説明

溶射における金属の酸化を防ぐ方法

本発明は、用いる金属粉をナノ炭化物で被膜することによって、溶射における金属の酸化を防ぐ方法、その方法を用いて得る被膜、および金属粉をナノ炭化物で処理する方法に関する。本発明にかかる方法は、溶射に使用する全ての金属粉に適し、本発明はより安価な材料を用いることが出来るため、これらの発明は経済的に非常に有益である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、溶射における金属の酸化を防ぐための請求項に記載の方法と、金属粉の被膜方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来は、スプレーする材料を合金化して、その混合物の酸素親和性を低減させることによって、酸化を最小限にする試みが行われていた。しかしながら、高価な合金剤を用いても、被膜上での酸化被膜の発生を完全には防ぐことは出来なかった。
【0003】
別の解決法としては、真空プラズマスプレー(VPS)があり、完全な無酸素被膜が得られるが、非常に高い製造コストがかかるため、この方法はやむを得ない場合を除き使用しない。例えば、ガスタービンを被膜する場合は、製造コストが高いためVPS被膜を積極的に避ける。
【0004】
特許文献1は、溶射によって作製する被膜に使用できる金属粉の製造を記載する。この公報の金属粉は金属炭化物複合体の凝集体中に製造され、これにより炭化物は粉粒自体に含まれる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】米国特許第6376103号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
従って、種々の金属および合金によって炭化物の量を最適化することは、本発明の最大の課題である。溶射被膜が酸化しないことで十分であるが、被膜中に未反応の炭化物が過剰に残るほど炭化物の量が多くてはいけない。溶射中の炭素の放出スピードは、どの炭化物を使用するかによる。炭素が炭化物から放出される際、炭化物の金属成分は被膜中に残るため、炭化物は適用形態にも応じて選択すべきである。
【0007】
一般的に、溶射された金属被膜の最大の問題のひとつは、その脆弱性であり、主として、その弱い腐食保護である。例えば、導電層/伝熱性層、腐食保護被膜またはガスタービンの遮熱被膜(TBC)などの、溶射金属被膜の適用形態の全てにおいて常に、酸化をできるだけ少なくした被膜を得るという傾向にある。スプレー中の酸化を最小限に抑えるため、非常に複雑で高価な金属合金を適用形態で使用しなければならない。
【0008】
本発明による方法は従来知られている解決方法において起きる問題を排除できる可能性がある。本発明はより安価な材料を使用することができるため、本発明に従う方法は経済的に非常に有益である。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明に従う溶射中の金属の酸化を防ぐ方法は、請求項1の特徴部分の記載に特徴づけられる。
【0010】
本発明に従う溶射被膜は、同様に、請求項4の記載に特徴づけられ、本発明に従う金属粉の被膜方法は、請求項8の記載に特徴づけられる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】本発明の実施形態によって起きる反応を説明する図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明の一実施形態は図1を参照して詳細に説明され、図1はこの実施形態によって起きる反応を説明する。
【0013】
本発明は溶射における金属の酸化を防ぐ方法に関し、ここで、金属粉の表面にナノ炭化物を付着させ、その後、被膜した金属粉を溶射でスプレーして物体(すなわち、溶射でスプレーできるベース)の表面上に金属被膜を形成し、これによって、ナノ炭化物がスプレーの溶解状態中に金属粉粒の表面上で炭化物の還元反応をもたらすことにより、溶解金属液滴の表面を酸化させない。
【0014】
本発明はまた、この方法を用いて得られる溶射被膜にも関し、さらに溶射において使用する前記金属粉を被膜する方法にも関する。
【0015】
溶射被膜は、溶解液滴が物体の表面上で凝固して形成される。従来の方法では、溶解金属液滴はスプレー中に周囲の酸素と反応することができ、そして被膜に酸化被膜を形成する。ナノ炭化物(例えば炭化タングステンまたはWC)は、溶射において被膜に使用する金属粉の表面に付着させ、これがスプレー中の金属酸化を防ぐ。炭化物は、制御下において炭素を放出し、炭素は周囲の酸素と反応し、気体化合物(CO、CO)を形成し、これにより溶解金属液滴の表面は酸化されない。この方法で、被膜には酸化被膜が形成されない。純粋な炭素は周囲の酸素と非常に迅速に反応し、これにより保護特性が得られない。
【0016】
溶射された金属被膜の最大の問題は、酸化被膜によって与えられる、脆弱性および弱い腐食保護に関連する。
【0017】
図1のように、「酸素摂食(oxygen-eating)」炭化物とよばれる材料の目的は、金属粒の表面上で還元反応をもたらすことにより、溶解状態中に起こる酸化を相殺することである。これは、炭化物金属マトリクス複合被膜を試験する場合に見られていたことであり、炭化物が破壊されるので被膜中の炭素が損失することを回避することを意図するものである。例えば、WCは被膜工程で炭素および金属タングステンに分解する。本発明によれば、同じ現象を利用して制御された還元をもたらし、ここで放出された炭素は酸素と反応し、二酸化炭素を発生させると同時に金属が酸化しないように保護する。
【0018】
水性合成(ナノ炭化物を製造する経済的に効果的な方法)を用いたナノ炭化物の製造についての知識が本発明に使用されている。その工程は、ナノ炭化物が金属粒の表面上に直接水性スラリーから形成されるように変更してもよい。これは粉末製造コストをほとんど上げることはない。加えて、応用形態でより安価な金属を使用することができ、総コストを非常に下げることができる。無酸素被膜は新たな応用形態の範囲を広げることもでき、現在の金属被膜の性能ではもはや十分ではなくなるであろう。
【0019】
本発明は、溶射の金属粉全てに適しており、溶射される金属粉の製造に革命をもたらすことができ、また、より多くの金属被膜の応用を開拓することができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
溶射において使用する金属粉粒の表面にナノ炭化物を付着させる工程と、その後に、
物体の表面上に金属被膜するように、被膜した金属粉を溶射によりスプレーする工程と、を含み、
前記ナノ炭化物は、前記スプレーの溶解状態中に前記金属粉粒の表面上で炭化物の還元反応をもたらすことにより、溶解金属液滴の表面を酸化させないことを特徴とする、溶射における金属の酸化を防ぐ方法。
【請求項2】
前記金属粒の前記表面上に、水性スラリーから直接前記ナノ炭化物を形成することを特徴とする、請求項1に記載の溶射における金属の酸化を防ぐ方法。
【請求項3】
前記ナノ炭化物として炭化タングステンを用いることを特徴とする、請求項1または2に記載の溶射における金属の酸化を防ぐ方法。
【請求項4】
ナノ炭化物で被膜した金属粉から形成することを特徴とする、溶射被膜。
【請求項5】
前記ナノ炭化物がタングステン炭化物であることを特徴とする、請求項4に記載の溶射被膜。
【請求項6】
酸化被膜がないことを特徴とする、請求項4または5に記載の溶射被膜。
【請求項7】
請求項1〜3のいずれか1項に記載の溶射における金属の酸化を防ぐ方法により製造することを特徴とする、請求項4〜6のいずれか1項に記載の溶射被膜。
【請求項8】
金属粉粒の表面にナノ炭化物を付着させることを特徴とする、溶射において被膜に使用する金属粉粒の被膜方法。
【請求項9】
前記金属粒の前記表面上に、水性スラリーから直接前記ナノ炭化物を形成することを特徴とする、請求項8に記載の溶射において被膜に使用する金属粉粒の被膜方法。
【請求項10】
前記ナノ炭化物として炭化タングステンを用いることを特徴とする、請求項8または9に記載の溶射において被膜に使用する金属粉粒の被膜方法。

【図1】
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【公表番号】特表2012−519775(P2012−519775A)
【公表日】平成24年8月30日(2012.8.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−552482(P2011−552482)
【出願日】平成22年3月3日(2010.3.3)
【国際出願番号】PCT/FI2010/050164
【国際公開番号】WO2010/100336
【国際公開日】平成22年9月10日(2010.9.10)
【出願人】(511215207)テクノロジアン テュトキムスケスクス ヴェーテーテー (11)
【氏名又は名称原語表記】Teknologian tutkimuskeskus VTT
【Fターム(参考)】