説明

湛水下水田の直接散布用水性懸濁製剤

【課題】本発明は、製剤の懸濁安定性および散布時における除草活性成分の水中拡散性が優れるため、水稲に薬害が発生したり、除草効果が変動するという欠点がなく、また、畦畔から散布しても水田の中央部で除草効果の低下がみられず、大型水田でも畦畔から滴下するのみで水田内に入って散布する必要もなく、散布作業労力が軽減され、経済効率の点でも優れる湛水下水田の直接散布用水性懸濁製剤を得るにある。
【解決手段】20℃における水溶解度が100ppm以下である除草活性成分、平均粒子径が1〜10μmである湿式法シリカの焼成品、界面活性剤及び水を含有することを特徴とする構成要件とで、湛水下水田の直接散布用水性懸濁製剤を構成している。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、湛水下水田の直接散布用水性懸濁製剤に関するものである。
【背景技術】
【0002】
水を分散媒とした湛水下水田の直接散布用水性懸濁製剤は、薬剤散布時に、水で希釈することなく容器からそのまま田面水に滴下できるため、安全性、経済性、省力化などの点で優れた剤型であり、これまで、以下に例示されるような多くの報告がなされている。例えば、
1)水溶解度が100ppm(25℃)以下の除草活性成分を界面活性剤を用いて水に懸濁分散させた水性懸濁製剤(特許文献1参照)。
2)10μm以下の微細な水難溶性除草活性成分を水に懸濁させ粘度が180〜500センチポイズ(20℃)、初期の水面拡展速度が4.0cm/sec(20℃)以上、表面張力が25.0〜31.0dyne/cm(25℃)の物理性を有する水懸濁水田用除草剤(特許文献2参照)。
3)平均粒子径が0.5〜5.0μm、水溶解度が100ppm(25℃)以下の除草活性化合物を界面活性剤を用いて水に懸濁させ、表面張力が36〜65dyne/cm(25℃)の物理性を有する除草用水性懸濁製剤(特許文献3参照)。
4)除草活性化合物と界面活性剤、水からなり表面張力が35〜65dyne/cm(25℃)の物理性を有する除草用水性懸濁製剤(特許文献4参照)。
5)疎水性除草成分(ブタミホス)とポリビニルアルコールまたはアラビアガム、それに増粘剤、水よりなる水中油型懸濁状除草組成物(特許文献5参照)。
6)融点が38〜110℃のペースト状あるいは固体の水不溶性殺生剤、ポリビニルアルコール、水溶性増粘剤および水よりなる水性懸濁状殺生剤組成物(特許文献6参照)などが知られている。
【0003】
また、従来より水性懸濁製剤の再分散性または保存安定性を改良する目的で、シリカを使用することが報告されている。例えば、
7)硫黄を有効成分として含有し、これにナフタレンスルホン酸系陰イオン性界面活性剤、不飽和カルボン酸重合物系陰イオン性界面活性剤、コロイド性含水ケイ酸アルミニウムおよび水を配合したことを特徴とする懸濁状農薬用殺菌剤組成物(特許文献7参照)。
8)20乃至50重量%の有効物質含有率を有する水性懸濁液の形の1−フェニル−4−アミノ−5−クロルピリダゾン又は1−フェニル−4−アミノ−5−ブロムピリダゾンをベースとする除草剤に於いて、珪酸及びプロピレングリコール、及び50重量%のプロピレンオキシドと50重量%のエチレンオキシドから作られた総合分子量が6000〜7000であるブロックポリマーを含有することを特徴とする除草剤(特許文献8参照)。
9)1種または2種以上の水難溶性の農薬活性成分、ベントナイト鉱物質および気相あるいは液相のケイ酸塩を急速に分解することで得られる3〜100mμであるコロイド性酸化ケイ素を含有してなることを特徴とする懸濁状農薬組成物(特許文献9参照)。
10)農薬活性成分、工業用・家庭用防腐防かび活性成分から選ばれた少なくとも1種の活性成分、界面活性剤、シリカおよび水を含有することを特徴とする、再分散性の改良された水性懸濁製剤(特許文献10参照)。
11)水に難溶性を示す液状の除草原体と固体原体を特定の界面活性剤(ドデシルベンゼンスルホン酸カルシウム、エトキシル化スチリルフェニルエーテル及びエトキシル化ヒマシ油)および4級ベントナイト、気相法により合成されたシリカおよび酸化アルミニウムより選ばれるチキソトロピー剤からなる水性乳化懸濁状除草剤組成物(特許文献11参照)。
12)1種又は2種以上の水難溶性農薬活性化合物、ヘテロポリサッカライドガム及び表面を疎水化処理した酸化ケイ素を含有してなる水性懸濁状農薬製剤(特許文献12参照)。
13)20〜250μの1、2−ベンズチアゾリン−3−オン粒子の懸濁液に微粒子状酸化ケイ素及び/又はベントナイトを添加してなる懸濁状工業用殺菌剤組成物(特許文献13参照)などが知られている。
【0004】
しかし、これまでの湛水下水田の直接散布用水性懸濁製剤は、長期貯蔵中に分散質が沈降したり、田面水中での除草活性成分の拡散が不十分なため、自然環境、特に風により水田の局所に吹き寄せられた部分で除草活性成分の濃度が高くなり水稲に薬害が発生したり、除草効果が変動するという欠点があった。また、除草活性成分の拡散が不十分であるため、畦畔から散布しても水田の中央部で除草効果の低下がみられ、大型水田では畦畔からの滴下に加えて水田内に入って散布する必要があり、散布作業労力及び経済効率の点で問題があった。
【0005】
【特許文献1】特許第2127732号公報
【特許文献2】特開昭62−87501号公報
【特許文献3】特許第2130125号公報
【特許文献4】特開昭62−289502号公報
【特許文献5】特開昭55−124708号公報
【特許文献6】特開昭61−126001号公報
【特許文献7】特許第2932600号公報
【特許文献8】特許第1306377号公報
【特許文献9】特許第2139044号公報
【特許文献10】特開2004−155672号公報
【特許文献11】特開平6−92801号公報
【特許文献12】特許第3705857号公報
【特許文献13】特開平4−208204号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は以上のような従来の欠点に鑑み、懸濁安定性および散布時における除草活性成分の水中拡散性が優れ、稲体に対して薬害のない湛水下水田の直接散布用水性懸濁製剤を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、上記課題を解決すべく鋭意検討した。その結果、平均粒子径が1〜10μmである湿式法シリカの焼成品が優れた水中拡散作用を示すこと、及び界面活性剤として、ポリオキシアルキレンヒマシ油またはポリオキシアルキレン硬化ヒマシ油を用いると、特に優れた水中拡散効果を奏すること、並びに平均粒子径が1〜10μmである湿式法シリカの焼成品の含有量は0.1〜10重量%であることが好ましいことを見出し、本発明を完成した。すなわち、本発明は以下の内容をその要旨とするものである。
(1)20℃における水溶解度が100ppm以下である除草活性成分、平均粒子径が1〜10μmである湿式法シリカの焼成品、界面活性剤及び水を含有することを特徴とする湛水下水田の直接散布用水性懸濁製剤。
(2)界面活性剤として、ポリオキシアルキレンヒマシ油またはポリオキシアルキレン硬化ヒマシ油を含むことを特徴とする(1)に記載の湛水下水田の直接散布用水性懸濁製剤。
(3)平均粒子径が1〜10μmである湿式法シリカの焼成品の含有量が製剤中に0.1〜10重量%であることを特徴とする、(1)または(2)に記載の湛水下水田の直接散布用水性懸濁製剤。
【発明の効果】
【0008】
本発明の水性懸濁製剤は、優れた懸濁安定性および水中拡散性を有するため、水稲に薬害が発生したり、除草効果が変動するという欠点がない。また、除草活性成分の拡散が十分であるため、畦畔から散布しても水田の中央部で除草効果の低下がみられず、大型水田でも畦畔から滴下するのみで水田内に入って散布する必要もなく、散布作業労力が軽減され、経済効率の点でも優れる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
以下に、本発明の湛水下水田の直接散布用水性懸濁製剤についてより詳細に説明する。
<除草活性成分について>
本発明において使用しうる除草活性成分とは、20℃の水に対する溶解度が100ppm以下の除草活性成分であればよく、1種または2種以上を併用しても何ら問題はない。
このような除草活性成分として、例えば、MCPAエチル、MCPAチオエチル、MCPBエチル、クロメプロップ、シハロホップブチル、ベンチオカーブ、エスプロカルブ、ピリブチカルブ、DCPA、プレチラクロール、ブタクロール、テニルクロール、ブロモブチド、エトベンザニド、メフェナセット、カフェンストロール、アニロホス、DCMU、ダイムロン、クミルロン、ベンスルフロンメチル、ピラゾスルフロンエチル、アジムスルフロン、シノスルフロン、シクロスルファムロン、ピリミノバックメチル、ジメタメトリン、ピラゾレート、ピラゾキシフェン、ベンゾフェナップ、オキサジアゾン、フェントラザミド、ACN、ブタミホス、インダノファン、シンメチリン、ペントキサゾン、オキサジクロメホン、ベンゾビシクロン、ピリフタリド、ジチオピルなどが挙げられる。
なお、これらの化合物名は「農薬ハンドブック2005年版」(社団法人・日本植物防疫協会発行)、「クミアイ農薬総覧2007年版」(JA全農発行)などに記載の一般名等である。
これらの、除草活性成分の製剤中の含有量は除草活性成分の種類によって任意に変えることができるが、製剤中に0.1〜60重量%の範囲で添加すればよい。
<シリカについて>
【0010】
一般式SiO・nHOで表されるシリカには、石英のように一定の結晶構造を有し天然に存在する結晶性シリカと、一定の結晶構造を持たない非晶質シリカがある。非晶質シリカは、製法上、乾式法(気相法)のものと湿式法(液相法)のものとに大別される。乾式法シリカとは、ハロゲン化ケイ素を高温の酸素−水素炎中で熱分解して得られる二酸化ケイ素である。湿式法シリカとは、液相のケイ酸ナトリウムとアルカリ領域で反応させることにより得られる二酸化ケイ素、あるいは、ケイ酸ナトリウムなどのアルカリ金属ケイ酸塩水溶液と硫酸、塩酸等の鉱酸とを反応させて得られる二酸化ケイ素である。
本発明に使用できる湿式法シリカの焼成品は、該湿式法で得られるシリカをさらに700〜900℃で焼成することにより得られる二酸化ケイ素であり、その中でも、細孔電気抵抗法で測定した一次粒子の平均粒子径が1〜10μmであることが必須要件である。平均粒子径が1μm未満となると除草活性成分の水中拡散性が悪くなり、一方平均粒子径が10μmより大きいものでは、さほど水中拡散性の向上がないのに加え、懸濁安定性が悪くなる傾向にある。
この条件を満たすものとして、例えばデグサジャパン社製の商品名、「カープレックスCS−5」(平均粒子径2.3μm)、「カープレックスCS−7」(平均粒子径3.0μm)、「カープレックスCS−801」(平均粒子径4.8μm)などが挙げられるが、これらに限定されるものではない。
シリカの製剤中の含有量は、好ましくは0.05〜12重量%、さらに好ましくは0.1〜10重量%である。0.05%未満では、懸濁安定性および水中拡散性の効果が悪くなり、また12重量%より多くなると、薬剤の水中拡散性はそれ以上向上せず、コスト高となる。
【0011】
<界面活性剤について>
本発明に使用できる界面活性剤としては、非イオン界面活性剤、陰イオン界面活性剤、陽イオン界面活性剤および両性界面活性剤などが挙げられ、これらの界面活性剤を1種または2種以上併用してもかまわない。
非イオン界面活性剤の例としては、ポリオキシアルキレンアルキルエーテル、ポリオキシアルキレンアルキルアリールエーテル、ポリオキシアルキレンスチリルフェニルエーテル、ポリオキシアルキレンヒマシ油、ポリオキシアルキレン硬化ヒマシ油、ポリオキシアルキレンアルキルエステル、ポリオキシアルキレンソルビタンアルキレート、ポリオキシアルキレンフェニルエーテルポリマー、ポリオキシアルキレンアルキレンアリールフェニルエーテル、ポリオキシアルキレンアルキレングリコール、ポリオキシアルキレンポリオキシプロピレンブロックポリマー、フッ素系界面活性剤(パーフルオロアルキルカルボン酸など)、シリコーン系界面活性剤(ポリオキシアルキレンジメチルポリシロキサンコポリマーなど)、アセチレングリコール系界面活性剤(2,4,7,9,−テトラメチル−デシン−4,7−ジオールなど)などが挙げられるが、これらの例示のみに限定されるものではない。
【0012】
陰イオン界面活性剤の例としては、ポリカルボン酸型界面活性剤、リグニンスルホン酸塩、アルキルアリールスルホン酸塩、ジアルキルスルホサクシネート、ポリオキシエチレンアルキルアリールエーテルサルフェート、アルキルナフタレンスルホン酸塩、ポリオキシエチレンスチリルフェニルエーテルサルフエート、アルキルベンゼンスルホン酸塩、アルキル硫酸塩などが挙げられるが、これらの例示のみに限定されるものではない。
陽イオン界面活性剤および両性界面活性剤としては、アルキルアミン塩、第四級アンモニウム塩、アルキルベタイン、アミンオキサイドなどが挙げられるが、これらの例示のみに限定されるものではない。
【0013】
これらのなかで好ましいのは、非イオン界面活性剤であるポリオキシアルキレンヒマシ油またはポリオキシアルキレン硬化ヒマシ油を単独で用いるか、あるいはポリオキシアルキレンヒマシ油またはポリオキシアルキレン硬化ヒマシ油を含む2種類以上の界面活性剤を使用した場合である。本発明で使用する好適なポリオキシアルキレンヒマシ油およびポリオキシアルキレン硬化ヒマシ油とは、ヒマシ油または硬化ヒマシ油に酸化エチレンまたは酸化プロピレン等の酸化アルキレンを付加重合して得られる化合物である。この化合物は、酸化エチレンまたは酸化プロピレン等の酸化アルキレンの重合度によりHLBが変化するが、本発明の目的において好ましいのはHLBが9〜15のポリオキシアルキレンヒマシ油またはポリオキシアルキレン硬化ヒマシ油である。
この条件を満たすものとして、例えば花王株式会社製の商品名、「エマノーンCH−20」(HLB10.7)、「エマノーンCH−40」(HLB12.5)、「エマノーンCH−80」(HLB15)、東邦化学株式会社製の商品名、「ソルポールCA−30」(HLB11.7)、「ソルポールCA−42」(HLB13.3)、「ソルポールCA−50」(HLB14.1)、竹本油脂株式会社製の商品名、「ニューカルゲンD−243」(HLB13.4)、「ニューカルゲンD−225K」(HLB10.8)、「ニューカルゲンD−243K」(HLB13.4)などが挙げられるが、これらに限定されるものではない。
【0014】
また、ポリオキシアルキレンヒマシ油またはポリオキシアルキレン硬化ヒマシ油を含む2種類以上の界面活性剤を組み合わせて使用する場合、他方の界面活性剤としてアルキルベンゼンスルホン酸塩、ジオクチルスルホサクシネート塩、リグニンスルホン酸塩などが使用できるが、アルキルベンゼンスルホン酸塩を配合した場合に更に良好な結果を得ることができる。
本発明で使用する好適なアルキルベンゼンスルホン酸塩とは、C8〜C15のアルキル鎖を持つアルキルベンゼンを濃硫酸、発煙硫酸、SOガスなどの硫黄源を用いてスルホン化して得られる化合物を中和して得られるもので、対イオンとしてナトリウム、カルシウムなどが挙げられる。
この条件を満たすものとして、例えば東邦化学株式会社製の商品名、「ルノックスS−100」、「ソルポール9775」、竹本油脂株式会社製の商品名、「ニューカルゲンA−41B」、「ニューカルゲン9775」、テイカ株式会社製の商品名、「テイカパワーBC2070M」などが挙げられるが、これらに限定されるものではない。
添加量は、効果、経済性より、界面活性剤総量として製剤中に0.1〜20重量%が好ましく、さらに好ましくは製剤中に0.3〜15重量%である。
【0015】
<その他の成分について>
本発明の水性懸濁製剤は、上記した必須成分の他に、増粘剤、消泡剤、凍結防止剤、防腐防黴剤、安定化剤などの補助剤を添加してもよい。
増粘剤としては、一般に使用されるものであればよく、例えば、キサンタンガム、トラガントガム、カゼイン、デキストリン、コロイド性含水ケイ酸アルミニウム、コロイド性含水ケイ酸マグネシウム、コロイド性含水ケイ酸アルミニウムマグネシウム、酸化アルミニウム、カルボキシメチルセルロース(CMC)、ポリビニルアルコール(PVA)などが挙げられるが、これらに限定されるものではなく、これらの1種または2種以上を併用しても何ら問題はない。
消泡剤としては、シリコン系、脂肪酸系物質などを使用することができる。凍結防止剤としてはエチレングリコール、プロピレングリコール、グリセリンなどを使用することができる。防腐防黴剤としては、ソルビン酸カリウム、p−クロロ−メタキシレノール、p−オキシ安息香酸ブチルなどを使用することができる。除草活性成分の安定化剤としては、酸化防止剤、紫外線防止剤、結晶析出防止剤などを添加してもよい。ただし、本発明はここに例示した補助剤に限定されるものではなく、本発明の目的を達成しうる範囲内であれば各種の補助剤を使用することができる。
【0016】
本発明の水性懸濁製剤は、代かき作業時以降の水田が湛水状態であれば水深には関係なく使用することができる。つまり田植え時のような土壌表面にわずかな水層が存在するような状態から、水田全面に水深3〜5cmの水を張った状態まで、土壌表面が乾ききった状態でなければ散布が可能である。さらに灌漑水の入水時においても水口に滴下するなどして使用できる。また田植えと同時に滴下処理するような田植え時の水の少ない条件下であってもよく、処理すれば除草活性成分はある程度拡散し、その後の入水によってさらに均一となり、十分な除草効果を発揮することができる。また、稲の移植前、移植時、移植後のいずれの時期においても散布することができる。さらに湛水直播水田へも適用が可能である。
【0017】
本発明の水性懸濁製剤の散布は、原液をそれ以上の水に希釈することなく用いるか、あるいは少量の水を用いて2〜5倍の高濃度希釈液とし、水田に滴下処理を行えばよく、粒剤のように水田全面に均一散布する必要はない。また散布の方法は原液または高濃度希釈液、例えば500ml容量のプラスチック製容器に入れて手振りするか、または加圧式散布機を用いて噴射または噴霧すればよい。さらにRC(ラジコン)ヘリコプターからの空中散布または滴下も可能である。また、水田の水の取り入れ口(水口)で流入水に滴下処理を行い、流入水と共に水田に流し込んでもよい。
【0018】
本発明の水性懸濁製剤の単位面積当たりの施用量は、特に制限はないが、散布作業労力及び経済効率の面より、原液散布の場合は、10アール当たり0.05リットルから2リットルの範囲であり、好ましくは0.1リットルから1.5リットルの範囲である。また、高濃度希釈液(2倍〜5倍)での散布の場合は、10アール当たり0.1リットルから6リットル、好ましくは0.2リットルから5リットルである。
【実施例】
【0019】
以下、実施例に基づいて本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
なお、以下の実施例、比較例において「部」は、すべて「重量%」の意味である。
また、市販の湿式法シリカ(デグサジャパン社製の商品名「カープレックス#80」および株式会社トクヤマ製の商品名「トクシールU」)を必要によりジェットミルで粉砕したのち、磁性ルツボに入れ電気炉内にて焼成し、さらに必要に応じて分級することで、以下の異なる粒子径の湿式法シリカの焼成品を得て、下記の実施例または比較例に供した。
シリカ1 平均粒子径 0.8μm
シリカ2 平均粒子径 3.6μm
シリカ3 平均粒子径 8.2μm
シリカ4 平均粒子径 13.2μm
【0020】
[実施例1]
水40部にポリオキシエチレン硬化ヒマシ油3部、アルキルベンゼンスルホン酸カルシウム2部を溶解させ、この中にブタクロール原体15部を加え、TKオートホモミキサー(プライミクス株式会社製の商品名)を用い、4000rpmで15分間撹拌して均一な乳化液を得た。
上記乳化液とは別に、水24.3部にポリオキシエチレン硬化ヒマシ油1.2部、アルキルベンゼンスルホン酸カルシウム1部を溶解させ、この中にペントキサゾン原体3部およびプロピレングリコール3部を加え、ダイノミルKDL型(Willy
A Bachofer AG製の商品名)を用いて粉砕液の平均粒子径が2μmになるよう微粉砕した。このとき粉砕液の温度が20℃を超えないように冷却しながら粉砕を行った。
なお、粉砕用メディアとしては、直径0.7〜1.2mmの硬質ガラスビーズを用いた。この粉砕液に上記乳化液60部、シリカ3 1.5部および2%キサンタンガム水溶液6部を加え、スリーワンモータ(HEIDON社製の商品名)を用いて均一に混合して水性懸濁製剤を得た。
【0021】
[実施例2]
水81.3部にポリオキシエチレン硬化ヒマシ油1部、アルキルベンゼンスルホン酸ナトリウム0.7部を溶解させ、この中にピリミノバックメチル原体1部とエチレングリコール3部を加え、4筒式サンドグラインダー(アイメックス株式会社製の商品名)を用いて粉砕液の平均粒子径が3μmになるように微粉砕した。このとき粉砕液の温度が20℃を超えないように冷却しながら粉砕を行った。
なお、粉砕用メディアとしては、直径0.7〜1.2mmの硬質ガラスビーズを用いた。この粉砕液にシリカ2 3部および2%キサンタンガム水溶液10部を加え、スリーワンモータを用いて均一に混合して水性懸濁製剤を得た。
【0022】
[実施例3]
水56部にポリオキシエチレンヒマシ油2部、アルキルベンゼンスルホン酸カルシウム2部を溶解させ、この中にダイムロン原体28部およびプロピレングリコール3部を加え、ダイノミルKDL型を用いて粉砕液の平均粒子径が3μmになるよう微粉砕した。このとき粉砕液の温度が20℃を超えないように冷却しながら粉砕を行った。
なお、粉砕用メディアとしては、直径0.7〜1.2mmの硬質ガラスビーズを用いた。この粉砕液にシリカ2 1部および2%キサンタンガム水溶液8部を加え、スリーワンモータを用いて均一に混合して水性懸濁製剤を得た。
【0023】
[実施例4]
水79部にポリオキシエチレンヒマシ油2部を溶解させ、この中にピリミノバックメチル原体 1部とシリカ2 5部を加え、4筒式サンドグラインダーを用いて粉砕液の平均粒子径が3μmになるように微粉砕した。このとき粉砕液の温度が20℃を超えないように冷却しながら粉砕を行った。
なお、粉砕用メディアとしては、直径0.7〜1.2mmの硬質ガラスビーズを用いた。この粉砕液にプロピレングリコール3部および2%キサンタンガム水溶液10部を加え、スリーワンモータを用いて均一に混合して水性懸濁製剤を得た。
【0024】
[実施例5]
水55部にポリオキシエチレン硬化ヒマシ油3部を溶解させ、この中にダイムロン原体28部とエチレングリコール3部を加え、ダイノミルKDL型を用いて粉砕液の平均粒子径が3μmになるよう微粉砕した。このとき粉砕液の温度が20℃を超えないように冷却しながら粉砕を行った。
なお、粉砕用メディアとしては、直径0.7〜1.2mmの硬質ガラスビーズを用いた。この粉砕液にシリカ3 1部および2%キサンタンガム水溶液10部を加え、スリーワンモータを用いて均一に混合して水性懸濁製剤を得た。
【0025】
[実施例6]
水78.5部にポリオキシエチレンスチリルフェニルエーテル1部、アルキルベンゼンスルホン酸カルシウム0.5部を溶解させ、この中にピリミノバックメチル原体1部を加え、4筒式サンドグラインダーを用いて粉砕液の平均粒子径が3μmになるように微粉砕した。このとき粉砕液の温度が20℃を超えないように冷却しながら粉砕を行った。
なお、粉砕用メディアとしては、直径0.7〜1.2mmの硬質ガラスビーズを用いた。この粉砕液にカープレックスCS−7(デグサジャパン社製の商品名)8部、プロピレングリコール 3部および2%キサンタンガム水溶液8部を加え、スリーワンモータを用いて均一に混合して水性懸濁製剤を得た。
【0026】
[実施例7]
実施例5の製剤組成のうちポリオキシエチレン硬化ヒマシ油3部をポリオキシエチレンスチリルフェニルエーテル3部とし、シリカ3 1部をシリカ2 0.2部とし、2%キサンタンガム水溶液10部を9部とし、水55部を56.8部とした以外は、実施例5に準じて調製し、水性懸濁製剤を得た。
[実施例8]
実施例6の製剤組成のうちポリオキシエチレンスチリルフェニルエーテル1部、アルキルベンゼンスルホン酸カルシウム0.5部をポリオキシエチレンスチリルフェニルエーテルサルフェートアンモニウム2部とし、カープレックスCS−7 8部をカープレックスCS−5(デグサジャパン社製の商品名)1部とし、2%キサンタンガム水溶液8部を9部とし、水78.5部を84部とした以外は、実施例6に準じて調製し、水性懸濁製剤を得た。
【0027】
[実施例9]
水67部にポリオキシエチレンヒマシ油3部、ジオクチルスルホサクシネートナトリウム1部を溶解させ、この中にブタクロール原体15部を加え、TKオートホモミキサーを用い、4000rpmで20分間撹拌して均一な乳化液を得た。
この乳化液にペントキサゾン原体3部、シリカ2 2部およびプロピレングリコール3部を加え、ダイノミルKDL型を用いて粉砕液の平均粒子径が2μmになるよう微粉砕した。このとき粉砕液の温度が20℃を超えないように冷却しながら粉砕を行った。
なお、粉砕用メディアとしては、直径0.7〜1.2mmの硬質ガラスビーズを用いた。この粉砕液に2%キサンタンガム水溶液6部を加え、スリーワンモータを用いて均一に混合して水性懸濁製剤を得た。
【0028】
[実施例10]
実施例3の製剤組成のうち、ポリオキシエチレンヒマシ油2部、アルキルベンゼンスルホン酸カルシウム2部をポリオキシエチレン硬化ヒマシ油2部、リグニンスルホン酸ナトリウム2部とし、シリカ2 1部をシリカ3 1部とした以外は、実施例3に準じて調製し、水性懸濁製剤を得た。
[実施例11]
実施例2の製剤組成のうち、シリカ2 3部を0.05部とし、水81.3部を84.25部とした以外は、実施例2に準じて調製し、水性懸濁製剤を得た。
【0029】
[実施例12]
実施例9の製剤組成のうち、ポリオキシエチレンヒマシ油3部、ジオクチルスルホサクシネートナトリウム1部をポリオキシエチレンアルキルエーテル3部、アルキルベンゼンスルホン酸カルシウム2部とし、シリカ2 2部をシリカ3 0.5部とし、水67部を67.5部とした以外は、実施例9に準じて調製し、水性懸濁製剤を得た。
[実施例13]
実施例6の製剤組成のうちポリオキシエチレンスチリルフェニルエーテル1部、アルキルベンゼンスルホン酸カルシウム0.5部をポリオキシエチレンポリオキシプロピレンブロックポリマー1部とし、カープレックスCS−7 8部をシリカ3 10部とし、2%キサンタンガム水溶液8部を7部とし、水78.5部を78部とした以外は、実施例6に準じて調製し、水性懸濁製剤を得た。
【0030】
[実施例14]
水30部にポリオキシエチレンヒマシ油3部を溶解させ、この中にブタクロール原体 15部を加え、TKオートホモミキサーを用い、3000rpmで20分間撹拌して均一な乳化液を得た。
上記乳化液とは別に、水25部にポリオキシエチレンヒマシ油2部を溶解させ、この中にペントキサゾン原体3部およびプロピレングリコール3部を加え、ダイノミルKDL型を用いて粉砕液の平均粒子径が2μmになるよう微粉砕した。このとき粉砕液の温度が20℃を超えないように冷却しながら粉砕を行った。
なお、粉砕用メディアとしては、直径0.7〜1.2mmの硬質ガラスビーズを用いた。この粉砕液に上記乳化液48部、水7部、シリカ3 5部および2%キサンタンガム水溶液7部を加え、スリーワンモータを用いて均一に混合して水性懸濁製剤を得た。
【0031】
[実施例15]
水30部にポリオキシエチレンヒマシ油3部を溶解させ、この中にブタクロール原体 15部を加え、TKオートホモミキサーを用い、3000rpmで20分間撹拌して均一な乳化液を得た。
上記乳化液とは別に、水25部にポリオキシエチレンヒマシ油2部を溶解させ、この中にペントキサゾン原体3部およびプロピレングリコール3部を加え、ダイノミルKDL型を用いて粉砕液の平均粒子径が2μmになるよう微粉砕した。このとき粉砕液の温度が20℃を超えないように冷却しながら粉砕を行った。
なお、粉砕用メディアとしては、直径0.7〜1.2mmの硬質ガラスビーズを用いた。この粉砕液に上記乳化液48部、水2部、シリカ3 12部および2%キサンタンガム水溶液5部を加え、スリーワンモータを用いて均一に混合して水性懸濁製剤を得た。
【0032】
[比較例1]
実施例2の製剤組成のうち、シリカ2 3部を添加せず、2%キサンタンガム水溶液10部を11部とし、水81.3部を83.3部とした以外は、実施例2に準じて調製し、水性懸濁製剤を得た。
[比較例2]
実施例3の製剤組成のうち、ポリオキシエチレンヒマシ油2部、アルキルベンゼンスルホン酸カルシウム2部をポリオキシエチレン硬化ヒマシ油2部、リグニンスルホン酸ナトリウム2部とし、シリカ2 1部をシリカ1 1部とした以外は、実施例3に準じて調製し、水性懸濁製剤を得た。
[比較例3]
実施例3の製剤組成のうち、ポリオキシエチレンヒマシ油2部、アルキルベンゼンスルホン酸カルシウム2部をポリオキシエチレン硬化ヒマシ油2部、リグニンスルホン酸ナトリウム2部とし、シリカ2 1部をシリカ4 2部とし、水56部を55部とした以外は、実施例3に準じて調製し、水性懸濁製剤を得た。
[比較例4]
実施例1の製剤組成のうち、シリカ3 1.5部をシリカ1 1.5部とした以外は、実施例1に準じて調製し、水性懸濁製剤を得た。
[比較例5]
実施例1の製剤組成のうち、シリカ3 1.5部をシリカ4 1.5部とした以外は、実施例1に準じて調製し、水性懸濁製剤を得た。
【0033】
[比較例6]
実施例2の製剤組成のうち、シリカ2 3部をシリカ1 5部とし、水81.3部を79.3部とした以外は、実施例2に準じて調製し、水性懸濁製剤を得た。
[比較例7]
実施例3の製剤組成のうち、シリカ2 1部をトクシールU(株式会社トクヤマ製の商品名)1部とした以外は、実施例3に準じて調製し、水性懸濁製剤を得た。
[比較例8]
実施例1の製剤組成のうち、シリカ3 1.5部をカープレックス#80(デグサジャパン社製の商品名)1.5部とした以外は、実施例1に準じて調製し、水性懸濁製剤を得た。
[比較例9]
実施例4の製剤組成のうち、シリカ2 5部をカープレックスBS−304N(デグサジャパン社製の商品名) 3部とし、2%キサンタンガム水溶液10部を11部とし、水79部を80部とした以外は、実施例1に準じて調製し、水性懸濁製剤を得た。
[比較例10]
実施例1の製剤組成のうち、シリカ3 1.5部をアエロジル200(日本アエロジル株式会社の商品名)1.5部とした以外は、実施例1に準じて調製し、水性懸濁製剤を得た。
【0034】
次に試験例により、本発明の水性懸濁製剤の有用性を示す。
(試験例1)長期保存安定性試験
実施例に準じて調製した水性懸濁製剤30mlを容量30ml(φ17mm×長さ180mm)の試験管に入れ、密栓をし、20℃または40℃の恒温室に静置する。20℃で3か月、40℃で3か月後の分離状態を試験管中の懸濁層が下層に沈降し、上層に生じた水層(上スキ層)と全層の高さ(cm)を測定し、懸濁安定性を下記式により算出した。その試験結果を表1(実施例)および表2(比較例)に示す。
【0035】
【数1】

【0036】
(試験例2)拡散性試験
1区画の面積が9(3m×3m)の試験区(湛水深5cm)を作り、その中央(A点)に実施例に準じて調製した試料を水面から1mの高さよりピペットで各剤とも50ml/aの処理薬量の面積相当量を直接滴下した。処理3時間後に試験区の中央(A点)および4隅(B〜E点の各地点)についての水深5cm〜水面までの水をおのおの20mlずつ採取し、水中の除草活性成分濃度をHPLCにて分析した。
なお、水の採取は、内径1cm長さ8cmのガラス管を用い、田面水へガラス管を深さ5cmまで静かに入れ、ガラス管上部にゴム栓をし、静かに引き抜き、田面水約4mlを採取し、この操作を同一地点で5回繰り返して、1地点あたり合計20mlの水を採取する方法を用いた。そして、拡散性は、次式により除草活性成分が試験区内の水中に均一に拡散した場合の理論水中濃度に対する割合で示した。その試験結果を表1(実施例)、表2(比較例)に示す。
【0037】
【数2】

【0038】
【表1】

【0039】
【表2】

【0040】
表1および表2に示された試験結果から、実施例1〜15と比較例1〜10について製剤の懸濁安定性および水中拡散性を比較すると、その差は顕著である。
本発明の平均粒子径が1〜10μmである湿式法シリカの焼成品の含有量が製剤中に0.1〜10重量%である実施例1〜10、12〜14ではいずれも高い懸濁安定性、水中拡散性を示した。特に界面活性剤としてポリオキシアルキレンヒマシ油またはポリオキシアルキレン硬化ヒマシ油を用いた実施例1〜5、9、10、14でより高い懸濁安定性、水中拡散性を示し、なかでも界面活性剤としてポリオキシアルキレンヒマシ油またはポリオキシアルキレン硬化ヒマシ油とアルキルベンゼンスルホン酸塩を組合わせて用いた実施例1〜3は更に高い効果を示した。
実施例11では本発明の湿式法シリカの焼成品を使用しているが、その添加量が0.05重量%と少ないため、懸濁安定性および水中拡散性は実施例1〜10、12〜14と比較して若干劣る結果となった。また、実施例14と実施例15を比較してわかるとおり、シリカの添加量を10部より増やしても更に懸濁安定性、水中拡散性が高まることはない。よって本発明のシリカの製剤中の含有量は、0.1〜10重量%がより好ましい。
比較例1〜10ではいずれも実施例1〜13に比べ懸濁安定性または/及び水中拡散性が劣っている。
シリカを使用していない比較例1では懸濁安定性、水中拡散性ともに実施例よりも劣る結果を示した。平均粒子径が10μmより大きいシリカ4を使用した比較例3、5では懸濁安定性が実施例よりも劣る結果を示した。平均粒子径が1μmより小さいシリカ1及び非焼成品、乾式法シリカを使用した比較例2、4、6〜10では懸濁安定性は比較的良好な結果を示したが、水中拡散性は実施例よりも劣る結果となった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
20℃における水溶解度が100ppm以下である除草活性成分、平均粒子径が1〜10μmである湿式法シリカの焼成品、界面活性剤及び水を含有することを特徴とする湛水下水田の直接散布用水性懸濁製剤。
【請求項2】
界面活性剤として、ポリオキシアルキレンヒマシ油またはポリオキシアルキレン硬化ヒマシ油を含むことを特徴とする請求項1に記載の湛水下水田の直接散布用水性懸濁製剤。
【請求項3】
平均粒子径が1〜10μmである湿式法シリカの焼成品の含有量が製剤中に0.1〜10重量%であることを特徴とする、請求項1または請求項2に記載の湛水下水田の直接散布用水性懸濁製剤。


【公開番号】特開2009−298747(P2009−298747A)
【公開日】平成21年12月24日(2009.12.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−157343(P2008−157343)
【出願日】平成20年6月17日(2008.6.17)
【出願人】(000242002)北興化学工業株式会社 (182)
【Fターム(参考)】