説明

測定装置

【課題】分析チップの温度調節を行うための温度調節用部材に結露が生じた場合でも、測定結果に影響を及ぼさないようにする。
【解決手段】分析チップ10のセンサ部において被検出物質と結合した光応答性標識物質から生じる光を検出して被検物質の分析を行う光検出法を用いた測定装置において、上面の所定の測定位置において分析チップ10を接触させて分析チップの温度調節を行うためのアルミブロック70と、アルミブロック70の温度を制御する温度制御手段80と、外部から装填された分析チップ10を、アルミブロック70の上面を摺動させて測定位置まで移動させる不図示の分析チップ移動手段とを備え、アルミブロック70の上面に、分析チップ10が上面を摺動した際に集積された水滴を回収するためのスリット71を設ける。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、分析チップのセンサ部において被検出物質と結合した光応答性標識物質から生じる光を検出して被検物質の分析を行う光検出法を用いた測定装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
バイオ測定等において、蛍光法は高感度かつ容易な測定法として広く用いられている。蛍光法とは、特定波長の光に励起されて蛍光を発する被検出物質を含むと考えられる試料に、上記特定波長の励起光を照射し、このとき発せられる蛍光を検出することによって定性的または定量的に被検出物質の存在を確認する方法である。また、被検出物質自身が蛍光材料ではない場合、この被検出物質を有機蛍光色素等の蛍光標識で標識し、その後同様にして蛍光を検出することにより、その標識の存在をもって被検出物質の存在を確認する方法である。
【0003】
上記蛍光法において、試料を流しながら特定の被検出物質のみを効率よく検出できる等の理由から、以下に示す2つの方法により被検出物質を分析チップのセンサ部表面に固定し、その後蛍光検出を行う手法が一般的である。このような手法の1つは、例えば被検出物質が抗原である場合に、センサ部表面に固定された1次抗体に、抗原を特異的に結合させ、次いで、蛍光標識が付与された、抗原と特異的に結合する2次抗体を、さらに上記抗原に結合させることにより、1次抗体―抗原―2次抗体という結合状態を形成し、2次抗体に付与されている蛍光標識からの蛍光を検出する、所謂サンドイッチ法である。また、もう1つは、例えば被検出物質が抗原である場合に、センサ部表面に固定された1次抗体に、抗原と蛍光標識が付与された2次抗体(前述の2次抗体と異なり、1次抗体と特異的に結合する)とを、競合的に1次抗体と結合させ、競合的に結合した2次抗体に付与されている蛍光標識からの蛍光を検出する、所謂競合法である。
【0004】
また、蛍光検出においてS/N比を向上できる等の理由から、上記のような方法によって間接的にセンサ部に固定された蛍光標識を、エバネッセント光により励起するエバネッセント蛍光法が提案されている。エバネッセント蛍光法は、励起光をセンサ部裏面から入射し、センサ部表面に染み出すエバネッセント光により蛍光標識を励起して、その蛍光標識から生じる蛍光を検出するものである。
【0005】
一方、エバネッセント蛍光法において、感度を向上させるため、プラズモン共鳴による電場増強の効果を利用する方法が、特許文献1、非特許文献1などに提案されている。この表面プラズモン増強蛍光法は、プラズモン共鳴を生じさせるため、センサ部に金属層を設け、この金属層に表面プラズモンを生じさせ、その電場増強作用によって、蛍光信号を増大させてS/N比を向上させるものである。
【0006】
また、エバネッセント蛍光法において、表面プラズモン増強蛍光法と同様に、センサ部の電場を増強する効果を有する方法として、光導波モードによる電場増強効果を利用する方法が非特許文献2に提案されている。この光導波モード増強蛍光分光法(OWF:Optical waveguide mode enhanced fluorescence spectroscopy)は、センサ部に金属層と、誘電体などからなる光導波層とを順次形成し、この光導波層に光導波モードを生じさせ、その電場増強効果によって、蛍光信号を増強させるものである。
【0007】
また、特許文献2および非特許文献3には、上記に示した蛍光法のように蛍光標識からの蛍光を検出するのではなく、その蛍光が金属層に新たに表面プラズモンを誘起することによって生じる放射光(SPCE: Surface Plasmon-Coupled Emission)を検出する方法が提案されている。
【0008】
以上のように、バイオ測定等における測定方法としては、種々の方法が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開平10−307141号公報
【特許文献2】米国特許出願公開第2005/0053974号明細書
【非特許文献】
【0010】
【非特許文献1】W.Knoll他、Analytical Chemistry 77(2005), p.2426-2431
【非特許文献2】2007年春季 応用物理学会 予稿集 No.3,P.1378
【非特許文献3】Thorsten Liebermann Wolfgang Knoll, "Surface-plasmon field-enhanced fluorescence spectroscopy" Colloids and Surfaces A 171(2000)115-130
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
特にバイオ測定においては分析チップの温度に測定結果が強く影響を受けるため、上記のような測定装置では、分析チップの温度を一定に保つための温度調節手段が一般に設けられている。
【0012】
この温度調節手段は、アルミブロック等の温度調節用部材と、この温度調節用部材の温度を制御する温度制御手段等から構成されており、測定装置に投入された分析チップは測定位置において温度調節用部材と接触するように装置内部で移動させられる。
【0013】
分析チップの移動は、測定装置の構成を簡素化するため、分析チップを温度調節用部材の上面において摺動させて温度調節用部材上の所定の測定位置まで移動させる場合があるが、このとき温度調節用部材上に結露が生じていると、温度調節用部材上で分析チップを摺動させた際に分析チップにより水滴が集積されて測定位置まで運ばれてしまうことになる。この水滴が蛍光検出等の妨げになると、測定結果に誤差が生じるおそれがある。
【0014】
本発明は上記問題に鑑みてなされたものであり、分析チップのセンサ部において被検出物質と結合した光応答性標識物質から生じる光を検出して被検物質の分析を行う光検出法を用いた測定装置において、分析チップの温度調節を行うための温度調節用部材に結露が生じた場合でも、測定結果に影響を及ぼさないようにした測定装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0015】
本発明の測定装置は、分析チップのセンサ部において被検出物質と結合した光応答性標識物質から生じる光を検出して被検物質の分析を行う光検出法を用いた測定装置であって、上面の所定の測定位置において分析チップを接触させて分析チップの温度調節を行うための温度調節用部材と、温度調節用部材の温度を制御する温度制御手段とを備え、温度調節用部材の上面には、物体が上面を摺動することに伴い集積された水滴を回収するスリットが設けられていることを特徴とする。
【0016】
本発明の測定装置においては、外部から装填された分析チップを、温度調節用部材の上面を摺動させて測定位置まで移動させる分析チップ移動手段、もしくは、外部から装填された分析チップを測定位置まで移動させるとともに、温度調節用部材の上面を摺動する摺動部を有する分析チップ移動手段をさらに備えてもよい。
【0017】
また、スリットは、摺動方向と平行な方向以外の方向に延びるものとすることが好ましい。
【0018】
また、スリットは、摺動方向と直交する方向以外の方向に延びるものとすることが好ましい。
【0019】
また、スリットの幅は、1mm以下とすることが好ましい。
【0020】
また、スリット内は、親水性とすることが好ましい。
【0021】
また、スリットは、分析チップが測定位置にある際に、センサ部と重ならない位置に設けられていることが好ましい。
【0022】
また、温度調節用部材は、スリットと連通するとともに、上下方向に貫通する水滴回収孔を備えたものとすることが好ましい。
【0023】
この場合、水滴回収孔の上方または下方のいずれか一方から水滴回収孔に向けて測定光を照射する測定光照射手段と、水滴回収孔の上方または下方のいずれか他方において測定光を検出する測定光検出手段と、測定光検出手段による検出結果に基づいて水滴回収孔における水の有無を判断する判断手段とを備えてもよい。
【0024】
この場合、水滴回収孔内は、疎水性とすることが好ましい。
【発明の効果】
【0025】
本発明の測定装置によれば、分析チップのセンサ部において被検出物質と結合した光応答性標識物質から生じる光を検出して被検物質の分析を行う光検出法を用いた測定装置において、上面の所定の測定位置において分析チップを接触させて分析チップの温度調節を行うための温度調節用部材と、温度調節用部材の温度を制御する温度制御手段とを備え、温度調節用部材の上面に、物体が上面を摺動することに伴い集積された水滴を回収するスリットを設けたので、温度調節用部材上に結露が生じた場合でも、温度調節用部材の上面で何かしらの物体を摺動させることで水滴を回収することができるので、結露が測定結果に影響を及ぼさないようにすることが可能となる。
【0026】
本発明の測定装置において、外部から装填された分析チップを、温度調節用部材の上面を摺動させて測定位置まで移動させる分析チップ移動手段、もしくは、外部から装填された分析チップを測定位置まで移動させるとともに、温度調節用部材の上面を摺動する摺動部を有する分析チップ移動手段をさらに備えることにより、装置が通常備える分析チップ移動手段を利用して、分析チップ移動手段の移動に伴って水滴を回収できるので、安価に本発明を実現させることができる。
【0027】
また、スリットを摺動方向と平行な方向に延びるようにすると、水滴をほとんど回収することができなくなってしまうため、スリットを摺動方向と平行な方向以外の方向に延びるものとすることにより、水滴の回収効率を向上させることができる。
【0028】
また、スリットを摺動方向と直交する方向以外の方向に延びるものとすることにより、分析チップの摺動に伴って水滴を移動させやすくなるため、水滴の回収効率を向上させることができる。
【0029】
また、スリットの幅を1mm以下とすることにより、水滴の回収を行いつつ、分析チップとの接触面積の減少を最小限に抑えることができるため、温度調節時におけるスリットの影響を最小限に抑えることができる。
【0030】
また、スリット内を親水性とすることにより、水滴がスリット内に移動しやすくなるため、水滴の回収効率を向上させることができる。
【0031】
また、スリットを、分析チップが測定位置にある際に、センサ部と重ならない位置に設けることにより、本測定時におけるスリットの影響を最小限に抑えることができる。
【0032】
また、温度調節用部材に、スリットと連通するとともに、上下方向に貫通する水滴回収孔を備えたものとすることにより、集積した水滴を効率良く回収することができる。
【0033】
この場合、水滴回収孔の上方または下方のいずれか一方から水滴回収孔に向けて測定光を照射する測定光照射手段と、水滴回収孔の上方または下方のいずれか他方において測定光を検出する測定光検出手段と、測定光検出手段による検出結果に基づいて水滴回収孔における水の有無を判断する判断手段とを備えることにより、測定装置内部で結露が発生したことを検出することができるため、ユーザーに警告を発する等、測定装置の適切な運用を補助することが可能となる。
【0034】
この場合、水滴回収孔内を疎水性とすることにより、水滴が水滴回収孔内を塞ぎやすくなるため、水滴回収孔内の水を検出しやすくなる。
【図面の簡単な説明】
【0035】
【図1】本発明の測定装置の一実施の形態である蛍光検出装置の模式図
【図2】上記蛍光検出装置のブロック図
【図3】上記蛍光検出装置に用いる分析チップの一例を示す模式図
【図4】上記蛍光検出装置における温度調節用部材およびその周辺の模式図
【図5】上記蛍光検出装置における温度調節用部材の上面図
【図6】図5中のVI−VI線断面図
【図7】図2の検体処理手段によりノズルチップを用いて検体が検体容器から抽出される様子を示す模式図
【図8】図2の検体処理手段によりノズルチップ内の検体が試薬セルに注入・撹拌される様子を示す模式図
【図9】上記蛍光検出装置における分析チップ、光照射手段および蛍光検出手段の一例を示す模式図
【図10】上記蛍光検出装置による測定結果の一例を示すグラフ
【発明を実施するための形態】
【0036】
以下、図面を参照して本発明の測定装置の一実施の形態である蛍光検出装置について詳細に説明する。図1は本発明の測定装置の一実施の形態である蛍光検出装置の模式図、図2は上記蛍光検出装置のブロック図、図3は上記蛍光検出装置に用いる分析チップの一例を示す模式図、図4は上記蛍光検出装置における温度調節用部材およびその周辺の模式図、図5は上記蛍光検出装置における温度調節用部材の上面図、図6は図5中のVI−VI線断面図、図7は図2の検体処理手段によりノズルチップを用いて検体が検体容器から抽出される様子を示す模式図、図8は図2の検体処理手段によりノズルチップ内の検体が試薬セルに注入・撹拌される様子を示す模式図、図9は上記蛍光検出装置における分析チップ、光照射手段および蛍光検出手段の一例を示す模式図、図10は上記蛍光検出装置による測定結果の一例を示すグラフである。
【0037】
この蛍光検出装置1は、表面プラズモン共鳴を利用した免疫解析装置であって、蛍光検出装置1により分析を行う際、図1に示す検体が収容された検体容器CBと、検体および試薬を抽出する際に用いられるノズルチップNCと、試薬セルおよびマイクロ流路が形成された分析チップ10が装填される。なお、検体容器CB、ノズルチップNCおよび分析チップ10はいずれも一度使用したら破棄される使い捨てのものである。そして、蛍光検出装置1は検体を分析チップ10のマイクロ流路15に流しながら検体内の被検物質について定量的もしくは定性的な分析を行う。
【0038】
この蛍光検出装置1は、検体処理手段20、光照射手段30、蛍光検出手段40、光照射手段50、光検出手段60、アルミブロック(温度調節用部材)70、温度制御手段80、データ分析手段90等を備えている。検体処理手段20は、ノズルチップNCを用いて検体を収容した検体容器CB内から検体を抽出し、抽出した検体を試薬と混合撹拌した検体溶液を生成するものである。
【0039】
図3は分析チップ10の一例を示す模式図である。分析チップ10は、光透過性の樹脂等の誘電体プレートからなる本体11に注入口12、排出口13、試料セル14a、14b、流路15が形成された構造を有している。注入口12は流路15を介して排出口13に連通しており、排出口13から負圧をかけることにより検体は注入口12から注入されて流路15内に流れ排出口13から排出される。試料セル14a、14bは検体容器CB内の検体に混合する蛍光試薬(第2抗体)を収容する容器である。なお、試料セル14a、14bの開口部はシール部材により封止されており、検体と蛍光試薬とを混合する際にシール部材が穿孔されるようになっている。
【0040】
また、流路15内には検体内の被検物質を検出するためのセンサ部としてのテスト領域TRおよびテスト領域TRの下流側に設けられたコントロール領域CRが形成されている。このテスト領域TR上には第1抗体が固定されており、いわゆるサンドイッチ方式により標識化された抗体を捕捉する。また、コントロール領域CRには参照抗体が固定されており、コントロール領域CR上に検体溶液が流れることにより参照抗体が蛍光物質を捕捉する。なお、コントロール領域CRは2つ形成されており、非特異吸着を検出するためのいわゆるネガ型のコントロール領域CRと、検体差による反応性の違いを検出するためのいわゆるポジ型のコントロール領域CRとが形成されている。
【0041】
図4は上記蛍光検出装置における温度調節用部材およびその周辺の模式図である。アルミブロック70は、上面の所定の測定位置において分析チップ10を接触させて分析チップ10の温度調節を行うためのものであり、温度制御手段80は、このアルミブロック70の温度を制御するものである。また、外部から装填された分析チップ10を、アルミブロック70の上面を摺動させて測定位置まで移動させる不図示の分析チップ移動手段を備える。
【0042】
図5は上記蛍光検出装置におけるアルミブロック70の上面図である。アルミブロック70の上面には、分析チップ10が上面を摺動した際に集積された水滴を回収するためのスリット71が設けられている。また、アルミブロック70には、スリット71と連通するとともに、上下方向に貫通する水滴回収孔72が設けられている。分析チップ10は、図5中の上方から下方へ向けて摺動して測定位置に移動させられる。このとき、アルミブロック70上に結露が生じており、分析チップ10が上面を摺動した際にスリット71により回収された水は、最終的に水滴回収孔72内に移動することになる。
【0043】
スリット71は、分析チップ10の摺動方向(図5中上下方向)と直交する方向から傾いた方向に延びる複数のスリット71aと、光照射手段30側の端辺(図5中下辺)に平行に延びるスリット71bと、複数のスリット71aおよびスリット71bを水滴回収孔72に連通させるためのスリット71cとから構成されている。
【0044】
スリット71aについては、分析チップ10の摺動方向と直交する方向から傾いた方向に延びるように形成されており、これにより、分析チップ10の摺動に伴って水滴を移動させやすくなるため、水滴の回収効率を向上させることができる。
【0045】
スリット71bについては、分析チップ10が測定位置にある際のセンサ部(CR/TR)の位置よりも光照射手段30側において端辺と平行に延びるように形成されており、これにより、分析チップ10の先端が直前のスリット71aを超えてから測定位置に到達するまでに集積された水滴を最後に回収できるので、分析チップ10の励起光入射面に水滴が付着するのを防止することができる。
【0046】
上記のスリット71a〜cの幅は1mm以下に形成されており、これにより、水滴の回収を行いつつ、分析チップ10との接触面積の減少を最小限に抑えることができるため、温度調節時におけるスリットの影響を最小限に抑えることができる。
【0047】
上記のスリット71a〜cの深さも1mm以下に形成されており、これにより、水滴の回収を行いつつ、アルミブロック70の体積の減少を最小限に抑えることができるため、温度調節時におけるスリットの影響を最小限に抑えることができる。
【0048】
また、スリット71a〜c内は親水性となるよう加工されており、これにより、水滴がスリット内に移動しやすくなるため、水滴の回収効率を向上させることができる。
【0049】
また、図5には、分析チップ10が測定位置にある際のセンサ部(CR/TR)の位置を点線で表示しているが、これに示す通り、スリット71は、分析チップ10が測定位置にある際に、センサ部と重ならない位置に設けられている。これにより、本測定時におけるスリットの影響を最小限に抑えることができる。
【0050】
図6は図5中のVI−VI線断面図である。本実施の形態の蛍光検出装置1においては、分析チップ10およびアルミブロック70を挟むようにLED等の光照射手段50および光検出手段60が配されている。これは検体溶液の先端が到達したかどうかを光透過によって見るためのものである。例えば、分析チップ10の下方から上方に向けて光照射手段50から光を照射し、上部の光検出手段60でその光量を検出すると、検体溶液が到達測定位置まで到達していない場合は、流路部材を構成する下側部材11と流路との境界および流路と上側部材12との境界で各々光の一部(約4%程度)が反射して最終的に約8%程度光量が低下し、検体溶液が測定終了位置まで到達している場合は、検体溶液と透明樹脂の屈折率が近く光が反射しないため光量の低下をほとんど生じない。従って、検体溶液が到達測定位置に到達している場合には、到達していない場合と比較して、検出光量が約8%高くなる。このようにして、検出光量の変化により、検体溶液の先端が到達測定位置まで到達したか(すなわち、センサ部を全て通過したか)を知ることができる。
【0051】
また、アルミブロック70に形成された水滴回収孔72は、上記光照射手段50および光検出手段60による到達測定位置と対応する位置に設けられており、上記光照射手段50および光検出手段60を利用して、水滴回収孔72内の水の有無を確認することもできる。
【0052】
この確認は、上記の検体溶液の到達確認とは独立して行うものであり、水滴回収孔72の下方から上方に向けて光照射手段50から光を照射し、上部の光検出手段60でその光量を検出すると、水滴回収孔72内に水が有る場合には、水により光が吸収・散乱されて光量が低下し、水滴回収孔72内に水が無い場合には、光量の低下を生じない。従って、検出光量の変化により、水滴回収孔72内の水の有無を知ることができる。
【0053】
データ分析手段90は、光検出手段60による検出結果に基づいて水滴回収孔における水の有無を判断する判断手段としての機能を備えており、データ分析手段90により水が有る、すなわち蛍光検出装置1内部で結露が発生していると判断された場合には、ユーザーに警告表示をしたりアラーム音を鳴らしたりして通知する。
【0054】
なお、水滴回収孔72内は疎水性となるよう加工されており、これにより、水滴が水滴回収孔内を塞ぎやすくなるため、水滴回収孔72内の水を検出しやすくすることができる。
【0055】
分析チップ10が測定位置に配された後、分析の開始が指示された際、検体処理手段20は図7に示すようにノズルチップNCを用いて検体容器CBから検体を吸引する。その後、検体処理手段20は図8に示すように試料セル14aのシール部材を穿孔し試料セル14a内の試薬に検体を混合・撹拌させた後、検体溶液を再びノズルチップNCを用いて吸引する。この動作を試料セル14bについても同様に行う。すると、検体内に存在する被検物質(抗原)Aに試薬内の特異的に結合する第2の結合物質である第2抗体B2が表面に修飾された検体溶液が生成される。そして、検体処理手段20は、検体溶液を収容したノズルチップNCを注入口12上に設置し、排出口13からの負圧によりノズルチップNC内の検体溶液が流路15内に流入する。
【0056】
なお、本実施の形態では、検体処理手段20が検体と試薬とを混合した検体溶液を流路15内に供給する場合について例示しているが、流路15内に予め試薬を充填させておき、検体処理手段20が注入口12から検体のみを流入させるようにしてもよい。
【0057】
図9は分析チップ、光照射手段および蛍光検出手段の一例を示す模式図である。なお、図9においてはテスト領域TRに着目して説明するが、コントロール領域CRについても同様に励起光Lが照射されるものである。
【0058】
分析チップ10の本体11は、詳細には、光透過性の樹脂等の誘電体により形成された基盤11aおよび上蓋11bからなる。基盤(誘電体プレート)11aには流路15(試料液保持部)を形成するための溝が設けられており、この溝上に上蓋11bが取り付けられることにより、溝部分が流路15(試料液保持部)として機能する。流路15のテスト領域TR(コントロール領域CRも同様)の底面には金属膜16が積層されている。
【0059】
光照射手段30は、分析チップ10の裏面側から励起光Lを全反射条件となる入射角度でプリズムを介してテスト領域TRの誘電体プレート17と金属膜16に照射するものである。蛍光検出手段40は、たとえばCCD、CMOS等からなり、テスト領域TRを撮影して画像信号FSを取得するものである。
【0060】
そして、光照射手段30により励起光Lが誘電体プレート17と金属膜16との界面に対して全反射角以上の特定の入射角度で入射されることにより、金属膜16上の試料S中にエバネッセント波Ewが滲み出し、このエバネッセント波Ewによって金属膜16中に表面プラズモンが励起される。この表面プラズモンにより金属膜16表面に電界分布が生じ、電場増強領域が形成される。すると、金属膜16上に固着された第1抗体B1と結合した蛍光標識物質Fはエバネッセント波Ewにより励起され増強された蛍光を発生する。
【0061】
なお、プラズモン増強を利用した検出においては、金属消光が発生して感度が低下するおそれがあるため、例えばシリカ層やポリスチレン層等からなる消光防止層を金属層16上に設けるようにすれば、このような問題を解消することができる。また、蛍光標識物質Fについて、例えば、蛍光色素をポリスチレン粒子やシリカ粒子に内包したものや、金コロイド表面をポリスチレンでコーティングしたもの等といった、消光防止性物質としても、金属消光の問題を解消することができる。
【0062】
図2のデータ分析手段90は、蛍光検出手段40により検出された蛍光信号FSの経時変化に基づいて被検物質の分析を行うものである。具体的には、蛍光強度は蛍光標識物質Fの結合した量によって変化するため、図10のグラフに示すように時間経過とともに蛍光強度は変化する。データ分析手段90は、複数の蛍光信号FSを所定期間(例えば5分間)において所定のサンプリング周期(例えば5秒周期)で取得し、蛍光強度の時間変化率を解析することにより検体内の被検物質について定量的な分析を行う(レート法)。なお、上記のようにして得られた結果に対して、さらにコントロール領域CRにおける測定結果を用いて補正を行うようにしてもよい。
【0063】
そして最終的に得られた分析結果は、モニタやプリンタ等からなる情報出力手段4から出力される。
【0064】
以上、本発明の好ましい実施の形態について説明したが、本発明は上記実施の形態に限定されるものではない。
【0065】
例えば、スリット71の本数や配置形状については、上記に限るものではなく、どのような態様としてもよい。
【0066】
また、スリット71の深さについても、上記に限るものではなく、1mm以上の深さとしてもよいし、また均一の深さである必要もなく、例えば水滴回収孔72に向けて深くするようにすれば、よりスリット71内の水滴を水滴回収孔72に移動させやすくすることができる。
【0067】
また、本実施の形態では、分析チップ移動手段により分析チップ10をアルミブロック70上で摺動させて測定位置に移動させるようにしたが、分析チップ10は必ずしも自動で測定位置に移動させられる必要はなく、操作者が手動で分析チップ10を摺動させて測定位置に移動させてもよい。操作者が手動で分析チップ10を摺動させても、上記と同様に水滴はスリット71によって回収される。
【0068】
また、本実施の形態では、分析チップ10がアルミブロック70上を摺動する際にスリット71により水滴を回収するようにしたが、必ずしも分析チップ10がアルミブロック70上を摺動する必要はない。例えば、分析チップ移動手段がアルミブロック70上を摺動する摺動部を備え、分析チップ10を測定位置まで移動させる際に当該摺動部がアルミブロック70上を摺動してスリット71により水滴を回収させてもよい。この場合、分析チップ10は必ずしもアルミブロック70上を摺動させる必要はない。
【0069】
また、本発明の蛍光検出装置は、表面プラズモン増強蛍光法やエバネッセント蛍光法以外にも、光導波モード増強蛍光分光法等、種々の方式に対応させることが可能である。
【0070】
また、上記以外にも、本発明の要旨を逸脱しない範囲において、各種の改良や変形を行なってもよいのは勿論である。
【符号の説明】
【0071】
1 蛍光検出装置
10 分析チップ
20 検体処理手段
30 光照射手段
40 蛍光検出手段
50 光照射手段
60 光検出手段
70 アルミブロック(温度調節用部材)
71 スリット
72 水滴回収孔
80 温度制御手段
90 データ分析手段
CR コントロール領域
FS 蛍光信号
L 励起光
TR テスト領域

【特許請求の範囲】
【請求項1】
分析チップのセンサ部において被検出物質と結合した光応答性標識物質から生じる光を検出して被検物質の分析を行う光検出法を用いた測定装置であって、
上面の所定の測定位置において前記分析チップを接触させて該分析チップの温度調節を行うための温度調節用部材と、
該温度調節用部材の温度を制御する温度制御手段とを備え、
前記温度調節用部材の上面には、物体が前記上面を摺動することに伴い集積された水滴を回収するスリットが設けられていることを特徴とする測定装置。
【請求項2】
外部から装填された前記分析チップを、前記温度調節用部材の上面を摺動させて前記測定位置まで移動させる分析チップ移動手段をさらに備えたことを特徴とする請求項1記載の測定装置。
【請求項3】
外部から装填された前記分析チップを前記測定位置まで移動させるとともに、前記温度調節用部材の上面を摺動する摺動部を有する分析チップ移動手段をさらに備えたことを特徴とする請求項1記載の測定装置。
【請求項4】
前記スリットが、前記摺動の方向と平行な方向以外の方向に延びるものであることを特徴とする請求項1から3のいずれか1項記載の測定装置。
【請求項5】
前記スリットが、前記摺動の方向と直交する方向以外の方向に延びるものであることを特徴とする請求項1から4のいずれか1項記載の測定装置。
【請求項6】
前記スリットの幅が、1mm以下であることを特徴とする請求項1から5のいずれか1項記載の測定装置。
【請求項7】
前記スリット内が、親水性であることを特徴とする請求項1から6のいずれか1項記載の測定装置。
【請求項8】
前記スリットが、前記分析チップが前記測定位置にある際に、前記センサ部と重ならない位置に設けられていることを特徴とする請求項1から7のいずれか1項記載の測定装置。
【請求項9】
前記温度調節用部材が、前記スリットと連通するとともに、上下方向に貫通する水滴回収孔を備えたものであることを特徴とする請求項1から8のいずれか1項記載の測定装置。
【請求項10】
前記水滴回収孔の上方または下方のいずれか一方から前記水滴回収孔に向けて測定光を照射する測定光照射手段と、
前記水滴回収孔の上方または下方のいずれか他方において前記測定光を検出する測定光検出手段と、
該測定光検出手段による検出結果に基づいて前記水滴回収孔における水の有無を判断する判断手段とを備えていることを特徴とする請求項9記載の測定装置。
【請求項11】
前記水滴回収孔内が、疎水性であることを特徴とする請求項10記載の測定装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2013−76673(P2013−76673A)
【公開日】平成25年4月25日(2013.4.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−217914(P2011−217914)
【出願日】平成23年9月30日(2011.9.30)
【出願人】(306037311)富士フイルム株式会社 (25,513)
【Fターム(参考)】