説明

温泉水の選択的メタンガス分離方法及び装置

【課題】酸化による化学成分の変化、炭酸水素イオンの減少によるカルシウムスケールの発生、温泉の湯温の低下を防止又は抑制し、0.25パーセント体積濃度未満にまで、温泉水中から選択的にメタンガスを分離する方法及び装置の提供。
【解決手段】上部にガス排気筒2を有し、下部にメタンガス分離処理された温泉水の流出口4を備えるメタンガス分離槽5内に、衝撃水槽8が配置され、該衝撃水槽の上方に温泉水噴射管7が配置されたメタンガス分離装置1により、温泉水に、メタンガスが分離される温泉水の噴流を吹き込み、前記噴流の吹き込みにより温泉水中に空気泡を形成し、前記空気泡と温泉水を接触させて、温泉水に溶解するガスの一部を空気泡中に移動させて分離し、ガスの一部が分離された温泉水を、滝状に流れ落る水流に形成し、前記水流と空気流とを接触させて、温泉水に溶解するガスを空気流に移動させる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は温泉水を揚湯するに当り、温泉水に溶存するメタン等の可燃性ガス(以下、メタンガスという)を、温泉水から選択的に且つ安全に分離するメタンガス分離方法及び装置に関し、特に、揚湯された温泉水から分離されたメタンガスを爆発しない濃度に希釈して、メタンガスを大気に拡散可能にするとともに、副生して好ましくない温泉スケールの発生を抑制し、さらに温泉水の温度降下の抑制を実現しつつメタンガスを分離した温泉水中のメタンガス濃度を、ヘッドスペース法による分析値で、濃度0.25パーセント体積濃度未満まで低減することができるメタンガス分離方法及び装置に関する。
【背景技術】
【0002】
自然湧出以外の源泉の場合、地下の温泉水は、ポンプで揚湯され、揚湯された源泉は温泉施設に給湯して温泉として利用している。このように、源泉をポンプで揚湯すると、高圧下で源泉に溶存するメタンガスは、源泉と共に揚湯されて、大気圧下の温泉貯留槽に貯湯され、水圧が解放されて、源泉中のメタンガスを自然放出させて分離している。
ところで、水に対するメタンの体積溶解度は、例えば、1乃至100気圧の圧力範囲内で、略3%とされている。このことは、水にかかる圧力が、地中での10気圧又はそれ以上の圧力の場合、及び常圧の場合の何れの場合においても、100リットルの温泉水中に略3リットルのメタンガスが溶解しているということであり、1リットルのメタンガスを1気圧までその圧力を下げたときは、気体の性質上、その体積は略30リットルとなるから、仮にメタンガスを飽和する10気圧の源泉等の温泉水100リットルを揚湯して、1気圧の温泉貯留槽に貯湯する場合には、10気圧の温泉水100リットルに溶解している略30リットルのメタンガスの中で、3リットルしか、温泉水100リットルに溶解しないこととなるから、その差の27リットルは水に溶解できなくなり、分離されることになる。
【0003】
このように、揚湯された源泉を大気圧下の温泉貯留槽に貯湯して、水圧を解放し、温泉水中のメタンガスを自然放出させるメタンガスを分離する方法では、かなりの量のメタンガスが温泉水中に残留することとなり、送湯先の風呂等の利用施設内で温泉水からメタンガスが放出されて、爆発する危険が潜在していた。
そこで、送湯先の風呂等の利用施設内で、温泉水からメタンガスの放出による爆発を防止するために、温泉法が改正されて、温泉水の残留メタンガス濃度は、ヘッドスペース法による分析値で、0.25パーセント体積濃度未満と定められた。
温泉水の残留メタンガス濃度を、ヘッドスペース法による分析値で、0.25パーセント体積濃度未満とするには、温泉井戸からポンプにより汲み上げた温泉水に随伴されるメタンガスを温泉水から分離しなければならない。
【0004】
従来、源泉等の温泉水を揚湯する際に付随するメタンガスを温泉水から分離する方法として、次の方法が提案されている。即ち、(1)揚水ポンプで汲み上げたかん水をガスセパレータに導いて、比重差により温泉水と天然ガスとに分離し、天然ガスは大気に廃棄され、温泉水は濾過装置を経て温泉受水槽に送られ、温泉受水槽から各入浴関連施設に送る天然ガス分離システムが開示されている(特許文献1参照)。(2)一次セパレーターにおいて、揚湯された温泉水をノズルから、受け板に向けて放出速度の勢いを速めて放出して、温泉水中に含まれるガスを、圧力開放による圧力低下により、膨張させながら前記受け板に衝突させて、分離効果を高めて分離し、分離されたガスは、一次セパレーターの上部から排出され、他方、一次セパレーターで分離された温泉水は、二次セパレーターに送られて、水中モーターにより揚湯されて、遠心力により溶存ガスを分離する複数のセパレーターに送られ、温泉水中に残留するガスを分離して、二次セパレーターの上部から、水平方向に向けられた揚湯管から排出され、二次セパレーターで分離されたガスは二次セパレーターの上部から排出するガスセパレータが開示されている。(特許文献2参照)。(3)円筒型タンク内にらせん式水路を備え、汲み上げられた温泉水をタンク上部から、らせん式水路に供給して、らせん式水路を渦流状に流下させて、遠心力により温泉水に含有されているガスを分離するサイクロン式ガス水セパレーターが開示されている(特許文献3参照)。(4)一次槽の上部のノズルから温泉水をその前方に設置した邪魔板に衝突させ、また、複数段の邪魔板から落下させて、それらの衝撃によりガスを分離し、ガスを分離した温泉水は、受け台の多孔板の孔から落下し、一次区画室に入り、二次仕切り板をオーバフローして二次区画室に入り、溶存ガスを排出させるガスセパレーターが開示されている。(特許文献4参照)
【特許文献1】特開2008−285583号公報
【特許文献2】実登3150115号公報
【特許文献3】実登3150656号公報
【特許文献4】実登3154627号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、これら装置にあっては、(1)源泉等のメタンガスが分離される温泉水(以下、「メタンガスが分離される温泉水」という)を大気中に散水又はエアレーションするため、空気中の酸素が温泉水に溶解し温泉成分、特に温泉水中の二価イオンである第一鉄イオンが酸化されて、三価の第二鉄イオンとなり、この化学成分の変化に伴い水酸化第二鉄を生成して鉄スケールが発生する。(2)また、メタンガスの分離に伴い温泉水中に溶解する二酸化炭素もまた同時に空気中に放出されることにより温泉水中の炭酸水素イオンが減少し、それに伴い温泉水中のカルシウム成分に化学変化が発生し、水への溶解性の相対的に高い炭酸水素カルシウムが水への溶解性の低い炭酸カルシウムに変化することにより、炭酸カルシウムが析出し、カルシウムスケールが発生する。(3)さらに、散水により温泉水の熱が空気中に放出されて、湯温が降下することとなり問題である。
といって、(4)これらの問題を回避するために、散水量やエアレーション量を調整したり、または装置を密閉すると、メタンガスの分離性能が低下して、ヘッドスペース法による分析値で、0.25パーセント体積濃度未満までのメタンガスの除去が困難となる。
本発明は、温泉水の酸化による化学成分の変化や、炭酸水素イオンの減少によるカルシウムスケールの発生や、温泉の湯温の低下などの、従来法における好ましくない現象をきたすことなく、温泉法に規定される安全基準のヘッドスペース法による分析値で、0.25パーセント体積濃度未満までの量のメタンガスを、温泉水から除去することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、従来法による、温泉水の酸化による化学成分の変化や、炭酸水素イオンの減少によるカルシウムスケールの発生や、温泉の湯温の低下などの問題点を防止又は抑制しつつ、温泉法に規定される安全基準のヘッドスペース法による分析値で、0.25パーセント体積濃度未満にまで、メタンガスを温泉水中から選択的にメタンガスを分離する方法及び装置を提供することを目的とする。
即ち、本発明は、温泉水にメタンガスが分離される温泉水の噴流を吹き込み、温泉水中に空気泡を形成することを特徴とする温泉水中のガス分離方法にあり、また、本発明は、温泉水に、メタンガスが分離される温泉水の噴流を吹き込み、前記噴流の吹き込みにより温泉水中に空気泡を形成し、この形成された空気泡と温泉水を接触させて、温泉水に溶解するガスの一部を空気泡中に移動させることを特徴とする温泉水中のガス分離方法にあり、さらに、本発明は、温泉水に、メタンガスが分離される温泉水の噴流を吹き込み、前記噴流の吹き込みにより温泉水中に空気泡を形成し、この形成された空気泡と温泉水を接触させて、温泉水に溶解するメタンガスの一部を空気泡中に移動させて分離し、温泉水に溶解するメタンガスの一部が分離された温泉水を、滝状に流れ落ちる水流に形成し、この水流と空気流とを接触させて、温泉水に溶解するメタンガスを空気流に移動させることを特徴とする温泉水中のメタンガス分離方法にある。本発明において、温泉水へのメタンガスが分離される温泉水の噴流の吹き込みを、温泉水面上に送風された送風ガスの空気を通して行なうことができる。
そしてまた、本発明は、上部にガス排出口を有し、下部にメタンガスが分離された温泉水の排出口を備えるガス分離槽内に、衝撃水槽が配置され、該衝撃水槽の上方にメタンガスが分離される温泉水の噴射ノズルが配置されていることを特徴とする温泉水中のメタンガス分離装置にあり、そしてさらに、本発明は、上部にガス排出口を有し、下部にメタンガスが分離された温泉水の排出口を備え、側部に送風導入口を備え、側部内側に下端部に送風口を有する内壁を備えるガス分離室内に、上端が開口し、開口部を囲んで溢流壁が設けられている衝撃水槽が設けられており、該衝撃水槽の上端開口部の上方にメタンガスが分離される温泉水の噴射ノズルが配置されおり、該衝撃水槽内の温泉水は、前記衝撃水槽の開口部を囲む溢流壁を溢流し外壁を伝わって流れ落ち、側部の送風導入口から流入する空気流と接触して、温泉水に溶解するメタンガスが分離されることを特徴とする温泉水のメタンガス分離装置にある。
【0007】
1気圧の常温における水に対するメタンガスの飽和体積溶解度は、略3パーセントであるが、この飽和体積溶解度は水に接する空気中のメタンガスの分圧に比例する。
装置の一部が大気に開放されている装置であっても、装置内は一般に外界と仕切られており、装置内の空気は外界と相違する。殊に、メタンガス分離装置内の空気は、温泉水からメタンガスが排出されているため、装置中のメタンガス濃度は外界に対して高くなっている。仮に装置内空気中のメタンガス濃度が50パーセントである場合には、理論上は温泉水中のメタンガス濃度は1.5パーセントとなる。空気中のメタンガスの分圧が小さいと、平衡に達するまで温泉水から、メタンガスは分離されるから、温泉水中のメタンガス濃度を低くすることができる。
【0007】
温泉水の噴射による、温泉水からのメタンガスの分離は、温泉水を大気中に噴射することによる圧力降下により水に溶解できないメタンガスを強制的に自然放出させるものである。これに対して、温泉水と温泉水に接する空気との平衡によるメタンガスの分離は、温泉水と温泉水に接する空気との間の物質移動によるものであり、メタンの移動速度が問題となる。この物質移動速度は、温泉水と空気の界面でのメタンの移動と空気中に移動したメタンの空気中の拡散によるものであり、温泉水と空気の界面の面積及び温泉水と空気間のメタンの分圧の差に比例し、空気中のメタンの濃度差に比例することなる。このためタンクに大気圧で貯留する既存のガス分離装置では、気液界面が小さく、且つタンク気相内にメタンガスが滞留するため、気相と液相間の分圧の差が小さくなって、メタンの移動速度が小さくなり、分離が進まず、温泉水中にメタンガスが残留したまま浴槽へ配湯されることとなり、問題である。
【0008】
本発明において、メタンガスの分離装置は噴射管と衝撃水槽及び送風機を備えている。噴射管から噴射してメタンガスが分離される温泉水の噴射流を形成することは、まずヘンリーの第一の法則により圧力の降下に伴い温泉水中に溶解できなくなったメタンガスを自然放出させて、温泉水からメタンガスを分離するものである。
また、本発明において、噴射管からのメタンガスが分離される温泉水の噴射流を、衝撃水槽内の温泉水に吹き込むことは、ヘンリーの第二の法則によるメタンガスの分圧の差による分離を行なうものである。即ち、噴射管からの温泉水の噴射流は、衝撃水槽内の温泉水の水面に当てられ、その周囲の空気を引き込んで温泉水中に流入して、引き込まれた空気の泡を形成して、温泉水と空気との界面の面積を増加させるものである。本発明において、噴射管からのメタンガスが分離される温泉水の噴射流は、その吹き込みの際に生じる負圧により、周囲の空気が温泉水中に引き込まれて、空気の泡を形成するのであり、エアレーションのように、空気に圧力を掛けて温泉水中に空気を導入して泡を形成するものではないから、圧力により酸素が温泉水に溶解し易くなることにはならない。また、エアレーションの場合は、空気泡が浮力により水面へ上がってくる時間が温泉水と空気との接触時間となるに対して、噴射の場合には噴射速度を上げることにより空気と触れる時間を短くすることができる。
【0009】
噴射された、メタンガスが分離される温泉水の噴流が衝撃水槽内の温泉水に衝突することにより、温泉水の噴流に衝撃を与えて、メタンガスをたたき出す効果を起こす。温泉水の噴流に対する衝撃が衝撃板によるものでなく衝撃水槽内の温泉水であるのは衝撃板のように衝撃を与えるだけでなく、水面に噴射をすることで空気を巻き込んで、温泉水と空気の混合流体を形成して、空気と温泉水の界面面積を増加させるとともに、混合流体の複雑な動きによる360度全方位に衝撃を発生させて、メタンガスを温泉水からたたき出すことにもなる。
この混合流体の形成は温泉水内に泡を発生させるが、温泉水は、衝撃水槽からオーバーフローして、滝状に落ち、その効果により、温泉水内の泡が弾け、泡を消すことができる。さらに、本発明においては、装置内へ送風機により送風を行い、メタンガスの装置内への滞留を防止するとともにメタンガス分圧の低い大気を導入することで、温泉水中のメタン分圧と槽内空気のメタン分圧の差を確保し、濃度勾配により平衡移動速度を上昇させる。
【0010】
本発明において、衝撃水槽内の温泉水は、噴射管からのメタンガスが分離される温泉水の噴射流の吹き込みにより、衝撃水槽内の温泉水の量を増加して、溢流し、温泉水は衝撃水槽外壁面を伝わって滝状に流れ落ちるので、温泉水は、衝撃水槽外壁面上に滝状の温泉水の水流を形成して流れ落ちて、温泉水の滝状の水流面において送風ガスの空気と気液接触して、温泉水からのメタンガスの分離を行なうことができる。この場合、温泉水は、衝撃水槽外壁面上に滝状の温泉水の水流を形成することとなるから、空気との接触面積を増加させることとなり、また、温泉水と接触する気体は、送風ガスの大気であるから、そのメタンの分圧は、温泉水のメタンの分圧に比して遥かに低いので、温泉水中のメタンの空気相への移動速度を大きくすることができる。噴射流の吹き込みは、それに伴って引き込まれるメタンの分圧の小さい空気と温泉水の界面の面積を増加することを目的としており、エアレーションのように空気に水圧を掛けないで済むから、エアレーションに比して、酸素が温泉水に溶解し難くなる。
【0011】
本発明においては、メタンガスの分離を、短時間で行うために、温泉水への送風空気からの熱の移動を最小限に抑えて、温泉水のスケール発生を抑制することができる。
スケール発生の原因は、第一に酸素ガスが温泉水に溶解することであるが、空気からの酸素ガスの溶解は、接触時間を最小限にすることにより抑制することができる。第二にメタンガスを選択的に分離するには、メタンガスは水分子に対してファンデルワールス力による相互的な力を受けるものの、炭酸ガスのようなイオンによる電気的なより強い結合ではないから、相対的に炭酸ガスよりもメタンガスが分離され易い傾向にあり、処理時間を小さくすることにより、炭酸ガスの分離を抑制しつつメタンガスを選択的に分離することができる。
【発明の効果】
【0012】
本発明は、温泉水にメタンガスが分離される温泉水の噴流を吹き込み、温泉水中に空気を引き込み空気泡を形成するので、噴流を温泉水に吹き込む際に、周囲の空気のメタンガス分圧を小さくすることにより、温泉水中にメタンガスの分圧の小さい空気泡形成することができ、温泉水のメタンガス分圧と空気泡のメタンガス分圧の差を大きくして、空気泡中に移動させ易くして、温泉水中のメタンガスを温泉水から除去できるので、温泉水からのメタンガスの分離を迅速に行うことができ、分離効率を高めることができる。また、本発明においては、メタンガスが分離される温泉水の噴流を形成する段階で、源泉水中のメタンガスを、該噴流から放出させると共に、噴流中に泡状に分散させてメタンガスとの気液混合流体を形成し、該気液混合流体を、温泉水に衝突させてその衝撃で、噴流中のメタンガスは放出される。また、本発明においては、外気の送風下に、温泉水に、メタンガスが分離される温泉水の噴流を吹き込み、前記噴流の吹き込みにより温泉水中に空気泡を形成し、この形成された空気泡と温泉水を接触させて、温泉水に溶解するメタンガスの一部を空気泡中に移動させて分離し、温泉水に溶解するメタンガスの一部が分離された温泉水を、衝撃水槽から溢流させて、滝状の水流を形成させ、この水流を送風ガスの空気流と接触させて、温泉水に溶解するメタンガスを空気流に移動させることができる。本発明においては、外気の送風下に、メタンガスが分離される温泉水の噴流を温泉水の水面に向けて噴射して、温泉水の水面に接するメタンガス分圧の小さい外気を温泉水に引き込んで分散させることができる。これにより、温泉水中のメタンガスは、温泉水のメタンガス分圧とメタンガス分圧の小さい外気と接触するので、温泉水と外気のメタンガス分圧の差により、温泉水から分離され、温泉水の水面から速やかに除去され、送風ガスにより運び去られるので、温泉水からのメタンガスの分離を迅速且つ連続的に行うことができる。また、本発明においては、メタンガスが分離される温泉水の噴流を温泉水の水面に噴射して行うので、両温泉水の温度差は小さいから、メタンガスの分離処理による温泉水の温度の低下を回避することができる。さらに、本発明の装置においては、上部にガス排出口を有し、下部にガス分離処理された温泉水の排出口を備えるガス分離槽内に、衝撃水槽が配置され、該衝撃水槽の上方にメタンガスが分離される温泉水の噴射ノズルが配置されているので、メタンガスが分離される温泉水の噴流を形成し、この噴流を温泉水の水面に向けて噴射させて、温泉水の水面に接するメタンガス分圧の小さい外気を温泉水に引き込んで分散させる作業を、ガス分離槽内に、衝撃水槽を配置し、該衝撃水槽の上方に温泉水噴射ノズルを配置するという簡単な構造で行なうものであり、構造を強固にすることが容易であり、その操作も簡便であり、装置の清掃が容易であり、維持管理の手間も少なくすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】本発明の一実施例のガス分離装置についての概略の側面断面図である。
【発明を実施するための形態】
本発明において、メタンガスは、メタン等の可燃性ガスを意味する。本発明において、メタンガスが分離される温泉水は、メタンガスについて分離処理される源泉その他の温泉水をいう。
本発明において、温泉水に吹き込まれる温泉水の噴流は、噴射管の噴射孔から、0.07乃至0.3MPa(メガパスカル)の範囲の噴射圧力で吹き込まれるのが好ましく、より好ましくは、0.1乃至0.2MPaであるのが好ましく、実用的である。噴射孔から噴射される噴流の水頭が0.07MPaより小さいと、処理した温泉水中のメタンガス濃度が高くなる傾向があり、また、噴射孔から噴射される噴流の水頭が、0.3MPaを越えると、水槽が破壊する危険がある。
噴射管の噴射孔は、噴射孔から噴射される噴流の水頭が0.07乃至0.3MPaの範囲となるように、噴射孔の口径や減圧弁により噴流の水頭を調整するのが好ましい。噴射管から衝撃水槽までの距離は、30乃至50センチメートルの範囲内とするのが好ましい。この範囲を越えて、噴射管から衝撃水槽までの距離大きくしても、又は小さくしても、メタンガスの分離効率が悪化する傾向にあることが分かった。また、温泉水量を増加させる場合には、噴射管の口径と衝撃水槽のサイズを大きくするのではなく、噴射管と衝撃水槽の組み合わせを温泉水量に応じて1セットから2セットへと増加させ、メタンガス分離装置本体を大きくすることで対応し、噴射管と衝撃水槽の組み合わせのセット数を増加させるのが好ましい。一つの噴射管に噴射ノズル孔を、複数設けることができる。この場合、ノズル孔径やノズル数を調整することができる。
【実施例】
【0014】
以下、添付図面を参照して、本発明の一実施例を説明するが、本発明は、以下の説明及び例示により何ら限定されるものではない。
図1は、本発明の一実施例のガス分離装置についての概略の側面断面図である。
【0015】
図1に示す実施例において、メタン分離装置1には、上部に排気筒2を備え、底部3には、温泉貯留槽のメタンガス分離温泉水の導入口(何れも図示されていない)に接続するメタンガス分離温泉水の流出口4を備えるメタンガス分離槽5が設けられている。本例において、メタンガス分離槽5内には、中央部に、噴射ノズル孔6を有し、温泉井戸から汲み上げたメタンガスが分離される温泉水供給槽にポンプを介して接続するメタンガスが分離される温泉水導入口(何れも図示されていない)を有する温泉水噴射管7が設けられており、温泉水噴射管7の下方に衝撃水槽8が設けられている。衝撃水槽8は、上端部が開放されて、上端開口部9を形成しており、側部10及び底部3は密閉されている。本発明において、衝撃水槽8内のメタンガスが分離された温泉水は、側壁部及び底壁部からなる壁部10を溢流して、衝撃水槽8の壁部10の外壁面11上を滝状に流れ落ちて、該外壁面11に沿って上昇する送風ガスと気液接触によりメタンについての物質移動が行われる。前記衝撃水槽8の開口部9の壁部10の上端部には、衝撃水槽8内の温泉水が、外壁面11を伝わって、滝状に流れ落ちることが可能に溢流堰12が設けられている。メタンガス分離槽5の衝撃水槽8の下方には、衝撃水槽8の外壁面11上を滝状に流下して、気液接触によるメタンガスが分離された温泉水が、底部3に集まる温泉水落水部13を形成している。
【0016】
本例においては、図1に示すよ、ガス分離槽5内には、衝撃水槽8の右側に、メタンガス分離槽5の側壁部14の内側に隔壁部15が形成されており、メタンガス分離槽8の側壁部14と隔壁部15に囲まれて送風部16が形成されている。送風部16には、送風機17が接続しており、本例においては、送風部16には、送風ガスとして大気が導入される。隔壁部15の下端部18は、メタンガス分離槽5の衝撃水槽8の下方の底部3上の温泉水落水部13の液面から間隔を置いて上方に設けられており、隔壁部15の下端部18と前記温泉水落水部13の液面との間には、送風ガスの大気が該温泉水落水部13の液面上を該液面と接触しながら通り抜けることができるように、送風ガス通路19が形成されている。本例においては、送風部16から送風が行なわれるので、温泉水落水部13に集められたメタンガスが分離された温泉水は、送風ガス通路19を流れる送風ガスと気液接触によるメタンガスの分離を行うことができる。
温泉水落水部13に集められたメタンガスが分離された温泉水は、メタンガス分離槽5の流出口4から温泉貯留槽(図示されていない)に送られる。
本例においては、気液接触によりメタンガス分離槽8内の気相中に温泉水からのメタンガスが放出されても、気相中に温泉水から放出されたメタンガスを送風ガスにより速やかに取り除くので、気液接触によるメタンガスの分離を速やかに行うことができる。
【0017】
本例において、メタンガス分離槽5内には、送風機17により大気が送風部16に送られる。送風部16に取り込まれた大気は隔壁部15の下端18の下方を通り抜けて温泉水落水部13へ送られ、送風ガス通路19を通り抜けて、衝撃水槽8の壁部10の外壁面11に沿って送風上向き部20を上向きに移動し、送風排気部21を通過して排気口4から排出される。
【0018】
本例は以上のように構成されているので、メタンガスが分離される温泉水、例えば源泉は、温泉井戸からポンプ(何れも図示されていない)を介して温泉水噴射管7に送られ、噴射ノズル6から衝撃水槽8に向けて、温泉水噴射管7の噴射ノズル孔6から、噴射される。この噴射により、温泉水の圧力は、大気圧下に放圧されて、大気圧に減圧される。この圧力降下により溶解できなくなったメタンガスは自然放出されて分離され、残る部分のメタンガスは噴流中に温泉水と気液混合流体を形成する。メタンガスが分離される温泉水(例えば源泉)の噴射流(噴流)は、衝撃水槽8の上端開口部9から、噴射ノズル孔6から、衝撃水槽8の温泉水に向けて噴射される。このメタンガスが分離される温泉水の噴流が衝撃水槽8内の温泉水に衝突すると、メタンガスが分離される温泉水中のメタンガスの気液混合流体に衝撃が与えられて、源泉中のメタンガスを叩きだすと共に、メタンガスが分離される温泉水及び温泉水中に空気の泡を形成して、温泉水中に温泉水と外気の空気泡からなる気液混合流体が形成される。温泉水と空気泡の接触を行い、泡中の空気のメタンガス分圧と、温泉水のメタンガス分圧との差により、温泉水中のメタンガスが空気泡中に移動し、温泉水中のメタンガスの一部がさらに分離される。
【0019】
また、本例においては、この温泉水は噴射管7から噴射され続けるメタンガスが分離される温泉水により、衝撃水槽8内で温泉水からメタンガスの一部が分離され、衝撃水槽8は、メタンガスの一部が分離された温泉水で満たされる。衝撃水槽8を満たしたメタンガスの一部が分離された温泉水は、衝撃水槽8の壁部10の外壁面11の溢流堰12を溢流乃至越流し、流下乃至落下する間に、送風部16から送風され、送風ガス通路19を通って送風上向き部20を上方に流れる送風ガスと接触して、メタンガス分圧の小さい送風ガスのメタンガス分圧と温泉水のメタンガス分圧の差により、温泉水中のメタンガスは、送風ガスに移動し、分離される。また、外壁面11を上部から越流し、流下するする温泉水は、落下する際にメタンガスを含んだ空気と分離される。
【0020】
このようにして、メタンガスを分離された温泉水は、衝撃水槽8の壁部10の外壁面11上を滝状に流れ落ちて、送風上向き部20を上向きに流れる送風ガスと接触して、送風ガスのメタン分圧と温泉水中のメタン分圧の差により、メタンガスはさらに分離され、温泉水落水部13から温泉処理水吐出管4より温泉貯留槽に送られ貯湯される。温泉処理水吐出管4から温泉貯留槽への配管は、水封することにより送風が温泉水落水部13から温泉処理水吐出管4へ流れないようにする。
外壁面11上を滝状に流れ落ちる温泉水は温泉水落水部13の下部にあるガス分離槽5の底部3に打ちつけられ、さらに衝撃が与えられてメタンガスを分離する。
【0021】
メタンガスを含むメタンガス分離装置5内の空気は送風機17から送風される空気により温泉水落水部13から送風上向き部20を経て、送風排出部21から排気口4より排出される。この送風ガスにより、装置内のメタンガス分圧を最小化することで分離を促進する。
メタンガスを分離された温泉水は外壁面11を滝状に流れ落ちて、温泉水落水部13から温泉処理水吐出管4により温泉貯留槽に貯湯される。
このガス分離装置5に送湯された温泉水は平均1から2秒程度の速度で処理され、メタンガスが選択的に分離される。
【0021】
実際の使用にあたって設置する環境に応じて噴射に伴う音を抑制するための消音器の設置や排気が外気へ排出される際に発生する白煙を防止するための白煙防止器が設置できる。
ん社交
【産業上の利用可能性】
【0022】
本発明によると、平成20年10月1日に施行となった改正温泉法に規定される安全基準のヘッドスペース法による分析値で、0.25パーセント体積濃度未満までの量のメタンガスを、温泉水から選択的に分離した温泉水を得ることができ、温泉利用施設の安全性向上に資することができる。又、ガス分離槽内に、衝撃水槽を配置し、該衝撃水槽の上方に温泉水噴射ノズルを配置するという簡単な構造であり、構造を強固にすることが容易であり、その操作も簡便であり、装置の清掃が容易であり、維持管理の手間も少なすることができる。
したがって、本発明は、温泉の安全な利用を実現することができるものであり、また温泉の快適性を最大限損なわないよう泉質の変化を抑制することができるものであって、産業上の利用性が大きい。
【符号の説明】
【0023】
1 メタンガス分離装置
2 排気筒
3 底部
4 メタンガス分が分離された温泉水の流出口
5 メタンガス分離槽
6 噴射ノズル孔
7 温泉水噴射管
8 衝撃水槽
9 衝撃水槽8の上端開口部
10 上端開口部9の側壁部
11 衝撃水槽8の外壁部
12 溢流堰
13 温泉水落水部
14 メタンガス分離装置1の側壁部
15 隔壁部
16 送風部
17 送風機
18 隔壁部15の下端部
19 送風ガス通路
20 送風上向き部
21 送風排気部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
温泉水にメタンガスが分離される温泉水を吹き込み、温泉水中に空気泡を形成することを特徴とする温泉水中のメタンガス分離方法。
【請求項2】
温泉水に、メタンガスが分離される温泉水の噴流を吹き込み、前記噴流の吹き込みにより温泉水中に空気泡を形成し、この形成された空気泡と温泉水を接触させて、温泉水に溶解するメタンガスの一部を空気泡中に移動させることを特徴とする温泉水中のメタンガス分離方法。
【請求項3】
温泉水に、メタンガスが分離される温泉水の噴流を吹き込み、前記噴流の吹き込みにより温泉水中に空気泡を形成し、この形成された空気泡と温泉水を接触させて、温泉水に溶解するガスの一部を空気泡中に移動させて分離し、温泉水に溶解するメタンガスの一部が分離された温泉水を、滝状に流れ落ちる水流に形成し、この水流と空気流とを接触させて、温泉水に溶解するメタンガスを空気流に移動させることを特徴とする温泉水中のメタンガス分離方法。
【請求項4】
温泉水へのメタンガスが分離される温泉水の噴流の吹き込みが、温泉水面上に送風された送風ガスの空気を通して行なわれることを特徴とする請求項1乃至3の何れか一項に記載の温泉水中のメタンガス分離方法。
【請求項5】
上部にガス排出口を有し、下部にメタンガスが分離された温泉水の排出口を備えるメタンガス分離槽内に、衝撃水槽が配置され、該衝撃水槽の上方に源泉噴射ノズルが配置されていることを特徴とする温泉水中のメタンガス分離装置。
【請求項6】
上部にガス排出口を有し、下部にメタンガスが分離された温泉水の排出口を備え、側部に送風導入口を備え、側部内側に下端部に送風口を有する内壁を備えるガス分離室内に、上端が開口し、開口部を囲んで溢流壁が設けられている衝撃水槽が設けられており、該衝撃水槽の上端開口部の上方にメタンガスが分離される温泉水の噴射ノズルが配置されおり、該衝撃水槽内の温泉水は、前記衝撃水槽の開口部を囲む溢流壁を溢流し外壁を伝わって流れ落ち、側部の送風導入口から流入する空気流と接触して、温泉水に溶解するメタンガスを分離することを特徴とする温泉水のメタンガス分離装置。

【図1】
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【公開番号】特開2011−125838(P2011−125838A)
【公開日】平成23年6月30日(2011.6.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−299420(P2009−299420)
【出願日】平成21年12月15日(2009.12.15)
【出願人】(308016127)株式会社 エオネックス (2)
【出願人】(592141053)明和工業株式会社 (13)
【Fターム(参考)】