説明

溶接変形及び残留応力の2次元解析方法

【課題】解析時間の大幅な短縮を実現することができ、高精度に溶接変形及び残留応力の解析を行うことが可能である溶接変形及び残留応力の2次元解析方法を提供する。
【解決手段】溶接後に残留する応力や溶接時に生じる収縮や歪などの変形を解析する溶接変形及び残留応力の解析方法であって、熱源Sの移動を考慮した非定常熱伝導解析を行って3次元モデルである平板1における過渡温度を計算し、3次元モデルである平板1の一断面としての2次元モデル1Aを作成した後、3次元モデルによる非定常熱伝導解析の結果である過渡温度を用いた2次元モデル1Aによる熱弾塑性解析を行う。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、溶接後に残留する応力や溶接時に生じる収縮や歪などの変形を解析する際に用いられる溶接変形及び残留応力の解析方法に係わり、特に、一般化平面歪や軸対称モデルなどの2次元化が可能な溶接に用いるのに好適である溶接変形及び残留応力の2次元解析方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
上記した溶接後に残留する応力や溶接時に生じる変形は、溶接部が局部的に加熱冷却されることにより生じるが、その発生要因としては、溶接金属の凝固時における母材の熱膨張や、溶接部付近の母材に生じる塑性歪や、溶接金属が凝固してから室温に冷却されるまでに生じる塑性歪などが挙げられる。
従来において、これらのような溶接変形及び残留応力を解析する方法としては、例えば、溶接により生じる固有ひずみ分布を溶接条件から推定して弾性解析を行う方法や、3次元モデルによる熱源の移動を考慮した3次元熱伝導解析を行って、この解析結果に基づいて3次元モデルによる熱弾塑性解析を行う方法が知られている。
【0003】
上記した解析方法のうちの固有ひずみによる弾性解析を用いた方法では、溶接によって生じる固有ひずみの大きさや分布領域があらかじめ判らないと解析を行うことができないという欠点があり、一方、3次元モデルによる熱弾塑性解析を用いた方法では、もっとも実際の現象に近いことから、高い解析精度が得られるものの、解析に要する時間が膨大になってしまうという欠点がある。
【0004】
そこで、解析に要する時間の短縮を図るうえで、一般化平面歪や軸対称モデルなどの2次元化が可能な溶接の場合には、すなわち、平板に対するビードオンプレート溶接や管体の突合せ溶接や円孔に対する円板の嵌め込み溶接などの2次元化が可能な溶接の場合には、溶接入熱による過渡温度を2次元モデルによる非定常熱伝導解析(2次元熱伝導解析)によって計算し、この解析結果に基づいて2次元モデルによる熱弾塑性解析を行う方法が広く採用されている(例えば、特許文献1参照)。
【特許文献1】特開2004−53366号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところが、上記した2次元モデルによる熱弾塑性解析を行う解析方法にあっては、3次元モデルによる熱弾塑性解析を用いた解析方法と比較して、解析に要する時間を大幅に短縮することはできるものの、熱の3次元的な移動を考慮していないので、その分だけ溶接変形及び残留応力の解析精度が劣ってしまうという問題があり、この問題を解決することが従来の課題となっていた。
【0006】
本発明は、上記した従来の課題に着目してなされたもので、解析時間の大幅な短縮を実現したうえで、3次元モデルによる熱弾塑性解析を用いた解析方法と同程度の高い精度で溶接変形及び残留応力の解析を行うことが可能である溶接変形及び残留応力の2次元解析方法を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明に係る溶接変形及び残留応力の2次元解析方法は、溶接後に残留する応力や溶接時に生じる収縮や歪などの変形を解析する溶接変形及び残留応力の解析方法、特に、一般化平面歪や軸対称モデルなどの2次元化が可能な溶接に用いるのに好適な解析方法であって、請求項1として、熱源移動を考慮した非定常熱伝導解析を行って3次元モデルである母材における溶接入熱による過渡温度を計算し、前記3次元モデルである母材の一断面としての2次元モデルを作成した後、前記3次元モデルによる非定常熱伝導解析の結果である過渡温度を用いた前記2次元モデルによる熱弾塑性解析を行う構成としたことを特徴としており、この溶接変形及び残留応力の2次元解析方法の構成を前述した従来の課題を解決するための手段としている。
【0008】
また、本発明の請求項2に係る溶接変形及び残留応力の2次元解析方法は、熱源移動を考慮した非定常熱伝導解析によって、3次元モデルである母材の中間部分における過渡温度を計算する構成としている。
さらに、本発明の請求項3に係る溶接変形及び残留応力の2次元解析方法において、前記3次元モデルである母材の中間部分における一断面を前記2次元モデルとした構成としている。
【0009】
本発明に係る溶接変形及び残留応力の2次元解析方法では、母材の一断面としての2次元モデルによる熱弾塑性解析を行う際に、3次元モデルによる非定常熱伝導解析を行って得た任意断面の非定常の温度履歴を温度荷重データとして用いるので、母材内部の3次元的な熱の流れを2次元モデルで考慮し得ることとなり、その結果、解析時間の大幅な短縮が図られるのに加えて、3次元モデルによる熱弾塑性解析を用いた解析方法と同程度にまで、溶接変形及び残留応力の解析精度が向上することとなる。
【発明の効果】
【0010】
本発明の請求項1に係る溶接変形及び残留応力の2次元解析方法によれば、上記した構成としているので、解析時間の大幅な短縮を実現したうえで、溶接変形及び残留応力の解析を高精度に行うことが可能であるという非常に優れた効果がもたらされる。
また、本発明の請求項2に係る溶接変形及び残留応力の2次元解析方法によれば、上記した構成としているので、解析精度をより高めつつ解析時間のより一層の短縮を実現することが可能であるという非常に優れた効果がもたらされ、本発明の請求項3に係る溶接変形及び残留応力の2次元解析方法によれば、上記した構成としていることから、解析精度をより一層高めることができるという非常に優れた効果がもたらされる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
以下、本発明を図面に基づいて説明する。
図1〜図3は、本発明の溶接変形及び残留応力の2次元解析方法の一実施形態を示しており、この実施形態において、ビードオンプレート溶接(ビード溶接)に本発明の溶接変形及び残留応力の2次元解析方法を適用した場合を示している。
図1に示すように、長さ寸法(Z方向寸法)500mm,幅寸法(X方向寸法)180mm,厚さ寸法(Y方向寸法)60mmの母材である平板1に対して開先加工を行って、図1(b)の拡大円内にも示すように、上面1aにおける中心線L上に半径Rが約5mmで且つ深さdが約3mmの断面半円形状を成す開先溝1bを形成した後、この開先溝1bに対してアーク溶接によるビード溶接を行った。
【0012】
次に、この実施形態における溶接変形及び残留応力の2次元解析方法を用いて、上記したビード溶接に対する溶接変形及び残留応力の解析を行う際の要領を説明する。
図2及び図3(a)に示すように、まず、ステップST1において、3次元モデルによる熱源Sの溶接線(中心線L)に沿う長さZ方向の移動を考慮した非定常熱伝導解析を行って、3次元モデルである平板1における過渡温度を計算する。
【0013】
次いで、ステップST2において、図3(b),(c)に示すように、3次元モデルである平板1の長さZ方向の中間部分における一断面を2次元モデル1Aとして作成する。
なお、この実施形態において、3次元モデルである平板1の長さZ方向の中間部分における一断面は、溶接線Lを境にしてX方向で対称形状を成しているため、上記一断面の片側(図示右側)を2次元モデル1Aとして採用した。
【0014】
そして、ステップST3において、上記した3次元モデルによる非定常熱伝導解析の結果である過渡温度を用いた2次元モデル1Aによる熱弾塑性解析を行う。
そこで、この実施形態における溶接変形及び残留応力の2次元解析方法による解析結果を図4に示し、比較のために、上記したビード溶接に対して従来の2次元モデルによる熱弾塑性解析方法を用いて溶接変形及び残留応力の解析を行った際の解析結果を図5に示す。
【0015】
図5に示す平板1の上面1aにおける応力分布において、従来の2次元モデルによる熱弾塑性解析方法で得た解析結果(従1Z)では、高い解析精度が得られる3次元モデルによる熱弾塑性解析方法を用いて得た解析結果(従2Z)と比べて、溶接線LからX方向に約30mm離れた部位での溶接線Lに沿うZ方向の応力の大きさに明らかな差異が見られる。
【0016】
これに対して、図4に示す平板1の上面1aにおける応力分布において、この実施形態における解析方法で得た解析結果(実Z)では、高い解析精度が得られる3次元モデルによる熱弾塑性解析方法を用いて得た解析結果(従2Z)と比べて、溶接線LからX方向に約30mm離れた部位での溶接線Lに沿うZ方向の応力に大きな差異が見られないことから、この実施形態における溶接変形及び残留応力の2次元解析方法では、3次元モデルによる熱弾塑性解析を用いた解析方法と同程度の高い精度で溶接変形及び残留応力の解析を行い得ることが実証できた。
【0017】
また、上記3次元モデルによる熱弾塑性解析を用いた解析方法では、熱源の移動を考慮した非定常熱伝導解析に約30分を費やしていると共に、この非定常熱伝導解析の結果(D)を用いた熱弾塑性解析には約32時間もの時を費やしているのに対して、この実施形態における溶接変形及び残留応力の2次元解析方法では、上記非定常熱伝導解析の結果(D)を用いた熱弾塑性解析を僅か1時間程度で完了し得るので、上記3次元モデルによる熱弾塑性解析を用いた解析方法と比較して、解析時間の大幅な短縮を実現し得ることが実証できた。
【0018】
なお、図4では、この実施形態における溶接変形及び残留応力の2次元解析方法で得たX方向の応力解析結果(実X)と高い解析精度が得られる3次元モデルによる熱弾塑性解析方法を用いて得たX方向の応力解析結果(従2X)を参考表示し、図5では、従来の2次元モデルによる熱弾塑性解析方法で得たX方向の応力解析結果(従1X)と高い解析精度が得られる3次元モデルによる熱弾塑性解析方法を用いて得たX方向の応力解析結果(従2X)を参考表示している。
【0019】
上記した実施形態に係る溶接変形及び残留応力の2次元解析方法では、図2のステップST1において、非定常熱伝導解析によって、3次元モデルである平板1の全長における過渡温度を計算するようにしているが、これに限定されるものではなく、3次元モデルである平板1の長さZ方向の中間部分における過渡温度を計算するようにしてもよい。
また、上記した実施形態に係る溶接変形及び残留応力の2次元解析方法では、図2のステップST2において、3次元モデルである平板1の長さZ方向の中間部分における一断面を2次元モデル1Aとして作成するようにしているが、これに限定されるものではなく、温度が定常的であるならば、3次元モデルである平板1の長さZ方向の端部よりの部分における一断面を2次元モデル1Aとして作成するようにしてもよい。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】本発明の一実施形態による溶接変形及び残留応力の2次元解析方法を評価するために実施したビードオンプレート溶接を示す平板の平面説明図(a)及び図1(a)のA−A線位置に基づく断面説明図(b)である。
【図2】本発明の一実施形態による溶接変形及び残留応力の2次元解析方法の解析要領を示すフローチャートである。
【図3】本発明の一実施形態による溶接変形及び残留応力の2次元解析方法の熱源移動方向と2次元モデル作成要領を示す平板の斜視説明図(a),(b)並びに2次元モデルの拡大説明図(c)である。
【図4】本発明の一実施形態による溶接変形及び残留応力の2次元解析方法を用いて得た解析結果を従来の3次元モデルによる熱弾塑性解析方法で得た解析結果と比較して示す平板上面における残留応力分布図である。
【図5】従来の2次元モデルによる熱弾塑性解析方法を用いて得た解析結果を従来の3次元モデルによる熱弾塑性解析方法で得た解析結果と比較して示す平板上面における残留応力分布図である。
【符号の説明】
【0021】
1 平板(母材)
1A 2次元モデル
1a 平板の上面
S 熱源

【特許請求の範囲】
【請求項1】
溶接後に残留する応力や溶接時に生じる収縮や歪などの変形を解析する溶接変形及び残留応力の解析方法であって、
熱源移動を考慮した非定常熱伝導解析を行って3次元モデルである母材における溶接入熱による過渡温度を計算し、
前記3次元モデルである母材の一断面としての2次元モデルを作成した後、
前記3次元モデルによる非定常熱伝導解析の結果である過渡温度を用いた前記2次元モデルによる熱弾塑性解析を行う
ことを特徴とする溶接変形及び残留応力の2次元解析方法。
【請求項2】
熱源移動を考慮した非定常熱伝導解析によって、3次元モデルである母材の中間部分における過渡温度を計算する請求項1に記載の溶接変形及び残留応力の2次元解析方法。
【請求項3】
前記3次元モデルである母材の中間部分における一断面を前記2次元モデルとした請求項1又は2に記載の溶接変形及び残留応力の2次元解析方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2009−250828(P2009−250828A)
【公開日】平成21年10月29日(2009.10.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−100304(P2008−100304)
【出願日】平成20年4月8日(2008.4.8)
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)国等の委託研究の成果に係る特許出願(平成19年度経済産業省から委託の「地層処分技術調査等(高レベル放射性廃棄物処分関連:処分システム工学要素技術高度化開発)」に基づく開発項目「人工バリア品質評価技術の開発」の成果、産業活力再生特別措置法第30条の適用を受けるものである。)
【出願人】(598150352)財団法人 原子力環境整備促進・資金管理センター (4)
【出願人】(000000099)株式会社IHI (5,014)
【Fターム(参考)】