説明

温度表示体

【課題】人体に対して有害な成分を含まず、100℃以上という高温においても被加熱体の温度変化を表示できる温度表示体を提供すること。
【解決手段】被加熱体11と、その表面の少なくとも一部に設けられた熱可逆性変色膜15とからなる温度表示体1である。熱可逆性変色膜15は、ジルコン・プラセオジウム系顔料と、接着成分とを含有する。接着成分としては、ガラス成分を含有することができる。また、接着成分として耐熱樹脂成分を含有することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、被加熱体と、該被加熱体の表面に設けられた熱可逆性変色膜とからなる温度表示体に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、例えば図4に示すごとく、IHヒーターやラジエントヒーター等の加熱装置91を内蔵する、電磁調理器等の加熱調理器9が用いられていた。加熱調理器9の上部には、ガラスやセラミックス等からなる調理器用トッププレート95が配置される。IHヒーターの場合においては、この調理器用トッププレート95に、鍋やフライパン等の調理容器97が載置され、加熱装置91により直接調理容器97が加熱され、該調理容器97の内部に配置された食材等の被調理物99を加熱調理することができる。
特に、電磁調理器は、ガスコンロ等に比べて安全性が高いため、その需要が増加する傾向にある。近年においては、さらに高い出力を有する200V対応の電磁調理器が急速に普及している。
【0003】
上記加熱調理器にて加熱を行うと、加熱調理器や調理容器等が高温になるため、使用者が接触して火傷等を引き起こすおそれがある。
特に、電磁調理器等においては、火力を視認できるガスコンロ等と異なり、温度変化の認知をすることが困難である。そのため、使用者が、高温であることを認知できないまま加熱調理器や調理容器に接触し火傷などを起こすおそれがある。これを回避するために、加熱調理器のトッププレート等には、硫化カドミウム等を含有する温度表示体を形成することが行われていた(特許文献1参照)。この温度表示体は、温度により可逆的に変色する性質を有するため、電磁調理器のトッププレート等や鍋やフライパン等の調理容器の温度を視認することができる。
【0004】
しかしながら、上記従来の温度表示体は、人体に有害なカドミウム等を含有するものであった。そのため、調理器周りに使用することには食品衛生法上においても懸念があった。
また、従来の温度表示体においては、カドミニウム以外の金属を含有するものも開発されている。しかしながら、このような温度表示体は、発色が薄く、温度変化を充分に表示することができず、実用に至るものではなかった。また、従来の温度表示体は、せいぜい数十℃程度の温度までしか変色を起こすことができなかった。そのため、例えば200V対応の電磁調理器等のように、100℃以上の高温で使用される加熱調理器においては、その温度表示を充分に行うことができないという問題があった。
【0005】
【特許文献1】特開2002−146242号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は係る問題点に鑑みてなされたものであって、人体に対して有害な成分を含まず、100℃以上という高温においても被加熱体の温度変化を表示できる温度表示体を提供しようとするものである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、被加熱体と、該被加熱体の表面の少なくとも一部に設けられた熱可逆性変色膜とからなる温度表示体であって、
上記熱可逆性変色膜は、ジルコン・プラセオジウム系顔料と、接着成分とを含有することを特徴とする温度表示体にある(請求項1)。
【0008】
本発明の温度表示体において最も注目すべき点は、上記熱可逆性変色膜がジルコン・プラセオジウム系顔料を含有する点にある。
そのため、上記熱可逆性変色膜は、例えば温度100℃〜300℃という高温領域において、上記被加熱体の温度変化に応じて上記熱可逆性変色膜の色を可逆的に変化させることができる。それ故、上記温度表示体は、高温領域において、その温度変化を可視的に表示することができる。
【0009】
また、上記熱可逆性変色膜は、カドミウム等の人体に有害な成分を含有していない。そのため、人体に対して安全性が高い。
さらに、上記熱可逆性変色膜は、接着成分を含有している。そのため、上記熱可逆性変色膜は、上記被加熱体との密着性に優れている。それ故、上記温度表示体においては、上記熱可逆性変色膜が上記被加熱体から剥がれ難く、耐久性に優れている。
【0010】
このように本発明によれば、人体に対して有害な成分を含まず、100℃以上という高温においても被加熱体の温度変化を表示できる温度表示体を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
次に、本発明の実施の形態について説明する。
本発明において、上記被加熱体としては、例えばホーロー鍋、土鍋、土瓶、急須、やかん、フライパン等の調理容器、電磁調理器、ラジエントヒーター、ハロゲンヒーター等の加熱調理器のガラス又はセラミックス等からなるトッププレート等がある。
【0012】
上記温度表示体は、上記被加熱体と該被加熱体の表面の少なくとも一部に形成された熱可逆性変色膜とからなる。
上記熱可逆性変色膜は、ジルコン・プラセオジウム系顔料と接着成分とを含有する。
上記ジルコン・プラセオジウム系顔料は、ジルコンの結晶格子間にプラセオジウムが固溶した物質からなっている。この物質の主たる色は黄色であるが、他の遷移金属酸化物を添加することにより、少なからず発色の色調を変更することができる。
【0013】
また、上記熱可逆性変色膜は、上記接着成分としてガラス成分を含有することができる(請求項2)。
この場合には、上記熱可逆性変色膜は、例えば150℃以上という高温になり易い被加熱体に適したものとなる。具体的には、例えばホーロー鍋、ホットプレート等の金属製の被加熱体、あるいは土瓶、急須等の被加熱体、あるいはガラス又はセラミックス等からなる、加熱調理器のトッププレート等の被加熱体に適したものとなる。
【0014】
上記熱可逆性変色膜は、上記ジルコン・プラセオジウム系顔料60〜95重量部と、ガラス粉末5〜40重量部とを含有する変色ガラス材料を上被加熱体に焼き付けてなることが好ましい(請求項3)。
上記ジルコン・プラセオジウム系顔料が60重量部未満の場合又は上記ガラス粉末が40重量部を超える場合には、上記熱可逆性変色膜が上記被加熱体の温度変化を充分に表示できなくなるおそれがある。一方、上記ジルコン・プラセオジウム系顔料が95重量部を超える場合又は上記ガラス粉末が5重量部未満の場合には、上記熱可逆性変色膜と上記被加熱体との密着性が低下するおそれがある。
上記ガラス粉末としては、例えばホウ珪酸ガラス粉末等がある。
【0015】
また、上記ジルコン・プラセオジウム系顔料と上記ガラス粉末とを含有する上記変色ガラス材料をトッププレート等の上記被加熱体に焼き付ける際には、例えば上記変色ガラス材料とアクリル樹脂等の有機樹脂溶媒とを混合し、ペースト状にしたものをスクリーン印刷等により転写紙に印刷し、印刷したものを上記被加熱体に転写し、その後加熱温度750〜850℃にて、加熱時間5分以上加熱することにより、焼き付けることができる。また、転写紙を用いる代わりに、ペースト状にしたものをスクリーン印刷等により上記被加熱体に直接印刷し、上記のごとく加熱することにより、焼き付けることもできる。
【0016】
上記変色ガラス材料を焼き付ける際の加熱温度が750℃未満の場合、又は加熱時間が5分未満の場合には、加熱後の熱可逆性変色膜と上記被加熱体との密着性が不充分となり、上記熱可逆性変色膜が上記被加熱体から剥がれ易くなるおそれがある。一方、加熱温度が850℃を超える場合には、例えばトッププレート等の被加熱体自体が熱により変形又は変色してしまうおそれがある。
【0017】
また、上記熱可逆性変色膜は、上記接着成分として耐熱樹脂成分を含有することもできる(請求項4)。
この場合には、上記熱可逆性変色膜は、フッ素樹脂等の樹脂で表面がコーティングされたフライパンやホットプレート等の被加熱体に適したものとなる。上記耐熱樹脂成分としては、例えばシリコーン樹脂、フッ素樹脂、アルキド変性シリコーン樹脂、ポリエステル変性シリコーン樹脂、及びエポキシ変性シリコーン樹脂等がある。
【0018】
上記熱可逆性変色膜は、上記ジルコン・プラセオジウム系顔料5〜85重量部と、耐熱樹脂材料15〜95重量部とを含有する変色樹脂材料を上記被加熱体に焼き付けてなることが好ましい(請求項5)。
上記ジルコン・プラセオジウム系顔料が5重量部未満の場合又は上記耐熱樹脂材料が95重量部を超える場合には、上記熱可逆性変色膜が上記被加熱体の温度変化を充分に表示できなくなるおそれがある。一方、上記ジルコン・プラセオジウム系顔料が85重量部を超える場合又は上記耐熱樹脂材料が15重量部未満の場合には、上記熱可逆性変色膜と上記被加熱体との密着性が低下するおそれがある。
【0019】
また、上記ジルコン・プラセオジウム系顔料と上記耐熱樹脂材料とを含有する上記変色樹脂材料をトッププレート等の上記被加熱体に焼き付ける際には、上記変色樹脂材料と例えばキシレンやトルエン等の溶剤とを混合してペースト状にし、ペースト状の変色樹脂材料を上記被加熱体に塗布し、その後加熱温度100〜450℃にて加熱することにより、焼き付けることができる。
加熱温度が100℃未満の場合には、上記変色樹脂材料中の樹脂成分が充分に硬化しないおそれがあり、上記被加熱体との密着性が不充分になるおそれがある。一方、450℃を超える場合には、樹脂成分が炭化し易くなり、上記被加熱体との密着性が低下するおそれがある。
【0020】
次に、上記ジルコン・プラセオジウム系顔料は、ジルコニア(ZrO2)を50〜70重量部、シリカ(SiO2)を50〜30重量部含有すると共に、ZrO2とSiO2との合計量100重量部に対して酸化プラセオジウム(Pr611)を2〜10重量部含有するサーモクロミック素材粉末を加熱してなることが好ましい(請求項6)。
ジルコニア、シリカ、又は酸化プラセオジウムの含有量が上記の範囲から外れる場合には、加熱後にジルコンが充分に生成されず、上記熱可逆性変色膜が上記被加熱体の温度変化を充分に表示できなくなるおそれがある。
【0021】
また、上記ジルコン・プラセオジウム系顔料は、上記サーモクロミック素材粉末を加熱してなる。上記サーモクロミック素材粉末の加熱は、温度900℃〜1200℃にて、30分〜3時間行うことが好ましい。
加熱温度が900℃未満又は加熱時間が30分未満の場合には、合成反応が充分におこらず、未反応原料が残存し、上記ジルコン・プラセオジウム系顔料が充分に合成されないおそれがある。その結果、上記のごとく上記被加熱体に上記熱可逆性変色膜を形成しても、該熱可逆性変色膜の温度変化による色の変化が起こり難くなるおそれがある。一方、加熱温度が1200℃が超える場合又は加熱時間が3時間を超える場合には、ジルコン・プラセオジウム系顔料の合成と共にその焼結が起こり、その後の取り扱いが困難になるおそれがある。
【0022】
上記サーモクロミック素材粉末の加熱によって得らる上記ジルコン・プラセオジウム系顔料は、所望の粒径まで粉砕して用いることができる。ジルコン・プラセオジウム系顔料の粒径としては、平均粒径3〜50μmが好ましい。
平均粒径が3μm未満の場合には、使用には差し支えないものの、粉砕のコストが増大するおそれがある。一方、50μmを超える場合には、上記ジルコン・プラセオジウム系顔料を用いて上記熱可逆性変色膜を形成した場合に、該熱可逆性変色膜の表面に凹凸が発生し、表面の平滑性が損なわれてしまうおそれがある。
【0023】
また、上記サーモクロミック素材粉末は、ZrO2とSiO2との合計量100重量部に対して、ハロゲン化アルカリ金属を3〜10重量部含有することが好ましい(請求項7)。
この場合には、上記サーモクロミック素材粉末を加熱して上記ジルコン・プラセオジウム系顔料を合成する反応を促進させることができる。
ハロゲン化アルカリ金属が3重量部未満の場合には、上述の促進効果が充分に得られないおそれがある。一方、10重量部を超える場合には、反応生成物(ジルコン・プラセオジウム系顔料)の焼結が促進され、その後の取り扱いが困難になるおそれがある。
上記ハロゲン化アルカリ金属としては、例えばフッ化ナトリウム、塩化ナトリウム等がある。
【0024】
また、上記サーモクロミック素材粉末は、ZrO2とSiO2との合計量100重量部に対して、遷移金属酸塩を5〜40重量部含有することが好ましい(請求項8)。
この場合には、遷移金属酸塩中の遷移金属の種類に応じて、上記熱可逆性変色膜の色調を変えることができる。また、この場合には、上記熱可逆性変色膜の温度変化による色の変化を促進させることができる。
上記遷移金属酸塩としては、例えばモリブデン酸アンモニウム(NH4MoO2)、バナジウム酸アンモニウム(NH4VO3)等を用いることができる。
【0025】
上記遷移金属酸塩の含有量が5重量部未満の場合には、遷移金属酸塩を添加して得られる上記熱可逆性変色膜の色調の変化が充分に起こらないおそれがある。また、温度変化による色の変化の促進効果が充分に発揮されないおそれがある。一方、40重量部を超えて添加しても、上述の色の変化に対する促進効果はほとんど得られず、ムダにコストが増大してしまうおそれがある。
【実施例】
【0026】
(実施例1)
次に、本発明の実施例につき、図1を用いて説明する。
図1に示すごとく、本例の温度表示体1は、被加熱体11とその表面の少なくとも一部に設けられた熱可逆性変色膜15とからなる。本例においては、被加熱体11として、加熱調理器19の上部に配置するための調理器用トッププレートを用いた。被加熱体(調理器用トッププレート)11において、鍋等の調理容器を載置する上面には、調理容器を配置する位置を特定するための円形状の配置マーク115が形成されている。本例において、熱可逆性変色膜15は、調理容器等を載置した際に見えなくなることを防止するため、配置マーク115の外側に形成されている。また、熱可逆性変色膜15は、ジルコン・プラセオジウム系顔料と、接着成分としてのガラス成分とを含有する。
【0027】
以下、本例の温度表示体の作製方法について、説明する。
まず、ジルコニア(ZrO2)63.9重量部と、シリカ(SiO2)31.1重量部と、酸化プラセオジウム(Pr611)5重量部と、フッ化ナトリウム(NaF)2重量部と、塩化ナトリウム(NaCl)3重量部と、モリブデン酸アンモニウム((NH4)2MoO2)30重量部とを計り取り、らいかい型乳鉢で充分に混合してサーモクロミック素材粉末を作製した。
【0028】
次いで、サーモクロミック素材粉末を温度1500℃に耐えうる坩堝に投入し、加熱炉にて加熱温度(最高保持温度)900℃にて加熱時間(最高保持温度での保持時間)30分で加熱して合成物を作製した。この合成物をアルミナ玉石と水と共にボールミル中に投入し、5時間粉砕した。粉砕後、水洗し、食塩等の水溶性物質を除去した。その後、箱型乾燥機にて24時間乾燥し、ジルコン・プラセオジウム系顔料を得た。これを試料E1とする。
【0029】
また、本例においては、上記試料E1とはサーモクロミック素材粉末の加熱温度、加熱時間、粉砕時間を変えてさらに17種類のジルコン・プラセオジウム系顔料を作製した。これらをそれぞれ試料E2〜試料E18とする。各試料(試料E1〜試料E18)の組成、加熱温度、加熱時間、粉砕時間をそれぞれ表1に示す。
なお、試料E1〜試料E18の18種類のジルコン・プラセオジウム系顔料はいずれもが鮮やかな黄色を呈していた。
【0030】
【表1】

【0031】
次いで、各試料80重量部と、ホウ珪酸ガラス粉末20重量部とを混合し、さらにアクリル系樹脂、ニトロセルロース系樹脂、エチルセルロース系樹脂、アルキド系樹脂、ブチラール系樹脂とその溶剤(トルエン系、キシレン系、ブタノール系等)と共に、3本ロールミルでよく混合し、18種類のペースト状の変色ガラス材料を作製した。
【0032】
次に、被加熱体として、電磁調理器に使用される結晶化ガラスからなるトッププレートを準備した。図1に示すごとく、トッププレート(被加熱体11)は、鍋やフライパンなどの調理容器を配置するための円形の配置マーク115が形成されたものである。
【0033】
このトッププレートの表面に、上記のようにして作製した18種類の変色ガラス材料それぞれをシルクスクリーン法により印刷した。印刷は、配置マーク115の周囲に円形の危険マーク形成することにより行った。その後、温度830℃にて5分間焼成することにより、変色ガラス材料からなる危険マークをトッププレート(被加熱体11)に焼き付けて、熱可逆性変色膜15を形成した。これにより、図1に示すごとく、被加熱体11と、熱可逆性変色膜15とからなる18種類の温度表示体1(調理器用トッププレート)を作製した。
【0034】
次に、上記のようにして作製した18種類の温度表示体1を電気炉中で温度100℃〜300℃で加熱した。その結果、いずれの温度表示体1においても、温度100℃から300℃に加温されるにつれて、熱可逆性変色膜15が黄色から濃暗色茶色に変化した。さらに、300℃から100℃に冷却すると、いずれの温度表示体1においても濃暗色茶色から黄色に熱可逆性変色膜15の色が変化した。
上記のような熱可逆性変色膜15の色の変化は、加温と冷却とを合計で300サイクル繰り返しても何ら劣化は認められず、温度による可逆的な変色を確認できた。
【0035】
本例の温度表示体は、加熱調理器の上部に配置するための調理器用トッププレートとして用いることができる。
図1に示すごとく、この温度表示体1を、200Vという高出力の電磁調理器(加熱調理器19)の上部に配置し、加熱調理器19の内部の加熱装置(図示略)を作動させて被加熱体11を加熱した。その結果、温度表示体1の熱可逆性変色膜15の色が、上述の加熱炉中で加熱した場合と同様に、黄色から濃暗色茶色に変化した。さらに、加熱装置の作動を停止させて被加熱体を冷却すると、熱可逆性変色膜の色は、濃暗色茶色から再び黄色に変化した。
このように、本例の温度表示体1は、ガスコンロ等と異なり温度変化を視認することが困難な電磁調理器等の加熱調理器において、特に高温領域での温度変化を可視的に表示させることができる。したがって、本例の温度表示体1は、例えば200Vという高出力の電磁調理器のトッププレートとして好適である。
【0036】
また、本例の温度表示体1において、熱可逆性変色膜15は、カドミウム等の有害な成分を含有していない。そのため、人体に対して安全性が高い。
さらに、本例において、熱可逆性変色膜15は、接着成分としてガラス成分を含有している。そのため、熱可逆性変色膜15は、結晶化ガラスからなる被加熱体11との密着性に優れている。それ故、温度表示体1においては、熱可逆性変色膜15が被加熱体11から剥がれ難く、耐久性に優れている。
【0037】
以上のごとく、本例の温度表示体は、人体に対して有害な成分を含まず、100℃以上という高温においても被加熱体の温度変化を表示できる。
【0038】
(実施例2)
本例は、被加熱体としての陶磁器製の鍋に熱可逆性変色膜を形成し、温度表示体を作製する例である。
図2に示すごとく、本例の温度表示体2は、被加熱体21としての陶磁器製の鍋と、その表面の少なくとも一部に設けられた熱可逆性変色膜25とからなる。熱可逆性変色膜25は、実施例1と同様に、ジルコン・プラセオジウム系顔料と接着成分としてのガラス成分とを含有する。
【0039】
まず、実施例1と同様にして、18種類のジルコン・プラセオジウム系顔料(試料E1〜試料E18)を作製した。さらに、実施例1と同様にして、各試料とホウ珪酸ガラス粉末とを混合し、さらにアクリル系樹脂、ニトロセルロース系樹脂、エチルセルロース系樹脂、アルキド系樹脂、ブチラール系樹脂とその溶剤(トルエン系、キシレン系、ブタノール系等)と共に、3本ロールミルでよく混合し、18種類のペースト状の変色ガラス材料を作製した。
【0040】
次に、上記のようにして作製した18種類のペースト状の変色ガラス材料を、それぞれシルクスクリーン法により、デンプンを塗布した厚紙に印刷し、絵模様を形成した。また、被加熱体として陶磁器製の鍋を準備した。次いで、厚紙に印刷された絵模様をハサミで切り取り、水中にて厚紙をスライドさせて剥がし陶磁器製の鍋(被加熱体)の表面に絵模様を添着させ、乾燥させた(絵付け転写法)。その後、絵模様を貼り付けた被加熱体を温度750℃〜850℃にて保持時間5分から10分ほど加熱焼成後冷却し、絵模様を被加熱体に焼き付けて熱可逆性変色膜を形成した。このようにして、図2に示すごとく、被加熱体21(陶磁器製の鍋)とその表面に形成された熱可逆性変色膜25とからなる18種類の温度表示体2を作製した。
【0041】
本例の温度表示体2(陶磁器製の鍋)についても、実施例1と同様に、電気炉中で100℃から300℃まで加熱したところ、実施例1と同様に熱可逆性変色膜25の色が黄色から濃暗茶色に変化した。また、300℃から100まで冷却すると濃暗茶色から黄色へと熱可逆性変色膜25の色が変色した。この色の変化は、実施例1と同様に、加温と冷却とを合計で300サイクル繰り返しても何ら劣化は認められず、温度による可逆的な変色を確認できた。
また、本例の温度表示体2において、熱可逆性変色膜25は、カドミウム等の有害な成分を含んでおらず、人体等に対して安全性が高い。
【0042】
(実施例3)
本例は、実施例1とは異なる組成のサーモクロミック素材粉末を用いて、温度表示体(調理器用トッププレート)を作製する例である。
具体的には、まず、ジルコニア(ZrO2)65重量部と、シリカ(SiO2)35重量部と、酸化プラセオジウム(Pr611)2.5重量部と、フッ化ナトリウム(NaF)5重量部と、塩化ナトリウム(NaCl)10重量部と、バナジウム酸アンモニウム(NH4VO3)7.5重量部とを計り取り、らいかい型乳鉢で充分に混合してサーモクロミック素材粉末を作製した。
【0043】
次いで、実施例1と同様に、サーモクロミック素材粉末を温度1500℃に耐えうる坩堝に投入し、加熱炉にて加熱温度(最高保持温度)900℃にて加熱時間(最高保持温度での保持時間)30分で加熱して合成物を作製した。この合成物をアルミナ玉石と水と共にボールミル中に投入し、5時間粉砕した。粉砕後、水洗し、食塩等の水溶性物質を除去した。その後、箱型乾燥機にて24時間乾燥し、ジルコン・プラセオジウム系顔料を得た。これを試料E19とする。
また、本例においては、上記試料E19とはサーモクロミック素材粉末の加熱温度、加熱時間、粉砕時間を変えてさらに17種類のジルコン・プラセオジウム系顔料を作製した。これらをそれぞれ試料E20〜試料E36とする。各試料(試料E19〜試料E36)の組成、加熱温度、加熱時間、粉砕時間をそれぞれ表2に示す。
なお、試料E19〜試料E36の18種類のジルコン・プラセオジウム系顔料はいずれもがパープル系のうぐいす色を呈していた。
【0044】
【表2】

【0045】
次いで、実施例1と同様にして、各試料と、ホウ珪酸ガラス粉末と、各種樹脂及びその溶剤とを混合し、18種類のペースト状の変色ガラス材料を作製した。続いて、電磁調理器に使用される結晶化ガラスからなるトッププレートを準備し、実施例1と同様にしてこのトッププレートの表面に、上記のようにして作製した18種類の変色ガラス材料それぞれを印刷し、その後、温度830℃に5分間焼成することにより、トッププレート(被加熱体)に変色ガラス材料を焼き付けた。このようにして、被加熱体と、熱可逆性変色膜とからなる18種類の温度表示体(調理器用トッププレート)を作製した。
【0046】
次に、本例において作製した18種類の温度表示体を、実施例1と同様にして電気炉中で温度100℃〜300℃で加熱した。その結果、いずれの温度表示体においても、温度100℃から300℃に加温されるにつれて、熱可逆性変色膜がうぐいす色から暗緑色に変化した。さらに、300℃から100℃に冷却すると、いずれの温度表示体においても暗緑色からうぐいす色に熱可逆性変色膜の色が変化した。この色の変化は、加温と冷却とを合計で300サイクル繰り返しても何ら劣化は認められず、温度による可逆的な変色を確認できた。また、本例の温度表示体においても、実施例1と同様に、熱可逆性変色膜15は、カドミウム等の有害な成分を含んでおらず、人体等に対して安全性が高い。
【0047】
(実施例4)
本例は、実施例3にて作製した18種類のジルコン・プラセオジウム系顔料(試料E19〜試料E36)を用いて、陶磁器製の鍋に熱可逆性変色膜を形成し、温度表示体を作製する例である。
本例の温度表示体は、上記実施例2と同様に、被加熱体として陶磁器製の鍋と、該被加熱体の表面の少なくとも一部に設けられた熱可逆性変色膜とからなるものである。
【0048】
本例の温度表示体の作製にあたっては、まず、実施例3と同様の18種類のジルコン・プラセオジウム系顔料(試料E19〜試料E36)を準備した。さらに、実施例3と同様にして、ホウ珪酸ガラス粉末と、各種樹脂及びその溶剤とを混合し、18種類のペースト状の変色ガラス材料を作製した。
【0049】
次に、上記のようにして作製した18種類のペースト状の変色ガラス材料を、実施例2と同様にシルクスクリーン法によりデンプンを塗布した厚紙に印刷して絵模様を形成し、絵付け転写法により陶磁器製の鍋(被加熱体)の表面に絵模様を添着させ、乾燥させた(。その後、絵模様を貼り付けた被加熱体を温度750℃〜850℃にて保持時間5分から10分ほど加熱焼成後冷却し、絵模様を被加熱体に焼き付けて熱可逆性変色膜を形成した。このようにして被加熱体(陶磁器製の鍋)と該被加熱体の表面に形成された熱可逆性変色膜とからなる18種類の温度表示体を作製した。
【0050】
本例の温度表示体(陶磁器製の鍋)についても、電気炉中で100℃から300℃まで加熱したところ、実施例3と同様に熱可逆性変色膜の色がうぐいす色から暗緑色に変化した。また、300℃から100まで冷却すると暗緑色からうぐいす色へと熱可逆性変色膜の色が変色した。この色の変化は、実施例1と同様に、加温と冷却とを合計で300サイクル繰り返しても何ら劣化は認められず、温度による可逆的な変色を確認できた。
【0051】
(実施例5)
本例は、接着成分として耐熱性樹脂材料を含有する熱可逆性変色膜を形成した温度表示体を作製する例である。
図3に示すごとく、本例の温度表示体1は、被加熱体31と、その表面の少なくとも一部に設けられた熱可逆性変色膜35とからなる温度表示体である。本例において、被加熱体31としては、内表面30がフッ素樹脂でコーティングされたフライパンを用いた。熱可逆性変色膜35は、ジルコン・プラセオジウム系顔料と、接着成分としてのシリコーン樹脂又はフッ素樹脂を含有する。
【0052】
本例の温度表示体3の作製にあたっては、まず、実施例1と同様の試料E1〜試料E18の18種類のジルコン・プラセオジウム系顔料を準備した。次いで、各試料50重量部とシリコン樹脂50重量部とをそれぞれ混合し、溶剤としてキシレン、トルエンを加えて混合して18種類のペースト状の変色樹脂材料を作製した。
【0053】
次に、被加熱体31としてフライパンを準備し、この被加熱体31に各変色樹脂材料を温度300℃にて噴霧塗装した。これにより、被加熱体31の表面に、厚み10μm〜20μmの熱可逆性変色膜35を形成し、温度表示体1を作製した。
本例においても実施例1と同様に、温度表示体3を電気炉中で温度100℃から300℃に加熱したところ、熱可逆性変色膜の色が黄色から濃暗色へ変色し、また300℃から100℃まで冷却すると、濃暗色から黄色へ変化した。
【0054】
また、本例においては、接着成分としてシリコン樹脂の代わりフッ素樹脂を用いて上記と同様にして被加熱体(フライパン)の表面に熱可逆性変色膜を形成した。
即ち、各試料(試料E1〜試料E18)60重量部とフッ素樹脂樹脂40重量部とをそれぞれ混合し、溶剤としてキシレン、トルエンを加えて混合して18種類のペースト状の変色樹脂材料を作製した。
各変色樹脂材料を被加熱体(フライパン)の表面に温度300℃にて噴霧塗装した。これにより、被加熱体の表面に、厚み10μm〜20μmの熱可逆性変色膜を形成し、温度表示体を作製した。
次いで、得られた温度表示体を電気炉中で温度100℃から300℃に加熱したところ、いずれの温度表示体においても熱可逆性変色膜の色が黄色から濃暗色へ変色し、また300℃から100℃まで冷却すると、濃暗色から黄色へ変化した。
また、被加熱体として、フライパンの代わりにホットプレートを用いても同様の結果が得られた。
【0055】
以上のごとく、本例の温度表示体においては、熱可逆性変色膜の接着成分として耐熱性樹脂材料を用いた。この場合においても、熱可逆性変色膜は、100℃以上という高温において被加熱体の温度変化を表示できることがわかる。
【図面の簡単な説明】
【0056】
【図1】実施例1にかかる、被加熱体(調理器用トッププレート)の表面に熱可逆性変色膜を形成した温度表示体を示す説明図。
【図2】実施例2にかかかる、被加熱体(鍋)の表面に熱可逆性変色膜を形成した温度表示体を示す説明図。
【図3】実施例5にかかる、被加熱体(フライパン)の表面に熱可逆性変色膜を形成した温度表示体を示す説明図。
【図4】上部にトッププレートが配置された加熱調理器に調理容器を配置して、被調理物を調理する様子を示す説明図。
【符号の説明】
【0057】
1 温度表示体
11 被加熱体
15 熱可逆性変色膜

【特許請求の範囲】
【請求項1】
被加熱体と、該被加熱体の表面の少なくとも一部に設けられた熱可逆性変色膜とからなる温度表示体であって、
上記熱可逆性変色膜は、ジルコン・プラセオジウム系顔料と、接着成分とを含有することを特徴とする温度表示体。
【請求項2】
請求項1において、上記熱可逆性変色膜は、上記接着成分としてガラス成分を含有することを特徴とする温度表示体。
【請求項3】
請求項2において、上記熱可逆性変色膜は、上記ジルコン・プラセオジウム系顔料60〜95重量部と、ガラス粉末5〜40重量部とを含有する変色ガラス材料を上被加熱体に焼き付けてなることを特徴とする温度表示体。
【請求項4】
請求項1において、上記熱可逆性変色膜は、上記接着成分として耐熱樹脂成分を含有することを特徴とする温度表示体。
【請求項5】
請求項4において、上記熱可逆性変色膜は、上記ジルコン・プラセオジウム系顔料5〜85重量部と、耐熱樹脂成分15〜95重量部とを含有する変色樹脂材料を上記被加熱体に焼き付けてなることを特徴とする温度表示体。
【請求項6】
請求項1〜5のいずれか一項において、上記ジルコン・プラセオジウム系顔料は、ジルコニア(ZrO2)を50〜70重量部、シリカ(SiO2)を30〜50重量部含有すると共に、ZrO2とSiO2との合計量100重量部に対して酸化プラセオジウム(Pr611)を2〜10重量部含有するサーモクロミック素材粉末を加熱してなることを特徴とする温度表示体。
【請求項7】
請求項6において、上記サーモクロミック素材粉末は、ZrO2とSiO2との合計量100重量部に対して、ハロゲン化アルカリ金属を3〜10重量部含有することを特徴とする温度表示体。
【請求項8】
請求項6又は7において、上記サーモクロミック素材粉末は、ZrO2とSiO2との合計量100重量部に対して、遷移金属酸塩を5〜40重量部含有することを特徴とする温度表示体。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2006−104319(P2006−104319A)
【公開日】平成18年4月20日(2006.4.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−292358(P2004−292358)
【出願日】平成16年10月5日(2004.10.5)
【出願人】(000244305)鳴海製陶株式会社 (35)
【Fターム(参考)】