説明

湿り空気を用いた殺菌方法

【課題】 それ自体では移動手段を持たない湿り空気に対し、ファン等を用いることなく湿り空気を移動させることができ、殺菌対象物を効率よく殺菌することができる湿り空気を用いた殺菌方法を提供する。
【解決手段】 可燃性ガスを点火装置で点火して爆発又は燃焼させ、燃焼ガスを形成する燃焼ガス形成工程と、当該燃焼ガスを放出口から殺菌対象物に向けて放出させる放出工程と、当該放出した燃焼ガスに加水して湿り空気を形成する加水工程と、当該湿り空気により上記殺菌対象物を殺菌する殺菌工程とを有する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、細菌を死滅させるために、気体中の水分の熱を利用した湿り空気の殺菌方法に関する。
【背景技術】
【0002】
湿り空気は、微生物の殺菌に特に有効である。湿り空気はその雰囲気中にある殺菌対象物を殺菌するものである。殺菌は、殺菌対象に付着した水分の加熱エネルギーを供給するものである。湿り空気自体は移動手段を持たない。このため、移動させる場合は、一般的にはファン等を用いる。
【0003】
和菓子の殺菌方法及びその装置が特許文献1に記載されている。この殺菌方法は、熱風に湿り空気を含ませて和菓子を加熱して、殺菌するものである。しかし、この特許文献1に記載の殺菌方法は、上述したように、湿り空気の流れを形成するためにファンを用いている。ファンを用いることは、装置が大型化し、そのためのスペースが必要となり、ファンを作動させる動力も必要となる。また、ファンの風力により、100℃以上の高温が保持されない可能性がある。
【0004】
このような弊害を防止するためには、湿り空気の雰囲気中に殺菌対象物を配置すればよいが、殺菌対象物が土壌である場合、すなわち、下側に位置する場合は、湿り空気の雰囲気中に配置させることはできない。
【0005】
【特許文献1】特公平5-65133号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
この発明は上記従来技術を考慮したものであって、それ自体では移動手段を持たない湿り空気に対し、ファン等を用いることなく湿り空気を移動させることができ、殺菌対象物を効率よく殺菌することができる湿り空気を用いた殺菌方法の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
前記目的を達成するため、請求項1の発明では、可燃性ガスを点火装置で点火して爆発又は燃焼させ、燃焼ガスを形成する燃焼ガス形成工程と、当該燃焼ガスを放出口から殺菌対象物に向けて放出させる放出工程と、当該放出した燃焼ガスに加水して湿り空気を形成する加水工程と、当該湿り空気により上記殺菌対象物を殺菌する殺菌工程とを有する湿り空気を用いた殺菌方法を提供する。
【0008】
請求項2の発明では、請求項1の発明において、上記加水工程は、予め前記殺菌対象物に水を散水し、当該殺菌対象物に対し、上記放出した燃焼ガスを放出して行うことを特徴としている。
【0009】
さらに、請求項3の発明では、請求項1又は2の発明において、上記殺菌対象物の上記燃焼ガスが放出される位置以外は、不燃性部材で覆われることを特徴としている。
【発明の効果】
【0010】
請求項1の発明によれば、可燃性ガスを点火装置で爆発又は燃焼させて燃焼ガスとして、放出孔から放出させ、放出ガスを加水して湿り空気を形成するため、可燃性ガスの爆発による圧力をそのまま湿り空気の移動手段とすることができる。したがって、ファン等の動力手段を用いずに湿り空気を移動させることができるので、装置が小型化し、そのためのスペースが不要となり、ファンを作動させる動力も不要となる。また、湿り空気の雰囲気中に殺菌対象物を搬送することができない場合、例えば土壌の殺菌を行う場合に、地面側に向けて湿り空気を移動させて殺菌できる。なお、気体の水分子の移動は高速広範囲に及ぶため、十分な分圧となるようにすれば十分効果が得られる。
【0011】
請求項2の発明によれば、予め殺菌対象物に対して散水しておくことにより、この水が燃焼ガスにより湿り空気として形成される。したがって、加水装置を用いずに湿り空気を形成することができ、構造が簡単となり、部品点数が減少する。
【0012】
請求項3の発明によれば、殺菌対象物は、不燃性繊維等の不燃性部材で覆われるため、湿り空気を効率よく不燃性部材で覆われた空間内に充填することができ、殺菌効率が向上する。また、不燃性であるため、燃焼ガスにより部材自体が燃えることはない。この殺菌は、水分子がエネルギーを放射しながら高速で移動し、長波長の特性を生かし、対象の温度を上昇させて行われる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
この発明は、可燃性ガスを点火装置で点火して爆発又は燃焼させ、燃焼ガスを形成する燃焼ガス形成工程と、当該燃焼ガスを放出口から殺菌対象物に向けて放出させる放出工程と、当該放出した燃焼ガスに加水して湿り空気を形成する加水工程と、当該湿り空気により上記殺菌対象物を殺菌する殺菌工程とを有する湿り空気を用いた殺菌方法である。
【0014】
図1はこの発明に係る湿り空気を用いた殺菌方法のフローチャート図である。
ステップS1:
可燃性ガスをガス吸入口より燃焼室内に吸入する。可燃性ガスとしては、エチルアルコール等のアルコール類やプロパン等の液体燃料や天然ガス等を用いる。
ステップS2:
燃焼室内の可燃性ガスを点火して爆発又は燃焼させ、燃焼ガスを形成する。
【0015】
ステップS3:
燃焼ガスをステップS2の爆発又は燃焼による圧力で、放出口より放出させる。この放出は燃焼ガスに移動エネルギーを与えるものである。このような移動エネルギーを要しない条件設定による場合には、ステップS3の工程を省略することもできる。
【0016】
ステップS4:
燃焼ガスを加水する。このとき、加水された水分は燃焼ガスにより過熱水蒸気化し、高温の湿り空気となる。
ステップS5:
高温の湿り空気を、ステップS2の爆発による圧力で殺菌対象物まで移動させて殺菌する。
【実施例1】
【0017】
図2はこの発明に係る湿り空気を用いた殺菌方法に用いる殺菌装置の概略構成図である。
殺菌装置1は、燃焼部2と加水部3で構成される。燃焼部2は燃焼室4、ガス吸入口5、放出口6、点火プラグ7で構成される。加水部3は、給水シャワー8からなる。ガス吸入口5からは、可燃性ガスが吸入される(矢印A)。このとき、可燃性ガスの燃焼に必要なための空気もここから吸入される。
【0018】
燃焼室4内には点火プラグ7が配設され、燃焼室4に充満した可燃性ガスを点火して爆発させる。可燃性ガスは爆発して燃焼ガスとなり、爆発の圧力により放出口6から放出して矢印B方向に移動する。このとき、給水シャワー8により燃焼ガスは加水される。このとき加水された水は燃焼ガスにより湿り空気となる。この湿り空気は、上述した爆発の圧力によりさらに移動して、殺菌対象物(図示省略)に向かって移動し、殺菌対象物を殺菌する。なお、図では放出口6を1個設けた例を示したが、放出口6を複数個設けて湿り空気の移動方向を増やしてもよい。これにより、殺菌対象の範囲を拡大できる。
【0019】
上述したように、この発明は湿り空気が爆発による圧力により移動することを特徴とする。したがって、ファン等の動力手段を用いずに湿り空気を移動させることができるので、装置が小型化し、そのためのスペースが不要となり、ファンを作動させる動力も不要となる。この圧力を効率よく得るために、燃焼室を自動車のエンジン等に用いるシリンダで構成し、ピストンによる圧力を利用して燃焼ガスを放出させてもよい。
【実施例2】
【0020】
図3はこの発明に係る湿り空気を用いた殺菌方法に用いる別の殺菌装置の概略構成図である。
この例は、土壌を殺菌する場合に特に好適な例を示す。殺菌対象物である土壌9の下側には、可燃性ガスが矢印C方向に流通する配管10が配設される。配管10には、複数(図では2個)の燃焼室4が形成される。可燃性ガスは、配管10内からガス吸入口5を通って各燃焼室4内に流入する。燃焼室4に流入した可燃性ガスは、点火プラグ7により爆発され、燃焼する。このとき、可燃性ガスは燃焼ガスとなり、爆発の圧力で土壌9の方向に移動する。なお、点火プラグ7の爆発のために配管10内に可燃性ガスとともに空気を流通させてもよいし、土壌9に含まれる空気を利用して燃焼させてもよい。
【0021】
土壌9には予め水が散水される。このため、土壌9には微量の水分が付着している。爆発した燃焼ガスは、土壌9の内部を移動する。このときに、土壌9に付着した水分を湿り空気とする。燃焼ガスにより形成された湿り空気は、爆発の圧力により土壌9内の微生物等を殺菌しながら移動する。これにより、加水装置を用いずに湿り空気を形成でき、効率よく確実に土壌の殺菌を行うことができる。この殺菌の効果を高めるために、土壌の上側に不燃性繊維等のカバー材(不燃性部材)11を載置することが好ましい。これにより、土壌9はカバー材11で覆われ、湿り空気を保持することができ、また湿り空気が効率よく土壌内に充填され、殺菌効果を高めることができる。また、カバー材11は不燃性であるため、湿り空気が高温である場合でも、燃焼ガスにより燃えることはない。
【0022】
上述したように、爆発した燃焼ガス中の水分エネルギーは土壌9の内部に伝播していく。土壌9に含まれる水分を介して微生物本体又は周囲の温度を上昇させる。本発明は、殺菌対象への熱エネルギーの付与について、その強度(温度)によるのみならず、湿り空気の量と時間という簡便な制御手法をとることができ、経済的で環境への配慮が基本的に備わっているものである。
【0023】
上述した例では点火プラグを用いた爆発によって燃焼ガスに移動エネルギーを与えたが、本発明は移動エネルギーを要しない場合にも適用できる。そのためには、可燃性ガスに対し、点火プラグを用いて爆発させる必要はなく、燃焼させればよい。
【0024】
本発明の湿り空気による殺菌の概念は、従来から知られているような単なる湿り空気の殺菌作用ではなく、湿り空気が長波長の特性を有し、高温でなくとも、長時間をかければ殺菌作用があるということに着目したものである。
【0025】
すなわち、熱が微生物の殺滅に有効なことはよく知られている。従来はこれを湿り空気で殺菌するという概念にとどまるものである。湿り空気自体は、移動エネルギーを持たないため、周囲の環境条件の影響を受けやすく、安全簡便ではあるが、使いにくさがある。しかし、本発明が示すように、湿り空気に連続的に加熱エネルギーを供給することにより、湿り空気の量と、殺菌時間の要素によって殺菌作用を制御できるものである。
【0026】
この発明は、湿り空気が低温でも、長時間殺菌対象物に供給することにより死滅させることができることに着目してなされたものである。殺菌に時間の要素を加味したということで、湿り空気への加熱エネルギーの供給は積分エネルギーともいえる。
【産業上の利用可能性】
【0027】
この発明は湿り空気を用いた殺菌に適用できる。
【図面の簡単な説明】
【0028】
【図1】この発明に係る湿り空気を用いた殺菌方法のフローチャート図である。
【図2】この発明に係る湿り空気を用いた殺菌方法に用いる殺菌装置の概略構成図である。
【図3】この発明に係る湿り空気を用いた殺菌方法に用いる別の殺菌装置の概略構成図である。
【符号の説明】
【0029】
1:殺菌装置、2:燃焼部、3:加水部、4:燃焼室、5:ガス吸入口、6:放出口、7:点火プラグ、8:給水シャワー、9:土壌、10:配管、11:カバー材


【特許請求の範囲】
【請求項1】
可燃性ガスを点火装置で点火して爆発又は燃焼させ、燃焼ガスを形成する燃焼ガス形成工程と、
当該燃焼ガスを放出口から殺菌対象物に向けて放出させる放出工程と、
当該放出した燃焼ガスに加水して湿り空気を形成する加水工程と、
当該湿り空気により上記殺菌対象物を殺菌する殺菌工程とを有する湿り空気を用いた殺菌方法。
【請求項2】
上記加水工程は、予め前記殺菌対象物に水を散水し、当該殺菌対象物に対し、上記放出した燃焼ガスを放出して行うことを特徴とする請求項1に記載の湿り空気を用いた殺菌方法。
【請求項3】
上記殺菌対象物は、不燃性部材で覆われることを特徴とする請求項1又は2に記載の湿り空気を用いた殺菌方法。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2008−11902(P2008−11902A)
【公開日】平成20年1月24日(2008.1.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−183177(P2006−183177)
【出願日】平成18年7月3日(2006.7.3)
【出願人】(505430838)有限会社創造舎 (8)
【出願人】(506120253)株式会社環境セラステクノ (8)
【Fターム(参考)】