説明

溶剤回収装置

【課題】本発明の目的は、工場等から排出される高沸点溶剤を含む被処理ガスから溶剤を低コスト且つ効率よく回収する溶剤回収装置を提供することである。
【解決手段】被処理ガスを一次冷却する一次冷却器と、一次冷却後の被処理ガスを20℃以下に二次冷却する二次冷却器とから構成される冷却回収部と、冷却回収後の被処理ガスに残存する溶剤蒸気を吸着剤に吸収させて分離回収する吸着回収部を有する溶剤回収装置であって、一次冷却器と二次冷却器との間に、一次冷却後の被処理ガスを、二次冷却前に冷却用媒体と熱交換させて冷却する熱交換器1を、吸着回収部の後に、溶剤蒸気を分離回収した後の処理済ガスを加熱用媒体で加熱する熱交換器2を設け、熱交換器1と熱交換器2との間において共通熱媒体を循環させる冷熱回収用循環路と、熱交換器2で熱交換した後の熱媒体を冷却する熱交換器3を設けた溶剤回収装置である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、工場等から排出される高沸点溶剤を含む被処理ガスから溶剤を効率的且つ低コストで回収する溶剤回収装置に関する。
【背景技術】
【0002】
工場等で使用されるN−メチル−2−ピロリドン(NMP)、シクロヘキサノン、引火点の高い炭化水素類等の高沸点溶剤は、引火点が低く、火炎の恐れがある低沸点溶剤に比して安全であるが、人体に対しては有害であるため、工場等から排出される溶剤を含む空気から分離回収する必要がある。
【0003】
従来、高沸点溶剤を回収する方法としては、溶剤を含有する被処理ガスを直接冷却する冷却法が採用されているが、冷却のみで沸点が150〜300℃程度の溶剤をほぼ完全に凝縮させるには多大なエネルギーを必要とする。例えば、NMPの場合、20℃における空気中の飽和濃度は約400ppmであり、これを冷却だけで90%以上凝縮しようとすると、−10℃の冷却が必要であり、現実的ではない。また、活性炭等を使った吸着法もあるが、該方法は、脱着の熱源として水蒸気を使用するため脱着容量が小さく再生が不十分となり易いこと及び活性炭が可燃性であるために高温での脱着ができず再生が不十分となるという理由から、主に低沸点溶剤の回収に対して使用されている。
【0004】
この問題を解決するために、被処理ガスを、冷水を使用する冷却器で溶剤を凝縮回収した後、残存溶剤を含む被処理ガスをさらに吸着剤を用いて残存溶剤を吸着除去する回収装置が提案されている。(例えば、特許文献1、2、3)
しかし、この方法では高温の被処理ガスを冷却するため多量の冷水が必要になるため運転コストが高くなり問題となっている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平9−173758号公報
【特許文献2】特開平9−038403号公報
【特許文献3】特開2010−069435号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明の目的は、工場等から排出される高沸点溶剤を含む被処理ガスから溶剤を低コスト且つ効率よく回収する溶剤回収装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の溶剤回収装置は、溶剤蒸気を含む被処理ガスを一次冷却用媒体にて一次冷却する一次冷却器と、一次冷却後の被処理ガスを一次冷却用媒体よりも低温の二次冷却用媒体にて二次冷却する二次冷却器とから構成される冷却回収部と、冷却後の被処理ガスに残存する溶剤蒸気を吸着剤に吸収させて被処理ガスから分離回収する吸着回収部を有する溶剤回収装置であって、前記冷却回収部において、前記一次冷却器と前記二次冷却器との間に、一次冷却後の被処理ガスを、二次冷却前に冷却用媒体と熱交換させて冷却する熱交換器1を、前記吸着回収部の後に、溶剤蒸気を分離回収した後の処理済ガスを加熱用媒体で加熱する熱交換器2を設け、熱交換器1と熱交換器2との間において共通熱媒体を循環させる冷熱回収用循環路を設けた溶剤回収装置である。
【0008】
本発明の溶剤回収装置では、吸着回収部に導入される被処理ガスの温度を20℃以下に冷却する。また、熱交換器1と熱交換器2の間の冷熱回収用循環路において、熱交換器2で熱交換した後の熱媒体を冷却する熱交換器3を設けることも包含する。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、二次冷却前の被処理ガスを、吸着回収後の処理済ガスの冷熱を利用し冷却できるため、二次冷却器にかかる運転コストを抑えることができる。そのため、工場等から排出される高沸点溶剤を含む被処理ガスから溶剤を、低コスト且つ効率よく回収することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】本発明の溶剤回収装置のフローシートの一例を示す図である。
【図2】従来の溶剤回収装置のフローシートの一例を示す図である。
【図3】吸着回収部の前に熱交換器2を設けた溶剤回収装置のフローシートを示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本発明の溶剤回収装置は、溶剤蒸気を含む被処理ガスを一次冷却用媒体にて一次冷却する一次冷却器と、一次冷却後の被処理ガスを一次冷却用媒体よりも低温の二次冷却用媒体にて二次冷却する二次冷却器とから構成される冷却回収部と、冷却後の被処理ガスに残存する溶剤蒸気を吸着剤に吸収させて被処理ガスから分離回収する吸着回収部を有する溶剤回収装置である。
【0012】
冷却回収部において、溶剤蒸気を含む被処理ガスは、冷却用媒体との熱交換により冷却され、被処理ガスの温度が下がることによって、被処理ガスに含まれる溶剤蒸気が凝縮し液化する。液化された溶剤は、例えば、冷却器に備えられた回収容器などに集められ、回収される。
【0013】
一次冷却器に用いられる一次冷却用媒体としては冷却水を使用することが好ましく、主に冷却塔などから供給される、30〜35℃の冷却水を使用することがより好ましい。一次冷却後の被処理ガスの温度は、30〜50℃とすることが好ましく、35〜45℃とすることがより好ましく、35〜40℃とすることがさらに好ましい。
【0014】
二次冷却器に用いられる二次冷却用媒体としては、2〜10℃の冷水を用いることが好ましく、5〜7℃の冷水を用いることがより好ましい。二次冷却後の被処理ガスの温度は20℃以下であることが好ましい。二次冷却後、吸着回収部に導入される被処理ガスの温度が20℃より高いと吸着剤への吸着効率が低下する傾向にある。
【0015】
さらに本発明では、冷却回収部において、一次冷却器と二次冷却器との間に、一次冷却後の被処理ガスを、二次冷却前に冷却用媒体と熱交換させて冷却する熱交換器1を、また、吸着回収部の後に、溶剤蒸気を分離回収した後の処理済ガスを加熱用媒体で加熱する熱交換器2を設けることを必須とする。そして、熱交換器1と熱交換器2との間において共通熱媒体を循環させる冷熱回収用循環路を設けている。
【0016】
一次冷却器と二次冷却器との間に熱交換器1を設けて被処理ガスを冷却することで、二次冷却器に導入される被処理ガスの温度を下げることができる。そのため、二次冷却で被処理ガスを20℃以下に冷却する際に必要な冷却用媒体の量を減らすことができ、運転コストを抑えることができる。二次冷却用媒体は、一次冷却用媒体と比して運転コストが高価であるため、二次冷却用媒体の使用量を減らすことで、運転コストを大きく押さえることができる。また熱交換器1と熱交換器2との間において共通熱媒体を循環させる冷熱回収用循環路を設けることで、吸着回収部から排出される処理済ガスの冷熱を溶剤回収効率に影響を与えることなく利用できるため、エネルギー効率よく溶剤回収を行うことができる。熱交換器2を二次冷却器と吸着回収部との間に設置した場合は、吸着回収部に導入される被処理ガスの温度が上昇し、溶剤回収効率が低下する傾向にある。また、熱交換器1と熱交換器2の間の冷熱回収用循環路において、熱交換器2で熱交換した後の熱媒体を冷却する熱交換器3を設けてもよい。
【0017】
本発明で好適に回収される溶剤とは、主に沸点が150℃以上、好ましくは150〜300℃の有機溶剤であり、例えばNMP、シクロヘキサノン、N,N−ジメチルホルムアミド(DMF)、N,N−ジメチルアセトアミド(DMAc)などが挙げられる。
【0018】
本発明で吸着回収部に使用される吸着回収装置のシステムとしては、特に限定はされないが、回転式有機溶剤蒸気吸着装置を用いることが好ましい。さらに使用される吸着剤としては、例えば、疎水性ゼオライト、活性炭、活性炭素繊維、シリカゲル、活性アルミナなどがあげられる。中でも、不燃性、高耐熱性という特性により高温再生が可能であり、且つ不活性であることよりシクロヘキサノン等の熱重合性の高い溶剤も処理可能であるため、疎水性ゼオライトが好ましい。
【0019】
回転式有機溶剤蒸気吸着装置を用いた場合、吸着回収部はケーシングと耐熱シールにより、被処理ガスに含まれる溶剤を吸着剤で吸着回収する吸着ゾーン/吸着剤に吸着された溶剤を高温の加熱空気で脱着させ吸着剤を再生する再生ゾーン/再生処理により加熱された吸着剤を冷却する冷却ゾーンに区分され連続的に回転しており、再生ゾーン又は冷却ゾーンに処理済ガスの一部を供給し、再生処理又は冷却処理を行っている。
【0020】
再生ゾーン又は冷却ゾーンに供給される処理済ガスとしては、処理済ガスの1/10〜1/3を使用するのが好ましい。再生ゾーンに処理済ガスを供給する場合、蒸気等を用いた熱交換器により、処理済ガスを100〜200℃に加熱し、再生ゾーンに供給するのが、溶剤の脱着効率を向上させるために好ましい。また、吸着剤を冷却するために冷却ゾーンを通過させた後の処理済ガスは、吸着剤との熱交換により温度が上昇するため、引き続き再生ゾーンに供給するガスとして使用すれば、再生ゾーンにガスを供給する際の熱交換器の蒸気負荷を軽減できる。
【0021】
また、再生ゾーンに供給する処理済ガスとして、熱交換器2を通過し温度が上昇した処理済ガスを使用すると、再生ゾーンにガスを供給する際の熱交換器の蒸気負荷をさらに軽減できるため好ましい。
【0022】
回転式有機溶剤蒸気吸着装置においては、吸着ゾーンで吸着剤に吸着された有機溶剤を再生ゾーンにより被処理ガス流量よりも少ない流量の加熱空気で脱着させることにより、被処理ガスよりも高濃度で高沸点溶剤を含有する脱着排ガスを得ることができる。装置上の吸脱着による高沸点溶剤蒸気の濃縮倍率Xは単位時間当たりの被処理ガス流量Vと脱着用ガス流量vとの比率によって決まり、X=V/vの関係がある。通常、装置定数と運転条件は濃縮倍率が約5〜15になるように選ばれる。
【0023】
回転式有機溶剤蒸気吸着装置を本発明に用いる場合、再生ゾーン及び冷却ゾーンの好適大きさは、被処理ガスが含有する有機溶剤の種類、濃度、用いる吸着剤の吸脱着特性、所望する濃縮倍率、ローターの回転速度等によって決まるが、通常、面積比で約1/10〜1/3を再生ゾーンにとり、冷却ゾーンを有する場合はこれを再生ゾーンと同程度ないし約1/2にするのが好ましい。
【実施例】
【0024】
次に、本発明を図面に基づいて、さらに詳細に説明するが、これは単に例示であって、本発明を制限するものではない。
【0025】
[実施例1]
本発明の溶剤回収装置のフローシートの一例を図1に示した。
工場などの生産工程から排出された900Nm/min、130℃で1200ppmのNMPを含む被処理ガスは、熱交換器2から排出され、生産工程に戻し入れられる処理後の処理済ガスと、熱交換器4での熱交換によって約60℃に冷却される。次に、熱交換器4から排出された被処理ガスは、一次冷却器にて冷却塔より供給された冷却水を冷却用媒体として、熱交換により約40℃に冷却される。
【0026】
一次冷却後の被処理ガスは、次いで熱交換器1で熱交換され24℃まで冷却された後、二次冷却器にて冷水を冷却用媒体として、18℃にまで冷却される。二次冷却後の被処理ガスに含まれるNMPは約400ppmであった。
二次冷却後の被処理ガスは、残存するNMPをさらに除去するため、ゼオライトを吸着剤とする回転式溶剤吸着装置に送られ、NMPを分離回収される。吸着回収処理後の処理済ガスは、18℃でNMPの残存量は20ppm以下であった。
【0027】
次いで、吸着回収後の処理済ガスは、熱交換器2において加熱用媒体と熱交換される。この熱交換器2で使用され、冷却された熱媒体は、熱交換器3にてさらに冷却された後、熱交換器1の冷却用媒体として使用され加熱され、再び熱交換器2の加熱用媒体として循環使用される。
熱交換器2から排出された処理済ガスは、熱交換器4の冷却用媒体として使用された後、生産工程に戻し入れられる。
【0028】
また、熱交換器2から排出される処理済ガスの一部は、吸着回収部の冷却用媒体として使用された後、熱交換器5により蒸気を加熱用媒体として、140℃に加熱された後、吸着回収部の吸着剤の脱着用加熱空気(吸着剤に吸収されていた溶剤を脱着するためのガス)として吸着回収装置に導入される。吸着剤から溶剤を脱着した後の溶剤を含むガスは、一次冷却前の被処理ガスと合流し、再び溶剤の回収工程に戻される。
この溶剤回収装置において、1時間に一次冷却器で使用された冷却水の量は63mであり、二次冷却器で使用された冷水の量は61mであり、蒸気の量は170kgであった。
【0029】
[比較例1]
従来の溶剤回収装置のフローシートの一例を図2に示した。
工場などの生産工程から排出された900Nm/min、130℃で1200ppmのNMPを含む被処理ガスは、吸着回収部から排出され生産工程に戻し入れられる処理後の処理済ガスと、熱交換器4での熱交換によって約50℃に冷却される。次に、熱交換器4から排出された被処理ガスは、一次冷却器にて冷却塔より供給された冷却水を冷却用媒体として、熱交換により約40℃に冷却される。
【0030】
一次冷却後の被処理ガスは、次いで、二次冷却器にて冷水を冷却用媒体として、18℃にまで冷却される。二次冷却後の被処理ガスに含まれるNMPは約400ppmであった。
二次冷却後の被処理ガスは、残存するNMPをさらに除去するため、ゼオライトを吸着剤とする回転式溶剤吸着装置に送られ、NMPを分離回収される。吸着回収処理後の処理済ガスは、18℃でNMPの残存量は20ppm以下であった。
【0031】
次いで、吸着回収後の処理済ガスは、熱交換器4の冷却用媒体として使用された後、生産工程に戻し入れられる。
また、吸着回収後の処理済ガスの一部は、吸着回収部の冷却用媒体として使用された後、熱交換器5により蒸気を熱媒体として、140℃に加熱された後、吸着回収部の吸着剤の脱着用加熱空気として吸着回収装置に導入される。吸着剤から溶剤を脱着した後の溶剤を含むガスは、一次冷却前の被処理ガスと合流し、再び溶剤の回収工程に戻される。
この溶剤回収装置において、1時間に使用される冷水の量は97mであり、蒸気の量は220kgであり、実施例1と比較して、多大な運転コストを要した。
【0032】
[比較例2]
吸着回収部の前に熱交換器2を設けた溶剤回収装置のフローシートを図3に示した。
工場などの生産工程から排出された900Nm/min、130℃で1200ppmのNMPを含む被処理ガスは、吸着回収部から排出され、生産工程に戻し入れられる処理後の処理済ガスと、熱交換器4での熱交換によって約60℃に冷却される。次に、熱交換器4から排出された被処理ガスは、一次冷却器にて冷却塔より供給された冷却水を冷却用媒体として、熱交換により約40℃に冷却される。
【0033】
一次冷却後の被処理ガスは、次いで熱交換器1で熱交換され24℃まで冷却された後、二次冷却器にて冷水を冷却用媒体として、18℃にまで冷却される。二次冷却後の被処理ガスに含まれるNMPは約400ppmであった。
二次冷却後の被処理ガスは、熱交換器2において熱媒体と熱交換され、27℃に加熱された後、残存するNMPをさらに除去するため、ゼオライトを吸着剤とする回転式溶剤吸着装置に送られ、NMPを分離回収される。吸着回収処理後の処理済ガスは、27℃でNMPの残存量は40ppmであった。吸着回収部に導入されるガスの温度が高すぎたため、実施例1と比較して、吸着率が十分ではなかった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
溶剤蒸気を含む被処理ガスを一次冷却用媒体にて一次冷却する一次冷却器と、一次冷却後の被処理ガスを一次冷却用媒体よりも低温の二次冷却用媒体にて二次冷却する二次冷却器とから構成される冷却回収部と、冷却後の被処理ガスに残存する溶剤蒸気を吸着剤に吸収させて被処理ガスから分離回収する吸着回収部を有する溶剤回収装置であって、前記冷却回収部において、前記一次冷却器と前記二次冷却器との間に、一次冷却後の被処理ガスを、二次冷却前に冷却用媒体と熱交換させて冷却する熱交換器1を、前記吸着回収部の後に、溶剤蒸気を分離回収した後の処理済ガスを加熱用媒体で加熱する熱交換器2を設け、熱交換器1と熱交換器2との間において共通熱媒体を循環させる冷熱回収用循環路を設けることを特徴とする溶剤回収装置。
【請求項2】
吸着回収部に導入される被処理ガスの温度が20℃以下であることを特徴とする請求項1に記載の溶剤回収装置。
【請求項3】
熱交換器1と熱交換器2の間の冷熱回収用循環路において、熱交換器2で熱交換した後の熱媒体を冷却する熱交換器3を設けることを特徴とする請求項1又は2に記載の溶剤回収装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2012−30174(P2012−30174A)
【公開日】平成24年2月16日(2012.2.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−171844(P2010−171844)
【出願日】平成22年7月30日(2010.7.30)
【出願人】(000221812)東邦化工建設株式会社 (8)
【Fターム(参考)】