説明

温間鍛造潤滑膜形成方法

【課題】温間鍛造において優れた潤滑性を示すことができる温間鍛造処理方法を提供すること。
【解決手段】化成皮膜形成工程と潤滑剤皮膜形成工程とを行うことにより、被鍛造材1の表面に、リン酸亜鉛又は高融点金属とリン酸亜鉛とを含有するリン酸塩化成皮膜11と非電解質成分を含有する潤滑剤皮膜12、13とから構成される温間鍛造潤滑膜15を形成する方法である。化成皮膜形成工程においては、被鍛造材1の表面に、電解処理によりリン酸塩化成皮膜11を形成する。潤滑膜形成工程においては、リン酸塩化成皮膜11を形成した被鍛造材1を、潤滑剤を溶媒中に溶解又は分散してなる潤滑剤槽中に浸漬し、潤滑剤皮膜12、13を形成する。リン酸塩化成皮膜11と無機潤滑膜12及び/又は有機潤滑膜13とからなる温間鍛造潤滑膜15を50g/m2を越える量で形成する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、温間鍛造加工に用いられる温間鍛造潤滑膜の形成方法に関する。
【背景技術】
【0002】
金属の温間鍛造加工においては、金属の被鍛造材と金型とが直接接触すると、金属の焼付けが発生する。そのため、被鍛造材と金型との間に潤滑膜又は潤滑剤を介在させることが行われていた。具体的には、被鍛造材に潤滑膜を形成したり、金型に金型潤滑剤を噴霧・塗布することにより、被鍛造材と金型との潤滑性を高めることが行われていた。また、被鍛造材の表面に潤滑性を有する皮膜を形成することは、金型潤滑剤の噴霧量を極力減らし、温鍛プレス機周辺の作業環境を改善することになる為、温間鍛造に対応可能な潤滑皮膜の形成が検討されてきた。
【0003】
具体的には、例えば、無機塩と二硫化モリブデン、又は無機塩と黒鉛等から構成された潤滑皮膜を被鍛造材に形成する技術が開発されている(特許文献1参照)。特許文献1の実施例には、被膜量を4.6〜28.7g/m2にすることが示されている。特許文献1には、被鍛造材を無機塩と黒鉛等から構成された処理浴に浸漬し潤滑皮膜を形成する方法が示されている。
【0004】
また、リン酸塩化成皮膜を温間鍛造加工用の被鍛造材に形成する技術が開発されている(特許文献2参照)。そして、引用文献2には、リン酸塩化成皮膜上に、黒鉛(グラファイト)、二硫化モリブデン、合成雲母、ステアリン酸ナトリウム等の潤滑成分を付着させ潤滑皮膜を形成することが示されている。
【0005】
また、非特許文献1には、金型への塗布に加えて、黒鉛のビレットコーティング、即ち、黒鉛を予め被鍛造材に塗布し皮膜を形成させることを併用することが示されている。
また、非特許文献1には、作業改善の為、白色あるいは透明の非黒鉛系の金型潤滑剤が使用されており、非黒鉛系としては水溶性ポリマーを利用する事が示されている。しかし、現在のところ、温間鍛造の適用条件が厳しくなり、形状の複雑化や要求精度の高度化もあり、超微粒子黒鉛を使用されるようになったが、黒鉛潤滑剤を完全に置き換える事はできないと記述されている。そして環境にやさしい非黒鉛系の潤滑剤開発を要求している。
【0006】
また、非特許文献1には、冷間鍛造に関する技術状況が示されている。そして、冷間鍛造では潤滑剤皮膜量と冷鍛加工性が密接に関係している事が示されており、潤滑処理皮膜量を管理すべき事が示されている。そこに示された冷間鍛造での良好な潤滑皮膜量は、リン酸塩皮膜(下層):6.0g/m2、金属石鹸皮膜(有機物)量(中層):3.9g/m2、未反応石鹸皮膜(有機物)量(上層):3.2g/m2であり、合計した潤滑処理皮膜量は13.1g/m2である。この潤滑処理皮膜量は、冷間鍛造での皮膜量の範囲が10〜20g/m2である事を示している。
非特許文献1での、冷間鍛造に関する記述(50頁)は温間鍛造に関する記述(4頁)の10倍以上である。また、冷間鍛造では、潤滑法に関する項目を設けて説明しているが、温間鍛造ではそのような事はない。
【0007】
非特許文献1から現状の温鍛加工の潤滑処理は、冷鍛加工に比較し大きく遅れている事を示している。それは、温鍛加工での適切な潤滑処理技術の開発を必要とし、その中には潤滑処理皮膜量の管理を含むものと考えられる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開平6−1994号公報
【特許文献2】特開2007−46149号公報
【非特許文献】
【0009】
【非特許文献1】日本塑性加工学会編、「塑性加工便覧」、日本、コロナ社、2006年、p.332−337
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
温間鍛造加工において、金属からなる被鍛造材に形成する上述の従来の潤滑皮膜は、その潤滑性が未だ充分ではなかった。そのため、金型へ噴霧する例えば黒鉛の金型潤滑剤の量を充分に低減させることができず、作業環境を充分に改善させることが困難であった。
黒鉛の型への噴霧は、プレス型周辺に黒色の黒鉛を撒き散らす事であり、プレス機周辺が黒色になる。潤滑剤の非黒鉛化は、プレス機周辺の黒色化を防止する事になる。
【0011】
本発明はかかる問題点に鑑みてなされたものであって、温間鍛造において優れた潤滑性を示し、作業環境を改善することができる温間鍛造潤滑膜の形成方法を提供しようとするものである。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明は、金属からなる被鍛造材の表面に、リン酸亜鉛、又は温鍛加工時に上記被鍛造材が加熱される温度よりも高い融点を有する高融点金属とリン酸亜鉛とを含有するリン酸塩化成皮膜と、非電解質成分を含有する潤滑剤皮膜とから構成される温間鍛造潤滑膜を形成する温間鍛造潤滑膜の形成方法において、
上記被鍛造材の表面に、電解処理により、上記リン酸塩化成皮膜を形成する化成皮膜形成工程と、
上記リン酸塩化成皮膜を形成した上記被鍛造材を、潤滑剤を溶媒中に溶解又は分散してなる潤滑剤槽中に浸漬し、上記リン酸塩化成皮膜上に上記潤滑剤皮膜を形成する潤滑剤皮膜形成工程とを行い、
上記リン酸塩化成皮膜と上記潤滑剤皮膜とからなる上記温間鍛造潤滑膜を50g/m2を越える量で形成することを特徴とする温間鍛造潤滑膜の形成方法にある(請求項1)。
【発明の効果】
【0013】
以下、本願発明について説明する。
まず、従来技術(非特許文献1、特許文献1及び特許文献2)及び本願発明について、温鍛加工での潤滑処理状況を下記の表1にまとめる。
【0014】
【表1】

【0015】
初めに鍛造加工での潤滑作用を考察し、その対応策を示す。
鍛造加工は、被鍛造材に圧力を加え鍛造型の形状に成形するものである。その工程で、被鍛造材は鍛造型に物理的に接触し変形する。しかし、被鍛造材と鍛造型が直接接触すると、それに伴って型が破損するため、両者の間に潤滑剤を介在させることが行われている。これは、鍛造加工は、一方の材料(被鍛造材)には圧力・熱等のエネルギーを加え変形させるが、もう1つの材料(鍛造型)には加えられたエネルギーの影響(移動)を最小限に抑えることが要求される事を示している。そして、鍛造型に対する影響(エネルギー移動)を少なくすることを確実なものとするため、両者の間に介在し、直接の接触を避けるためのものとしての潤滑剤を機能させることが望まれる。
【0016】
被鍛造材を鍛造加工する事は、被鍛造材を鍛造型に物理的に接触させ型の形状に沿って変形させる事である。故に、潤滑剤の機能は被鍛造材と型が物理的に接触する表面での熱エネルギー移動に伴う化学反応を伴う接触を防止し、被鍛造材から鍛造型への金属イオン等の移動を防ぐ事である。金属イオンが移動する事は、電気化学的な作用である。従って、鍛造加工は、電気化学的現象として考察する事ができる。電解質を挟んで2つの金属材料を対置させれば、2つの金属材料は電気化学的には陽極―陰極として作用することは、電気化学的な現象として説明できる。そして、両者の間に熱・圧力等のエネルギーを印加すれば、電気化学的作用は促進される。
鍛造加工での型の破損は、両者間のエネルギー移動(被鍛造材から鍛造型へ)が大きくなり、それに伴って型の表面が溶解する事で起こる現象である。
【0017】
潤滑剤の機能向上は、両者間の電気化学的作用を抑止する機能を向上させることである。又、温鍛加工では被鍛造材を加熱する事から、潤滑剤は、温鍛加工時の温度(300〜900℃)に加熱された状態で機能することが要求される。その為には、潤滑皮膜の化学的構造が温鍛加工時の温度で大幅に変化せず、電気化学的絶縁性を保持することが要求される。
また、潤滑性を維持するために、潤滑皮膜は温鍛加工時の被鍛造材の伸びに追随して、同様に伸びることが求められる。
【0018】
本発明は、潤滑剤の機能を電気化学的現象として把握し、被鍛造材への潤滑皮膜の形成を化学反応レベル(分子レベル)から考察し向上させるものである。
表1の非特許文献1(従来技術1)の方法は、被鍛造材への潤滑皮膜の形成を物理的方法のみで行っている。従って、被鍛造材表面で分子レベルの物質(イオン)から皮膜が形成されているのではない。すなわち、非特許文献1の皮膜形成は、溶液に溶解したイオン成分が反応し10μmレベルの膜厚を有する皮膜となったものではない。また、物理的手法のみの場合には、黒鉛などの潤滑成分を30g/m2を超えて均一に形成する事は不可である。故に、非特許文献1(従来技術1)の方法は、皮膜の緻密さが充分でなく、且つ充分な皮膜量を確保できない事から、被鍛造材から鍛造型へのエネルギー移動を抑制する能力は小さい。故に、被鍛造材の相手側である型潤滑剤に黒鉛が多用される事になる。
【0019】
本発明の内容を具体的に示す。
本発明においては、上記被鍛造材の表面に耐熱性を有する上記リン酸塩化成皮膜を電解処理で化学反応させるという化学的手段により形成する(上記化成皮膜形成工程)。次いで、その上に黒鉛などの潤滑剤成分を付着させて上記潤滑剤皮膜を浸漬などの物理的手段で(化学反応なしで)形成する(潤滑剤皮膜形成工程)。そして、これら2つの手段によって形成する、上記リン酸塩化成皮膜と上記潤滑剤皮膜とからなる上記温間鍛造潤滑膜を50g/m2を越える量で形成する。
【0020】
耐熱性を有する上記リン酸塩化成皮膜とは、加熱されても大きな化学構造の変化を生じない皮膜を示す。具体的には、例えばリン酸塩化成皮膜を示差熱分析した時、200℃付近でリン酸塩化合物から結晶水が脱離する現象を示さない皮膜を示す。
そして、上記被鍛造材の表面に均一に絶縁性を有する無機化合物である上記リン酸塩化成皮膜を形成することは、潤滑皮膜の絶縁性を確保する事であり、被鍛造材からの金属イオン等の移動を防ぐ事に寄与する。
【0021】
本発明においては、次いで黒鉛等の潤滑剤皮膜をリン酸塩化成皮膜の上に形成する。黒鉛等の潤滑剤皮膜は、例えば被鍛造材を100℃以下で加熱し潤滑剤を溶解・分散させた潤滑剤槽中に浸漬し、引上げることで形成することができる。すなわち、潤滑剤皮膜は、被鍛造材表面に潤滑剤成分を物理的に吸着させて形成する。リン酸塩化成皮膜が化学反応を経て形成されるのに対して、潤滑剤皮膜は化学反応無しで形成される。従って、化成皮膜と潤滑剤皮膜では形成方法が基本的に異なる。
リン酸塩化成皮膜は絶縁性を有する無機高分子化合物(結晶)で構成されており、同じく非電解質で高分子化合物である黒鉛等の潤滑剤成分と親和性を有する。このため、上記潤滑剤は被鍛造材表面、即ち上記リン酸塩化成皮膜上に速やかに分散し均一な皮膜を形成することができる。
【0022】
表1に示す特許文献2(従来技術2)の方法は、ここまでの内容にて被鍛造材に潤滑皮膜を形成したものである。特許文献2と本発明との違いは、潤滑皮膜量に対する考察の有無である。特許文献2に示した方法では、被鍛造材を潤滑剤を溶解・分散させた処理浴に浸漬するのは1回のみである。その方法では、リン酸塩化成皮膜+潤滑皮膜量は概ね50g/m2以下である。
一方、本発明においては、上記被鍛造材を、潤滑剤を溶解・分散させた処理浴に浸漬する操作を2回以上繰り返して行うことを推奨している。そして、2回以上繰り返し行うことにより、上記リン酸塩化成皮膜と上記潤滑剤皮膜とから構成される全潤滑皮膜(上記温間鍛造潤滑膜)を確実に50g/m2を越える量で形成することができる。
【0023】
潤滑剤皮膜量の確保は、上記被鍛造材から鍛造型への金属イオン等を伴うエネルギーの移動を防ぐ事に大きく寄与する。特に、温鍛加工では、被鍛造材を300℃以上に加熱する事から、その有効性は大きい。したがって、本発明において形成された上記温間鍛造潤滑膜は、温間鍛造において優れた潤滑性を示すことができる。
【0024】
次に、作業環境の改善について示す。
本発明においては、温間鍛造加工における作業環境の改善を図ることができる。
即ち、本発明によって形成された温間鍛造潤滑膜を有する上記被鍛造材を用いると、温間鍛造時に、型潤滑剤を黒色の黒鉛系から非黒鉛系の潤滑剤(例えば水溶性有機高分子からなる潤滑剤)に置き換えることができる。
一般に、黒鉛が型潤滑剤として使用されている理由は、黒鉛の融点が3500℃であり、温鍛加工の温度である900℃までに比較して高いため、温鍛加工温度で型と被鍛造材との間の絶縁性を黒鉛からなる型潤滑剤自体も確保できるからである。一方、有機系の潤滑剤は、概ね融点が300℃程度であり、温鍛加工温度では溶融している。従って、非特許文献1(従来技術1)で被鍛造材に化学反応なしで形成される潤滑皮膜に対しては、型潤滑剤は耐熱性を有することが求められ、黒鉛系のものが採用される傾向にある。
【0025】
本発明において、上記リン酸塩化成皮膜と上記潤滑剤皮膜とからなる上記温間鍛造潤滑膜を50g/m2を越える量で形成しており、上記温間鍛造潤滑膜自体が優れた潤滑性を示すことができる。そのため、高融点の黒鉛(黒色潤滑剤)を型潤滑剤として噴霧しなくても温鍛加工が可能になり、例えば複雑な形状への加工も可能になる。
このように、本発明においては、温間鍛造時に黒鉛からなる型潤滑剤を用いなくても加工が可能になり、温間鍛造加工における作業環境を向上させることができる。
【0026】
以上のように、本発明によれば、温間鍛造において優れた潤滑性を示し、作業環境を改善することができる温間鍛造潤滑膜の形成方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0027】
【図1】実施例1にかかる、温間鍛造加工前の被鍛造材の外形を示す説明図。
【図2】実施例1にかかる、温間鍛造加工後の被鍛造材の外形を示す説明図。
【図3】実施例1にかかる、被鍛造材の表面に形成した、リン酸塩化成皮膜と無機潤滑膜と有機潤滑膜とを有する温間鍛造潤滑膜の断面構造を示す説明図。
【図4】実施例1にかかる、電解処理による化成皮膜の形成方法(化成皮膜形成工程)を示す説明図。
【図5】実施例1にかかる、被鍛造材を無機潤滑剤槽に浸漬して無機潤滑膜を形成する様子を示す説明図(a)、被鍛造材を有機潤滑剤槽に浸漬して有機潤滑膜を形成する様子を示す説明図(b)。
【図6】被鍛造材の表面に形成した、リン酸塩化成皮膜と無機潤滑膜とを有する温間鍛造潤滑膜の断面構造を示す説明図。
【図7】被鍛造材の表面に形成した、リン酸塩化成皮膜と有機潤滑膜とを有する温間鍛造潤滑膜の断面構造を示す説明図。
【発明を実施するための形態】
【0028】
次に、本発明の好ましい実施の形態について説明する。
本発明において、金属からなる上記被鍛造材としては、例えば鉄鋼材等を採用することができる。また、非鉄金属材を採用することもできる。
具体的には、上記被鍛造材としては、鉄、鉄合金、銅合金、アルミニウム、又はアルミニウム合金を採用することができる(請求項13)。
【0029】
本発明においては、温間鍛造加工用の上記被鍛造材に上記温間鍛造用潤滑膜を形成する。
温間鍛造加工(温鍛加工)は、被鍛造材を室温よりも高温に加熱した後に鍛造加工するものである。その加熱温度は金属の種類により異なる。例えば鉄鋼からなる被鍛造材に対しては、例えば温度300〜1000℃で行う。また、非鉄金属からなる被鍛造材については、例えばアルミニウム、アルミニウム合金からなる被鍛造材に対しては例えば温度200〜450℃で行い、銅又は銅合金からなる被鍛造材に対しては例えば温度200〜600℃で行う。
【0030】
本発明においては、上記リン酸塩化成皮膜形成工程と上記潤滑剤皮膜形成工程とを行うことにより、上記リン酸塩化成皮膜と上記潤滑剤皮膜とから構成される上記温間鍛造用潤滑膜を、50g/m2を越える量で形成する。
50g/m2以下の場合には、潤滑性が不十分になり、水分散性高分子化合物から構成される型潤滑剤の使用ができる加工範囲が小さくなる。そのため、温間鍛造の作業環境が悪化する傾向にある。
【0031】
上記リン酸塩化成皮膜形成工程においては、上述のごとく上記被鍛造材の表面に、電解処理により、上記リン酸塩化成皮膜を形成する。
上記リン酸塩化成皮膜としては、リン酸亜鉛からなるもの、又はリン酸亜鉛と上記高融点金属とからなるものを採用することができる。上記高融点金属は、温鍛加工時に上記被鍛造材が加熱される温度と同等程度以上の融点を有し、電解処理にて析出可能な金属である。
好ましくは、上記リン酸塩化成皮膜は、リン酸亜鉛と上記高融点金属とから構成されていることがよい。
【0032】
上記化成皮膜形成工程においては、硝酸塩又はリン酸溶液に溶解させた状態の亜鉛と、リン酸とを水に溶解させて、電解リン酸塩化成処理浴を作製し、該電解リン酸塩化成処理浴中で、亜鉛を一方の電極とし、上記被鍛造材をもう一方の電極として、両電極間で直流電源を用いた電解を行うことにより、上記リン酸塩化成皮膜を上記被鍛造材に形成することが好ましい(請求項10)。
この場合には、硝酸塩から析出する上記高融点金属とリン酸塩とを含有し、上記高融点金属を主体とする上記リン酸塩化成皮膜を上記被鍛造材の表面に形成することができる。
【0033】
また、上記化成皮膜形成工程においては、硝酸塩又はリン酸溶液に溶解させた状態の亜鉛と、リン酸とを水に溶解させて、電解リン酸塩化成処理浴を作製し、該電解リン酸塩化成処理浴中で、亜鉛を一方の電極とし、上記被鍛造材をもう一方の電極として、両電極間で直流電源を用いた電解を行うことにより、上記リン酸塩化成皮膜を上記被鍛造材に形成することができる(請求項11)。
この場合には、リン酸塩を主体とする上記リン酸塩化成皮膜を上記被鍛造材の表面に形成することができる。また、この場合においても、上記高融点金属を1g/l以下の濃度で処理浴に硝酸塩として混入させることが可能である。
【0034】
上記のごとく、電解処理により形成した上記リン酸塩化成皮膜は、耐熱性に優れ、温間鍛造加工に好適である。
特に、上記高融点金属とリン酸塩とを含有する上記リン酸塩化成皮膜は、より耐熱性に優れるためより好ましい。
【0035】
また、電解リン酸塩化成処理法で得られた上記リン酸塩化成皮膜は、その皮膜成分を示差熱分析した時、リン酸塩結晶の含水塩(Zn3(PO4) 2・4H2O)が200℃程度以下で分解する事を示す示差走査熱量曲線の大きな変動を示さない。故にこのようにして作製したリン酸塩化成皮膜のリン酸塩結晶は:Zn3(PO4) 2であり、優れた耐熱性を示すことができる。
したがって、上記リン酸塩化成皮膜は、電解リン酸塩化成処理法で得られたリン酸塩皮膜成分を示差熱分析した時、リン酸塩結晶の含水塩(Zn3(PO4) 2・4H2O)が200℃以下で分解することを示す示差走査熱量曲線の変動を示さない結晶を有する皮膜であることが好ましく(請求項9)、この場合には、上記リン酸塩化成皮膜が結晶水を含まず、より優れた耐熱性を発揮することができる。なお、示差熱分析においては、温度900℃まで昇温させ、含水塩の分解に伴う示差走査熱量曲線の変動を観察することができる。
【0036】
上記高融点金属としては、例えばニッケル、コバルト、及び亜鉛等を採用することができる。上記高融点金属は、上記化成皮膜形成工程において、上記リン酸塩化成皮膜中に取り込まれるが、このとき、上記電解リン酸塩化成処理浴中で2価の金属イオンとして安定に溶解し、存在できることが好ましい。この観点から、上記高融点金属としては、上述のごとくニッケル、コバルト、及び亜鉛から選ばれる少なくとも1種を用いることが好ましい。
上記高融点金属は、硝酸塩の形で処理浴に溶解し、補給される。そして、陰極電解により還元され、金属として析出する。
【0037】
上記高融点金属とリン酸塩とを含有する上記リン酸塩化成皮膜を形成する場合においては、上記電解リン酸塩化成処理浴を構成する成分は、例えば、「リン酸」、「亜鉛がリン酸を解離した状態で溶解し、リン酸イオンと会合し溶解してなる成分」、「ニッケル、コバルト、亜鉛から選ばれる1種以上の金属元素の硝酸塩が溶解してなる成分」がある。これら以外のイオン種は、雑イオンであり、実質的に含有しないことが好ましい。
【0038】
また、上記高融点金属とリン酸塩とを含有する上記リン酸塩化成皮膜を形成する場合には、上記電解リン酸塩化成処理浴は、リン酸イオン、硝酸イオン、亜鉛イオンを含み、さらに皮膜成分とならないその他のイオンの濃度が0.5g/L以下であり、上記高融点金属のイオンの濃度が20g/L以上であり、かつリン酸とリン酸イオンとの合計濃度は上記高融点金属のイオンの濃度の1/2以下であることが好ましい。
【0039】
また、上述のごとく、上記高融点金属としては、ニッケル、コバルト、亜鉛等を用いることができる。
ここで、亜鉛イオンは、リン酸塩として析出する成分(A)と金属として析出する成分(B)の両方に関与する。
亜鉛イオンの上記成分(A)及び上記成分(B)への配分は以下のとおりである。
即ち、処理浴中の[Zn2+]を亜鉛のモル濃度で表し、[H3PO4+H2PO4-]をリン酸のモル濃度で表す。リン酸亜鉛は、Zn3(PO4)2であり、[Zn2+]/[PO43-]のモル比は2/3である。したがって、処理浴の[Zn2+]/[PO43-]のモル濃度比が2/3以下である場合はリン酸亜鉛のみが皮膜として析出し、2/3以上の場合はリン酸亜鉛+亜鉛が皮膜として析出する。いずれの場合でも亜鉛濃度は10g/L以上であることが好ましい。
【0040】
また、リン酸塩を主体とする上記リン酸塩化成皮膜を形成する場合には、上記電解リン酸塩化成処理浴における亜鉛イオンの濃度が20g/L以上であることがより好ましい。
【0041】
また、硝酸イオンについては、高融点金属とリン酸塩とを含有するリン酸塩化成皮膜を形成する場合においても、リン酸塩を主体とするリン酸塩化成皮膜を形成する場合においても、電解リン酸塩化成処理浴の金属成分は硝酸塩の形でのみ補給されるため、金属成分の濃度に比例する濃度で供給される。例えば、ニッケルイオンとして20g/lを硝酸塩(Ni(NO3) 2)から溶解すれば、硝酸イオン濃度(g/l)は20×(62×2/58.7)=42.2g/lとなる。
【0042】
また、上記化成皮膜形成工程における電解は、電解電圧18V以下で行うことが好ましい。
【0043】
次に、上記リン酸塩化成皮膜は、膜厚(皮膜重量)10〜40g/m2で形成することが好ましい。
上記リン酸塩化成皮膜の膜厚が40g/m2を越えると、皮膜が素材(被鍛造材)から剥がれ易くなるおそれがある。一方、10g/m2未満の場合には、上記リン酸塩化成皮膜上に形成する上記潤滑剤皮膜を確実に保持することが困難になるおそれがある。
皮膜重量の測定は、上記被鍛造材の表面に形成した皮膜をナイフ等で剥がし、その重量を測定することにより、剥がした表面の面積辺りの重量を得る。この重量値を1m2辺りに換算して、上記皮膜重量(g/m2)とすることができる。
【0044】
また、上記化成皮膜形成工程においては、上記被鍛造材を陽極として、上記電解リン酸塩化成処理浴に不溶性の電極材を陰極として陽極電解を行った後、皮膜主成分となる金属材料を陽極とし、上記被鍛造材を陰極として陰極電解を行うことにより、上記リン酸塩化成皮膜を上記被鍛造材に形成することが好ましい(請求項12)。
この場合には、電解処理での導通性を確保することが容易になり、上記被鍛造材に上記リン酸塩化皮膜を容易に形成することができる。
【0045】
次に、上記潤滑膜形成工程においては、上述のごとく、上記化成皮膜を形成した上記被鍛造材を、潤滑剤を溶媒中に溶解又は分散してなる潤滑剤槽中に浸漬し、上記化成皮膜上に上記潤滑剤皮膜を形成する。
上記潤滑剤皮膜は、層状構造を有する無機高分子化合物からなる無機潤滑膜及び/又は層状構造を有する有機高分子化合物からなる有機潤滑膜から構成されていることが好ましい(請求項2)。即ち、上記潤滑剤皮膜形成工程においては、上記潤滑剤皮膜として、上記無機潤滑膜及び/又は上記有機潤滑膜を形成することができる。
したがって、上記温間鍛造用潤滑膜は、「上記リン酸塩化成皮膜と該リン酸塩化成皮膜上に形成された上記無機潤滑膜」、「上記リン酸塩化成皮膜と該リン酸塩化成皮膜上に形成された上記有機潤滑膜」、又は「上記リン酸塩化成皮膜と該リン酸塩化成皮膜上に形成された上記無機潤滑膜と該無機潤滑膜上に形成された上記有機潤滑膜」から構成することができる。無機高分子化合物としては、例えば黒鉛、二硫化モリブデン等を作用することができる。また、有機高分子化合物としては、ステアリン酸ナトリウム等の高級脂肪酸塩を採用することができる。
好ましくは上記無機高分子化合物は、グラファイト(黒鉛)であり、上記有機高分子化合物はステアリン酸ナトリウムであることがよい(請求項3)。
さらに、上記潤滑剤皮膜形成工程においては、上記無機潤滑膜上に上記有機潤滑膜を積層形成することが好ましい(請求項4)。
これらの場合には、常温では比較的脆い黒鉛からなる上記無機潤滑膜を常温では比較的強度に優れた高級脂肪酸塩(ステアリン酸ナトリウム)からなる上記有機潤滑膜で被覆した構造の上記潤滑剤皮膜を形成することができる。そのため、常温での潤滑膜の脱離を防止することができると共に、上記被鍛造材の搬送時における潤滑膜の破損を抑制することができる。それ故、上記被鍛造材上に形成された上記温間鍛造潤滑膜が温間鍛造時に優れた潤滑性を充分に発揮することができる。
【0046】
上記リン酸塩化成皮膜上への上記無機潤滑膜の形成は、黒鉛等の上記潤滑剤を含む溶液(上記潤滑剤槽)に上記リン酸塩化成皮膜を形成した上記被鍛造材を浸漬し乾燥させることにより行うことができる。
また、上記無機潤滑膜上への上記ステアリン酸ナトリウム等の高級脂肪酸塩からなる上記有機潤滑膜の形成は、ステアリン酸塩等の上記有機脂肪酸塩からなる上記潤滑剤を含む溶液(上記潤滑剤槽)に上記無機潤滑膜を形成した上記被鍛造材を浸漬し乾燥させることにより行うことができる。
【0047】
上記潤滑剤皮膜形成工程においては、無機高分子化合物からなる無機潤滑剤を溶媒中に分散又は溶解してなる無機潤滑剤槽に、上記リン酸塩化成皮膜を形成した上記被鍛造材を温度100℃以上に加熱した後、2回以上繰り返し浸漬することにより、上記無機潤滑膜を形成することが好ましい(請求項5)。
この場合には、上記被鍛造材上に形成される上記温間鍛造潤滑膜をより確実に50g/m2を越える量にすることができる。
【0048】
また、上記無機潤滑剤槽に上記被鍛造材を2回以上繰り返し浸漬させる際には、n回目(nは1以上の整数)の浸漬を行った後、上記無機潤滑剤槽から上記被鍛造材を引き上げて、該被鍛造材上に形成された上記無機潤滑膜の表面から水分を蒸発させた後、直ちにn+1回目の浸漬を行うことが好ましい(請求項6)。
n回目の浸漬の後、n+1回目の浸漬を、上記のごとく被鍛造材上に形成された上記無機潤滑膜の表面から水分を蒸発させた後直ちに行うことにより、上記無機潤滑膜上にさらに無機潤滑膜を密着性よく積層形成することができる。
【0049】
上記無機潤滑膜の形成にあたっては、温度200℃以下に加熱した上記被鍛造材を、室温から温度40℃の上記無機潤滑剤槽に5秒以下浸漬し、次いで乾燥を行うという浸漬乾燥工程をことにより、該浸漬乾燥工程1回あたりに形成される上記無機潤滑膜の皮膜形成量を制御すると共に、上記浸漬乾燥工程を繰り返すことにより上記無機潤滑剤膜を複数積層形成することが好ましい(請求項7)。
この場合には、上記無機潤滑剤膜を密着性よく積層形成することができると共に、確実に上記温間鍛造潤滑膜を50g/m2を越える量で形成することができる。
上記無機潤滑剤槽への浸漬時間を短くすると、1回の浸漬で被鍛造材に付着する上記無機潤滑膜の皮膜量を少なくすることができる。また、乾燥時間も短くすることができる。1回当りの浸漬及び乾燥での皮膜形成量を少なくし、上述のごとくその操作を繰り返す事で、皮膜量制御することができる。また、表面に凹凸がほとんどない均一な潤滑膜を形成でき、密着性にも優れる。
そして、積層形成により大きな厚みで形成した上記無機潤滑膜全体を乾燥(水分を完全に除去)させることにより、厚みの均一な潤滑膜を形成することができる。
【0050】
上記被鍛造材に、上記無機潤滑膜(黒鉛などの層状構造無機高分子化合物から構成された潤滑膜)を形成する具体的な方法は例えば以下とおりである。
即ち、まず、リン酸塩化成皮膜を形成した上記被鍛造材を、望ましくは120〜180℃に加熱する(第1操作)。次いで、その被鍛造材を所定の濃度の無機潤滑剤成分を含んだ処理浴(無機潤滑剤槽)に5秒以下で浸漬し、直ちに引き揚げる(第2操作)。次いで、引き揚げた被鍛造材を温風で乾燥させ、上記鍛造材上に形成された上記無機潤滑膜の水分を除去する(第3操作)。次いで、直ちに、無機潤滑膜を形成した被鍛造材を再度上記処理浴(無機潤滑剤槽)に5秒以下で浸漬し、直ちに引き揚げる(第4操作)。次いで、引き揚げた被鍛造材を温風で乾燥させ、上記鍛造材上に形成された上記無機潤滑膜の水分を除去する(第5操作)。そして、必要に応じて第4操作及び第5操作を繰り返す。このような操作にて、上記無機潤滑膜の皮膜重量を30〜80g/m2程度にすることができる。好ましくは、上記無機潤滑膜自体の皮膜量を50g/m2を越える量にすることがよい。なお、上記被鍛造材の上記処理浴への浸漬は、より好ましくは2秒以下で行うことがよい。
【0051】
上記無機潤滑膜は、上述のごとく、被鍛造材を潤滑剤成分を含んだ処理浴に浸漬し、引き揚げる操作で形成することができる。上記無機潤滑膜の形成は、被鍛造材表面から上記無機潤滑剤槽の水分が抜け去ることで行われる。そして、水分が上記無機潤滑膜の表面から速やかに抜け去れば、均一で密着性が良好な上記無機潤滑膜を形成することができる。すなわち、無機潤滑膜の形成時には水分の速やかな除去が重要になる。
本発明においては、上記のごとく、複数回の浸漬と乾燥とを繰り返して無機潤滑膜を積層形成することができる。これにより、1回当りの膜形成量を少なくし、水分除去量を小さくすることができる。その結果、1回当りの膜を容易に形成することができる。そして、それを複数回繰り返すことにより、必要な潤滑剤皮膜量(例えばリン酸塩化成皮膜+無機潤滑膜として50g/m2超過)を確実に確保することができると共に、均一で密着性に優れた無機潤滑膜を形成することができる。尚、このように、無機潤滑膜の積層形成が採用できるのは、上記リン酸塩化成皮膜が下地としてあり、その上に上記無機潤滑膜を形成するからである。
【0052】
これに対し、1回の浸漬及び乾燥で厚い(皮膜量の大きな)皮膜を形成する場合には、次のような問題が生じうる。
即ち、被鍛造材に1回の浸漬・引揚で厚い膜を形成しようとすると無機潤滑剤処理浴(無機潤滑剤槽)中で、大量の無機潤滑剤成分を被鍛造材表面に捕集することが必要になる。そのためこの場合には、被鍛造材の温度を高くする、無機潤滑剤処理浴の濃度を高くする、浸漬時間を長くするなどの対応が必要となる。この場合には、1回の処理での潤滑剤成分の付着量が大きいため、処理浴から引き揚げられた被鍛造材においては、潤滑剤成分が上端(無機潤滑膜側)から下端(被鍛造材側)方向に移動する。そのため、被鍛造材の上端と下端では、乾燥前の皮膜量が異なり、乾燥速度も異なる(下部>上部)。即ち、上部と下部では、水分除去速度が異なることになる。そのため、被鍛造材全体で均一な皮膜を形成することが困難になる。極端な場合には、潤滑皮膜の剥れを生じるおそれがある。
【0053】
そのような事から、1回の浸漬・引揚でリン酸塩化成皮膜の上に厚い無機潤滑膜を形成する事は望ましくない。従来においても同様であり、例えば上記特許文献1の実施例6でのリン酸塩化成皮膜+黒鉛の皮膜重量を追跡確認したところ、その皮膜重量は40−50g/m2の範囲であった。また、従来、リン酸塩化成皮膜を用いない場合では、潤滑剤皮膜の形成量は、一般的には30g/m2以下であった。いずれの場合においても50g/m2以下である。
【0054】
上記潤滑剤皮膜形成工程においては、有機高分子化合物からなる有機潤滑剤を溶媒中に分散又は溶解してなる有機潤滑剤槽に、上記リン酸塩化成皮膜を形成した上記被鍛造材を1回又は2回以上浸漬することにより、上記有機潤滑膜を形成することができる(請求項8)。
このとき、上記被鍛造材として、上記リン酸塩化成皮膜と上記無機潤滑膜とを形成した上記被鍛造材を用いることにより、上記無機潤滑膜上に上記有機潤滑膜を形成することができる。
即ち、上記潤滑剤皮膜形成工程においては、上記無機潤滑剤を含む液相(無機潤滑剤槽)に上記リン酸塩化成皮膜を形成した上記被鍛造材を浸漬して上記無機潤滑膜を形成し、次いで上記有機潤滑剤を含有する液相(有機潤滑剤槽)に上記被鍛造材を浸漬して上記無機潤滑膜上に上記有機潤滑膜を形成することができる。
【0055】
上記有機潤滑膜は有機脂肪酸塩から構成される。無機潤滑膜との主たる違いは、融点である。無機潤滑膜の融点は、被鍛造材加熱温度以上であり、温鍛プレス加工時は固体である。故に、固体潤滑剤として作用する。一方、有機潤滑膜の融点は、被鍛造材加熱温度以下であり、温鍛プレス加工時は溶融状態である。故に、有機潤滑膜は、液体潤滑剤として作用する。
【0056】
上記有機潤滑膜は皮膜形成時には固体(膜)である。しかし、温鍛加工前に750℃程度に加熱されると溶融状態になる。従って、有機潤滑膜が大量に付着していると加熱後に、燃焼するか被鍛造材から脱離する。故に、大量の有機潤滑膜は不要である。有機潤滑膜は10〜20g/m2程度が望ましく、その皮膜量は無機潤滑膜の皮膜量と比較し、少ない量にすることが望ましい。
【0057】
また、有機潤滑剤は、ステアリン酸ナトリウム等の有機脂肪酸塩から構成される。有機脂肪酸塩は、70℃以上の水溶液にはコロイド状態で溶解する。これは、無機高分子潤滑膜成分が処理浴に分散して存在している状況とは異なる状態である。有機脂肪酸塩の構成単位は分子であり、無機高分子材の潤滑剤は例えば1μm以上の粒子で構成されている。従って、有機脂肪酸塩の皮膜(固体)は、無機高分子材の膜より、構成単位が小さくち密な構成である。故に、常温では有機高分子剤の皮膜は、無機高分子潤滑膜より破壊されにくい。
そのため、上記有機潤滑膜を最外層に有する被鍛造材は、外部からの衝撃に対する耐久性に優れている。それ故、上記被鍛造材の例えば搬送時等に外部から衝撃を受けても、上記有機潤滑膜が潤滑剤皮膜全体を包み込み、これを保護することができる。
【0058】
上記リン酸塩化成皮膜、上記無機潤滑膜、及び上記有機潤滑膜は、温度300〜900℃で被鍛造材上で軟化し、流動性を得ることが好ましい。これにより、温間鍛造加工において、金型と上記被鍛造材とが物理的に接触して塑性変形する際に、被鍛造材表面を覆う上記リン酸塩化成皮膜、上記無機潤滑膜、及び上記有機潤滑膜、即ち温間鍛造用潤滑膜が上記温間鍛造加工の温度領域で溶融して流動化し、被鍛造材の塑性変形に追随して変化することにより、上記被鍛造材と金型とが直接接触することを防ぐことができる。
かかる観点から上記リン酸塩化成皮膜は、被鍛造材(金属材料)とリン酸塩の析出を伴う電気化学反応で形成した皮膜であり、適度の密着性を有するものであることが好ましい。
また、上記無機潤滑膜は、黒鉛からなることが好ましく、上記有機潤滑膜を構成する有機脂肪酸塩は、ステアリン酸塩であることが好ましい。上記ステアリン酸塩としては具体的にはステアリン酸ナトリウムなどを採用することができる。
【0059】
上記化成皮膜形成工程及び上記潤滑膜形成工程においては、上記リン酸塩化成皮膜と上記無機潤滑膜及び/又は上記有機潤滑膜とを合計で70g/m2以上形成することが好ましい。
この場合には、上記温間鍛造用潤滑膜の潤滑性をより一層向上させることができる。
したがって、温間鍛造加工時に用いる金型潤滑剤として、耐熱性を有する黒鉛等の無機潤滑剤の代わりに、耐熱性の劣る有機系潤滑剤を用いることができるようになる。そのため、温鍛加工時の作業環境を改善(汚れの防止・黒鉛の飛散防止など)に大きく寄与することができる。
また、場合によっては、温鍛プレス時に金型側の潤滑に併用していた金型潤滑剤の使用を完全に廃止できる可能性がでてくる。金型潤滑剤を用いずとも、上記被鍛造材上に形成された上記温間鍛造用潤滑膜が充分に上記金型と上記被鍛造材間の潤滑性を補填できる可能性があるからである。少なくとも、金型潤滑剤の使用濃度を従来より低下できる可能性がある。
【0060】
また、潤滑膜を被鍛造材から脱離させる事なく、確実に形成すると言うという観点から、上記温間鍛造用潤滑膜の皮膜量、即ち、上記リン酸塩化成皮膜と上記無機潤滑膜及び/又は上記有機潤滑膜との合計の皮膜量は、150g/m2以下がよい。
【実施例】
【0061】
(実施例1)
本例においては、化成皮膜形成工程と潤滑膜形成工程とを行うことにより、図3に示すごとく、金属からなる被鍛造材1の表面に、リン酸塩化成皮膜11と無機潤滑膜12及び/又は有機潤滑膜13とを有する温間鍛造用潤滑膜15を形成する。
化成皮膜形成工程においては、被鍛造材1の表面に、電解処理により、リン酸塩化成皮膜11を形成する。本例の化成皮膜形成工程においては、温鍛加工時に被鍛造材1が加熱される温度と同等以上の融点を有する高融点金属とリン酸亜鉛とを含有するリン酸塩化成皮膜11を形成する。具体的には、図4に示すごとく、硝酸塩又はリン酸溶液に溶解させた状態の亜鉛と、リン酸と、上記高融点金属の硝酸塩とを水に溶解させて、電解リン酸塩化成処理浴2を作製し、この電解リン酸塩化成処理浴2中で、高融点金属と同じ材質の金属材料を一方の電極3とし、被鍛造材1をもう一方の電極として、両電極間で直流電源を用いた陰極電解を行うことにより、図3に示すごとくリン酸塩化成皮膜11を被鍛造材1上に形成する。
【0062】
また、潤滑膜形成工程においては、図5(a)及び(b)に示すごとく、リン酸塩化成皮膜を形成した被鍛造材1を、潤滑剤を溶媒中に溶解又は分散してなる潤滑剤槽5、6中に浸漬し、図3に示すごとく、リン酸塩化成皮膜11上に潤滑剤皮膜12、13を形成する。本例においては、潤滑剤皮膜として無機潤滑膜12と有機潤滑膜13とを形成し、有機潤滑膜13は無機潤滑膜12上に積層形成する。
具体的には、図5(a)に示すごとく、無機高分子化合物からなる無機潤滑剤を溶媒中に分散又は溶解してなる常温の無機潤滑剤槽5に、リン酸塩化成皮膜を形成して温度130℃程度に加熱した被鍛造材1を連続して2回以上繰り返し浸漬することにより、図3に示すごとく無機潤滑膜12を形成する。次いで、図5(b)に示すごとく、有機高分子化合物からなる有機潤滑剤を溶媒中に分散又は溶解してなる温度80℃程度に加熱した有機潤滑剤槽6に、リン酸塩化成皮膜及び無機潤滑膜を形成した被鍛造材1を1回又は2回以上浸漬することにより、図3に示すごとく有機潤滑膜13を形成する。
そして、リン酸塩化成皮膜11と無機潤滑膜12及び/又記有機潤滑膜13とは合計で50g/m2を越える量で形成する。本例においては110g/m2で形成する。
【0063】
本例においては、被鍛造材として、自動車のエンジン部品(燃料供給用ポンプの構成部品:材質SUS410相当品 マルテンサイト系ステンレス材)を用いる。温間鍛造前の被鍛造材1を図1に示し、温間鍛造後の被鍛造材1を図2に示す。本例においては、図1に示す被鍛造材1に、温間鍛造用潤滑膜を形成する。
【0064】
図3に、温間鍛造用潤滑膜15が形成された被鍛造材1の表面の断面構造を示す。
本例の被鍛造材1においては、被鍛造材1の表面に、温間鍛造用潤滑膜15が形成されている。本例においては、温間鍛造用潤滑膜15として、リン酸塩化成皮膜11と、この上に形成された無機潤滑膜12と、さらにこの上に形成された有機潤滑膜13とを形成する。
【0065】
以下、本例の温間鍛造潤滑膜の形成方法につき、詳細に説明する。
まず、電解処理により、脱脂した被鍛造材1上にリン酸塩化成皮膜11を形成する(図3参照)。
具体的には、図4に示すごとく、まず、リン酸及びリン酸イオン、亜鉛イオン、Niイオン、硝酸イオンを含有する電解リン酸塩化成処理浴2を準備した。処理浴2中の各成分の濃度は、リン酸及びリン酸イオン:18g/L、亜鉛イオン:12g/L、Niイオン:69g/L、硝酸イオン:169g/Lである。
【0066】
次いで、図4に示すごとく、この電解リン酸塩化成処理浴2中に、被鍛造材1とNi板3とを浸漬し、その後、被鍛造材1を陰極とし、Ni板3を陽極として陽極及び陰極間に直流電源4により電圧を印加した。具体的には、2秒間で13Vまで電圧を上昇させ、被鍛造材1個(表面積1.3dm2)当たり45Aの電流を23秒間流した。そのときの温度は55℃である。
このようにして、図3に示すごとく、被鍛造材1の表面にリン酸塩とNiとを含有するリン酸塩化成皮膜11を形成した(化成皮膜形成工程)。リン酸塩化成皮膜11の形成量は、25g/m2であった。
本例において形成したリン酸塩化成皮膜11は、上述の特許文献2(特開2007−46149号公報)の事例からも知られるごとく、含水塩を有しないリン酸塩結晶を含む皮膜である。
【0067】
次に、図3に示すごとく、リン酸塩化成皮膜11を形成した被鍛造材1に対して、潤滑剤皮膜(無機潤滑膜12及び有機潤滑膜13)を形成する。
具体的には、まず、日本アチソン(株)製の「デルタフォージFB818−E」と水とを混合し、50wt%に希釈した。そして、図5(a)に示すごとく、層状構造の無機高分子化合物(黒鉛潤滑剤)を含有する無機潤滑剤槽5(黒鉛浴;常温)を作製した。この無機潤滑剤槽5には、平均粒径4μm程度の黒鉛が分散し含まれている。
また、日本シービーケミカル(株)製の「ケミリューベ459」と水とを混合し、図5(b)に示すごとく、有機脂肪酸塩を含有する有機潤滑剤槽6(ステアリン酸ナトリウム3wt%濃度の液;温度80℃)を作製した。有機潤滑剤槽6には、ステアリン酸ナトリウムが溶解している。
【0068】
次に、図5(a)に示すごとく、リン酸塩化成皮膜を形成した被鍛造材1(自動車のエンジン部品:燃料供給用ポンプの構成部品)を120−140℃程度に加熱し、上記の無機潤滑剤槽5に1秒以内の時間で浸漬し、直ちに引き揚げた。次いで引き揚げた被鍛造材1に温風を5秒程度吹きつけて乾燥し、表面が濡れた状態でなくなるまで水分を除去した。その後、再び直ちに被鍛造材1を無機潤滑剤槽5に1秒以内の時間浸漬し、直ちに引き揚げた。そして、引き揚げた被鍛造材1を、再度温風で乾燥し、表面が濡れた状態でなくなるまで水分を除去した。このようにして、図3に示すごとく被鍛造材1のリン酸塩化成皮膜上11に無機潤滑膜12を形成した(潤滑剤皮膜形成工程)。
【0069】
次いで、図5(b)に示すごとく無機潤滑膜を形成し、温度80℃程度以上に加熱した被鍛造材1を有機潤滑剤槽6に1秒以内の時間浸漬し、直ちに引き揚げた。引き揚げた被鍛造材1を、温風及び冷風で乾燥し、表面が濡れた状態でなくなるまで水分を除去した。このようにして、図3に示すごとく無機潤滑膜12上にさらに有機潤滑膜13を形成した。
以上のようにして、被鍛造材1に温間鍛造潤滑膜13として、リン酸塩化成皮膜11、無機潤滑膜12、及び有機潤滑膜13を順次積層形成した(潤滑剤皮膜形成工程)。
【0070】
本例における温間鍛造潤滑膜(リン酸塩化成皮膜+無機潤滑膜+有機潤滑膜)の皮膜量は、110g/m2であった。尚、皮膜重量の測定は、ナイフ等の鋭利な刃物の類で、被鍛造材表面から温間鍛造潤滑膜を剥がし、その重量を計測し剥がしたものを単位表面積あたりに換算(g/m2)したものである。
上記温間鍛造潤滑膜には、濡れた状態の水分は含んでいない。
表2に、本例における温間鍛造潤滑膜の構成、無機潤滑剤槽へ浸漬する際の被鍛造材の温度、無機潤滑剤槽への浸漬回数、温間鍛造潤滑膜の皮膜量を示す。
【0071】
次に、温間鍛造潤滑膜を形成した被鍛造材について温間鍛造時の潤滑性の評価を行った。
即ち、温間鍛造潤滑膜を形成した被鍛造材を温度750℃に加熱し、温間鍛造を行った。温間鍛造は、黒鉛系潤滑剤又は有機系潤滑剤をそれぞれ用いて、あるいは型潤滑剤を用いずに行い、その温間鍛造に必要なプレス荷重を測定した。また、温間鍛造後に、被鍛造材の外観(バリ・カシリ傷の有無)を目視にて調べた。その結果を後述の表3に示す。
【0072】
(比較例1)
本例においては、実施例1と同様に、被鍛造材に、リン酸塩化成皮膜と無機潤滑膜と有機潤滑膜とを積層形成してなる温間鍛造潤滑膜を形成する。本例の温間鍛造潤滑膜は、実施例1と同様に、被鍛造材側から順に、リン酸塩化成皮膜と無機潤滑膜と有機潤滑膜とを積層してなる。
【0073】
本例においては、無機潤滑膜の形成時に、無機潤滑剤槽の潤滑剤濃度を30wt%とし、無機潤滑剤槽への浸漬を1回のみとした点を除いては実施例1と同様にして、被鍛造材に温間鍛造潤滑膜(リン酸塩化成皮膜と無機潤滑膜と有機潤滑膜)を形成した。これにより、皮膜量45g/m2の温間鍛造潤滑膜(リン酸塩化成皮膜+無機潤滑膜+有機潤滑膜)を形成した。表2に、本例における温間鍛造潤滑膜の構成、無機潤滑剤槽へ浸漬する際の被鍛造材の温度、無機潤滑剤槽への浸漬回数、温間鍛造潤滑膜の皮膜量を示す。
【0074】
そして、実施例1と同様に、本例においても温間鍛造潤滑膜を形成した被鍛造材に対して、黒鉛系潤滑剤又は有機系潤滑剤を用いて、あるいは型潤滑剤を用いずに温間鍛造を行い、このときのプレス荷重を測定し、温間鍛造後の被鍛造材の外観(バリ・カシリ傷の有無)を目視にて調べた。その結果を後述の表3に示す。
【0075】
(比較例2)
本例においては、リン酸塩化成皮膜及び有機潤滑膜を形成せずに、被鍛造材に直接無機潤滑膜のみを形成する。
【0076】
具体的には、実施例1と同様の被鍛造材を準備し、この被鍛造材を温度200℃程度に加熱した後、実施例1と同様に、無機潤滑剤槽に約20秒間浸漬し、直ちに引き揚げた。次いで、引き揚げた被鍛造材を温風で乾燥し、表面が濡れた状態でなくなるまで水分を除去し、被鍛造材上に皮膜量25g/m2の無機潤滑膜を形成した。表2に、本例における温間鍛造潤滑膜の構成、無機潤滑剤槽へ浸漬する際の被鍛造材の温度、無機潤滑剤槽への浸漬回数、温間鍛造潤滑膜の皮膜量を示す。
【0077】
そして、実施例1と同様に、本例においても温間鍛造潤滑膜を形成した被鍛造材に対して、黒鉛潤滑剤を用いて温間鍛造を行い、このときのプレス荷重を測定し、温間鍛造後の被鍛造材の外観(バリ・カシリ傷の有無)を目視にて調べた。その結果を後述の表3に示す。なお、比較例2においては、高価な鍛造型を破損させてしまうおそれが非常に高いため、有機系潤滑剤を用いた温間鍛造及び型潤滑剤を用いずに行う温間鍛造は省略した。
【0078】
【表2】

【0079】
【表3】

【0080】
表3より知られるごとく、黒鉛潤滑剤を用いた場合には、実施例1、比較例1、及び比較例2のいずれにおいてもバリ・カシリ傷なしで温間鍛造を行うことができた。
一方、型潤滑剤を用いないという過酷な条件で温間鍛造加工を行った場合においては、実施例1のように被鍛造材に皮膜量50g/m2を越える量で温間鍛造潤滑膜を形成すると、50g/m2未満で形成した比較例1に比べて、小さなプレス荷重で温間鍛造加工を行うことができた。また、実施例1においては、バリの発生は非常に少なく、カシリ傷の発生はなかったのに対し、比較例1においては、バリが多く発生し、カシリ傷が発生していた。
したがって、実施例1のように皮膜量50g/m2を越える量で温間鍛造潤滑膜を形成することにより、温間鍛造において優れた潤滑性を示す温間鍛造潤滑膜を形成でき、型潤滑剤を用いずに行う過酷な条件下での温間鍛造加工をも可能にしうることがわかる。
【0081】
特に実施例1においては、無機潤滑膜の厚みを大きくすることにより温間鍛造潤滑膜全体の皮膜量を大きくしており、無機潤滑剤槽への浸漬を複数回繰り返し行うことにより、無機潤滑膜を積層形成していた。そのため、大きな皮膜量の無機潤滑膜を、均一にかつ密着性よく、形成することができた。また、無機潤滑膜は、リン酸塩化成皮膜及び有機潤滑膜と密着性よく積層形成されている。そのため、温間鍛造潤滑膜は、耐久性にもすぐれている。
【0082】
また、実施例1のように皮膜量50g/m2を越える量で温間鍛造潤滑膜を形成した被鍛造材は、上述のごとく優れた潤滑性を示すため、温間鍛造時に使用する型潤滑剤として、黒鉛系の型潤滑剤に代えて、有機系の型潤滑剤(水溶性有機高分子)を用いることができる。実際に、表3からも知られるごとく、実施例1においては、有機系の型潤滑剤を用いても小さなプレス荷重で充分に温間鍛造加工を行うことができる。したがって、温間鍛造における作業環境を改善することができる。
【0083】
また、実施例1においては、被鍛造材1上に形成する温間鍛造潤滑膜15として、被鍛造材1側から順に、リン酸塩化成皮膜11、無機潤滑膜12、及び有機潤滑膜13を積層形成した(図3参照)。
その他のバリエーションとして、図6に示すごとく、温間鍛造潤滑膜15として、被鍛造材1側から順に、リン酸塩化成皮膜11及び無機潤滑膜12を積層形成することもできる。また、図7に示すごとく、温間鍛造潤滑膜15として、被鍛造材1側から順に、リン酸塩化成皮膜11、及び有機潤滑膜13を積層形成することもできる。いずれにおいても、温間鍛造潤滑膜15全体の皮膜量を50g/m2を越える量で形成することにより、温間鍛造時の潤滑性に優れた皮膜を形成できる。
【符号の説明】
【0084】
1 被鍛造材
11 リン酸塩化成皮膜
12 無機潤滑膜
13 有機潤滑膜
15 温間鍛造潤滑膜

【特許請求の範囲】
【請求項1】
金属からなる被鍛造材の表面に、リン酸亜鉛、又は温鍛加工時に上記被鍛造材が加熱される温度と同等以上の融点を有する高融点金属とリン酸亜鉛とを含有するリン酸塩化成皮膜と、非電解質成分を含有する潤滑剤皮膜とから構成される温間鍛造潤滑膜を形成する温間鍛造潤滑膜の形成方法において、
上記被鍛造材の表面に、電解処理により、上記リン酸塩化成皮膜を形成する化成皮膜形成工程と、
上記リン酸塩化成皮膜を形成した上記被鍛造材を、潤滑剤を溶媒中に溶解又は分散してなる潤滑剤槽中に浸漬し、上記リン酸塩化成皮膜上に上記潤滑剤皮膜を形成する潤滑剤皮膜形成工程とを行い、
上記リン酸塩化成皮膜と上記潤滑剤皮膜とからなる上記温間鍛造潤滑膜を50g/m2を越える量で形成することを特徴とする温間鍛造潤滑膜の形成方法。
【請求項2】
請求項1において、上記潤滑剤皮膜は、層状構造を有する無機高分子化合物からなる無機潤滑膜及び/又は層状構造を有する有機高分子化合物からなる有機潤滑膜から構成されていることを特徴とする温間鍛造潤滑膜の形成方法。
【請求項3】
請求項2において、上記無機高分子化合物は、グラファイト(黒鉛)であり、上記有機高分子化合物はステアリン酸ナトリウムであることを特徴とする温間鍛造潤滑膜の形成方法。
【請求項4】
請求項2又は3において、上記潤滑剤皮膜形成工程においては、上記無機潤滑膜上に上記有機潤滑膜を積層形成することを特徴とする温間鍛造潤滑膜の形成方法。
【請求項5】
請求項2〜4のいずれか一項において、上記潤滑剤皮膜形成工程においては、無機高分子化合物からなる無機潤滑剤を溶媒中に分散又は溶解してなる無機潤滑剤槽に、上記リン酸塩化成皮膜を形成した上記被鍛造材を2回以上繰り返し浸漬することにより、上記無機潤滑膜を形成することを特徴とする温間鍛造潤滑膜の形成方法。
【請求項6】
請求項5において、上記無機潤滑剤槽に上記被鍛造材を2回以上繰り返し浸漬させる際には、n回目(nは1以上の整数)の浸漬を行った後、上記無機潤滑剤槽から上記被鍛造材を引き上げて、該被鍛造材上に形成された上記無機潤滑膜の表面から水分を蒸発させた後、直ちにn+1回目の浸漬を行うことを特徴とする温間鍛造潤滑膜の形成方法。
【請求項7】
請求項2〜6のいずれか一項において、上記無機潤滑膜の形成にあたっては、温度200℃以下に加熱した上記被鍛造材を、室温から温度40℃の上記無機潤滑剤槽に5秒以下浸漬し、次いで乾燥を行うという浸漬乾燥工程をことにより、該浸漬乾燥工程1回あたりに形成される上記無機潤滑膜の皮膜形成量を制御すると共に、上記浸漬乾燥工程を繰り返すことにより上記無機潤滑剤膜を複数積層形成することを特徴とする温間鍛造潤滑膜の形成方法。
【請求項8】
請求項2〜7のいずれか一項において、上記潤滑剤皮膜形成工程においては、有機高分子化合物からなる有機潤滑剤を溶媒中に分散又は溶解してなる有機潤滑剤槽に、上記リン酸塩化成皮膜を形成した上記被鍛造材を1回又は2回以上浸漬することにより、上記有機潤滑膜を形成することを特徴とする温間鍛造潤滑膜の形成方法。
【請求項9】
請求項1〜8のいずれか一項において、上記リン酸塩化成皮膜は、電解リン酸塩化成処理法で得られたリン酸塩皮膜成分を示差熱分析した時、リン酸塩結晶の含水塩(Zn3(PO4) 2・4H2O)が200℃以下で分解することを示す示差走査熱量曲線の変動を示さない結晶を有する皮膜であることを特徴とする温間鍛造潤滑膜の形成方法。
【請求項10】
請求項1〜9のいずれか一項において、上記化成皮膜形成工程においては、硝酸塩又はリン酸溶液に溶解させた状態の亜鉛と、リン酸と、上記高融点金属の硝酸塩とを水に溶解させて、電解リン酸塩化成処理浴を作製し、該電解リン酸塩化成処理浴中で、上記高融点金属と同じ材質の金属材料を一方の電極とし、上記被鍛造材をもう一方の電極として、両電極間で直流電源を用いた電解を行うことにより、上記リン酸塩化成皮膜を上記被鍛造材に形成することを特徴とする温間鍛造潤滑膜の形成方法。
【請求項11】
請求項1〜9のいずれか一項において、上記化成皮膜形成工程においては、硝酸塩又はリン酸溶液に溶解させた状態の亜鉛と、リン酸とを水に溶解させて、電解リン酸塩化成処理浴を作製し、該電解リン酸塩化成処理浴中で、亜鉛を一方の電極とし、上記被鍛造材をもう一方の電極として、両電極間で直流電源を用いた電解を行うことにより、上記リン酸塩化成皮膜を上記被鍛造材に形成することを特徴とする温間鍛造潤滑膜の形成方法。
【請求項12】
請求項10又は11において、上記化成皮膜形成工程においては、上記被鍛造材を陽極として、上記電解リン酸塩化成処理浴に不溶性の電極材を陰極として陽極電解を行った後、皮膜主成分となる金属材料を陽極とし、上記被鍛造材を陰極として陰極電解を行うことにより、上記リン酸塩化成皮膜を上記被鍛造材に形成することを特徴とする温間鍛造潤滑膜の形成方法。
【請求項13】
請求項1〜12のいずれか一項において、上記被鍛造材は、鉄、鉄合金、銅合金、アルミニウム、又はアルミニウム合金からなることを特徴とする温間鍛造潤滑膜の形成方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2010−270366(P2010−270366A)
【公開日】平成22年12月2日(2010.12.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−122783(P2009−122783)
【出願日】平成21年5月21日(2009.5.21)
【出願人】(000004260)株式会社デンソー (27,639)
【Fターム(参考)】