説明

湿式吹付け施工方法、及びこれに用いる不定形耐火物

【課題】 被施工面からのリバウンドロスを抑えることができる湿式吹付け施工技術を提供する。
【解決手段】 本発明の湿式吹付け施工方法は、耐火性粉体とアルミナセメントとを含む粉体組成物に施工水を加えて混練してなる坏土を、配管3を通じてノズル4に向けて圧送し、ノズル4内及び/又は配管3内で坏土に急結剤を加える湿式吹付け施工方法において、急結剤に、カルシウム塩及びアルミン酸塩をカルシウム塩/アルミン酸塩の質量比が2/100〜10/100となる条件で配合した粉体を用いたことを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、不定形耐火物の湿式吹付け施工方法に関する。
【背景技術】
【0002】
図1に、従来から知られている湿式吹付け施工装置の概略図を示す。まず、ミキサー1にて、耐火性粉体とアルミナセメントとを含む粉体組成物に施工水を加えて混練し、泥しょう状の坏土をつくる。ポンプ2が、その坏土を、配管3を通じてノズル4に向けて圧送する。急結剤供給装置5が、ノズル4内で坏土に急結剤を加える。なお、急結剤をノズル手前の配管3で加える場合もある。
【0003】
坏土と急結剤とよりなる不定形耐火物がノズル4から噴出し、被施工面6に到達する。急結剤が、坏土の流動性を急速に低下させるため、被施工面6からの不定形耐火物のだれ落ちが防止される。これにより、被施工面6に不定形耐火物の施工体7が形成される。
【0004】
特許文献1〜3は、上記急結剤の具体例として、アルミン酸ナトリウム等のアルミン酸塩、炭酸ナトリウム等の炭酸塩、硫酸ナトリウム等の硫酸塩、カルシウムアルミネート、酸化カルシウム、水酸化カルシウムを挙げている。特許文献1〜3は、これらの中でも、入手が容易であって安価であり、かつその硬化作用が優れていることから、アルミン酸ナトリウムが特に好ましいと説明している。
【0005】
特許文献1〜3はまた、急結剤は粉体としての使用が好ましいと説明している。粉体としての急結剤の使用は、水溶液としての急結剤の使用に比べて、不定形耐火物中の水分量を必要最小限にとどめて施工体の見掛け気孔率を小さくすることに貢献する。
【特許文献1】特開平9−25175号公報
【特許文献2】特開平9−157046号公報
【特許文献3】特開平10−38473号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
アルミン酸塩は、pHが高く、坏土に対する硬化作用が強い。このため、急結剤にアルミン酸塩を用いた場合、坏土の硬化が過剰に早く起こりやすい。坏土の硬化が過剰に早く起こると、その坏土に対して次の坏土を吹付けた場合、リバウンドが起こりやすくなる。この結果、被施工面からのリバウンドロスが多くなる。このような問題は、アルミン酸塩の使用量の調整によっては、容易に解決できるものではなかった。
【0007】
本発明の目的は、被施工面からのリバウンドロスを抑えることができる湿式吹付け施工技術を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の一観点によれば、耐火性粉体とアルミナセメントとを含む粉体組成物に施工水を加えて混練してなる坏土を、配管を通じてノズルに向けて圧送し、ノズル内及び/又は配管内で坏土に急結剤を加える湿式吹付け施工方法において、急結剤に、カルシウム塩及びアルミン酸塩をカルシウム塩/アルミン酸塩の質量比が2/100〜10/100となる条件で配合した粉体を用いたことを特徴とする湿式吹付け施工方法が提供される。
【0009】
本発明の他の観点によれば、耐火性粉体とアルミナセメントとを含む粉体組成物に施工水を加えて混練してなる坏土、及び急結剤よりなる湿式吹付け施工用不定形耐火物において、急結剤に、カルシウム塩及びアルミン酸塩をカルシウム塩/アルミン酸塩の質量比が2/100〜10/100となる条件で配合した粉体を用いたことを特徴とする湿式吹付け施工用不定形耐火物も提供される。
【発明の効果】
【0010】
カルシウム塩は、アルミン酸塩よりも施工水に対する溶解度が大きい。このため、まずカルシウム塩の硬化作用が働く。カルシウム塩が溶解している間は、アルミン酸塩の硬化作用の発現が抑えられる。カルシウム塩の硬化作用は、アルミン酸塩程は強くなく、坏土はカルシウム塩によって適度に硬化される。坏土が硬くなりすぎないため、リバウンドロスを抑えることができる。
【0011】
坏土とその坏土に対して吹付けられた坏土とがよく馴染んだ段階で、アルミン酸塩の硬化作用が発現し、施工体の保形性が確保される。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
以下、実施形態に沿って本発明を具体的に説明する。
【0013】
まず、坏土の構成について説明する。坏土は、耐火性粉体、アルミナセメント、及び添加剤よりなる粉体組成物に、施工水を加えて混練してなる。
【0014】
耐火性粉体としては、例えば、電融アルミナ、焼結アルミナ、ボーキサイト、及び仮焼アルミナといったアルミナ質原料、ピッチ、黒鉛、コークス、及びカーボンブラックといった炭素質原料、珪石やシリカフラワーといったシリカ質原料、電融マグネシアや海水マグネシアクリンカーといったマグネシア質原料、粘土、シャモット、ムライト、カオリン族鉱物、蝋石、及びシリマナイト族鉱物といったアルミナ‐シリカ質原料、炭化珪素質原料、スピネル、ばん土けつ岩、ジルコニア質原料、ジルコン、及び耐火物廃材の粉砕物から選択される一種以上を用いることができる。
【0015】
アルミナセメントとしては、CaO含有量が少ないもの、具体的には、CaO含有量が30質量%未満のものが好ましい。アルミナセメントの配合量は、耐火性粉体100質量%に対する外掛けで、1〜10質量%であることが好ましい。
【0016】
添加剤としては、分散剤が用いられる。分散剤としては、例えば、トリポリリン酸ナトリウム、テトラポリリン酸ナトリウム、ヘキサメタリン酸ナトリウムといった縮合リン酸塩、ポリカルボン酸塩、ポリアクリル酸塩といったカルボン酸塩、メラミンスルホン酸塩、及びβ−ナフタレンスルホン酸塩といったスルホン酸塩から選択される一種以上を用いることができる。分散剤の配合量は、耐火性粉体100質量%に対する外掛けで0.03〜1.5質量%であることが好ましい。
【0017】
この他、添加剤として、爆裂防止剤や硬化時間調整剤等を併用してもよい。爆裂防止剤としては、例えば、ポリプロピレン繊維及びポリエチレン繊維といった有機繊維やAl粉といった金属粉が挙げられる。硬化時間調整剤としては、例えば、ホウ酸、クエン酸、リンゴ酸、シュウ酸、炭酸ナトリウム、及び砂糖等が挙げられる。
【0018】
施工水の添加量は、耐火性粉体100質量%に対する外掛けで、4〜12質量%であることが好ましい。
【0019】
次に、上記坏土に加える急結剤の構成について説明する。急結剤は、カルシウム塩及びアルミン酸塩の混合粉体よりなる。
【0020】
カルシウム塩としては、例えば、塩化カルシウム、水酸化カルシウム、酸化カルシウム、及びカルシウムアルミネート類等が挙げられる。カルシウム塩は、アルミン酸塩よりも施工水に対する溶解度が大きく、硬化作用の即効性に優れる。中でも、硬化作用の即効性に特に優れているという理由から、塩化カルシウムが好ましい。
【0021】
アルミン酸塩としては、例えば、アルミン酸ナトリウムやアルミン酸カリウム等が挙げられる。中でも、硬化作用に特に優れているという理由から、アルミン酸ナトリウムが好ましい。
【0022】
本願発明者の研究によると、このように急結剤にカルシウム塩及びアルミン酸塩の混合粉体を用いた場合、リバウンドロスを抑制できることが判った。このメカニズムは次の通りと推定される。
【0023】
即ち、カルシウム塩は、アルミン酸塩よりも施工水に対する溶解度が大きい。このため、まずカルシウム塩の硬化作用が働く。カルシウム塩が溶解している間は、アルミン酸塩の硬化作用の発現が抑えられる。カルシウム塩の硬化作用は、アルミン酸塩程は強くなく、坏土はカルシウム塩によって適度に硬化される。坏土が硬くなりすぎないため、リバウンドロスを抑えることができる。
【0024】
坏土とその坏土に対して吹付けられた坏土とがよく馴染んだ段階で、アルミン酸塩の硬化作用が発現し、施工体の保形性が確保される。なお、上記作用効果はアルミン酸塩とカルシウム塩との溶解度の相違を利用しているため、急結剤に粉体を用いた場合の特有の作用効果であり、急結剤に水溶液を用いた場合には、上記作用効果を得ることができない。
【0025】
但し、粉末急結剤中のカルシウム塩/アルミン酸塩の質量比は、2/100〜10/100であることが必要である。
【0026】
カルシウム塩/アルミン酸塩の質量比が2/100未満であると、カルシウム塩の割合が少なすぎ、アルミン酸塩による硬化の発現を遅らせることができないため、リバウンドロスを抑えることができない。
【0027】
カルシウム塩/アルミン酸塩の質量比が10/100を超えると、アルミン酸塩の割合が少なすぎて、施工体の保形性が確保されないため、被施工面からのだれ落ちや施工体の剥離が起こりやすくなる。
【0028】
急結剤の添加量は、耐火性粉体100質量%に対する外掛けで、0.5〜2質量%であることが好ましく、0.8〜1.2質量%であることがより好ましい。なお、粉末の急結剤は、図1の急結剤供給装置5によって圧縮空気によって搬送され、圧縮空気と共に坏土に注入される。
【0029】
上記作用硬化をより確実なものとするためには、急結剤の粒径は、1mm未満であることが好ましい。
【実施例】
【0030】
表1に示す構成の坏土を、図1の湿式吹付け施工装置を用いて、被施工面に吹付けた。この場合において、坏土に加える急結剤の構成を様々に変更した。
【0031】
【表1】

【0032】
表2に、表1の坏土に加えた急結剤の構成と、被施工面からのリバウンド率とを示す。なお、急結剤の構成以外の吹付け条件は、いずれの例も同じとした。急結剤の添加量は、いずれの例も表1の耐火性粉体100質量%に対する外掛けで0.8質量%とした。また、急結剤は、いずれの例も粒径1mm未満で、かつ粒径0.5mm以上が50質量%以上を占めるように粒度調整したものを用いた。
【0033】
リバウンド率は、被施工面に接着した施工体の重量をW、吹付け施工に使用した不定形耐火物の総重量をWとしたとき、(W−W)×100/Wで定義される。リバウンド率は、この値が小さい程、リバウンドロスが少ないことを示す。
【0034】
【表2】

【0035】
実施例a〜iは、本発明の規定を満たしており、いずれも小さなリバウンド率を達成した。中でも、実施例b〜dが特に小さなリバウンド率を達成していることから、急結剤中のカルシウム塩/アルミン酸塩の質量比は3/100〜5/100が特に好ましいと考えられる。
【0036】
比較例a及びbは、急結剤中のカルシウム塩/アルミン酸塩の質量比が本発明規定の下限値を下回る。即ち、カルシウム塩の割合が少なすぎる。このため、アルミン酸塩による硬化の発現を遅らせることができなかったため、リバウンド率が大きい。
【0037】
比較例c及びdは、急結剤中のカルシウム塩/アルミン酸塩の質量比が本発明規定の上限値を上回る。即ち、アルミン酸塩の割合が少なすぎる。このため、施工体の保形性が確保されないため、被施工面からのだれ落ちないし施工体の剥離が起こったため、リバウンド率が大きい。
【0038】
以上、本発明の具体例について説明したが、本発明はこれに限られない。この他、種々の組み合わせ及び改良が可能なことは当業者に自明であろう。
【産業上の利用可能性】
【0039】
本発明の湿式吹付け施工方法は、例えば、高炉樋、混銑車、転炉、溶鋼鍋、溶銑鍋、タンディッシュ、均熱炉、加熱炉、焼却炉、廃棄物溶融炉、セメントプラント炉といった各種工業窯炉の内張りの形成又は補修に利用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0040】
【図1】湿式吹付け施工装置の概略図である。
【符号の説明】
【0041】
1…ミキサー、2…ポンプ、3…配管、4…ノズル、5…急結剤供給装置、6…被施工面、7…施工体。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
耐火性粉体とアルミナセメントとを含む粉体組成物に施工水を加えて混練してなる坏土を、配管を通じてノズルに向けて圧送し、ノズル内及び/又は配管内で前記坏土に急結剤を加える湿式吹付け施工方法において、前記急結剤に、カルシウム塩及びアルミン酸塩をカルシウム塩/アルミン酸塩の質量比が2/100〜10/100となる条件で配合した粉体を用いたことを特徴とする湿式吹付け施工方法。
【請求項2】
耐火性粉体とアルミナセメントとを含む粉体組成物に施工水を加えて混練してなる坏土、及び急結剤よりなる湿式吹付け施工用不定形耐火物において、前記急結剤に、カルシウム塩及びアルミン酸塩をカルシウム塩/アルミン酸塩の質量比が2/100〜10/100となる条件で配合した粉体を用いたことを特徴とする湿式吹付け施工用不定形耐火物。

【図1】
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【公開番号】特開2009−242119(P2009−242119A)
【公開日】平成21年10月22日(2009.10.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−87318(P2008−87318)
【出願日】平成20年3月28日(2008.3.28)
【出願人】(000170716)黒崎播磨株式会社 (314)
【Fターム(参考)】