説明

溶媒抽出装置

【課題】溶媒抽出装置の熱伝導率を高め、溶媒の抽出効率を高める。
【解決手段】溶媒抽出装置1の外壁11と伝熱膜21との間又は伝熱膜21,21どうしの間に、第1網目空間34を有する網構造の第1介在層31を介在させ、第1網目空間34に海水等の溶液を通す。蒸留膜22と外壁12との間又は蒸留膜22,22どうしの間に、第2網目空間35を有する網構造の第2介在層32を介在させ、上記第1網目空間34を通過後の溶液を高温にして第2網目空間35に通す。伝熱膜21と蒸留膜22との間に、第3網目空間36を有する網構造の第3介在層33を介在させる。第1、第2介在層31,32として、例えば樹脂を用い、第3介在層33より溶液に対する耐蝕性を高くする。第3介在層33として、例えば金属を用い、第1、第2介在層31,32より熱伝導率を高くする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、海水等の溶液から淡水等の溶媒を抽出する装置に関し、特に膜蒸留法(MD(Memblen Distillation)法)による溶媒抽出装置に関する。
【背景技術】
【0002】
この種の溶媒抽出装置は、蒸留器を備えている。特許文献1の蒸留器では、下から底板、網材、不透膜、網材、疎水膜、網材、受光パネルが順次積層されている。海水を、先ず、底板と不透膜との間の網材の網目空間に通す。このとき、海水が、後述する水蒸気の凝縮潜熱を不透膜を介して受け取り、昇温する。上記網目空間から出た海水を、調節槽を経由して、疎水膜と受光パネルとの間の網材の網目空間に通す。このとき、海水が受光パネルからの太陽熱で加熱され、海水中の水分が蒸発する。この水蒸気が、疎水膜を透過して、不透膜と疎水膜との間の網材の網目空間に入る。この水蒸気が、不透膜を介して、底板と不透膜との間の網材を通る海水により冷却され、凝縮して淡水になる。これにより、海水から淡水を取り出すことができる。
【0003】
底板と不透膜との間の網材は、プラスチックにて構成されている。疎水膜と受光パネルとの間の網材は、ブチルゴムにて構成されている。不透膜と疎水膜との間の網材は、ポリエステル繊維で編んだトリコット布で構成している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開昭60−34786号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1では、底板と不透膜の間、不透膜と疎水膜の間、疎水膜と受光パネルの間にそれぞれ網材を介在させることで、これら底板と不透膜の間隔、不透膜と疎水膜の間隔、疎水膜と受光パネルの間隔を維持するとともに、網材を薄くすることで上記間隔をできるだけ小さくし、熱伝達を良くしようとしたものと推察される。しかし、何れの網材も樹脂製であるため熱伝導率が十分でない。一方、海水等の溶液に対する耐腐蝕性を考慮する必要もある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、上記事情に鑑みてなされたものであり、溶液から溶媒を抽出する溶媒抽出装置であって、
気体及び液体の透過を阻止し熱伝達可能な第1の伝熱膜と、
気体の透過を許容し液体の透過を阻止する第1の蒸留膜と、
上記溶液を通す第1網目空間を有する網構造をなして、上記第1伝熱膜と、外壁又は上記第1伝熱膜と同じ第2の伝熱膜との間に介在された第1介在層と、
上記第1網目空間を通過後の溶液を上記第1網目空間での温度より高温の状態で通す第2網目空間を有する網構造をなして、上記第1蒸留膜と、他の外壁又は上記第1蒸留膜と同じ第2の蒸留膜との間に介在された第2介在層と、
第3網目空間を有する網構造をなして、上記第1伝熱膜と上記第1蒸留膜との間に介在された第3介在層と、
を備え、上記第1介在層及び第2介在層が、上記第3介在層より上記溶液に対する耐蝕性が高く、上記第3介在層が、上記第1介在層及び上記第2介在層より熱伝導率が高いことを特徴とする。
【0007】
上記特徴によれば、第1介在層によって外壁と伝熱膜の間隔又は伝熱膜どうしの間隔を維持でき、第1網目空間からなる溶液流路の厚さを確保できる。第2介在層によって蒸留膜と外壁の間隔又は蒸留膜どうしの間隔を維持でき、第2網目空間からなる溶液流路の厚さを確保できる。第3介在層によって伝熱膜と蒸留膜の間隔を維持でき、第3網目空間からなる溶媒抽出室の厚さを確保できる。
溶液を第1網目空間に通すと、第3網目空間の溶液蒸気の凝縮潜熱が第1網目空間の溶液に伝わり、第1網目空間の溶液の温度が下流に向かうにしたがって上昇する。上記第1網目空間を通過後の溶液を第1網目空間での温度より高温の状態で第2網目空間に通す。上記第1網目空間から出た溶液を熱源で加熱したうえで第2網目空間に導入してもよく、特許文献1のように、第2網目空間を通過中の溶液を加熱することにしてもよい。これにより、第2網目空間の溶液中の溶媒が蒸発して蒸留膜を透過して第3網目空間に入る。この溶媒蒸気が、第3介在層及び伝熱膜に接触して冷却されて凝縮する。これにより、溶媒を抽出できる。
第2介在層については熱伝導率が低くても、溶液が流通することで第2網目空間の全域から蒸発潜熱を効率良く放出でき、溶媒蒸気を効率良く第3網目空間へ透過させることができる。
第3介在層については熱伝導率を高くすることによって、溶媒蒸気の凝縮潜熱を該第3介在層及び伝熱膜を介して第1網目空間の溶液へ効率良く伝えることができる。
第1介在層については熱伝導率が低くても、溶液が流通することで第3介在層から伝熱層経由で伝わって来た熱を該第1網目空間の溶液が効率良く受け取ることができる。ひいては、伝熱層を介して第3介在層を確実に冷却することができる。
よって、第2網目空間の溶液から第3網目空間を介して第1網目空間の溶液への熱移動を円滑に行なうことができ、第2網目空間から第3網目空間への溶媒蒸気の蒸発効率及び第3網目空間での溶媒蒸気の凝縮効率を高めることができる。この結果、溶媒の抽出効率を高めることができる。
第3介在層は、海水等の溶液から隔離されるため、腐蝕のおそれが小さく、耐久性を確保できる。一方、第1介在層及び第2介在層については高耐蝕性にすることで、耐久性を高めることができる。
【0008】
上記第1介在層及び第2介在層が樹脂にて構成され、上記第3介在層が金属にて構成されていることが好ましい。これにより、第1介在層及び第2介在層の耐蝕性を十分に確保できる。かつ第3介在層の熱伝導率を確実に高くすることができ、第3網目空間での溶媒蒸気の凝縮効率ひいては溶媒の抽出効率を確実に高めることができる。
網構造の第1介在層又は網構造の第2介在層として、ポリプロピレン等の樹脂メッシュが挙げられる。網構造の第3介在層として、ステンレスや銅等の金属メッシュが挙げられる。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、伝熱膜と蒸留膜の間の第3介在層の熱伝導率を高くすることにより、第3網目構造内の溶媒蒸気を効率的に冷却して凝縮させることができ、溶媒の抽出効率を高めることができる。一方、溶液を通す第1介在層及び第2介在層については溶液に対する耐蝕性を確保できる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】本発明の第1実施形態を示し、溶媒抽出装置の蒸留器の正面断面図である。
【図2】図1のII−II線に沿う、上記蒸留器の平面断面図である。
【図3】図1のIII−III線に沿う、上記蒸留器の平面断面図である。
【図4】図1のIV−IV線に沿う、上記蒸留器の平面断面図である。
【図5】上記蒸留器の平面図である。
【図6】本発明の第2実施形態を示し、溶媒抽出装置の蒸留器の正面断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明の実施形態を図面にしたがって説明する。
図1は、本発明の基本形態に係る第1実施形態を示したものである。溶媒抽出装置1は、蒸留器2と、熱源3を備えている。熱源3は、例えば太陽熱集熱器にて構成されているが、これに限定されず、各種工場の設備機械やエンジン等から出る排熱の回収部でもよく、電熱ヒーターでもよく、熱交換器でもよい。
【0012】
蒸留器2は、2つの外壁11,12と、これら外壁11,12の間に交互に積層された2つの膜21,22と3つの介在層31,32,33を備えている。蒸留器2の最底部には外壁11(底板)が設けられている。蒸留器2の最上部には他の外壁(上板)12が設けられている。これら外壁11,12は、互いに同じ大きさの四角形になっている。外壁11,12の材質は、蒸留器2の外形を保持する剛性を有し、かつ断熱性を有し、更に気体及び液体の透過を阻止するものであればよく、樹脂であってもよく、ガラスやセラミックスでもよく、ステンレスやアルミニウム等の金属であってもよい。外壁11,12の厚さは、膜21,22より大きくてもよく、膜21,22の厚さと同程度でもよい。
【0013】
伝熱膜21は、外壁11,12と同じ大きさの四角形になっている。伝熱膜21は、気体及び液体の透過を阻止し、かつ伝熱性の良好な不透膜にて構成されている。伝熱膜21を構成する不透膜としては、例えばPET(ポリエチレンテレフタレート)等の樹脂が用いられている。伝熱膜21の厚さは、例えば50μm程度である。
なお、第1実施形態の伝熱膜21は、特許請求の範囲の「第1の伝熱膜」を構成する。
【0014】
蒸留膜22は、外壁11,12と同じ大きさの四角形になっている。蒸留膜22は、例えば多孔質の膜で構成され、気体の透過を許容し、液体の透過を阻止する。蒸留膜22の厚さは、例えば50μm程度である。蒸留膜22の材料は、合成樹脂であり、例えばPVDF(ポリフッ化ビニリデン)、ポリプロピレン、ポリエチレン等が挙げられる。
なお、第1実施形態の蒸留膜22は、特許請求の範囲の「第1の蒸留膜」を構成する。
【0015】
図1及び図2に示すように、外壁11と伝熱膜21との間に第1介在層31が介在されている。第1介在層31の片面が伝熱膜21と接し、反対側の面が外壁11と接している。第1介在層31は、ポリプロピレンやポリエチレン等の樹脂からなるメッシュ(網構造)にて構成され、第1網目空間34を有している。第1網目空間34が、海水(溶液)を通す流路を構成している。第1介在層31の厚さひいては流路34の厚さは、例えば0.5mm程度である。第1介在層31は、外壁11,12及び膜21,22より小さい大略四角形になっている。第1介在層31の右縁の前側部(図2において右下)には突出部31aが設けられ、左縁の後側部(図2において左上)には突出部31bが設けられている。なお、第1介在層31の厚さは、0.5mmに限られない。
【0016】
第1介在層31の右側部には、多数(複数)の整流ドット31dが設けられている。整流ドット31dは、それぞれ小さい塊状をなし、互いに前後方向に間隔を置いて一列に並べられている。第1介在層31の左側部には、多数(複数)の整流ドット31eが設けられている。整流ドット31eは、それぞれ小さい塊状をなし、互いに前後方向に間隔を置いて一列に並べられている。整流ドット31d,31eは、第1介在層31と同一材質の樹脂で構成されていてもよく、第1介在層31とは異なる樹脂で構成されていてもよく、樹脂以外の材質、例えばステンレス等の金属で構成されていてもよい。整流ドット31dどうしの間を流体が通ることができる。整流ドット31dどうしの間隔が十分に小さいため、整流ドット31dの上流と下流で圧力差が発生し、均一な流れが生まれる。同様に整流ドット31eどうしの間を流体が通ることができる。整流ドット31eどうしの間隔が十分に小さいため、整流ドット31eの上流と下流で圧力差が発生し、均一な流れが生まれる。整流ドット31d,31eは、円形状に限られず、矩形その他の多角形状でもよい。整流ドット31d,31eを省略してもよい。
【0017】
第1介在層31の周縁より外側の外壁11と伝熱膜21の間に、接着剤41が設けられている。接着剤41は、突出部31a,31bを避けて、第1介在層31の全周に沿って塗布されている。接着剤41によって、外壁11と伝熱膜21が接着されている。かつ、接着剤41によって、第1介在層31の周縁がシールされている。
【0018】
図1及び図4に示すように、蒸留膜22と他の外壁12との間に第2介在層32が介在されている。第2介在層32の片面(下面)が蒸留膜22と接し、反対側の面(上面)が外壁12と接している。第2介在層32は、第1介在層31と同様にポリプロピレン等の樹脂からなるメッシュ(網構造)にて構成され、第2網目空間35を有している。第2網目空間35が、比較的高温の海水(溶媒抽出対象の溶液)を通す流路を構成している。第2介在層32の厚さひいては流路35の厚さは、例えば0.5mm程度である。第2介在層32は、外壁11,12及び膜21,22より小さい大略四角形になっている。第2介在層32の左縁の前側部(図4において左下)には突出部32aが設けられ、右縁の後側部(図4において右上)には、突出部32bが設けられている。なお、第2介在層32の厚さは、0.5mmに限られない。
【0019】
第2介在層32の左側部には、多数(複数)の整流ドット32dが設けられている。整流ドット32dは、それぞれ小さい塊状をなし、互いに前後方向に間隔を置いて一列に並べられている。第2介在層32の右側部には、多数(複数)の整流ドット32eが設けられている。整流ドット32eは、それぞれ小さい塊状をなし、互いに前後方向に間隔を置いて一列に並べられている。整流ドット32d,32eは、第1介在層31と同一材質の樹脂で構成されていてもよく、第2介在層32とは異なる樹脂で構成されていてもよく、樹脂以外の材質、例えばステンレス等の金属で構成されていてもよい。整流ドット32dどうしの間を流体が通ることができる。整流ドット32dどうしの間隔が十分に小さいため、整流ドット32dの上流と下流で圧力差が発生し、均一な流れが生まれる。同様に整流ドット32eどうしの間を流体が通ることができる。整流ドット32eどうしの間隔が十分に小さいため、整流ドット32eの上流と下流で圧力差が発生し、均一な流れが生まれる。整流ドット32d,32eは、円形状に限られず、矩形その他の多角形状でもよい。整流ドット32d,32eを省略してもよい。
【0020】
第2介在層32の周縁より外側の蒸留膜22と外壁12との間に、接着剤42が設けられている。接着剤42は、突出部32a,32bを避けて、第2介在層32の全周に沿って塗布されている。接着剤42によって、蒸留膜22と外壁12が接着されている。かつ、接着剤42によって、第2介在層32の周縁がシールされている。
【0021】
図1及び図3に示すように、伝熱膜21と蒸留膜22との間に第3介在層33が介在されている。第3介在層33の片面(下面)が伝熱膜21と接し、反対側の面(上面)が蒸留膜22と接している。第3介在層33は、ステンレス、アルミニウム、銅等の金属製のメッシュ(網構造)にて構成され、第3網目空間36を有している。金属製の第3介在層33は、樹脂製の第1介在層31及び第2介在層32より熱伝導率が高い。海水(溶液)に対する耐蝕性に関しては、樹脂製の第1介在層31及び第2介在層32のほうが金属製の第3介在層33より優っている。
【0022】
第3介在層33の第3網目空間36が、淡水抽出室を構成している。第3介在層33の厚さひいては淡水抽出室36の厚さは、例えば0.5mmである。第3介在層33は、外壁11,12及び膜21,22より小さい大略四角形になっている。第3介在層33の右縁の中央部には突出部33aが設けられ、左縁の中央部には突出部33bが設けられている。なお、淡水抽出室36の厚さは、0.5mmに限られない。
【0023】
第3介在層33の周縁より外側の伝熱膜21と蒸留膜22との間に、接着剤43が設けられている。接着剤43は、突出部33a,33bを避けて、第3介在層33の全周に沿って塗布されている。接着剤43によって、伝熱膜21と蒸留膜22が接着されている。かつ、接着剤43によって、第3介在層33の周縁がシールされている。
【0024】
図1及び図5に示すように、蒸留器2の左右の両側部には、6つのポート51〜56が形成されている。これらポート51〜56は、小孔状をなし、外壁11,12及び膜21,22並びに接着剤41,42,43を厚さ方向に貫通している。
【0025】
図2及び図5に示すように、冷溶液供給ポート51は、蒸留器2の右縁の前側部(図5において右下)に配置されている。図1及び図5に示すように、海水(溶液)の供給源(図示せず)からの冷溶液供給路61が、冷溶液供給ポート51の上端部に連なっている。ポート51の下端部が、栓71にて塞がれている。
ポート51の下端部に供給路61が連なりポート51の上端部に栓71が設けられていてもよい。
【0026】
図2に示すように、第1介在層31の突出部31aの中央部が、冷溶液供給ポート51と交差している。この交差部において、第1網目空間34が冷溶液供給ポート51と連なっている。
【0027】
図2及び図5に示すように、冷溶液導出ポート52は、冷溶液供給ポート51に対して蒸留器2の対角になる位置すなわち蒸留器2の左縁の後側部(図5において左上)に配置されている。図2に示すように、第1介在層31の突出部31bの中央部が、冷溶液導出ポート52と交差している。この交差部において、第1網目空間34が冷溶液導出ポート52と連なっている。
【0028】
図1及び図5に示すように、冷溶液導出ポート52の上端部から冷溶液導出路62が太陽熱集熱器3の入口ポートへ延びている。ポート52の下端部が、栓72(図2)にて塞がれている。
ポート52の下端部に導出路62が連なりポート52の上端部に栓72が設けられていてもよい。
【0029】
図4及び図5に示すように、温溶液導入ポート53は、冷溶液供給ポート51に対して蒸留器2の左右反対側すなわち蒸留器2の左縁の前側部(図5において左下)に配置されている。図1に示すように、太陽熱集熱器3の出口ポートからの温溶液導入路63が、温溶液導入ポート53の上端部に連なっている。ポート53の下端部が、栓73にて塞がれている。
ポート53の下端部に導入路63が連なりポート53の上端部に栓73が設けられていてもよい。
【0030】
図4に示すように、第2介在層32の突出部32aの中央部が、温溶液導入ポート53と交差している。この交差部において、第2網目空間35が温溶液導入ポート53と連なっている。
【0031】
図4及び図5に示すように、温溶液排出ポート54は、温溶液導入ポート53に対して蒸留器2の対角になる位置すなわち蒸留器2の右縁の後側部(図5において右上)に配置されている。第2網目空間35の突出部32bの中央部が、温溶液排出ポート54と交差している。この交差部において、第2網目空間35が温溶液排出ポート54と連なっている。
【0032】
図5に示すように、温溶液排出ポート54の上端部から温溶液排出路64が引き出されている。ポート54の下端部が、栓74(図2)にて塞がれている。
ポート54の下端部に排出路64が連なりポート54の上端部に栓74が設けられていてもよい。
【0033】
図3に示すように、溶媒導出ポート55は、蒸留器2の右縁の中央部に配置されている。第3介在層33の突出部33aの中央部が、溶媒導出ポート55と交差している。この交差部において、第3網目空間36が溶媒導出ポート55と連なっている。
【0034】
図5に示すように、溶媒導出ポート55の上端部から溶媒導出路65が引き出されている。ポート55の下端部が、栓75(図2)にて塞がれている。
ポート55の下端部に導出路65が連なりポート55の上端部に栓75が設けられていてもよい。
【0035】
図3に示すように、ガス抜きポート56は、蒸留器2の左縁の中央部に配置されている。第3介在層33の突出部33bの中央部がガス抜きポート56と交差している。この交差部において、第3網目空間36が、ガス抜きポート56と連なっている。ガス抜きポート56の上端部が開放されている。ポート56の下端部は、栓76(図2)にて塞がれている。ガスがガス抜きポート56から効率よく排出されるために、溶媒導出ポート55を下側にし、ガス抜きポート56が溶媒導出ポート55に対して上になるように、蒸留器2をほぼ垂直又は斜めに立てて設置してもよい。ポート56の下端部が開放され上端部が栓76にて塞がれていてもよい。ガス抜きポート56の両端部が開放されていてもよい。ガス抜きポート56を省略してもよい。
【0036】
上記構成の溶媒抽出装置1において、海水(溶液)から淡水(溶媒)を抽出する方法を説明する。
海水が、冷溶液供給路61から冷溶液供給ポート51に導入される。この海水が、冷溶液供給ポート51と突出部31aの交差部から第1介在層31の第1網目空間34に導入される。導入時の海水の温度は通常、常温である。第1網目空間34内において、海水は、まず第1介在層31の右端縁と右側の整流ドット31dの列との間に充填される。そして、右側の整流ドット31dどうしの間を通過することにより整流される。整流後の海水が、第1網目空間34内を左方向へ流れる。このとき、第1網目空間34内の海水は、第3網目空間36における後述する水蒸気の凝縮潜熱を伝熱膜21を介して受け取る。これにより、第1網目空間34内の海水の温度が下流(左方向)に向かうにしたがって上昇する。そして、海水は、第1介在層31の左側の整流ドット31eどうしの間を通過する。これにより、第1網目空間34内の海水の流れを一層均一にすることができる。左側の整流ドット31eどうし間を通過した海水は、これら左側の整流ドット31eの列と第1介在層31の左端縁との間を経て、突出部31bに集められ、冷溶液導出ポート52から冷溶液導出路62へ導出される。
【0037】
海水は、冷溶液導出路62を経て太陽熱集熱器3に送られる。太陽熱集熱器3は、太陽熱を集熱して海水に与える。これにより、海水が加熱されて更に高温になる。
【0038】
蒸留器2から出た高温の海水は、温溶液導入路63から温溶液導入ポート53に導入される。この高温海水が、温溶液導入ポート53と突出部32aの交差部から第2介在層32の第2網目空間35に導入される。第2網目空間35内において、高温海水は、まず第2介在層32の左端縁と左側の整流ドット32dの列との間に充填される。そして、左側の整流ドット32dどうしの間を通過することにより整流される。整流後の高温海水が、第2網目空間35内を右方向へ流れる。第2網目空間35内の高温海水の流れ方向は、第1網目空間34内の海水の流れ方向に対し逆方向であり、両空間34,35の流れは互いに対向流を構成する。第2網目空間35内の高温海水は、やがて第2介在層32の右側の整流ドット32eどうしの間を通過する。これにより、第2網目空間35内の海水の流れを一層均一にすることができる。右側の整流ドット32eどうし間を通過した海水は、これら右側の整流ドット32eの列と第2介在層32の右端縁との間を経て、突出部32bに集められ、温溶液排出ポート54から温溶液排出路64へ導出される。
【0039】
第2介在層32の第2網目空間35内を通過中の高温海水から水蒸気(溶媒蒸気)が蒸発する。この水蒸気が、蒸留膜22を透過して第3介在層33の第3網目空間36に入る。第3網目空間36内の水蒸気は、第3介在層33及び伝熱膜21と接触して冷却され凝縮する。これにより、第3網目空間36内において淡水が生成される。
第2介在層32については熱伝導率が低くても、温海水が流通することで第2網目空間35の全域から蒸発潜熱を効率良く放出でき、溶媒蒸気を効率良く第3網目空間36へ透過させることができる。
第3介在層33については熱伝導率を高くすることによって、水蒸気の凝縮潜熱を該第3介在層33及び伝熱膜21を介して第1網目空間34の冷海水へ効率良く伝えることができる。
第1介在層31については熱伝導率が低くても、冷海水が流通することで第3介在層33から伝熱層21を経由して伝わって来た熱を該冷海水が効率良く受け取ることができる。ひいては、伝熱層21を介して第3介在層33を確実に冷却することができる。
【0040】
よって、第2網目空間35の温海水から第3網目空間36を介して第1網目空間34の冷海水への熱移動を円滑に行なうことができ、第2網目空間35から第3網目空間33への水蒸気の蒸発効率及び第3網目空間33での水蒸気の凝縮効率を高めることができる。この結果、淡水の抽出効率を高めることができ、造水量を増大させることができる。
【0041】
淡水は、第3網目空間36の突出部33aから溶媒導出ポート55を経て溶媒導出路65へ導出される。そして、生活用や産業用等の種々の利用に供される。また、第3網目空間36内の水蒸気等のガスは、突出部33bにおける第3網目空間36からガス抜きポート56を経て排出される。
【0042】
第3介在層33は、海水から隔離されるため金属製であっても腐蝕のおそれは殆どない。一方、第1介在層31及び第2介在層32については、樹脂製にすることにより、海水に対する耐蝕性を確保できる。
【0043】
次に、本発明の他の実施形態を説明する。以下の実施形態において、既述の形態と重複する構成に関しては図面に同一符号を付して説明を省略する。
図6は、第2実施形態を示したものである。第2実施形態の溶媒抽出装置1Xの蒸留器2Xは、膜21,22及び介在層31,32,33をそれぞれ複数備えた多層積層構造になっている。
【0044】
蒸留器2Xの下端には底板としての外壁11が配置され、蒸留器2Xの上端には上板としての外壁11が配置されている。これら上下の外壁11の間に、膜21,22及び介在層31,32,33からなる多層積層体が設けられている。多層積層体は、上又は下から第1介在層31、伝熱膜21、第3介在層33、蒸留膜22、第2介在層32、蒸留膜22、第3介在層33、伝熱膜21、第1介在層31、伝熱膜21、第3介在層33、蒸留膜22、第2介在層32、蒸留膜22、第3介在層33、伝熱膜21、第1介在層31の順に積層してなる。
【0045】
積層方向(上下)の両端に配置された第1介在層31は、第1実施形態と同様に外壁11と伝熱膜21との間に介在されている。積層方向の中間に配置された第1介在層31は、伝熱膜21,21どうしの間に介在されている。第2介在層32は、蒸留膜22,22どうしの間に介在されている。第3介在層33は、伝熱膜21と蒸留膜22との間に介在されている。したがって、積層方向の中間の第1介在層31の両側には、それぞれ伝熱膜21を介して第3介在層33が配置されている。第2介在層32の積層方向の両側には、それぞれ蒸留膜22を介して第3介在層33が配置されている。第3介在層33の積層方向の一側には、伝熱膜21を介して第1介在層31が配置され、反対側には蒸留膜22を介して第2介在層32が配置されている。
なお、中間の第1介在層31を挟む2つの伝熱膜21,21のうち何れか一方が特許請求の範囲の「第1伝熱膜」を構成し、他方が特許請求の範囲の「第2伝熱膜」を構成する。第2介在層31を挟む2つの蒸留膜22,22のうち何れか一方が特許請求の範囲の「第1蒸留膜」を構成し、他方が特許請求の範囲の「第2蒸留膜」を構成する。
【0046】
蒸留器2X全体の第3介在層33の数は、第1介在層31より多く、かつ第2介在層32より多い。第3介在層33の数は、図6では4つであるが、2つまたは3つでもよく、5つ以上でもよく、多数個(例えば数十個)でもよい。第3介在層33の数に拘わらず、積層方向の中間の第1介在層31の両側には、それぞれ伝熱膜21を介して第3介在層33が配置されるようにし、積層方向の中間の第2介在層32の両側には、それぞれ蒸留膜22を介して第3介在層33が配置されるようにし、かつ第3介在層33の積層方向の一側には、伝熱膜21を介して第1介在層31が配置され、反対側には蒸留膜22を介して第2介在層32が配置されるように、膜21,22及び介在層31,32,33を積層する。膜21,22及び介在層31,32,33からなる多層積層体の積層方向の一端又は両端に、第1介在層31ではなく第2介在層32が配置されるようにしてもよく、その場合の当該一端又は両端の第2介在層32は、蒸留膜22と外壁12との間に介在される。
【0047】
蒸留器2Xの平面視の形状は、第1実施形態の図5と同様である。蒸留器2Xの各第1介在層31の厚さ方向の中間部で切断した平面断面図は、第1実施形態の図2とほぼ同様である(ただし、積層方向の両端の第1介在層31については、後述するように整流ドット31d,31eの配置間隔が第1実施形態と異なる)。蒸留器2Xの各第2介在層32の厚さ方向の中間部で切断した平面断面図は、第1実施形態の図4と同様である。蒸留器2Xの各第3介在層33の厚さ方向の中間部で切断した平面断面図は、第1実施形態の図3と同様である。
【0048】
第1実施形態と同様に、6つのポート51〜56が、蒸留器2Xの左右の端縁の前側部と中央部と後側部にそれぞれ配置されている(図5参照)。各ポート51〜56が蒸留器2Xの全体を上下に貫いている。各ポート51〜55の上端部に、対応する路61〜65が接続されている。各ポート51〜56の下端部が、栓71〜76にて塞がれている(図2参照)。
ポート51〜55の下端部に路61〜65が接続されてポート51〜56の上端部に栓71〜76が設けられていてもよい。
【0049】
冷溶液供給ポート51が、各第1介在層31の突出部31aと交差し、各第1網目空間31の右端部と連なっている。冷溶液導出ポート52が、各第1介在層31の突出部31b(図2参照)と交差し、各第1網目空間31の左端部と連なっている。積層方向の両端の第1介在層31における隣接する導入側整流ドット31d,31dどうし間の間隔は、積層方向の中間の第1介在層31における隣接する導入側整流ドット31d,31dどうし間の間隔の約半分になっている。同じく、積層方向の両端の第1介在層31における隣接する導出側整流ドット31e,31eどうし間の間隔は、積層方向の中間の第1介在層31における隣接する導出側整流ドット31e,31eどうし間の間隔の約半分になっている。
【0050】
温溶液導入ポート53が、各第2介在層32の突出部32aと交差し、各第2網目空間32の左端部と連なっている。温溶液排出ポート54が、各第2介在層32の突出部32b(図4参照)と交差し、各第2網目空間32の右端部と連なっている。溶媒導出ポート55が、各第3介在層33の突出部33a(図3参照)と交差し、各第3網目空間33の右端部と連なっている。ガス抜きポート56が、各第3介在層33の突出部32b(図3参照)と交差し、各第3網目空間33の左端部と連なっている。
【0051】
冷溶液供給路61からの海水が、1つの冷溶液供給ポート51を通して各第1介在層31の第1網目空間34に分配される。各第1網目空間34を流通する海水は、伝熱膜21を介して隣接する第3網目空間36での水蒸気の凝縮潜熱を受け取り、加温される。積層方向の中間の第1網目空間34は、積層方向の両側から水蒸気の凝縮潜熱を受け取ることができる。積層方向の両端の第1介在層31における整流ドット31d,31dどうし間及び整流ドット31e,31eどうし間の間隔を中間の第1介在層31の約半分に設定しておくことで、積層方向の両端の第1網目空間34内を流れる海水の流量を、中間の第1網目空間34内を流れる海水の流量の約半分にすることができる。したがって、両端の2つの第1網目空間34内の海水流量の合計が、中間の1つの第1網目空間34内の海水流量とほぼ同じになる。
【0052】
各第1網目空間34を通過した海水が、1つの冷溶液導出ポート52で合流し、冷溶液導出路62を経て熱源3へ送られ、熱源3において更に加熱される。加熱後の温海水が、温溶液導入路63を経て、1つの温溶液導入ポート53を通して各第2介在層32の第2網目空間35に分配される。
【0053】
この第2網目空間35の温海水中の水蒸気が、蒸留膜22を透過し、隣接する第3介在層33の第3網目空間36に入る。第2網目空間35の積層方向の両側が、それぞれ蒸留膜22を介して第3網目空間36と接しているため、第2網目空間35から水蒸気が積層方向の両方向へ透過できる。したがって、各第2網目空間35からの水蒸気の透過量を、第2網目空間35の片側だけに第3網目空間36が隣接して配置されている場合の透過量より十分に大きくすることができる。
【0054】
各第3網目空間36に入った水蒸気は、伝熱膜21を介して隣接する第1網目空間34を通る海水で冷却されて凝縮し、淡水になる。1つの第1網目空間34を通る海水で、その上下両側の第3網目空間36の水蒸気を冷却できる。各第3網目空間36で得られた淡水が、1つの溶媒導出ポート55から導出され、溶媒導出路65にて各種の淡水利用部へ供給される。上述したように、各第2網目空間35からの水蒸気透過量を十分大きくできるため、蒸留器2X全体の淡水の生産流量を、第1実施形態の蒸留器2の数を単に増やした場合よりも十分に大きくすることができる。すなわち、図6の蒸留器2Xには第3網目空間36が4つ設けられているが、蒸留器2X全体の淡水生産流量は、図1の蒸留器2による淡水生産流量の4倍より十分に大きく、例えば7倍程度にすることができる。
【0055】
各第2網目空間35を通過した温海水は、1つの温溶液排出ポート54に導出されて、温溶液排出路64から排出される。
第1介在層31の数が第2介在層32より多く、第3介在層33の数が第1介在層32より多いため、第1網目空間64での冷海水の流量と、第2網目空間65での温海水の流量と、第3網目空間66での蒸気及び淡水の流量を互いにバランスさせることができる。
【0056】
本発明は、上記実施形態に限定されず、その趣旨を逸脱しない範囲で種々の改変をなすことができる。
例えば、処理対象の溶液は、海水に限られず、塩水(かん水)でもよく、汚水でもよい。
溶液は水溶液に限られず、例えばアルコール溶液でもよい。抽出対象の溶媒は、水に限られず、例えばアルコールでもよい。
第3介在層33は、第1介在層31及び第2介在層32に対して熱伝導率が高ければよく、金属製に限られず、第1介在層31及び第2介在層32を構成する樹脂より熱伝導率が高い樹脂(例えば導電性樹脂等)にて構成されていてもよい。
図面は、蒸留器2,2Xが水平に配置され、外壁11,12及び膜21,22並びに介在層31,32,33が上下に積層されているが、蒸留器2,2Xを垂直に配置し、外壁11,12及び膜21,22並びに介在層31,32,33を水平に積層してもよく、蒸留器2,2Xを垂直又は水平方向に対し斜めに傾けて配置してもよい。蒸留器2,2Xを垂直又は斜めに配置する場合、溶媒導出ポート55が下側に配置され、ガス抜きポート56が上側に配置されるようにするのが好ましい。
【産業上の利用可能性】
【0057】
本発明は、例えば海水から淡水を取り出す淡水化装置に適用可能である。
【符号の説明】
【0058】
1,1X 溶媒抽出装置
2,2X 蒸留器
3 太陽熱集熱器(熱源)
4 蒸留ユニット
11 外壁
12 他の外壁
21 伝熱膜(不透膜)
22 蒸留膜
31 第1介在層(樹脂メッシュ)
31a,31b 突出部
31d 整流ドット
32 第2介在層(樹脂メッシュ)
32a,32b 突出部
32d 整流ドット
33 第3介在層(金属メッシュ)
33a,33b 突出部
34 第1網目空間(冷溶液流通路)
35 第2網目空間(温溶液流通路)
36 第3網目空間(淡水抽出室)
41〜43 接着剤
51 冷溶液供給ポート
52 冷溶液導出ポート
53 温溶液導入ポート
54 温溶液排出ポート
55 溶媒導出ポート
56 ガス抜きポート
61 冷溶液供給路
62 冷溶液導出路
63 温溶液導入路
64 温溶液排出路
65 溶媒導出路
71〜76 栓

【特許請求の範囲】
【請求項1】
溶液から溶媒を抽出する溶媒抽出装置であって、
気体及び液体の透過を阻止し熱伝達可能な第1の伝熱膜と、
気体の透過を許容し液体の透過を阻止する第1の蒸留膜と、
上記溶液を通す第1網目空間を有する網構造をなして、上記第1伝熱膜と、外壁又は上記第1伝熱膜と同じ第2の伝熱膜との間に介在された第1介在層と、
上記第1網目空間を通過後の溶液を上記第1網目空間での温度より高温の状態で通す第2網目空間を有する網構造をなして、上記第1蒸留膜と、他の外壁又は上記第1蒸留膜と同じ第2の蒸留膜との間に介在された第2介在層と、
第3網目空間を有する網構造をなして、上記第1伝熱膜と上記第1蒸留膜との間に介在された第3介在層と、
を備え、上記第1介在層及び第2介在層が、上記第3介在層より上記溶液に対する耐蝕性が高く、上記第3介在層が、上記第1介在層及び上記第2介在層より熱伝導率が高いことを特徴とする溶媒抽出装置。
【請求項2】
上記第1介在層及び第2介在層が樹脂にて構成され、上記第3介在層が金属にて構成されていることを特徴とする請求項1に記載の溶媒抽出装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2011−56479(P2011−56479A)
【公開日】平成23年3月24日(2011.3.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−212060(P2009−212060)
【出願日】平成21年9月14日(2009.9.14)
【出願人】(000002174)積水化学工業株式会社 (5,781)
【Fターム(参考)】