nm, セル長 1.0 mm, 濃度 △ 10 mg/mL, ■ 30 mg/mL, ● 50 mg/mL).
【図15】図15は本発明の一実施態様である、Boc-(Ala-Ile-Gly-Lac-Pro)6-Leu-Phe-OPEG5000-OMeの水溶液(濃度は図中に記載)を1 mm厚の石英製吸収スペクトル用セルに入れ、5℃/5分の速度で温度を上昇させた。5℃毎に各温度での350 nmの光に対して透過率(%)を測定し、100−透過率(%) = 濁度(%)としてプロットしたグラフである。(吸光光度計による透過率測定in H2O, Turbidity = [100−Transmittance(%)], 5℃/5 min間隔, 波長 350 nm, セル長 1.0 mm, 濃度 △ 5 mg/mL, ■ 10 mg/mL, ● 20 mg/mL).

【特許請求の範囲】
【請求項1】
親水性高分子構造部分と温度応答性を示すデプシペプチド構造部分からなるブロック共重合体。
【請求項2】
親水性高分子構造部分としてポリエチレングリコール鎖を有する請求項1に記載のブロック共重合体。
【請求項3】
下記一般式 (I)または(II)で表される請求項2に記載のブロック共重合体。
Y1−(F1−F2−F3−F4−F5n−Z−PEG (I)
Y1−(F1−F2−F3−F4−F5−F6n−Z−PEG (II)
(式中、Y1はデプシペプチド構造部分の末端に結合した疎水性修飾基を表し、F1、F2、F3、F4、F5およびF6はアミノ酸またはヒドロキシカルボン酸の残基を表し、式 (I)ではF1、F2、F3、F4およびF5の少なくとも1つ、式 (II)ではF1、F2、F3、F4、F5およびF6の少なくとも1つがヒドロキシカルボン酸残基を表し、nは2〜20の整数であり、PEGは一つまたは複数のポリエチレングリコール鎖を表し、Zはデプシペプチド構造部分とポリエチレングリコール構造を連結するスペーサー又は単結合を表す。)
【請求項4】
ヒドロキシカルボン酸がバリン酸または乳酸である、請求項3に記載のブロック共重合体。
【請求項5】
式(I)におけるF1−F2−F3−F4−F5が-Xaa1-Xaa2-Gly-Lac-Pro- および/または -Xaa1-Xaa2-Gly-Hmb-Pro- であり、式(II)におけるF1−F2−F3−F4−F5−F6が-Xaa1-Xaa2-Gly-Hmb-Ala-Pro-である、請求項3に記載のブロック共重合体(Xaa1、Xaa2は任意のアミノ酸残基を示し、Hmbは式(III)で示されるバリン酸残基を表し、Lacは式(IV)で示される乳酸残基を表す)。
【化1】

【請求項6】
式(I)におけるF1−F2−F3−F4−F5が-Ala-Ile-Gly-Lac-Pro-、-Gly-Ile-Gly-Hmb-Pro-または-Gly-Val-Gly-Hmb-Pro-であり、式(II)におけるF1−F2−F3−F4−F5−F6が-Gly-Val-Gly-Hmb-Ala-Pro-である、請求項5に記載のブロック共重合体。
【請求項7】
Zが疎水性アミノ酸又は疎水性アミノ酸からなるペプチド鎖である、請求項3〜6のいずれか一項に記載のブロック共重合体。
【請求項8】
式(V)または式(VI)で表される、請求項1〜7の何れか一項に記載のブロック共重合体。(式中、Y1はデプシペプチド構造部分の末端に結合した疎水性修飾基を表し、Rはポ
リエチレングリコール構造部分の末端に結合した修飾基または水素原子を表し、nは2〜20の整数を表し、mは2〜1000の整数を表す)
【化2】

【請求項9】
担体に固定化された、請求項1〜8の何れか一項に記載のブロック共重合体。
【請求項10】
請求項1〜9の何れか一項に記載のブロック共重合体からなる薬物内包用の担体。
【請求項11】
請求項1〜9の何れか一項に記載のブロック共重合体を、水、緩衝液、食塩水、または含水有機溶媒と混合することにより得られる、溶媒和、ゲル、懸濁物、均一な溶液、または相分離状態を形成する組成物。
【請求項12】
請求項1〜9の何れか一項に記載のブロック共重合体と薬剤を含む、医薬組成物。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【公開番号】特開2009−102488(P2009−102488A)
【公開日】平成21年5月14日(2009.5.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−274258(P2007−274258)
【出願日】平成19年10月22日(2007.10.22)
【出願人】(504145364)国立大学法人群馬大学 (352)
【Fターム(参考)】