説明

温度測定時に好適な着色融着性電線

【課題】加熱により融着性電線を融着する際、非接触表面温度測定器により温度測定を行う場合、温度測定時のピントを安定化することが容易になり、例えば撚り線の色目による測定値のバラツキを抑えることができる温度測定時に好適な着色融着性電線を提供する。
【解決手段】導体1の外周にフッ素系樹脂絶縁体2を設け、この外周に加熱による接着が可能で着色されている熱可塑性樹脂を被覆した着色接着層3aを設け、非接触表面温度測定器による温度測定時に好適とした着色融着性電線10aとする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、融着性電線に関するものである。更に詳しくは、導体の外周にフッ素系樹脂絶縁体を設け、更にこの外周に接着層を有する融着性電線において、被測定物の表面温度を非接触で求める測定器による温度測定時に好適な着色融着性電線に関するものである。
【背景技術】
【0002】
導体として単線または撚り線、例えばリッツ線の外周に絶縁体を設け、更にこの外周に加熱による接着が可能な熱可塑性樹脂を接着層として設けてなる融着性電線は、該電線を所定形状のコイルに巻線後、熱風または通電等で加熱することにより接着層を溶融し、線間同士を融着固化させることによりコイル体が強固に一体化されたものとなるので、各種電子機器のコイル用線材として多用されている。
また融着性電線に着色する技術は従来から広く行われていたが、識別、外観を目的としたものであり、殆どの場合、絶縁体に着色していた。また接着層の多くは自然色(透明)であった。なお温度測定時に好適な融着性電線や融着性電線の接着層に着色する特許文献は見当たらなかったが、絶縁電線の識別を目的とした着色絶縁電線としては、例えば下記特許文献1が挙げられる。
【特許文献1】特開2002−216548
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
融着性電線を加熱により融着する際に温度測定を行う場合、ある温度の物質(被測定物)の放射エネルギー量を測定して被測定物の表面温度を非接触で求める測定器である放射温度計、或は赤外線を用いて被測定物の表面温度を非接触で求めるサーモグラフィー(赤外線熱画像装置)等を使用する場合があるが、絶縁層および接着層が透明な場合、(1)温度測定時のピントの位置が不安定になり易い。(2)導体としての撚り線(以下、下コアともいう)の色目がばらついた場合、測定結果が不安定になる。等の問題点があった。
本発明は、上記従来技術が有する各種問題点を解決するためになされたものであり、加熱により融着性電線を融着する際、被測定物の表面温度を非接触で求める測定器により温度測定を行う場合、温度測定時のピントを安定化することが容易になり、例えば撚り線の色目による測定値のバラツキを抑えることができる温度測定時に好適な着色融着性電線を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0004】
第1の観点として本発明は、導体の外周にフッ素系樹脂絶縁体を設け、この外周に加熱による接着が可能で着色されている熱可塑性樹脂を被覆した着色接着層を設け、被測定物の表面温度を非接触で求める測定器(以下、非接触表面温度測定器と略記する)による温度測定時に好適としたことを特徴とする温度測定時に好適な着色融着性電線(以下、着色融着性電線と略記する)にある。
上記導体としては、銅線、めっき線等の単線、これらの複数本を撚り合わせた撚り線、またはエナメル銅線、好ましくは耐熱性エナメル銅線、例えばポリアミドイミド銅線、ポリエステルイミド銅線、ポリイミド銅線等の複数本を撚り合わせた撚り線を用いることができる。また上記フッ素系樹脂絶縁体と着色接着層の構成例としては、着色接着層もフッ素系樹脂を用いると耐熱性及び電気的特性が良好となるので好ましく、フッ素系樹脂絶縁体としてPFA(四フッ化エチレン‐パーフロロアルキルビニルエーテル共重合体樹脂)(融点305℃)を用い、着色接着層として黒色のFEP(四フッ化エチレン‐六フッ化プロピレン共重合体樹脂)(融点260℃)或は黒色のETFE(四フッ化エチレン‐エチレン共重合体樹脂)(融点270℃)を用いることができる。
また上記非接触表面温度測定器としては、放射温度計、例えばミノルタカメラ社製のIR−0506C、或はサーモグラフィー、例えば日本アビオニクス社製のサーマルビデオシステムTVS−IEEE1394等が挙げられる。
上記第1観点の着色融着性電線では、接着層を着色することにより、非接触表面温度測定器による温度測定時のピントを安定化することが容易になり、例えば撚り線表面の色目による測定値バラツキも抑えることができる。
【0005】
第2の観点として本発明は、導体の外周にフッ素系樹脂絶縁体を設け、この外周に加熱による接着が可能で着色されている熱可塑性樹脂からなるテープを巻回した着色接着テープ巻回層を設け、被測定物の表面温度を非接触で求める測定器による温度測定時に好適としたことを特徴とする温度測定時に好適な着色融着性電線にある。
上記フッ素系樹脂絶縁体と着色接着テープの構成例としては、フッ素系樹脂絶縁体としてPFAを用い、着色接着テープとして黒色のETFEテープを用いることができる。
上記第2観点の着色融着性電線では、着色接着テープ巻回層を設けることにより、上記第1観点の着色融着性電線と同様、非接触表面温度測定器による温度測定時のピントを安定化することが容易になる。
【0006】
第3の観点として本発明は、導体の外周にフッ素系樹脂絶縁体を設け、この外周に加熱による接着が可能な熱可塑性樹脂を被覆して接着層を設け、更にこの外周に着色されているプラスチック樹脂テープをギャップ巻きした着色テープギャップ巻層を設け、被測定物の表面温度を非接触で求める測定器による温度測定時に好適としたことを特徴とする温度測定時に好適な着色融着性電線にある。
上記フッ素系樹脂絶縁体と接着層の構成例としては、フッ素樹脂絶縁体としてPFA(融点305℃)を用い、接着層としてFEP(融点260℃)を用い、また着色プラスチックテープとしては、着色された各種エンジニアリングプラスチックテープ、例えばポリエステルテープ、ポリイミドテープ等を用いることができる。また前記プラスチックテープのギャップ巻きは、テープとテープのギャップ間に露出した接着層面との面積比が3:1〜1:3程度あれば線同士の接着が良好に行える。
上記第3観点の着色融着性電線では、着色テープギャップ巻層を設けることにより、上記第1、2観点の着色融着性電線と同様、非接触表面温度測定器による温度測定時のピントを安定化することが容易になる。なお本観点の着色融着性電線は、接着層に着色するのが好ましくないときに特に有用である。
【0007】
第4の観点として本発明は、導体の外周にフッ素系樹脂絶縁体を設け、この外周に、着色プラスチック樹脂テープ体の片面に、加熱による接着が可能な熱可塑性樹脂接着体を設けた接着体付き着色プラスチック樹脂テープを巻回した接着体付き着色テープ巻回層を設け、被測定物の表面温度を非接触で求める測定器による温度測定時に好適としたことを特徴とする温度測定時に好適な着色融着性電線にある。
上記フッ素系樹脂絶縁体としては、PFA(融点305℃)を用いることができる。接着体付き着色プラスチック樹脂テープの着色プラスチックテープ体としては、着色された各種エンジニアリングプラスチックテープ、例えばポリエステルテープ、ポリイミドテープ等を用いることができ、また接着体としてはフッ素系樹脂絶縁体よりも融点の低い熱可塑性樹脂、例えば熱可塑性エラストマーを用いることができる。
上記第4観点の着色融着性電線では、接着体付き着色テープ巻回層を設けることにより、上記第1、2、3観点の着色融着性電線と同様、非接触表面温度測定器による温度測定時のピントを安定化することが容易になる。
【発明の効果】
【0008】
本発明の着色融着性電線によれば、融着性電線を加熱により融着する際、非接触表面温度測定器により温度測定を行う場合、ピントの位置が不安定にならず、例えば下コアの色目がばらついた場合でも、測定結果が不安定にならず安定していた。従って、温度測定が安定して行えるので、所定の温度で良好に融着することが出来、品質の良いコイルが得られる。従って、本発明は産業上に寄与する効果が極めて大である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
以下、本発明の内容を、図に示す実施の形態により更に詳細に説明する。なお、これにより本発明が限定されるものではない。
図1は、本発明の着色融着性電線の第1実施形態(実施例1)を示す断面図である。図2は、本発明の着色融着性電線の第2実施形態(実施例2)を示す一部切欠き側面図である。図3は、本発明の着色融着性電線の第3実施形態(実施例3)を示す一部切欠き側面図である。図4は、本発明の着色融着性電線の第4実施形態(実施例4)を示す略図であり、同図(a)は一部切欠き側面図、また同図(b)は接着体付き着色プラスチック樹脂テープの断面図である。
これらの図において、1は導体(集合撚線)(下コア)、1’は導体(軟銅線)、1aは耐熱性エナメル銅線、2はフッ素系樹脂絶縁体(PFA絶縁体)、3は接着層(熱可塑性樹脂)(FEP接着層)、3aは着色接着層(着色熱可塑性樹脂)(黒色FEP接着層)、3bは着色接着テープ巻回層(着色熱可塑性樹脂テープ)(黒色ETFEテープ接着層)、3cは接着体付き着色プラスチックテープ巻回層(接着体付き着色プラスチックテープ)、4は着色プラスチックテープギャップ巻き体(着色プラスチックテープ)(黒色ポリエステルテープ)、10a,10b,10c,10dは温度測定時に好適な着色融着性電線、sは接着体(熱可塑性エラストマー)、またtは着色プラスチックテープ体(黒色ポリエステルテープ)である。
【実施例1】
【0010】
本発明の着色融着性電線の第1実施例について図1を用いて説明する。
先ず、導体1としての集合撚線を構成する耐熱性エナメル銅線1aとして外径0.07mmのポリアミドイミド銅線を用い、この複数本、例えば500本を束ねて撚って集合撚線1を製造した。次にこの集合撚線1の外周に自然色のPFA(融点305℃)を溶融押出ししてPFA絶縁体2を設け、次にこの絶縁体2の外周に黒色のFEP(融点260℃)を溶融押し出しして黒色FEP接着層3aを設け着色融着性電線10aを製造した。なお、耐熱性エナメル銅線1aとしては、前記ポリアミドイミド銅線の他にポリエステルイミド銅線、ポリイミド銅線等が用いられる。
上記着色融着性電線10aは、加熱により該融着性電線を融着してコイルを製造する際、非接触表面温度測定器により温度測定を行う場合、下コアの色目がばらついた場合でも、黒色FEP接着層3aにより測定結果が安定しており、良好な接着がなされ、品質の良いコイルが得られた。
【実施例2】
【0011】
本発明の着色融着性電線の第2実施例について図2を用いて説明する。
上記実施例1と同様にして、集合撚線1の外周に自然色のPFA(融点305℃)を溶融押出ししてPFA絶縁体2を設けた。次にこの絶縁体2の外周に黒色に着色されているETFE(融点270℃)テープを1/2ラップで重ね巻きして黒色ETFEテープ接着層3bを設け着色融着性電線10bを製造した。
上記着色融着性電線10bは、上記実施例1の融着性電線10aと同様、加熱により該融着性電線を融着してコイルを製造する際、非接触表面温度測定器により温度測定を行う場合、下コアの色目がばらついた場合でも、黒色ETFEテープ接着層3bにより測定結果が安定しており、良好な接着がなされ、品質の良いコイルが得られた。
【実施例3】
【0012】
本発明の着色融着性電線の第3実施例について図3を用いて説明する。
上記実施例1と同様にして、集合撚線1の外周に自然色のPFA(融点305℃)を溶融押出ししてPFA絶縁体2を設けた。次にこの絶縁体2の外周に自然色のFEP(融点260℃)を溶融押出ししてFEP接着層3を設けた。次にこの接着層3の外周に黒色のポリエステルテープ4を、テープとテープのギャップ間に露出した接着層面との面積比が1:1.5になるようにギャップ巻きして着色プラスチックテープギャップ巻き体4を設け、着色融着性電線10cを製造した。
上記着色融着性電線10cは、加熱により該融着性電線を融着してコイルを製造する際、非接触表面温度測定器により温度測定を行う場合、下コアの色目がばらついた場合でも、着色プラスチックテープギャップ巻き体4により測定結果が安定しており、良好な接着がなされ、品質の良いコイルが得られた。なお、上記テープギャップ巻き体4とギャップ巻き体4のギャップ間にFEP接着層3が露出しているので、加熱により接着層3のフッ素樹脂同士の接着が可能となり、コイル成型が可能となっている。
【実施例4】
【0013】
本発明の着色融着性電線の第4実施例について図4を用いて説明する。
導体1’として、軟銅線1’の外周に自然色のPFA(融点305℃)を溶融押出ししてPFA絶縁体2を設けた。次にこの絶縁体2の外周に、着色プラスチックテープ体tとしての黒色ポリエステルテープtの片面に、ポリアミド樹脂系の熱可塑性エラストマー(融点 約150℃)の接着体sを設けた接着体付き着色プラスチックテープ3cを、接着体sを外側にして巻回し、接着体付き着色プラスチックテープ巻回層3cを設け、着色融着性電線10dを製造した。
上記着色融着性電線10dは、加熱により該融着性電線を融着してコイルを製造する際、非接触表面温度測定器により温度測定を行う場合、前記着色プラスチックテープ巻回層3cにより温度測定時のピントの位置が安定しており、良好な接着がなされ、品質の良いコイルが得られた。
【産業上の利用可能性】
【0014】
本発明の融着性電線を通電加熱により融着する際、非接触表面温度測定器により温度測定を行う場合、ピントの位置が不安定にならず、また下コアの色目がばらついた場合でも測定結果が不安定にならず安定する。従って、温度測定が安定して行えるので、所定の温度で良好に融着することが出来、HID点灯装置用コイル等、耐熱性を必要とするコイルにおいても品質の良いコイルが得られる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】本発明の着色融着性電線の第1実施形態(実施例1)を示す断面図である。
【図2】本発明の着色融着性電線の第2実施形態(実施例2)を示す一部切欠き側面図である。
【図3】本発明の着色融着性電線の第3実施形態(実施例3)を示す一部切欠き側面図である。
【図4】本発明の着色融着性電線の第4実施形態(実施例4)を示す略図であり、同図(a)は一部切欠き側面図、また同図(b)は接着体付き着色プラスチック樹脂テープの断面図である。
【符号の説明】
【0016】
1 導体(集合撚線)(下コア)
1’ 導体(軟銅線)
1a 耐熱性エナメル銅線
2 フッ素系樹脂絶縁体(PFA絶縁体)
3 接着層(熱可塑性樹脂)(FEP接着層)
3a 着色接着層(着色熱可塑性樹脂)(黒色FEP接着層)
3b 着色接着テープ巻回層(着色熱可塑性樹脂テープ)(黒色ETFEテープ接着層)
3c 接着体付き着色プラスチックテープ巻回層(接着体付き着色プラスチックテープ)
4 着色プラスチックテープギャップ巻き体(着色プラスチックテープ)(黒色ポリエステルテープ)
10a,10b,10c,10d 温度測定時に好適な着色融着性電線
s 接着体(熱可塑性エラストマー)
t 着色プラスチックテープ体(黒色ポリエステルテープ)


【特許請求の範囲】
【請求項1】
導体の外周にフッ素系樹脂絶縁体を設け、この外周に加熱による接着が可能で着色されている熱可塑性樹脂を被覆した着色接着層を設け、被測定物の表面温度を非接触で求める測定器による温度測定時に好適としたことを特徴とする温度測定時に好適な着色融着性電線。
【請求項2】
導体の外周にフッ素系樹脂絶縁体を設け、この外周に加熱による接着が可能で着色されている熱可塑性樹脂からなるテープを巻回した着色接着テープ巻回層を設け、被測定物の表面温度を非接触で求める測定器による温度測定時に好適としたことを特徴とする温度測定時に好適な着色融着性電線。
【請求項3】
導体の外周にフッ素系樹脂絶縁体を設け、この外周に加熱による接着が可能な熱可塑性樹脂を被覆して接着層を設け、更にこの外周に着色されているプラスチック樹脂テープをギャップ巻きした着色テープギャップ巻層を設け、被測定物の表面温度を非接触で求める測定器による温度測定時に好適としたことを特徴とする温度測定時に好適な着色融着性電線。
【請求項4】
導体の外周にフッ素系樹脂絶縁体を設け、この外周に、着色プラスチック樹脂テープ体の片面に、加熱による接着が可能な熱可塑性樹脂接着体を設けた接着体付き着色プラスチック樹脂テープを巻回した接着体付き着色テープ巻回層を設け、被測定物の表面温度を非接触で求める測定器による温度測定時に好適としたことを特徴とする温度測定時に好適な着色融着性電線。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2006−4681(P2006−4681A)
【公開日】平成18年1月5日(2006.1.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−177685(P2004−177685)
【出願日】平成16年6月16日(2004.6.16)
【出願人】(000003414)東京特殊電線株式会社 (173)
【Fターム(参考)】