説明

温湿度センサー

【課題】食品の包装袋の内部等に投入することによって、内部の湿度及び温度状態を外部から肉眼で容易に把握でき、少量単位の製品の品質管理を実現できるとともに固体高分子型燃料電池の運転時における高分子電解質膜中の温度及び加湿度を簡便に判別することが可能な、任意の空間に設置でき、簡便でディスポーザブルな湿度・温度センサーを提供する。架橋型炭化水素系高分子電解質膜あるいは成型体を種々のアルカリ、アルカリ土類、遷移金属イオンでイオン交換した架橋型樹脂組成物が、環境の湿度及び温度によって色調を可逆的に変化させることを利用した、簡易型温湿度センサーを提供する。
【解決手段】ポリ-2-アクリルアミド-2-メチルプロパンスルホン酸(PAMPS)、ポリビニルアルコール(PVA)、及び水溶性高分子から得られた架橋樹脂組成物中のHイオンを種々の金属イオンに置換させることにより、得られた成型体をセンサー素子とする温湿度センサー。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はポリビニルアルコール(PVA)、ポリ-2-アクリルアミド-2-メチルプロパンスルホン酸(PAMPS)、及び水溶性高分子を含む架橋型樹脂組成物の金属塩等をセンサー素子とする温湿度センサーに関する。
【背景技術】
【0002】
これまで簡易型湿度計として利用されているものは、例えば乾球・湿球からなる温度計式の乾湿度計、毛髪などの伸びを利用した湿度計、または乾燥剤として使用されるシリカゲル粒などに塩化コバルトを添加し色の変化から吸湿状況を判断するものなどがあった。
【0003】
一方、温度によって着色状況が変化することを利用したラベル式の温度センサーがあり、単に部材に貼り付けるだけで部材の温度を推定できる簡便な温度センサーとして広く利用されている(非特許文献1〜3)。
【0004】
しかしながら、従来の簡便な粒状その他の湿度センサーは、狭い箇所にも設置できる、大量に設置して様々な箇所の湿度を同時に観察できる、外部回路、機器などを接続することなく肉眼により簡便に湿度を推定できる、安価なディスポーザブルセンサーとして利用できるなど、利用価値が非常に高いと思われるが、湿度及び温度の両方の変化に応じて色が変わる材料、特にラベル式の材料はそれほど多くはなく、利用できるものは少ないのが現状である。
【0005】
【非特許文献1】「サーモラベル」(http://www.tech-jam.com/measuring_instrument/thermal_label/index.phtml)
【非特許文献2】「ヒートラベル」(http://www.ipl-micron.co.jp/)
【非特許文献3】「液晶サーモメータ」(http://www.kn-labs.com/ondo.htm)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、例えば食品の包装袋の内部に投入することによって、内部の乾燥/湿潤状態を外部から肉眼で容易に把握でき少量単位の製品の品質管理を実現できるとともに、固体高分子型燃料電池の運転時における高分子電解質膜中の温度及び加湿度などを簡便に判別することが可能な、任意の空間に設置でき、簡便でディスポーザブルな温湿度センサーを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、上記課題を解決するために鋭意研究を重ねた結果、ポリ-2-アクリルアミド-2-メチルプロパンスルホン酸(PAMPS)、ポリビニルアルコール(PVA)、及び水溶性高分子を含有する架橋型樹脂組成物においては、通常はスルフォン酸基の対カチオンが水素イオンであるのに対し、種々のアルカリ、アルカリ土類、及びその他の金属イオンをイオン交換することによって得られた樹脂組成物の金属塩は、これが内部に含まれる水分の量の違い及び温度の変化に応じて、様々な色に可逆的に呈色することを見出し、本発明を完成するに至った。
即ち、この出願によれば、以下の発明が提供される。
(1)ポリ−2−アクリルアミド−2−メチルプロパンスルホン酸(PAMPS)、ポリビニルアルコール(PVA)、及び水溶性高分子を含有する架橋型樹脂組成物の金属塩をセンサー素子とする温湿度センサー。
(2)水溶性高分子が、ポリエチレングリコール(PEG)、ポリエチレングリコールメチルエーテル(PEGME)、ポリエチレングリコールヂメチルエーテル(PEGDE)、ポリエチレングリコールヂグリシヂルエーテル(PEGDCE)、ポリエチレングリコールビスカルボキシメチルエーテル(PEGBCME)、ポリエチレン・ブロック・ポリエチレングリコール(PEB-PEG)、及びポリオキシプロピレン・ポリオキシエチレン・ブロックコポリマー(PPO-PEO)から選ばれた少なくとも一種の高分子であることを特徴とする(1)に記載の温湿度センサー。
(3)ポリ−2−アクリルアミド−2−メチルプロパンスルホン酸(PAMPS)、ポリビニルアルコール(PVA)、及び2官能基性アルデヒド架橋剤と1官能性アルデヒド架橋剤を含有する架橋型樹脂組成物の金属塩をセンサー素子とする温湿度センサー。
(4)架橋型樹脂組成物の金属塩の含水率と温湿度に対し色調の可逆的な変化が起きるのを利用して湿度及び温度の変化を検知する(1)〜(3)の何れかに記載の温湿度センサー。
(5)架橋型樹脂組成物における色調の変化及び/または比抵抗値を定量的に識別する手段を備えた(1)〜(4)の何れかに記載の温湿度センサー。
(6)(1)〜(5)の何れかに記載の温湿度センサーを用いた固体高分子型燃料電池の温温度測定方法。
【発明の効果】
【0008】
本発明の温湿度センサーは、ポリ-2-アクリルアミド-2-メチルプロパンスルホン酸(PAMPS)、ポリビニルアルコール(PVA)、及び水溶性高分子を含有する樹脂組成物の金属塩等をセンサー素子としたことから、膜状、粒状、棒状、繊維状に成型することで任意の空間に設置できる、簡便でディスポーザブルなものである。
また、そのような簡便性を利用して、例えば食品の包装袋の内部に投入することによって、内部の乾燥/湿潤状態を外部から肉眼で容易に把握できるなど、少量単位の製品の品質管理を実現できる。また、本発明の湿度・温度センサーは燃料電池用膜・電極接合体に適用することにより、固体高分子型燃料電池の運転時における高分子電解質膜中の温度及び加湿度を簡便に判別することでき、燃料電池の運転状態の評価方法及び評価装置としても有効に機能するものである。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
本発明の第一の温湿度センサーは、ポリ-2-アクリルアミド-2-メチルプロパンスルホン酸(PAMPS)、ポリビニルアルコール(PVA)、及び水溶性高分子を含有する架橋型樹脂組成物の金属塩をセンサー素子としたものである。
本発明の第二の温湿度センサーは、ポリ−2−アクリルアミド−2−メチルプロパンスルホン酸(PAMPS)、ポリビニルアルコール(PVA)、及び官能基性アルデヒド架橋剤と1官能性アルデヒド架橋剤を含有する架橋型樹脂組成物の金属塩をセンサー素子としたものである。
【0010】
これらのセンサー素子は、水に不溶性でかつ、内部に含まれる水の量、すなわち含水率の変化あるいは温度の変化により様々な色調に可逆的に呈色する特性を有することから、この架橋型樹脂組成物の含水率と着色の可逆的な変化を利用して湿度・温度の変化を簡単に検知することができる。
【0011】
本発明の第一のセンサー素子は、酸性基を有するポリマーであるポリ-2-アクリルアミド-2-メチルプロパンスルホン酸(PAMPS)、水酸基を有するポリビニルアルコール(PVA)、可塑剤としての水溶性高分子をそれぞれ蒸留水に溶解し、これら3種類の水溶液を混合した後成型乾燥し、以下に述べる物理的及び/又は化学的架橋により、成型体を架橋することにより得られる。
【0012】
ここで用いるポリマーの一つである、ポリ-2-アクリルアミド-2-メチルプロパンスルホン酸(PAMPS)は下記一般式(1)で示されるものであり、その分子量に特に制限はないが、水に対する溶解性、及び成型性などの点からみて、10,000〜5,000,000であることが好ましく、50,000〜2、000,000であることが更に好ましい。
【0013】
【化1】

【0014】
また、ここで用いるポリビニルアルコール(PVA)の分子量は特に限定されないが、10,000〜1,000,000の範囲であることが好ましく、さらに水に対する溶解性の観点から50,000〜200,000の範囲であることがさらに好ましい。
【0015】
また、ここで用いる水溶性高分子は特に限定されず、ポリエチレングリコール及びその誘導体や、ポリアクリルアミド、ポリアクリル酸やポリビニルピロリドンおよびそれらの共重合体などのビニル基開裂型の水溶性高分子、ヒドロキシメチルセルロースやヒドロキシプロピルセルロースなどのセルロース骨格の水酸基を他の官能基で置換したセルロース誘導体、カルボキシメチルセルロース等の天然セルロースを例示することができるが、ポリエチレングリコールとその誘導体が好ましく使用される。
このような高分子としては、ポリエチレングリコール(PEG)、ポリエチレングリコールメチルエーテル(PEGME)、ポリエチレングリコールヂメチルエーテル(PEGDE)、ポリエチレングリコールヂグリシヂルエーテル(PEGDCE)、ポリエチレングリコールビスカルボキシメチルエーテル(PEGBCME)、ポリエチレン・ブロック・ポリエチレングリコール(PEB-PEG)及びポリオキシプロピレン・ポリオキシエチレン・ブロックコポリマー(PPO-PEO)などが挙げられる。から選ばれた少なくとも一種の高分子、ビニル基開裂型の高分子、セルロース骨格誘導体等の高分子等が挙げられる。
【0016】
ポリ-2-アクリルアミド-2-メチルプロパンスルホン酸(PAMPS)、ポリビニルアルコール(PVA)、及び水溶性高分子の使用割合に特別な制限はないが、ポリマーの成型性及び吸湿性の点からみて、重量比で、PAMPS/PVA =0.2〜4、好ましくは、0.5〜2であり、水溶性高分子/PVA =0.1〜4、好ましくは、0.2〜1である。
【0017】
本発明の第一のセンサー素子は、前記したように、ポリ-2-アクリルアミド-2-メチルプロパンスルホン酸(PAMPS)、ポリビニルアルコール(PVA)、可塑剤としての水溶性高分子をそれぞれ蒸留水に溶解し、これら3種類の水溶液を混合した後成型乾燥し、物理的及び/又は化学的架橋することにより得られる。
【0018】
成型する際の形状は、特に制約されず、膜状、粒状、棒状、繊維状など、任意のものであってよい。
例えば、膜状のものはガラス板やテフロン(登録商標)板などの基板にキャストすることで得ることができる。キャストする際の混合溶液の厚みは特に制限されないが、薄いほど環境の変化に対する色調変化の応答がよい反面、色調を見分けにくくなるということがあるため、10〜1000μmであることが好ましく、より好適には50〜300μmである。混合溶液のキャスト厚を制御する方法は公知の方法を用いることができる。たとえば、アプリケーター、ドクターブレードなどを用いて一定の厚みにし、ガラスシャーレやテフロンシャーレなどを用いてキャスト面積を一定にし、混合溶液の量や濃度で厚みを制御することができる。
粒状あるいは棒状の成型体を得る場合は、型に投入する方法、大きな成型体から裁断する方法など、公知の方法を用いることができる。繊維状のものは、上記キャスト工程の代わりに延伸するなどして得ることができる。成型体の大きさは目的に応じて任意にすることができるが、湿度変化への応答性を高めるためには最大径がある程度小さい、あるいは細いことが好ましい。具体的に3 mm以下であることが好ましく、30μm〜1 mm前後の成型体がさらに好ましい。
【0019】
本発明の第一のセンサー素子は上記した成型体を乾燥した後、物理的及び/又は化学的な架橋処理することにより、水に不溶性の架橋型樹脂として得られる。得られた架橋型樹脂組成物を目的のイオン(アルカリ、アルカリ土類、及びその他の金属イオン)を含む水溶液などに浸せきし、イオン交換することによって種々の発色を呈する成型体として得られる。
物理的架橋は、ポリマー主鎖同士の予備架橋反応を促すものであり、この工程でポリマー中の-SO3M(Mは金属イオン)基が関与する架橋反応に水が介在することで発色するものと考えられ、ポリマーの炭化によるいわゆる「焦げ」によるものではない。そのため、ポリマー中の含水率に応じて呈色の度合いが可逆的に変化する。物理的架橋法としては、熱架橋や光架橋が好ましく採用される。
【0020】
熱架橋を行うときの条件は、空気中、あるいは環状炉などを用いた不活性ガス中に上記3成分ブレンドポリマー成型体を設置し、40〜200℃の温度範囲内、より好適には60〜180℃の温度範囲内において、5分〜48時間、より好適には10分〜2時間の範囲内で反応を行わせる。反応時間は温度条件によって種々選ぶことができるが、短すぎる場合は架橋が十分でなく、長すぎるとポリマーが構造劣化を起こす恐れがあるので、20分〜150分程度が最も望ましい。
【0021】
一方、光架橋を行うときの条件は、空気中、真空中あるいは不活性ガスが満たされた石英ガラスなどの容器中に上記3成分ブレンドポリマー成型体を設置し、数cm〜数10cmの距離に置かれた水銀ランプ、キセノンランプなどの光源を用いて、波長100〜1000nm、より好適には波長300〜600nmの範囲のいずれかにかかる紫外線照射を行い時間5分〜2時間の範囲内で反応を行わせる。光源下20 cm で30分〜1時間の処理が最も好ましい。処理時間は紫外線照射条件によって種々選ぶことができるが、短すぎる場合は架橋が十分でなく、強度がすこぶる弱い恐れがあり、長すぎると架橋度は増すがその後の性状が良くないことがある。なお、紫外線照射時に成型体が加熱し、熱架橋も同時に進行することがある。この場合は両者の区別が付きにくく、熱/光架橋両者の効果を考慮に入れる必要がある。
【0022】
化学的架橋は、成型体の強度を増し構造を安定化し、かつポリマーが水分を吸って膨潤しすぎることを抑えるものである。化学的架橋がなくても成型体は得られるが、成型体の強度増強化と非膨潤性の観点から、物理的架橋と併用することが好ましい。
たとえば、アセトンなどの溶媒中に予備架橋(物理的架橋)させたブレンド膜を浸積し、グルタルアルデヒド、テレフタルアルデヒド、グリオキサルなどに代表されるような2官能基性アルデヒド架橋剤を用いることで、PVA 主鎖上の水酸基とアルデヒド基間をアセタール結合させるものである。これによって3成分ポリマーの構造が強固となり、機械的強度が向上する。
【0023】
本発明の第二の温湿度センサーは、ポリ−2−アクリルアミド−2−メチルプロパンスルホン酸(PAMPS)、ポリビニルアルコール(PVA)、及び架橋剤として2官能基性アルデヒド架橋剤と1官能性アルデヒド併用した架橋型樹脂組成物の金属塩をセンサー素子としたものである。
第二の温湿度センサーによれば、第一の温湿度センサーの第3成分である水溶性高分子を用いなくても非水溶性の架橋型樹脂組成物を得ることができ、また、得られる架橋型樹脂組成物が透明であるため、呈色の様子を見ることがより容易であるというメリットを有する。
ここで用いる2官能基性アルデヒド架橋剤としては、前記したグルタルアルデヒド、テレフタルアルデヒド、グリオキサルなどに代表されるような2官能基性アルデヒド架橋剤が用いられる。
また、1官能基性アルデヒド架橋剤としては、PVAの水酸基と反応する1官能性アルデヒドであればいずれのものも使用できる。当該架橋剤の役割は、ブレンドポリマーに疎水性領域を設けて柔軟性を与え、かつ含水性を整えることで酸性基を有するポリマーが安定にイオン伝導領域を形成することにある。
このような1官能基性アルデヒドとしては、炭素数2〜16の直鎖あるいは分岐構造を有するアルデヒドを挙げられる。具体的には、n-ブチルアルデヒド、n-ヘキシルアルデヒド、n-オクチルアルデヒド、n−ドデシルアルデヒドなどのアルデヒドを挙げることができる。
【0024】
化学的架橋を行う条件としては、成型体を少しだけ膨潤させることのできる非プロトン溶媒(アセトン、ジメチルホルムアミド(DMF)、ジメチルスルホキサイド(DMSO))中、グルタルアルデヒド、テレフタルアルデヒド、グリオキサルやスベロイルクロライドなどの
PVA の水酸基と反応する2官能性アルデヒド試薬とn-ブチルアルデヒド、n-ヘキシルアルデヒド、n-オクチルアルデヒド、n−ドデシルアルデヒドなどの1官能基性試薬を用い、公知の溶媒および反応時間を適宜選ぶことで架橋樹脂組成物を作ることができる。
この時の反応条件は、架橋試薬濃度1〜20wt% で1〜24時間処理することで架橋度をコントロールした最適な架橋型樹脂組成物を作ることができる。
本発明の第二のセンサー素子は上記で得られた架橋型樹脂組成物を目的のイオン(アルカリ、アルカリ土類、及びその他の金属イオン)を含む水溶液などに浸漬し、イオン交換することによって種々の発色を呈する成型体として得られる
【0025】
本発明に第一および第二のセンサー素子の何れの場合であっても、イオン交換するイオンとしては、製造時に元々存在する水素イオンの他に、リチウム、ナトリウム、カリウム、ルビジウム、セシウムイオンのようなアルカリ金属イオン、マグネシウム、カルシウム、ストロンチウム、バリウムイオンのようなアルカリ土類金属イオン、鉄イオン、コバルトイオン、ニッケルイオン、銅イオンのような種々の電荷数状態の遷移金属イオンなど、水素イオンとイオン交換できるあらゆるカチオンを選ぶことができる。このようなイオンをイオン交換する際に浸せきする溶液としては、上記イオンを1 mM〜10 Mの濃度、より好ましくは0.01 M〜1 Mの濃度で含む水溶液、あるいは適当な有機溶媒を選び、この中に架橋型樹脂を濃度に応じて異なるが数時間乃至数10時間、より好ましくは一晩程度浸せきすることで種々の発色を呈する成型体を得ることができる。
【0026】
本発明の第一および第二の温湿度センサーは、たとえば膜状、粒状、棒状、繊維状に成型することができ、任意の空間に設置でき、また簡便で安価なディスポーザブルとして利用することができる。
また、そのような簡便性を利用して、例えば食品の包装袋の内部に投入することによって、内部の乾燥/湿潤状態や温度を外部から肉眼で容易に把握できるなど、少量単位の製品の品質管理を実現できる。また、本発明の湿度・温度センサーは燃料電池用膜・電極接合体として適用することにより、固体高分子型燃料電池の運転時における高分子電解質膜中の温度及び加湿度を簡便に判別することでき、燃料電池の湿度・温度評価方法及び評価装置としても有効に機能するものである。
また、本発明の温湿度センサーには、肉眼でも色調の変化を観察することができるが、色調の変化をさらに正確に判別させるために、分光光度計などの定量的な色調測定機器を設けておくことが好ましい。
【実施例】
【0027】
以下に本発明について、実施例を用いて具体的に説明する。なお、本発明はこれらの実施例に限定されることはない。なお、種々の測定は次のように行った。
(湿度・温度条件による色調変化)強制対流式の霧状加湿型湿度設定方式で冷凍・加温の温度調節機構をも備えたチャンバー内に作製した膜形状の試料を設置し、色調の変化を肉眼で観察した。なお、確認のために、カラー写真をとって記録した。
(イオン伝導性測定)自作測定用セル(テフロン製)を用い、単一正弦波測定方式による交流インピーダンス測定により伝導度を測定した。5 X 10 mm の穴のあいた2枚のテフロン製ブロック間に作製した膜形状の試料をはさみ、膜の両端を白金箔で接触させ、AC電圧振幅 0.02V, 周波数 0.001〜106 Hz における交流インピーダンスを湿潤状態で周波数応答分析器により測定した。
(紫外吸光測定)作製した膜形状試料の吸光度を紫外・可視分光光度計により、300〜900nmの波長範囲で測定した。
【0028】
実施例1〜4
PVA (Mw=150,000) の6wt% 水溶液、PAMPS (Mw=2,000,000) の 15wt% 水溶液および ポリエチレングリコール(PEG)の10 wt% 水溶液をそれぞれ準備した。
この3者を70℃においてポリマー重量比で1:1:0:5となるように混合し、攪拌モーターで均一になるまで混合溶解した。溶液をデシケータ中で減圧脱気し、溶液中に溶けている気体を取り除いた後、直径8.5 cm の平底シャーレ上に注ぎ、室温で3日放置して製膜した。この膜を10wt% のグルタルアルデヒドを含むアセトン溶液中で室温において1時間攪拌反応させて架橋膜を作成した。膜厚は約60μmであった。
次に、架橋膜を室温においてそれぞれCuCl、FeCl・6HO、CoOCOCH・4HO、NiSO・6HOから作製した0.1M水溶液に一晩浸せきすることによって膜中のHイオンをそれぞれCu2+、Fe3+、Co2+、Ni2+イオンに置換させることにより、イオン交換させた架橋膜を得た。
この様にして得られた各種架橋膜を、空気中(湿度60〜70%RH)でそれぞれ室温、60℃、90℃、120℃、150℃に保った場合に得られる色調変化を表1に示す。
【0029】
【表1】

【0030】
これより、イオン交換させたイオンの種類によって温度の違いによりそれぞれ特徴的な色を呈し、一般的には温度の上昇とともに色調は濃くなるという変化が見られた。Cu2+、Fe3+、Co2+、Ni2+イオンの違いにより、室温ではそれぞれ淡い青、黄、ピンク、緑色であったものが、150℃では褐色を呈するようになった。このような呈色は、温度変化を繰り返すと可逆的な変化を起こし、また中間温度では低温時/高温時の中間色を示した。
【0031】
実施例5〜8
実施例1〜4に示した方法で膜中のHイオンをそれぞれCu2+、Fe3+、Co2+、Ni2+イオンに置換させることにより、イオン交換させた各種架橋膜を得た。これらを空気中120℃で乾燥させた後、室温でそれぞれ50%RH、90%RHに保ったときの色調変化を表2に示す。Cu2+、Fe3+、Co2+、Ni2+イオンの違いにより色の違いはあるが、一般的には湿度の上昇とともに色調は薄くなるという変化が見られた。この変化は可逆的であった。
【0032】
【表2】

【0033】
実施例9〜12
架橋膜中の置換イオンがそれぞれH、Cu2+、Fe3+、Co2+、Ni2+イオンである膜成型体を得た。これらの膜の比抵抗を、各湿度において測定したときの変化を図1に示す。H、Cu2+、Fe3+、Co2+、Ni2+イオンの違いにより比抵抗値の違いはあるが、一般的には湿度の上昇とともに比抵抗値直線的に小さくなるという変化が見られた。比抵抗値は20%RH〜95%RHの範囲で2〜3桁の変化を示し、実施例4〜8で述べた色調の変化のみならず、比抵抗測定によっても高精度で湿度測定が可能であることが分かった。
【0034】
実施例13
実施例3の方法により、架橋膜中の置換イオンがCo2+である厚さ60μmの膜成型体を得た。この膜の乾燥状態及び各湿度において測定したときの紫外吸収スペクトルを図2に示す。スペクトル測定によって高精度で湿度測定が可能であることが分かった。
【0035】
実施例14
実施例3の方法により、架橋膜中の置換イオンがCo2+である厚さ60μmの膜成型体を得た。この膜室温において90%RHの湿度にさらしたときの紫外吸収スペクトル変化を図3に示す。この膜厚の場合10分程度の時間で色調の変化が応答して湿度状態を判別でき、湿度センサーとしての応答性は十分に速かった。応答時間は膜中に水分が浸透する速度によるものであるため、膜厚を薄くすることによって応答を速くすることができた。
【0036】
実施例15
PVA(Mw=150,000) の6wt% 水溶液、PAMPS (Mw=2,000,000) の 15wt% 水溶液をそれぞれ準備する。この2者をポリマー重量比でPVA/PAMPS=1:1となるように混合し、70℃において攪拌モーターで均一になるまで混合溶解する。デシケータ中で減圧脱気し、溶液中に溶けている気体を取り除いた後に直径8.5 cm の平底シャーレ上に注ぎ、室温で水分を蒸発させ乾燥膜を得た。次に膜を2種類の架橋剤を含むジメチルホルムアミド溶液中で2時間攪拌反応させて架橋膜を作成した。その際、第1の架橋剤として、グルタルアルデヒド、第2の架橋剤として、n-オクチルアルデヒドを選び、1wt% 対20wt% の割合で混合して用いた。反応溶液から膜を取り出し、純水中に膜を一昼夜浸漬して未反応の反応試薬を除去した。
次に、架橋膜を室温においてそれぞれCoOCOCH・4HO、NiSO・6HO、CuCl、から作製した0.5M水溶液に一晩浸せきすることによって膜中のHイオンをそれぞれCo2+、Ni2+、Cu2+、イオンに置換させることにより、イオン交換させた架橋膜を得た。
空気中120℃で乾燥させた後、30℃でそれぞれ20%RH、50%RH、90%RHに保ったときの色調変化を表3に示す。実施例5〜8の可塑剤を用いた膜に比べ、本方法で作製した膜は透明度が良く、色調がより明確に判別できた。
【0037】
【表3】

【図面の簡単な説明】
【0038】
【図1】実施例9〜12において、架橋膜中の置換イオンがそれぞれH、Cu2+、Fe3+、Co2+、Ni2+イオンである膜成型体の膜の比抵抗を、各湿度において測定したときの比抵抗値を示すグラフである。
【図2】架橋膜中の置換イオンがCo2+である厚さ60μmの膜成型体の乾燥状態及び各湿度において測定したときの紫外吸収スペクトルを示すグラフである。
【図3】架橋膜中の置換イオンがCo2+である厚さ60μmの膜成型体を室温において90%RHの湿度にさらしたときの紫外吸収スペクトルの時間変化を示すグラフである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリ−2−アクリルアミド−2−メチルプロパンスルホン酸(PAMPS)、ポリビニルアルコール(PVA)、及び水溶性高分子を含有する架橋型樹脂組成物の金属塩をセンサー素子とする温湿度センサー。
【請求項2】
水溶性高分子が、ポリエチレングリコール(PEG)、ポリエチレングリコールメチルエーテル(PEGME)、ポリエチレングリコールヂメチルエーテル(PEGDE)、ポリエチレングリコールヂグリシヂルエーテル(PEGDCE)、ポリエチレングリコールビスカルボキシメチルエーテル(PEGBCME)、ポリエチレン・ブロック・ポリエチレングリコール(PEB-PEG)、及びポリオキシプロピレン・ポリオキシエチレン・ブロックコポリマー(PPO-PEO)から選ばれた少なくとも一種の高分子であることを特徴とする請求項1に記載の温湿度センサー。
【請求項3】
ポリ−2−アクリルアミド−2−メチルプロパンスルホン酸(PAMPS)、ポリビニルアルコール(PVA)、及び2官能基性アルデヒド架橋剤と1官能性アルデヒド架橋剤を含有する架橋型樹脂組成物の金属塩をセンサー素子とする温湿度センサー。
【請求項4】
架橋型樹脂組成物の金属塩の含水率と温湿度に対し色調の可逆的な変化が起きるのを利用して湿度及び温度の変化を検知する請求項1〜3の何れかに記載の温湿度センサー。
【請求項5】
架橋型樹脂組成物における色調の変化及び/または比抵抗値を定量的に識別する手段を備えた請求項1〜4の何れかに記載の温湿度センサー。
【請求項6】
請求項1〜5の何れかに記載の温湿度センサーを用いた固体高分子型燃料電池の温温度測定方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2008−203081(P2008−203081A)
【公開日】平成20年9月4日(2008.9.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−39266(P2007−39266)
【出願日】平成19年2月20日(2007.2.20)
【出願人】(301021533)独立行政法人産業技術総合研究所 (6,529)
【Fターム(参考)】