説明

湿式汚染物質除去システム

【課題】浄化水としての純水の消費量を大幅に削減でき、浄化性能をさらに向上させることも可能な有効適切な汚染物質除去システムを提供する。
【解決手段】浄化水を循環水槽5に貯留して噴霧ノズル3によって処理対象空気に対して噴霧することにより汚染物質を浄化水に吸収・溶解せしめて除去する。汚染物質を吸収・溶解した浄化水をドレインとして循環水槽に回収して循環使用する。循環水槽内のドレインを逆浸透膜に通しつつ循環させることによって清浄化する浄化水清浄化装置10を具備する。噴霧ノズルとマット4を多段に設けて各マットからのドレインを循環水槽に回収し、循環水槽を上流部5aと下流部5cに区画してそれらの間に越流堰5dを設け、上流部に回収したドレインを浄化水清浄化装置10によって清浄化して下流部に戻すように循環させる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、クリーンルームを対象としてその室内空気中に含まれる汚染物質を浄化水との気液接触により除去するための湿式汚染物質除去システムに関する。
【背景技術】
【0002】
この種のシステムとしては特許文献1に示される「クリーンルーム汚染物質除去システム」が公知である。これは除去装置内を通過する処理対象空気に対してその上流側や下流側から浄化水としての液体(通常は純水が使用される)を噴霧することにより、処理対象空気と浄化水とを気液接触させて汚染物質を浄化水に吸収し溶解させて除去するものである。
【0003】
この種の浄化システムの基本構成を図4に模式的に示す。
これは処理対象空気としてのクリーンルームからの還気RAを送風機1によって除去装置本体2に供給して、還気RAがその内部を通過する間に浄化水との気液接触により浄化し、浄化後の清浄空気を給気SAとしてクリーンルームに戻すようにしたものである。
【0004】
除去装置本体2の内部には、その内部を通過する還気RAに対して下流側から上流側に向けて浄化水を噴霧するための噴霧ノズル3が多段(図示例では3段)に設けられているとともに、各噴霧ノズル3の上流側にはそれぞれ通気性を有するマット4が配置されていて、それらマット4に対して浄化水を噴霧ノズル3により噴霧してマット4を濡れ面とすることにより、還気RAがマット4を通過する際にそこで気液接触が効率的に行われて汚染物質が十分に除去されるようになっている。この場合、噴霧ノズル3からの細かいつぶ状の水による気液接触により浄化がなされ、特にマット4が濡れ面となることで+αの効果が得られる。
【0005】
除去装置本体2には浄化水を貯留し循環させるための循環水槽5が付設されていて、その循環水槽5からポンプ6によって各噴霧ノズル3に対して浄化水が加圧供給されることにより、浄化水が各マット4に対して噴霧され、かつマット4の表面において汚染物質を吸収し溶解させた浄化水はマット4の表面を流下してドレインとして循環水槽5に回収されるようになっている。
【0006】
図示例の循環水槽5は、3段の噴霧ノズル3のうちの最上流の噴霧ノズル3に対して浄化水を供給しかつそのドレインを回収する上流部5aと、その後段の噴霧ノズル3に対して浄化水を供給しかつそのドレインを回収する中流部5bと、さらにその後段の噴霧ノズル3に対して浄化水を供給しかつそのドレインを回収する下流部5cとに区画されていて、それらの間には浄化水を下流部5cから中流部5bへ、さらに中流部5bから上流部5aに越流させるための越流堰5dがそれぞれ設けられている。
この場合、上流部5aに回収されるドレインは中流部5bおよび下流部5cに回収されるドレインに比べて汚染物質濃度が自ずと高くなるので、高濃度の浄化水を上流部5aから排水するとともに下流部5cに対して浄化水としての純水を補給することにより、循環水槽5内において清浄な浄化水を下流部5cから越流堰5dを超えて中流部5bへ、さらに中流部5bから越流堰5dを超えて上流部5aに向けてほぼ一方向に流れるようにしたうえで、常に清浄な浄化水を各噴霧ノズル3に対して供給するようにしている。
【0007】
なお、除去装置本体2内にはHEPAフィルタ7やエリミネータ8が設けられ、必要に応じて冷却コイルないし冷却加熱コイル等が適宜設けられるようになっている。
また、浄化水を噴霧ノズル3に加圧供給するためのポンプ6の後段にはフィルタ9が設けられ、必要に応じて浄化水を冷却するための熱交換器(図4では図示略)も適宜設けられるようになっている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特許第3941029号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
上記従来のシステムはクリーンルームに特有の汚染物質、特に各種のいわゆるケミカル物質を除去するためのシステムとして有効であり、液晶製造工場や半導体製造工場等において普及する気運にあるが、浄化水として多量の純水を消費する点が課題とされている。
【0010】
すなわち、上記従来のシステムにおいては噴霧ノズル3により噴霧した浄化水(純水)をマット4からドレインとして循環水槽5に回収する構成であるので、回収した純水を循環使用することも可能ではあるが、回収した純水は汚染物質を高濃度に含むことからそれをそのまま循環使用することでは所望の浄化性能を維持することは困難であり、実際の運転では回収した純水の大半をそのまま排水する必要がある。
したがって上記従来のシステムでは排水量相当分の純水を補給水として常に補給する必要があり、結局は多量の純水を消費してしまうものである。
【0011】
そして、純水は非常に高価であるからそれを多量に使用することは液晶製造工場や半導体製造工場におけるランニングコストに大きく影響することはもとより、多量の純水を安定に供給するためには大規模な純水製造設備を設置する必要もあり、この種のシステムの採用に当たってはその点での改善が必要とされているのが実状である。
【0012】
上記事情に鑑み、本発明は上記従来の湿式汚染物質除去システムの基本構成を踏襲しながら浄化水としての純水の消費量を大幅に削減でき、かつ浄化性能をさらに向上させることも可能な有効適切なシステムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
請求項1記載の発明は、クリーンルームを対象としてその室内空気中に含まれる汚染物質を浄化水との気液接触により除去するための湿式汚染物質除去システムであって、前記浄化水を循環水槽に貯留して該循環水槽から浄化水を噴霧ノズルによって処理対象空気に対して噴霧することにより汚染物質を浄化水に吸収・溶解せしめて除去するとともに、汚染物質を吸収・溶解した浄化水をドレインとして前記循環水槽に回収して循環使用する構成とし、前記循環水槽には、該循環水槽内の浄化水を逆浸透膜に通しつつ循環させることによって該浄化水を前記循環水槽内において清浄化する浄化水清浄化装置を具備してなることを特徴とする。
【0014】
請求項2記載の発明は、請求項1記載の湿式汚染物質除去システムであって、前記噴霧ノズルおよび通気性を有するマットを処理対象空気の流通方向に多段に設置して、各噴霧ノズルから各マットに対して浄化水を噴霧するとともに、各マットから流下する浄化水をドレインとして前記循環水槽に回収し、前記循環水槽を、上流側のマットからのドレインを回収する上流部と、下流側のマットからのドレインを回収する下流部に区画して、それら上流部と下流部との間に下流部から上流部に対して浄化水を越流させる越流堰を設けるとともに、前記上流部からドレインを排水して前記下流部に浄化水を補給可能に構成し、かつ、前記上流部のドレインを前記浄化水清浄化装置によって清浄化して前記下流部に戻すように循環させる構成としたことを特徴とする。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、循環水槽に浄化水清浄化装置を付加して、除去装置本体からドレインとして回収した浄化水を浄化水清浄化装置により清浄化して循環使用することにより、浄化性能を低下させることなく、寧ろ浄化性能を向上させつつ、浄化水としての純粋の排水量と補給水量を必要最少限としてその消費量を大幅に削減することが可能であり、それにより浄化に要する運転費を大幅に削減することが可能である。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】本発明の実施形態である湿式汚染物質除去システムの概略構成図である。
【図2】同、除去性能を示す図である。
【図3】同、他の実施形態を示す図である。
【図4】湿式汚染物質除去システムの基本構成を示す概略構成図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
図1に本発明の実施形態である湿式汚染物質除去システムの概略構成を示す。
本実施形態のシステムは図4に示した従来のシステムを基本として浄化水としての純水の消費量を大幅に低減するための装置を付加したものであるので、両者に共通する構成要素については同一符号を付して詳細な説明は省略する。
【0018】
上述したように従来の湿式汚染物質除去システムにおいては、循環水槽5に回収したドレインの大半をそのまま排水していたのであるが、本実施形態では従来システムにおける循環水槽5に対して浄化水清浄化装置10を付設して、従来においては循環水槽5の上流部5aからそのまま排水していた純水を排水することなくその浄化水清浄化装置10に導入して清浄化したうえで下流部5cに戻すようにしており、それにより浄化性能を低下させることなく純水を繰り返し循環使用することが可能なものとなっている。
【0019】
本発明における浄化水清浄化装置10は周知の逆浸透膜(RO膜)を利用したもので、循環水槽5の上流部5aの純水をポンプ11により浄化水清浄化装置10に対して加圧供給することのみで、汚染物質を高濃度に含むドレインを十分に清浄化したうえで循環水槽5の下流部5cに送水して循環させることが可能なものである。
なお、逆浸透膜を利用した水質浄化装置は多くの実績があり、クリーンルームでの使用に供し得る市販品もあるので、本発明における浄化水清浄化装置10としてはそのような市販品のなかから適宜のものを選択して用いれば良く、それにより浄化水清浄化装置10を付加するために要するコストは些少で済むし、またその種の市販品はほぼメンテナンスフリーであってさしたる保守費も必要としない。通常、RO膜を使用するとケミカル物質の詰まり、溶解により洗浄メンテナンス、交換頻度によりランニングコストが多くかかると想定されるが、2年間の実験によりケミカル物質の除去に有効でメンテナンスも必要ないことが実証された。
【0020】
上記のように、循環水槽5に浄化水清浄化装置10を付加して、除去装置本体2からドレインとして循環水槽5に回収したドレインを浄化水清浄化装置10により清浄化して浄化水として循環使用することにより、浄化性能を低下させることなく純水の消費量(すなわち排水量とそれに見合う補給水量)を大幅に削減して必要最小限とすることが可能であり、それにより本発明のシステムの運転費を大幅に軽減することが可能である。
本発明のシステムを通常規模の液晶工場に対して従来システムに代えて適用する場合についての一試算によれば、純水消費量を従来システムに比べて10%程度にまで大幅に削減することが可能であり、それにより従来においては必要であった大規模な純水製造設備を不要ないし大幅に簡略化することも可能であることから、浄化水清浄化装置10を付加するために要する初期投資費用を運転費の削減によりわずか2年程度で回収できるという試算結果が得られた。
【0021】
勿論、本発明のシステムによれば、純水を循環使用してその使用量を削減しても、従来システムに比べて浄化性能が低下することはないし、寧ろ浄化性能を向上させることも可能である。
たとえば、従来システムにおいて処理風量30000m3/H、処理対象空気中の汚染物質の除去率を50〜60%程度とする場合、純水の補給水量を40L/min程度(液ガス比0.08L/m3程度)としてその補給水量のほぼ全量をドレインとしてそのまま排水する必要があるが、本発明のシステムによればドレインを浄化水清浄化装置10により清浄化しつつ循環使用することで、上記のように純水の補給水量を10%程度まで削減し得るにも拘わらず、噴霧水量(純水10%+浄化水90%)は従来と同等の40L/min程度としたままでも従来システムと同等ないしそれ以上の浄化性能を支障なく維持できるものである。
【0022】
しかも、本発明のシステムによれば噴霧量を増大させることで浄化性能をさらに向上させることができる。
すなわち、本発明のシステムでは、図2(a)に示すように噴霧量を多くすれば純水消費量もやや増大はするものの除去率を大きく向上させることができる。たとえば、噴霧量を110L/min(純水50%+浄化水50%)とすれば除去率を90%程度にまで高めることができ、この場合には純水の消費量は従来システムの場合と同等程度となって純水消費量の削減効果は望めないが、その分、汚染物質の除去性能を大きく向上させることができることになる。
また、噴霧量(純水+浄化水)を多くして除去率を向上させることにより、図2(b)に示すように排水中のTOC濃度も低減させることができ、たとえば噴霧量を110L/minとすればTOC60程度にまで低減させることが可能である。勿論、浄化水清浄化装置10をさらに多量の浄化水を処理可能な設備とすれば、純水の消費量を削減しつつ噴霧量をさらに多くしてさらなる効率向上を実現することができる。
【0023】
以上で本発明の一実施形態について説明したが、上記実施形態はあくまで好適な一例であって本発明は上記実施形態に限定されるものでは勿論なく、本発明の要旨を逸脱しない範囲内で、すなわち浄化水を貯留し循環させるための循環水槽に逆浸透膜による浄化水清浄化装置を設置して循環水槽に回収したドレインを清浄化して循環使用するように構成する限りにおいて、各部の具体的な構成や仕様は処理対象の汚染物質の種類や濃度、要求される浄化性能その他の諸条件を考慮して適宜の設計的変更や応用が可能である。
【0024】
たとえば、上記実施形態では除去装置本体2内に3段の噴霧ノズル3を設け、それに対応して循環水槽5を上流部5a、中流部5b、下流部5cに区画するようにしたが、それに限るものではなく、たとえば図3に示すように噴霧ノズル3は2段として循環水槽5を上流部5aと下流部5cとに区画する(中流部5bを省略する)ことでも良いし、噴霧ノズル3を1段あるいは4段以上の多段として循環水槽5もそれに対応させたものとすることでも勿論良い。
また、上記実施形態では各噴霧ノズル3の上流側にマット4を設けたが、浄化水を下流側に向けて噴霧するようにしてマット4を噴霧ノズル3の下流側に設置しても良いし、浄化水と処理対象空気との気液接触が十分に行われて所望の浄化効率が得られる場合にはマット4は省略することも可能である。
さらに、同じく図3に示すように、噴霧ノズル3に供給する浄化水を冷却用の熱交換器12に通して所定温度に冷却してから噴霧するように構成することも好ましい。
【0025】
また、循環水槽5は上記実施形態のように上流部5aと中流部5bと下流部5c(あるいは上流部5aと下流部5c)に区画してそれらの間に越流堰5dを設け、上流部5aのドレインを浄化水清浄化装置10により清浄化して下流部5cに戻すように循環させる構成とすることが好ましいが、要は循環水槽5内の高濃度のドレインを逆浸透膜により清浄化しつつ循環させるように構成すれば良いのであって、その限りにおいて浄化水清浄化装置10の具体的な構成はもとより、浄化水槽5内における浄化水の循環経路や循環水量は適切に設定すれば良い。
【符号の説明】
【0026】
1 送風機
2 除去装置本体
3 噴霧ノズル
4 マット
5 循環水槽
5a 上流部
5b 中流部
5c 下流部
5d 越流堰
6 ポンプ
7 HEPAフィルタ
8 エリミネータ
9 フィルタ
10 浄化水清浄化装置
11 ポンプ
12 熱交換器

【特許請求の範囲】
【請求項1】
クリーンルームを対象としてその室内空気中に含まれる汚染物質を浄化水との気液接触により除去するための湿式汚染物質除去システムであって、
前記浄化水を循環水槽に貯留して該循環水槽から浄化水を噴霧ノズルによって処理対象空気に対して噴霧することにより汚染物質を浄化水に吸収・溶解せしめて除去するとともに、汚染物質を吸収・溶解した浄化水をドレインとして前記循環水槽に回収して循環使用する構成とし、
前記循環水槽には、該循環水槽内の浄化水を逆浸透膜に通しつつ循環させることによって該浄化水を前記循環水槽内において清浄化する浄化水清浄化装置を具備してなることを特徴とする湿式汚染物質除去システム。
【請求項2】
請求項1記載の湿式汚染物質除去システムであって、
前記噴霧ノズルおよび通気性を有するマットを処理対象空気の流通方向に多段に設置して、各噴霧ノズルから各マットに対して浄化水を噴霧するとともに、各マットから流下する浄化水をドレインとして前記循環水槽に回収し、
前記循環水槽を、上流側のマットからのドレインを回収する上流部と、下流側のマットからのドレインを回収する下流部に区画して、それら上流部と下流部との間に下流部から上流部に対して浄化水を越流させる越流堰を設けるとともに、前記上流部からドレインを排水して前記下流部に浄化水を補給可能に構成し、
かつ、前記上流部のドレインを前記浄化水清浄化装置によって清浄化して前記下流部に戻すように循環させる構成としたことを特徴とする湿式汚染物質除去システム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2013−49003(P2013−49003A)
【公開日】平成25年3月14日(2013.3.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−187527(P2011−187527)
【出願日】平成23年8月30日(2011.8.30)
【出願人】(000002299)清水建設株式会社 (2,433)
【Fターム(参考)】