説明

測光試験にメディエータとして用いるキノン化合物

【課題】体液中のグルコース等を、光学的に検出する方法、およびこの目的に好適な検出試薬を提供する。
【解決手段】試料中の被分析物を光学的に検出する方法であって、a)試料を、ニコチンアミド依存性の酸化還元酵素、還元性ニコチンアミド補酵素、キノンからなるメディエータ、および還元性光インジケータまたは該インジケータ系を含む検出試薬に接触させることによって、前記酵素により、被分析物は酸化され、該酵素は還元され、そして還元された前記ニコチンアミド補酵素の電子が、前記メディエータによって前記光インジケータ(系)に移動させられる段階と、b)前記インジケータ(系)を光学的に検出することによって、試料中の被分析物の存在および/または量を測定する段階とを含む方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、試料中の被分析物を光学的に検出する方法、この目的に好適な検出試薬、キット、および試験エレメントに関する。
【背景技術】
【0002】
生化学的分析に用いられる測定システムは、臨床分析を実施するための重要な要素である。臨床分析においては、酵素の作用により、被分析物を直接または間接的に測定することが重要である。このとき、被分析物は、酵素・補酵素複合体の作用によって変換され、次いで必要に応じて別の試薬を用いて定量化される。測定対象の被分析物は適切な酵素と補酵素に接触させられるが、このときの酵素の量は、ほぼ触媒量である。補酵素は、この酵素反応によって変換、たとえば酸化または還元される。この反応は、電気化学的および/または測光手段によって直接または間接的に検出することができる。較正を行うことによって、測定値を測定対象の分析物の濃度に直接対応させることが可能になる。
【0003】
しかし、従来技術において周知の分析方法には、いくつかの不都合な点がある。たとえば、被分析物の測光式検出を実施するための種々の試験片には、酵素として、グルコース色素酸化還元酵素(GlucDOR, EC 1.1.5.2)と、PQQ依存性脱水素酵素を用いる検出システムが必要である。基質は酵素による変換中に酸化されるが、対応する補酵素の還元が同時に生じる。補酵素PQQ(PQQ:ピロロキノリンキノン;4,5−ジヒドロ−4,5−ジオキソ−1H−ピロロ[2,3−f]キノリン−2,7,9−トリカルボン酸)の場合には、PQQH2への還元が起こり、PQQH2は、電子を還元性光インジケータに移動させる。この系の不都合な点は、グルコース色素酸化還元酵素の特異性が低く、またグルコースだけでなく、たとえば麦芽糖やガラクトースのようなその他のサッカリドも転換するために、副反応の結果として、非常に不正確な結果を提示する場合があるということである。
【0004】
NAD+依存性のグルコース脱水素酵素(EC 1.1.1.47)は、補酵素、ニコチンアミドアデニンジヌクレオチド(NAD+)が存在下で、グルコースのグルコノ−デルタ−ラクトンへの酸化を触媒するとともに、グルコース色素酸化還元酵素よりグルコースに対してきわめて大きい特異性を示す酵素である。グルコース脱水素酵素は、キュベット試験もしくは湿式化学試験を行うとき、または溶液中で、グルコースの他に、キシロースとマンノースだけをそれぞれ15%と8%まで変換するが、ガラクトースとフルクトースは、当該酵素の基質ではない(Tietz Textbook of Clinical Chemistry, W.B. Saunders Co., 2nd edition, 1994, C.A. Burtis, E.R. Ashwood編集, pages 964-965)。
【0005】
グルコース脱水素酵素によってグルコースを酸化するときにNAD+の還元により生成されるNADHは、反応性が低く、そして、たとえばリンモリブデン酸や4−ニトロソアニリン類のような還元性光インジケータによって直接変換されない。NADHのこの低反応性に対処するために、実際には、当該補酵素の反応性を上げるためのメディエータが用いられる。知られているメディエータには、ジオファラーゼ(EC 1.6.99.2)や不安定なN−メチルフェナゾニウムメトサルフェートが含まれる。
【0006】
国際公開第99/19507号パンフレットには、被分析物についてアンペロメトリー検出を行うとき、メディエータとしてフェナントロリンキノン化合物を用いることが開示されている。この場合、被分析物の検査を行う試料は、キャリア、作用電極、基準電極・対極、および伝導素子を含む電気化学試験片に塗布され、そして被分析物は、ニコチンアミド補酵素とメディエータの存在下で、ニコチンアミド依存性の酵素によって酸化され、そして還元されたメディエータを再度酸化するために必要であって、被分析物濃度に相関する電流の強さの測定が行われる。
【0007】
国際公開第2004/038401A2号パンフレットには、国際公開第99/19507号パンフレットに説明されているような電気化学試験片を用いて、試料の被分析物、たとえばグルコース、3−ヒドロキシ酪酸塩、乳酸塩等の濃度をアンペロメトリー検出するためのバイオセンサについての説明がある。用いられるメディエータは1,10−フェナントロリン−5,6−キノンであり、それは、酸素からの保護のために、たとえばマンガン、鉄、オスミウムのような遷移金属イオン、またはたとえばカルシウム、バリウムのような重質のアルカリ土類金属イオンと混合されている。
【0008】
国際公開第99/19507号パンフレットと同第2004/038401A2号パンフレットに説明されている方法の不都合な点は、被分析物を定性的にまたは定量的に分析するとき電気化学試験片を用いるために、色を比較することによって測定結果の妥当性を目視検査することがまったくできないということである。
【0009】
従って、本発明は、試料中の被分析物を、簡単に、かつ良好な費用効率、高い選択性、および高い信頼性を持って検出することを可能にする方法を提供することを目的とする。
【発明の開示】
【0010】
この目的は、本発明による、試料中の被分析物を光学的に検出する方法によって達成され、その方法は、
a)試料を、ニコチンアミド依存性の酸化還元酵素、還元性ニコチンアミド補酵素、キノンからなるメディエータ、および還元性光インジケータまたは還元性光インジケータ系を含む検出試薬に接触させることによって、ニコチンアミド依存性の酸化還元酵素により、被分析物は酸化され、ニコチンアミド補酵素は還元され、そして還元されたニコチンアミド補酵素の電子が、メディエータによって光インジケータまたは光インジケータ系に移動させられる段階、
および、b)インジケータまたはインジケータ系を光学的に検出することによって、試料中の被分析物の存在および/または量を測定する段階を含む。
【0011】
本発明による方法は、種々の供給源から採取された試料中の被分析物を光学的に検出するときに用いられる。好適な実施形態において、試料は、限定するものではないが、全血、血漿、血清、リンパ液、胆汁、脳脊髄液、尿、およびたとえば唾液や汗のような腺分泌物を含む体液から得られるが、全血、血漿および血清から得ることがとりわけ好ましい。分析を実施するために必要な試料の量は、一般には約0.01〜約100μl、好ましくは約0.1〜約2μlである。
【0012】
定性的にまたは定量的に分析される被分析物は、酸化還元反応によって検出可能な、種々の種類の生物学的物質または化学物質であってよい。被分析物は、リンゴ酸、アルコール、アンモニウム、アスコルビン酸、コレステロール、システイン、グルコース、グルタチオン、グリセロール、尿素、3−ヒドロキシ酪酸塩、乳酸、5’−ヌクレオチダーゼ、ペプチド類、ピルビン酸塩、サリチル酸塩およびトリグリセリド類からなる群から選ぶことが好ましい。とりわけ好適な実施形態において、被分析物はグルコースである。
【0013】
本発明において、被分析物の検出に用いられる試料は、ニコチンアミド依存性の酸化還元酵素、還元性ニコチンアミド補酵素、キノンからなるメディエータ、および還元性光インジケータまたは還元性光インジケータ系を含む、本発明による検出試薬に接触させられることによって、ニコチンアミド依存性の酸化還元酵素により、被分析物は酸化され、その際、ニコチンアミド補酵素は還元され、そして還元されたニコチンアミド補酵素の電子が、メディエータによって光インジケータまたは光インジケータ系に移動させられる
【0014】
ニコチンアミド依存性の酸化還元酵素は、好ましくは脱水素酵素、とりわけ、アルコール脱水素酵素(EC 1.1.1.1)、ホルムアルデヒド脱水素酵素(EC 1.2.1.46)、グルコース脱水素酵素(EC 1.1.1.47)、グルコース6−リン酸脱水素酵素(EC 1.1.1.49)、グルセロール脱水素酵素(EC 1.1.1.6)、3−ヒドロキシ酪酸塩脱水素酵素(EC 1.1.1.30)、たとえば3α−ヒドロキシステロイド脱水素酵素(EC 1.1.1.209)のような3−ヒドロキシステロイド脱水素酵素、乳酸塩脱水素酵素(EC 1.1.1.27、EC 1.1.1.28)、リンゴ酸塩脱水素酵素(EC 1.1.1.37)、またはL−アミノ酸脱水素酵素(EC 1.1.3.4)のようなアミノ酸脱水素酵素である。ニコチンアミド依存性の酸化還元酵素は、とりわけグルコース脱水素酵素であることが好ましい。
【0015】
本発明において、還元性ニコチンアミド補酵素は、その成分にニコチンアミドを含み、還元可能であり、さらに上述したように、ニコチンアミド依存性の酸化還元酵素と酵素・補酵素複合体を生成することができる低分子量の天然分子または合成分子であると定義する。本発明による還元性ニコチンアミド補酵素は、好ましくは天然に存在するニコチンアミド補酵素であり、とりわけ好ましくは、還元反応によってそれぞれNADHとNADPHが生成されるニコチンアミドアデニンジヌクレオチド(NAD+)またはニコチンアミドアデニンジヌクレオチドリン酸(NADP+)である。しかし、必要に応じ、NAD+またはNADP+の誘導体を用いることも可能である。本発明に好適なNAD+とNADP+の誘導体は、とりわけCarbaNADの誘導体を含み、その詳細は、たとえば、国際公開第98/33936号パンフレット、同第01/94370号パンフレット、独国特許出願公開第10−2006−035−020.0号明細書、および1989年に出版された2つの公開文書(Slamaら、Biochemistry, 1989, 27, 183-193、およびSlamaら、Biochemistry, 1989, 28, 7688-7694)に開示されており、その全記載内容を本明細書の記載として援用する。
【0016】
本発明による方法に用いられる検出試薬は、ニコチンアミド依存性の酸化還元酵素と還元性ニコチンアミド補酵素の他に、キノンからなるメディエータを含む。メディエータは、酸化還元反応によって還元されたニコチンアミド補酵素の電子を、光インジケータまたは光インジケータ系に移動させることができるキノンであればいかなるものでもよい。この電子移動によって、キノンは、第一段階で還元されてセミキノンつまりジヒドロキノンに変化し、次いで、還元生成物は、光インジケータまたは光インジケータ系によって再酸化される。
【0017】
本発明による方法の好適な実施形態において、メディエータは、o−ベンゾキノンまたはp−ベンゾキノンであり、任意の別の環または複数の別の環と結合していてもよい。本発明において用いる用語「結合」とは、キノン化合物と別の環の各々が、基本環状構造の少なくとも2つの原子を共有することを意味する。別の環は、置換されていてもよいし、置換されていなくてもよく、また炭素と水素の他に、たとえば窒素、酸素および/または硫黄のようなヘテロ原子を、互いに独立して1つまたはそれ以上有していてもよい。o−ベンゾキノンまたはp−ベンゾキノンに結合させることができる好適な環は、限定するものではないが、とりわけベンゼン、ナフタレン、ピリジン、ピリミジン、ピラジン、ピリダジン、トリアジン、キノリン、イソキノリンのような芳香族化合物と複素環式芳香族化合物である。
【0018】
より好適な実施形態において、用いられるメディエータは、フェナントレンキノン、フェナントロリンキノンまたはベンゾ[h]キノリンキノンであり、1,10−フェナントロリンキノン、1,7−フェナントロリンキノン、4,7−フェナントロリンキノン、ベンゾ[h]キノリンキノン、およびそれらのN−アルキル化塩またはN,N’−ジアルキル化塩が、とりわけ好適であることが証明された。上述した化合物のN−アルキル化塩またはN,N’−ジアルキル化塩の場合、種々のアニオンが、メディエータの対イオンとして作用することがわかったが、ハロゲン化合物、トリフルオロメタンスルホン酸、または対イオンとして溶解度を向上させるその他のアニオンを用いることが好ましい。とりわけ好適な実施形態においては、対イオンとして、ハロゲン化合物またはトリフルオロメタンスルホン酸が用いられる。
【0019】
さらに好適なメディエータは、一般式(I)で表される1,10−フェナントロリン−5,6−キノン、一般式(II)で表される1,7−フェナントロリン−5,6−キノン、または一般式(III)で表される4,7−フェナントロリン−5,6−キノンである。
【0020】
【化1】

ここで、R2からR7までは、いずれも任意で1回またはそれ以上の回数置換されていてもよいが、互いに独立して、水素、ハロゲン、OH、O(アルキル)、OCO(アルキル)、S(アルキル)、NH2、NH(アルキル)、N(アルキル)2、[N(アルキル)3+、CN、NO2、COOH、SO3H、または直鎖もしくは分岐アルキル基、シクロアルキル基、アリール基またはヘテロアリール基であり、
1およびR8は、任意で1回またはそれ以上の回数置換されていてもよいが、互いに独立して、自由電子対、H、または直鎖もしくは分岐アルキル基であり、
または、それらの塩である。
【0021】
1とR8の一方または両方は、任意で1回またはそれ以上の回数置換されていてもよいが、直鎖または分岐アルキル基であることが好ましく、先に定義したメディエータの対イオンを含むメチル基であることがとりわけ好ましい。
【0022】
用語「ハロゲン」は、フッ素、塩素、臭素およびヨウ素を含む。
【0023】
用語「アルキル」とは、炭素原子数が1〜30で、基のすべての炭素原子が原子価結合をしている直鎖または分岐炭化水素基を意味する。アルキルは、好ましくは炭素原子数が1〜12の炭化水素基であり、より好ましくは炭素数が1〜6の炭化水素基である。とりわけ好適な炭化水素基は、炭素原子数が1〜4であり、メチル、エチル、n−プロピル、イソプロピル、n−ブチル、イソブチル、sec−ブチルおよびtert−ブチルを含む。
【0024】
用語「シクロアルキル」とは、炭素原子数が3〜20で、環のすべての炭素原子が原子価結合をしている環状炭化水素基を意味する。シクロアルキルは、好ましくは炭素原子数が3〜12の環状炭化水素基であり、より好ましくは炭素数が3〜8の環状炭化水素基である。とりわけ好適な環状炭化水素基には、シクロプロピル、シクロブチル、シクロペンチル、シクロヘキシル、シクロヘプチルおよびシクロオクチルが含まれる。
【0025】
用語「アリール」とは、環の原子数が3〜20で、より好ましくは環の原子数が6〜14であり、炭素の他には水素だけを有し、環のすべての炭素原子が原子価結合をしている芳香族環系を意味する。本発明にとってとりわけ好ましいアリールの例には、ベンゼン、ナフタレン、アントラセンおよびフェナントレンが含まれる。
【0026】
用語「ヘテロアリール」とは、環の原子数が3〜20で、より好ましくは環の原子数が5〜14であり、炭素と水素の他に少なくとも1つのヘテロ原子を有し、環のすべての炭素原子またはすべての窒素原子が原子価結合をしている芳香族環系を意味する。環の原子数が5であるヘテロアリールには、たとえばチエニル、チアゾリル、フラニル、ピロリル、オキサゾリル、イミダゾリル、ピラゾリル、イソオキサゾリル、イソチアゾリル、オキサジアゾリル、トリアゾリル、テトラゾリルおよびチアジアゾリルが含まれる。環の原子数が6であるヘテロアリールには、たとえばピリジル、ピリダジニル、ピリミジニル、ピラジニルおよびトリアジニルが含まれる。環の原子数が5または6であるヘテロアリールは、ヘテロ原子ごとに決まった数および合計で最大4のヘテロ原子数を超えない限り、環系におけるすべてのサブコンビネーションに、1〜4の窒素原子および/または1もしくは2の酸素原子および/または1もしくは2の硫黄原子を含むことが好ましい。
【0027】
「任意で1回またはそれ以上の回数置換された」という表現は、それぞれの基が、置換されていないか、1回またはそれ以上の回数置換された、のいずれかであることを意味し、好適な置換基は、とりわけハロゲン、OH、O(アルキル)、OCO(アルキル)、S(アルキル)、第1級、第2級、第3級および第4級のアミノ基、CN、NO2および/または、たとえばCOOHやSO3Hのような酸性基である。置換基は、検査対象の試料中でのメディエータの溶解度を向上させる、たとえば第4級アミノ基、COOHおよびSO3Hであることが特に好ましい。
【0028】
最も好ましい実施形態において、本発明による方法を実施するために用いられるメディエータは、先に定義したメディエータの対イオンを有する、N−メチル−1,10−フェナントロリニウム−5,6−キノン、N,N’−ジメチル−1,10−フェナントロリニウム−5,6−キノン、N−メチル−1,7−フェナントロリニウム−5,6−キノン、N,N’−ジメチル−1,7−フェナントロリニウム−5,6−キノン、N−メチル−4,7−フェナントロリニウム−5,6−キノン、またはN,N’−ジメチル−4,7−フェナントロリニウム−5,6−キノンである。
【0029】
本発明による光インジケータまたは光インジケータ系としては、還元性を備え、かつ還元された場合に、その光学特性が検出できるよう明確に変化する種々の物質を用いることが可能であり、光学特性には、たとえば色、蛍光性、反射率、透過率、偏光度および/または屈折率が含まれる。試料中の被分析物の存在および/または量を、熟練者には好適であると想定されるが、裸眼でおよび/または測光法を用いた検出装置によって光学的に検出して測定することは可能であるが、裸眼による測定の方が好ましい。本発明の好ましい実施形態において、ヘテロポリ酸と、とりわけリンモリブデン酸が、対応したヘテロポリ・ブルーに還元される光インジケータして用いられる。
【0030】
別の好適な実施形態において、本発明による方法は、試料を塗布する塗布ゾーン、被分析物を検出試薬と反応させる反応ゾーン、インジケータまたはインジケータ系を光学的に検出することによって、試料中の被分析物の存在および/または量を測定する検出ゾーン、および任意の廃棄ゾーンを備えるキャリアを用いて実施される。キャリアは、単一の毛管作用を生じる材料、または代替として、同一種類のもしくは異なる種類の複数の、毛管作用を生じる材料を用いて形成される。これらの材料は、液体搬送用の流路を形成するために、互いに接触するよう近接して配置されており、これにより、液状試料は、塗布ゾーンから反応ゾーンを経由して検出ゾーンへ、そして構成によっては廃棄ゾーンへと移動する。好ましい実施形態において、キャリアは、たとえば試験片やバイオセンサのような試験エレメントである。本発明に用いることができる試験エレメントについては、とりわけ米国特許第5271895号明細書、同第6207000号明細書、同第6540890号明細書、同第6755949号明細書、同第7008799号明細書、同第7025836号明細書、同第7067320号明細書、米国特許出願公開第2003/0031592A1号明細書、および同第2006/0003397A1号明細書に記載されており、その全記載内容を本明細書の記載として援用する。
【0031】
検査対象の試料は、たとえばキャリアの塗布ゾーンを試料中に浸漬する、またはキャリアの塗布ゾーンに試料を滴下するなどの方法で、キャリアの塗布ゾーンに直接塗布することが好ましい。それに替えて、まず乾いた、または湿った転送エレメントに試料を吸い上げ、次いで、必要に応じて湿らせた後に、吸い上げられた試料をキャリアの塗布ゾーンに塗布することもできる。転送エレメントは、天然材および/または合成材を用いて形成されていて、通常は滅菌されている。好適な転送エレメントについては、たとえば独国特許発明第44−39−429号明細書、および同第196−22−503号明細書に説明されており、その全記載内容を本明細書の記載として援用する。
【0032】
反応ゾーンは、本発明による検出試薬を含み、被分析物の変換が行われる。この変換の際、被分析物はニコチンアミド依存性の酸化還元酵素によって酸化されるが、ニコチンアミド補酵素の還元が同時に起こる。次いで、還元されたニコチンアミド補酵素の電子が、メディエータによって光インジケータまたは光インジケータ系に移動させられることによって、光インジケータまたは光インジケータ系の光学特性が変化する。この光学特性の変化は、試験エレメントの検出ゾーンにおいて検出される。
【0033】
とりわけ好適な実施形態において、本発明の方法によると、検査対象の試料中の被分析物の存在および/または量の測定を短時間で行うことが可能になる。本出願で用いる「短時間での測定」という表現は、検査対象の試料を検出試薬に接触させた後、被分析物の存在および/または量の測定が1〜30秒の内に行われることを意味し、この測定は、2〜15秒の内に行われることが好ましい。
【0034】
そのような短い反応時間を確実なものにするために、メディエータは、たとえば試料が検出試薬に接触した後数秒以内という短時間で、検査対象の試料に溶解することが好ましい。メディエータの溶解時間は、たとえば溶解性を向上させる適当な置換基をメディエータ分子中に導入する、メディエータをミセルに封入する、メディエータを微細粒子にして試験エレメント中にほぼアモルファス状に分散させる、および/または塩の場合には、対イオンを適切に選ぶことによって、メディエータ分子の溶解度を向上させることが可能な好適な物質を導入することによって、短縮することができる。
【0035】
別の観点において、本発明は、試料中の被分析物を光学的に検出するための、本発明による検出試薬と試験エレメントを含むキットに関する。試験エレメントは、試料を塗布する塗布ゾーン、被分析物を検出試薬と反応させる反応ゾーン、インジケータまたはインジケータ系を光学的に検出することによって、試料中の被分析物の存在および/または量を測定する検出ゾーン、ならびに任意の廃棄ゾーンを備える。試験エレメントの構成については、本発明による方法を説明した部分を参照されたい。
【0036】
さらに別の観点において、本発明は、試料中の被分析物を光学的に検出するための試験エレメントに関する。試験エレメントは、試料を塗布する塗布ゾーン、被分析物を検出試薬と反応させるための、ニコチンアミド依存性の酸化還元酵素、還元性のニコチンアミド補酵素、キノンからなるメディエータ、および還元性光インジケータまたは還元性光インジケータ系を含む本発明による検出試薬が含浸させられた反応ゾーン、インジケータまたはインジケータ系を光学的に検出することによって、試料中の被分析物の存在および/または量を測定する検出ゾーン、ならびに任意の廃棄ゾーンを備える。
【0037】
本発明による試験エレメントは、たとえばリンゴ酸、アルコール、アンモニウム、アスコルビン酸、コレステロール、システイン、グルコース、グルタチオン、グリセロール、尿素、3−ヒドロキシ酪酸塩、乳酸、5’−ヌクレオチダーゼ、ペプチド類、ピルビン酸塩、サリチル酸塩およびトリグリセリド類からなる群から選ばれた被分析物を測定するために用いることができる。本発明を実施するために好適な試験エレメントは、全血、血漿または血清中のグルコースを検査するために用いることが可能であるとともに、ニコチンアミド依存性の酸化還元酵素としてのグルコース脱水素酵素、およびニコチンアミド補酵素としてのNAD(P)+を含む検出試薬を備える。
【発明を実施するための最良の形態】
【0038】
以下、添付図面と実施例を参照しつつ、本発明についてより詳細に説明する。
【0039】
スペクトルは、各々の波長について、CLHタングステンハロゲン光源、反射率測定ヘッド、およびMCSダイオードアレイ式同時スペクトロメータ(すべてツァイス社製)により構成され、これらが光導波路によって接続されている「TIDAS16」反射スペクトロメータを用いて3秒間隔で記録した。
【実施例】
【0040】
本発明による試験エレメントを作製するために、まず5mm幅の両面粘着テープ(ポリエステル基材に合成ゴムの粘着剤を塗布)を、50mmの幅を有するテープ状で、二酸化チタン含有ポリエステル製の支持層の左側縁から18.6mm離し(粘着テープの左側縁から測定)、かつ平行にして支持層に付着させた。位置決め孔と検査・測定孔の2つの孔を、担持ストリップの縦軸に直交する線上に各々の中心が位置するようにして切開した。一対の孔は、縦軸に直交する6mm間隔の線上に各々形成した。位置決め孔である第1の孔は、2.6mm径の円であり、その中心が担持ストリップの左側縁から4mmの位置になるように形成した。同様に、第2の孔は、4mm径の円であり、その中心が担持ストリップの左側縁から21mmの位置になるように形成した。次いで、両面テープの剥離紙を取り外した。
【0041】
検出層を2つの薄膜層を用いて形成するために、まず、下記の成分を用いて純物質が合成されるよう、または下記組成の原液になるよう混合し、次いでガラス製ビーカーの中で撹拌した。
【0042】
水 60.5g
キサンタンガム 0.34g
0.1Mリン酸緩衝液、pH6.5 20.0g
塩化テトラエチルアンモニウム 0.14g
N−オクタノイル−N−メチルグルカミド 0.17g
N−メチル−N−オレオイルタウリン酸ナトリウム 0.03g
ポリビニルピロリドン(MW25000) 0.87g
Transpafill(商標、ケイ酸ナトリウムアルミニウム) 5.45g
ポリビニルプロピオン酸塩分散液(水に対して50重量%) 4.88g
N−メチル−1,10−フェナントロリニウム−5,6−キノン・トリフルオロメタンスルホン酸塩 0.11g
塩化ナトリウム 0.98g
NAD 0.99g
2,18−リンモリブデン酸ヘキサナトリウム 0.64g
グルコース脱水素酵素 327KU(1.35g)
ヘキサシアン化鉄酸(III)カリウム 0.02g
1−ヘキサノール 0.17g
1−メトキシ−2−プロパノール 4.30g
【0043】
上記配合物を、NaOHを用いてpH6.7に調節した後に、ポリカーボネート製の厚さ125μmのシートに単位面積当たりの重量が89g/m2になるように塗布して、乾燥させた。
【0044】
続けて、下記の成分を用いて純物質が合成されるよう、または下記組成の原液になるよう混合し、次いでガラス製ビーカーの中で撹拌した。
【0045】
水 65.0g
ガントレッツ(メチルビニルエーテル・マレイン酸共重合体 1.36g
NaOH 0.30g
0.1Mリン酸緩衝液、pH6.5 4.41g
塩化テトラエチルアンモニウム 0.34g
N−オクタノイル−N−メチルグルカミド 0.34g
N−メチル−N−オレオイルタウリン酸ナトリウム 0.03g
ポリビニルピロリドン(MW25000) 1.86g
二酸化チタン、E1171 14.37g
沈降シリカ320 1.96g
ポリビニルプロピオン酸塩分散液(水に対して50重量%) 5.77g
N−メチル−1,10−フェナントロリニウム−5,6−キノン・トリフルオロメタンスルホン酸塩 0.38g
2,18−リンモリブデン酸ヘキサナトリウム 1.11g
ヘキサシアン化鉄酸(III)カリウム 0.01g
1−ヘキサノール 0.16g
1−メトキシ−2−プロパノール 4.26g
【0046】
上記配合物を、NaOHを用いてpHを約6.7に調節した後に、上述した層が塗布されたポリカーボネート製のシートに単位面積当たりの重量が104g/m2になるように第2層の塗布を行って、乾燥させた。
【0047】
先に説明した方法で作製した、幅5mmでテープ状の検出層を、支持層に貼付された穴開き両面粘着テープに固着した。このとき、検出層の側部を、両面粘着テープの側部と正確に位置を合わせた。このケースにおいては、一方が幅6mm、他方が幅9mmの2つの両面粘着テープを、スペーサとして、検出層の両側に隣接する位置で支持層に貼付した。次いで、両面粘着テープの剥離紙を取り除いた。
【0048】
たとえば欧州特許出願公開第0−995−994−A2号明細書(その全記載内容を本明細書の記載として援用する)で説明されているような幅20mmでテープ状の伸びやすい布を、この複合材の上に配置し、そして加圧することにより付着させた。その後、スペーサが完全に覆われるとともに、反応領域に少なくともその一部が重なるようにして、2つの片面粘着テープを、被覆材として伸びやすい布の上に貼付した。テープ状の完成品を、幅が6mmで測定孔が中心に位置するように切断して、試験エレメントを作製した。
【図面の簡単な説明】
【0049】
【図1】メディエータにN−メチル−1,10−フェナントロリニウム−5,6−キノンを含む試験エレメントを用いて、グルコース含有量400mg/dlのEDTA静脈血10μlに接触させる前と接触させた後に測定した反射率を、波長の関数として表したグラフであり、反応が、ほぼ12秒という短時間の内に完了することを示している。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
試料中の被分析物を光学的に検出する方法であって、
a)試料を、ニコチンアミド依存性の酸化還元酵素、還元性ニコチンアミド補酵素、キノンからなるメディエータ、および還元性光インジケータまたは還元性光インジケータ系を含む検出試薬に接触させることによって、前記ニコチンアミド依存性の酸化還元酵素により、前記被分析物は酸化され、前記ニコチンアミド補酵素は還元され、そして還元された前記ニコチンアミド補酵素の電子が、前記メディエータによって前記光インジケータまたは前記光インジケータ系に移動させられる段階と、
b)前記インジケータまたは前記インジケータ系を光学的に検出することによって、前記試料中の前記被分析物の存在および/または量を測定する段階と
を含むことを特徴とする方法。
【請求項2】
前記試料は体液であることを特徴とする請求項1記載の方法。
【請求項3】
前記体液は、全血、血漿または血清であることを特徴とする請求項1または2記載の方法。
【請求項4】
前記被分析物は、リンゴ酸、アルコール、アンモニウム、アスコルビン酸、コレステロール、システイン、グルコース、グルタチオン、グリセロール、尿素、3−ヒドロキシ酪酸塩、乳酸、5’−ヌクレオチダーゼ、ペプチド類、ピルビン酸塩、サリチル酸塩およびトリグリセリド類からなる群から選ばれる化合物であることを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載の方法。
【請求項5】
前記被分析物はグルコースであることを特徴とする請求項1〜4のいずれか1項に記載の方法。
【請求項6】
前記ニコチンアミド依存性の酸化還元酵素は、脱水素酵素であることを特徴とする請求項1〜5のいずれか1項に記載の方法。
【請求項7】
前記ニコチンアミド依存性の酸化還元酵素は、アルコール脱水素酵素、ホルムアルデヒド脱水素酵素、グルコース脱水素酵素、グルコース6−リン酸脱水素酵素、3−ヒドロキシ酪酸塩脱水素酵素、3−ヒドロキシステロイド脱水素酵素、乳酸塩脱水素酵素、リンゴ酸塩脱水素酵素、またはアミノ酸脱水素酵素であることを特徴とする請求項1〜6のいずれか1項に記載の方法。
【請求項8】
前記ニコチンアミド依存性の酸化還元酵素は、グルコース脱水素酵素であることを特徴とする請求項1〜7のいずれか1項に記載の方法。
【請求項9】
前記ニコチンアミド補酵素はNAD(P)+であることを特徴とする請求項1〜8のいずれか1項に記載の方法。
【請求項10】
前記メディエータは、任意の別の環または複数の別の環と結合しているo−ベンゾキノンまたはp−ベンゾキノンであることを特徴とする請求項1〜9のいずれか1項に記載の方法。
【請求項11】
前記メディエータは、1,10−フェナントロリンキノン、1,7−フェナントロリンキノン、4,7−フェナントロリンキノン、ベンゾ[h]キノリンキノン、またはそれらのN−アルキル化塩もしくはN,N’−ジアルキル化塩であることを特徴とする請求項1〜10のいずれか1項に記載の方法。
【請求項12】
前記メディエータは、一般式(I)で表される1,10−フェナントロリン−5,6−キノン、一般式(II)で表される1,7−フェナントロリン−5,6−キノン、または一般式(III)で表される4,7−フェナントロリン−5,6−キノン、である。
【化1】

ここで、R2からR7までは、いずれも任意で1回またはそれ以上の回数置換されていてもよいが、互いに独立して、水素、ハロゲン、OH、O(アルキル)、OCO(アルキル)、S(アルキル)、NH2、NH(アルキル)、N(アルキル)2、[N(アルキル)3+、CN、NO2、COOH、SO3H、または直鎖もしくは分岐アルキル基、シクロアルキル基、アリール基またはヘテロアリール基であり、
1およびR8は、任意で1回またはそれ以上の回数置換されていてもよいが、互いに独立して、自由電子対、H、または直鎖もしくは分岐アルキル基であり、
または、それらの塩であることを特徴とする請求項1〜11のいずれか1項に記載の方法。
【請求項13】
前記メディエータは、N−メチル−1,10−フェナントロリニウム−5,6−キノン、N,N’−ジメチル−1,10−フェナントロリニウム−5,6−キノン、N−メチル−1,7−フェナントロリニウム−5,6−キノン、N,N’−ジメチル−1,7−フェナントロリニウム−5,6−キノン、N−メチル−4,7−フェナントロリニウム−5,6−キノン、またはN,N’−ジメチル−4,7−フェナントロリニウム−5,6−キノンであることを特徴とする請求項1〜12のいずれか1項に記載の方法。
【請求項14】
前記光学インジケータは、リンモリブデン酸であることを特徴とする請求項1〜13のいずれか1項に記載の方法。
【請求項15】
前記方法は、
(a)試料を塗布する塗布ゾーンと、
(b)前記被分析物を前記検出試薬と反応させる反応ゾーンと、
(c)前記インジケータまたは前記インジケータ系を光学的に検出することによって、前記試料中の前記被分析物の存在および/または量を測定する検出ゾーンと、
(d)任意の廃棄ゾーンと
を備えるキャリアを用いて実施されることを特徴とする請求項1〜14のいずれか1項に記載の方法。
【請求項16】
前記試料は、前記塗布ゾーンに直接塗布されることを特徴とする請求項15記載の方法。
【請求項17】
前記試料は、転送エレメントに吸い上げられ、次いで、必要に応じて湿らせた後に、前記塗布ゾーンに塗布されることを特徴とする請求項15記載の方法。
【請求項18】
前記キャリアは、試験エレメントであることを特徴とする請求項15〜17のいずれか1項に記載の方法。
【請求項19】
試料中の被分析物を光学的に検出する検出試薬において、
(a)ニコチンアミド依存性の酸化還元酵素と、
(b)還元性のニコチンアミド補酵素と、
(c)キノンからなるメディエータと、
(d)還元性光インジケータまたは還元性光インジケータ系と
を含むことを特徴とする検出試薬。
【請求項20】
請求項19記載の検出試薬の試験エレメントの中での使用。
【請求項21】
請求項19記載の検出試薬と、試料中の被分析物を光学的に検出する試験エレメントとを含むキットにおいて、前記試験エレメントが、
(a)前記試料を塗布する塗布ゾーンと、
(b)前記被分析物を前記検出試薬と反応させる反応ゾーンと、
(c)前記インジケータまたは前記インジケータ系を光学的に検出することによって、前記試料中の前記被分析物の存在および/または量を測定する検出ゾーンと、
(d)任意の廃棄ゾーンと
を備えることを特徴とするキット。
【請求項22】
試料中の被分析物を光学的に検出する試験エレメントにおいて、
(a)前記試料を塗布する塗布ゾーンと、
(b)前記分析物を前記検出試薬と反応させるための、ニコチンアミド依存性の酸化還元酵素、還元性のニコチンアミド補酵素、キノンからなるメディエータ、および還元性光インジケータまたは還元性光インジケータ系を含む検出試薬が含浸させられた反応ゾーンと、
(c)前記インジケータもしくは前記インジケータ系を光学的に検出することによって、前記試料中の前記被分析物の存在および/または量を測定する検出ゾーンと、
(d)任意の廃棄ゾーンと
を備えることを特徴とする試験エレメント。

【図1】
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【公開番号】特開2008−206518(P2008−206518A)
【公開日】平成20年9月11日(2008.9.11)
【国際特許分類】
【外国語出願】
【出願番号】特願2008−38343(P2008−38343)
【出願日】平成20年2月20日(2008.2.20)
【出願人】(501205108)エフ ホフマン−ラ ロッシュ アクチェン ゲゼルシャフト (285)
【Fターム(参考)】