説明

溶媒抽出及び水素化処理による完全原油の脱硫方法

1つ又は複数の選択された溶媒と硫黄を含有する原油供給流とを所定の時間混合し、混合物を分離して硫黄に富む溶媒を含有する液相と実質的に硫黄含有量が低下した原油相を形成し、硫黄に富んだ流れを回収して溶媒を再生し、残存する硫黄に富む流れを水素化処理して硫黄含有化合物を除去又は実質的に低下させた、硫黄含有量の少ない、水素化処理済みの流れを得て、この水素化処理された流れを分離された原油相と混合して、体積を著しく低下させることなく実質的に硫黄含有量を低下させた処理済み原油産物の流れを得ることにより、硫黄含有量が高い原油供給流を処理する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、天然由来の硫黄の含有量が多い完全原油の硫黄含有量を下げる、工業規模の処理方法に関する。
【背景技術】
【0002】
硫黄含有原油は「サワー」と呼ばれ、その硫黄含有量を下げる、原油の「スウィートニング」の方法について数多くの記述がある。従来の水素化処理は石油留分には適しているが、完全原油には不適であり、分離のみによる処理は原油体積の減少につながる。
【0003】
石油留分の脱硫にはいくつかの実用的な方法がある。原油の脱硫についても、従来より様々な方法が提案されているが、それらは技術的に困難であり、または多額の費用がかかるものである。非常に重量のある原油の処理には、脱硫と分解とを組み合わせて合成原油を作製する工程が含まれる。
【0004】
背景技術として、特許文献1は、酸又は塩基との化学反応後に水性溶媒に硫黄化合物及び金属を抽出する方法を開示している。水性溶媒と原油との接触表面積を大きくするために乳化剤も必要である。
【0005】
特許文献2は、予め水素化処理した留分から硫黄化合物を抽出する方法を開示している。この方法では、溶媒再生工程において溶媒は液体のままで硫黄化合物を気化させるために、該留分は溶媒よりも揮発性が高いものである必要がある。原油又は重質油留分の硫黄含有量に比較してガソリンの硫黄化合物の含有量は低いので、本方法の硫黄含有溶媒流の量は比較的小さくなる。本出願特許の表1には、アラビア重質原油中に存在する硫黄量が平均3%であるのに対し、処理後ガソリンの硫黄量は0.0464%であることが示されている。
【0006】
特許文献3に開示されている溶媒抽出法は、多環芳香族化合物の含有量を下げて、潤滑油の酸化安定性を上昇させるものであり、溶媒回収については記載されていない。
【0007】
特許文献4は、多環芳香族の含量を下げて、油の酸化安定性を上昇させる目的で、二重溶媒抽出方法を開示している。硫黄の低下は、多環芳香族除去の副産物である。
【0008】
これらの方法は、完全原油及び天然由来の硫黄を比較的多く含んでいる他の重質留分の処理に不適当であるか、又は容易には適合させることができない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】米国特許第6955753号
【特許文献2】米国特許第5582714号
【特許文献3】米国特許第4385984号
【特許文献4】米国特許第4124489号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
従って、本発明の1つの目的は、全部又は十分な割合の溶媒を回収し、再利用できる、改良された原油の連続抽出脱硫方法を提供することである。
【0011】
本発明の他の目的は、天然硫黄含有量の高い原油及び他の未処理炭化水素の流れの硫黄含有量を実質的に低下させるために使用することができる、改良された連続溶媒抽出方法を提供することである。
【0012】
本発明の更に他の目的は、既に存在する設備及び確立されている手段を工程の1つに利用することにより必要資本を最小にする、原油供給流の硫黄含有量を下げる方法を提供することである。
【0013】
本発明の更に他の目的は、使用する溶媒又は溶媒類を、エマルションを形成することなく原油又は原油留分と激しく混合することができ、静置によりきれいに液‐液相分離される、改良された溶媒抽出方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0014】
上記の目的及び他の利点は、大まかには、1つ又は複数の選択された溶媒と硫黄を含有する原油供給流とを所定の時間混合し、混合物を分離して硫黄に富む溶媒を含有する相と実質的に硫黄含有量が低下した原油相を形成し、硫黄に富んだ流れを回収して溶媒を再生し、残存する硫黄に富む流れを水素化処理して硫黄含有化合物を除去又は実質的に低下させた、硫黄含有量の少ない水素化処理済みの流れを得て、この水素化処理された流れを分離された原油相と混合して体積を著しく低下させることなく実質的に硫黄含有量を低下させた処理済み原油産物の流れを得ることを包含する、本発明の改良方法により達成される。
【0015】
溶媒としては、様々な油層に由来する、完全原油中に存在することが知られている広範な特定硫黄化合物に対する良好な受容性及び選択性をもつものが好ましい。原油中に通常存在する硫黄化合物の一部を以下に説明する。一般的に、異なる供給源からの原油中の硫黄化合物の濃度は、例えば、0.1%未満から5%まで、異なっている。本発明の方法に使用される溶媒を芳香族硫黄化合物を抽出するように選択することにより、原油中に存在する広範な硫黄化合物を対象に含める。溶媒はまた、脂肪族硫黄化合物を抽出するものが好ましい。脂肪族硫黄化合物は通常、原油中に低濃度で存在し、従来の水素化脱硫方法により容易に除去される。
【0016】
原油中の脂肪族硫黄化合物の種類の例としては、以下のものを挙げることができる。
R‐S‐R、R‐S‐S‐R及びH‐S‐R
ここで、RはCH及びそれ以上のアルキル基を表す。
【0017】
特定の化合物としては、以下のものを挙げることができる。
2,4‐DMBT、2,3‐DMBT、2,5,7‐TMBT、2,3,4‐TMBT、2,3,6‐TMBT、DBT、4‐MDBT、3‐MDBT、1‐MDBT、4‐ETDBT、4,6‐DMDBT、2,4‐DMDBT、3,6‐DMDBT、2,8‐DMDBT、1,4‐DMDBT、1,3‐DMDBT、2,3‐DMDBT、4‐PRDBT、2‐PRDBT、1,2‐DMDBT、2,4,7‐TMDBT、4‐BUTDBT、2‐BUTDBT、4‐PENDBT及び2‐PENDBT
【0018】
接頭辞として、
Dはジ、ETがエチル、Tはトリ、Mはメチル、PRはプロピル、BUTはブチル、PENはペンチルを表す。
(1)DBT:ジベンゾチオフェン
【化1】


(2)BT:ベンゾチオフェン
【化2】

(3)BTの単一置換
【化3】

(4)BTの二重置換
【化4】

(5)DBTの二重置換
【化5】

【0019】
抽出液及びラフィネート流を処理するためには、溶媒と原油又は留分を混合した後に形成されるエマルションは容易に壊れ、相分離が迅速に起こることが等しく重要である。溶媒を適切に選択することにより、エマルションを低減又は破壊するための追加の化学処理を必要としないか又は最小とすることができる。
【0020】
多くの溶媒は溶質に曝されると飽和し、溶媒により除去された硫黄化合物は平衡状態に達すると、その後はそれ以上硫黄を除去することはできないが、本発明の方法では、飽和溶液は溶媒再生ユニットに移送され、硫黄化合物を除去して、溶媒として再利用される。再生ユニットとして好適なものには常圧蒸留カラムがあり、その操作方法は本技術分野において周知である。
【0021】
当然のことながら、本明細書及び特許請求の範囲では、便宜上、原油と混合しないものではない抽出溶媒を参照して本発明の方法を説明する。完全な非混和性は非常に望ましいものであるが、原油・溶媒系において実際にはいくらかの混合が起こる。しかし、溶媒は、処理される原油とできるだけ混合されないことが重要である。例えば、入手可能性の観点から本方法に使用するのに好ましいとされる溶媒の混合性が高く、下流工程に受け入れられないような場合、溶媒ストリッピングユニットを用いて残留溶媒を許容基準まで下げることもできる。
【0022】
本明細書では、「原油」には、完全原油、前処理済みの原油及び硫黄含有量が高い原油留分が包含されることを理解されたい。更に、原油には、水‐油分離及び/又はガス‐油分離及び/又は脱塩及び/又は安定化を施したウェルヘッドからの原油も包含されることを理解されたい。
【0023】
本発明を以下に添付の図面を参照しながら更に説明する。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【図1】本発明の方法の一つの実施形態の概略図である。
【図2】原油のトッピング工程を更に有する、本発明の第2の実施形態の概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0025】
本発明の方法を、図1の実施形態を参照しながら更に説明する。硫黄を高濃度で含有する完全原油(10)の供給流を抽出/分離ユニット(20)に導入し、原油供給流(10)に含有される硫黄含有化合物を溶媒に可溶な化合物に変換する1つ又は複数の溶媒(32)と混合し、該化合物を溶媒相に濃縮する。上述したように、該溶媒は完全原油に対して混和性を有さない。
【0026】
次いで、液‐液相分離を行い、完全原油流の脱硫された又はスウィートニングされた部分(22)を抽出/分離ユニット(20)から取り出し、高度生成物として(図示されない)更に下流の処理工程に移送する。硫黄に富むサワー流(24)を抽出ユニット(20)から取り出して、溶媒回収ユニット(30)に供給する。溶媒はストリッピングされ、流れ(32)として回収され、完全原油供給流と共に抽出/分離ユニット(20)に再導入される。
【0027】
溶媒をストリップした後、残留する硫黄に富む完全原油流(34)を水素化処理ユニット(40)に供給する。硫化水素流(42)は分離されてそれに続く処理又は使用に供され、スイートニングされた完全原油(44)は更に下流の工程に供される。好ましい実施形態では、処理された流れ(22、44)を併せて脱硫処理流(50)を形成する。
【0028】
当業者であれば理解できるように、水素化処理ユニットにかかる費用は、処理される供給流の体積流量に比例し、限度内において、供給される硫黄含有量に影響されない。例えば、硫黄含有量が50〜100%増えたとしても操業コストの上昇は僅かであるが、流速の大きな上昇(例えば、数パーセント)により操業コストはかなり上昇する。分離ユニットの建設資本コストは水素化処理ユニットのコストに比較して非常に小さいので、本発明の方法に従って抽出及び分離の前処理を特に組み合わせて水素化処理の容量を非常に少なくすることによって、資本コストの相当な削減及び操業上の節約、及び現存の技術的に成熟したユニットの使用を可能にできる。スウィートニングされた原油に対する需要の高まりとスウィート及びサワー完全原油の市場価格差の増大に伴い、本発明の方法は更に魅力あるものになっている。
【0029】
本方法を効率的に実施するために重要な因子は、分離ユニットで使用される溶媒又は溶媒類の適切な選択である。適当な溶媒として次のものを挙げることができる。
1.フラン環C含有化合物。有用な化合物には、フルフラル、フルフリルアルコール、2‐フリルメチルケトン及び5‐メチルフルフラルが含まれる。フランそれ自体は原油又はその留分のほとんどと必要な液相を形成しないので、本方法に使用されるものではない。フルフラルを使用したディーゼル油の処理工程では満足な結果が得られた。
2.炭酸プロピレンや炭酸エチレンなどの環状炭酸エステル成分を有する化合物。
3.原油と持続性エマルションを形成しない、アセトニトリルを含む、ニトリル基含有化合物。
4.原油から容易に分離される、アセトン及びジアセチルを含む、ケトン類。
5.上記の溶媒化合物同士の混合物及び/又は少量の水及び/又はアルコールとの混合物。
【0030】
上述の本発明の方法から、他の有用な溶媒の選択及び同定は既に技術分野内である。原油又は他の重質油留分と混和性は、混合及び混合物の静置の後に観察して決定される。
【0031】
図2は、本発明の第2の実施形態を示しており、溶媒流と共に抽出ユニットに導入される前に原油をトッピングする、追加の工程を概略的に図示している。硫黄含有量の高い原油流(10)をトッピングユニット(12)に導入して、常圧蒸留カラムで蒸留し原油の軽留分を除去する。軽留分は、80℃<Tmax<260℃であるTmax以下の沸点を有する。
【0032】
或いは、原油流(10)はフラッシュドラムでフラッシュ分離して原油の軽留分を除去することもできる。頂部流(16)は軽留分からなり、Tmaxより低い温度で沸騰するので「Tmaxマイナス」流と呼ばれる。トッピングユニット(12)からの流れ(16)は実質的に硫黄を含まず、更に下流の工程に用いるために除去される。トッピングユニット(12)からの原油底部(18)は比較的高濃度の硫黄を含み、溶媒流(32)と共に抽出/分離ユニット(30)に導入され、そこで激しく混合される。
【0033】
その後、図1に関連して上に詳述した工程が行われる。減硫黄頂部流(16)は、下流で脱硫原油(22)又は任意に溶媒ストリップ処理された流れ(64)及び水素化処理された流れ(44)と混合され、流入する原油流(10)に比較して大幅に硫黄の含有量が減少している最終生成物の流れ(52)を提供する。
【0034】
上述したように、選択された溶媒は、望ましくはないがある程度脱硫原油流(22)に混合性であってもよい。図2に示したように、溶媒ストリッピングユニット(60)を設けて、流れ(62)に残留する溶媒を削減又は除去し、溶媒ストリップ処理した流れ(64)を生成し、他の処理された流れ(16、44)と混合し、最終生成物流(52)を提供する。
【0035】
上述から、硫黄に富む流れ(34)は、流入する原油流れ(10)に比較してその体積が比較的小さいことが理解されるだろう。このように、水素化処理ユニットでは比較的小容量の処理のみが必要であり、先行技術の方法に比較して脱硫工程の資本及び操業コストが大幅に削減される。
【0036】
原油と混合した溶媒の全て又は略全てを回収し、本方法の溶媒抽出工程で再使用できるように再生することにより、操業コストは更に最小限に抑えられる。原油に対する溶媒の体積比率は、溶質として溶解される硫黄化合物の量を最大にできるよう制御されることが好ましい。原油供給流(10)に存在する硫黄化合物の量と種類は、本技術分野で周知である従来の定性及び定量分析法により容易に決定できる。1つ又は複数の使用溶媒に対する硫黄化合物の飽和量は基準物質から又は日常検査により決定できる。
【0037】
方法の実行において、原油、溶媒又は両者の流量は抽出工程における脱硫を最大にするように制御される。硫黄化合物含有量及び/又は濃度における何らかの変化を同定するために、工程パラメーターを適当に修正して、原油供給流(10)を周期的に試験してもよい。
【0038】
4,6‐DMDBTなどの脱硫の困難な硫黄化合物の反応性は、典型的な水素化脱硫工程では、DBTの約100の1であるが、本発明の方法に使用される抽出ユニットでは、そのような脱硫の困難な化合物もわずかに、例えば、1.3〜2倍抽出が困難なだけである。
【0039】
一定の原油供給流に対して選択された特定の溶媒を最適化するために、分子モデルを使用することもできる。分子モデルは量子力学及び統計上の熱力学計算の組み合わせに基づいており、種々の溶媒における異なる硫黄化合物の溶解度を見積もるために使用される。この方法はまた、原油やその留分のような炭化水素及び硫黄化合物を含有する混合物に由来する、硫黄化合物に対する種々の溶媒の選択性を見積もるにも有用である。
【0040】
本発明の方法の上記説明から明らかなように、原油と安定なエマルションを形成する溶媒は使用すべきではないが、必要であれば、1つ又は複数のエマルション‐破壊化合物の添加するように本方法を変更することもできる。化学エマルション‐破壊化合物及び組成物の使用については、本技術分野において周知である。
【0041】
図及び以下の実施例に概略的に示される本発明の説明において、実施形態は硫黄含有供給流の一括処理に関するものである。当業者に理解されるように、連続抽出工程を本発明の実施に適用することもできる。抽出カラムは、カラム内構造の関係で逆流又は並流中で混合される原油と溶媒に使用することができる。使用できる装置には、篩トレイ、無作為充填、規則充填(SMVP)などの固定カラム及びカールカラム、シャイベルカラム、回転円板コントラクター(RDC)、パルスカラムなどの撹拌カラムが包含される。
【0042】
以下の実施例により、種々の溶媒と、異なる等級の原油及び原油留分に見出される硫黄化合物を溶解するそれら溶媒の相対容量を同定し、それによって原油をスウィートニングする。これらの実施例において、全硫黄含有量は分析によって決定したが、個々の硫黄化合物の量については分析されていない。
【実施例1】
【0043】
分液漏斗に7547ppmの硫黄を含有する未処理ディーゼル燃料を充填し、同容積のフルフラルを抽出溶媒として添加した。30分間の振盪後、混合物を静置して2つの液相に分離させた。この操作をさらに2回繰り返した後、処理済みディーゼルを回収し、ANTEK9000装置を使用して硫黄含有量を測定したところ、硫黄量の減少は71%であり、処理後ディーゼルは2180ppmの硫黄を含んでいた。
【実施例2】
【0044】
溶媒として炭酸プロピレンを使用した以外は実施例1と同様に抽出を3回繰り返したところ、硫黄量の減少は49%であった。
【実施例3】
【0045】
溶媒としてアセトニトリルを使用して実施例1と同様に行ったところ、硫黄の減少量は37%であった。
【実施例4】
【0046】
分液漏斗に、10抽出溶媒としてのアセトニトリルと2.7%、すなわち、27000ppmの硫黄を含有するアラブ重質原油とを体積比1:1で充填した。30分間の振盪後、混合物を静置して2相に分離させた。油相を回収し、抽出操作の前後における生成物の硫黄含有量を蛍光X線(XRF)により測定したところ、硫黄量の減少は1105ppm、すなわち、約5%の減少であった。
【実施例5】
【0047】
2つの有機溶媒、γ(ブチルイミノ)ジエタノール及びジメチルホルムアミド、を選定し、直留ディーゼルからの有機硫黄の除去に使用した。7760ppmの硫黄を含有する10mLのディーゼルをそれぞれ別々に20mLのγ(ブチルイミノ)ジエタノール及びジメチルホルムアミドと混合した。混合物をそれぞれ撹拌器(KIKA HS501モデル)中で、200rpmで2時間、室温で撹拌、混合した。2液相をデカントした。直留ディーゼルの硫黄含有量は減少し、抽出操作後のディーゼルの硫黄含有量は、γ(ブチルイミノ)ジエタノールで4230ppm、ジメチルホルムアミドで3586ppmであり、それぞれ全有機硫黄の約48%及び53%がディーゼルから除去された。
【実施例6】
【0048】
密度が異なる3種類の原油からジアセチルを使用して硫黄化合物を抽出した。溶媒対原油の比率を3:1とした。硫黄濃度と3種類の原油の密度を表1に示す。
【0049】
【表1】

【0050】
ジアセチルと各原油との混合物を100rpmで30分間、室温で撹拌した。アラビア軽質原油では約35%、アラビア中質原油では26%、アラビア重質原油では21%の硫黄が除去された。各重油の抽出液中の硫黄濃度を表2に示す。
【0051】
【表2】

【0052】
本発明の方法は原油での使用に限定されるものではなく、ディーゼルなどの原油留分に適用することもできる。
【実施例7】
【0053】
異なる3つのジアセチル対ディーゼル比で直留ディーゼルから硫黄化合物を抽出した。ディーゼル中の硫黄濃度は7600ppmであり、混合は室温で10分間行った。抽出液及びラフィネート中の硫黄濃度をXRFにより測定した。結果を表3に要約する。
【0054】
【表3】

【0055】
ディーゼル中の硫黄含有量は原油より低いので、選択された溶媒による抽出率は原油に比較して大きい。溶媒の容量、すなわち、硫黄化合物による飽和は原則的に決まっているので、抽出された硫黄の量がほとんど同じであっても、ディーゼルの場合のように初めの硫黄濃度が低い場合には、相対値は大きくなる。
【実施例8】
【0056】
炭酸プロピレンを使用して直留ディーゼルから硫黄化合物を抽出した。直留ディーゼル中の硫黄濃度は7600ppmであった。混合時間を10分間とし、異なる3つの溶媒対ディーゼル比について室温で抽出を行った。抽出液及びラフィネート中の硫黄濃度をXRFにより測定した。結果を表4に要約する。
【0057】
【表4】

【実施例9】
【0058】
ジエチレングリコールモノエチルエーテルを使用して直留ディーゼルから硫黄化合物を抽出した。直留ディーゼル中の硫黄含有量は7600ppmであった。混合時間を10分間とし、異なる3つの溶媒対ディーゼル比について室温で抽出を行った。抽出液及びラフィネート中の硫黄濃度をXRFにより測定した。結果を表5に要約する。
【0059】
【表5】

【実施例10】
【0060】
メタノールを使用して、硫黄含有量が7600ppmの直留ディーゼルから硫黄化合物を抽出した。混合時間を10分間とし、異なる3つの溶媒対ディーゼル比について室温で抽出を行った。抽出液及びラフィネート中の硫黄濃度をXRFにより測定した。結果を表6に要約する。
【0061】
【表6】

【実施例11】
【0062】
アセトンを使用して、硫黄含有量が7600ppmの直留ディーゼルから硫黄化合物を抽出した。混合時間を10分間とし、異なる3つの溶媒対ディーゼル比について-5℃で抽出を行った。抽出液及びラフィネート中の硫黄濃度をXRFにより測定した。結果を表7に要約する。
【0063】
【表7】

【実施例12】
【0064】
フルフラルを使用して、硫黄含有量が4800ppmのモデルディーゼルから硫黄化合物を抽出した。モデルディーゼルは、70%のn−ドデカンと芳香族化合物(15%のトルエン、10%のナフタレン及び5%のジベンゾチオフェン)を混合して調製した。異なる4つの溶媒対ディーゼル比について、混合時間を2時間として室温で抽出を行った。結果を表8に要約する。
【0065】
【表8】

【実施例13】
【0066】
9200ppmの硫黄を含有するモデルディーゼルを使用して実施例8と同様に行った。結果を表9に要約する。
【0067】
【表9】

【実施例14】
【0068】
アセトンを使用して18600ppmの硫黄を含有するアラビア軽質原油から硫黄化合物を抽出した。混合時間を10分間とし、異なる2つの溶媒対原油比について室温で抽出を行った。抽出液及びラフィネート中の硫黄濃度をXRFにより測定した。結果を表10に要約する。
【0069】
【表10】

【実施例15】
【0070】
アセトンを使用して25200ppmの硫黄を含有するアラビア中質原油から硫黄化合物を抽出した。混合時間を10分間とし、異なる3つの溶媒対原油比について室温で抽出を行った。抽出液及びラフィネート中の硫黄濃度をXRFにより測定した。結果を表11に要約する。
【0071】
【表11】

【実施例16】
【0072】
アセトンを使用して30000ppmの硫黄を含有するアラビア重質原油から硫黄化合物を抽出した。混合時間を10分間とし、異なる4つの溶媒対原油比について室温でバッチ抽出を行った。抽出液及びラフィネート中の硫黄濃度をXRFにより測定した。結果を表12に要約する。
【0073】
【表12】

【実施例17】
【0074】
アセトン溶媒を使用して6つの石油カット(petroleum cuts)から有機硫黄を抽出した。各石油カットとアセトン溶媒とのバッチ抽出比を1:1とした。表13に石油留分の硫黄濃度を示す。混合時間を10分間とし、6つの石油カットのバッチ抽出を室温で行った。抽出液及びラフィネート中の硫黄濃度をXRFにより測定した。結果を表13に要約する。
【0075】
【表13】

【0076】
これらの例は、石油カット4〜9に含まれる硫黄化合物の抽出について示している。
【0077】
前述のように、抽出される硫黄化合物に対する溶媒の飽和点までの容量は実質的に決まっているので、抽出される硫黄化合物の量は概ね同じであるが、初めの硫黄含有量が低い場合には、相対値は大きくなる。
【0078】
回転蒸発器を使ってアセトン抽出における溶媒の回収を行ったところ、抽出工程に使用したアセトンのほぼ100%を回収し、抽出工程に好適に再使用できることが分った。
【0079】
上記の実験例により明らかなように、本発明の方法は様々な供給流の硫黄含有量を実質的に下げることが可能であり、種々の溶媒及び溶媒種を使用することができる。多くの好適な溶媒が石油化学精製業者から入手可能であり、パイプラインで供給できる、現場又は近隣で製造されている溶媒を選択することにより経済利益を実現できる。
【0080】
本発明の方法を詳述し、上記実施例によりその実践について説明したが、変更及び改変は本技術分野の通常の技術レベル内であり、本発明の範囲は以下の特許請求の範囲により決定される。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
1つ又は複数の硫黄化合物を含有する原油供給流を脱硫する溶媒抽出方法であって、
a.原油を、1つ又は複数の硫黄化合物に対する1つ又は複数の抽出溶媒を含有する溶媒供給流と混合し、ここで該1つ又は複数の抽出溶媒は該原油と混和性を有さず、
b.混合溶液を、硫黄含有量を減少させた原油からなる第1の相と、溶解硫黄化合物と炭化水素化合物を含有している溶媒相とに分離し、
c.硫黄含有量を減少させた原油相を第1の供給流として更に処理するために回収し、
d.硫黄含有溶媒相を溶媒再生工程に供し、上記工程(a)に使用する溶媒供給流として再生し、
e.溶媒再生工程で回収された溶解硫黄化合物と炭化水素を水素化処理に供し、
f.水素化処理装置から硫黄含有量を減少させた第2液体炭化水素流を回収する
ことを有する溶媒抽出方法。
【請求項2】
1つ又は複数の溶媒がフラン環を有する溶媒化合物、環状炭酸エステル成分を有する化合物、ニトリル基を有する化合物、ケトン類及びそれらの混合物からなる群から選択されることを特徴とする、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
1つ又は複数の溶媒がフルフラル、ジメチルホルムアミド、炭酸プロピレン、炭酸エチレン、アセトン、アセトニトリル、ジアセチル、ジエチレングリコール、メタノール及びγ(ブチリミノ)ジエタノールからなる群から選択されることを特徴とする、請求項2に記載の方法。
【請求項4】
原油が重質、中質及び軽質原油及びそれらの混合物からなる群から選択されることを特徴とする、請求項1に記載の方法。
【請求項5】
請求項1の方法であって、
g.原油供給流を分析して硫黄化合物の有無を同定する工程、及び
h.原油中の1つ又は複数の硫黄化合物と溶質を形成する相対的能力に基づいて1つ又は複数の抽出溶媒を選択する工程を有する、請求項1に記載の方法。
【請求項6】
抽出溶媒は、混合容器に導入される前に原油供給流に導入されることを特徴とする、請求項1に記載の方法。
【請求項7】
溶媒と原油の混合を溶媒対原油比率が0.5:1から3:1の範囲で行うことを特徴とする、請求項1に記載の方法。
【請求項8】
エマルション破壊組成物を溶媒と原油の混合物に添加して2液相の形成を促進することを含む、請求項1に記載の方法。
【請求項9】
油‐水分離、ガス‐油分離、脱塩及び安定化からなる群から選択される1つ又は複数の工程により原油を前処理することを含む、請求項1に記載の方法。
【請求項10】
1つ又は複数の抽出溶媒との混合前に、原油供給流をトッピング工程に供し、硫黄含有量の低い第1の炭化水素流と硫黄含有量が増加した第2の原油流を作成することを特徴とする、請求項1に記載の方法。
【請求項11】
バッチ工程として行うことを特徴とする、請求項1に記載の方法。
【請求項12】
カラム内での連続工程として行うことを特徴とする、請求項1に記載の方法。
【請求項13】
請求項1の方法であって、工程(c)において回収された硫黄含有量が減少している原油相を処理して残存する溶媒を除去する工程、及び除去された溶媒を回収して工程(a)に使用する工程を更に含むことを特徴とする、請求項1に記載の方法。

【図1】
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【図2】
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【公表番号】特表2011−510102(P2011−510102A)
【公表日】平成23年3月31日(2011.3.31)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−531054(P2010−531054)
【出願日】平成20年10月23日(2008.10.23)
【国際出願番号】PCT/US2008/012144
【国際公開番号】WO2009/058229
【国際公開日】平成21年5月7日(2009.5.7)
【出願人】(510118868)サウジ アラビアン オイル カンパニー (2)
【氏名又は名称原語表記】SAUDI ARABIAN OIL COMPANY
【住所又は居所原語表記】Law Department,R−3312 A,North Administration Bldg.,Dhahran,31311 SAUDI ARABIA
【Fターム(参考)】