説明

溶剤型グラビアインキ

【課題】各種プラスチックフィルムに対して優れた接着性、耐ブロッキング性、ラミネー
ト強度、耐ボイル適性などの塗膜物性と耐版かぶり性に優れた溶剤型グラビアインキを提
供すること。
【解決手段】ポリウレタン樹脂A、酸化チタン、および有機溶剤からなる顔料分散体に、
ポリウレタン樹脂B、有機溶剤を混合してなる溶剤型グラビアインキにおいて、ポリウレ
タン樹脂Aが分子の末端に下記一般式(1)で表されるアルコキシシリル基を有し、かつポ
リウレタン樹脂Bが分子の末端にアミノ基を有し、かつ側鎖に水酸基を有することを特徴
とする溶剤型グラビアインキ。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、溶剤型グラビアインキ、更に詳しくは各種プラスチックフィルムに対して優
れた接着性、耐ブロッキング性、ラミネート強度、耐ボイル適性などの塗膜物性と耐版か
ぶり性に優れた溶剤型グラビアインキに関する。
【背景技術】
【0002】
グラビアインキは、被印刷体に美粧性、機能性を付与させる目的で広く用いられている
。グラビア印刷された被印刷体が包装材料とりわけ食品包材として用いられる場合、ラミ
ネート加工が施されるのが一般的である。この場合、内容物の種類や使用目的に応じて様
々な被印刷体やラミネート加工が利用される。
【0003】
この様なラミネート包材に用いられる印刷インキには、各種プラスチックフィルムに対
する接着性、耐ブロッキング性、ラミネート強度、ボイル・レトルト適性などの塗膜物性
が優れ、さらにポリイソシアネート化合物を加えることにより、これらの塗膜物性をさら
に向上させることが可能な、一級アミンや水酸基を持つポリウレタン樹脂をバインダーと
したグラビアインキが広く用いられている。しかしながら、このようなポリウレタン樹脂
は、顔料分散性が不十分であり、特に着色剤に酸化チタンを用いた場合、顔料凝集物がシ
リンダーやドクターの磨耗を促進させ、版かぶりやドクター筋といった印刷加工時の問題
を引き起こすことがあった。
【0004】
酸化チタンの表面改質材料としてシランカップリング剤が用いられることがある。一般
的な処理方法には、酸化チタンに直接シランカップリング剤を乾式または湿式法にて処理
する方法などが挙げられるが、これらの方法では、顔料表面への吸着物質による立体障害
効果が得られにくく十分な顔料分散性が得られなかった。また、特開平6−49404号
公報にはアルコキシシリル基を分子内に組み込んだウレタン樹脂を用いた印刷インキが開
発されているが、耐版かぶり性とポリオレフィンフィルムへの接着性やボイルレトルト適
性などの塗膜物性を両立するものではなかった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平6−49404号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、各種プラスチックフィルムに対して優れた接着性、耐ブロッキング性、ラミ
ネート強度、耐ボイル適性などの塗膜物性と耐版かぶり性に優れた溶剤型グラビアインキ
を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、前記した課題を解決するために鋭意研究を重ねた結果、酸化チタンと分
子の末端にアルコキシシリル基を有するポリウレタン樹脂を混合・分散して得られる顔料
分散体に、分子の末端にアミノ基を有し、かつ側鎖に水酸基を有するポリウレタン樹脂で
希釈して得られる溶剤型グラビアインキが、広範囲な種類のプラスチックフィルムに対し
て優れた接着性、耐ブロッキング性、ラミネート強度、耐ボイル適性などの塗膜物性と耐
版かぶり性に優れることを見出した。
【0008】
すなわち本発明は、高分子ポリオール、ポリイソシアネート化合物および鎖延長剤を反
応せしめて得られるアルコキシシリル基を有するポリウレタン樹脂A、酸化チタンおよび
有機溶剤からなる顔料分散体に、アミノ基および水酸基を有するポリウレタン樹脂Bおよ
び有機溶剤を混合してなる溶剤型グラビアインキにおいて、
ポリウレタン樹脂Aが、
該分子の末端に下記一般式(1)で表されるアルコキシシリル基

一般式(1)
【化1】

(式中、R1,R2 は、それぞれ独立にメチル基またはエチル基を、nは2または3を表す
。)

を有し、かつ
ポリウレタン樹脂Bが、
該分子の末端にアミノ基
および
該分子の側鎖に水酸基
を有することを特徴とする溶剤型グラビアインキに関するものである。
【0009】
さらに、本発明は、前記ポリウレタン樹脂Aが、
アルコキシシリル基を
当該樹脂固形分1g当り1.0×10−5〜1.0×10−4mol
含有することを特徴とする上記の溶剤型グラビアインキに関するものである。
【0010】
また、本発明は、前記ポリウレタン樹脂Bが、
アミン価1.2〜15.0mgKOH/g
および
水酸基価0.5〜3.0mgKOH/g
であることを特徴とする上記の溶剤型グラビアインキに関するものである。
【0011】
さらに、本発明は、前記ポリウレタン樹脂Aと前記ポリウレタン樹脂Bとの固形分重量
比率が、1:2〜1:8であることを特徴とする上記の溶剤型グラビアインキに関するも
のである。
【0012】
また、本発明は、前記ポリウレタン樹脂Aおよび前記ポリウレタン樹脂Bの固形分重量
総量が、酸化チタンの重量に対して、15〜40重量%であることを特徴とする上記の溶
剤型グラビアインキに関するものである。
【0013】
さらに、本発明は、上記の溶剤型グラビアインキを基材に印刷してなる印刷物に関する
ものである。
【発明の効果】
【0014】
本発明は、各種プラスチックフィルムに対して優れた接着性、耐ブロッキング性、ラミ
ネート強度、耐ボイル適性などの塗膜物性と耐版かぶり性に優れた溶剤型グラビアインキ
である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
本発明について詳細に説明する。なお、本発明において単に「インキ」とは全て「溶剤
型グラビアインキ」を示す。
【0016】
まず、本発明のインキに用いられるアルコキシシリル基を有するポリウレタン樹脂Aに
ついて説明する。分子の末端にアルコキシシリル基を有するポリウレタン樹脂Aとは、ポ
リウレタン樹脂分子の末端の一部または全てにアルコキシシリル基が導入されていること
を意味する。すなわち、ポリウレタン樹脂Aは、該分子の末端に下記一般式(1)で表され
るアルコキシシリル基
一般式(1)
【化2】

(式中、R1,R2 は、それぞれ独立にメチル基またはエチル基を、nは2または3を表す
。)
を有する。
【0017】
さらに、本発明のポリウレタン樹脂Aのアルコキシシリル基の含有量(樹脂1g当り)
は、1.0×10−5〜1.0×10−4molの範囲が好ましい。アルコキシシリル基
の含有量が1.0×10−5molより小さいと、分子量が大きくなり、溶解性が悪くな
るために、耐版かぶり性が低下する。また、アルコキシシリル基の含有量が1.0×10
−4molより大きいと、分子量が小さくなり、耐ブロッキング性が低下する。アルコキ
シシリル基の導入部位が分子の側鎖の場合は、十分な耐版かぶり性が得られない。
【0018】
本発明のインキに用いられるポリウレタン樹脂Aにおいて、アルコキシシリル基を分子
の末端に導入するために使用される化合物としては、アルコキシシリル基を有しかつイソ
シアネート基と反応するアミノ基を1個有する化合物のほか、アルコキシシリル基を有し
かつイソシアネート基を1個有する化合物や、アルコキシシリル基を有しかつエポキシ基
を1個有する化合物などが挙げられる。アルコキシシリル基を有しかつイソシアネート基
と反応するアミノ基を1個有する化合物としては、例えば3−アミノプロピルトリエトキ
シシラン、3−アミノプロピルトリメトキシシランなどが挙げられる。また、アルコキシ
シリル基を有しかつイソシアネート基を1個有する化合物としては、例えば3−イソシア
ネートプロピルトリエトキシシラン、3−イソシアネートプロピルトリメトキシシランな
どが挙げられる。また、アルコキシシリル基を有しかつエポキシ基を1個有する化合物と
しては、例えば3−グリシドキプロピルトリメトキシシラン、3−グリシドキプロピルメ
チルジメトキシシランなどが挙げられる。
【0019】
本発明のインキに用いられるポリウレタン樹脂Aに使用される高分子ポルオールとして
は、ポリウレタン樹脂の製造に一般的に用いられる各種公知のポリオールを用いることが
でき、1種または2種以上を併用してもよい。例えば、酸化メチレン、酸化エチレン、テ
トラヒドロフランなどの重合体または共重合体のポリエーテルポリオール類(1);エチ
レングリコール、1,2―プロパンジオール、1,3―プロパンジオール、2メチル−1
,3プロパンジオール、2エチル−2ブチル−1,3プロパンジオール、1,3―ブタン
ジオール、1,4―ブタンジオール、ネオペンチルグリコール、ペンタンジオール、3−
メチル−1,5ペンタンジオール、ヘキサンジオール、オクタンジオール、1,4−ブチ
ンジオール、1,4―ブチレンジオール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコー
ル、ジプロピレングリコール、グリセリン、トリメチロールプロパン、トリメチロールエ
タン、1,2,6−ヘキサントリオール、1,2,4−ブタントリオール、ソルビトール、ペンタエ
スリトールなどの飽和または不飽和の低分子ポリオール類(2);これらの低分子ポリオ
ール類(2)と、アジピン酸、フタル酸、イソフタル酸、テレフタル酸、マレイン酸、フ
マル酸、こはく酸、しゅう酸、マロン酸、グルタル酸、ピメリン酸、スペリン酸、アゼラ
イン酸、セバシン酸、トリメリット酸、ピロメリット酸などの多価カルボン酸あるいはこ
れらの無水物とを脱水縮合または重合させて得られるポリエステルポリオール類(3);
環状エステル化合物、例えばポリカプロラクトン、ポリバレロラクトン、ポリ(β−メチ
ル−γ−バレロラクトン)等のラクトン類、を開環重合して得られるポリエステルポリオ
ール類(4);前記低分子ポリオール類(2)などと、例えばジメチルカーボネート、ジ
フェニルカーボネート、エチレンカーボネート、ホスゲン等との反応によって得られるポ
リカーボネートポリオール類(5);ポリブタジエングリコール類(6);ビスフェノー
ルAに酸化エチレンまたは酸化プロピレンを付加して得られるグリコール類(7);1分
子中に1個以上のヒドロキシエチル、アクリル酸ヒドロキシプロプル、アクリルヒドロキ
シブチル等、或いはこれらの対応するメタクリル酸誘導体等と、例えばアクリル酸、メタ
クリル酸又はそのエステルとを共重合することによって得られるアクリルポリオール(8
)などが挙げられる。
【0020】
なお、前記ポリエステルポリオール類(3)のなかで、ジオール類(グリコール類)と
二塩基酸とから得られる高分子ジオールは、ジオール類のうち5モル%までを前記水酸基
を3つ以上有する低分子ポリオール類(2)に置換することが出来る。
【0021】
本発明のインキに用いられるポリウレタン樹脂Aに使用されるポリイソシアネート化合
物としては、ポリウレタン樹脂の製造に一般的に用いられる各種公知の芳香族ジイソシア
ネート、脂肪族ジイソシアネート、脂環族ジイソシアネートなどが挙げられる。例えば、
1,5―ナフチレンジイソシアネート、4,4’―ジフェニルメタンジイソシアネート、4,4’
―ジフェニルジメチルメタンジイソシアネート、4,4’―ジベンジルイソシアネート、ジ
アルキルジフェニルメタンジイソシアネート、テトラアルキルジフェニルメタンジイソシ
アネート、1,3―フェニレンジイソシアネート、1,4―フェニレンジイソシアネート、トリ
レンジイソシアネート、ブタン―1,4―ジイソシアネート、ヘキサメチレンジイソシアネ
ート、イソプロピレンジイソシアネート、メチレンジイソシアネート、2,2,4―トリメチ
ルヘキサメチレンジイソシアネート、リジンジイソシアネート、シクロヘキサン―1,4―
ジイソシアネート、キシリレンジイソシアネート、イソホロンジイソシアネート、ジメリ
ールジイソシアネート、ジシクロヘキシルメタン―4,4’―ジイソシアネート、1,3―ビス
(イソシアネートメチル)シクロヘキサン、メチルシクロヘキサンジイソシアネート、ノ
ルボルナンジイソシアネート、mーテトラメチルキシリレンジイソシアネート、4,4−ジ
フェニルメタンジイソシアネート、トリレンジイソシアネート、ビス−クロロメチル−ジ
フェニルメタン−ジイソシアネート、2,6−ジイソシアネート−ベンジルクロライドやダ
イマー酸のカルボキシル基をイソシアネート基に転化したダイマージイソシアネート等が
あげられる。これらのジイソシアネート化合物は単独で、または2種以上を混合して用い
ることができる。
【0022】
本発明のインキに用いられるポリウレタン樹脂Aに使用される鎖伸長剤としては、エチ
レンジアミン、プロピレンジアミン、ヘキサメチレンジアミン、ジエチレントリアミン、
トリエチレンテトラミン、イソホロンジアミン、ジシクロヘキシルメタン―4,4’―ジ
アミンなどの他、2―ヒドロキシエチルエチレンジアミン、2―ヒドロキシエチルプロピ
ルジアミン、2―ヒドロキシエチルプロピレンジアミン、ジ―2―ヒドロキシエチルエチ
レンジアミン、ジ―2―ヒドロキシエチレンジアミン、ジ―2―ヒドロキシエチルプロピ
レンジアミン、2―ヒドロキシピロピルエチレンジアミン、ジ―2―ヒドロキシピロピル
エチレンジアミン、ジ―2―ヒドロキシプロピルエチレンジアミンなど分子内に水酸基を
有するアミン類も用いることが出来る。これらの鎖伸長剤は単独で、または2種以上を混
合して用いることができる。
【0023】
また、反応停止を目的とした末端封鎖剤として、一価の活性水素化合物を用いることも
できる。かかる化合物としてはたとえば、ジーnーブチルアミン等のジアルキルアミン類
やエタノール、イソプロピルアルコール等のアルコール類があげられる。これらの末端封
鎖剤は単独で、または2種以上を混合して用いることができる。
【0024】
本発明のインキに用いられるポリウレタン樹脂Aは、従来公知の方法、例えば、特開昭
62−153366号公報、特開昭62−153367号公報、特開平1−236289
号公報、特開平2−64173号公報、特開平2−64174号公報、特開平2−641
75号公報などに開示されている方法により得ることができる。具体的には、高分子ポリ
オールとジイソシアネート化合物とをイソシアネート基が過剰となる割合で反応させ、末
端イソシアネート基のプレポリマーを得、得られるプレポリマーを、適当な溶剤中、すな
わち、ノントルエン系グラビアインキ用の溶剤として通常用いられる、酢酸エチル、酢酸
プロピル、酢酸ブチルなどのエステル系溶剤;アセトン、メチルエチルケトン、メチルイ
ソブチルケトンなどのケトン系溶剤;メタノール、エタノール、イソプロピルアルコール
、n−ブタノールなどのアルコール系溶剤;メチルシクロヘキサン、エチルシクロヘキサ
ンなどの炭化水素系溶剤;あるいはこれらの混合溶剤の中で、鎖伸長剤および(または)
末端封鎖剤と反応させる二段法、あるいは高分子ポリオール、ジイソシアネート化合物、
鎖伸長剤および(または)末端封鎖剤を上記のうち適切な溶剤中で一度に反応させる一段
法により製造される。これらの方法のなかでも、均一なポリウレタン樹脂を得るには、二
段法によることが好ましい。また、ポリウレタン樹脂を二段法で製造する場合、鎖伸長剤
および(または)末端封鎖剤のアミノ基の合計(当量比)が1/0.8〜1.3の割合に
なるように反応させることが好ましい。イソシアネート基とアミノ基との当量比が1/よ
り小さいときは、鎖伸長剤および(または)末端封鎖剤が未反応のまま残存し、ポリウレ
タン樹脂が黄変したり、印刷後臭気が発生したりする場合がある。
【0025】
次に本発明のインキに用いられるアミノ基および水酸基を有するポリウレタン樹脂Bに
ついて説明する。分子の末端にアミノ基を有し、かつ側鎖に水酸基を有するポリウレタン
樹脂Bとは、ポリウレタン樹脂分子の末端の一部および全てにアミノ基が導入されており
、かつ側鎖に水酸基が導入されていることを意味する。アミノ基は側鎖に導入されていて
も良いが、側鎖のみの導入では印刷基材への十分な接着性が得られないため、末端にも導
入することが必須である。本発明のポリウレタン樹脂Bのアミン価は1.2〜15.0m
gKOH/gであることが好ましい。アミン価が1.2mgKOH/gより小さいと印刷
基材への接着性が劣り、15.0mgKOH/gより大きいと耐ブロッキング性が劣る。
また、水酸基価は0.5〜3.0mgKOH/gが好ましい。水酸基はポリイソシアネー
ト硬化剤との反応による塗膜物性の向上効果に加え、ポリウレタン樹脂Aに導入されたア
ルコキシシリル基との反応による塗膜物性の向上効果が得られる。ただし、イソシアネー
ト硬化剤を用いない場合、水酸基価が3.0mgKOH/gを超えると耐ボイル適性の低
下が見られる。水酸基価が0.5mgKOH/gより小さいとポリウレタン樹脂Aに導入
されたアルコキシシリル基との反応が十分ではなく、耐ボイル性の低下が見られる。
【0026】
本発明のインキに用いられるポリウレタン樹脂Bに使用される高分子ポリオール、ジイ
ソシアネート化合物および鎖伸長剤は、前記ポリウレタン樹脂Aと同様のものを用いるこ
とができ、製造法についても前記ポリウレタン樹脂Aと同様の方法で製造することができ
る。
【0027】
このようにして得られるポリウレタン樹脂Aおよびポリウレタン樹脂Bの重量平均分子
量は、20,000〜100,000の範囲内とすることが好ましい。ポリウレタン樹脂
の重量平均分子量が20,000未満の場合には、得られるインキの組成物の耐ブロッキ
ング性、印刷被膜の強度や耐油性などが低くなる傾向があり、100,000を超える場
合には、得られるインキ組成物の粘度が高くなり、印刷皮膜の光沢が低くなる傾向がある

【0028】
本発明のインキの着色剤として使用する酸化チタンは、特に限定されるものではなく、
一般的なアルミナ処理やシリカ処理の酸化チタンを用いることが出来る。また、ポリウレ
タン樹脂Aとポリウレタン樹脂Bの比率は1:2〜1:8が好ましい。この比率よりもポ
リウレタン樹脂Aが多くなると接着性やボイル適性が低下し、ポリウレタン樹脂Bが多く
なると耐版かぶり性が低下する。また、本発明のインキにおける酸化チタンとポリウレタ
ン樹脂の含有量の比率は、ポリウレタン樹脂Aとポリウレタン樹脂Bの固形分総量が、酸
化チタンの重量に対し15〜40重量%であることが好ましい。ポリウレタン樹脂の固形
分総量が、酸化チタンの重量に対し15重量%より少ないと接着性とラミネート強度の低
下が見られ、40重量%より多いと耐ブロッキング性の低下が見られる。ポリウレタン樹
脂Aをシンニングに用いても良好な塗膜物性は得られず、またポリウレタン樹脂Bを分散
に使用しても良好な耐版かぶり性は得られない。
【0029】
本発明のインキは、前記ポリウレタン樹脂Aおよびポリウレタン樹脂Bのほかに、必要
に応じて併用樹脂、有機溶剤、体質顔料、レベリング剤、消泡剤、ワックス、可塑剤、赤
外線吸収剤、紫外線吸収剤、芳香剤、難燃剤なども含むこともできる。また、必要に応じ
て有機顔料や黄・紅・藍・墨などの色インキと混合することも出来る。
【0030】
本発明のインキに必要に応じて併用される樹脂の例としては、本発明以外のポリウレタ
ン樹脂、塩化ビニル−酢酸ビニル共重合樹脂、塩素化ポリプロピレン樹脂、エチレン−酢
酸ビニル共重合体樹脂、酢酸ビニル樹脂、ポリアミド樹脂、アクリル樹脂、ポリエステル
樹脂、アルキッド樹脂、ポリ塩化ビニル樹脂、ロジン系樹脂、ロジン変性マレイン酸樹脂
、ケトン樹脂、環化ゴム、塩化ゴム、ブチラール、石油樹脂などを挙げることができる。
併用樹脂は、単独で、または2種以上を混合して用いることができる。
【0031】
本発明のインキに用いられる有機溶剤としては、芳香族系溶剤、ケトン系溶剤、エステ
ル系溶剤、アルコール系溶剤、グリコールエーテル系溶剤などを用いることが出来る。例
えば、トルエン、キシレン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、酢酸エチル
、N−プロピルアセテート、イソプロピルアルコール、N−プロパノール、エタノール、
メチルプロピレングリコールなどが挙げられ、またこれらは混合して用いることが出来る

【0032】
本発明のインキの製造方法としては、顔料分散には、一般な分散機、例えばローラーミ
ル、ボールミル、ペブルミル、アトライター、サンドミルなどを用い、アルコキシシリル
基を有するポリウレタン樹脂A、酸化チタンおよび有機溶剤からなる顔料分散体を製造し
、得られたポリウレタン樹脂Aを含む顔料分散体に、アミノ基および水酸基を有するポリ
ウレタン樹脂Bからなるバインダーおよび有機溶剤、さらに、必要に応じて他の化合物な
どを配合することによりインキを製造することができる。
【0033】
本発明において、顔料分散体を製造するのに、アルコキシシリル基を有するポリウレタ
ン樹脂Aを使用して、分散し、さらに、アミノ基および水酸基を有するポリウレタン樹脂
Bによりシンニングする事が重要であり、この工程により製造される溶剤型グラビアイン
キは、各種プラスチックフィルムに対して優れた接着性、耐ブロッキング性、ラミネート
強度、耐ボイル適性などの塗膜物性と耐版かぶり性に優れるものである。
【0034】
この逆に、顔料分散体を製造するのに、アミノ基および水酸基を有するポリウレタン樹
脂Bを使用して、分散し、さらに、アルコキシシリル基を有するポリウレタン樹脂Aによ
りシンニングすると、諸物性に優れてた溶剤型グラビアインキは得られない。
【0035】
前記方法で製造されたインキ粘度は、顔料の沈降を防ぎ、適度に分散させる観点から1
0mPa・s以上、インキ製造時や印刷時の作業性効率の観点から1000mPa・s以
下の範囲であることが好ましい。尚、上記粘度はトキメック社製B型粘度計で25℃にお
いて測定された粘度である。
【0036】
インキの粘度は、使用される原材料の種類や量、例えばポリウレタン樹脂、着色剤、有
機溶剤などを適宜選択することにより調整することができる。
【実施例】
【0037】
以下、実施例により本発明をさらに詳細に説明するが、本発明はこれに限定されるもの
ではない。なお、本発明において、「部」は重量部、「%」は重量%を示すものとする。
ポリウレタン樹脂のアミン価は、樹脂固形分1g中に含まれるアミノ基を中和するのに必
要とする塩酸と当量の水酸化カリウムのmg数であり、電位差滴定装置を用いて測定を行っ
た。ポリウレタン樹脂の水酸基価は、樹脂固形分1gをアセチル化させたとき、水酸基と結
合した酢酸を中和するのに必要とする水酸化カリウムのmg数であるが、本発明に用いられ
るポリウレタン樹脂は、エステル/アルコールの混合溶液に溶解しているために、水酸基
価の実測が困難であることから、ポリウレタン樹脂の合成処方上の理論値を用いた。ポリ
ウレタン樹脂の重量平均分子量は、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(以下GP
C)を用いて分子量分布を測定し、ポリスチレン換算分子量として求めた。
【0038】
本発明のインキに用いられるポリウレタン樹脂Aの製造例を製造例1〜8、ポリウレタ
ン樹脂Bの製造例を製造例8〜20に示す。
【0039】
〔製造例1〕
温度計および攪拌機を付けた四つ口フラスコに、アジピン酸と3−メチル−1,5ペン
タンジオールから得られる数平均分子量2000のポリエステルジオール(以下PMPA
2000という)183.76部、ポリプロピレングリコール(数平均分子量2000、
以下PPG2000という)46.00部、イソホロンジイソシアネート53.13部、
2−エチルヘキサン酸錫0.06部および酢酸エチル353.9部を窒素気流下にて90
℃で6時間反応させ、末端イソシアネートプレポリマーの溶剤溶液636.85部を得た
。次いでイソホロンジアミン15.00部、3−アミノプロピルトリメトキシシラン2.
15部、酢酸エチル136.00部およびイソプロピルアルコール210.00部を混合
したものを、得られた末端イソシアネートプレポリマーの溶剤溶液636.85部に室温
で徐々に添加し鎖伸張を行い、次に50℃で1時間反応させ、固形分30%、アミン価0
.1以下、水酸基価0.1以下、ポリウレタン樹脂溶液(A1)を得た。またこのポリウレ
タン樹脂のGPCで測定した重量平均分子量は38000であった。
【0040】
〔製造例2−8〕
表1の仕込み比にて、製造例1と同様の操作で、ポリウレタン樹脂溶液(A2〜A8)
を得た。
【0041】
【表1】

【0042】
〔製造例9〕
温度計および攪拌機を付けた四つ口フラスコに、PMPA2000 220.03部、
イソホロンジイソシアネート56.14部、2−エチルヘキサン酸錫0.03部および酢
酸エチル80.00部を窒素気流下にて90℃で6時間反応させ、末端イソシアネートプ
レポリマーの溶剤溶液356.20部を得た。次いでイソホロンジアミン22.68部、
2−(2−アミノエチルアミノ)エタノール1.12部、酢酸エチル410.00部およ
びイソプロピルアルコール210部を混合したものに、得られた末端イソシアネートプレ
ポリマーの溶剤溶液356.20部を室温で徐々に添加し鎖伸張を行い、次に50℃で1
時間反応させ、固形分30%、アミン価4.0、水酸基価2.0のポリウレタン樹脂溶液
(B1)を得た。また、このポリウレタン樹脂のGPCで測定した重量平均分子量は51
000であった。
【0043】
〔製造例10−17〕
表2の仕込み比にて、製造例9と同様の操作で、ポリウレタン樹脂溶液(B2〜B9)を得た。
【0044】
【表2】

【0045】
〔製造例18〕
温度計および攪拌機を付けた四つ口フラスコに、PMPA2000 223.26部、
イソホロンジイソシアネート56.97部、2−エチルヘキサン酸錫0.03部および酢
酸エチル80.00部を窒素気流下にて90℃で6時間反応させ、末端イソシアネートプ
レポリマーの溶剤溶液360.26部を得た。次いでイソホロンジアミン19.74部、
酢酸エチル410.00部およびイソプロピルアルコール210.00部を混合したもの
を、得られた末端イソシアネートプレポリマーの溶剤溶液360.26部に室温で徐々に
添加し鎖伸張を行い、次に50℃で1時間反応させ、固形分30%、アミン価0.1以下
、水酸基価0.1以下、ポリウレタン樹脂溶液(B10)を得た。またこのポリウレタン樹
脂のGPCで測定した重量平均分子量は53000であった。
【0046】
〔製造例19〕
温度計および攪拌機を付けた四つ口フラスコに、PMPA2000 223.80部、
イソホロンジイソシアネート57.11部、2−エチルヘキサン酸錫0.03部および酢
酸エチル80.00部を窒素気流下にて90℃で6時間反応させ、末端イソシアネートプ
レポリマーの溶剤溶液360.94部を得た。次いでイソホロンジアミン17.93部、
2−(2−アミノエチルアミノ)エタノール1.13部、酢酸エチル410.00部およ
びイソプロピルアルコール210.00部を混合したものを、得られた末端イソシアネー
トプレポリマーの溶剤溶液360.94部に室温で徐々に添加し鎖伸張を行い、次に50
℃で1時間反応させ、固形分30%、アミン価0.1以下、水酸基価2.0以下、ポリウ
レタン樹脂溶液(B11)を得た。またこのポリウレタン樹脂のGPCで測定した重量平均
分子量は52000であった。
【0047】
〔製造例20〕
温度計および攪拌機を付けた四つ口フラスコに、PMPA2000 219.51部、
イソホロンジイソシアネート56.01部、2−エチルヘキサン酸錫0.03部および酢
酸エチル80.00部を窒素気流下にて90℃で6時間反応させ、末端イソシアネートプ
レポリマーの溶剤溶液355.55部を得た。次いでイソホロンジアミン24.45部、
酢酸エチル410.00部およびイソプロピルアルコール210.00部を混合したもの
に、得られた末端イソシアネートプレポリマーの溶剤溶液355.55部を室温で徐々に
添加し鎖伸張を行い、次に50℃で1時間反応させ、固形分30%、アミン価4.0、水
酸基価0.1以下のポリウレタン樹脂溶液(B12)を得た。また、このポリウレタン樹
脂のGPCで測定した重量平均分子量は50000であった。
【0048】
〔実施例1〕
酸化チタン(テイカ製チタニックスJR805)35.0部、ポリウレタン樹脂溶液(
A1)8.0部、酢酸エチル8.0部、イソプロピルアルコール3.0部をディソルバー
にて混合した後、サンドミルにて分散を行い、顔料分散体54.0部を得た。この顔料分
散体にポリウレタン樹脂溶液(B1)30.0部、酢酸エチル10.0部、イソプロピル
アルコール6.0部を加え、ディソルバーにて混合し、本発明の溶剤型グラビアインキを
製造した。
【0049】
〔実施例2〜22〕
表3、4の仕込みにて、実施例1と同様の操作で、本発明の溶剤型グラビアインキを製造した。
【0050】
【表3】

【0051】
【表4】

【0052】
〔比較例1〜8〕
表5の仕込みにて、実施例1と同様の操作で、溶剤型グラビアインキを製造した。
【0053】
【表5】

【0054】
得られた溶剤型グラビアインキ100部に対し、メチルエチルケトン、N−プロピルア
セテート、イソプロピルアルコールの混合溶剤(重量比40:40:20)50部を加え
て混合し、1液仕様の希釈インキを得た。
【0055】
得られた溶剤型グラビアインキ100部に対し、メチルエチルケトン、N−プロピルア
セテート、イソプロピルアルコールの混合溶剤(重量比40:40:20)50部と、ヘ
キサメチレンジイソシアネート系硬化剤1.5部を加えて混合し、2液仕様の希釈インキ
を得た。
【0056】
1)耐版かぶり性
上記の調整後の1液仕様および2液仕様の希釈インキをグラビア印刷機に乗せ、耐版か
ぶり性を印刷速度200m/分にて60分空転後の版面の様子から目視判定した。なお判
定基準は次の通りとした。評価結果は表6に示す。
◎・・・全く版かぶりは見られない。
〇・・・画像のエッジ部に版かぶりが見られる。
△・・・画像のエッジ部と画像の内部に版かぶりが見られる。
×・・・非画像部も含めた版全体に版かぶりが見られる。
◎、〇は実用上問題がない範囲である。
【0057】
塗膜物性評価については、上記の調整後の1液仕様の希釈インキを、版深35μmグラ
ビア版を備えたグラビア校正機によりコロナ処理OPPフィルム(東洋紡績(株)製パイレ
ンP2161#20)、コロナ処理PETフィルム(東洋紡績(株)製E5100#12)
およびコロナ処理ナイロンフィルム(ユニチカ(株)製エンブレムON−RT#15)に印刷
して40〜50℃で乾燥し、印刷物を得た。得られた印刷物を用いて以下の試験を行った

【0058】
2)接着性
上記印刷物を24時間放置後、印刷面にセロハンテープを貼り付け、これを急速に剥が
したときの印刷皮膜の
外観の状態を目視判定した。なお判定基準は次の通りとした。評価結果は表6に示す。
〔OPPフィルムへの密着性の判定基準〕
◎・・・印刷皮膜の80%以上がフィルムに残った。
〇・・・印刷皮膜の50〜80%がフィルムに残った。
△・・・印刷皮膜の30〜50%がフィルムに残った。
×・・・印刷皮膜の30%以下がフィルムに残った。
◎、〇は実用上問題がない範囲である。
〔PETフィルムおよびナイロンフィルムへの密着性の判定基準〕
◎・・・全く剥がれなかった。
〇・・・印刷皮膜の80%以上がフィルムに残った。
△・・・印刷皮膜の50〜80%がフィルムに残った。
×・・・印刷皮膜の50%以下がフィルムに残った。
◎、〇は実用上問題がない範囲である。
【0059】
3)耐ブロッキング性
上記印刷物の印刷面と非印刷面が接触するようにフィルムを重ねて、10kgf/cm
の加重をかけ、40℃80%RHの環境下に24時間放置させ、取り出し後、非印刷面
へのインキの転移の状態を5段階評価した。評価結果は表6に示す。
◎・・・非印刷面へのインキの転移量0%
〇・・・転移量10%未満
△・・・転移量10%以上30%未満
×・・・転移量30%以上
◎、〇は実用上問題がない範囲である。
【0060】
4)押し出しラミネート強度および耐ボイル性
上記のPETフィルムおよびナイロンフィルムの印刷物にイソシアネート系のアンカー
コート剤を塗工し、押し出しラミネート機によって溶融ポリエチレンを積層し、40℃で
48時間エージングを行った後のラミネート強度を測定した。また85℃30分のボイル
処理後のラミ浮きの有無を外観により目視判定した。なお判定基準は次の通りとした。評
価結果は表6に示す。
◎・・・全くラミ浮きがない。
〇・・・ブリスターが僅かに生じた。
△・・・一部にデラミネーションが生じた。
×・・・全面にデラミネーションが生じた。
◎、〇は実用上問題がない範囲である。
【0061】
【表6】

【0062】
評価結果から、酸化チタンと分子の末端にアルコキシシリル基を有するポリウレタン樹
脂を混合・分散して得られる顔料分散体に、分子の末端にアミノ基を有し、かつ側鎖に水
酸基を有するポリウレタン樹脂で希釈して得られる溶剤型グラビアインキが、広範囲な種
類のプラスチックフィルムに対して優れた接着性、耐ブロッキング性、ラミネート強度、
耐ボイル適性などの塗膜物性と耐版かぶり性に優れることインキであることが分かった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
アルコキシシリル基を有するポリウレタン樹脂A、酸化チタンおよび有機溶剤からなる
顔料分散体に、アミノ基および水酸基を有するポリウレタン樹脂Bおよび有機溶剤を混合
してなる溶剤型グラビアインキにおいて、
ポリウレタン樹脂Aが、
該分子の末端に下記一般式(1)で表されるアルコキシシリル基

一般式(1)
【化1】


(式中、R1,R2 は、それぞれ独立にメチル基またはエチル基を、nは2または3を表す
。)

を有し、かつ
ポリウレタン樹脂Bが、
該分子の末端にアミノ基
および
該分子の側鎖に水酸基
を有することを特徴とする溶剤型グラビアインキ。
【請求項2】
前記ポリウレタン樹脂Aが、
アルコキシシリル基を
当該樹脂固形分1g当り1.0×10−5〜1.0×10−4mol
含有することを特徴とする請求項1記載の溶剤型グラビアインキ。
【請求項3】
前記ポリウレタン樹脂Bが、
アミン価1.2〜15.0mgKOH/g
および
水酸基価0.5〜3.0mgKOH/g
であることを特徴とする請求項1または2記載の溶剤型グラビアインキ。
【請求項4】
前記ポリウレタン樹脂Aと前記ポリウレタン樹脂Bとの固形分重量比率が、1:2〜1
:8であることを特徴とする請求項1〜3いずれか記載の溶剤型グラビアインキ。
【請求項5】
前記ポリウレタン樹脂Aおよび前記ポリウレタン樹脂Bの固形分重量総量が、酸化チタ
ンの重量に対して、15〜40重量%であることを特徴とする請求項1〜4いずれか記載
の溶剤型グラビアインキ。
【請求項6】
請求項1〜5いずれか記載の溶剤型グラビアインキを基材に印刷してなる印刷物。

【公開番号】特開2012−46587(P2012−46587A)
【公開日】平成24年3月8日(2012.3.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−188194(P2010−188194)
【出願日】平成22年8月25日(2010.8.25)
【出願人】(000222118)東洋インキSCホールディングス株式会社 (2,229)
【Fターム(参考)】