説明

溝を有した開口バイオセンサ

検体を含むよう意図された少なくとも1つの開口(5)を有した透明でない基板構造体(2)、及び、前記第1の構造体(2)に対して配置されるか、又は、前記構造体に隣接した透明な基板構造体(3)を含んだ発光センサ。開口は、約538nmという水における有効波長を生じる、700nmの波長の光等の励起放射線の有効波長の半分よりも小さい、最も小さい横方向の寸法を有する。透明な構造体は溝(4)を有し、表面部分には、標的分子に対して結合性を持ったリガンドが与えられる。溝によって、標的分子に結合した発光団が、励起エネルギーが最も大きい開口の入口表面に置かれるということが生じる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、バイオセンサの分野に関し、特に、サブ波長センサ(sub−wavelength sensor)、すなわちサブ回折限界センサ(sub−diffraction limited sensor)に関する。
【背景技術】
【0002】
バイオセンサ技術は、当技術分野において周知である。
【0003】
米国特許出願第2003/0174992号は、検体を分析するために電磁放射線による活性化にさらされる、検体を含んだゼロモード導波路を提供する方法及び装置を開示している。
【0004】
2005年6月23日に出願され、“Luminescence sensors using sub−wavelength apertures or slits”と題された欧州特許出願第05105599.4号は、内部で流体を操作する、サブ波長の間隔分解能を有したバイオセンサを開示している。
【0005】
そのようなバイオセンサでは、少なくとも部分的にサブ波長の寸法を有した開口に検体を配置することができる。検体は、流体に含ませることができる。該流体に存在する発光団は、励起エネルギーに曝露された場合に放射線を発する。発せられた放射線は、検出器により収集される。
【0006】
これらの種類のバイオセンサにおける欠点は、個々の発光団から生じる発光エネルギーが、開口内部の発光団の位置次第であり得るということである。結果として、これらの種類のバイオセンサは、分析されることになる検体に対して不十分な量的関係を示す応答を有し、検出される特性において不十分な精度を生ずる恐れがある。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
従って、本発明の目的は、1又は複数の上記の不十分さ及び欠点を1つずつ又はいかなる組合せにおいても軽減、解決、又は、除去することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の態様によると、センサ、好ましくは発光センサに含まれることになる基板が提供され、当該基板は:
検体を含むために少なくとも1つの開口を有する透明でない基板構造体;
前記第1の構造体に対して配置されるか、又は、前記第1の構造体に隣接し、前記検体に対して結合能力を有した表面部分を有する透明な基板構造体;
を含み、
前記表面部分は、前記開口の一末端から所定の距離に配置されている。
【0009】
一実施形態において、前記表面部分は、前記開口の末端から外側の所定の距離に配置することができる。前記表面部分は、前記検体に含まれた標的分子に対して結合性を有した少なくとも1つのリガンドを含むことができる。前記距離は、リガンドの長さの平均にほぼ等しくあり得る。
【0010】
別の実施形態において、前記距離は、前記リガンドの長さ、前記標的分子のサイズ、及び、一定の長さの合計に等しい。前記一定の長さは、1から10nm等、1から50nmであり得る。
【0011】
さらなる実施形態において、前記距離は、3から25nm等、1から60nmであり得る。あるいは、前記距離は、1から15nmであり得る。前記距離は、60から1000nmであり得る。
【0012】
さらに別の実施形態において、前記表面は、前記透明な構造体内に形成された溝の中に配置される。前記溝は、前記開口に一致する寸法を有することができ、前記開口の反対側に配置することができる。
【0013】
さらなる実施形態において、前記開口は、前記検体に含まれた発光団に対する発光放射線若しくは励起放射線の回折限界よりも小さいか、又は、有効波長の50%未満である、少なくとも1つの横方向の寸法を有することができる。前記開口は、回折限界よりも小さいか、又は、有効波長の50%未満である第1の横方向の寸法、及び、回折限界を超えるか、又は、有効波長の50%を超える第2の横方向の寸法を有することができる。あるいは、前記開口は、実質的に円形の楕円形であり得る。
【0014】
本発明によると、発光センサのためのセンサ基板、及び、このセンサ基板を含んだ発光センサがさらに提案される。
【0015】
本発明のさらなる目的、特徴、及び利点が、以下の、図面を参考にした本発明の実施形態の詳細な説明から明らかになる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】バイオセンサにおける第1及び第2の実施形態の概略図である。
【図2】バイオセンサにおける別の実施形態の概略図である。
【図3】バイオセンサにおけるさらなる実施形態の概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下に、本発明のいくつかの実施形態が図面を参考にして記述される。これらの実施形態は、当業者が本発明を実行するのを可能にし、且つ、最良の形態を開示するために例証目的で記述されている。しかし、そのような実施形態は本発明を限定しない。さらに、異なる特徴における他の組合せが、本発明の範囲内で可能である。
【0018】
以下に記述されている実施形態によるバイオセンサ基板は、第1の種類の開口内に配置された検体を含むことができ、前記第1の種類の開口は、該開口を満たす媒体における使用される励起光の回折限界よりも小さい、横方向の面内の寸法を有する。他の実施形態では、開口は、該開口を満たす媒体における回折限界よりも小さい、第1の横方向の面内の寸法、及び、前記開口を満たす媒体における回折限界よりも大きい、第2の横方向の面内の寸法を有した第2の種類のものである。面内の寸法とは、基板に平行な面における寸法を意味している。
【0019】
開口における少なくとも1つの面内の寸法におけるサブ回折限界の寸法(sub−diffraction−limited dimension)のため、励起放射線は開口内を貫通するが、開口の伝導性は小さく、結果として、開口の裏側の励起エネルギーは実質的に抑制される。第1の種類の開口にとって、これは、全偏光の場合であり、第2の種類の開口にとって、これは、R偏光の場合のみである。R偏光は、基板に対して垂直で、且つ、開口の第1の次元に沿ったベクターと平行な面である、開口の透過光振動面に対して垂直な方向の電場を有した光と定義される。検出される発光エネルギーは、従って、開口内部の発光団からのみ本質的に生じ、少数の開口内部の発光団を、多数の開口外部及び裏側の発光団から区別することができる。
【0020】
検体は、流体に含むことができる。前記流体に存在する発光団は、励起エネルギーに曝露されると電磁放射線を放出する。放出された放射線は、検出器によって収集される。
【0021】
全放射エネルギー、すなわち、発光団による放出された個々の発光団の放射エネルギーの合計は、検体の標的分子の濃度に比例する等、検体の特性に対して所定の関係を有する。放出された放射線を分析することによって、検体の特性を量的及び/又は質的に決定することができる。
【0022】
発光団により放出された放射線は、バイオセンサ基板のいずれの側面でも検出することができる。検体の流体が1つの側面に存在する場合、放射線は他の側面で検出することができる。この場合、開口による励起光の実質的抑制の結果として、開口外部の流体に存在する発光団により放出された放射線は、励起光が減弱されていない開口の入口部分近くに存在する発光団により放出された放射線よりも有意に小さい。このように、検出された放射線は、本質的に、開口の入口部分近くに存在する発光団により放出された放射線だけである。従って、バックグラウンド放射線を減少させることができるため、高い信号対バックグラウンド比及び信号対雑音比を得ることができる。
【0023】
リガンド又は捕獲分子を、開口の特定の部分に配置又は固定化することができる。前記リガンド又は捕獲分子は、標的分子が前記リガンド又は捕獲分子と特異的に結合することができるよう、標的分子に対する結合性を有することができる。結果として、標的分子は、前記開口の特定の部分で特異的に結合することができる。標的分子は、発光分子であり得るか、又は、発光分子でラベルすることができる。このようにして形成されたリガンド又は捕獲分子と標的分子の集合体は発光団を形成する。本発明の状況において、発光団は、発光放射線を放出する能力がある粒子、ビーズ、分子、又は、分子、粒子、若しくはビーズの集合体を意味する。そのような発光団の形成は、技術的内容が参照により本明細書において援用される論文“Fluorescence spectroscopy of single biomolecules” by S.Weiss,Science,Vol.283,pp1676−1683に記載されているもの等、種々の様式で発生することができる。本発明の状況において、発光団は、発光用にラベルされた分子も意味する。リガンドは発光団を固定化することができるため、発光団は、励起によって固定化された位置から放射線を放出する。第1の例として、開口の特定の部分で固定化された、相補的な配列(標的分子)を有する核酸に特異的に結合するオリゴヌクレオチド等のリガンドを考慮されたい。デオキシオリゴヌクレオチド(DNA)に対しては、ポリメラーゼ連鎖反応がDNA濃度を増幅するために使用され、結果として生じる標的分子(アンプリコン)が蛍光でラベルされることが多い。アンプリコンの配列の断片は、開口の特定の部分で固定化されたオリゴヌクレオチドに相補的であり、前記オリゴヌクレオチドと結合する(ハイブリッド形成する)ことができる。第2の例として、標的となる蛋白質に特異的な抗体が開口の特定の部分で固定化されるサンドイッチアッセイを考慮されたい。第一に、標的とされた蛋白質分子が抗体に結合し、後にそこで、検体を含んだ流体に存在する蛍光用にラベルされた抗体が、標的とされた蛋白質分子に結合する。どれらの例も、開口の特定の部分で固定化された、蛍光用にラベルされた集合体を生じる。
【0024】
開口に沿った位置に応じて、励起光及び放出された放射線は、異なる度合で開口により減弱される。これは、出口側で開口の内部に存在する発光団由来の放射線が、入口側近くの発光団と比較して、検出器由来のより小さな応答を与えるということを生じる場合がある。このように、発光団が開口中に存在する場合、検出器の応答は開口に存在する発光団の数に比例せず、入口部分近くに存在する発光団が、開口内部に存在する発光団よりも検出器の信号により多く寄与するであろう。開口が画定される基板構造体は、部分的又は完全に、アルミニウム、金、銀、クロム等の金属から成り得る。金属に近い(一般的に、10nm未満)フルオロフォア等の発光団は、蛍光のクエンチングを生じる近接場の相互作用を介してその蛍光を金属に結合させることができる。結果として、開口の金属に近い発光団の発光力は、金属からさらに遠く離れた発光力とは異なる。
【0025】
発光団は、電気又は化学エネルギーによって等、異なる様式で放射線を放出するよう励起することができる。放出された放射線は、発光、リン光、蛍光、ラマン散乱光、ハイパーラマン散乱光、又は、ハイパーレイリー散乱光等の異なる物理的プロセスによって生じ得る。放出された放射線は、赤外光を含めた光等の電磁放射線であり得る。
【0026】
以下に、電磁放射線、特に、開口における少なくとも1つの横方向の寸法よりも大きい関連する媒体における波長を有した赤外光を含めた光を用いた励起が考慮される。有効波長は、媒体の屈折率により割られた真空における放射線の波長である。
【0027】
開口における少なくとも1つの横方向の寸法が、開口を満たす媒体における有効波長の半分よりも小さい場合、エバネッセント電磁場が開口内に確立される。有効波長の半分よりも大きい横方向の寸法を1つ有した開口に対して、エバネッセント電磁場はR偏光も含む。
【0028】
そのようなエバネッセント場は、開口に存在する発光団を励起することができる。エバネッセント場は、開口において、開口の入口側又は小面から指数関数型減衰を有するであろう。従って、入口側近くに存在する発光団は、開口のもう一方の側面にて、開口内部及び開口を超えて存在する発光団よりも能率的に励起される。
【0029】
一実施形態において、発光団により放出される放射線の出口側は、励起放射線の入口側と同じである。この場合、開口の長手方向(基板に平行な面に対して垂直の方向)に沿った、減少した励起の能率は、開口の入口/出口側から距離をおいた開口の内部に発光団が存在又は固定化される場合、発光団により放出された放射線の開口による減衰に加わる。
【0030】
さらに、開口によって減弱され、この減弱の典型的な値は1000分の1であるけれども、励起放射線は開口を通り抜け、開口のもう一方の側から出る。そのように通過する放射線は、媒体に存在する発光団を励起し、バックグラウンド放射線を形成するであろう。そのような放射線は、バックグラウンド放射線という形で開口を通り抜け、検出器における信号に加わるであろう。上記のように、有用な信号が少なくなった場合、信号対バックグラウンド比及び信号対雑音比も低くなるであろう。
【0031】
発光団が、上記のようにリガンドにより固定化される場合、開口の出口部分にて表面にリガンドを結合させることができる。しかし、リガンドは、例えば1から60nmであり得る特定の長さを有する。開口の長さは50から1000nmの範囲であり得るため、そのようなリガンドの長さは、発光団が開口内部のかなりの距離にて、又は、場合によっては開口の外部にさえも配置されるということを生じる。励起エネルギーは、指数関数的に減衰するため、開口内部のリガンドの位置決めによって、発光団がより少ない励起エネルギーに曝露され、従って、より少ない放射線を検出器に向けて放出するということが生じる。さらに、放出された光は開口に沿って通過してある程度まで減弱され、同様に有用な信号の減少に寄与する。バックグラウンド放射線は不変であるため、有用な信号の減少は、信号対バックグラウンド比及び信号対雑音比を減少させる。
【0032】
表面で固定化されたリガンドは、リガンドが表面近くに置かれた場合、標的分子に対するより少ない結合性を有する場合がある。従って、リガンドはスペーサーを含んで全リガンドの長さをさらに増やすことができる。
【0033】
図1は、従来技術によるバイオセンサ基板を開示している。バイオセンサ基板は、基板構造体1を含む。基板構造体は、約700nmの(真空における)波長の光等、関連する放射線に対して実質的に不伝導性であるか、又は、透明でない。基板構造体は、部分的又は完全に、金;アルミニウム;銀、クロム等の金属から成り得る。基板構造体を、部分的又は完全に構成する物質は、実質的に虚数成分を持った屈折率を有するべきである。前記屈折率の虚数成分は、1よりも大きいことが好ましく、3よりも大きいことがより好ましく、6よりも大きいことが最も好ましい。
【0034】
基板構造体1は、開口を満たす媒体の有効波長の50%よりも小さい第1の面内の横方向の寸法を有する開口2を少なくとも1つ含む。いくつかの開口を、規則的に一定の間隔で置かれたインターバルで等、基板1の表面にて配置することができる。開口は、米国特許出願第2003/0174992号において開示されているようにグループ化することができる。
【0035】
開口は、円形、楕円形、三角形、長方形、六角形等、いかなる形状も有することができる。開口は、開口を満たす媒体の有効波長の50%よりも小さい第1の面内の横方向の寸法、及び、開口を満たす媒体の有効波長の50%よりも大きい第2の面内の横方向の寸法を有するスリットとして配置することができる。開口は、2005年9月22日に出願された欧州特許出願第05198773.2号において開示されているように、2つのスリット配列の組合せとして配置することができる。
【0036】
第1の面内の横方向の寸法は、開口を満たす媒体における有効波長の40%よりも小さく、より好ましくは15%から25%、最も好ましくは10%から15%であり得る。第2の種類の開口に対して、第2の面内の横方向の寸法は、開口を満たす媒体における有効波長の1から10倍、より好ましくは10から200倍、最も好ましくは200倍を超え得る。励起光の波長は約633nmでありえ、開口を満たす媒体として水(屈折率1.33)を用いて476nmの有効波長に相当する。第1の面内の横方向の寸法は、190nmよりも小さく、より好ましくは71nmから119nm、最も好ましくは48nmから71nmであり得る。第2の種類の開口に対して、第2の面内の横方向の寸法は、0.48μmから5μm、より好ましくは5μmから100μm、最も好ましくは100μmを超え得る。あるいは、励起光の波長は約350nmでありえ、開口を満たす媒体として水(屈折率1.35)を用いて260nmの有効波長に相当する。第1の面内の横方向の寸法は、103nmよりも小さく、より好ましくは39nmから65nm、最も好ましくは26nmから391nmであり得る。第2の種類の開口に対して、第2の面内の横方向の寸法は、0.26μmから2.5μm、より好ましくは2.5μmから50μm、最も好ましくは50μmを超え得る。
【0037】
透明な構造体3は基板構造体1の下に配置され、基板構造体を支えている。透明な構造体3は、励起に対して実質的に透明で、且つ、放出された放射線に対しても透明であり得る物質から作製される。前記物質は、ガラス、アクリルガラス、エポキシ樹脂、ポリ塩化ビニル(PVC)等であり得る。十分に透明であるために、前記物質は、10−4よりも小さい虚数部分を有した屈折率を有しているべきである。
【0038】
透明な構造体3の表面は、図1に示されているように、開口2の底面を形成する。前記表面には、開口2に一致するくぼみ又は溝4が設けられる。前記溝は、開口とは反対に透明な物質をエッチングすることによって作製される。前記溝を形成する他の方法は、規則的なインターバルで透明な物質に間隔部材(distance member)を加えることであり得る。
【0039】
溝4における表面は、リガンド5等の捕獲分子を含むよう改造された表面である。リガンド5は、開口2内及び基板1の上に存在する流体6内に存在する標的分子7に対して結合性を有している。標的分子7は、発光団8でラベルされる。
【0040】
発光団は、励起源由来のエネルギーに対して曝露されると発光放射線を生じる分子又は粒子である。フルオロフォアは、赤外光を含めた光源由来のエネルギーに対して曝露されると蛍光により光又は赤外光等の電磁放射線を生じる分子又は粒子である。本明細書において蛍光又はフルオロフォアが言及された時はいつでも、発光又は発光団を代わりに意味するよう意図することができる。
【0041】
図1の実施形態の運用は以下の通りである。フルオロフォア8を結合させた標的分子7は、開口2に入り、溝4の表面上に固定化されたリガンド5によって捕獲される。リガンド5、標的分子7、及びフルオロフォア8から成る3つのそのような集合体9が、図1の溝内に示されている。流体は、実質的に、1.3の屈折率を有した水である。
【0042】
第1の種類の開口に対して、バイオセンサ基板は、透明な構造体3側からの光10に曝露される。光10は、水において538nmの有効波長に相当する、真空において700nmの波長を有している。どちらの開口における横方向の面内の寸法も、70nm等、約269nmよりも小さく、すなわち、有効波長の50%よりも小さい。このように、エバネッセント電磁場は開口内部に存在し、場の強度は指数関数的に減衰する。
【0043】
第2の種類の開口に対して、バイオセンサ基板は、透明な構造体3側からのR偏光10に曝露される。R偏光10は、水において538nmの有効波長に相当する、真空において700nmの波長を有している。第1の開口における横方向の面内の寸法は、70nm等、約269nmよりも小さく、すなわち、有効波長の50%よりも小さい。第2の横方向の面内の寸法は、1mm等、約269nmよりも大きく、すなわち、有効波長の50%よりも大きい。このように、エバネッセント電磁場は開口内部に存在し、場の強度は指数関数的に減衰する。
【0044】
マイクロ波、赤外光、近赤外(NIR)光、可視光、紫外線、X線等、他の波長の放射線も使用することができる。
【0045】
溝4の表面に存在する集合体9a内に存在するフルオロフォアは励起され、矢印11a及び11bによって示されているように放射線を放出する。矢印11aによるそのような放射線の約50%が、サンドイッチ部材3の下に存在する検出器12の方向に向けられる。矢印11bにより示されている放出された放射線の他の50%は、開口内に向けられ、そこで減弱される。フルオロフォアは、開口による励起光10の反射のため減弱していない励起光により励起されるので、溝内の励起光のエネルギーは、約2倍実際には増加され、大部分の放出された放射線が検出器に達するため、高効率が得られる。
【0046】
集合体9bにより示された、開口内部に存在する標的分子7に結合したフルオロフォアは、開口内部で非常に減弱された励起放射線に曝露される。従って、放出される蛍光の力は、(フルオロフォア9bに対して減少した)励起放射線の強度に比例するため、そのようなフルオロフォアは、集合体9a内に存在するフルオロフォアよりも少ない放射線を放出する。矢印13aにより示されているように検出器12の方向へ向けられた放出された放射線は、矢印13bにより示された他の方向に向けられた放射線にも関連がある、開口の作用により減弱される。
【0047】
小部分の励起放射線が、開口の外部の、開口の上に存在する流体内に達する。実用的なバイオセンサにおいて、そのような放射線の減衰量は約1000であり、(所与の開口における横方向の寸法によって)開口の長さに依拠する。160nmという開口の長さ及び70nmという第1の横方向の面内の寸法に対して、開口を通過した励起放射線の減衰量は約1000である。そのような放射線は、遊離の標的分子にラベルされたフルオロフォア、並びに、標的分子に結合していない遊離のフルオロフォア等、流体内に存在するフルオロフォアを励起するであろう。そのようなフルオロフォアは放射線を放出し、その一部が、矢印14aにより示されているように、開口に入り、ここでも開口により減弱されながら検出器12まで通過するであろう。そのような放射線13a及び14aは、バックグラウンド放射線を形成する。さらに、検出器まで反射し戻された励起放射線は、前記バックグラウンド放射線に加わるであろう。蛍光放射線を透過させ、励起放射線を遮断する波長フィルタを使用して、反射された励起放射線を減弱させることができる。
【0048】
バックグラウンド放射線は、遊離の標的分子及びフルオロフォアを洗い流すことによって減少させることができる。しかし、そのような洗浄は、リアルタイムの測定において可能ではない場合がある。さらに、一部の標的分子及びフルオロフォアは、そのような洗浄にもかかわらず残る場合がある。
【0049】
図1に示されているように、溝はリガンド5の長さに一致した特定の深度を有するので、発光団は開口の出口表面に存在する。例として、サンドイッチアッセイでは、標的分子は、結合界面の第1の受容分子と第2の蛍光用にラベルされた受容分子の間でサンドイッチされる。
【0050】
深度はリガンドの長さに等しくあり得る。サンドイッチアッセイでは、一般的に、10から60nm;ペプチド−抗体アッセイでは、3から25nm;DNAハイブリダイゼーションアッセイでは、1から15nmであり得る。
【0051】
励起エネルギーは開口外部ではほぼ一定であるため、溝の深度は、1から50nm大きい等、リガンドの長さよりもわずかに大きくあり得る。
【0052】
深度は、リガンドの長さ、標的分子のサイズ、及び、所定の定数の合計であり得る。
【0053】
適した深度は1から60nmであるが、1000nmまでの深度を特定の用途において使用することができる。
【0054】
リガンドが図1に示されているようにくぼんだ所に置かれず、透明な構造体3と透明でない構造体1の界面に配置される場合、励起エネルギーは、上記のようにフルオロフォアに達する前に実質的に減弱される。従って、集合体9aにより生じた放射線の検出される力は、実用的な実施形態において10分の1減少される場合があり、検出されたバックグラウンド放射線は、本質的に同じまま残り、従って、バックグラウンド抑制を減少させる。
【0055】
図2は、溝24における横方向の面内の寸法のうち少なくとも1つが、対応する、すなわち平行な、開口22における横方向の面内の寸法よりも実質的に大きくされた別の実施形態を開示している。溝は、開口に相当する表面上のリガンド25aにより規定することができる。さらに、溝には、リガンド25bを開口間の表面上に与えることができる。
【0056】
さらなる実施形態において、リガンドは、開口の反対側にのみ存在する。
【0057】
図3に示されているさらなる実施形態において、溝34は、開口の出口領域の一部の上にのみ存在する。
【0058】
溝間の領域は、開口を含んだ基板構造体を支えるための構造体を形成することができる。開口がワイヤ構造体により形成される場合、溝は、多数のワイヤ上に延在し、ワイヤのための支持構造体として作用することができる。
【0059】
溝の表面にはリガンドが与えられ、それは、いかなる従来の様式でも生じることができる。リガンドは、蛋白質、ペプチド、抗体若しくはその断片、標的とされたDNA配列に相補的な配列特異的なプローブ、炭水化物、ホルモン、抗酸化物質、糖蛋白質、リポ蛋白質、反応性染料、又は、その組合せであり得る。
【0060】
上記の実施形態において、バイオセンサは、励起放射線が配置されるのと同じ側で信号が検出される反射モードで作動される。この場合、励起放射線は、検出器に達することができないように妨げられるべきであり、それは、励起放射線を遮断する偏光フィルタ又は波長フィルタ等のフィルタによって生じ得る。
【0061】
生じた蛍光放射線が、開口を通して伝わらなければならないためいくらか抑制されるという欠点を有した透過モードにも、同じ原理を使用することができる。
【0062】
本発明は特定の実施形態を参考にして記述されてきたけれども、本明細書に明記された特定の形態に限定されるよう意図されない。正しくは、本発明は付随の特許請求の範囲によってのみ限定され、上記の特定の実施形態以外の実施形態が、これらの添付の特許請求の範囲内で等しく可能である。
【0063】
特許請求の範囲において、「含む/含めた/含んだ」という用語は、他の要素又はステップの存在を除外しない。さらに、個々に列挙されているけれども、複数の手段、要素、又は方法のステップを、例えば単一の装置又はプロセッサによって実行することができる。さらに、個々の特徴を異なる請求項に含むことができるけれども、これらは、おそらく有利に組み合わせることができ、異なる請求項における包含は、特徴の組合せが実現可能及び/又は有利ではないとは意味しない。さらに、単数の言及は、複数形を除外しない。不定冠詞、定冠詞、「第1の」「第2の」という用語は、複数形を排除しない。特許請求の範囲における参照番号は、単に明らかにする例として与えられており、いかなる方法においても特許請求の範囲を限定するとして解釈されるべきではない。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
検体を含むよう意図された少なくとも1つの開口を有する透明でない基板構造体;
前記第1の構造体に対して配置されるか、又は、前記第1の構造体に隣接し、前記検体に対する結合能力を有した表面部分を有する透明な基板構造体であり、前記結合能力が、当該透明な基板上のほかの箇所の前記検体に対する結合能力よりも高い透明な基板構造体;
を含むセンサ基板であって、
前記表面部分が、前記開口の一末端から所定の距離に配置される、
センサ基板。
【請求項2】
前記表面部分が、前記開口の末端から外側の所定の距離に配置される、請求項1に記載のセンサ基板。
【請求項3】
前記表面部分が、前記検体に含まれた標的分子に対して結合性を有した少なくとも1つのリガンドを含む、請求項2に記載のセンサ基板。
【請求項4】
前記距離が、リガンドの長さの平均にほぼ等しい、請求項3に記載のセンサ基板。
【請求項5】
前記距離が、前記リガンドの長さ、前記標的分子のサイズ、及び、一定の長さの合計に等しい、請求項3に記載のセンサ基板。
【請求項6】
前記一定の長さが、1から10nm等、1から50nmである、請求項5に記載のセンサ基板。
【請求項7】
前記距離が、3から25nm等、1から60nmである、請求項2に記載のセンサ基板。
【請求項8】
前記距離が、1から15nmである、請求項2に記載のセンサ基板。
【請求項9】
前記距離が、60から1000nmである、請求項2に記載のセンサ基板。
【請求項10】
前記表面が、前記透明な構造体内に形成された溝の中に配置される、請求項1乃至9のいずれか1項に記載のセンサ基板。
【請求項11】
前記溝が、前記開口に一致する寸法を有し、前記開口の反対側に配置される、請求項10に記載のセンサ基板。
【請求項12】
前記開口が、前記検体に含まれた発光団に対する放出放射線又は励起放射線の有効波長の50%よりも小さい、少なくとも1つの横方向の寸法を有する、請求項1乃至11のいずれか1項に記載のセンサ基板。
【請求項13】
前記開口が、有効波長の50%を超える第2の面内の寸法を有するスリットである、請求項12に記載のセンサ基板。
【請求項14】
前記開口の長さが、前記小さい横方向の寸法の0.5から10倍である、請求項12、13、又は14に記載のセンサ基板。
【請求項15】
請求項1乃至14のいずれか1項に記載のセンサ基板を含んだ発光センサ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公表番号】特表2010−513909(P2010−513909A)
【公表日】平成22年4月30日(2010.4.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−542339(P2009−542339)
【出願日】平成19年12月17日(2007.12.17)
【国際出願番号】PCT/IB2007/055159
【国際公開番号】WO2008/078263
【国際公開日】平成20年7月3日(2008.7.3)
【出願人】(590000248)コーニンクレッカ フィリップス エレクトロニクス エヌ ヴィ (12,071)
【Fターム(参考)】