説明

温熱治療用構造物

【目的】本発明は、発熱体組成物中に水分を含有させることにより皮膚表面温度を所定の範囲に維持して低温やけどを防止すると共にその温度を安定的に長時間に亘って維持することにより、疾患の有効な治療を行う上、薬物として局所麻酔剤を用いることにより、湿布剤として慢性化した疼痛性疾患に有効に作用させて疼痛を速やか、且つ持続的に除去し、しかも安全性を至極向上させた温熱治療用構造物を提供することを目的とする。
【構成】本発明は、表面が透湿性フィルムで形成され、且つ裏面が支持体で形成された解放部のない偏平状袋体に、空気の存在により発熱する発熱体組成物を封入してなる発熱体構造物において、該発熱体構造物の裏面に粘着層が形成されており、該粘着層には局所麻酔剤が含有されていることを特徴とするものである。

【発明の詳細な説明】
【産業上の利用分野】本発明は皮膚に貼付されて発熱体組成物の温熱を皮膚に均一且つ全面に伝達し、この温熱によって局所麻酔剤を速やかに経皮吸収させる上、発熱による局所の血行循環を促進して局所の代謝の改善を実現することにより慢性疼痛を除去或いは緩和させることができる温熱治療用構造物に関するものである。
【0002】
【従来の技術】今日、病院や医療機関を訪れる患者の主訴の大半が疼痛である。疼痛は、その臨床的経過から、急性のものと慢性のものに分類される。この急性疼痛は、外傷や、急性炎症、急性感染症など速やかな診断と処置を必要とする生命に危険性のある疼痛である。一方、慢性疼痛は、疼痛そのものが、患者を苦しめるが、生命への影響は少ない。しかし、慢性疼痛患者のQOL(人生の質的レベル)は、大きく低下する。即ち、心理的にも落ち込み、疼痛にとらわれ、社会的活動の制限を受け、生きがいすら失って行くことがある。ここで、急性疼痛と慢性疼痛は、その病態生理学上も治療上の意味も大きく異なることを十分認識してあたるべきであり、いたずらに急性疼痛の治療方法を慢性疼痛の治療に外挿するだけでは不十分であることを知らなければならない。
【0003】ところで、一般に、慢性疼痛と認定されるには、以下に述べる三条件を充足する必要がある。
即ち、■ 痛みの局所に痛みの原因となる病理的変化がないか、又は仮にあっても、すでに固定化していること。
■ 痛みの局所から中枢に至るまでの神経経路に病理学的変化がないこと。
■ 疼痛を持続・増強させるような積極的な心理社会的要因が認められること。 このような条件を満たす慢性疼痛患者に対しては、まず今ある疼痛を速やかに除去することが第一義的であり、さらに、患者にとって、苦痛とならない治療方法で疼痛を除去しなければならない。できうるならば、患者が、日常生活に支障をきたすことなく、自ら疼痛をコントロールできることが大切である。
【0004】一方、鎮痛剤の副作用の問題は大きく、またその効果は完全ではない。覚醒剤や麻薬に走る者の多くが、慢性疼痛にさいなまれた結果であることをわれわれは、もっと認識すべきである。
【0005】慢性疼痛において、疼痛局所における循環不全状態は、よく指摘される。実際、頭痛や肩こり、腰痛、関節痛の患者にとって温泉療法や、入浴は大変効果のある方法である。また、鍼や灸、温湿布という方法も、局所を暖め、そこの血行の循環状態を改善さす方法である。
【0006】従来、こうして臨床経験より、温熱体を疼痛局所に当てて、保温する方法は、良く行なわれてきたが、以下のような欠点があった。
1.温熱効果が生じるまでに時間がかかりすぎ、即効性に欠ける。
2.皮膚温度が安定しないため、低温やけどなどの危険性がある。
3.皮膚との密着性に安定性がないため、気化熱が奪われたり、皮膚表面温度に変化が生じやすい。
【0007】そこで、最近では、患者が、日常生活に支障をきたすことなく、自ら疼痛をコントロールできるようにするために、発熱体層と湿布剤層とからなる温熱湿布剤が提案されている(特公昭60−12381号公報)。即ち、このものはアルカリ金属の硫化物もしくは多硫化物又はこれらの含水塩と炭素物質もしくは炭化鉄を混合してなる発熱体組成物が空気(酸素)の存在により発熱するように構成した発熱体層と、湿布用薬剤を含有させた湿布剤層とを組み合わせることより、簡便で且つ一定した温熱効果により薬物の経皮吸収を促進するようにしたものである。この場合、湿布用薬物として、サリチル酸、サリチル酸メチル及び/又はサリチル酸グリコールが挙げられている。
【0008】
【 発明が解決しようとする課題】しかしながら、このものは発熱体組成物中に、水分が含有されていないか或いは殆ど水分が含有されていないために、以下に述べる課題がある。
【0009】即ち、この発熱体組成物が空気(酸素)と接触し、空気酸化によって生じた熱は直接湿布剤層に伝達されるため湿布剤層の温度が急激に上昇し、温度が50℃以上になる。
【0010】事実、このものは温度が60℃まで達するとの記述がある。ところが、この発熱体組成物中に、所要量の水分が含まれていると、温度の上昇に伴い水分の蒸発が盛んになり、このため蒸発潜熱を奪って発熱体組成物が所定の温度より上昇するのが防止される。
【0011】ところで、最近の試験結果によると、一般に皮膚表面温度が45℃を超えると低温やけどが生じるといわれており、この温度を超えないように発熱体組成物を設計、管理する必要がある。
【0012】一方で、発熱体組成物中には殆ど水分が含有されていないため温度変化が激しいだけでなく蓄熱量が悪く、このため所要温度を長時間に亘って維持できない。
【0013】更に、このものは、発熱体組成物中の発熱体成分として、アルカリ金属の硫化物もしくは多硫化物又はこれらの含水塩を必須成分としているが、このものは空気の存在下、酸素と反応して発熱する際、硫黄臭がするため、使用者が不快感、異和感を感じることがある。
【0014】ところで、この温熱湿布剤はその湿布用薬物として、サリチル酸、サリチル酸メチル及び/又はサリチル酸グリコールが用いられているが、これらの薬物は慢性化した腰痛症、各部関節痛、神経痛、リューマチ等に対しては効果がないどころか、逆効果すらもたらすことすらある。これらの薬物は基本的には、急性の炎症性疾患に対して用いるべきものであり、慢性化した疼痛疾患でのその治療効果は充分とはいえないのが実状である。
【0015】また、慢性疼痛では、その疼痛原因が必ずしも炎症によるものでないことも多い。仮に炎症性疾患がその起因であっても慢性化した状態では、炎症が持続しているとは言いきれない。従って、慢性疼痛ではこうした炎症性剤の適応でないことが多々あると言える。
【0016】即ち、これらの薬物のうち、慢性疼痛の治療に対して、サルチル酸を用いた場合には、温熱によってサルチル酸がプロトン(水素イオン)を発生し易くなり、このために、このプロトンが皮膚に作用して刺激性を増大したり、角質層を痛める恐れがあるので慢性疼痛のような長時間にわたる使用に対してはサルチル酸は使用をひかえるべきである。
【0017】又、サリチル酸メチルは、温熱を与えた場合、水素結合による蒸散抑制効果がないので蒸散し易く、このため慢性疼痛の治療剤に温熱を与えた場合、この温熱によって薬物が治療剤にトラップされている時間が非常に短い上、サリチル酸メチルの蒸散によって悪臭を発するので使用感が悪く、この結果、慢性疼痛のような長時間に亙る治療に対しては所望の結果が得られないのである。
【0018】更に、サリチル酸グリコールを、この種の温熱治療剤に用いた場合、このサルチル酸グリコールが皮下の毛細血管における血液中等で加水分解して生体に有害なグリコール成分を生成するので安易に使用できないのである。
【0019】ところで、これらの薬物と同様の作用、効果を有し、しかもこれらより優れた薬効を示すものとしてインドメタシンが知られている。
【0020】これらの薬物においては、特に、上述の三条件を充足する慢性疼痛に対しては以下に述べる理由より効果が期待できないことが多い。即ち、急性疾患、例えば打撲、骨折、捻挫等の急性期においては、患部局所に炎症がおき、それがヒスタミン、ブラジキニン、サブスタンスPなど多くの発痛物質を産生する。又、これは滲出液の分泌をも伴う。この滲出液の分泌が局所の腫脹となって現れる。この腫脹を抑えるために、古来より打ち身、捻挫等の急性疾患には暖めるより冷やすという方法がとられてきた。一般的な湿布剤が水分を多量に含有した処方をとっているのは、その水分の蒸発潜熱による冷却効果を期待したものである。事実、湿布剤は急性の炎症には湿布基剤のみでも、一定の消炎鎮痛効果を発揮するものである。
【0021】又、このような急性疾患の場合には特定の鎮痛消炎剤を薬物として用いるとその効果が期待できる。それは、発痛物質の制御等の作用、機能を有している。しかしながら、上述の三条件を満たす慢性化した疼痛性疾患においては消炎鎮痛剤では効果が認められないことが多い。このため、慢性疼痛治療を主目的にした鎮痛消炎剤は、ほとんど開発されていないのが国際的にも実状である。
【0022】本発明は、上記技術的課題を解決するために完成されたものであり、この種温熱治療用構造物(温熱湿布剤)において、発熱体組成物中に水分を含有させることにより皮膚表面温度を所定の範囲に維持して低温やけどを防止すると共にその温度を長時間に亘って維持することにより疾患の有効な治療を行う上、薬物として局所麻酔剤を用いることにより、上述の三条件を満たす慢性化した疼痛性疾患に有効に作用させて疼痛を速やかに除去し、しかも安全性を至極向上させた温熱治療用構造物を提供することを目的とする。
【0023】つまり本発明の温熱治療用構造物は、慢性的に血行不全状態の続く患部の血改善を図り、さらに、温熱による直接的な患部の血行改善効果が相俟って、患部に蓄積された発痛物質を効果的に取り除くことができる。こうしたことによって、血行不全状態の正常化をもたらして慢性疼痛の除去或いは緩和を図ることを目的とするのである。
【0024】即ち、本発明の温熱治療用構造物は、その患部に温熱と局所麻酔剤を併用する事により当該局所において、局所麻酔剤を経皮吸収させてこの麻酔剤による速効的鎮痛を実現し、更に、これによって局所の交感神経の遮断を行い、疼痛局所に至る細動脈の収縮を防ぐと共に所要の温熱により患部の血流を持続的に高めることができるのである。
【0025】ところで、慢性疼痛患者の場合、疼痛ストレスにより、交感神経がたえず緊張した状態にあるため細動脈の持続した収縮と、その影響を最も受けやすい心臓交感神経の疲弊状態が認められる。
【0026】即ち、それは心拍出量の低下と総末梢血管抵抗の増大を招来し、それは、疼痛局所の血行不全を一層悪化させる結果となる。従って、患部の血流をより促進するため所定の温熱を与えて、血流をより促進することが必要となる。従って、本発明の温熱治療用構造物は慢性疼痛の除去或いは緩和を図る上で至極理論的であり、且つ効果的である。
【0027】
【 課題を解決するための手段】上記目的を達成するために、本発明の温熱治療用構造物は、表面が透湿性フィルムで形成され、且つ裏面が支持体で形成された解放部のない偏平状袋体に、空気の存在により発熱する発熱体組成物を封入してなる発熱体構造物において、該発熱体構造物の裏面に粘着層が形成されており、該粘着層には局所麻酔剤が含有されたていることを特徴とするものである。
【0028】以下、本発明を詳細に説明する。本発明においては、発熱体組成物を封入してなる偏平状の発熱体構造物と、その裏面に設けられた、局所麻酔剤を含有する粘着層とからなる。そして、上記偏平状の発熱体構造物は、偏平状袋体とその中に封入された発熱体組成物からなり、該発熱体組成物は空気の存在により発熱するものである。
【0029】本発明に用いられる偏平状袋体は表面が透湿性フィルムで形成され、且つ裏面が支持体で形成され、その周縁部が接合された解放部のない偏平状のものであり、この透湿性フィルムと支持体の間に空気の存在によって発熱する発熱体組成物を介在、封入させるためのものである。
【0030】この透湿性フィルムは透湿性を有し、且つ合成樹脂で形成されたものであれば特に限定されるものではない。ところで、このように透湿性フィルムを用いたのは、発熱体組成物の温度管理には通気度より透湿度で制御するのが所要の温度範囲が得られるのである。
【0031】即ち、本発明の温熱治療用構造物は、直接皮膚に張り付けて使用するものであり、温度が低すぎると効果が乏しくなり、一方、温度が高すぎると低温やけどが生じるので、所望の温度(38〜43℃)に制御する必要がある。
【0032】ところで、温度38〜43℃の水蒸気は、いわゆる湿り蒸気であり、乾き蒸気とは透湿性フィルムに対し全く異質の挙動を示す。つまり、この温湿布構造物に用いられる透湿性フィルムは延伸によって微細孔(平均孔径0.5〜1μm程度)が形成されているが、この微細孔に湿り蒸気が付着して凝集し(乾き蒸気は空気等のガスと同様の挙動を示し、簡単に透過するが、湿り蒸気は微細孔箇所に微細な水滴として吸着される。)、このため、この微細な水滴が微細孔を塞ぎ、その実質孔径が経時的に大きく変化する。
【0033】このため、同じ通気度のフィルムでも、微細孔への水蒸気の付着状況は、フィルムの性質、つまり親水性であるか、疎水性であるかによって異なるだけでなく、微細孔の構造、例えば円形、楕円形、スリット状の孔、更に孔の周辺にクラックが入っているか否かによっても大きく異なり一定でなく、つまり孔の形状によって微細な水滴の吸着量が異なるのであり、従って、温度にバラツキが生じるだけでなく、発熱時間にも大きな違いが生じ、品質が安定しないのである。
【0034】一方、透湿度でフィルムを管理すると、温度が安定するだけでなく、発熱時間もほぼ一定するのである。故に、このように、温度範囲を38〜43℃という微妙な範囲に設定するには、フィルムを通気度で管理するのではなく、透湿度で管理する必要がある。
【0035】この透湿性フィルムは、単層フィルムであると2層以上の複合フィルムであるとを問うものではなく、2層以上の複合フィルムとすることにより透湿度をコントロールしてもよいのである。上記透湿性フィルムはその厚さが特に限定されるものではないが、透湿度、強度、熱融着などの加工性更に取扱い性等の観点より、5〜200μm、特に20〜120μmとするのが好ましい。
【0036】そして、本発明者らの実験結果によると、発熱体組成物の組成を広範にわたって変化させても皮膚に障害を与えないようにするには、透湿性フィルムとしてはその透湿度がASTM法(E−96−80D法)で100〜400g/m2/24hrの範囲のものであり、この範囲に制御することにより低温やけどを生じることがなく、安全で、しかも温熱効果に適した38〜43℃の温度を長時間局所皮膚に付与することができるのである。
【0037】上記ASTM法(E−96−80D法)とは以下に述べる方法である。即ち、カップ内径(直径)6.18cm、高さ1.5cmの容器内に純水20mlを入れ、該容器の上面を透湿性フィルムで閉蓋してロウで固定し、これを恒温(32.2℃)、恒湿(50%)の中に24時間放置する。次いで、この容器内の水の減少量を測定し、放出(蒸散)した水の量を[g/m2/24hr]に換算して表示する。
【0038】本発明では、上記特定の透湿性フィルムを用いることにより、発熱体組成物への空気(酸素)の供給量が定常的に制御されると共にこの反応熱と水蒸気の放出、つまり発熱体組成物中の水の蒸散による放熱とのバランスが保持され、この結果、温熱効果が得られる所要の温度範囲を長時間にわたって維持しうるのである。
【0039】透湿性フィルムの透湿度が、100g/m2/24hr未満であると発熱量が少なすぎて温熱効果が乏しくなるので好ましくなく、一方、400g/m2/24hrを超えると温度が上昇して最高温度が43℃を超える場合があり、このため、低温やけどの危険性があるのでこの場合も好ましくなく、従って、通気性フィルムの透湿度が150〜350g/m2/24hrの範囲が最も望ましい。
【0040】この透湿性フィルムを形成する高分子材料としては、フィルム化できるものであって、延伸或いは延伸後、更に可溶性充填剤を抽出する等の方法により透湿性を発現するものであれば特に限定されるものではなく、具体的には、例えばポリエチレン、ポリプロピレン、ポリエステル、ポリアミド、ポリビニルアルコール、ポリ塩化ビニル、ポリ塩化ビニリデン、ポリウレタン、ポリスチレン、エチレン−酢酸ビニル共重合体、ポリカーボネート、塩酸ゴム等で形成されたものが挙げられるが、これらのうちポリエチレン製のものが延伸等により均質、且つ安価な透湿性フィルムが得られるから好ましい。
【0041】又、本発明で用いられる支持体は後述する粘着層を支持しうるものであれば特に限定されるものではない。この支持体は上述の高分子材料で形成されたフィルムが挙げられるが、この場合、後述する局所麻酔剤の保持性を良好にし、且つ皮膚表面からの汗等の水分の蒸発により皮膚表面の温度が変化しないように透湿性のないもの或いは透湿度の低いもの、特に無孔フィルムが望ましい。
【0042】又、上記偏平状袋体は、目的に応じて2層以上の樹脂層で形成されたものでもよいが、その素材の選択に当たり、ヒートシール性があり、簡単に熱融着できるものを選ぶのが好ましい。この場合、2層以上の樹脂層が熱融着できないときには、その間にホットメルト系の接着フィルムを介在させてこれらの樹脂層を接合してもよい。この場合、透湿性フィルムの透湿性が失われないように注意することを要する。
【0043】ところで、上記偏平状袋体を補強するために織布もしくは不織布からなる補強用材を用いるのが好ましいが、かかる補強用材は、例えば、ナイロン、ビニロン、ポリエステル、レーヨン、アセテート、アクリル、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリ塩化ビニル等の人工繊維、綿、麻、絹等の天然繊維から選ばれる1種または2種以上の素材を用いて形成される。
【0044】本発明においては、上記偏平状袋体の内部に、空気の存在によって発熱する発熱体組成物が封入されるが、該発熱体組成物としては低温火傷を生じることがない安全な温度を長時間維持できるものであれば特に限定されるものではなく、具体的には、使い捨てカイロなどに用いられている公知の発熱体組成物を用いることができる。
【0045】ところで、上記発熱体組成物中の各成分は製法、用途によって種々のものが挙げられるが、使い捨てカイロに用いられるものであれば、種類、形状、純度を問わず、使用が可能である。上記発熱体組成物として特に好ましいものは、例えば、空気との酸化反応の際に硫黄臭などの異臭を発することがなく、しかも安全性の高い鉄粉と、該鉄粉の酸化反応を起こさせたり、鉄粉表面の酸化皮膜を破壊し、鉄粉の酸化反応を円滑に進行させるための塩化ナトリウムや塩化カリウム等の塩化物、更に水、及び該水によるベトツキをなくするために用いられる保水剤からなる。
【0046】この場合において、発熱体組成物はその成分比率が鉄35〜80重量%、塩化物1〜10重量%、水5〜45重量%、保水剤1〜45重量%からなるものが好ましく、この範囲以外では、温熱作用が乏しく、所望の効果が得られなかったり、或いは低温火傷を生じる危険があり、しかも長時間にわたって優れた温熱効果を発現する温熱治療用構造物が得られないのである。
【0047】この発熱体組成物において、空気との酸化反応の際、pH調整を行ったり、触媒作用を有する活性炭を配合させるのが特に望ましい。即ち、上記発熱体組成物において、その成分比率が鉄35〜80重量%、活性炭1〜10重量%、塩化物1〜10重量%、水5〜45重量%、保水剤1〜45重量%からなるものが望ましい。
【0048】又、上記保水剤としては、保水性が高く、発熱体組成物においてそのベトツキを無くするものであれば特に限定されるものではないが、具体的には、例えばバーミキュライト、クリストバライト、シリカ系多孔質物質、ケイ酸カルシウム、シリカ粉、木粉、吸水性ポリマー等のうち少なくとも一種が挙げられる。
【0049】上記吸水性ポリマーとしては特に限定されるものではないが吸水能力が自重の15倍以上、好ましくは20倍以上のものが好ましい。具体的には、特公昭49−43395号公報に開示されている澱粉−ポリアクリロニトリル共重合体、特公昭51−39672号公報に開示されている架橋ポリアルキレンオキシド、特公昭53−13495号公報に開示されているビニルエステル−エチレン系不飽和カルボン酸共重合体ケン化物、特公昭54−30710号公報に開示されている逆相懸濁重合法によって得られる自己架橋ポリアクリル酸塩、特開昭54−20093号公報に開示されているポリビニルアルコール系重合体と環状無水物との反応生成物、特開昭55−84305号公報に開示されているポリアクリル酸塩架橋物等が好ましい。
【0050】そして、上記発熱体組成物は上記偏平状袋体に均一に封入されるが、その充填量は500〜7000g/m2の範囲とするのが望ましく、その充填量が、500g/m2未満であると発熱体組成物の充填量が少なすぎて所望の温度を長時間に亘って維持できず優れた温湿布効果が得られないのであり、一方、7000g/m2を超えると発熱体組成物の充填量が過剰になって袋詰めが困難になったり、温熱治療用構造物が厚くなり過ぎて使用感や携帯性が悪くなるうえ、不経済であるから好ましくないのである。
【0051】本発明の温熱治療用構造物は、上記の発熱体組成物を封入してなる発熱体構造物において、透湿性フィルム側と反対側面、つまり発熱体構造物の裏面に粘着層が形成されており、しかも該粘着層には局所麻酔剤が含有されている。
【0052】上記粘着層としては、皮膚との粘着性が良好であれば特に限定されるものではなく、具体的には、例えばアクリル系粘着剤、合成ゴムや天然ゴム等のゴム系粘着剤、ビニル系粘着剤、テルペン樹脂或いは水溶性ロジン、ウレタン系粘着剤、ゼラチン等が挙げられるが、特に吸汗性の粘着層が汗や老廃物が粘着層に効果的に吸収されて皮膚表面を清潔にするので望ましい。
【0053】上記吸汗性の粘着層としては汗を吸収する粘着性の層であれば特に限定されるものではなく、例えば、水や湿布液、更に皮膚に粘着性を発現する湿布用ペースト等の湿布基剤からなり、且つ該肌を湿布するための層である。
【0054】上記粘着層は支持体に保持されている。この場合、支持体としては各種のフィルムやシートからなるものであれば特に限定されるものではなく、該支持体は無孔フィルム又は無孔シートを用いて形成されたものでもよいが、特に、このようなフィルム又はシートに親水性シート或いは親水性フィルムを接合したものが望ましい。この場合、親水性シート或いは親水性フィルムは粘着層保持部材としての機能を有する
【0055】上記支持体の素材としては上述の透湿性フィルムに用いたものと同様の材質が挙げられる。上記粘着層保持部材としては、親水性高分子物質、例えば紙、レーヨン不織布或いはレーヨン混合不織布等の不織布、織布、連続気泡性スポンジ等、毛細管現象を示すもの等を用いるのが望ましい。特に、レーヨン不織布或いはレーヨン混合不織布を用いると粘着層の保持性が良好になるので使用中に剥離等の問題が生じないので望ましい。
【0056】上記粘着層は、目的に応じて、粘着層保持部材に吸汗性の粘着層を形成し疼痛局部に直ちに適用しうるものが望ましい。
【0057】吸汗性の粘着層は、皮膚への熱伝導が良くなるように水分を30〜70重量%、特に40〜60重量%含有し、かつ粘着性の優れたものとするのが望ましい。また発熱の際に38〜44℃の温度においても軟化し粘着層の基剤が皮膚に残らない適度の凝集性を有することが望ましい。例えば、含水するための原料としては、CMC、ポリアクリル酸ナトリウム、吸水性樹脂、無機質吸水剤、カオリン、ゼラチン、酸化チタン、各種架橋剤、モノラウリン酸ソルビタンやモノパルミチン酸ポリオキシエチレンソルビタン等の界面活性剤、パラオキシ安息香酸エチル等の防腐剤等を用いることができるが、このほかに柔軟性、粘着性等、所望の物性を得るために各種の原料を用いることができる。又、この吸汗性の粘着層としては、例えば公知の湿布層が挙げられる。
【0058】上記吸水性樹脂としては特に限定されるものではないが吸水能力が自重の15倍以上、好ましくは20倍以上のものが望ましい。具体的には、特公昭49−43395号公報に開示されている澱粉−ポリアクリロニトリル共重合体、特公昭51−39672号公報に開示されている架橋ポリアルキレンオキシド、特公昭53−13495号公報に開示されているビニルエステル−エチレン系不飽和カルボン酸共重合体ケン化物、特公昭54−30710号公報に開示されている逆相懸濁重合法によって得られる自己架橋ポリアクリル酸塩、特開昭54−20093号公報に開示されているポリビニルアルコール系重合体と環状無水物との反応生成物、特開昭55−84305号公報に開示されているポリアクリル酸塩架橋物等が好ましい。
【0059】上記無機質吸水剤としては、吸水層の吸水能力を向上させて温熱治療用構造物の長時間に亘る吸汗や老廃物の吸収を実現するものであり、具体的には、活性炭、ゼオライト、ゼオライト系多孔質物質、クリストバライト、シリカ系多孔質物質、ケイ酸カルシウム等が挙げられる。
【0060】上記湿布液としては、特に限定されるものではなく、単なる水、温泉水、ユーカリ油、塩化ナトリウム水、グリセリン、ハッカ油等常用のものが単独又は複数配合して用いられるほか、所望により、液状のアルコール類、液状の脂肪酸エステル類等も用い得るが、これらの液体には更に、分散安定剤として界面活性剤等を配合して湿布液とすることができる。
【0061】本発明においては、特に、上記粘着層に局所麻酔剤が含有されていることを特徴とする。ところで、局所麻酔剤とは、大脳皮質知覚領には作用せず、もっぱら知覚神経、自律神経の末梢に作用して局所の知覚、とくに痛覚を鈍麻または消失させる薬物である。
【0062】本発明に用いられる局所麻酔剤としては特に限定されるものではないが、具体的にはプロカイン、塩酸プロカイン、リドカイン、塩酸リドカイン、メピバカイン、塩酸メピバカイン、プリロカイン、クアタカイン、ブピバカイン、アミノ安息香酸エチル、塩酸テトラカイン、塩酸ジブカイン、オキシブプロカイン、塩酸プロピトカイン、テーカイン、塩酸ベノキシネイト、塩酸メプリルカイン、塩酸プロカイン、塩酸クロロプロカイン、塩酸ベノキシネート又は塩酸ヘキソチオカイン等が挙げられる。
【0063】そして、本発明においては、粘着層に局所麻酔剤が含有されるが、この局所麻酔剤の配合割合は粘着層全体の0.1〜25重量%の範囲とするのが望ましく、局所麻酔剤の配合割合が、0.1重量%未満では薬効が乏しく所望の効果が得られないのであり、一方、25重量%を超えると皮膚粘着力が低下する上、不経済であり、従って、これらの観点より、特に0.5〜15重量%の範囲とするのが望ましい。
【0064】この場合、粘着基剤と局所麻酔剤を混合して形成してもよく、或いは粘着基剤を用いて粘着層を形成し、該粘着層上に、局所麻酔剤の軟膏又は溶液或いは分散液を塗工してもよいのである。つまり、本発明において、粘着層に局所麻酔剤が含有されているとは 粘着層に均一に局所麻酔剤が含有されていることを要するものではなく、粘着層に部分的に含有されていたり、或いは粘着層における皮膚貼着面側に高濃度になるように局所麻酔剤を含有させてもよいのである。
【0065】そして、上記支持体、例えば粘着層保持部材には局所麻酔剤を含有する粘着層が形成される。この場合、粘着層が吸汗性の湿布層であるときにはその充填量が400〜2500g/m2のものが好ましく、この充填量が、400g/m2未満であると充填量が少なすぎて均一な粘着層ができず優れた温湿布効果が得られないのであり、一方、2500g/m2を超えると充填量が過剰になって適用後の温度の立ち上がりが鈍くなるので即効性に欠ける上、温熱治療用構造物が厚く、しかも重くなり過ぎて使用感や携帯性が悪くなり、しかも不経済であるから好ましくないのである。
【0066】このようにして形成された粘着層は上記偏平状袋体の裏面側に重ね合わせ、その周辺部を、接着、融着、縫製等の手段によって接合し、偏平状袋体を成形する。 この場合、その周辺部の一端は開放しておき、発熱体組成物を詰めた後この部分を上記の手段でシールする。このようにして温熱治療用構造物が完成される。
【0067】上記局所麻酔剤を含有する粘着層の露出面は更に保護フィルムで被覆されるのが好適である。
【0068】本発明の温熱治療用構造物において、発熱体組成物が鉄粉40〜75重量%、塩化物1〜10重量%、水10〜40重量%、保水剤1〜40重量%からなるものが、以下に述べる理由より望ましい。
【0069】上述のように、特定の透湿性フィルムと特定の発熱体組成物を用いることにより、この両者の相互作用によって発熱体組成物への空気(酸素)の供給量が定常的に制御されると共にこの反応熱と水蒸気の放出、つまり発熱体組成物中の水の蒸散による放熱とのバランスが保持され、低温やけどを生じることなく、安全で、しかも効果的な温熱治療が長時間に亙って得られるのである。
【0070】本発明の温熱治療用構造物において、発熱体組成物が鉄粉40〜75重量%、活性炭1〜10重量%、塩化物1〜10重量%、水10〜40重量%、保水剤1〜40重量%からなるものが、以下に述べる理由より更に望ましい。
【0071】このように、活性炭を配合することにより、上述の発熱体組成物に比べて、この活性炭が空気中の酸素の活性化を図ったり、pH調整を行うのであり、従って、初期の鉄粉と酸素との反応を促進する結果、上述の効果に加えて、初期の温度の立ち上がりが極めて良好になり、そのため一層優れた温熱治療が長時間に亙って得られるのである。
【0072】本発明の温熱治療用構造物は、上記特徴を有する結果、従来は困難であった一定の温度を超えない安全で、しかも温湿布効果に適した38〜44℃の温度を長時間局所皮膚に付与することができるのであり、しかも局所麻酔剤により慢性疼痛に対し速やかに効果を発現し、疼痛を除去したり、疼痛を緩和するのである。
【0073】本発明の温熱治療用構造物は、気密性袋体に収納され、流通に供されるが、この場合、単品或いは複数のものを連結して折り畳んで入れておき、使用目的に応じて自由に切断して用い得るようにしてもよいのである。
【0074】
【作用】本発明の温熱治療用構造物は、上記構成を有し、疼痛局所に貼着される。そうすると、温熱治療用構造物において、局所麻酔剤により慢性疼痛を速やかに除去したり、慢性疼痛を緩和する等、慢性疼痛の有効な治療を行うのであり、しかも発熱体組成物中の水分により皮膚表面温度を所定の範囲に維持して低温火傷を防止すると共にその温度を長時間に亘って維持することにより長時間に亙って慢性疼痛を除去ないし緩和するのであり、しかも発熱体成分として安全で安価な鉄粉を用いることにより、安全性が至極向上するのである。
【0075】つまり本発明の温熱治療用構造物は特定の発熱体組成物を所定量袋体内に封入しているので、この温熱治療用構造物を人体に適用したとき、当該温熱治療用構造物の温度特性は、その内部の発熱体組成物が空気との酸化反応によって発生する反応熱と、発熱体組成物内の水の気化潜熱、更に血流による放熱のバランスが維持され、この発熱と放熱のバランスの維持によって所望の温度が長時間に亘って維持される作用を有するのである。
【0076】又、本発明の温熱治療用構造物はその貼付局所を加温することにより皮膚表面の温度を上げ、血流を促進し、皮膚表面領域の新陳代謝を高めるのであり、しかも皮膚面から気化潜熱を奪わず、したがって、皮膚温度を下げることなく一定であり、慢性化した慢性疼痛の治療に有効である。
【0077】又、発汗に伴なって粘着層中に含まれる多量の水分との相互作用により、皮膚角質層の水和を助長する。この作用により、局所麻酔剤の経皮吸収を促進してその薬効を高めることができる。このため本発明によれば、経皮吸収促進剤を添加したり基剤に特別な処方を考慮する必要がなく、皮膚刺激等の副作用を考えた場合、安全性を高めることが可能であり、局所麻酔剤の経皮吸収効果も格段に高めることが可能である。
【0078】更に、本発明の温熱治療用構造物は慢性的に血行不全状態の続く患部に作用し、その部位の血管を拡張して血流を改善させ、更に患部にて生産され、蓄積した発痛物質を効果的に取り除くことができるのであり、これによって慢性疼痛の除去或いは緩和を図る作用を有するのである。
【0079】即ち、本発明の温熱治療用構造物は、その患部に温熱と局所麻酔剤を併用する事により当該局所麻酔剤を経皮吸収させてこの麻酔剤による速効性を実現し、これによって交感神経の遮断を行い細動脈の収縮を防ぐと共に所要の温熱により患部の血行を持続的に高めることができるのである。
【0080】ところで、慢性疼痛患者の場合、全身的に交感神経がたえず緊張した状態にあるため、その結果細動脈の収縮と共に心臓の心拍量の低下、総末梢血管抵抗の増大が一般に生じているため、患部の血流をより促進するため所定の温熱を与えて、血流をより促進することが血行動態の改善に必要となる。この点、本発明の温熱治療用構造物は上記のような血行動態の不良状態の改善を発現するので至極有用である。
【0081】
【実施例】以下、本発明を実施例に基づき詳細に説明するが、本発明はこれに限定されるものではない。
本発明の温熱治療用体構造物の構造例第1図において、(1)は温熱治療用構造物であり、該温熱治療用構造物(1)は偏平状袋体(2)の内部に、空気の存在によって発熱する発熱体組成物(3)を封入してなる発熱体構造物(1a)と、該発熱体構造物(1a)の裏面に設けられた粘着層(4)からなる。
【0082】そして、上記偏平状袋体(2)は、その表面が透湿性フィルム(5)で形成され、且つ裏面が支持体(6)で形成された解放部のない偏平状に形成されている。上記透湿性フィルム(5)は、この場合、透湿性基材フィルム(5a)と多孔質補強用基材(5b)からなる。
【0083】具体的には透湿性フィルム(5)として、合成樹脂製の透湿性基材フィルム(5a)と、織布もしくは不織布からなる多孔質補強用基材(5b)をラミネートして形成した後、これを延伸したり或いはこの延伸したフィルムから充填剤を抽出してその透湿度を上記範囲に調整してなる積層フィルムで形成したものである。
【0084】又、透湿性フィルム(5)としては、上記実施例に代えて、多孔質補強用基材(5b)は用いず、透湿性基材フィルム(5a)のみで形成したものでもよいのである。
【0085】ところで、この透湿性フィルム(5)はその柔らかさが、ループステフネステスタにおいて2.5g以下であることが好ましい。このようにすると、発熱体組成物(3)が酸素を吸収する時に当該袋体(2)が容易に収縮し、発熱体組成物(3)と透湿性フィルム(5)が密着し、発熱体組成物(3)の片寄りが容易に防止されるので有利である。
【0086】上記支持体(6)は、上述の高分子材料で形成されたフィルムが挙げられるが、この場合、後述する局所麻酔剤の保持性を良好にし、且つ皮膚表面からの汗等の水分の蒸発により皮膚表面の温度が変化しないように透湿性のないもの或いは透湿度の低いもの、特に無孔フィルムが望ましい。
【0087】上記支持体(6)は、この場合、合成樹脂フィルム(6a)と粘着層保持部材(6b)からなる。
【0088】又、上記粘着層(4)には局所麻酔剤が含有されており、該局所麻酔剤を含有する粘着層(4)が発熱体構造物(1a)の裏面に部分的に形成されるが、この形成方法としては特に限定されるものではない。
【0089】尚、(7)は保護フィルムであり、該保護フィルム(7)によって粘着層(4)の表面が被覆、保護されている。
【0090】そして、本発明の温熱治療用構造物(1)は気密性袋体(C)に封入されて流通に供される。
【0091】本発明の温熱治療用構造物(1)は、上記構成を有し、その使用時には気密性袋体(C)から温熱治療用構造物(1)を取り出し、保護フィルム(7)を剥がし、その粘着層(4)を疼痛局部に密着させて使用する。
【0092】そうすることにより、その適用部位において、局所麻酔剤が慢性の疼痛を速やかに除去したり、疼痛を緩和するのであり、また発熱体構造物(1a)による温熱効果とこの温熱による局所の血行循環を促進して局所の代謝の改善を実現する上、長時間に亘って、皮膚の温度が一定であり、従って、慢性化した疼痛の長時間に亘る治療に有効なのである。
【0093】本発明の温熱治療用構造物の実施例■ 本発明に用いられる支持体支持体(6)としてはポリエチレン製フィルム(厚さ25μm)(6a)の片面に、レーヨン・ポリエステル混合不織布(レーヨン繊維含有量60重量%、40g/m2)(6b)をラミネートしたものを用いた。
【0094】■ 本発明で用いられる透湿性フィルム透湿性フィルム(5)としてはポリエチレン製の透湿性基材フィルム(40μm)(5a)の片面に、ポリエステル製多孔質補強用基材(60g/m2)(5b)をラミネートしたものを用いた[透湿度がASTM法(Eー96ー80D法)で185g/m2/24hr]。
【0095】上記の支持体(6)と透湿性フィルム(5)を重ね合わせるにあたり、支持体(6)におけるポリエチレン製フィルム(6a)側と透湿性フィルム(5)における透湿性基材フィルム(5a)とが接触するように積層し、つまり不織布(6b)が裏面に露出するように積層し、その積層体の三周縁部をヒートシールして一方端開放の偏平状袋体(2)を形成し、この偏平状袋体(2)の内部に後述する空気の存在によって発熱する発熱体組成物(3)を充填し(1666.7g/m2)、この開放端をヒートシールして発熱体構造物(1a)を得た。
【0096】発熱体組成物の成分RZ鉄粉60重量%、活性炭3重量%、塩化ナトリウム3重量%、保水剤3重量%、水31重量%の組成物
【0097】粘着層の製造カオリン 20.0重量部CMC 0.5重量部アクリル酸デンプン 2.0重量部ゼラチン 5.0重量部酸化チタン 1.0重量部界面活性剤 1.0重量部防腐剤 0.03重量部グリセリン 16.0重量部水 54.5重量部
【0098】上記の組成物からなる吸汗性の粘着基剤(湿布基剤)を用い、これを上記発熱体構造物(1a)の裏面、つまり不織布(6b)側に810g/m2となるように形成して吸汗性の粘着層を形成した。
【0099】次いで、上記粘着層上に、塩酸リドカインゼリーを塗工して、塩酸リドカイン含有粘着層(4)を形成した。この場合、塩酸リドカイン含有粘着層(4)全体中の塩酸リドカイン含有量は1重量%になるように調整した。
【0100】かくして、本発明の温熱治療用構造物(1)を得た。この温熱治療用構造物(1)の大きさは、縦9.5cm、横13.0cmとした。
【0101】比較例1上記温熱治療用構造物において、塩酸リドカインを除いたものを用いた。
【0102】比較例2塩酸リドカインゼリーをガーゼに塗布したものを用いた。この場合、ガーゼの大きさは実施例のものと同じにし、又、塩酸リドカインの含有量は実施例のものと同じ条件とした。
【0103】比較例3市販されているインドメタシン軟膏を用いた。この軟膏には1重量%のインドメタシンが含有されている。
【0104】比較例4上記実施例の温熱治療用構造物において、塩酸リドカインに代えて、インドメタシンを用いた以外は、実施例と同様に製造したものを用いた。
【0105】上記実施例のものと比較例1・2及び比較例4のものを用い、慢性腰痛を訴えて病院を訪れた患者計30例(各例については10名)について、以下の治療を試みた。
【0106】上記比較例3の軟膏を1.5g採り、これを、慢性腰痛を訴えて病院を訪れた患者10例の患部に塗布し、以下の治療を試みた。
【0107】対象をランダムに3群に分け、その症状を、日本整形外科学会の疼痛の自覚症状分類に則り、スコア化した。
【0108】1.疼痛(腰痛)のスコアについて(日本整形外科学会の疼痛の自覚症状分類による。)A.腰痛に関して:a.まったく腰痛はない 0点b.時に軽い腰痛がある 1点c.常に腰痛があるか、或いは時にかなりの腰痛がある 2点d.常に激しい腰痛がある 3点B.下肢痛及びシビレに関して:a.まったく下肢痛、シビレがない 0点b.時に軽い下肢痛、シビレがある 1点c.常に下肢痛、シビレがあるか、或いは時にかなりの下肢痛、シビレがある2点d.常に激しい下肢痛、シビレがある 3点AとBの得点を加えた点数を腰痛スコアとする。
【0109】2.対象患者の治療内容による分類対象患者をその治療内容により5群に分けた。
実施例群:実施例のものを用い、これを疼痛局部に1枚貼着し、これを毎日張り替えつつ2週間続けた。
比較例1群:比較例1のものを用い、実施例と同様の試験を行った。
比較例2群:比較例2のものを用い、実施例と同様の試験を行った。
比較例3群:比較例3のものを用い、実施例と同様の試験を行った。
比較例4群:比較例4のものを用い、実施例と同様の試験を行った。
【0110】上記3群の各患者の治療前後の腰痛スコアの変動を、第1表(実施例群)、第2表(比較例1群)、第3表(比較例2群)、第4表(比較例3群)、第5表(比較例4群)にそれぞれ示す。
【0111】
【表1】


【0112】
【表2】


【0113】
【表3】


【0114】
【表4】


【0115】
【表5】


【0116】治療前の各群の重症度に、統計学的有意差は、認められなかった。次に、各群について検討してみる。
【0117】1)第1表(実施例群)に示す結果より;治療前の腰痛スコアは3.9±1.3治療後の腰痛スコアは1.3±1.1であり、統計学的に治療は有効であることが認められる(p<0.01))。
【0118】2)第2表(比較例1群)に示す結果より;治療前の腰痛スコアは4.0±1.3治療後の腰痛スコアは2.6±0.9であり、統計学的に治療は有効であることが認められる(p<0.05)。
【0119】3)第3表(比較例2群)に示す結果より;治療前の腰痛スコアは3.8±1.2治療後の腰痛スコアは2.4±1.1であり、統計学的に治療は有効であった(p<0.05))。
【0120】4)第4表(比較例3群)に示す結果より;治療前の腰痛スコアは3.9±0.5治療後の腰痛スコアは3.1±1.0であり、統計学的には治療傾向はあるもあまり有効でないことが認められる(p<0.1)。
【0121】5)第5表(比較例4群)に示す結果より;治療前の腰痛スコアは3.9±1.0治療後の腰痛スコアは2.3±1.2であり、統計学的に治療は有効であった(p<0.05))。
【0122】治療前の腰痛スコアは、実施例群と比較例1〜4群の総てにおいて、いずれも統計的な有意差を認めなかった。第1表〜第5表に示す結果より、各群間の治療効果を統計学的に検討すると;実施例群 対 比較例1群;統計学的有意差あり(p<0.05)
実施例群 対 比較例2群;統計学的有意差あり(p<0.05)
実施例群 対 比較例3群;統計学的有意差あり(p<0.05)
実施例群 対 比較例4群;統計学的有意差あり(p<0.05)
比較例1群 対 比較例2群;統計学的有意差なし比較例3群 対 比較例4群;統計学的有意差あり(p<0.05)
【0123】以上に示す結果より、実施例群の治療効果は、比較例1群〜比較例4群に比して、優れていることが認められる。
【0124】また、治療効果時間の検討も行った。慢性疼痛(慢性腰痛)を有した患者を対象にして検討したところ、実施例群では対象10例の治療効果発現に要する時間は3.5±1.0分であり、また患部に適用して10時間後の腰痛スコアは3.9±1.3から1.5±0.8に減少し、極めて高い鎮痛効果が認められた(p<0.01)。また、その安全性についても、充分に検討を行ったが、副作用発現例は認められず、本発明の温熱治療用構造物は安全であることが認められる。
【0125】比較例1群について、上記と同様の試験を行ったところ、効果発現に要する時間は10.0±3.2分であり、また患部に適用して10時間経過後の腰痛スコアは4.0±1.3から3.2±1.5となり、所要の鎮痛効果は得られなかった。また、安全性について検討したところ異常は認められなかった。
【0126】比較例2群について、上記と同様の試験を行ったところ、効果発現に要する時間は4.2±3.1分であり、また患部に適用して10時間後の腰痛スコアは3.8±1.2から3.2±0.4であり、所要の鎮痛効果は認められなかった。また、安全性について検討したところ異常は認められなかった。
【0127】比較例3群について、上記と同様の試験を行ったところ、効果発現に要する時間は12.5±10.8分であり、また患部に適用して10時間経過後の腰痛スコアは3.9±0.5から3.6±0.1であり、所要の鎮痛効果は得られなかった。また、安全性について検討したところ異常は認められなかった。
【0128】比較例4群について、上記と同様の試験を行ったところ、効果発現に要する時間は9.6±6.2分であり、また患部に適用して10時間後の腰痛スコアは3.9±1.0から3.5±2.2であり、所要の鎮痛効果は認められなかった。また、安全性について検討したところ異常は認められなかった。
【0129】上述の結果より、実施例のものは局所麻薬剤と温熱の相乗効果により、速やかに、局所の鎮痛が図られ、それと同時に、発熱体により、安定した温熱効果が発生し、局所循環が改善され、所要の鎮痛効果が持続して得られる。
【0130】このように、実施例のものは、局所麻薬剤と、発熱体を組み合わせることにより、即効性があり、かつ鎮痛効果の持続性が認められるので至極有益である。
【0131】これに対して、比較例1のものは効果が乏しいだけでなく、鎮痛効果が発現するまでに相当の時間を要し、常に痛みがあるか、又は時にかなりの痛みがあったり、或いは常に激しい痛みがある慢性疼痛の患者に対して所要の効果が期待できないのである。
【0132】更に、比較例2のものは効果が乏しいだけでなく、鎮痛効果の持続性が欠けるのであり、従って、常に痛みがあるか、又は時にかなりの痛みがあったり、或いは常に激しい痛みがある慢性疼痛の患者に対して短時間で張り替える必要があり、大変煩わしい上、所要の効果が期待できないのである。
【0133】比較例3のものは効果が殆ど期待できないだけでなく、鎮痛効果が発現するまでに相当の時間を要し、常に痛みがあるか、又は時にかなりの痛みがあったり、或いは常に激しい痛みがある慢性疼痛の患者に対して所要の効果が期待できないのである。
【0134】比較例4のものは効果がある程度期待できるが、鎮痛効果の持続性が欠けるのであり、従って、常に痛みがあるか、又は時にかなりの痛みがあったり、或いは常に激しい痛みがある慢性疼痛の患者に対して短時間で張り替える必要があり、大変煩わしい上、所要の効果が期待できないのである。
【0135】以上の実験から、本発明の温熱治療用構造物は、至極優れた鎮痛効果を発現する上、即効性があり、しかも鎮痛効果の持続性が得られるので、慢性化した腰痛、神経痛、筋痛症、頭痛や肩凝り、頚肩腕症候群、いわゆるムチ打ち症、四肢痛、各部関節痛及び慢性関節リューマチ、難治性筋神経疾患等の治療に有効である。
【0136】
【発明の効果】本発明の温熱治療用構造物は、上記構成を有し、疼痛局所に貼着されると、局所麻酔剤により慢性疼痛を速やかに除去したり、慢性疼痛を緩和する等、慢性疼痛の有効な治療を行うのであり、しかも発熱体組成物中の水分により皮膚表面温度を所定の範囲に維持して低温火傷を防止すると共にその温度を長時間に亘って維持することにより長時間に亙って慢性疼痛を除去ないし緩和するのである。
【0137】又、本発明の温熱治療用構造物は特定の発熱体組成物を封入してなるので、この温熱治療用構造物を疼痛局部に適用したとき、当該温熱治療用構造物の温度特性は、その内部の発熱体組成物が空気との酸化反応によって発生する反応熱と、発熱体組成物内の水の気化潜熱、更に血流による放熱のバランスが維持され、この発熱と放熱のバランスの維持によって所望の温度が長時間に亘って維持される結果、鎮痛効果の持続性が確保されるのである。
【0138】更に、本発明の温熱治療用構造物はその貼付局所を加温することにより皮膚表面の温度を上げ、血流を促進し、皮膚表面領域の新陳代謝を高めうるのであり、しかも皮膚温度を下げることなく一定であり、慢性化した慢性疼痛の治療に有効である上、皮膚刺激等の副作用がなく、安全性が高いのである。
【0139】本発明の温熱治療用構造物において、発熱体成分として鉄粉を用いることにより、安全性が高い上、安価で経済的であり、しかも硫黄臭等がなく使用感が良好になるのである。
【0140】
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明の一実施例を示す断面図である。
【0141】
【符号の説明】
1 温熱治療用構造物
2 偏平状袋体
3 発熱体組成物
4 粘着層
5 透湿性フィルム
5a 透湿性基材フィルム
5b 多孔質補強用基材
6 支持体
6a 合成樹脂フィルム
6b 粘着層保持部材
7 保護フィルム
C 気密性袋体

【特許請求の範囲】
【請求項1】表面が透湿性フィルムで形成され、且つ裏面が支持体で形成された解放部のない偏平状袋体に、空気の存在により発熱する発熱体組成物を封入してなる発熱体構造物において、該発熱体構造物の裏面に粘着層が形成されており、該粘着層には局所麻酔剤が含有されていることを特徴とする温熱治療用構造物。
【請求項2】透湿性フィルムは透湿度が100〜400g/m2/24hr(ASTM法)である請求項1に記載の温熱治療用構造物。
【請求項3】粘着層が吸汗性の粘着層である請求項1または2に記載の温熱治療用構造物。
【請求項4】発熱体組成物が鉄粉40〜75重量%、塩化物1〜10重量%、水10〜40重量%、保水剤1〜40重量%からなる請求項1ないし3のいずれかに記載の温熱治療用構造物。
【請求項5】発熱体組成物が鉄粉40〜75重量%、活性炭1〜10重量%、塩化物1〜10重量%、水10〜40重量%、保水剤1〜40重量%からなる請求項1ないし3のいずれかに記載の温熱治療用構造物。
【請求項6】発熱体組成物の充填量が500〜7000g/m2である請求項1ないし5のいずれかに記載の温熱治療用構造物。
【請求項7】局所麻酔剤がプロカイン、塩酸プロカイン、リドカイン、塩酸リドカイン、メピバカイン、塩酸メピバカイン、プリロカイン、クアタカイン、ブピバカイン、塩酸コカイン、アミノ安息香酸エチル、塩酸テトラカイン、塩酸ジブカイン、オキシブプロカイン、塩酸プロピトカイン、テーカイン、塩酸ベノキシネイト、塩酸メプリルカイン、塩酸プロカイン、塩酸クロロプロカイン、塩酸ベノキシネート又は塩酸ヘキソチオカインである請求項1ないし6のいずれかに記載の温熱治療用構造物。
【0001】

【図1】
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【公開番号】特開平5−170644
【公開日】平成5年(1993)7月9日
【国際特許分類】
【出願番号】特願平3−155571
【出願日】平成3年(1991)5月30日
【出願人】(000112509)フェリック株式会社 (14)