説明

溶接トランス

【課題】この発明はインバータ式抵抗溶接機用の溶接トランスにおいて、制御周波数を上げると最大電流が低下する問題を解決している。小型化、省エネ化の対応可能とするインバータ式抵抗溶接機用の溶接トランスを提案する。
【解決手段】1次巻線は巻線銅板を積層した薄型構造としているため、2次巻線の冷却水通路により大きな冷却効果がある。そのため、2次巻線の上下に1次巻線を重ねることができる。2枚の2次巻線用銅板が近接し、インダクタンスを極めて小さくする構造としている。また、トランス部と制御部を合体した構造としている。さらに、折り曲げ構造の1次巻線を使用したことにより、インダクタンスを小さく押さえ、溶接トランスの全体構造をコンパクトにしている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、特にインバータ式抵抗溶接機に使用される溶接トランスに関する。
【背景技術】
【0002】
従来のインバータ式抵抗溶接機に使用される溶接トランスは、図5に示されている。この従来の溶接トランスは、トランス部Trと整流部Rcとから構成されている。
【0003】
従来の溶接トランスのトランス部Trを、図を使って説明する。
図5において、符号1と2は、それぞれ2次巻線を示している。符号3は、1次巻線を示している。1次巻線3は複数個が使用されている。複数個の1次巻線に、それぞれ同じ符号3が付されている。1次巻線3は、その横断面が円形または四角形の銅線からなる。この銅線の外周面には、よく知られた絶縁被膜が設けられている。1次巻線3は、図6(a)にも示されている。
【0004】
2次巻線1、2は、長さ方向に沿う冷却水通路(図示せず)を有している。この冷却水通路は、2次巻線1、2の各々に設けられた貫通孔である。上記各冷却水通路に、2次巻線1、2を冷却するための冷却水が流される。図示を省略したが、2次巻線1、2の各冷却水通路にそれぞれ配管が接続されているので、配管用の継手やチューブが多くなり、構成が煩雑になる。
【0005】
複数個の1次巻線3と2次巻線1、2とは重ねられてコア4に組み込まれている。上記冷却水通路を流れる冷却水によって1次巻線3も冷却される。1次巻線3の冷却効率を高めるために次のようにしている。すなわち、複数個の1次巻線3は、一方の2次巻線1の両側と他方の2次巻線2の両側とにそれぞれ配置されている。すなわち、1次巻線3、2次巻線1、1次巻線3、1次巻線3、2次巻線2、1次巻線3の順番で重ねられている。
【0006】
整流部Rcは、複数個の2次側電極7とダイオード6とを有している。複数個の2次側電極7とダイオード6とは、重ねられている。これらは、2枚の押え板5により上下から挟み付けられ、固定ねじ34により固定されている。複数個の2次側電極7は、それぞれ連結導体8を介してトランス部Trの2次巻線1、2に連結されている。ダイオード6と2次側電極7の側面に、板状の2次側端子30が配置されている。
【0007】
図15(b)に、図5に示す従来の溶接トランスにおける電流の流れを矢印9で示している。電流は、各2次巻線1、2からそれぞれダイオード6及び銅板30aを経て2次側端子30に流れる。
【0008】
従来の溶接トランスは、図5に示すように、トランス部Trの、2つの2次巻線1と2との間に複数個の1次巻線3が存在している。このため、2次巻線1と2との間の距離Hが大きくなっている。
【0009】
また、従来の溶接トランスは、トランス部Trと整流部Rcとを連結導体8により連結した構成である。トランス部Trと整流部Rcとが分離した構成である。このため、図5に示すように、トランス部Trと整流部Rcとの間の距離Fが大きくなっている。
【0010】
上記距離HとFが大きいことにより、図3に示すように、溶接機に接続して使用したとき、次の欠点が生じている。すなわち、図3に示す、溶接トランスの等価回路のインダクタンスL1a、L1bの数値が大きくなる。
【0011】
図7(a)は従来の溶接トランスの通常の周波数の1次電流の波形を示す波形図である。図7(b)はその従来の溶接トランスの高い周波数の1次電流の波形を示す波形図である。
【0012】
溶接トランスの等価回路のインダクタンスL1a、L1bの数値が大きくなると次の問題が生じる。すなわち、溶接トランスの使用時に制御周波数をあげたとき、1次電流波形が図7(b)に示すようになり、電流の立ち上がりが不十分である。このため、所望の最大電流が得られないという問題がある。
【0013】
溶接トランスにおける各構成や技術については、従来から次のようなことが知られている。すなわち、
(1)1次巻線や2次巻線として銅板を用いた構成(例えば、特許文献1、特許文献2参照)。しかし、ここでは溶接トランスで重要な発熱防止のための冷却に関する構成が明記されていない。
(2)1次巻線、2次巻線、2次巻線、1次巻線の順に配列し、2枚の2次巻線の上部と下部に1次巻線を配置する構成(例えば、特許文献3、特許文献4参照)。しかし、この構成は、1次巻線の積層の詳細は不明瞭である。この構成から、薄い厚さで多くの巻数の形成を可能にする技術(本発明の特徴)を導くことは、容易ではない。
(3)2次巻線を整流部側に延長し、その延長部にダイオードを配置する構成(例えば、特許文献3、特許文献7参照)。
(4)金属板によりコイルを形成する技術(例えば、特許文献5、特許文献6参照)。
(5)銅板からなるコイルに冷却液通路を形成する構成(例えば、特許文献6参照)。しかし、この冷却液通路を形成する構成は、流通路が複雑であり、冷却液の流通管理が面倒である。
(6)同一平面上に、巻数1ターンの板状コイルを複数列形成する技術(例えば、特許文献8参照)。
(7)複数の板状コイルを直列又は並列に組み合わせて接続する技術(例えば、特許文献8参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0014】
【特許文献1】特開2000−223320号公報
【特許文献2】特開2002―175922号公報
【特許文献3】実開昭63−182687号公報
【特許文献4】実開昭56−126828号公報
【特許文献5】特開2003−264110号公報
【特許文献6】実開平06−17214号公報
【特許文献7】特開昭52−53745号公報
【特許文献8】特開平03−66108号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0015】
従来の溶接トランスには、次のような解決すべき課題がある。すなわち、さらなる要望の小型化および、省エネルギ対応ができない。つまり、制御周波数をあげると、図7(b)に示すように最大電流が低下する。また、1次巻線や2次巻線を、より効率的に冷却するための対策がなされていない。
【0016】
本発明は、上記の課題を解決するためになされたもので、制御周波数を上げても所望の最大電流が保持でき、小型化および、省エネルギ対応ができる溶接トランスを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0017】
以下の構成はそれぞれ上記の課題を解決するための手段である。
〈構成1〉
1次巻線と2次巻線とをコアに組み込んだトランス部と、前記2次巻線に接続されるダイオードを含む整流部とを備えた溶接トランスにおいて、前記1次巻線は、銅板1枚にスリットを設けて同一平面上に巻数が複数ターン配列された板状コイルが形成され、前記板状コイルの側縁部が折り曲げられた形状とされ、前記板状コイルの複数枚が積層されて各一端が直列に接続された1次巻線用銅板で構成され、前記2次巻線は、銅板1枚にスリットを設けて板状コイルが形成され、前記板状コイル内に冷却水通路が形成されて構成され、前記ダイオードは、前記2次巻線の一部が前記コアの外側に突出した延出部に直接載置され、前記1次巻線と前記2次巻線は、それぞれ複数個が用いられ、1次巻線、2次巻線、2次巻線、1次巻線の順に重ね合わせて前記コアに組み込まれ、重ね合わされた前記2個の2次巻線の各前記冷却水通路は、前記2次巻線の中央部において互いに連通されて一つの水路として構成されたことを特徴とする溶接トランス。
【0018】
〈構成2〉
1次巻線と2次巻線とをコアに組み込んだトランス部と、前記2次巻線に接続されるダイオードを含む整流部とを備えた溶接トランスにおいて、前記1次巻線は、銅板1枚にスリットを設けて同一平面上に1ターンのコイルが複数列配置された板状コイルが形成され、前記板状コイルの2枚が積層されて各中間端子が直列に接続されて複数列の2ターンの板状コイルが形成され、前記複数列の2ターンの板状コイルの各側縁部が折り曲げられた形状とされた1次巻線用銅板で構成され、前記2次巻線は、銅板にスリットを設けて板状コイルとされ、かつ前記銅板内に冷却水通路が形成されて構成され、前記ダイオードは、前記2次巻線の一部が前記コアの外側に突出した延出部に直接載置され、前記1次巻線と前記2次巻線は、それぞれ複数個が用いられ、1次巻線、2次巻線、2次巻線、1次巻線の順に重ね合わせて前記コアに組み込まれたことを特徴とする溶接トランス。
【0019】
〈構成3〉
1次巻線と2次巻線とをコアに組み込んだトランス部と、前記2次巻線に接続されるダイオードを含む整流部とを備えた溶接トランスにおいて、前記1次巻線は、銅板1枚にスリットを設けて同一平面上に巻数が複数ターン配列された板状コイルが形成され、前記板状コイルの側縁部が折り曲げられた形状とされ、前記板状コイルの複数枚が積層されて各一端が直列に接続されて構成された複数ターンの1次巻線用銅板と、銅板1枚にスリットを設けて同一平面上に1ターンのコイルが複数列配置された板状コイルが形成され、前記板状コイルの2枚が積層されて各中間端子が直列に接続されて複数列の2ターンの板状コイルが形成され、前記複数列の2ターンの板状コイルの各側縁部が折り曲げられた形状とされて構成された2ターンの1次巻線用銅板とを組み合わせて構成され、前記2次巻線は、銅板にスリットを設けて板状コイルとされ、かつ前記銅板内に冷却水通路が形成されて構成され、前記ダイオードは、前記2次巻線の一部が前記コアの外側に突出した延出部に直接載置され、前記1次巻線と前記2次巻線は、それぞれ複数個が用いられ、1次巻線、2次巻線、2次巻線、1次巻線の順に重ね合わせて前記コアに組み込まれたことを特徴とする溶接トランス。
【発明の効果】
【0020】
〈構成1の効果〉
銅板製の2枚の2次巻線を直接重ね合わせて2次巻線間距離Hを小さくできる。このため、インダクタンスL1aが小さくなり、高い周波数でも出力電流が低下しない。
1次巻線の側縁部を折り曲げた形状とすることにより、トランス部と整流部との間の距離Fを小さくできる。このため、溶接トランスの等価回路のインダクタンスL1a、
L1bが小さくなり、溶接トランス全体の大きさを、より小型化できる。
1次巻線は、多数の銅板を積層して構成され、各端子を、直列あるいは並列に接合できる形状とされている。これらの端子を任意に接続することにより、必要に応じて、巻数の異なる1次巻線を、厚さを厚くすることなく構成できる。
2個の2次巻線の各冷却水通路が2次巻線の中央部において互いに連通されて一つの水路として構成されている。このため、冷却水通路に冷却媒体を流通させる機構を簡素化できる。
〈構成2の効果〉
構成1の効果と同様の効果を奏する。さらに、多くの巻数を必要とする中で各端子を適宜、直列あるいは並列に接続することで、巻数の種類を種々変化させることが可能である。このため、一つのトランスで各種の入力電圧に対応することができ、出力電流の大きさのコントロールが可能である。
〈構成3の効果〉
構成1および構成2の効果と同様の効果を奏する。さらに、1次巻線を、巻数の異なる異種の1次巻線を組み合わせて構成したことにより、巻線数の種類を種々増やすことができる。この結果、種々の出力電圧を得ることができる。また広い範囲の入力電圧にも対応できる。一つの溶接トランスで各種の入力電圧に対応可能である。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【図1】実施例1の溶接トランスの概要を示す斜視図である。
【図2】(a)は実施例2の溶接トランスを分解して示す斜視図、(b)は実施例2で使用される1次巻線を示す正面図である。
【図3】溶接トランスの等価回路図である。
【図4】(a)は実施例1で使用される1次巻線用銅板を示す斜視図、(b)は同1次巻線用銅板を分解して示す斜視図である。
【図5】従来の溶接トランスを示す斜視図である。
【図6】(a)は従来の溶接トランスで使用される1次巻線を示す斜視図、(b)は実施例1で使用される1次巻線を示す斜視図である。
【図7】(a)は従来の溶接トランスの通常の周波数の1次電流の波形を示す波形図、(b)はその従来の溶接トランスの高い周波数の1次電流の波形を示す波形図、(c)は本発明の溶接トランスの通常の周波数の1次電流の波形を示す波形図、(d)はその本発明の溶接トランスの高い周波数の1次電流の波形を示す波形図である。
【図8】本発明の溶接トランスで使用される、2個の2次巻線を示す図であり、(a)は2個の2次巻線の一方を示す平面図、(b)は2個の2次巻線の他方を示す平面図、(c)は2個の2次巻線を、A-A線に絶縁板を沿わせて重ね合わせた状態を示す断面図である。
【図9】実施例1で使用される、2枚の1次巻線用銅板を示す図であり、(a)は2枚の1次巻線用銅板の一方を示す平面図、(b)は2枚の1次巻線用銅板の他方を示す平面図、(c)はその2枚の1次巻線用銅板を重ねた状態を示す平面図である。
【図10】(a)は従来の溶接トランスの24ターンの1次巻線の結線構成を示す結線図、(b)は本発明の溶接トランスの24ターンの1次巻線の結線構成を示す結線図、(c)は本発明の溶接トランスの44ターンの1次巻線の結線構成を示す結線図、(d)は本発明の溶接トランスの64ターンの1次巻線の結線構成を示す結線図、(e)は本発明の溶接トランスの16ターンの1次巻線の結線構成を示す結線図である。
【図11】実施例2の溶接トランスを示す斜視図である。
【図12】実施例2の溶接トランスで使用される2個の1次巻線を示す斜視図である。
【図13】実施例2の1次巻線を構成する1次巻線用銅板の一例を示す斜視図である。
【図14】実施例2の1次巻線を構成する1次巻線用銅板の他の例を示す斜視図である。
【図15】(a)は図1、図11に示す本発明の溶接トランスにおける電流の流れを示す説明図、(b)は図5に示す従来の溶接トランスにおける電流の流れを示す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下、本発明の実施の形態を詳細に説明する。
【実施例1】
【0023】
図1は実施例1の溶接トランスの概要を示している。
実施例1の溶接トランスは、図1に示すように、トランス部Trとインバータ制御部の整流部Rcとから構成されている。
【0024】
トランス部Trは、1次巻線10と2個の2次巻線11、12とがコア4に組み込まれて構成されている。1次巻線と2次巻線は、1次巻線10、2次巻線11、2次巻線12、1次巻線10の順に重ね合わせてコア4に組み込まれている。
【0025】
整流部Rcは、2次巻線11、12に接続されるダイオード6と2次側電極7とを有している。ダイオード6は、2次巻線11、12の一部がコア4の外側に突出した延出部に直接載置されている。
【0026】
ダイオード6と2次側電極7は、2次巻線11、12の前記延出部と共に、重ねられて2枚の押え板5により上下から挟み付けられ、固定ねじ34により固定されている。ダイオード6と2次側電極7の側面に、板状の2次側端子30が配置されている。
【0027】
図15(a)に、図1に示す実施例1の溶接トランスにおける電流の流れを矢印9で示している。電流は、各2次巻線11、12からそれぞれダイオード6を経て2次側端子30に流れる。
【0028】
1次巻線10は、図6(b)に示されるように、複数の1次巻線用銅板13を積層して構成されている。1次巻線用銅板13の具体例を、図4を使って説明する。
【0029】
図4(a)は、1次巻線10の一部を構成する1次巻線用銅板13を示している。図4(b)は1次巻線用銅板13を上下に分解した状態を示している。1次巻線用銅板13は、2枚の1次巻線用銅板13A、13Bを重ね合わせて構成されている。2枚の1次巻線用銅板13A、13Bは、巻数が8ターンの1次巻線用銅板13を構成する。
【0030】
1次巻線用銅板13Aは、次のように構成される。先ず、図4(a)に示されるように、1枚目の平面四角形の銅板を、その外縁部に沿って1mm程度のスリットで分割する。この分割により、巻数が4ターンの板状コイルとなる1次巻線用銅板13Aを形成する。この1次巻線用銅板13Aの両端部を、巻き終わり端部41と中間端部42とする。
【0031】
次に、2枚目の平面四角形の銅板を、その外縁部に沿って1mm程度のスリットで分割する。この分割により、巻数が4ターンの板状コイルとなる1次巻線用銅板13Bを形成する。この1次巻線用銅板13Bの両端部を、巻き終わり端部43と中間端部44とする。
【0032】
1次巻線用銅板13Aと1次巻線用銅板13Bとは重ね合わされる。このとき、中間端部42と中間端部44は合致し、溶接などで結合される。また、巻き終わり端部41と巻き終わり端部43は、同一平面上で所定の間隔を置いて並列に配置される。これで、巻数の合計が8ターンの1次巻線用銅板13が構成される。
【0033】
つまり、2枚の銅板の厚さで8ターンの1次巻線用銅板13が得られることになる。これは、従来構造の、銅板1枚で1ターンの巻数とするのに比較すると1/4の厚さでよいこととなる。
【0034】
なお、従来、1次巻線として銅板を用いる場合は複数枚積層された銅板と銅板との間に絶縁板を配置している。本発明の1次巻線10は、前記絶縁板を設ける代わりに、積層される複数の銅板のそれぞれに絶縁性の塗装を施すことにより、全体構造の厚さを薄く構成できる。
【0035】
本発明では図1、図4(a)、図6(b)等に示すように、1次巻線銅板13に各端子が設けられている。これらの各端子の接続を変えることにより、巻線数を変えることができる。その結果、所望の出力電圧が得られる。
【0036】
1次巻線の巻線数は、1枚の銅板で4ターンの巻数とすることに限定されない。必要に応じて、巻線数を自由に設定可能である。巻線数の種類を増やす手段として、前述の1次巻線銅板13により構成された1次巻線の他に、図9に示す1次巻線銅板45により構成された1次巻線を使用するという手段がある。
【0037】
図9は、1次巻線10の一部を構成する1次巻線用銅板45を示している。1次巻線用銅板45は、2種の1次巻線用銅板45Aと1次巻線用銅板45Bとから巻数が2ターンで4列に構成されている。
【0038】
1次巻線用銅板45Aは、図9(a)に示されるように構成されている。すなわち、1枚の銅板にスリットを設けて同一平面上に1ターンの巻数を並列で4個配列している形状とされる。1次巻線用銅板45Aには、4つの中間端子46と4つの出力端子48とが設けられている。
【0039】
また、1次巻線用銅板45Bは、図9(b)に示されるように構成されている。すなわち、他方の1枚の銅板にスリットを設けて同一平面上に1ターンの巻数が並列で4個配列している形状とされる。1次巻線用銅板45Bには、4つの中間端子47と4つの出力端子49とが設けられている。
【0040】
2つの1次巻線用銅板45Aと45Bは重ね合わされる。このとき、4つの各中間端子46と47がそれぞれ向かい合うように、予め形成されている。1次巻線用銅板45Aの4つの出力端子48と1次巻線用銅板45Bの出力端子49とは、それぞれ同一平面上に配列するように形成されている。
【0041】
図9(c)に示されるように、1次巻線用銅板45Aと1次巻線用銅板45Bとは、重ね合わされて4つの各中間端子46と中間端子47が溶接などにより結合される。こうして、1次巻線用銅板45Aと1次巻線用銅板45Bは、直列に接続されて2ターンの巻数を4列形成した1次巻線用銅板45を構成している。本発明の1次巻線10は、積層される各銅板間に絶縁板を設ける代わりに、銅板のそれぞれに絶縁性の塗装を施すことにより、厚さを薄く構成できる。
【0042】
このように構成された2ターンの1次巻線用銅板45は、前述した8ターンの1次巻線用銅板13の代替として一部または全部に用いられる。この1次巻線用銅板45は出力端子48、49が設けられているので、巻線数の種類を任意に増やすことができる。この結果、所望の出力電圧を得ることができる。
【0043】
また広い範囲の入力電圧にも対応できる。従来は、数種類の入力電圧に対し、それぞれ専用で溶接トランスを製作していた。しかし、本発明の溶接トランスは、一つの溶接トランスで各種の入力電圧に対応可能である。
【0044】
図8は、本発明の溶接トランスで使用される、2個の2次巻線11、12を示している。図8(a)は一方の2次巻線11を示している。図8(b)は他方の2次巻線12を示している。図8(c)は2個の2次巻線11、12を、A-A線に絶縁板33を沿わせて重ね合わせた状態を示している。
【0045】
2個の2次巻線11、12は、それぞれ平面が四角形の銅板により構成されている。2次巻線11、12は、それぞれの銅板毎にスリット及び開口部を設けて巻数が1ターンの板状コイルに形成されている。2次巻線11と12は、それぞれ巻数が1ターンに形成されている。
【0046】
2次巻線11と12には、図8(a)、図8(b)に示されるように、それぞれ外縁に沿う冷却水通路14が設けられている。重ね合わされた2個の2次巻線11、12の各冷却水通路14は、各2次巻線の中央部において互いに連通されて一つの水路として構成されている。
【0047】
図8(a)、図8(b)に示される2次側端子31、32は、センタータップとしていずれか1つが使用される。
【0048】
2個の2次巻線11、12の各冷却水通路が2次巻線の中央部において互いに連通されて一つの水路として構成されていることにより、冷却水通路14に冷却媒体を流通させる機構を簡略化できる。なお、冷却水通路14に流通させる冷却媒体は、一般的には水を用いる。冷却媒体は冷却効果の高い流体であれば、水以外の媒体でもよい。
【0049】
実施例1の溶接トランスは、1次巻線10と2次巻線11と12を板状コイルとしたことにより、重ねられたとき接触面積が広い。従って、冷却水通路14の冷却媒体による冷却効果が増大する。
【0050】
さらに、1次巻線10と2次巻線11、12を重ねる順序を、1次巻線10、2次巻線11、2次巻線12、1次巻線10の順となることを可能としている。そのため、2次巻線11、12の銅板間の距離Hが小さくなり、等価回路のL1a、
L1bを極めて小さくできる。
【0051】
また、実施例1の溶接トランスは、2次側電極を、2次巻線の一部がコアの外側に突出した延出部により構成し、ダイオードを延出部の外面に直接載置している。このため、図5に示される連結導体8を使用する必要がなくなり、トランス部Trと整流部Rc間の距離Fが小さくなっている。このため、等価回路のL1a、
L1bを小さくできる。
【実施例2】
【0052】
図2(a)は実施例2の溶接トランスの概要を示している。図2(b)は実施例2で使用される1次巻線10を示している。図11は実施例2の溶接トランスを示している。図11には、1次巻線10の取付状態を明示するために、2つのコア4のうち、同図の手前側のコアを外した状態で示している。図12は図11に示された2個の1次巻線10を示しており、2次巻線11、12の上下に配置される状態で示されている。図13は実施例2の1次巻線10の一部を構成する1次巻線用銅板13を示している。図14は実施例2の1次巻線10の一部を構成する1次巻線用銅板45を示している。これらの図には図1と同一部分に同一符号を付して重複説明を省略する。
【0053】
実施例2の溶接トランスは、図2、図11に示すように、トランス部Trとインバータ制御部の整流部Rcとから構成されている。トランス部Trと整流部Rcの側面からアルミニウム製の枠体16、17が嵌め込まれて取り付けられる。
【0054】
実施例2の溶接トランスは、1次巻線10を構成する板状コイルの側縁部が折り曲げられた形状とされている点が実施例1の溶接トランスと相違している。
【0055】
実施例2の溶接トランスの1次巻線10は、巻数が8ターンの1次巻線と巻数が2ターンの1次巻線とを組み合わせて構成されている。また、図2(a)の符号30、31は、それぞれ2次側端子を示している。
【0056】
巻数が8ターンの1次巻線用銅板13は、2枚の1次巻線用銅板13C、13Dを重ね合わせて構成されている。巻数が2ターンの1次巻線用銅板45は、2枚の1次巻線用銅板45C、45Dを重ね合わせて構成されている。巻数の異なる1次巻線用銅板13と1次巻線用銅板45とを適当に組み合わせることにより、所望の1次巻線10を構成できる。
【0057】
図13に示された1次巻線用銅板13は、2種の1次巻線用銅板13C、13Dを重ねた形に構成されている。1次巻線用銅板13Cは、図4(b)に示した1次巻線用銅板13Aと同様形状の銅板の各側縁部を折り曲げた形状とされている。また、1次巻線用銅板13Dは、図4(b)に示した1次巻線用銅板13Bと同様形状の銅板の各側縁部を折り曲げた形状とされている。
【0058】
1次巻線用銅板13Cの両端部は、それぞれ巻き終わり端部41と中間端部(図示せず)とされている。1次巻線用銅板13Dの両端部は、それぞれ巻き終わり端部43と中間端部(図示せず)とされている。1次巻線用銅板13C、13Dの各中間端部はそれぞれ溶接などで結合されている。1次巻線用銅板13Cの巻き終わり端部41と1次巻線用銅板13Dの巻き終わり端部43とは、同一平面上で所定の間隔を置いて並列配置されている。
【0059】
また、図14に示す1次巻線用銅板45は、2枚の1次巻線用銅板45C、45Dを重ねた形に構成されている。1次巻線用銅板45は、図9(a)に示した1次巻線用銅板45Aと同様形状の銅板の各側縁部を折り曲げた形状とされている。また、1次巻線用銅板45Dは、図9(b)に示した1次巻線用銅板45Bと同様形状の銅板の各側縁部を折り曲げた形状とされている。1次巻線用銅板45C、45Dの各出力端子48、49は、同一平面上で所定の間隔を置いて並列されている。
【0060】
実施例2の、2種の1次巻線用銅板13、45は、図2(b)に示されるように積層された形状となっている。このとき、折り曲げ幅寸法が順次小さくなり底面で密着する構成とされている。このような曲げ形状の1次巻線用銅板13、45により1次巻線10を構成することにより、実施例1のものと比べて更にトランス部Trと整流子Rc間の距離Fが小さくなる。このため、等価回路のL1a、
L1bを小さくすると同時に、溶接トランス全体の大きさも一層小型化するものである。
【0061】
実施例2の溶接トランスの1次巻線10は、積層される各銅板間に絶縁板を設ける代わりに、銅板のそれぞれに絶縁性の塗装を施すことにより、全体構造の厚さを薄く構成できる。
【0062】
図7(a)は従来の溶接トランスの通常の周波数の1次電流の波形を示している。図7(b)はその従来の溶接トランスの高い周波数の1次電流の波形を示している。図7(c)は本発明の溶接トランスの通常の周波数の1次電流の波形を示している。図7(d)はその本発明の溶接トランスの高い周波数の1次電流の波形を示している。
【0063】
前述した従来の溶接トランスでは、周波数が高くなると、図7(b)に示す立ち上がり波形が図7(a)の立ち上がり波形とは異なってくるという不具合がある。それは、先に説明したとおり、電流の立ち上がりが不完全となって、最大電流が得られないという課題をもたらす。
【0064】
本発明の溶接トランスによれば、制御周波数を高めても図7(d)に示す立ち上がり波形が図7(c)の波形と同様な高さの波形となるので、最大電流を確保できる。したがって、最大電流が得られないという上記課題を解決する。
これは、図3に示す等価回路のL1a、 L1bが小さくなると、立ち上がりの勾配が直角に近づき、立ち上がりを良くするためである。ここで、従来の周波数とはおおよそ1000Hz未満であり、高い周波数とは、おおよそ5000Hz以上である。
【0065】
図10(a)は、従来の溶接トランスの1次巻線が24ターンの事例を示す。図10(b)〜(e)は、本発明の溶接トランスの1次巻線がそれぞれ16〜64ターンの各事例を示す。本発明の溶接トランスの1次巻線は、巻数変換が簡単にできる。
【0066】
このように、広い範囲での巻数変換を可能にしているのは、1次巻線10を、8ターンの1次巻線を3個と2ターンの1次巻線を4個とを組み合わせた構成としたことによる。そして、これらの1次巻線10を、2次巻線11、12の上下にそれぞれ配置しているからである。
【0067】
また、図10(b)、(c)、(e)に示しているように、2ターンの1次巻線と8ターンの1次巻線とを並列に結線したものを採用すれば、発熱や電流損失を最小限に押さえた構造とすることができる。
【産業上の利用可能性】
【0068】
本発明の溶接トランスを使用することにより、インバータ式抵抗溶接機では、大電流の使用でも、巻線の温度上昇を容易に防止できる。また、コンパクトで、高品質で、かつ、各種電圧に対応可能な溶接トランスとして供給できる。また、容量違いの巻線構成を容易にしている。また、本発明の実施例によれば、前述した従来の溶接トランスと比較して重量を約40%低減できる。軽量化による、溶接ロボットへの搭載の利点も大きい。
【符号の説明】
【0069】
1 従来の2次巻線
2 従来の2次巻線
3 従来の1次巻線
4 コア
5 押さえ板
6 ダイオード
7 2次側電極
8 連結導体
10 1次巻線
11 2次巻線
12 2次巻線
13 1次巻線用銅板
14 冷却水通路
15 押さえバネ
16 枠体
17 枠体
30 2次側端子
31 2次側端子(センタータップ)
32 2次側端子(センタータップ)
33 絶縁板
34 固定ねじ
41 巻き終わり端部
42 中間端部
43 巻き始め端部
44 中間端部
45 1次巻線用銅板
46 中間端部
47 中間端部
48 出力端子
49 出力端子
T1 周期
T2 周期
Tr トランス部
Rc 整流部
W 溶接機

【特許請求の範囲】
【請求項1】
1次巻線と2次巻線とをコアに組み込んだトランス部と、
前記2次巻線に接続されるダイオードを含む整流部とを備えた溶接トランスにおいて、
前記1次巻線は、銅板1枚にスリットを設けて同一平面上に巻数が複数ターン配列された板状コイルが形成され、前記板状コイルの側縁部が折り曲げられた形状とされ、前記板状コイルの複数枚が積層されて各一端が直列に接続された1次巻線用銅板で構成され、
前記2次巻線は、銅板1枚にスリットを設けて板状コイルが形成され、前記板状コイル内に冷却水通路が形成されて構成され、
前記ダイオードは、前記2次巻線の一部が前記コアの外側に突出した延出部に直接載置され、
前記1次巻線と前記2次巻線は、それぞれ複数個が用いられ、1次巻線、2次巻線、2次巻線、1次巻線の順に重ね合わせて前記コアに組み込まれ、
重ね合わされた前記2個の2次巻線の各前記冷却水通路は、前記2次巻線の中央部において互いに連通されて一つの水路として構成された
ことを特徴とする溶接トランス。
【請求項2】
1次巻線と2次巻線とをコアに組み込んだトランス部と、
前記2次巻線に接続されるダイオードを含む整流部とを備えた溶接トランスにおいて、
前記1次巻線は、銅板1枚にスリットを設けて同一平面上に1ターンのコイルが複数列配置された板状コイルが形成され、前記板状コイルの2枚が積層されて各中間端子が直列に接続されて複数列の2ターンの板状コイルが形成され、前記複数列の2ターンの板状コイルの各側縁部が折り曲げられた形状とされた1次巻線用銅板で構成され、
前記2次巻線は、銅板にスリットを設けて板状コイルとされ、かつ前記銅板内に冷却水通路が形成されて構成され、
前記ダイオードは、前記2次巻線の一部が前記コアの外側に突出した延出部に直接載置され、
前記1次巻線と前記2次巻線は、それぞれ複数個が用いられ、1次巻線、2次巻線、2次巻線、1次巻線の順に重ね合わせて前記コアに組み込まれたことを特徴とする溶接トランス。
【請求項3】
1次巻線と2次巻線とをコアに組み込んだトランス部と、
前記2次巻線に接続されるダイオードを含む整流部とを備えた溶接トランスにおいて、
前記1次巻線は、
銅板1枚にスリットを設けて同一平面上に巻数が複数ターン配列された板状コイルが形成され、前記板状コイルの側縁部が折り曲げられた形状とされ、前記板状コイルの複数枚が積層されて各一端が直列に接続されて構成された複数ターンの1次巻線用銅板と、銅板1枚にスリットを設けて同一平面上に1ターンのコイルが複数列配置された板状コイルが形成され、前記板状コイルの2枚が積層されて各中間端子が直列に接続されて複数列の2ターンの板状コイルが形成され、前記複数列の2ターンの板状コイルの各側縁部が折り曲げられた形状とされて構成された2ターンの1次巻線用銅板とを組み合わせて構成され、
前記2次巻線は、銅板にスリットを設けて板状コイルとされ、かつ前記銅板内に冷却水通路が形成されて構成され、
前記ダイオードは、前記2次巻線の一部が前記コアの外側に突出した延出部に直接載置され、
前記1次巻線と前記2次巻線は、それぞれ複数個が用いられ、1次巻線、2次巻線、2次巻線、1次巻線の順に重ね合わせて前記コアに組み込まれたことを特徴とする溶接トランス。

【図15】
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【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【公開番号】特開2012−174699(P2012−174699A)
【公開日】平成24年9月10日(2012.9.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−31679(P2011−31679)
【出願日】平成23年2月17日(2011.2.17)
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成22年度経済産業省、戦略的基盤技術高度化支援事業、産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願
【出願人】(000143112)株式会社向洋技研 (41)
【Fターム(参考)】