説明

温度検出器および温度検出器を備えた水素充填システム

【課題】水素暴露して劣化したセンサ素子の出力を補正して水素充填時の温度を測定する温度検出器を備えた水素充填システムを提供する。
【解決手段】温度検出器を備えた水素充填システムは、水素充填用のタンク10と、タンク10に水素を充填するためのガス流路を備えたバルブ12と、タンク10内のバルブ12に取り付けられた温度センサ100aと、タンク10の内壁に設けられた温度センサ100bと、温度センサ100a,100bから出力される測定温度を基に水素暴露されていないセンサ素子を有する温度センサの出力を基に水素暴露されたセンサ素子を有する温度センサの出力を補正する補正手段を備えた制御部30とを有する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、温度検出器および温度検出器を備えた水素充填システムに関する。
【背景技術】
【0002】
温度を検出するためのセンサ素子を有する温度センサは、例えば、センサ素子が暴露状態で劣化するおそれのある環境下では、センサ素子を被覆するために、センサ素子を温度検出可能なハウジング内に収容し、ハウジングの開口部を密閉するためにろう付け処理が施される。
【0003】
一方、特許文献1には、温度センサにおいて、センサ素子を収容する保護管の溶接不具合を防止するため、保護管より径の大きい支持管内に保護管の開放端を挿入し、肉厚の支持管の一端と保護管の外周とをろう付けした後、肉厚の支持管と肉厚のハウジングの溶接筒部とを溶接加工することが提案されている。
【0004】
なお、特許文献2には、サーミスタなどの素子の所定温度における抵抗値を基準抵抗の値を基に校正処理し、温度測定を行う温度検出器が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2005−283425号公報
【特許文献2】特開平7−55588号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところで、上述したろう付け処理により形成されたろう付け部に、ボイドが発生してしまうことがある。但し、通常、温度センサが収容されたハウジングの内部空間とハウジングの外部雰囲気とが連通するようなボイドは発生しないが、時として、ハウジングの内部空間とハウジングの外部とが連通するような連通ボイドが生じてしまった場合があり、かかる場合、温度センサのセンサ素子が劣化するおそれがある。
【0007】
本発明は、上記課題に鑑みなされたものであり、ある温度センサのろう付け部に連通ボイドが発生しセンサ素子が劣化したとしても、劣化したセンサ素子の出力を補正して、精度の高い温度測定を可能にする温度検出器および該温度検出器を備えた水素充填システムを提供する。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記目的を達成するために、本発明の温度検出器および温度検出器を備えた水素充填システムは以下の特徴を有する。
【0009】
(1)温度を検出するためのセンサ素子と、前記センサ素子をろう付けされ密閉された空間内に備える複数の温度センサと、水素雰囲気内に設けられる複数の温度センサの中で検出温度の高い温度センサの出力を基に他の温度センサの出力を補正する補正手段と、を有する温度検出器である。
【0010】
仮に、ある温度センサのろう付け部に連通ボイドが発生しセンサ素子が劣化したとしても、連通ボイドが発生していない他の温度センサのセンサ素子の出力を基に、劣化したセンサ素子の出力を補正して、高精度な温度測定が行われる。
【0011】
(2)上記(1)に記載の温度検出器において、前記センサ素子は、温度によって抵抗値が変わるセンサ素子であり、前記補正手段は、複数の温度センサの中で検出温度の高い温度センサのセンサ素子の抵抗値に応じて、他の温度センサのセンサ素子の抵抗値を補正する温度検出器である。
【0012】
センサ素子が還元作用によりその特性が変化するものである場合、そのセンサ素子が水素に暴露され還元されてしまうと、そのセンサ素子の抵抗値が高くなり、その結果、検出温度が、実際の温度より低く出力されてしまう。一方、水素暴露により還元されていないセンサ素子は、還元されたセンサ素子に比べ、センサ素子の抵抗値が低く、検出温度が高い。そこで、検出温度の高い温度センサのセンサ素子の抵抗値を基に他のセンサ素子の抵抗値を補正することにより、高精度の温度測定が可能な温度検出器を提供することができる。
【0013】
(3)上記(1)または(2)に記載の温度検出器を備える水素充填システムである。
【0014】
例えば、タンク内に高圧で水素を充填する場合、タンクの内部温度を予め設定された上限温度以下で精度よく水素充填圧を制御しながら水素を充填することができる。
【0015】
(4)水素充填用の少なくとも1本以上のタンクと、温度を検出するためのセンサ素子をろう付けされ密閉された空間内に備えるとともに前記タンク内に少なくとも1つ以上設けられる複数の温度センサと、複数の温度センサの中で検出温度の高い温度センサを基に他の温度センサを補正する補正手段と、を備える水素充填システムである。
【0016】
例えば、タンク外にタンク内部温度の基準とすべき温度センサがない場合であっても、タンク内に高圧で水素を充填する場合、タンクの内部温度を予め設定された上限温度以下で精度よく水素充填圧を制御しながら水素を充填することができる。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、例えば、ある温度センサのろう付け部に連通ボイドが発生しセンサ素子が劣化したとしても、劣化したセンサ素子の出力を補正して、精度の高い温度測定が行える。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】本発明における一実施形態である水素充填システムの概略を示す構成図である。
【図2】本発明における他の実施形態である水素充填システムの概略を示す構成図である。
【図3】図1の破線で囲ったA部分の拡大概略断面図である。
【図4】図3のI−I線に沿った断面を用いてろう付け部に発生するボイドを説明するための図である。
【図5】本発明におけるろう付け部の構造の一例を説明するための図である。
【図6】本発明におけるろう付け部の構造の他の例を説明するための図である。
【図7】本発明におけるろう付け部の構造の他の例を説明するための図である。
【図8】図7のII−IIに沿った線に沿った断面図である。
【図9】本発明におけるろう付け部の構造の他の例を説明するための図である。
【図10】本発明における補正手段の補正の一例を説明するための図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、本発明の実施形態について、図面に基づいて説明する。
【0020】
[第1の実施の形態]
図1に示すように、本発明における一実施形態である水素充填システムは、水素充填用の耐圧構造を有するタンク10と、タンク10に水素を充填するためのガス流路を備えたバルブ12と、バルブ12を流通するガス圧力を制御するレギュレータ14と、水素を充填するためのプラグと結合可能なレセプタクル16と、タンク10内のバルブ12に取り付けられた温度センサ100と、温度センサ100から出力される測定温度を基にレギュレータ14のガス圧を制御するとともに温度センサ100の出力を補正する補正手段を備えた制御部30とを有する。
【0021】
また、タンク10内のバルブ12に装着された温度センサ100は、図3に示すように、熱伝導性を有する素材からなるハウジング22と、ハウジング22の空間内に備えられた温度検出用のセンサ素子20と、ハウジング22の開口部をろう付け部40を介して密閉するための蓋24とを有する。なお、センサ素子20からの出力は、図3に示されていない信号線によって図1の制御部30に送信されている。ここで、ハウジング22は、例えば金属製の素材を用いることができる。
【0022】
ろう付け部40を形成するためのろう材としては、接合する部材(母材)であるハウジング22や蓋24に用いる金属よりも融点の低い合金(ろう)を用い、例えば、銀、銅、亜鉛を主成分とする銀ろう、銅と亜鉛が主成分とする銅ろう・黄銅ろう、銅と5%から8%のリンを主成分とするりん銅ろう、アルミろう、金ろうなどを用いることができる。なお、銀ろうには、カドミウム、ニッケルを添加したものもある。
【0023】
時として、ろう付け処理により形成されたろう付け部40には、図4に示すように、ボイド50が発生してしまうことがあるが、通常、温度センサが収容されたハウジングの内部空間とハウジングの外部雰囲気とを連通するようなボイドは発生しない。しかし、ろう付け部40に、ハウジングの内部空間とハウジングの外部とが連通するような連通ボイド52が生じてしまう場合もあり、かかる場合、温度センサのセンサ素子が劣化するおそれがある。なお、ボイド50および連通ボイド52は、X線により観察することが可能である。
【0024】
ここで、図1に示すタンク10内に設けられた温度センサ100内のセンサ素子が温度によって抵抗値が変わるセンサ素子であって、還元作用によりその特性が変化するものである場合、そのセンサ素子が水素に暴露され還元されてしまうと、そのセンサ素子の抵抗値が高くなり、その結果、検出温度が、実際の温度より低く出力されてしまう。
【0025】
ところで、通常、燃料電池を搭載した車両等の移動体には、燃料ガスである水素ガスを充填可能な複数本のタンク10が載せられている。また、水素暴露により還元されていないセンサ素子は、還元されたセンサ素子に比べ、センサ素子の抵抗値が低く、検出温度が高い。そこで、本実施の形態における水素充填システムでは、複数本のタンク10にそれぞれに設けられた温度センサの中で、検出温度の高い温度センサのセンサ素子の抵抗値を基に、制御部30内の補正手段において他のタンク10に備えられた他のセンサ素子の抵抗値を補正し、仮に、1つのセンサ素子が劣化した場合であっても、他のセンサ素子の出力により補完し、精度高く温度測定を行うことができる。その結果、タンク10外にタンク10の内部温度の基準とすべき温度センサがない場合であっても、タンク10内に高圧で水素を充填する場合に、タンクの内部温度を予め設定された上限温度以下で精度よく水素充填圧を制御しながら水素を充填することができる。
【0026】
本実施の形態の制御部30内の補正手段は、図10に一例を示すように、測定温度と抵抗値の関係を用い、実線で示した還元されていないセンサ素子から出力される抵抗値を基準にして、破線で示した還元されたセンサ素子の抵抗値を補正して、各タンク10に備えられた温度センサ100の出力を補正することによって、より正確な各タンク10の内部温度を検出可能にしている。
【0027】
また、本実施の形態における温度検出器は、図1,図3に示すように、温度を検出するためのセンサ素子20と、複数本のタンク10内の水素雰囲気内に設けられ且つセンサ素子20をろう付けされ密閉された空間内に備える複数の温度センサ100と、複数の温度センサ100の中で検出温度の高い温度センサの出力を基に他の温度センサの出力を補正する、制御部30内に設けられた補正手段と、を有する。また、上述したように、センサ素子が温度によって抵抗値が変わるセンサ素子である場合、制御部30内の補正手段は、複数の温度センサ100の中で検出温度の高い温度センサのセンサ素子の抵抗値に応じて、他の温度センサのセンサ素子の抵抗値を補正している。
【0028】
[第2の実施の形態]
図2に示すように、第2の実施の形態における水素充填システムは、水素充填用の耐圧構造を有するタンク10と、タンク10に水素を充填するためのガス流路を備えたバルブ12と、バルブ12を流通するガス圧力を制御するレギュレータ14と、水素を充填するためのプラグと結合可能なレセプタクル16と、タンク10内のバルブ12に取り付けられた温度センサ100aと、タンク10の内壁に設けられた温度センサ100bと、温度センサ100a,100bから出力される測定温度を基にレギュレータ14のガス圧を制御するとともに温度センサ100a,100bの出力を補正する補正手段を備えた制御部30とを有する。
【0029】
第2の実施の形態における水素充填システムは、1本のタンク10内でいずれかの温度センサが劣化した場合に、他の温度センサの出力に応じて補正を行うことができる。なお、温度センサ100a,100bの構成は、第1の実施の形態で説明した、図1に示すセンサ100と同じであるため、同じ構成に同じ符号を付してその説明を省略する。
【0030】
図2に示す制御部30の補正手段は、図2に示すタンク10内に設けられた温度センサ100a,100b内のセンサ素子が温度によって抵抗値が変わるセンサ素子であって、還元作用によりその特性が変化するものである場合、1本のタンク10に備えられた温度センサ100a,100bの中で、検出温度の高い温度センサのセンサ素子の抵抗値を基に、他のセンサ素子の抵抗値を補正し、仮に、1つのセンサ素子が劣化した場合であっても、他のセンサ素子の出力により補完し、図10に一例を示すように、測定温度と抵抗値の関係を用い、実線で示した還元されていないセンサ素子から出力される抵抗値を基準にして、破線で示した還元されたセンサ素子の抵抗値を補正して、1本のタンク10に備えれた温度センサ100a,100bのいずれかの出力を補正することによって、より正確なタンク10の内部温度を検出可能にしている。
【0031】
これにより、第2の実施の形態における水素充填システムは、タンク10外にタンク10の内部温度の基準とすべき温度センサがない場合であっても、タンク10内に高圧で水素を充填する場合に、タンクの内部温度を予め設定された上限温度以下で精度よく水素充填圧を制御しながら水素を充填することができる。
【0032】
また、本実施の形態における温度検出器は、図2,図3に示すように、温度を検出するためのセンサ素子20と、1本のタンク10内の水素雰囲気内に設けられ且つセンサ素子20をろう付けされ密閉された空間内に備える複数の温度センサ100a,100bと、複数の温度センサ100a,100bの中で検出温度の高い温度センサの出力を基に他の温度センサの出力を補正する、制御部30内に設けられた補正手段と、を有する。また、上述したように、センサ素子が温度によって抵抗値が変わるセンサ素子である場合、制御部30内の補正手段は、複数の温度センサ100a,100bの中で検出温度の高い温度センサのセンサ素子の抵抗値に応じて、他の温度センサのセンサ素子の抵抗値を補正している。
【0033】
また、第1の実施の形態および第2の実施の形態におけるろう付け部40は、以下に示すろう付けシートを用いて、ろう付け処理時の連通ボイドの発生を低減させることができる。
【0034】
まず、ろう付けシートの第1の例として、図5に示すように、ハウジングの開口端全体を覆うサイズの第1のろう付けシート41と、ハウジングの開口端の肉厚幅より狭い幅を有する第2のろう付けシート42とを用い、幅の異なる第1のろう付けシート41と第2のろう付けシート42とを2枚重ね、ろう付けシートの二重個所とハウジングおよび蓋との接合面での圧力を他の個所に比べ増加させることによって、図5の白抜き矢印で示したように、ハウジング22の内部空間方向または外部方向にボイドを移動させて、ろう付け処理を行う。これにより、ろう付け部において連通ボイドの形成が抑制される。
【0035】
また、ろう付けシートの第2の例として、図6に示すように、ろう付けシート43は、その厚みに勾配が設けられ、例えば、ハウジング22の内部空間に相当する中央部分からハウジングの外側に行くにつれて、その厚みが薄くなっている。したがって、センサ素子20が設けられた内部空間に近い側で、ろう付けシート43とハウジング22および蓋24との接合面の圧力は最も増大し、ハウジング22の外部方向に行くにつれて接合面の圧力が相対的に低くなり、その結果、図6の白抜き矢印で示したように、ボイドをハウジング22の外側方向に移動させて、ろう付け処理を行う。これにより、ろう付け部において連通ボイドの形成が抑制される。
【0036】
また、ろう付けシートの第3の例として、図7および図8に示すように、断面が略円状のリング状のろう付けシート44を用い、一方、ハウジング22の開放端に略半円状の溝26を形成し、この略半円状の溝26に上記リング状のろう付けシート44を装着して、ろう付け処理を行うことにより、ろう付けシート44とハウジング22および蓋24との接合面の圧力が溝26の最下部で最大になる。その結果、図7の白抜き矢印で示すように、ボイドをハウジング22の内部空間方向または外部方向に移動させ、ろう付け処理が行われる。これにより、ろう付け部において連通ボイドの形成が抑制される。
【0037】
また、図9に示すように、ハウジング22の開放端の外周より小さい外周を有する蓋28を用い、ハウジング22と蓋28に段差部を設ける。このようなハウジング22と蓋28をろう付けすることによって形成されたろう付け部45は、図9の破線で囲んだ部分Xに示すように、ろう流れによりたまりがハウジング22の開放端の外周に形成される。こにより、ろう付け部45において連通ボイドの形成が抑制される。
【産業上の利用可能性】
【0038】
本発明は、高圧水素環境下における温度検出器、およびその温度検出器を備える分野に利用可能であるが、例えば燃料電池を搭載した車両にも利用可能である。
【符号の説明】
【0039】
10 タンク、12 バルブ、14 レギュレータ、16 レセプタクル、20 センサ素子、22 ハウジング、24,28 蓋、26 溝、30 制御部、40,45 ろう付け部、41,42,43,44 ろう付けシート、50 ボイド、52 連通ボイド、100,100a,100b 温度センサ。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
温度を検出するためのセンサ素子と、
前記センサ素子をろう付けされ密閉された空間内に備える複数の温度センサと、
水素雰囲気内に設けられる複数の温度センサの中で検出温度の高い温度センサの出力を基に他の温度センサの出力を補正する補正手段と、を有することを特徴とする温度検出器。
【請求項2】
請求項1に記載の温度検出器において、
前記センサ素子は、温度によって抵抗値が変わるセンサ素子であり、
前記補正手段は、複数の温度センサの中で検出温度の高い温度センサのセンサ素子の抵抗値に応じて、他の温度センサのセンサ素子の抵抗値を補正することを特徴とする温度検出器。
【請求項3】
請求項1または請求項2に記載の温度検出器を備えることを特徴とする水素充填システム。
【請求項4】
水素充填用の少なくとも1本以上のタンクと、
温度を検出するためのセンサ素子をろう付けされ密閉された空間内に備えるとともに前記タンク内に少なくとも1つ以上設けられる複数の温度センサと、
複数の温度センサの中で検出温度の高い温度センサを基に他の温度センサを補正する補正手段と、を備えることを特徴とする水素充填システム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2010−266206(P2010−266206A)
【公開日】平成22年11月25日(2010.11.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−115120(P2009−115120)
【出願日】平成21年5月12日(2009.5.12)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】