説明

溶接形鋼の製造方法および製造装置

【課題】高周波抵抗溶接によりT形鋼やH形鋼のウェブ材とフランジ材とを溶接するに際し、溶接部の靭性を確保し溶接部近傍での破断および衝撃による溶接割れを防止する。
【解決手段】ウェブ材5aにウェブ支持ロール10a、10aを接触させてウェブ材5aを支持するとともに、ウェブ材5aの端面にフランジ材5b−1、5b−2を圧接ロール11a、11bにより押し付けながら、高周波抵抗溶接によりウェブ材5aおよびフランジ材5b−1、5b−2を溶接して溶接H形鋼2を製造する際に、ウェブ支持ロール10a、10a、および圧接ロール11a、11bを、その表面に絶縁性を有するセラミックスを被覆された金属製のセラミックスロールにより構成するとともに、高周波抵抗溶接の際におけるウェブ支持ロール10a、10a、および圧接ロール11a、11bに冷却水を供給しない。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば溶接H形鋼や溶接T形鋼といった溶接形鋼を高周波抵抗溶接により製造する方法および装置に関し、より詳しくは、溶接形鋼のウェブ材およびフランジ材を高周波抵抗溶接により溶接する際に、溶接部の靭性を確保し溶接部近傍での破断および衝撃による溶接割れを防止することができる溶接形鋼の製造方法および製造装置に関する。
【背景技術】
【0002】
周知のように、高周波抵抗溶接は、鋼材の溶接箇所を加圧しながら、高周波発振器から高周波電流をこの鋼材の接合端縁に供給し、その抵抗発熱を溶接熱源として鋼材を圧接溶接する方法であり、電縫管の素材であるオープンパイプの溶接に多用される。
【0003】
例えば溶接H形鋼や溶接T形鋼といった溶接形鋼(以降の説明では「溶接H形鋼」を例にとる)をこの高周波抵抗溶接により製造する場合には、フランジ材およびウェブ材をH形状に組み合わせて高周波抵抗溶接する。しかし、電縫管のオープンパイプの高周波抵抗溶接とは異なり、溶接H形鋼の高周波抵抗溶接では、ウェブ材の面積に比べてフランジ材の面積が大きいためにフランジ材の冷却が早く進行し、溶接部の靭性と深く関係するフランジHAZ硬度が高くなる。
【0004】
フランジHAZ硬度は溶接部の品質に密接に関係する。フランジHAZ硬度が略400Hvに達すると吸収エネルギーが急激に低下し、衝撃強度が低下する。このため、溶接H形鋼の製造工程においてフランジ材およびウェブ材の高周波抵抗溶接の後に行われる、溶接H形鋼の所定長さへの刃物による切断の際に発生する衝撃によって、フランジ材およびウェブ材の溶接線にクラックが入り溶接部が破断し易い。さらに、フランジ材およびウェブ材の高周波抵抗溶接の後に行われる切断加工や穴あけ加工等の際に発生する衝撃に対して溶接部の破断を生じないようにするためには、溶接H形鋼のフランジHAZ硬度は300Hv以下であることが望ましいことも知られている。
【0005】
フランジHAZ硬度は、主に、溶接入熱、炭素当量Ceqさらには比(フランジ厚/ウェブ厚)等に密接に関係し、溶接入熱が高いほど、炭素当量Ceqが低いほど、さらには比(フランジ厚/ウェブ厚)が小さいほど、低下することが知られている。
【0006】
しかし、炭素当量Ceq、および比(フランジ厚/ウェブ厚)は、製品仕様に応じて定められる強度および製品寸法により一義的に決定されるものであり、自由に定めることはできない。また、溶接入熱も溶接強度・ビード外観から規定されるものであり、自由に定めることはできない。このため、これらに基づいてフランジHAZ硬度を300Hv以下に抑制することはできない。
【0007】
特許文献1には、フランジ材およびウェブ材を高周波抵抗溶接する際に、フランジ材の幅方向の中央部の接合側端面の1/3〜1/2の範囲を別電源によって250〜1050℃に予め加熱しておくことによって、圧接溶接の際のウェブ材の座屈防止と、有効溶着幅の拡大による溶接品質の向上とを図ることができる高周波抵抗溶接法に係る発明が開示されている。
【0008】
また、特許文献2には、ウェブ材とフランジ材とを高周波抵抗溶接する際に、フランジ材の表面の温度が、{(480℃×Ceq(質量%))+60}℃以上{(480℃×Ceq(質量%))+380}℃以下を満足するように、フランジ材を予め加熱することによって、溶接形鋼のフランジ強度および靭性を確保することができるフランジ予熱方法に係る発明が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特公昭45−40774号公報
【特許文献2】特開平9−308973号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
しかし、これらの従来の高周波抵抗溶接方法に係る発明、特に、フランジ材の幅方向の中央部を別電源で250〜1050℃に予め加熱する特許文献1により開示された発明では、(a)加熱温度が高温域では、フェライト層の発生に起因して溶接部HAZ軟化が発生し、靭性は高いものの強度が不足すること、(b)加熱温度が高温過ぎる場合には形状(曲り、反り)が不安定となること、(c)表面酸化物の発生に対してスクイズアウトし難く、欠陥が残存し易いこと、さらには(d)材質に対する予熱温度の管理が十分になされていない材質によってはHAZ硬度部が軟化し、逆に溶接部破断のおそれを多分に生じることといった課題がある。
【0011】
また、高周波抵抗溶接による溶接H形鋼の製造では、一般的に、フランジ材およびウェブ材は、各々搬送ローラに搭載されて搬送され、ウェブ材は、溶接点の近傍で側面をウェブ支持ロールにより拘束されながら、圧接ロールによって押し付けられるフランジ材に圧接溶接される。一般的に、これら搬送ローラ、ウェブ支持ロールおよび圧接ロールは、いずれも、鋼製ロールであることが多く、かつ、これらのロールを回転自在に支持する軸受けを支持する鋼製フレームを介して、電気的に接地される。このため、これらのロールのみならずこれらのロールを支持する鋼製フレームは、高周波抵抗溶接の際に流れる高電流によって、不可避的に加熱される。このため、通常、これらのロールは、設備保護のために冷却水を供給されて冷却される。
【0012】
当然のことながら、ウェブ支持ロールはウェブ材に接触するとともに圧接ロールはフランジ材に接触するため、ウェブ支持ロールおよび圧接ロールに供給される冷却水は、溶接H形鋼の溶接部にもかかってしまう。このため、上述した従来のいずれの発明においても、溶接部の冷却速度はこの冷却水によって高くなり、溶接部の靭性と深く関係するフランジHAZ硬度が高まってしまう。
【0013】
このため、従来のいずれの発明によっても、高周波抵抗溶接によりウェブ材およびフランジ材を溶接して溶接H形鋼を製造する際に、溶接部の靭性を確保することによって溶接部近傍での破断および衝撃による溶接割れを防止することは、難しかった。
【0014】
本発明は、このような従来の技術が有する課題に鑑みてなされたものであり、溶接H形鋼や溶接T形鋼といった溶接形鋼のウェブ材およびフランジ材を高周波抵抗溶接により溶接する際に、溶接部の靭性を確保することによって溶接部近傍での破断および衝撃による溶接割れを防止することができる溶接形鋼の製造方法および製造装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0015】
本発明は、ウェブ材にウェブ支持ロールを接触させてウェブ材を支持するとともに、このウェブ材の端面にフランジ材を圧接ロールにより押し付けながら、高周波抵抗溶接によりウェブ材およびフランジ材を溶接して溶接形鋼を製造する際に、ウェブ支持ロール、および/または、圧接ロールを、その表面に絶縁性を有するセラミックスを被覆された、例えば鋼製等の金属製のロール(以下、「セラミックスロール」と略記する)により構成すること、望ましくは、さらに、高周波抵抗溶接の際におけるウェブ支持ロール、および/または、圧接ロールに冷却水を供給しないことを特徴とする溶接形鋼の製造方法である。
【0016】
別の観点からは、本発明は、ウェブ材に接触してウェブ材を支持するウェブ支持ロールと、ウェブ材の端面にフランジ材を押し付ける圧接ロールとを備える高周波抵抗溶接による溶接形鋼の製造装置であって、ウェブ支持ロール、および/または、圧接ロールは、セラミックスロールであることを特徴とする溶接形鋼の製造装置である。
【0017】
本発明におけるセラミックスロールを構成するセラミックスは、窒化ケイ素系やアルミナ系、さらにはジルコニア系等が例示される。被覆方法は、この種のセラミックスロールの製法として慣用される方法によればよく、例えば、射出成型法、熱間静水圧成形法、一軸加圧成形法、溶射法等によればよい。また、このセラミックスロールは、折損等の問題を生じないものであれば、絶縁性を有するセラミックスから成形されたロールにより構成してもよい。
【0018】
これらの本発明では、溶接形鋼が溶接H形鋼または溶接T形鋼であることが例示される。
【発明の効果】
【0019】
本発明によれば、高周波抵抗溶接の際におけるウェブ支持ロール、および/または、圧接ロールは、加熱されないので冷却水により冷却する必要がなくなり、高周波抵抗溶接の際にウェブ支持ロールおよび圧接ロールを保護するための冷却水の量を低減するか、零にすることができるため、ウェブ材およびフランジ材の溶接部に冷却水がかかることを防止して溶接部の冷却速度の上昇を抑制もしくは解消することができる。
【0020】
このため、本発明によれば、溶接形鋼のフランジHAZ硬度を例えば300Hv以下に抑制することができ、これにより、溶接部の靱性を高めることができるので、フランジ材およびウェブ材の高周波抵抗溶接の後に行われる切断加工や穴あけ加工等の衝撃に対しても溶接部の破断を解消することができるようになる。
【0021】
このようにして本発明によれば、高周波抵抗溶接により製造される溶接形鋼の溶接品質を、既存設備を簡単に改造するだけで、顕著に向上することが可能になる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【図1】本発明を適用した溶接H形鋼の製造工程の一例を模式的に示す説明図である。
【図2】本発明を適用した溶接H形鋼の溶接工程における高周波抵抗溶接機の付近を抽出および拡大して概念的に示す斜視図である。
【図3】ウェブ支持ロールおよび圧接ロールの冷却水による冷却を行わない場合の溶接部近傍の硬度分布の一例を示すグラフである。
【図4】ウェブ支持ロールおよび圧接ロールの冷却水による冷却を行う場合の溶接部近傍の硬度分布の一例を示すグラフである。
【図5】硬度測定位置を示す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下、本発明を実施するための形態を、添付図面を参照しながら説明する。なお、以降の説明では、溶接形鋼が溶接H形鋼である場合を例にとるが、本発明はこれに限定されるものではなく、例えば溶接T形鋼にも同様に適用される。
【0024】
図1は、本発明を適用した溶接H形鋼2の製造工程1の一例を模式的に示す説明図であり、図2は、本発明を適用した溶接H形鋼2の溶接工程1における高周波抵抗溶接機12の付近を抽出および拡大して概念的に示す斜視図である。
【0025】
図1に示すように、この製造工程1では、ペイオフリール3a、3bによりコイル4a、4bから払い出された長尺のウェブ材5a、フランジ材5bを、ルーパ6a、6bを介して送給し、ウェブプリアップセッタ7により垂直の搬送姿勢で送給されるウェブ材5aと、スリッタ8によりフランジ材5bを縦に2分割して得られるとともに水平の搬送姿勢で送給される2枚のフランジ材5b−1、5b−2とを、高周波加熱装置9により急速に加熱して昇温する。
【0026】
そして、ウェブ材5aの両面に一対のウェブ支持ロール10a、10aを接触させてウェブ材5aを支持するとともに、このウェブ材5aの両端面にフランジ材5b−1、5b−2を一対の圧接ロール11a、11bにより押し付けることによって断面H形に組み合わせて、高周波加熱装置9、一対のウェブ支持ロール10a、10aおよび一対の圧接ロール11a、11bにより構成される高周波抵抗溶接機12により、高周波抵抗溶接によりウェブ材5aおよびフランジ材5b−1、5b−2を接合し、長尺の溶接H形鋼2とする。
【0027】
長尺の溶接H形鋼2は、図示しない溶接ビード成形装置による溶接ビードの切削と、同じく図示しない冷却装置による冷却と、矯正ロール13aを有する矯正装置13による矯正とを行なわれ、走行切断機14により所望の長さに切断されることによって、所望の長さを有する溶接H形鋼15とされ、検査テーブル16で検査が行われる。
【0028】
検査を行われた溶接H形鋼15は、塗装ブース17に送られて所定の塗色に塗装され、乾燥炉18において焼き付けられ、塗油ブース19において防錆油が塗布された後、パイリングテーブル20を介して結束機21により所定本数ずつ結束され、出荷される。
【0029】
図2に示すように、本発明に係る製造装置22は、この溶接H形鋼2の製造工程1に適用されるものであって、ウェブ材5aの両面に接触してウェブ材5aを支持する一対のウェブ支持ロール10a、10aと、ウェブ材5aの両端面にフランジ材5b−1、5b−2を押し付ける一対の圧接ロール11a、11bとを備える、高周波抵抗溶接による溶接H形鋼2の製造装置である。
【0030】
この製造装置22における一対のウェブ支持ロール10a、10aおよび一対の圧接ロール11a、11bの一方または双方は、その表面に絶縁性を有するセラミックスを被覆された、例えば鋼製等の金属製のロールであるセラミックスロールによって、構成されている。
【0031】
この製造装置22では、このセラミックスロールを構成するセラミックスとして、窒化ケイ素系を用い、熱間静水圧成形法によって、セラミックス層の厚さが3mm〜5mmとなるように被覆した。
【0032】
このセラミックスロールにより構成される一対のウェブ支持ロール10a、10a、および一対の圧接ロール11a、11bの一方または双方は、絶縁性を有するセラミックスによりその表面を被覆されているため、これらのロール10a、11a、11bを支持する鋼製フレーム(図示しない)が高周波抵抗溶接の際に流れる高電流によって加熱される場合にあっても、加熱されない。このため、図2中に矢印により概念的に示すような、これらのロール10a、11a、11bを保護するための冷却水の供給を行う必要がない。
【0033】
既設の溶接H形鋼の高周波抵抗溶接による製造装置の場合には、これらのロールへの冷却水供給機構を備えるので、例えば、冷却水供給ポンプの駆動を停止することや、冷却水供給配管に設けられた開閉弁を閉じることといった操作を行うことにより、冷却水を供給しないようにすればよい。一方、溶接H形鋼の高周波抵抗溶接による製造装置を新設する場合には、上述した冷却水供給機構を設置しないことにより、冷却水を供給しないようにしてもよい。
【0034】
ここで、フランジ材の予熱温度とフランジHAZ硬度との関係を説明する。高周波抵抗溶接により急熱、急冷された熱影響部は、ベーナイト等の焼入れ組織となるが、急冷を低減することによって焼入れ組織の減少と、後熱処理の原理と同様の再結晶化により低強度組織となる。したがって、溶接後の急冷が少ないほどフランジHAZ硬度は低下する傾向にある。
【0035】
また、フランジHAZ硬度と溶接品質との関係においては、溶接部のフランジHAZ硬度を低下することにより、図1に示す走行切断機14の衝撃による溶接部の破断を回避することができるようになる。フランジHAZ硬度を低くするには、溶接後の急冷速度を低下すればよいものの、冷却速度を遅くすると設備冷却不足となり、設備トラブルが発生する。
【0036】
高周波抵抗溶接では、通常、高周波抵抗溶接の際に加熱される一対のウェブ支持ロール10a、10a、および一対の圧接ロール11a、11bを保護するために、冷却水を吹き付けることによる冷却が行われているが、この冷却水の量を低減することができれば溶接部の冷却速度の進行を遅らせることができる。
【0037】
従来、一般的にはウェブ支持ロール10a、10aや圧接ロール11a、11b等のウェブ材5aやフランジ材5b−1、5b−2と接触するロール10a、10a、11a、11bは、いずれも鋼製であったものの、これらのロール10a、10a、11a、11bの表面に、絶縁性を有するセラミックスを被覆することによって、これらのロール10a、10a、11a、11bが電気的に絶縁されるため、これらのロール10a、11a、11bを支持する鋼製フレーム(図示しない)が高周波抵抗溶接の際に流れる高電流によって加熱される場合にあっても、加熱されない。このため、これらのロール10a、11a、11bを冷却水により冷却する必要がなくなる。
【0038】
このようにして、本発明によれば、溶接部に冷却水がかかることに起因した溶接部の冷却速度の上昇を抑制もしくは解消することができるので、フランジHAZ硬度を、例えば300Hv以下に低下することができ、これにより、図1に示す走行切断機14の衝撃による溶接部の破断を回避することができるようになる。
【0039】
図3は、一対のウェブ支持ロール10a、10aおよび一対の圧接ロール11a、11bの冷却水による冷却を行わない場合の、溶接H形鋼2の溶接部の近傍の硬度分布の一例を示すグラフである。また、図4は、一対のウェブ支持ロール10a、10aおよび一対の圧接ロール11a、11bの冷却水による冷却を行う場合の、溶接H形鋼2の溶接部の近傍の硬度分布の一例を示すグラフである。さらに、図5は、図3、4に示す結果における硬度測定位置を示す説明図である。
【0040】
硬度測定位置は、図5における一点鎖線の線上の0.1mm間隔の位置とした。なお、図5における符号23は、溶接部を示す。
図4にグラフで示すように、一対のウェブ支持ロール10a、10aおよび一対の圧接ロール11a、11bの冷却水による冷却を行うと、溶接H形鋼2の溶接部の近傍の硬度分布は最高値が略350Hvに達するほど上昇するのに対し、図3にグラフで示すように、一対のウェブ支持ロール10a、10aおよび一対の圧接ロール11a、11bの冷却水による冷却を行わないと、溶接H形鋼2の溶接部の近傍の硬度分布は最高値が略270Hv程度に低く抑制されることがわかる。
【0041】
本発明に係る溶接H形鋼2の製造装置22は、以上のように構成される。次に、この製造装置22により溶接H形鋼2を製造する状況を説明する。
製造工程1において、ペイオフリール3a、3bによりコイル4a、4bから払い出された長尺のウェブ材5a、フランジ材5bを、ルーパ6a、6bを介して送給し、ウェブプリアップセッタ7により垂直の搬送姿勢で送給されるウェブ材5aと、スリッタ8によりフランジ材5bを縦に2分割して得られるとともに水平の搬送姿勢で送給される2枚のフランジ材5b−1、5b−2とを、高周波加熱装置9により急速に加熱して昇温する。
【0042】
次に、ウェブ材5aの両面に、製造装置22を構成するとともにセラミックスロールからなる一対のウェブ支持ロール10a、10aを接触させてウェブ材5aを支持するとともに、このウェブ材5aの両端面にフランジ材5b−1、5b−2を、製造装置22を構成するとともにセラミックスロールからなる一対の圧接ロール11a、11bにより押し付けながら、高周波抵抗溶接によりウェブ材5aおよびフランジ材5b−1、5b−2を溶接する。
【0043】
この高周波抵抗溶接の際に、一対のウェブ支持ロール10a、10a、および/または、圧接ロール11a、11bに冷却水を供給しない。
このため、ウェブ材5aおよびフランジ材5b−1、5b−2の溶接部に冷却水がかかることに起因した溶接部の冷却速度の上昇を抑制もしくは解消することができるので、フランジHAZ硬度を、例えば300Hv以下に低下することができる。
【0044】
図1に示す製造工程により、このようにして、長尺の溶接H形鋼2が製造される。長尺の溶接H形鋼2は、図示しない溶接ビード成形装置による溶接ビードの切削と、同じく図示しない冷却装置による冷却と、矯正ロール13aを有する矯正装置13による矯正とを行なわれ、走行切断機14により所望の長さに切断されることによって、所望の長さを有する溶接H形鋼15とされ、検査テーブル16で検査が行われる。
【0045】
走行切断機14による長尺の溶接H形鋼2の切断の際には、溶接部の靱性の低下が抑制または解消されているので、走行切断機14の衝撃による溶接部の破断を回避することができる。
【0046】
この後、検査を行われた溶接H形鋼15は、塗装ブース17に送られて所定の塗色に塗装され、乾燥炉18において焼き付けられ、塗油ブース19において防錆油が塗布された後、パイリングテーブル20を介して結束機21により所定本数ずつ結束され、出荷される。
【0047】
このようにして、本発明によれば、高周波抵抗溶接の際における一対のウェブ支持ロール10a、10aおよび一対の圧接ロール11a、11bは、いずれも、加熱されないので冷却水により冷却する必要がなくなり、高周波抵抗溶接の際に一対のウェブ支持ロール10a、10aおよび一対の圧接ロール11a、11bを保護するための冷却水の量を低減するか、零にすることができるため、ウェブ材5aおよびフランジ材5b−1、5b−2の溶接部に冷却水がかかることを防止して溶接部の冷却速度の上昇を抑制もしくは解消することができる。
【0048】
このため、本発明によれば、溶接H形鋼2のフランジHAZ硬度を例えば300Hv以下に抑制することができ、これにより、溶接部の靱性を高めることができるので、フランジ材5aおよびウェブ材5b−1、5b−2の高周波抵抗溶接の後に行われる、走行切断機14による切断加工や穴あけ加工等の衝撃に対しても溶接部の破断を解消することができるようになる。
【0049】
このようにして本発明によれば、高周波抵抗溶接により製造される溶接H形鋼2の溶接品質を、既存設備を簡単に改造するだけで、顕著に向上することが可能になる。
【実施例1】
【0050】
本発明を、実施例を参照しながら、より具体的に説明する。
図1および図2により示す製造装置1を用いて、(a)ウェブ支持ロール10a、10a、圧接ロール11a、11bの種類、および(b)冷却水の噴射量を、表1に示すように種々変更する確認試験を行って、板厚が4.5mmである供試No.1〜6の溶接H形鋼を製造し、これらの溶接H形鋼について、溶接部近傍のHAZ最高硬度および各ロールを軸支するロールベアリング焼付き迄の時間を測定した。結果を表1に併せて示す。なお、表1において、冷却水の噴射量は、供試No.1、4の噴射量に対する比により示す。
【0051】
【表1】

【0052】
表1における供試No.1は、従来例であって、セラミックスロールではなく鋼製ロールを用い、かつ冷却水を通常通りに吹き付けたため、溶接部近傍のHAZ最高硬度が367Hvとなり、靱性が不芳であった。
【0053】
供試No.2は、比較例であって、セラミックスロールではなく鋼製ロールを用い、かつ冷却水を通常の半分程度として吹き付けたため、溶接部近傍のHAZ最高硬度が367Hvとなり、靱性が不芳であるとともに、各ロールが供試No.1よりも温度上昇し、ロールベアリング焼付き迄の時間が約2/3となった。
【0054】
供試No.3は、比較例であって、セラミックスロールではなく鋼製ロールを用い、かつ冷却水の吹き付けを行わなかったため、溶接部近傍のHAZ最高硬度は298Hvと満足できるレベルに低下したものの、各ロールが供試No.1よりも大幅に温度上昇し、ロールベアリング焼付き迄の時間が0.3時間となってしまい、実用できないものとなった。
【0055】
供試No.4は、比較例であって、セラミックスロールを用いたものの、冷却水を通常通りに吹き付けたため、溶接部近傍のHAZ最高硬度が375Hvとなり、靱性が不芳であった。
【0056】
供試No.5は、比較例であって、セラミックスロールを用いたものの、冷却水を通常の半分程度として吹き付けたため、溶接部近傍のHAZ最高硬度は338Hvまで低下したものの靱性は若干不芳であるものの、各ロールの温度上昇は供試No.4と同等レベルであった。
【0057】
これらに対し、供試No.6は、本発明例であって、セラミックスロールを用いるとともに、冷却水の吹き付けを停止したため、溶接部近傍のHAZ最高硬度は290Hvと満足できるレベルにまで低下するとともに、各ロールの温度上昇は供試No.4、5と同等レベルであって満足できるものであった。
【符号の説明】
【0058】
1 製造工程
2 溶接H形鋼
3a、3b ペイオフリール
4a、4b コイル
5a ウェブ材
5b,5b−1、5b−2 フランジ材
6a、6b ルーパ
7 ウェブプリアップセッタ
8 スリッタ
9 高周波加熱装置
10a ウェブ支持ロール
11a、11b 圧接ロール
12 高周波抵抗溶接機
13 矯正装置
13a 矯正ロール
14 走行切断機
15 溶接H形鋼
16 検査テーブル
17 塗装ブース
18 乾燥炉
19 塗油ブース
20 パイリングテーブル
21 結束機
22 本発明に係る製造装置
23 溶接部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ウェブ材にウェブ支持ロールを接触させてウェブ材を支持するとともに、該ウェブ材の端面にフランジ材を圧接ロールにより押し付けながら、高周波抵抗溶接により前記ウェブ材および前記フランジ材を溶接して溶接形鋼を製造する際に、
前記ウェブ支持ロール、および/または、前記圧接ロールを、その表面に絶縁性を有するセラミックスを被覆された金属製のロールにより構成すること
を特徴とする溶接形鋼の製造方法。
【請求項2】
前記溶接形鋼は溶接H形鋼または溶接T形鋼である請求項1に記載された溶接形鋼の製造方法。
【請求項3】
ウェブ材に接触して該ウェブ材を支持するウェブ支持ロールと、前記ウェブ材の端面にフランジ材を押し付ける圧接ロールとを備える高周波抵抗溶接による溶接形鋼の製造装置であって、
前記ウェブ支持ロール、および/または、前記圧接ロールは、その表面に絶縁性を有するセラミックスを被覆された金属製のロールであること
を特徴とする溶接形鋼の製造装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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