説明

溶剤貯蔵装置

【課題】危険物製造所とみなされない範囲で有機溶剤を貯蔵することによって危険物製造所の厳しい基準が適用されずに省スペース及び低コストで安全に貯蔵することのできる溶剤貯蔵装置を提供する。
【解決手段】本発明の溶剤貯蔵装置1は、印刷機20から発生する被処理ガスを溶剤回収装置30で処理して回収された有機溶剤を貯蔵する装置であり、溶剤回収装置30で回収された有機溶剤を消防法で定める危険物製造所とみなされない範囲で貯留する中間タンク2と、中間タンク2と配管6を介して接続されて中間タンク2に貯留された有機溶剤を移送して貯蔵する貯蔵タンク4と、貯蔵タンク4に貯蔵された有機溶剤を移送して消防法で定める危険物製造所とみなされない範囲で運搬容器に注入する容器注入部7とを備えていることを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、印刷機から発生する被処理ガスを溶剤回収装置で処理して回収された有機溶剤を貯蔵する溶剤貯蔵装置に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、大気汚染に関する問題が深刻になってきているため、大気環境保全に関する法律が年々厳しくなってきている。特に、有機溶剤を大量に使用して放出しているグラビア印刷業界では、有機溶剤の排出量の削減が急務となっている。
【0003】
ところが、グラビア印刷における有機溶剤排出の問題を解決する手段として、印刷時に発生する有機溶剤を含んだ被処理ガスを燃焼させる方法が考えられるが、有機溶剤を燃焼させる際に発生する二酸化炭素の排出が別の問題となっている。
【0004】
そこで、有機溶剤及び二酸化炭素排出の問題を同時に解決する手段として、特許文献1に開示されている溶剤回収装置を設置して有機溶剤を回収する方法が注目されている。この方法によれば有機溶剤の排出量を大幅に削減することが可能となり、大気汚染防止法対策になるだけではなく、二酸化炭素の排出量の削減にもなる。さらに、枯渇資源であり価格が非常に高騰している有機溶剤を有効利用できるという観点からも、有機溶剤の回収は近年非常に関心が高まっている。
【0005】
ここで、特許文献1に開示された溶剤回収装置では、印刷時に発生した有機溶剤を活性炭などの吸着剤で吸着・捕集し、捕集した有機溶剤を加熱した不活性ガスによって脱着し、冷却・液化して有機溶剤を回収している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2009−195828号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、上述した特許文献1に開示された溶剤回収装置では、回収されて装置から流出してきた有機溶剤を貯留する液化貯留部分を備えていた。このような液化貯留部分を備えていると、消防法では危険物製造所とみなされることが一般的であり、危険物製造所とみなされると、保安距離や保有空地を設定したり、製造所の構造や設備にも厳しい基準が設定されるので、スペースやコストが増加してしまうという問題点があった。
【0008】
そこで、本発明は、上述した実情に鑑みて提案されたものであり、省スペース及び低コストで安全に有機溶剤を貯蔵することのできる溶剤貯蔵装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上述した課題を解決するために、本発明に係る溶剤貯蔵装置は、印刷機から発生する被処理ガスを溶剤回収装置で処理して回収された有機溶剤を貯蔵する溶剤貯蔵装置であって、前記溶剤回収装置で回収された有機溶剤を、消防法で定める危険物製造所とみなされない範囲で貯留する中間タンクと、前記中間タンクに貯留された有機溶剤を移送して貯蔵する貯蔵タンクと、前記貯蔵タンクに貯蔵された有機溶剤を移送して、消防法で定める危険物製造所とみなされない範囲で運搬容器に注入する容器注入部とを備えていることを特徴とする。
【0010】
また、本発明に係る溶剤貯蔵装置は、前記貯蔵タンクを屋内に設置していることを特徴とする。
【0011】
さらに、本発明に係る溶剤貯蔵装置は、前記中間タンクを200リットル未満のタンクとしたことを特徴とする。
【0012】
また、本発明に係る溶剤貯蔵装置は、前記貯蔵タンクに貯蔵された有機溶剤の液面を検出する液面センサと、前記液面センサで検出された液面が指定量の液面になったときに、回収した有機溶剤を再利用する業者に連絡する通信手段とを備えていることを特徴とする。
【発明の効果】
【0013】
本発明に係る溶剤貯蔵装置によれば、中間タンクと容器注入部を危険物製造所とみなされない範囲で構成したことにより、中間タンクと容器注入部は少量危険物取扱所とみなされて危険物製造所の厳しい基準が適用されないので、省スペース及び低コストを実現することができる。さらに、危険物製造所とみなされない範囲で少量だけ有機溶剤を貯蔵するので、有機溶剤を再利用するシステムを安全に構築することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】本発明を適用した実施形態に係る溶剤貯蔵装置の構成及び有機溶剤を再利用するシステムを説明するための図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明を適用した実施形態について図面を参照して説明する。
【0016】
[溶剤貯蔵装置の構成]
図1は本実施形態に係る溶剤貯蔵装置の構成及び有機溶剤を再利用するシステムを説明するための図である。
【0017】
図1に示すように、本実施形態に係る溶剤貯蔵装置1は、溶剤回収装置30で回収された有機溶剤を貯留する中間タンク2と、中間タンク2の液面を検出する液面センサ3と、中間タンク2に貯留された有機溶剤を移送して貯蔵する貯蔵タンク4と、貯蔵タンク4の液面を検出する液面センサ5と、中間タンク2と貯蔵タンク4との間を接続する配管6と、貯蔵タンク4に貯蔵された有機溶剤を移送して運搬容器に注入する容器注入部7と、貯蔵タンク4から有機溶剤を移送して運搬容器に注入するためのポンプ8と、液面センサ3、5の検出結果に基づいて有機溶剤の貯蔵量を制御する制御装置9と、貯蔵タンク4の液面が指定量の液面になったときに再利用業者40に連絡する通信装置10とを備えている。
【0018】
ここで、本実施形態に係る溶剤貯蔵装置1は、図1に示す有機溶剤を再利用するためのシステムにおいて、溶剤回収装置30で回収された有機溶剤を再利用業者40が回収するまでの間貯蔵しておくための装置である。
【0019】
中間タンク2は、溶剤回収装置30から流出する有機溶剤を直接受け入れるタンクであり、消防法で定める危険物製造所とみなされない範囲で有機溶剤を貯留する。例えば、消防法では第1石油類の場合200リットル以上になると、危険物製造所とみなされるので、中間タンク2では200リットル未満のタンクを使用する。これにより、中間タンク2は少量危険物取扱所とみなされるので、危険物製造所の厳しい基準が適用されずに省スペース及び低コストを実現することができる。また、危険物製造所とみなされない範囲で少量だけ有機溶剤を貯蔵するので、有機溶剤を再利用するシステムを安全に構築することができる。ただし、タンクの容量に応じて防油提を設けなければならないため、中間タンク2の容量は小さいほうが好ましく、例えば20リットル程度のタンクとすることが好ましい。中間タンク2の容量を20リットルとすれば、溶剤回収装置30から流出する有機溶剤の量を考慮しても頻繁に中間タンク2が満タンになってしまうことはなく、また防油提の大きさも大規模にならないので、適度な容量となって好ましい。
【0020】
液面センサ3は、中間タンク2の液面を検出して、検出した液面の高さを制御装置9に送信する。
【0021】
貯蔵タンク4は、中間タンク2が指定された液面に達すると、配管6を介して有機溶剤を移送して貯蔵するタンクであり、例えば20号タンクを使用する。また、貯蔵タンク4は屋内に設置することが好ましく、その理由は貯蔵タンク4を屋外に設置して屋外タンク貯蔵所とみなされた場合には保有空地のほかに敷地内距離など広いスペースが必要になってしまうためである。そこで、貯蔵タンク4を屋内に設置して屋内危険物貯蔵所とみなされることによって、省スペースを実現することができる。
【0022】
液面センサ5は、貯蔵タンク4の液面を検出して、検出した液面の高さを制御装置9に送信する。
【0023】
容器注入部7は、設置されているポンプ8を利用して貯蔵タンク4から有機溶剤を移送してドラム缶などの運搬容器に注入する。ここでも中間タンク2と同様に消防法で定める危険物製造所とみなされない範囲で運搬容器に注入するようにして、少量危険物取扱所とみなされるようにする。これにより危険物製造所の厳しい基準が適用されることがなくなり、省スペース及び低コストを実現することができる。また、危険物製造所とみなされない範囲で少量だけ有機溶剤を取り扱うので、有機溶剤を再利用するシステムを安全に構築することができる。
【0024】
制御装置9は、液面センサ3、5で検出された液面に基づいて中間タンク2及び貯蔵タンク4に貯蔵されている有機溶剤の量を調節する。例えば、中間タンク2に貯留されている有機溶剤の液面が所定の液面に達すると、有機溶剤を貯蔵タンク4に移送し、貯蔵タンク4に貯蔵されている有機溶剤の液面が所定の液面に達すると、ポンプ8を作動させて有機溶剤を運搬容器に注入する。このようにして制御装置9は中間タンク2及び貯蔵タンク4の有機溶剤の量を調節する。また、貯蔵タンク4の液面が指定量の液面になると、制御装置9は再利用業者40に連絡するために通信装置10に対して命令を送信する。
【0025】
通信装置10は、制御装置9からの命令を受信すると、再利用業者40による有機溶剤の引き取りを促すために、再利用業者40に設置された端末にメールや警告を送信する。
【0026】
[有機溶剤を再利用するシステム]
次に、図1を参照して有機溶剤を再利用するシステムについて説明する。
【0027】
まず、印刷機20ではグラビア印刷等によって印刷が行われる。印刷方法としては、グラビア印刷の他にフレキソ印刷、凸版印刷、スクリーン印刷、オフセット印刷などでもよく、ロールコーティング、スプレーコーティング、ディップコーティングなどのコーティング方法を使用してもよい。ここで使用される印刷インキとしては回収して再利用可能な印刷インキが使用され、例えば酢酸エチルやイソプロピルアルコール等を含み、トルエンを含んでいない印刷インキが使用される。
【0028】
印刷機20では上述した印刷方法で印刷が行われ、印刷乾燥工程で揮発した有機溶剤を含んだ被処理ガスが発生する。例えば、グラビア印刷の場合、印刷インキを印刷に適した粘度及び濃度にまで希釈溶剤で希釈して各印刷ユニットに供給し、印刷インキを基材に塗布した後、オーブンで溶剤分を揮発させて定着させる。揮発した溶剤分等を含んだ被処理ガスは溶剤回収装置30に送られる。
【0029】
溶剤回収装置30では被処理ガスに含まれている有機溶剤を取り出して回収する。まず印刷機20から送られてきた被処理ガスは、揮発性有機化合物(VOC)を濃縮する濃縮装置31で600m/分から50m/分に濃縮され、その後120℃から7℃程度に冷却されてから除湿装置32で除湿される。ここで水分を除去した後に、ハニカム活性炭による吸着と加熱窒素ガスによる脱着工程33が行われ、酸を中和した後に冷却して液化した有機溶剤を回収する。
【0030】
次に、溶剤貯蔵装置1では、溶剤回収装置30で回収された有機溶剤をまず中間タンク2に貯留する。中間タンク2は200リットル未満で好ましくは20リットル程度の小型のタンクなので、貯留された有機溶剤は随時または定期的に貯蔵タンク4へ移送される。このとき液面センサ3によって指定された液面に達したことが検出されると、制御装置9が図示していないポンプや弁を作動させることによって、配管6を介して有機溶剤を貯蔵タンク4へ移送する。
【0031】
貯蔵タンク4では20号タンクで1トン程度まで貯蔵することができ、液面センサ5によって指定された液面に達したことが検出されると、制御装置9が通信装置10に対して再利用業者40に連絡するように命令を送信する。通信装置10は、制御装置9からの命令を受信すると、再利用業者40による有機溶剤の引き取りを促すために、再利用業者40に設置された端末にメールや警告を送信する。また、制御装置9は通信装置10を介して貯蔵タンク4に貯蔵されている有機溶剤の量を常に再利用業者40に連絡するようにしてもよく、連絡された再利用業者40は貯蔵タンク4の貯蔵量に応じて適宜有機溶剤を引き取るようにしてもよい。
【0032】
こうして貯蔵タンク4に有機溶剤が貯蔵されると、容器注入部7では設置されているポンプ8を利用して貯蔵タンク4から有機溶剤を移送してドラム缶などの運搬容器に注入する。このときオペレーターがポンプ8を作動させてドラム缶などの運搬容器に注入してもよいし、制御装置9が貯蔵タンク4の貯蔵量に応じてポンプ8を作動させて運搬容器に注入してもよい。
【0033】
次に、有機溶剤の注入された運搬容器は再利用業者40が随時あるいは定期的に引き取って精製溶剤や他分野の製品を製造するための原料として再利用する。
【0034】
再利用業者40は、必要に応じて回収した有機溶剤の溶剤組成を分析した後、必要に応じて回収溶剤に溶剤を追加して成分を調整し、印刷インキ組成物の原料として再利用する。ここで、回収した有機溶剤の溶剤組成を分析する方法としては、ガスクロマトグラフィー測定、液体クロマトグラフィー測定、赤外吸収スペクトル測定、屈折率測定、密度比重測定、導電率測定、核磁気共鳴吸収法および臭気試験を用いた測定方法から選択される少なくとも1種類以上の方法によって行なうことが好ましい。回収した有機溶剤に追加して成分調整を行なうための溶剤は、新溶剤であってもよいし、上記方法によって得られた回収溶剤であってもよい。また新溶剤と回収溶剤の混合溶剤であってもよい。
【0035】
このように印刷機20で発生した有機溶剤を回収して再利用するので、VOCの排出が抑制されて大気汚染を防止することが可能となる。また、従来ではVOCを燃焼させて大気中に排出していたので、有機溶剤を再利用することにより、CO2の排出も削減することができる。
【0036】
[実施形態の効果]
以上詳細に説明したように、本実施形態に係る溶剤貯蔵装置1によれば、中間タンク2と容器注入部7を危険物製造所とみなされない範囲で構成したことにより、中間タンク2と容器注入部7は少量危険物取扱所とみなされて危険物製造所の厳しい基準が適用されないので、省スペース及び低コストを実現することができる。さらに、危険物製造所とみなされない範囲で少量だけ有機溶剤を貯蔵するので、安全なシステムを構築することができる。
【0037】
また、本実施形態に係る溶剤貯蔵装置1によれば、貯蔵タンク4を屋内に設置したことによって貯蔵タンク4が屋内危険物貯蔵所とみなされるので、保有空地や敷地内距離などの広いスペースが必要なくなって省スペースを実現することができる。
【0038】
さらに、本実施形態に係る溶剤貯蔵装置1によれば、中間タンク2を200リットル未満のタンクとしたことによって中間タンク2が少量危険物取扱所とみなされるので、危険物製造所の厳しい基準が適用されずに省スペース及び低コストを実現することができる。
【0039】
また、本実施形態に係る溶剤貯蔵装置1によれば、貯蔵タンク4の液面が指定量の液面になったときに再利用業者40へ連絡する通信装置10を備えているので、再利用業者40が適時有機溶剤を引き取ることによって大量に有機溶剤が貯蔵されることがなくなり、安全なシステムを構築することができる。
【0040】
なお、上述の実施の形態は本発明の一例である。このため、本発明は、上述の実施の形態に限定されることはなく、この実施の形態以外の形態であっても、本発明に係る技術的思想を逸脱しない範囲であれば、設計などに応じて種々の変更が可能であることは勿論である。
【符号の説明】
【0041】
1 溶剤貯蔵装置
2 中間タンク
3、5 液面センサ
4 貯蔵タンク
6 配管
7 容器注入部
8 ポンプ
9 制御装置
10 通信装置
20 印刷機
30 溶剤回収装置
40 再利用業者

【特許請求の範囲】
【請求項1】
印刷機から発生する被処理ガスを溶剤回収装置で処理して回収された有機溶剤を貯蔵する溶剤貯蔵装置であって、
前記溶剤回収装置で回収された有機溶剤を、消防法で定める危険物製造所とみなされない範囲で貯留する中間タンクと、
前記中間タンクに貯留された有機溶剤を移送して貯蔵する貯蔵タンクと、
前記貯蔵タンクに貯蔵された有機溶剤を移送して、消防法で定める危険物製造所とみなされない範囲で運搬容器に注入する容器注入部と
を備えていることを特徴とする溶剤貯蔵装置。
【請求項2】
前記貯蔵タンクは屋内に設置されていることを特徴とする請求項1に記載の溶剤貯蔵装置。
【請求項3】
前記中間タンクは200リットル未満のタンクであることを特徴とする請求項1または請求項2に記載の溶剤貯蔵装置。
【請求項4】
前記貯蔵タンクに貯蔵された有機溶剤の液面を検出する液面センサと、
前記液面センサで検出された液面が指定量の液面になったときに、回収した有機溶剤を再利用する業者に連絡する通信手段と
を備えていることを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載の溶剤貯蔵装置。

【図1】
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【公開番号】特開2012−56580(P2012−56580A)
【公開日】平成24年3月22日(2012.3.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−198769(P2010−198769)
【出願日】平成22年9月6日(2010.9.6)
【出願人】(593105221)トーホー加工株式会社 (4)
【出願人】(000222118)東洋インキSCホールディングス株式会社 (2,229)
【出願人】(000176752)三菱化工機株式会社 (48)
【出願人】(595004838)大伸化学株式会社 (3)
【Fターム(参考)】