説明

測定装置及び観察対象の測定方法

【課題】 細胞やタンパク質などの分子を測定する際に得られる画像の画質の劣化を防止する。
【解決手段】 観察対象を区画する非晶質のフッ素樹脂から形成された区画壁を有し、区画壁で囲まれる領域内に溶液が注入される構造体と、構造体と溶液との境界面にて全反射させるように、構造体に向けて光を照射する光源と、光源からの光が全反射したときに生じるエバネッセント光により照明された観察対象又は溶液中の物質からの光を集光する光学系と、光学系と共に区画壁を含む撮像視野を形成し、区画壁で囲まれる領域内に存在する観察対象又は溶液中の物質の画像を取得する撮像装置と、を備えたことを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、タンパク質などの分子や細胞などの観察対象を測定する測定装置及び観察対象の測定方法に関する。
【背景技術】
【0002】
現在、細胞などの観察対象を測定する方法として、例えば共焦点光を用いた測定手法や、エバネッセント光を用いた測定手法などが挙げられる。周知のように、エバネッセント光は、例えば屈折率の異なる界面を有することにより、照射光における全反射条件が生じたときに発生するものである。このエバネッセント光は、物体に照射されることで散乱や回折、或いは物体により蛍光を発するなどの相互作用が生じ、伝播光(観察光)に変化する。このエバネッセント光を用いた測定手法の場合には、ピントのあった部分に存在する単分子からの蛍光といった微弱な光でも背景光に邪魔されることなく観察できるという利点を有している。
【特許文献1】特開平10−221339号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
しかしながら、エバネッセント光による測定手法を用いて、複数のウェルを備えたウェルプレートや培養容器などに貯留される溶液を観察する場合、ウェルを形成するガラスの屈折率と溶液の屈折率との違いから上述した観察光を屈折させてしまうことから、例えばタンパク質や細胞などを観察対象として撮像したときに、得られる画像の画質が劣化してしまうなどの悪影響を及ぼすという問題がある。
【0004】
本発明は、細胞やタンパク質などの分子を測定する際に得られる画像の画質の劣化を防止することができるようにした測定装置及び観察対象の測定方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
第1の発明の測定装置は、観察対象を区画する非晶質のフッ素樹脂から形成された区画壁を有し、前記区画壁で囲まれる領域内に溶液が注入される構造体と、前記構造体と前記溶液との境界面にて全反射させるように、前記構造体に向けて光を照射する光源と、前記光源からの光が全反射したときに生じるエバネッセント光により照明された前記観察対象又は前記溶液中の物質からの光を集光する光学系と、前記光学系と共に前記区画壁を含む撮像視野を形成し、前記区画壁で囲まれる領域内に存在する前記観察対象又は前記溶液中の物質の画像を取得する撮像装置と、を備えたことを特徴とする。
【0006】
第2の発明は、第1の発明において、前記構造体は、前記区画壁と前記区画壁が接合されるプレートとから構成されることを特徴とする。
【0007】
第3の発明の観察対象の測定方法は、観察対象を区画する区画壁が非晶質のフッ素樹脂から形成され、前記区画壁で囲まれる領域内に溶液が注入される構造体と該溶液との境界面にて全反射させるように、前記構造体に向けて光を照射する照射工程と、前記照射工程により照射された光が全反射したときに生じるエバネッセント光により照明された前記観察対象又は前記溶液中の物質からの光を光電変換することで、前記区画壁で囲まれる領域内に存在する前記観察対象又は前記溶液中の物質の画像を取得する撮像工程と、を備えたことを特徴とする。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、構造体に設けられる区画領域に貯留される溶液中の測定対象物を測定する際に、区画領域を構成する区画壁により、伝播光を屈折させることがないので、得られる画像の画質の劣化を防止することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
図1は、本発明の測定装置の一例を示す顕微鏡の構成を示す図である。なお、以下では測定装置として顕微鏡を例に取り上げて説明するが、測定装置としては、顕微鏡の他に、例えばマイクロプレートリーダーや、センサーディッシュリーダーなどの測定装置であってもよい。
【0010】
顕微鏡10は、光源11、ステージ12、ステージ駆動部13、対物レンズ14、シフト機構15、リレーレンズ16、撮像装置17、コントローラ18、表示部19及び操作部20などを備えている。
【0011】
光源11は、照射光として、例えばレーザ光を照射するレーザ光源が挙げられる。この光源としては、上述したレーザ光源の他に、ランプなどの光源を用いてもよい。光源としてランプを用いる場合には、照射光を集光する集光レンズを設置すればよい。
【0012】
ステージ12は、後述する構造体30を固定保持する。このステージ12には開口12aが設けられており、この開口12aにプリズム22が配置される。プリズム22は、光源11からの光を構造体30の内部に入射させる。プリズム22に入射される光源11からの光の入射角度は、構造体30の内部を伝播する際に構造体30の上面又は下面にて全反射する角度となる。構造体30の屈折率は構造体30に設けられた各ウェルに注入される溶液の屈折率よりも大きいことから、構造体30の内部を伝播する光は構造体30の上面にて全反射される。この光の全反射の際に、全反射される近傍の領域でエバネッセント光が発生する。このエバネッセント光を利用して、構造体30に固着された抗体や、ウェルに注入される溶液中の抗原などを測定する。つまり、抗体や溶液中の抗原などが観察対象となる。なお、エバネッセント光による抗体や抗原の照明時には、エバネッセント光が抗体や抗原との相互作用によって、蛍光や伝播光を生じるので、対物レンズ14はこれら蛍光や伝播光を観察光として集光する。
【0013】
ステージ12は、上述した構造体30を固定保持する。このステージ12は、ステージ駆動部13によって、対物レンズ14の光軸(L)方向と、該対物レンズ14の光軸(L)方向と直交する面上で移動可能となっている。対物レンズ14は、上述した観察光を集光する。この対物レンズ14は、シフト機構15により、その光軸(L)方向に移動可能である。リレーレンズ16は、対物レンズ14により集光された観察光を撮像装置17に結像する。撮像装置17は、例えばCCDやCMOSなどの二次元の撮像素子から構成される。
【0014】
コントローラ18は、顕微鏡10の各部を制御する。操作部19は、顕微鏡10における観察条件の入力操作等の際に操作される。表示部20は、例えばLCDからなり、撮像装置17によって撮像される画像や測定結果を表示する。
【0015】
上述した顕微鏡10で使用される構造体30としては、例えば免疫アッセイが挙げられる。図2(a)に示すように、免疫アッセイ40には、例えば透明なガラスやプラスチックなどの材質からなるプレート(以下、マイクロプレートと称す)41が用いられる。このマイクロプレート41の上面41aのうち、ハッチングで示す領域42には、格子状の区画壁45が設けられる。この区画壁45をプレート41の上面41aに接合することで、区画壁45と、マイクロプレート41の上面41aによって囲まれる領域がウェル46となる(図2(b)参照)。
【0016】
マイクロプレート41の上面41aに設けられる格子状の区画壁45は、サイトップ(登録商標)と呼ばれる非晶質のフッ素樹脂から形成される。非晶質のフッ素樹脂は、可視光線の透過率が95%を超える特性や、水の屈折率(1.33)に非常に近似した屈折率(1.34)であるという特性を有している。また、この他に、非晶質のフッ素樹脂は、サブミクロン単位の薄膜コーティングが可能であるという特性も有している。なお、矩形状の区画壁45は、例えば非晶質のフッ化樹脂をマイクロプレート41の上面にコーティングした後、コーティングされた非晶質のフッ化樹脂に対してプラズマエッチングやホットエンボス加工などを施すことで形成される。なお、本実施形態では、格子状の区画壁45としているが、これに限定される必要はなく、ウェル46の形状に合わせた区画壁を設ければよい。
【0017】
このような形態のマイクロプレート41を用いて免疫アッセイ40を作成する場合には、格子状の区画壁45とマイクロプレート41の上面41aにより形成されるウェル46のそれぞれに、タンパク質などの抗体50がパターンニング等により固着される(図3(a)参照)。なお、抗体50はウェル46の底面46aに固着される。なお、図2においては、抗体50をウェル46の底面46aに固着している形態としているが、これに限定される必要はなく、抗原抗体反応を測定するのであれば、抗体50の代わりに抗原をウェル46の底面46aに固定すればよい。
【0018】
このような免疫アッセイ40は、例えばイライザ(ELISA)と呼ばれる、抗原抗体反応を利用し目的のタンパク質を検出する方法である。
【0019】
このイライザ法の原理を以下に示す。まず、免疫アッセイ40の各ウェル46にサンプル液51を滴下すると、サンプル液51中の目的物質(抗原)52が抗原抗体反応により抗体50に結合される(図3(b)参照)。その後、サンプル液51を洗い流した後、酵素標識した第二の抗体53を含む溶液54を添加すると、第二の抗体53が抗原抗体反応により、目的物質52に結合される(図3(c)参照)。その後、遊離する酵素標識した第二の抗体53を含む溶液54を洗い流し、発色基質を添加すると、サンドイッチ構造の量(すなわちサンプル中の目的物質量)に比例して発色反応が生じる。なお、上述したマイクロプレート41を用いることで、各ウェル46に滴下されるサンプル液51の中の目的物質(抗原)52の濃度を高くすることができるので、目的物質52を高感度で測定することができる。
【0020】
上述した顕微鏡10においては、このイライザ法を行いながら、マイクロプレート41の各ウェル46の抗体50及びサンプル液51中の抗原52を測定する。
【0021】
まず、ステージ12を所定位置に移動させた後、光源11から照射光をステージ12に向けて照射する。この照射光はプリズム22に入射し、プリズム22の内部を伝播する。プリズム22の内部を伝播した照射光は、プリズム22の内部から出射し、マイクロプレート41に入射する。以下、サンプル液51を滴下した直後の抗体50、又はサンプル液51の抗原52を測定する場合について説明する。
【0022】
マイクロプレート41に入射した照射光は、マイクロプレート41の上面にて全反射しながらマイクロプレート41の内部を伝播していく。照射光がマイクロプレート41の上面で全反射したときにエバネッセント光が生じ、各ウェル46の抗体50やサンプル液51を照明する。
【0023】
エバネッセント光が各ウェルの抗体50やサンプル液51内の物質(抗原を含む)に到達すると蛍光が生じる。対物レンズ14は、その観察視野内に発生する蛍光を観察光として集光する。なお、対物レンズ14により集光された観察光は、リレーレンズ16を介して撮像装置17に結像され、各ウェル46の抗体50やサンプル液51中の抗原52の画像(抗原抗体反応時の画像)を取得することができる。また、取得された画像を用いることで、サンプル液51における抗原52の濃度を測定することもできる。なお、サンプル液51における抗原52の濃度は滴下されるウェル46毎に異なるが、区画壁45がないマイクロプレート41上に滴下した場合に比べて、抗原52の濃度を高くすることができるので、抗原の濃度を高精度で測定することが可能となる。なお、第二の抗体53を含む溶液54を液化した場合や、発色基質を添加した場合も同様である。この顕微鏡10においては吸光度計については触れていないが、吸光度計を備えている顕微鏡の場合には、発色基質を添加した場合に生じる発色物質の吸光度を測定することも可能である。
【0024】
この免疫アッセイ40を用いた測定においては、顕微鏡10の対物レンズ14の光学倍率やFナンバーと、マイクロプレート41に設けられる区画壁45の高さとの関係において、対物レンズ14の観察視野内にマイクロプレート41に設けられる区画壁45が入り込んでしまう場合がある。このような場合、区画壁45における屈折率と、滴下されるサンプル液51や溶液54の屈折率が略同一であることから、エバネッセント光が区画壁45に到達しても区画壁45によって相互作用は生じることはないので、区画壁45において蛍光を発することはなく、抗体50や抗原52などを照明するエバネッセント光を均一化することができる。また、抗体50や抗原52における相互作用によって発生する蛍光からなる観察光が区画壁45に到達したときでも、観察光は屈折せずに区画壁45の内部を伝播することから、抗体や抗原の濃度を高感度に測定することができる。また、測定時に得られる画像の劣化を防止することができる。
【0025】
なお、構造体としては、上述した免疫アッセイの他に、DNAチップ、核酸などの細胞をアレイ状に固着した細胞アレイチップなどが挙げられる。DNAチップとは、周知のように、DNAの断片や合成オリゴヌクレオチドをガラス等のプレートに固着させたものであり、遺伝子の働き具合(発現)を測定したり、特定の遺伝子がゲノムに存在するかどうか、変異を起こしていないかどうかなどを調べるために設けられる。なお、このDNAチップを用いた測定としては、例えば癌における遺伝子の発現を測定する、詳細には、癌細胞の中で働く遺伝子と正常細胞の中で働く遺伝子の種類や量を測定することが挙げられる。
【0026】
また、DNAアレイチップは、例えばハイブリダイゼーション(Hybridization)にて使用される。ハイブリダイゼーションとは、核酸などの分子を相補的に複合させて人工的に複合体を形成させ、遺伝子の検出・同定・定量や、相同性の定量を測定することである。細胞アレイチップにおいても、例えばウェルに核酸を固着させたマイクロプレートを用いればよい。
【0027】
本実施形態では、構造体としてマイクロプレートを例に取り上げているが、これに限定される必要はなく、例えば上面が開口された円筒形状の培養容器の底部上面に非晶質のフッ素樹脂からなる区画壁を形成することも可能である。また、この他に、例えばマイクロリアクタの流路内に非晶質のフッ素樹脂からなる区画壁を設けることも可能である。この場合も、マイクロリアクタに照射される照射光が区画壁によって乱されることがないことから、区画壁で囲まれる空間に固着される抗体を高感度に測定することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0028】
【図1】エバネッセント光を用いて観察を行う顕微鏡の一例を示す図である。
【図2】マイクロプレートの全体、及び区画壁の構成を示す図である。
【図3】イライザ法の手順の一例を示す図である。
【図4】顕微鏡を用いた観察時のマイクロプレートの断面図である
【符号の説明】
【0029】
10…顕微鏡、11…光源、12…ステージ、14…対物レンズ、17…撮像装置、30…構造体、40…免疫アッセイ、41…マイクロプレート、45…区画壁、50…抗体、51…サンプル液、52…抗原、53…第2の抗体、54…溶液

【特許請求の範囲】
【請求項1】
観察対象を区画する非晶質のフッ素樹脂から形成された区画壁を有し、前記区画壁で囲まれる領域内に溶液が注入される構造体と、
前記構造体と前記溶液との境界面にて全反射させるように、前記構造体に向けて光を照射する光源と、
前記光源からの光が全反射したときに生じるエバネッセント光により照明された前記観察対象又は前記溶液中の物質からの光を集光する光学系と、
前記光学系と共に前記区画壁を含む撮像視野を形成し、前記区画壁で囲まれる領域内に存在する前記観察対象又は前記溶液中の物質の画像を取得する撮像装置と、
を備えたことを特徴とする測定装置。
【請求項2】
前記構造体は、前記区画壁と前記区画壁が接合されるプレートとから構成されることを特徴とする請求項1に記載の測定装置。
【請求項3】
観察対象を区画する区画壁が非晶質のフッ素樹脂から形成され、前記区画壁で囲まれる領域内に溶液が注入される構造体と該溶液との境界面にて全反射させるように、前記構造体に向けて光を照射する照射工程と、
前記照射工程により照射された光が全反射したときに生じるエバネッセント光により照明された前記観察対象又は前記溶液中の物質からの光を光電変換することで、前記区画壁で囲まれる領域内に存在する前記観察対象又は前記溶液中の物質の画像を取得する撮像工程と、
を備えたことを特徴とする観察対象の測定方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2010−66212(P2010−66212A)
【公開日】平成22年3月25日(2010.3.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−234888(P2008−234888)
【出願日】平成20年9月12日(2008.9.12)
【出願人】(504137912)国立大学法人 東京大学 (1,942)
【出願人】(000004112)株式会社ニコン (12,601)
【Fターム(参考)】