説明

溝形鋼とデッキプレートを用いた高架橋スラブの補強工法及びその補強構造

【課題】はく離、はく落を抑制し、鋼材腐食等により劣化した高架橋スラブの補強を行う、溝形鋼とデッキプレートを用いた高架橋スラブの補強方法及びその補強構造を提供する。
【解決手段】溝形鋼5を既設スラブ1の下面に橋軸直角方向に設置し、溝形鋼5の上にデッキプレート3を橋軸方向に設置し、既設スラブ1とデッキプレート3との間に充填材2を充填する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、溝形鋼とデッキプレートを用いた高架橋スラブの補強工法及びその補強構造に係り、特に、はく離、はく落を抑制し、鋼材腐食等により劣化した高架橋スラブの補強を行う、溝形鋼とデッキプレートを用いた高架橋スラブの補強工法及びその補強構造に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、変状が生じた高架橋スラブについては、表面被覆工法、断面修復工法などを用いた補修・補強工法が用いられてきた(下記非特許文献1参照)。
また、溝形鋼の規格については、下記非特許文献2に規定されている。
一方、図9に示されるように、グレーティング床版は、急速施工、死荷重軽減のニーズに応えるために普及してきている。特に、増大する交通量と、大型車両に対し、グレーティング床版は薄い床版厚で十分対処でき、桁上にならべた上にコンクリートを打設することで、急速施工が可能である(下記非特許文献3参照)。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0003】
【非特許文献1】コンクリートのひび割れ調査,補修・補強指針−2003−,付:ひび割れ調査と補修・補強事例,社団法人 日本コンクリート工学協会,〔事例27〕,pp.254−260
【非特許文献2】JISハンドブック,鉄鋼I,2010,日本規格協会,G4320,附属書表3 溝形鋼,pp.1457
【非特許文献3】NTB 日鉄トピーブリッジ,グレーティング ソリッドタイプ カタログ No.KC156,2010.3,pp.1
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、近年、施工当時の内在塩分の影響などから、鋼材腐食が進行し、特に、下側鉄筋の腐食が進んでいるスラブ高架橋が散見される。鋼材が腐食するとひび割れ、はく離・はく落が発生し、さらに腐食すると、耐力に影響を及ぼす可能性があり、安全性を脅かす恐れがある。
本発明は、上記状況に鑑みて、はく離、はく落を抑制し、鋼材腐食等により劣化した高架橋スラブの補強を行う、溝形鋼とデッキプレートを用いた高架橋スラブの補強工法及びその補強構造を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明は、上記目的を達成するために、
〔1〕溝形鋼とデッキプレートを用いた高架橋スラブの補強工法において、溝形鋼を既設スラブの下面に橋軸直角方向に設置し、この溝形鋼の上にデッキプレートを橋軸方向に設置し、前記既設スラブと前記デッキプレートとの間に充填材を充填することを特徴とする。
【0006】
〔2〕上記〔1〕記載の溝形鋼とデッキプレートを用いた高架橋スラブの補強工法において、前記既設スラブにアンカー筋を打設し、一対の前記溝形鋼を、この溝形鋼のウェブ同士の間に前記アンカー筋が貫通する隙間を隔てて、前記アンカー筋を挟み込むようにして配置することを特徴とする。
〔3〕上記〔1〕記載の溝形鋼とデッキプレートを用いた高架橋スラブの補強工法において、前記一対の溝形鋼の上面及び下面フランジをそれぞれ主桁連結部で連結することを特徴とする。
【0007】
〔4〕上記〔1〕記載の溝形鋼とデッキプレートを用いた高架橋スラブの補強工法において、前記充填材はモルタルであることを特徴とする。
〔5〕上記〔1〕記載の溝形鋼とデッキプレートを用いた高架橋スラブの補強工法において、前記溝形鋼の端部の下面に主桁受を配置し、この主桁受をアンカー筋によって固定することを特徴とする。
【0008】
〔6〕上記〔1〕記載の溝形鋼とデッキプレートを用いた高架橋スラブの補強工法において、前記デッキプレートに前記既設スラブ上面からの水を抜くための穴を形成することを特徴とする。
〔7〕上記〔1〕記載の溝形鋼とデッキプレートを用いた高架橋スラブの補強工法において、前記デッキプレートの橋軸方向末端部に隣接して端部隙間塞ぎを配置することを特徴とする。
【0009】
〔8〕溝形鋼とデッキプレートを用いた高架橋スラブの補強構造において、既設スラブの下面に橋軸直角方向に配置される溝形鋼と、この溝形鋼の上に橋軸方向に設置されるデッキプレートと、前記既設スラブと前記デッキプレートとの間に充填される充填材とを具備することを特徴とする。
〔9〕上記〔8〕記載の溝形鋼とデッキプレートを用いた高架橋スラブの補強構造において、一対の前記溝形鋼は、前記既設スラブに打設されるアンカー筋が貫通する隙間を前記溝形鋼のウェブ同士の間に隔てて、前記アンカー筋を挟み込むようにして配置されることを特徴とする。
【0010】
〔10〕上記〔8〕記載の溝形鋼とデッキプレートを用いた高架橋スラブの補強構造において、前記一対の溝形鋼の上面及び下面フランジをにそれぞれ連結する主桁連結部を具備することを特徴とする。
〔11〕上記〔8〕記載の溝形鋼とデッキプレートを用いた高架橋スラブの補強構造において、前記充填材はモルタルであることを特徴とする。
【0011】
〔12〕上記〔8〕記載の溝形鋼とデッキプレートを用いた高架橋スラブの補強構造において、前記溝形鋼の端部の下面に配置され、アンカー筋によって固定される主桁受を具備することを特徴とする。
〔13〕上記〔8〕記載の溝形鋼とデッキプレートを用いた高架橋スラブの補強構造において、前記デッキプレートは前記既設スラブ上面からの水を抜くために形成された穴を有することを特徴とする。
【0012】
〔14〕上記〔8〕記載の溝形鋼とデッキプレートを用いた高架橋スラブの補強構造において、前記デッキプレートの橋軸方向末端部に隣接して配置される端部隙間塞ぎを具備することを特徴とする。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、はく離、はく落を抑制し、鋼材腐食等により劣化した高架橋スラブの補強を行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】本発明の橋梁RC床版補強の平面概略図である。
【図2】図1のA−A断面図である。
【図3】図1のB−B断面図である。
【図4】デッキプレートの概略図である。
【図5】本発明の実施例を示す橋梁RC床版補強の平面図である。
【図6】本発明の実施例を示す溝形鋼とデッキプレートを用いた高架橋スラブの補強工法の施工時における橋梁の一端部を示す図2のb部詳細図である。
【図7】本発明の実施例を示す溝形鋼とデッキプレートを用いた高架橋スラブの補強工法の施工時における橋梁の一般部を示す図2のa部詳細図である。
【図8】本発明の実施例を示す溝形鋼とデッキプレートを用いた高架橋スラブの補強工法の施工時における橋梁の他端部を示す図3のc部詳細図である。
【図9】従来のグレーディング床版による施工状況を示す図面代用写真である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
本発明の溝形鋼とデッキプレートを用いた高架橋スラブの補強工法において、溝形鋼を既設スラブの下面に橋軸直角方向に設置し、この溝形鋼の上にデッキプレートを橋軸方向に設置し、前記既設スラブと前記デッキプレートとの間に充填材を充填する。
【実施例】
【0016】
以下、本発明の実施の形態について詳細に説明する。
図1は本発明の橋梁RC床版補強の平面概略図、図2は図1のA−A断面図、図3は図1のB−B断面図、図4はデッキプレートの概略図である。
これらの図において、1は床版(既設スラブ)、2は充填材、3はデッキプレート、4,7はアンカー筋(あと施工アンカー)、5は主桁(溝形鋼)、6は主桁受、8は梁、9は柱である。なお、Xは橋軸方向、Yは橋軸直角方向である。
【0017】
本発明においては、床版1にアンカー筋4を打設し、このアンカー筋4を用いて溝形鋼5を橋軸直角方向(Y方向)に設置し、この溝形鋼5の上にデッキプレート3を橋軸方向(X方向)に設置し、このデッキプレート3と床版1との間に充填材2として空隙充填モルタルを充填するようにした。
溝形鋼5の両端には主桁受6が配置され、この主桁受6はアンカー筋7を梁8に打設することによって梁8に固定され、溝形鋼5を下面から支持する。
【0018】
また、本発明のデッキプレート3は、図4に示すような断面形状を有するデッキプレートであり、床版1の下面を覆うように設置することにより、既設スラブのはく離、はく落を抑制することができる。さらに、スラブ上面からの水を抜くための穴を設け、なるべく水が溜まらないような構造とすることができる。
図5は本発明の実施例を示す橋梁RC床版補強の平面図、図6は本発明の実施例を示す溝形鋼とデッキプレートを用いた高架橋スラブの補強工法の施工時における橋梁の一端部を示す図2のb部詳細図、図7はその施工時における橋梁の一般部を示す図2のa部詳細図、図8はその施工時における橋梁の他端部を示す図3のc部詳細図である。
【0019】
これらの図において、10は床版(既設スラブ)、11はデッキプレート、12,18はアンカー筋(あと施工アンカー)、13は主桁(溝形鋼)、13Aは主桁(溝形鋼)13のウェブ、13B,13Cは主桁(溝形鋼)13のフランジ、14A,14Bは主桁連結部(フラットバー)、15は固定ボルト、16A,16B,19はナット、17は主桁受、21は端部隙間塞ぎである。
【0020】
ここでは、橋梁RC床版10を補強するために、床版10にアンカー筋12を打設し、一対の溝形鋼13を、そのウェブ13A同士の間にアンカー筋12が貫通する隙間を隔てて、アンカー筋12を挟み込むようにして設置する。溝形鋼13の上面及び下面フランジ13B,13Cの面にはそれぞれ主桁連結部14A,14Bを配置する。主桁連結部14Aの上にはさらにデッキプレート11を配置するようにしている。主桁連結部14A,14Bは、プレートなどの鋼材で作ることができ、フラットバーであってもよい。これら部材はアンカー筋12とナット16A、及び固定ボルト15とナット16Bを用いて互いに、または床版10に対して固定される。
【0021】
さらに、溝形鋼13の両端には、主桁連結部14Bを介して主桁受17を配置し、固定ボルト15とナット16Bを用いて溝形鋼13に固定するとともに、梁に打設したアンカー筋18とナット19を用いて梁に固定する。この主桁受17は、アングルなどの鋼材で作ることができる。また、主桁受17と溝形鋼13とは溶接で接合してもよい。
また、図6に示すように、デッキプレート11の末端部に隣接して、主桁連結部14Aの上面上に端部隙間塞ぎ21が配置される。
【0022】
なお、上記した補強工法に用いる部材には、なるべく小さく軽い材料を使用し、施工によって上部工の死荷重が大きくなることを極力避けるようにする。
本発明による高架橋スラブの補強工法によれば、既設スラブに対する「はつり作業」を可能な限り行わないようにしたので、総足場を必要とせず、無騒音・無振動で実施することができる。また、既設スラブと溝形鋼の間にはアンカーを設置するが、デッキプレート直上の充填モルタルと既設スラブとの間にはアンカーを設置せず、あと施工アンカーを溝形鋼が挟み込むような構造としたので、新たに打設するアンカー筋の数を極力増加させずに既設スラブとの一体化を図ることができる。
【0023】
なお、本発明は上記実施例に限定されるものではなく、本発明の趣旨に基づき種々の変形が可能であり、これらを本発明の範囲から排除するものではない。
【産業上の利用可能性】
【0024】
本発明の溝形鋼とデッキプレートを用いた高架橋スラブの補強工法及びその補強構造は、はく離、はく落を抑制し、鋼材腐食等により劣化した高架橋スラブの補強を行う、溝形鋼とデッキプレートを用いた補強工法及びその補強構造として利用可能である。
【符号の説明】
【0025】
1,10 床版(既設スラブ)
2 充填材
3,11 デッキプレート
4,7,12,18 アンカー筋(あと施工アンカー)
5,13 主桁(溝形鋼)
6,17 主桁受
8 梁
9 柱
13A 主桁(溝形鋼)のウェブ
13B,13C 主桁(溝形鋼)のフランジ
14A,14B 主桁連結部(フラットバー)
15 固定ボルト
16A,16B,19 ナット
21 端部隙間塞ぎ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
溝形鋼を既設スラブの下面に橋軸直角方向に設置し、該溝形鋼の上にデッキプレートを橋軸方向に設置し、前記既設スラブと前記デッキプレートとの間に充填材を充填することを特徴とする溝形鋼とデッキプレートを用いた高架橋スラブの補強工法。
【請求項2】
請求項1記載の溝形鋼とデッキプレートを用いた高架橋スラブの補強工法において、前記既設スラブにアンカー筋を打設し、一対の前記溝形鋼を、該溝形鋼のウェブ同士の間に前記アンカー筋が貫通する隙間を隔てて、前記アンカー筋を挟み込むようにして配置することを特徴とする溝形鋼とデッキプレートを用いた高架橋スラブの補強工法。
【請求項3】
請求項1記載の溝形鋼とデッキプレートを用いた高架橋スラブの補強工法において、前記一対の溝形鋼の上面及び下面フランジをそれぞれ主桁連結部で連結することを特徴とする溝形鋼とデッキプレートを用いた高架橋スラブの補強工法。
【請求項4】
請求項1記載の溝形鋼とデッキプレートを用いた高架橋スラブの補強工法において、前記充填材はモルタルであることを特徴とする溝形鋼とデッキプレートを用いた高架橋スラブの補強工法。
【請求項5】
請求項1記載の溝形鋼とデッキプレートを用いた高架橋スラブの補強工法において、前記溝形鋼の端部の下面に主桁受を配置し、該主桁受をアンカー筋によって固定することを特徴とする溝形鋼とデッキプレートを用いた高架橋スラブの補強工法。
【請求項6】
請求項1記載の溝形鋼とデッキプレートを用いた高架橋スラブの補強工法において、前記デッキプレートに前記既設スラブ上面からの水を抜くための穴を形成することを特徴とする溝形鋼とデッキプレートを用いた高架橋スラブの補強工法。
【請求項7】
請求項1記載の溝形鋼とデッキプレートを用いた高架橋スラブの補強工法において、前記デッキプレートの橋軸方向末端部に隣接して端部隙間塞ぎを配置することを特徴とする溝形鋼とデッキプレートを用いた高架橋スラブの補強工法。
【請求項8】
(a)既設スラブの下面に橋軸直角方向に配置される溝形鋼と、
(b)該溝形鋼の上に橋軸方向に設置されるデッキプレートと、
(c)前記既設スラブと前記デッキプレートとの間に充填される充填材とを具備することを特徴とする溝形鋼とデッキプレートを用いた高架橋スラブの補強構造。
【請求項9】
請求項8記載の溝形鋼とデッキプレートを用いた高架橋スラブの補強構造において、一対の前記溝形鋼は、前記既設スラブに打設されるアンカー筋が貫通する隙間を前記溝形鋼のウェブ同士の間に隔てて、前記アンカー筋を挟み込むようにして配置されることを特徴とする溝形鋼とデッキプレートを用いた高架橋スラブの補強構造。
【請求項10】
請求項8記載の溝形鋼とデッキプレートを用いた高架橋スラブの補強構造において、前記一対の溝形鋼の上面及び下面フランジをにそれぞれ連結する主桁連結部を具備することを特徴とする溝形鋼とデッキプレートを用いた高架橋スラブの補強構造。
【請求項11】
請求項8記載の溝形鋼とデッキプレートを用いた高架橋スラブの補強構造において、前記充填材はモルタルであることを特徴とする溝形鋼とデッキプレートを用いた高架橋スラブの補強構造。
【請求項12】
請求項8記載の溝形鋼とデッキプレートを用いた高架橋スラブの補強構造において、前記溝形鋼の端部の下面に配置され、アンカー筋によって固定される主桁受を具備することを特徴とする溝形鋼とデッキプレートを用いた高架橋スラブの補強構造。
【請求項13】
請求項8記載の溝形鋼とデッキプレートを用いた高架橋スラブの補強構造において、前記デッキプレートは前記既設スラブ上面からの水を抜くために形成された穴を有することを特徴とする溝形鋼とデッキプレートを用いた高架橋スラブの補強構造。
【請求項14】
請求項8記載の溝形鋼とデッキプレートを用いた高架橋スラブの補強構造において、前記デッキプレートの橋軸方向末端部に隣接して配置される端部隙間塞ぎを具備することを特徴とする溝形鋼とデッキプレートを用いた高架橋スラブの補強構造。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2012−229534(P2012−229534A)
【公開日】平成24年11月22日(2012.11.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−97430(P2011−97430)
【出願日】平成23年4月25日(2011.4.25)
【出願人】(000173784)公益財団法人鉄道総合技術研究所 (1,666)
【出願人】(303056368)東急建設株式会社 (225)
【Fターム(参考)】