説明

溶媒と溶質とを含む液体から溶媒を分離する方法および装置

【課題】 より少ないエネルギーで溶媒と溶質とを含む液体から溶媒または溶質を分離する方法および装置を提供する。
【解決手段】 実施形態の溶媒と溶質とを含む液体から溶媒を分離する方法は、正浸透膜の第1の面を溶媒と溶質とを含む対象液体に接触させると共に、当該前記正浸透膜の第2の面を、対象溶液中の溶媒を正浸透膜に移動させる力を働かせるための固体性物質を含む回収用液体に接触させることにより、前記対象液体中の溶媒を第2の面の外に移動させ、移動した溶媒をフィルターにより前記固体性物質から分離することにより、溶媒と溶質とを含む液体から溶媒を分離することを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明の実施形態は、溶媒と溶質とを含む液体から溶媒を分離する手段に関する。
【背景技術】
【0002】
現在、溶媒と溶質とを含む液体から溶媒を分離するために用いられている方法は、主に、逆浸透膜法と正浸透膜法である。例えば、海水から淡水を得る場合、上記の方法は次のように行われる。
【0003】
逆浸透圧淡水化法(「RO法」とも称される)では、逆浸透膜(「RO膜」とも称される)で海水と水を仕切り、海水側から逆浸透膜に対して高い圧力、例えば、55気圧の圧力を付加する。それにより、海水に含まれる水は、逆浸透膜を通過して水側へ移動する。このような工程により、海水から淡水が得られる。
【0004】
他方、正浸透圧淡水化方(「FO法」とも称される)では、正浸透膜(「FO膜」とも称される)で海水と、海水よりも高モル数の炭酸アンモニウム水溶液とを仕切る。この構成のために、海水に含まれる水が炭酸アンモニウム水溶液側へ移動する。その後、移動した水を含む炭酸アンモニウム水溶液を60℃に加熱し、炭酸アンモニウムを加熱分解する。このような工程により、海水から淡水が得られる。このような方法では、炭酸アンモニウムの供給は、二酸化炭素ガスとアンモニアガスとを供給することによって行われている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平6−114372号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明が解決しようとする課題は、より少ないエネルギーで溶媒と溶質とを含む液体から溶媒を分離する方法および装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
実施形態の溶媒と溶質とを含む液体から溶媒を分離する方法は、第1の面と第2の面を含む正浸透膜において、前記第1の面を溶媒と溶質とを含む対象液体に接触させると共に、当該第2の面を、対象溶液中の溶媒を正浸透膜に移動させる力を働かせるための固体性物質を含む回収用液体に接触させることにより、前記対象液体中の溶媒を第2の面の外に移動させることにより、前記対象液体から当該溶媒を分離することを特徴とする。
【0008】
更なる実施形態の溶媒と溶質とを含む液体から溶媒を分離する装置は、溶媒と溶質とを含む対象液体を収容するための第1のチャンバーと、前記第1のチャンバーと連通する第2のチャンバーと、前記連通する部分において第1のチャンバーと第2のチャンバーを仕切るように配置され、第1のチャンバーに向かいう第1の面および第2のチャンバーに向かう第2の面を有する正浸透膜と、前記正浸透膜の第2の面の表面および/または近傍に配置され、第1のチャンバー内の対象溶液中の溶媒を正浸透膜に移動させる力を働かせるための固体性物質とを具備する。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【図1】1つの実施形態の装置の構成を示すブロック図。
【図2】もう1つの実施形態の装置の構成を示す模式図。
【図3】実施形態において使用される固体性物質の1例の構成を示す図。
【図4】試験1において用いた装置の構成を示す模式図。
【図5】試験2において用いた装置の構成を示す模式図。
【図6】実施形態の装置の構成例を示す模式図。
【発明を実施するための形態】
【0010】
1.分離方法
実施の形態に従うと、溶媒と溶質とを含む液体から溶媒を分離する方法(以下、「溶媒分離方法」とも記す)が提供される。この方法は、基本的には、正浸透膜の第1の面を溶媒と溶質とを含む対象液体に接触させると共に、当該前記正浸透膜の第2の面を、対象溶液中の溶媒を正浸透膜に移動させる力を働かせるための固体性物質を含む回収用液体に接触させることにより、前記対象液体中の溶媒を第2の面の外に移動させることにより、溶媒と溶質とを含む液体から溶媒を分離する方法である。
【0011】
この方法において、対象溶液からの溶媒の分離は、正浸透膜の両面、即ち、第1の面と第2の面がそれぞれに接する領域に存在する溶液中に含まれる溶質の濃度勾配を利用して行われる。溶質の濃度勾配について、当該勾配は、正浸透膜の両面に存在する同種類の物質の濃度の相違により得られる。当該濃度は、溶媒に対する質量の量で示されてよく、例えば、モル濃度、重量濃度または質量濃度などで示されてよい。
【0012】
使用される正浸透膜とは、逆浸透膜に使用されるものと基本的に同じ材質で、浸透膜の孔の大きさは水の分子(0.38ナノメートル)より数倍以上大きい。浸透膜で、酸素原子と同程度の大きさのナトリウムイオン(海水中の主要なイオンであり1個が0.12〜0.14ナノメートル)などが通過しにくくなるのは、水和によりイオンの周囲に水分子が配位することで見かけの大きが数倍から十数倍になったようにふるまうためである。また膜表面に付着する水分子の存在も孔を見掛け上小さくするように作用する。
【0013】
使用される正浸透膜は、分離する対象液体と分離しようとする溶媒の性質および/または種類に応じてそれ自身公知の何れの正浸透膜から選択されればよい。例えば、例えば、海水から淡水を分離する場合には、海水用正浸透膜が使用されればよい。
【0014】
正浸透膜の例は、例えば膜材質は酢酸セルロース膜、ポリアミド膜等がある。
【0015】
正浸透膜は2つの面、即ち、第1の面と第2の面を有する。第1の面は、対象溶液に接触する。対象液体溶媒と溶質を含み、正浸透膜の第1の面に接触して、正浸透膜を通過した溶媒が第2の面側に移動する。
【0016】
第1の面が接する溶液は、当該方法により溶媒を分離されるべき対象液体であればよい。対象溶液は、無機性溶液および/または有機性溶液であってよい。無機性溶液は、例えば、水、メタノールまたはエタノールなどの水性液体に、塩化ナトリウム、塩化マグネシウム、塩化カルシウム、硫酸ナトリウム、硫酸マグネシウムおよび/または硫酸カリウムなどの無機塩および/または酢酸ナトリウム、酢酸マグネシウム、クエン酸ナトリウムおよびクエン酸マグネシウムなどの有機塩を溶質として含む無機性溶液であってよい。有機性溶液は、例えば、トルエンまたはアセトンなどの有機性溶媒に繊維および/または樹脂などの有機物などの溶質を含む有機溶媒であってよい。 正浸透膜の第2の面は、対象溶液中の溶媒を正浸透膜に移動させる力を働かせるための固体性物質を含む回収用液体に接触する。回収用液体は、対象溶液に含まれる溶媒と同じ種類の溶媒であってもよく、或いは、対象溶液、正浸透膜および固体性物質とにより得られる溶媒の第2の面への移動が可能な他の種類の溶媒であってもよい。好ましくは、回収用液体は、対象溶液に含まれる溶媒と同じ種類の溶媒である。
【0017】
回収用液体の第2の面への供給は、予め対象溶液の溶媒と同じ溶媒を第2の面に接触させるように付与してもよく、対象溶液中から正浸透膜を通じて第2の面に側に移動した対象溶媒に由来する溶媒であってもよい。溶媒の分離を迅速に開始するためには、分離方法を実施する以前に、正浸透膜の第2の面に接するまたは近傍にある少なくとも固体性物質の一部が湿潤する程度に、溶媒を供給しておくことが好ましい。
【0018】
固体性物質は、対象溶液中の溶媒を正浸透膜に移動させる力を働かせる作用を有する物質であればよい。
【0019】
固体性物質の「固体性」とは、分離しようとする溶媒および/または回収用溶液に対して実質的に不溶性であることを指す。「実質的に不溶性」とは、固体性物質が、分離しようとする溶媒および/または回収用溶液と共存する状態において、分離された溶媒との分離が可能または容易な状態を維持、例えば、固体として流失せずに維持されることをいう。また、固体性物質が問題の溶媒または回収用溶液に溶解したとしても微量であれば、そのような材質を固体性物質のために使用してよい。ここで、極微量であるとの判断は、溶解された固体性物質が、分離しようとする溶媒および/または回収用溶液に含まれた際に何らかの不都合、例えば、回収後の使用目的を阻害する何らかの不都合または障害が生じない量であるか否かを判断すればよい。問題の溶媒および/または回収用溶液に対して、そのような障害または不都合がない組み合わせとなる材質であれば、当該方法において固体性物質として使用してよい。
【0020】
固体性物質の例は、高分子吸収体などの固体吸収体、イオン交換樹脂、固体性塩、および高分子吸収体をアルカリ土類金属の塩などの水溶液の添加で架橋したものなどである。これらを組み合わせて使用してもよいなどである。これらを組み合わせて使用してもよい。
【0021】
固体性物質としての固体吸収体は、例えば、高分子吸収体であってよい。高分子吸収体は、高吸収性ポリマーまたは表面が官能基で修飾された高吸収性ポリマーであってよい。高吸収性ポリマーは、例えば、デンプン−アクリル酸グラフト重合体、デンプン−アクリロニトリル共重合体ケン化物、ナトリウムカルボキシメチルセルロース架橋物、アクリル酸重合体およびその塩形態にある重合体であってよい。また、こらの高分子吸収体を組み合わせて使用してもよい。 塩形態にある重合体の例は、 固体性物質としてのイオン交換樹脂は、例えば、それ自身公知の何れかの陽イオン交換樹脂および陰イオン交換樹脂であってよい。
【0022】
イオン交換基としては、スルホン酸基、カルボン酸基、イミノ二酢酸基、リン酸基、リン酸エステル基等のカチオン交換基;四級アンモニウム基、三級アミノ基、二級アミノ基、一級アミノ基、ポリエチレンイミン基、第三スルホニウム基、ホスホニウム基等のアニオン交換基が挙げられる。これらの官能基を載せるポリマー基材の元になるモノマーは、ビニルモノマーが一般的である。ビニルモノマーは、例えば、スチレン、α-メチルスチレン、ビニルトルエン、ビニルベンジルクロライド、ビニルビフェニル、ビニルナフタレン等の芳香族ビニルモノマー;エチレン、プロピレン、1-ブテン、イソブテン等のα-オレフィン;ブタジエン、イソプレン、クロロプレン等のジエン系モノマー;塩化ビニル、臭化ビニル、塩化ビニリデン、テトラフルオロエチレン等のハロゲン化オレフィン;アクリロニトリル、メタクリロニトリル等のニトリル系モノマー;酢酸ビニル、プロピオン酸ビニル等のビニルエステル;アクリル酸メチル、アクリル酸エチル、アクリル酸ブチル、アクリル酸2-エチルヘキシル、メタクリル酸メチル、メタクリル酸エチル、メタクリル酸プロピル、メタクリル酸ブチル、メタクリル酸2−エチルヘキシル、メタクリル酸シクロヘキシル、メタクリル酸ベンジル、メタクリル酸グリシジル等の(メタ)アクリル系モノマーが挙げられる。これらモノマーは、1種単独又は2種以上を組み合わせて使用されてよい。ここにおいて、好適に用いられるビニルモノマーは、スチレン、ビニルベンジルクロライド等の芳香族ビニルモノマーである。また、これらのイオン交換樹脂から2以上を選択して、組み合わせて使用してもよい。更に、好ましいイオン交換樹脂の例は、スルホン酸ナトリウム塩を有するポリスチレン系の強酸性陽イオン交換樹脂、テトラメチルアンモニウムクロライドを有するポリスチレン系の強塩基性イオン交換樹脂、あるいはその他の基盤に上記の固体塩モノマーをグラフと重合させて、あるいは重合したものを化学反応で固定したものであり、更に、これらのイオン交換樹脂から2以上を選択して、組み合わせて使用してもよい。重合化および基盤への固定化は、それ自身公知の何れかの方法により達成されてよい。
【0023】
上記のような正浸透膜とその第2の面に固体性物質とを間に配置した状態で、第1の面に対象溶液を接触させることにより、第2の面側に対象溶液に含まれる溶媒を移動することが可能である。第2の面側に移動した溶媒は、回収されて更なる目的のために使用されてよい。また、溶媒を分離することにより、対象溶液は濃縮される。従って、濃縮された対象溶液または濃縮された溶質が、更なる目的のために使用されてもよい。
【0024】
また、第2の面側に移動した溶媒と固体性物質を分離するためにフィルターが使用されてもよい。ここで使用されるフィルターは、紙製フィルター、樹脂製フィルター、セラミック製フィルター、ガラス製フィルターおよびこれらの2以上の組み合わせであってよい。フィルターは多孔性材料から構成されても、膜を穿孔して多孔を形成することにより構成されても、繊維状の材料を複数複合させて一体化することにより構成されてもよい。フィルターは、第2の面側に分離された溶媒と固体性物質とを分離するために用いられる。従って、フィルター目、即ち、孔は、固体性成分を通過しない大きさである。このようなフィルターを使用することにより、より容易に目的とする溶媒を分離および回収することが可能である。
【0025】
このような方法により、より少ないエネルギーで対象液体から溶媒を分離することが可能である。また、溶媒を分離することにより、より少ないエネルギーで溶質を対象液体において濃縮すること、または対象液体から分離することも可能である。それによりランニングコストを従来よりも減少することが可能である。
【0026】
2.海水淡水化
上記の方法は、例えば、海水を淡水化するために使用されてよい。海水を淡水化するために使用される実施形態においては、上述の対象溶液として海水を適用すればよい。
【0027】
従来の正浸透圧海水淡水化法では、先ず、海水から真水を吸収するために海水より濃い塩分濃度の溶液を浸透膜の海水の反対側に用意する。一般的に、このような塩として塩化アンモニウムが用いられている。塩化アンモニウムは水への溶解度が高く、かつ弱い加熱で分解し、気体として、アンモニアと二酸化炭素を放出するので、残った水は真水になる。
【0028】
実施形態の海水を淡水する方法は、従来の炭酸アンモニウムに代わり、モル濃度の高い固体塩に膨潤吸収させる方法とも解されてよい。実施形態の方法によれば、海水から分離した水を、その後の加温工程することなく、正浸透圧に僅かの加圧を加えることによりフィルターを通すことにより淡水として回収することが可能である。
【0029】
単位時間に得られる真水の量は、海水を投入する側の圧力に依存するが、全システムを縦型にすれば、重力で落下する水圧を利用して真水を得ることができる。すなわち海水をこのシステムでろ過するだけで真水が得られる。これは簡易型の装置から大規模なプラントまで応用範囲が非常に広い技術である。
【0030】
海水を淡水化できるようにすることで、世界の水事情を改善することができる。本特許の課題は海水淡水化の著しいエネルギー削減することが可能である。
【0031】
3.分離装置
上記の溶媒分離方法および海水淡水化方法は、例えば、以下のような装置において行うことが可能である。
【0032】
図1を参照しながら、実施形態1の分離装置を説明する。
【0033】
当該分離装置20は、溶媒と溶質とを含む対象液体を収容するための第1のチャンバー21と、第2のチャンバー22とを含む。前記第1のチャンバー21と第2のチャンバー22は、連通する部分26によりその内部が互いに通じている。更に分離装置20は、正浸透膜23を含む。正浸透膜23は、第1の面と第2の面を有する。第1の面は、第1のチャンバー21に向かい、第2の面は第2のチャンバー22に向かうように配置される。第1のチャンバー21と第2のチャンバー22は、正浸透膜23によって互いに空間を仕切られる。正浸透膜23の第2の表面および/または近傍には、固体性物質25が配置される。固体性物質25は、対象溶液中の溶媒を正浸透膜23に移動させる力を働かせるための物質である。
【0034】
第1のチャンバーの上方には、対象液体を投入するための開口部が形成されている(図示せず)。同様に第2のチャンバーの上方には、分離された溶媒を回収するための開口部が形成されている(図示せず)。当該開口部以外は、分離装置1は気密性である。
【0035】
固体性物質25および正浸透膜23は、上述の分離方法について使用された物質が使用されてよい。
【0036】
第1のチャンバー21は、分離の対象である対象液体を収納する。
【0037】
第2のチャンバー22は、固体物質25を含み、対象液体から分離された溶媒を収納する。
【0038】
当該分離装置20は、例えば、次のように製造されてよい。所望の材質の板状材料により筐体を形成し、その内部の所望の位置に正浸透膜23を固定する。これにより筐体内に、筐体壁面と正浸透膜23とにより区画される第1のチャンバー21と、第2のチャンバー22が構成される。更に、正浸透膜23の第2の面側に、フィルター26を固定する。次に、正浸透膜23の第2の面とフィルターの一方の面により区画される領域に固体物質25を添加する。これにより実施形態1の分離装置が製造される。
【0039】
分離装置20における溶媒分離を行う方法を、海水の淡水化を例に説明する。まず、分離装置20の連通する部分26に真水を添加する。次に第1のチャンバー21に海水を投入する。これを放置することにより、海水に含まれる水成分のみが、正浸透膜23、固体性物質24およびフィルター26を通して第2のチャンバーに移動する。連続して分離操作を行う場合には、第2のチャンバー22から分離された淡水を少なくとも所望量で除去する、および/または第1のチャンバー21に更なる海水を投入すればよい。
【0040】
また、第1のチャンバー内の海水に係る第1の気圧の大きさと、第2のチャンバー内の分離された溶媒を含む回収用溶液に係る第2の気圧の大きさを調整してもよい。第1の気圧の大きさが、第2の気圧の大きさよりも大きい方が速やかに分離を達成できる。
【0041】
例えば、第1の気圧の大きさと第2の気圧の大きさを調整するために、液面の高さを調整することも有効である。図1の分離装置20は、第1のチャンバーの液面の高さの方が、第2の液面の高さよりも上方に存在するように構成されている。このような構成は、速やか且つ円滑な分離を達成するために有利である。更に、第1のチャンバー内に含まれる海水に更なる圧力を加えてもよい。しかしながら、実施形態1の分離装置20では、従来の正浸透膜を利用した分離装置に比べて、約半分以下の少ない圧力を加えるだけで、迅速且つ円滑な分離を達成することが可能である。
【0042】
このような実施形態1の分離装置20を用いると、より少ないエネルギーで対象液体から溶媒を分離することが可能となる。また、溶媒を分離することにより、より少ないエネルギーで溶質を対象液体において濃縮すること、または対象液体から分離することも可能である。それによりランニングコストを従来よりも減少することが可能である。
【0043】
単位時間に得られる真水の量は、海水を投入する側の圧力に依存するが、全システムを縦型にすれば、重力で落下する水圧を利用して真水を得ることができる。すなわち十分な落差があれば海水をこのシステムでろ過するだけで真水が得られる。これは簡易型の装置から大規模なプラントまで応用範囲が非常に広い技術である。
【0044】
海水を淡水化できるようにすることで、世界の水事情を改善することができる。本特許の課題は海水淡水化の著しいエネルギー削減することが可能である。
【0045】
上述の実施形態1は次のような構成であってもよい。
【0046】
第1および第2のチャンバー21および22の内部形状および外形は、何れの形状であってもよく、内部形状と外形が同じまたは相似の形状であっても、互いに異なる形状であってもよい。内部形状および外形は、例えば、筐体状、円柱状、角柱状、円柱状、球体状などの曲面体状であってよい。
【0047】
連通する部分26は、第1のチャンバー21と第2のチャンバー22の内部が互いに通じる構成となるための構成であればよい。従って、第1のチャンバー21を規定する壁面の少なくとも一部が第1の開口部として開口し、且つ第2のチャンバー22を規定する壁面の少なくとも一部が第2の開口部として開口して、第1の開口部と第2の開口部が互いに向かい合って接合されることにより形成されてもよい。
【0048】
このような場合の接合は、第1および第2の開口部の縁および/または周辺において行われてもよい。或いは、第1または第2の何れか一方の開口部の縁および/または周辺に対して、他方の壁面が接合されてもよい。何れの場合であっても、第1のチャンバーと第2のチャンバーとが連通または流通していればよい。
【0049】
接合は、材質および結合様式に応じてそれ自身公知の何れかの手段により行われればよい。
【0050】
第1のチャンバーと第2のチャンバーとが管状部材により接合されてもよい。また更に、第1のチャンバーと第2のチャンバーとの境界が正浸透膜のみにより形成されてもよい。
【0051】
実施形態1の分離装置を1つのユニットとして複数ユニットが一体化されて、1つの分離装置として提供されてもよい。
【0052】
実施形態1においては、第2のチャンバー22の開口部は上部に形成されているが、第2のチャンバーからの分離された溶媒の回収は、第2のチャンバー22を規定する壁面の一部分または底面に形成された開閉可能な開口部から行ってもよい。それに伴って、フィルター26を開閉可能な開口部に、開口部から排出される液体から固体性物質を分離するように配置されてもよい。或いは、フィルターを実施例1の装置に外部に配置、または所望に応じて開口部外側に着脱可能または固定化されて具備されてもよい。或いは、フィルターが実施形態1の装置には具備されずに、所望に応じて排出される液体についてフィルターが使用されてもよい。
【0053】
以下、本発明の実施の形態について、詳細に説明する。
【0054】
実施例1
図1に示した実施形態1を用い、以下のような実験システムを利用することにより、海水から淡水が得られる。
【0055】
実験システムの構成として、海水側を3.5Wt%の塩化ナトリウム溶液を用い、海水淡水化用の浸透膜を配置し、海水の反対側に高分子吸収体としてアクリル酸ナトリウムを用い淡水で膨潤させておく。このときの浸透圧はモル数に比例し、塩水側のモル数が0.00059 mol/ccとなるのに対し、高分子吸収体側はアクリル酸ナトリウム(MW:94.04)の場合、密度が1.18g/ccなのでモル数は0.01255mol/ccとなり、21倍のモル数である。
【0056】
浸透圧を1リットルあたりで計算すると15℃でそれぞれ14.5気圧, 296気圧となるため、282気圧が正方向の浸透圧となる。高分子吸収体側は目の粗いフィルターがあり、海水側からの水の供給の速度に応じた真水が、このフィルターを抜けて出てくる。本実施例は図2で示される。
【0057】
実施例2
図2は海水をかけ流しにして、浸透膜で隔てられた最初の海水用の空間が常に3.5Wt%前後の塩分濃度の海水で満たされるように構成した実施形態2の装置の1例である。
【0058】
実施形態2の装置30は、下端に排水部38を有する円柱型の容器内に、対象溶液を導入するための開口部36とかけ流し用排出部37を有する第1のチャンバー31と、その下方の正浸透膜33と、その下方の固体性物質32と、その下方のフィルター35と、第1のチャンバー31から移動した溶媒が、正浸透膜33、固体性物質32およびフィルター35を通じて流れ込む第2のチャンバー34とを備える。各層が積層される構成であるので、このような実施形態2は、重力を利用して全ての流れが円滑に促進される。
【0059】
このように重力でろ過する場合には、最上部にろ過の速さより少し速い速度で海水を供給することで、最初の海水用の空間の海水濃度が上がることを防ぐことができ、連続的に淡水を取り出せる。
【0060】
実施例3
図4は、粒子の表面を塩構造として修飾し、浸透膜の塩濃度を高くする側の固体性物質として、固体吸収体として使う場合の固体性物質の1例の構成を示す。固体吸収体として高分子ポリマーを用いる。その表面に炭酸塩構造または塩酸塩構造を付与することが可能である。このような構成は、表面をアミンの機能粉と炭酸ガスまたは塩酸で中和することにより達成される。
【0061】
このような固体性物質の直径は数10ミクロンのフィルター目よりも大きなサイズであり、固体性物質はフィルターを通り抜けない。従って、フィルターを使用することにより、固体性物質と溶媒とを分離することが容易にできる。また、このような構造の場合、固体吸収体が劣化するなどの問題が発生した際には容易に交換できるものとなる。
【0062】
実施例4
高分子の内部まで多孔質で、官能基の塩構造の材料であるものに、イオン交換樹脂がある。イオン交換樹脂のは直径1mmくらいの粒子になって加工されているため、非常に扱いやすく、目の粗いフィルターをおいて、圧力損失を最小にすることができる。導入するイオン交換基としては、スルホン酸基、カルボン酸基、イミノ二酢酸基、リン酸基、リン酸エステル基等のカチオン交換基;四級アンモニウム基、三級アミノ基、二級アミノ基、一級アミノ基、ポリエチレンイミン基、第三スルホニウム基、ホスホニウム基等のアニオン交換基が挙げられる。これらの官能基を載せるポリマーの元になるモノマーはビニルモノマーが一般的で、ビニルモノマーの具体例としては、スチレン、α-メチルスチレン、ビニルトルエン、ビニルベンジルクロライド、ビニルビフェニル、ビニルナフタレン等の芳香族ビニルモノマー;エチレン、プロピレン、1-ブテン、イソブテン等のα-オレフィン;ブタジエン、イソプレン、クロロプレン等のジエン系モノマー;塩化ビニル、臭化ビニル、塩化ビニリデン、テトラフルオロエチレン等のハロゲン化オレフィン;アクリロニトリル、メタクリロニトリル等のニトリル系モノマー;酢酸ビニル、プロピオン酸ビニル等のビニルエステル;アクリル酸メチル、アクリル酸エチル、アクリル酸ブチル、アクリル酸2-エチルヘキシル、メタクリル酸メチル、メタクリル酸エチル、メタクリル酸プロピル、メタクリル酸ブチル、メタクリル酸2−エチルヘキシル、メタクリル酸シクロヘキシル、メタクリル酸ベンジル、メタクリル酸グリシジル等の(メタ)アクリル系モノマーが挙げられる。これらモノマーは、1種単独又は2種以上を組み合わせて使用することができる。本発明で好適に用いられるビニルモノマーは、スチレン、ビニルベンジルクロライド等の芳香族ビニルモノマーである。このようなイオン交換樹脂は、実施形態1および2において好ましく使用される。
【0063】
実施例5
本実施例では基礎的な実験により本特許の原理が正しいことを示す。
【0064】
試験1;通常の浸透圧実験
図5に示す装置で浸透圧について試験した。図5を参照しながら装置を説明する。注射用1ccシリンジからピストンを抜き取った。ピストンを出し入れするための開口部を向かい合わせる方向で2本のシリンジを固定する。2本のシリンジの間に、浸透膜と支持体に収納したポリアクリル酸ナトリウムを配置して固定した。
【0065】
左側に3.5Wt%NaCl水、右側に純水を入れて、15℃で放置した。使用した浸透膜は日東電工の海水用浸透膜NTR−70SWCを使用した。2mm厚の2枚のゴムパッキンで挟んだ。ゴムパッキンの中央に直径5mmの穴を開けた。このゴムパッキンの中央の穴を通り、内部の液体が移動した。
【0066】
試験2;
図5と同様器装置を用いて、浸透膜には日東電工の海水用(NTR 70SWC)のものを使用して実験した。問題にしているのは浸透膜に対して高分子吸収体や、イオン交換樹脂の内部構造の塩で浸透圧が得られるかどうかである。従って、これらの固体塩、すなわち固体吸収体を浸透膜の片側において、両方のセルは真水で満たした。これによって、固体塩のある側に水が吸収されるのであれば、提唱した原理は正しいと考えられる。高分子吸収体にはポリアクリル酸ナトリウムを用いた。またイオン交換樹脂の場合にはアンバーライト(オルガノ製 IRA910 CT Cl)を用いた。フィルターとしてキムワイプを使用した。セルの中間にあり浸透膜を押さえるゴムは厚さ2mmで直径5mmの穴を事務用のパンチで開けた。
【0067】
この直径であれば片側をふさげば縦にしても水はこぼれない。
【0068】
この装置を放置した結果、固体塩のある側への液面の移動が観察された。
【0069】
試験3;
図4に示す分離装置を実験装置として用いて、海水濃度の塩水から淡水を分離した。
【0070】
分離装置51は、第1のチャンバー23と第2のチャンバー53と正浸透膜54と固体性物質56とフィルター56を含む。
【0071】
30φの中空円柱の一方の開口部を覆うように正浸透膜を固定化した。中空円柱内の正浸透膜上に高分子吸収体を配置し、更にろ紙を高分子吸収体の上部に配置した。高分子吸収体は、ポリアクリル酸ナトリウムを使用した。ポリアクリル酸ナトリウムの分子量は94.04である。塩水は精製水にNaClを3.5重量%で添加して調整した。容器内に塩水を導入し、その後、正浸透膜と高分子吸収体とろ紙を配置した中空円柱を配置した。これにより前記分子装置51が構成される。円柱内の高分子吸収体の位置と塩水の水面位置の水面差は4cmであった。
【0072】
これを放置したところ、 18時間で 1.3mLの溶媒、即ち、水が海水から分離できた。この水の塩濃度は、 2.3%であった。海水用であるがこの膜では塩分が混じってしまった。
【0073】
同様の装置において、ろ紙を配置しないものでは、48時間で1cmの高さ以上の高分子吸収体の膨張を伴う給水が生じた。
【0074】
得られた結果を表1〜3に示す。
【表1】

【0075】
【表2】

【0076】
【表3】

【0077】
試験4:
正浸透膜として、浸透膜は日東電工低圧用ES20を使用した以外は図5に示す分離装置と同様な装置を用いて更に実験を行った。当該分離装置において、ポリアクリル酸ナトリウムを固体性物質として使用した。塩水の濃度は3.5重量%とした。図5に向かって右側のシリンジ内が第1のチャンバー69であり、向かって左側のシリンジ内が第2のチャンバー70である。
【0078】
第1のチャンバー69に塩水を入れ、第2のチャンバー内に真水を入れた。
【0079】
移動速度は0.15ml/hであった。16時間で下記のようにシリンジ内の塩水および真水の水面が動いた;温度15℃〜9℃。右側0.15cc、左側0.1cc弱;移動速度:9.4ccE−3cc/h (5mmφ 穴)。このことから、浸透膜の反対側の高分子吸収体が吸引し、ろ紙の外に水を出している事実を確認できた。
【0080】

更に、第1のチャンバーと第2のチャンバーの構成様式の例を模式的に図6(a)〜(d)に示す。何れの分離装置においても第1のチャンバー61と、第2のチャンバー62と、正浸透膜63と、固体性物質65が配置される。更に図6(a)〜(d)には、任意に配置されるフィルター65を示した。例えば、正浸透膜63に対して固体性物質65が固定化されている場合、フィルター65は不要である。
【0081】
当該分離装置では、種々の配置で各構成を具備することが可能である。
【符号の説明】
【0082】
20、30、51、61 分離装置
21、31、52、62 第1のチャンバー
22、34、53、 第2のチャンバー
23、33、54、63 正浸透膜
25、32、45、55、65 固体性物質
26、35、56、66 フィルター

【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1の面と第2の面を含む正浸透膜において、前記第1の面を溶媒と溶質とを含む対象液体に接触させると共に、当該第2の面を、対象溶液中の溶媒を正浸透膜に移動させる力を働かせるための固体性物質を含む回収用液体に接触させることにより、前記対象液体中の溶媒を第2の面の外に移動させることにより、前記対象液体から当該溶媒を分離することを特徴とする、溶媒と溶質とを含む対象液体から溶媒を分離する方法。
【請求項2】
更に、第2の面の外に移動された当該溶媒を、フィルターによって前記固体性物質から分離することを更に含む請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記固体性物質が、高分子吸収体、イオン交換樹脂および固体性塩、並びに前記正浸透膜の第2の面に結合した形態にある高分子吸収体、イオン交換樹脂および固体性塩、並びにその組み合わせからなる群より選択される請求項1または2に記載の方法。
【請求項4】
前記固体性物質が、固体吸収体である請求項1または2に記載の方法。
【請求項5】
前記固体性物質が、高吸収性ポリマーまたは表面が官能基で修飾された高吸収性ポリマーである請求項1または2項に記載の方法。
【請求項6】
前記固体性物質が、デンプン−アクリル酸グラフト重合体、デンプン−アクリロニトリル共重合体ケン化物、ナトリウムカルボキシメチルセルロース架橋物、アクリル酸重合体およびその塩形態にある重合体、スルホン酸ナトリウム塩を有するポリスチレン系の強酸性陽イオン交換樹脂、テトラメチルアンモニウムクロライドを有するポリスチレン系の強塩基性イオン交換樹脂、または固体塩モノマーとグラフト重合または重合により基盤に固定された形態にある前記何れかの樹脂、並びにこれらの組み合わせからなる群より選択される請求項1または2に記載の方法。
【請求項7】
前記対象液体が海水である請求項1〜6の何れか1項に記載の方法。
【請求項8】
溶媒と溶質とを含む対象液体を収容するための第1のチャンバーと、前記第1のチャンバーと連通する第2のチャンバーと、前記連通する部分において第1のチャンバーと第2のチャンバーを仕切るように配置され、第1のチャンバーに向かいう第1の面および第2のチャンバーに向かう第2の面を有する正浸透膜と、前記正浸透膜の第2の面の表面および/または近傍に配置され、第1のチャンバー内の対象溶液中の溶媒を正浸透膜に移動させる力を働かせるための固体性物質とを具備する、溶媒と溶質とを含む液体から溶媒を分離する装置。
【請求項9】
更に、前記固体性物質と第1のチャンバーから前記正浸透膜を経て第2のチャンバーに移動した溶媒とを分離するように第2のチャンバーに配置されたフィルターを具備する請求項8の装置。
【請求項10】
前記固体性物質が、前記フィルターと前記正浸透膜の間に配置される請求項9に記載の装置。
【請求項11】
前記固体性物質が、高分子吸収体、イオン交換樹脂および固体性塩、並びに前記正浸透膜の第2の面に結合された形態にある高分子吸収体、イオン交換樹脂および固体性塩、並びにその組み合わせからなる群より選択される請求項8〜10の何れか1項に記載の装置。
【請求項12】
共に前記固体性物質を保持するように配置された
溶媒と溶質とを含む対象液体を収容するための第1のチャンバーと、前記第1のチャンバーと連通する第2のチャンバーと、前記連通する部分において第1のチャンバーと第2のチャンバーを仕切るように配置され、第1のチャンバーに向かいう第1の面および第2のチャンバーに向かう第2の面を有する正浸透膜と、前記正浸透膜の第2の面の表面および/または近傍に配置され、第1のチャンバー内の対象溶液中の溶媒を正浸透膜に移動させる力を働かせるための固体性物質と、前記固体性物質と第1のチャンバーから前記正浸透膜を経て第2のチャンバーに移動した溶媒とを分離するように、前記固体性物質に隣接して配置されたフィルターとを具備する、溶媒と溶質とを含む液体から溶媒を分離する装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2012−166130(P2012−166130A)
【公開日】平成24年9月6日(2012.9.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−27745(P2011−27745)
【出願日】平成23年2月10日(2011.2.10)
【出願人】(000003078)株式会社東芝 (54,554)
【Fターム(参考)】