説明

溶接打点の管理システム、プログラム、記録媒体

【課題】 スポット溶接の打点位置に、この溶接打点の位置を指し示すと共に当該溶接打点の管理番号が表示されたバルーンを効率的かつ正確に配置することができる溶接打点の管理システムを提供する。
【解決手段】 画像βには、溶接打点D1〜D6の打点位置及びバルーンBA1〜BA6が表示され(S201)、バルーンBA1,BA6が溶接打点D1,D6の打点位置に配置されると、配置された打点位置が画像β上で定義される座標値として認識される(S203)。システム本体13は、溶接打点D1,D6の座標値をデータベース14から読み出し(S205)、画像β上で定義される座標値に変換するための変形倍率Kを算出する(S207)。続いて、溶接打点D2〜D5の座標を変形倍率Kを用いて変換し(S209)、画像β上でバルーンBA2〜BA5を溶接打点D2〜D5にそれぞれ配置する(S211)。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、スポット溶接の溶接打点の管理システム、プログラム、記録媒体に係り、詳しくは、溶接打点の管理システムを実現するようにコンピュータシステムを機能させるためのプログラム、そのプログラムが記録されたコンピュータで読み取り可能な記録媒体に関する。
【背景技術】
【0002】
本出願人は、従来より、自動車の車体組み立てラインにおけるスポット溶接作業に先立ち、溶接工法を画像で表す溶接工法画像仕様書及び溶接工法を一覧する工法書を作成する。溶接工法画像仕様書には、自動車の被溶接部の画像とともにスポット溶接される溶接打点の位置がディスプレイの画面上に表示されている。担当者は、溶接打点の位置を矢印で指し示すとともに当該溶接打点の溶接工法などの情報と対応づけられた管理番号が表示されたバルーン(風船)を、ディスプレイの画面上で各溶接打点について配置する作業を行う(特許文献1)。
【特許文献1】特開2005−115449号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
ここで、近年、自動車の車体組み立てラインにおけるスポット溶接の打点数は、自動車1台当たり、例えば6000点と膨大な数となっている。そのため、従来のように、担当者がディスプレイの画面上で確認しながら、各溶接打点について1点づつバルーンを配置していては、正確に配置されているかの確認作業も含め、多大な時間と手間を要するという問題があった。
【0004】
そこで、この発明は、溶接打点にバルーンを効率的かつ正確に配置することができる溶接打点の管理システムを提供することを目的とする。また、この溶接打点の管理システムを実現するようにコンピュータシステムを機能させるためのプログラムを提供することを目的とする。更に、この溶接打点の管理システムを実現するようにコンピュータシステムを機能させるためのプログラムが記録されたコンピュータで読み取り可能な記録媒体を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
この発明は、上記目的を達成するため、請求項1に記載の発明では、溶接打点の管理システムが、スポット溶接の被溶接物と、この被溶接物にスポット溶接される溶接打点の打点位置と、この溶接打点の位置を指し示すと共に当該溶接打点の管理番号が表示されたバルーンとを画像表示装置に画像として表示する表示手段と、前記被溶接物の実寸法に基づいて定義された第1の座標値で表された前記打点位置を示す打点データが、前記管理番号に対応して記憶格納された記憶手段と、前記表示手段によって画像上に表示された溶接打点の打点位置から任意に選択した複数の溶接打点の打点位置に、対応するバルーンがそれぞれ配置されると、前記バルーンが配置された溶接打点の打点位置を、前記被溶接物の画像上に定義された第2の座標値として認識する座標認識手段と、前記記憶手段から前記選択された複数の溶接打点の打点位置を示す打点データを読み出す読出手段と、前記読出手段により読み出された打点データのうち、少なくとも2つの溶接打点間の第1の座標値の差分値と前記座標認識手段により認識された第2の座標値の差分値とに基づいて、前記被溶接物に対する前記被溶接物の画像の変形倍率を算出する倍率算出手段と、前記変形倍率に基づいて、前記画像上に表示された溶接打点の打点位置のうち、選択されていない溶接打点の打点位置の第1の座標値を前記第2の座標値に変換する座標変換手段と、前記変換された第2の座標値に基づいて前記選択されていない溶接打点の打点位置に対応するバルーンを、前記被溶接物の画像上の打点位置にそれぞれ配置する配置手段と、を備えた、という技術的手段を用いる。
【0006】
請求項1に記載の発明によれば、表示手段により表示されたスポット溶接の被溶接物の画像上に表示された溶接打点の打点位置から任意に選択した複数の溶接打点の打点位置に、対応するバルーンがそれぞれ配置されると、座標認識手段により、バルーンが配置された溶接打点の打点位置を、被溶接物の画像上に定義された第2の座標値として認識する。続いて、読出手段により、選択された複数の溶接打点の打点位置を示す打点データを記憶手段から読み出すと、倍率算出手段により、読出手段によって読み出された打点データのうち、少なくとも2つの溶接打点間の第1の座標値の差分値と座標認識手段により認識された第2の座標値の差分値とに基づいて、被溶接物に対する被溶接物の画像の変形倍率を算出する。続いて、座標変換手段により、選択されていない溶接打点の打点位置の第1の座標値を第2の座標値に変換し、配置手段により、画像上に表示された溶接打点の打点位置のうち、選択されていない溶接打点の打点位置に対応するバルーンを、被溶接物の画像上の打点位置にそれぞれ配置することができる。
これにより、少なくとも2つの溶接打点の打点位置に対応するバルーンを配置することにより、残りの溶接打点の打点位置に対応するバルーンを一度に配置することができるので、バルーンを1つずつ配置する場合に比べて、バルーンの配置に要する時間を大幅に短縮することができる。更に、残りの溶接打点の打点位置に対応するバルーンは自動的に配置されるため、配置ミスが生じるおそれが少なく、バルーンが正確に配置されているか確認する作業に要する時間を大幅に短縮することができる。
つまり、溶接打点にバルーンを効率的かつ正確に配置することができる溶接打点の管理システムを実現することができる。
【0007】
請求項2に記載の発明では、請求項1に記載の溶接打点の管理システムにおいて、前記倍率算出手段は、前記第1の座標値及び前記第2の座標値が定義された方向毎に前記変形倍率をそれぞれ算出し、前記変換手段は、当該倍率算出手段により前記各方向毎に算出されたそれぞれの変形倍率に基づいて、選択されていない溶接打点の打点位置の第1の座標値を前記第2の座標値に変換する、という技術的手段を用いる。
【0008】
請求項2に記載の発明によれば、倍率算出手段により、第1の座標値及び第2の座標値が定義された方向毎に変形倍率をそれぞれ算出し、変換手段により、各方向毎に算出されたそれぞれの変形倍率に基づいて、選択されていない溶接打点の打点位置の第1の座標値を第2の座標値に変換することができる。
これにより、被溶接物の画像が等方的に拡大・縮小されて表示されていない場合、例えば、被溶接物の前後方向と左右方向で変形倍率が異なるような場合でも、溶接打点の打点位置に正確にバルーンを配置することができる。
【0009】
請求項3に記載の発明では、請求項1または請求項2に記載の溶接打点の管理システムにおける前記各手段としてコンピュータシステムを機能させるためのプログラム、という技術的手段を用いる。
【0010】
請求項3に記載の発明によれば、請求項1〜4のいずれか1項に記載の溶接打点の管理システムを実現するようにコンピュータシステムを機能させるためのプログラムを提供できる。
【0011】
請求項4に記載の発明では、請求項1または請求項2に記載の溶接打点の管理システムにおける前記各手段としてコンピュータシステムを機能させるためのプログラムが記録されたコンピュータで読み取り可能な記録媒体、という技術的手段を用いる。
【0012】
また、請求項4に記載の発明によれば、請求項1または請求項2に記載の溶接打点の管理システムにおける前記各手段としてコンピュータシステムを機能させるためのプログラムが記録されたコンピュータで読み取り可能な記録媒体を提供できる。
【0013】
このプログラムは、例えば、ROMやバックアップRAMをコンピュータで読み取り可能な記録媒体として前記プログラムを記録しておき、このROMまたはバックアップRAMをコンピュータシステムに組み込んで用いることができる。
この他、前記プログラムを、コンピュータで読み取り可能な記録媒体を備えた外部記録装置(外部記憶装置)に記録(記憶)しておき、当該プログラムを必要に応じて外部記録装置からコンピュータシステムにロードして用いるようにしてもよい。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
この発明に係る溶接工法画像仕様書の作成システム、プログラム、記録媒体の最良の実施形態について、図を参照して説明する。図1は、溶接打点の管理システムの全体構成を示すブロック図である。図2は、統合CADの端末装置の内部構成を示すブロック図である。図3は、全打点リストをテキスト形式で作成した一例を示す説明図である。図4は、統合CADの端末装置のディスプレイに表示された打点属性情報一覧の一例を示す説明図である。図5は、システム本体が実行する主な処理の流れを示すフローチャートである。図6は、溶接工法画像仕様書作成の処理の流れを示すフローチャートである。図7は、統合CADの端末装置のディスプレイまたは表示操作装置のディスプレイに表示された溶接工法画像仕様書の一例を示す説明図である。図8は、溶接工法画像仕様書におけるバルーンの配置の流れを示す説明図である。
【0015】
図1に示すように、本実施形態における溶接打点の管理システム10は、自動車の車体組み立てラインにおけるスポット溶接打点の管理を行うものであり、統合CADの端末装置11、情報システム装置12、システム本体13、データベース14、表示操作装置15などから構成されている。
【0016】
統合CADの端末装置11はコンピュータ端末からなる。
情報システム装置12は、溶接打点の管理システム10を導入した自動車の生産会社のホストコンピュータによって構成されている。
システム本体13は、中央演算処理装置(CPU)13a、読み取り専用の記憶装置(ROM)13b、読み書き可能な記憶装置(RAM)13c、入出力インターフェース(I/O)13dなどを備え、各装置13a〜13dがシステムバス(図示略)を介して接続された周知のコンピュータシステムによって構成されている。
データベース14は、大容量記憶装置(例えば、ハードディスク装置など)によって構成され、システム本体13によりデータの書き込み及び読み出しが制御される。
システム本体13と、端末装置11、情報システム装置12、データベース14及び表示操作装置15とは、LAN(Local Area Network)によって接続され、データのやり取りは入出力インターフェース13dによって仲介される。
【0017】
図2に示すように、統合CADの端末装置11は、ディスプレイ11a、入力装置11b、プリンタ11c、端末本体11dなどを備えたパーソナルコンピュータシステムによって構成されている。
端末本体11dは、中央演算処理装置(CPU)11e、読み取り専用の記憶装置(ROM)11f、読み書き可能な記憶装置(RAM)11g、入出力インターフェース(I/O)11hなどを備え、各装置11e〜11hがシステムバス(図示略)を介して接続された周知のコンピュータシステムによって構成されている。
【0018】
入出力インターフェース11hは、端末装置11の入出力装置(ディスプレイ11a、入力装置11b、プリンタ11c)に接続されると共に、システム本体13の入出力インターフェース13dに接続され、当該入出力装置およびシステム本体13と端末本体11dとのデータのやり取りを仲介する。
ディスプレイ11aには、端末本体11dから出力されたデータが表示される。
入力装置11bは、キーボードおよびポインティングデバイス(例えば、マウス、ジョイスティックなど)から構成され、車体の設計者やスポット溶接工程を担当する生産技術者などのユーザーが端末本体11dにデータを入力するために用いられる。
プリンタ11cは、端末本体11dから出力されたデータをプリント用紙に印字した印刷物を作成する。
【0019】
ユーザーは、統合CADの端末装置11のディスプレイ11aの表示を見ながら入力装置11bを操作し、スポット溶接の打点に係る部品(被溶接物、ワーク)の組み合わせのデータである打点属性情報を各打点毎に入力して打点配分を行う。
すると、統合CADの端末装置11は、入力装置11bから入力された打点属性情報に対して、スポット溶接の各打点毎に、自動車の生産会社内における管理番号(全社ID)、データベース14上の管理番号(スポットグループ)、スポット溶接の管理番号(打点ID)をそれぞれ配置し、全打点の打点属性情報をこれら管理番号で一覧する全打点リストを作成する。
そして、作成された全打点リストは、統合CADの端末装置11からシステム本体13へ送られ、データベース14に記憶格納される。
【0020】
図3に示すように、全打点リストには、各溶接打点毎の打点属性情報が管理番号(全社ID、スポットグループ、打点ID)で一覧表示されると共に、自動車の車種を表す符号(図3に示す例では「229W」)と、この全打点リストを作成した日付(図3に示す例では2003年3月15日を表す「03.03.15」)とが合わせて表示される。
【0021】
図4に示すように、ディスプレイ11aの上側には、スポットグループ、打点IDが表示される。
ディスプレイ11aの左側には、打点属性情報のうち、車体の設計者が入力する項目(座標値、結合品番、材質、板厚)が表示される。
ディスプレイ11aの右側には、打点属性情報のうち、生産技術者が入力する項目(シーラー、バックバー、溶接法、ガンNo、設備名)が表示される。
ここで、これらの入力項目は、溶接打点の管理システム10を導入した自動車の生産会社内でルール化されて予め取り決められている。
【0022】
「スポットグループ」は、個々の溶接打点に対する各データを特定してデータベース14上で管理するための管理番号であり、例えば4桁からなる10進数値(0000〜9999)で表され、図3および図4に示す例では「0595」である。
「打点ID」は、溶接打点を特定して管理するための管理番号であり、例えば6桁からなる英数字で表され、図3および図4に示す例では「SM0001」である。
【0023】
「座標値」は、溶接打点に対するスポット溶接を予定する位置の座標情報であり、3次元の座標値L,W,Hにより設定される。
ここで、「L」は車両の前後方向、「W」は車両の左右方向、「H」は車両の高さ方向を表し、「W」については、車両のセンターラインから進行方向右側を「+」、進行方向左側を「−」の符号を付して表している。そして、CAD上の原点を基準に、線画を構成する線分の起点および終点あるいは円や円弧の中心点等を実際の寸法によって規定している。図3および図4に示す例では、「L=1242.43」「W=−683.05」「H=2211.83」(単位:mm)である。
【0024】
「結合品番1〜4」の「品番」は、溶接打点において溶接対象となる部品の品番を示すものであり、例えば5桁からなる数字で表され、2個の部品を溶接する場合には「結合品番1」および「結合品番2」に該当する部品の品番が設定され、3個の部品溶接する場合には「結合品番1」「結合品番2」「結合品番3」に該当する部品の品番が設定され、4個の部品を溶接する場合には「結合品番1」「結合品番2」「結合品番3」「結合品番4」に該当する部品の品番が設定される。図3および図4に示す例では、結合品番1の品番「61111」と結合品番2の品番「61161」の2個の部品が溶接されることを表している。
【0025】
「結合品番1〜4」の「材質」は、溶接打点において溶接対象となる部品の材質を示すものであり、例えば5〜7桁からなる英数字の符号で表され、図3および図4に示す例では、結合品番1の部品の材質が「SPC270C」、結合品番2の部品の材質が「SPC590」である。
「結合品番1〜4」の「板厚」は、溶接打点において溶接対象となる部品の板厚を示すものであり、図3および図4に示す例では、結合品番1の部品の板厚が「0.8」、結合品番2の部品の板厚が「1.0」(単位:mm)である。
【0026】
「シーラー」は、溶接打点に水漏れ防止用シーラーや接着用シーラー等を施すか否かを示すものであり、例えば、シーラーを施さない場合には符号「0」、シーラーを施す場合には符号「1」で表され、図3および図4に示す例ではシーラーを施さないため「0」である。
「バックバー」は、溶接箇所の裏側に当てがって溶接打点を隠すバックバーを用いるか否かを示すものであり、例えば、バックバーを用いない場合には符号「0」、バックバーを用いる場合には符号「1」で表され、図3および図4に示す例ではバックバーを用いないため「0」である。
【0027】
「溶接法」は、溶接打点をスポット溶接するために用いる溶接法を示すものであり、例えば、ダイレクトスポット溶接法を用いる場合には符号「0」、シリーズスポット溶接法を用いる場合には符号「1」、プラズマ溶接法を用いる場合には符号「2」、YAGレーザ溶接法を用いる場合には符号「3」で表され、図3および図4に示す例ではダイレクトスポット溶接法を用いるため「0」である。
「ガンNo」は、溶接打点をスポット溶接するために用いられる溶接ガンの番号を示すものであり、図3および図4に示す例では番号「1」の溶接ガンを用いることを表している。
「設備名」は、溶接打点をスポット溶接するために用いられる溶接ロボットの機番を示すものであり、例えば4桁からなる10進数値(0000〜9999)で表され、図3および図4に示す例では機番「2308」の溶接ロボットを用いることを表している。
【0028】
情報システム装置12内には、部品表本紙および部品表目次のデータが格納されている。その部品表本紙および部品表目次は、情報システム装置12からシステム本体13へ送られ、データベース14に記憶格納される。
ここで、車体の設計者は、部品表本紙がシステム本体13へ送られる前に、部品表本紙のエラーを修正する。
部品表本紙は、全打点リストに記載されている結合品番が具体的にどういう部品であるかを示すデータである。
部品表目次は、部品表本紙に記載されたデータを検索するためのデータである。
部品表本紙および部品表目次から車種毎の全ての部品データが構成されている。
【0029】
図5に示すように、システム本体13は、CPU13aが起動すると、ROM13bに記録(記憶)されているコンピュータプログラムをCPU13aにロードし、そのコンピュータプログラムに従い、CPU13aが実行する各種演算処理により、以下の各ステップ(以下、「S」と記載する)の処理を実行する。
【0030】
ここで、前記コンピュータプログラムを、システム本体13に内蔵したROM13bではなく、システム本体13に内蔵した図示しないバックアップRAMや、コンピュータで読み取り可能な記録媒体を備えた図示しない外部記録装置(外部記憶装置)に記録(記憶)しておき、当該コンピュータプログラムを必要に応じてバックアップRAMや外部記録装置からCPU13aにロードして用いるようにしてもよい。
【0031】
ちなみに、コンピュータで読み取り可能な記録媒体には、半導体メモリ(スマートメディア,メモリスティックなど)、ハードディスク、FD(Floppy Disk)、データカード(ICカード(IC:Integrated Circuit),磁気カードなど)、光ディスク(CD−ROM,DVDなど)、光磁気ディスク(MOなど)、相変化ディスク、磁気テープなどがある。ここで、前記記録媒体の具体例の名称には登録商標が含まれる。
【0032】
まず、システム本体13は、データベース14から全打点リストと部品表本紙および部品表目次とを読み出し、それらを組み合わせることにより、車種毎の車種展開データを自動的に作成し、その車種展開データをデータベース14に記憶格納する(S101)。
この車種展開データは、全打点リストの記載されているデータと、部品表本紙および部品表目次に記載されているデータとを組み合わせてテキスト形式で一覧にしたものである。
【0033】
ここで、データベース14には、ガンリスト、設備リスト、溶接条件、打点断面の各データが予め記憶格納されている。
ガンリストは、スポット溶接を行う溶接ガンの形式、メーカー名、ガン重量などの溶接ガンに関するデータの一覧である。
設備リストは、溶接ロボットを含む溶接設備に関するデータの一覧である。
溶接条件は、溶接設備毎に溶接ロボットを駆動するためのタイマーデータであり、電気溶接の通電時間や溶接電流などのデータの一覧である。
打点断面は、スポット溶接した部品における溶接打点部分の断面写真のデータである。
【0034】
次に、システム本体13は、データベース14から車種展開データ、設備リスト、溶接条件などを読み出し、それらを組み合わせることにより、溶接打点の打点ID毎に溶接工法を画像で表す溶接工法画像仕様書を作成し、その溶接工法画像仕様書のデータをRAM13cに記憶格納する(S102)。
そして、システム本体13は、作成した溶接工法画像仕様書を、統合CADの端末装置11のディスプレイ11aに表示させると共に、表示操作装置15のディスプレイ15aに表示させる(S103)。
【0035】
ここで、溶接工法画像仕様書の作成処理(S102)について、図6ないし図8を参照して説明する。まず、図7に示すように、ユーザー(車体の設計者、生産技術者)が、ディスプレイ11a,15aの画面上にて、画像αにおける任意の箇所をポインタPによって指定し拡大表示を指示すると、システム本体13は、溶接工法画像仕様書に、スポット溶接によって結合する部品を組み合わせた車体の一部分(図7に示す例では底面部)を示す画像αとその画像αの一部分を拡大した画像βとを並べて表示する。画像βには、スポット溶接される6箇所の溶接打点D1〜D6の打点位置が「×」印で表示される。
【0036】
次に、ユーザーが、端末装置11または表示操作装置15を用い、打点IDが記載されたバルーンを各ディスプレイ11a,15aに表示させる指示命令をGUI(Grafical User Interface)によって入力すると、システム本体13はその指示命令に従って、図8(A)に示すように、溶接打点D1〜D6に対応する打点ID「SM0001」〜「SM0006」が記載された6つのバルーンBA1〜BA6を画像βに一覧表示する(図6:S201)。
【0037】
続いて、ユーザーは、表示されたバルーンBA1〜BA6からポインタPにより複数個のバルーンBAを選択し、対応する溶接打点に配置する。ここでは、図8(B)に示すように、打点ID「SM0001」が記載されたバルーンBA1及び打点ID「SM0006」が記載されたバルーンBA6を、溶接打点D1及びD6の打点位置にそれぞれ配置する。バルーンBA1,BA6は、打点IDが記載されたボックスから延びた矢印で、その溶接打点D1,D6の位置(「×」印)をそれぞれ指し示す。これにより、溶接打点D1,D6の打点位置が、画像β上で定義される座標値として認識される(図6:S203)。
【0038】
続いて、システム本体13は、溶接打点D1,D6の座標値をデータベース14から読み出す(図6:S205)。
【0039】
続いて、データベース14に記憶格納されている残りの溶接打点D2〜D5の座標値を画像β上で定義される座標値に変換するための変形倍率Kを算出する。ここで、バルーンを2点の溶接打点に配置すると、ディスプレイにチェックボックスが表示され、チェックボックスをポインタPで指示することにより、当該指示指令を入力する構成を使用してもよい。
画像βが車体を等方的に同じ倍率で縮小して表示している場合、データベース14から読み出された溶接打点D1の座標値Lと溶接打点D6の座標値Lとの差分値と、画像β上で定義された溶接打点D1の座標値CL1と溶接打点D6の座標値CL6との差分値とから、次式により変形倍率Kが算出される(図6:S207)。
【0040】
K=(CL6−CL1)/(L6−L1) (1)
【0041】
続いて、溶接打点D1または溶接打点D6の座標を基準として、データベース14から読み出された溶接打点D2〜D5の座標を変形倍率Kを用いて画像β上で定義される座標に変換する(図6:S209)。
例えば、溶接打点D2の座標値L2及び座標値W2は、下記のように画像β上で定義される座標値CL2及び座標値CW2に変換される。
【0042】
CL2=CL1+K(L2−L1) (2)
CW2=CW1+K(W2−W1) (3)
【0043】
続いて、システム本体13は、図8(C)に示すように、この変換された座標に基づいて、画像β上で、バルーンBA2〜BA5を対応する溶接打点D2〜D5にそれぞれ配置し(図6:S211)、各ディスプレイ11a,15aに表示して、溶接工法画像仕様書の作成処理を終了する。
【0044】
これにより、少なくとも2つの溶接打点D1,D6の打点位置に対応するバルーンBA1,BA6を配置することにより、残りの溶接打点D2〜D5の打点位置に対応するバルーンBA2〜BA5を一度に配置することができるので、バルーンを1つずつ配置する場合に比べて、バルーンBA1〜BA6の配置に要する時間を大幅に短縮することができる。更に、溶接打点D2〜D5の打点位置に対応するバルーンBA2〜BA5は自動的に配置されるため、配置ミスが生じるおそれが少なく、バルーンが正確に配置されているか確認する作業に要する時間を大幅に短縮することができる。
【0045】
ここで、変形倍率Kは、W方向の座標値WまたはH方向の座標値Hを用いて算出してもよい。また、更に、変形倍率Kは2点以上で算出してもよい。この場合、溶接打点2点毎に変形倍率Kを算出し、平均値を用いてもよい。
【0046】
ユーザーが、ディスプレイ11a,15aの画面上にて、所望のバルーンBAをポインタPによって指示すると、そのポインタPによって指示されたバルーンBAに記載された打点IDに関する車種展開データ、設備リスト、溶接条件のデータがディスプレイ11a,15aの画面上に表示される。つまり、統合CADの端末装置11および表示操作装置15は、システム本体13の端末装置として機能する。
【0047】
図5に示すように、システム本体13は、データベース14から車種展開データ、設備リスト、溶接条件などを読み出し、それらを組み合わせることにより、溶接ロボットをティーチングするためのデータを作成し、その作成したデータを溶接ロボット実機へ送り出すと共にRAM13cに記憶格納する(S104)。
【0048】
次に、システム本体13は、データベース14から車種展開データ、設備リスト、溶接条件などを読み出し、それらを組み合わせることにより、車種毎に溶接打点の管理番号(全社ID、スポットグループ、打点IDなど)で溶接工法を一覧する工法書を自動的に作成し、その工法書のデータをRAM13cに記憶格納する(S105)。
続いて、システム本体13は、データベース14から車種展開データおよび設備リストなどを読み出し、それらを組み合わせることにより、車種別で溶接設備の作業を一覧する車種表を自動的に作成し、その車種表のデータをRAM13cに記憶格納する(S106)。
次に、システム本体13は、データベース14から車種展開データおよび設備リストなどを読み出し、それらを組み合わせることにより、車体の組み立てラインに流す車種を表す仕掛表を自動的に作成し、その仕掛表のデータをRAM13cに記憶格納する(S107)。
【0049】
続いて、システム本体13は、データベース14から車種展開データ、ガンリスト、設備リスト、溶接条件、打点断面のデータなどを読み出し、それらを組み合わせることにより、全打点について溶接打点の管理番号(全社ID、スポットグループ、打点IDなど)で打点属性情報を一覧する打点リストを自動的に作成し、その打点リストのデータをRAM13cに記憶格納する(S108)。
そして、システム本体13は、データベース14から車種展開データ、ガンリスト、設備リスト、溶接条件、打点断面のデータなどを読み出し、それらを組み合わせることにより、溶接打点の管理番号(全社ID、スポットグループ、打点IDなど)毎に溶接条件が記載された溶接条件表を自動的に作成し、その溶接条件表のデータをRAM13cに格納し(S109)、一連の処理を終了する。
【0050】
そして、図1に示す統合CADの端末装置11のRAM11g、システム本体13のRAM13c、データベース14に記憶格納されているデータ(全打点リスト、部品データ(部品表本紙、部品表目次)、車種展開データ、ガンリスト、設備リスト、溶接条件、打点断面、車種展開データ、溶接工法画像仕様書、工法書、車種表、仕掛表、打点リスト、溶接条件表、溶接打点設計変更データリスト)については、ディスプレイ11a,15aに表示すると共に、プリンタ11c(図2)から印刷物として出力できる。
【0051】
[最良の実施形態の効果]
画像β上に表示された溶接打点D1〜D6のうち、少なくとも2つの溶接打点D1,D6の打点位置に対応するバルーンBA1,BA6をそれぞれ配置することにより、残りの溶接打点D2〜D5の打点位置に対応するバルーンBA2〜BA5を一度に配置することができるので、バルーンを1つずつ配置する場合に比べて、バルーンBA1〜BA6の配置に要する時間を大幅に短縮することができる。更に、溶接打点D2〜D5の打点位置に対応するバルーンBA2〜BA5は自動的に配置されるため、配置ミスが生じるおそれが少なく、バルーンが正確に配置されているか確認する作業に要する時間を大幅に短縮することができる。
つまり、溶接打点D1〜D6にバルーンBA1〜BA6を効率的かつ正確に配置することができる溶接打点の管理システムを実現することができる。
【0052】
[その他の実施形態]
(1)画像βの変形倍率Kが方向によって異なる場合、例えば、車両の前後(L)方向と左右(W)方向で変形倍率が異なるような場合には、S207の処理において、L方向及びW方向の変形倍率をそれぞれ算出し、S209の処理において、各方向毎に算出されたそれぞれの変形倍率に基づいて、溶接打点D2〜D5の打点位置の座標値を画像β上で定義された座標値に変換することができる。
ここで、S207の処理において、L方向の変形倍率KL及びW方向の変形倍率KWを次式のように算出する。
【0053】
KL=(CL6−CL1)/(L6−L1) (4)
KW=(CW6−CW1)/(W6−W1) (5)
【0054】
続いて、S209の処理において、溶接打点D1または溶接打点D6の座標を基準として、変形倍率KL,KWを用いて画像β上で定義される座標に変換する。
例えば、溶接打点D2の座標値L2及び座標値W2は、下記のように画像β上で定義される座標値CL2及び座標値CW2に変換される。
【0055】
CL2=CL1+KL(L2−L1) (6)
CW2=CW1+KW(W2−W1) (7)
【0056】
この構成を用いた場合、車両の前後(L)方向と左右(W)方向で変形倍率が異なるような場合でも、バルーンBA1〜BA6を、対応する溶接打点D1〜D6の打点位置に正確に配置することができる。
【0057】
(2)本発明は、自動車の車体組み立てラインにおけるスポット溶接打点の管理システムだけでなく、どのような製品の生産ラインにおけるスポット溶接打点の管理システムとして適用してもよい。
【0058】
[各請求項と実施形態との対応関係]
打点IDが請求項1に記載の管理番号に、データベース14が記憶手段に、S201の処理が表示手段に、S203の処理が認識手段に、S205の処理が読出手段に、S207の処理が倍率算出手段に、S209の処理が座標変換手段に、S211の処理が配置手段にそれぞれ対応する。
システム本体13または端末本体11dが実行する図5及び図6に示すフローチャートの処理が請求項3に記載のプログラムに対応する。
ROM11f,13bが請求項4に記載の記録媒体に対応する。
【図面の簡単な説明】
【0059】
【図1】溶接打点の管理システムの全体構成を示すブロック図である。
【図2】統合CADの端末装置の内部構成を示すブロック図である。
【図3】全打点リストをテキスト形式で作成した一例を示す説明図である。
【図4】統合CADの端末装置のディスプレイに表示された打点属性情報一覧の一例を示す説明図である。
【図5】システム本体が実行する主な処理の流れを示すフローチャートである。
【図6】溶接工法画像仕様書作成の処理の流れを示すフローチャートである。
【図7】統合CADの端末装置のディスプレイまたは表示操作装置のディスプレイに表示された溶接工法画像仕様書の一例を示す説明図である。
【図8】溶接工法画像仕様書におけるバルーンの配置の流れを示す説明図である。
【符号の説明】
【0060】
10 管理システム
11 端末装置
11a ディスプレイ
11f ROM
12 情報システム装置
13 システム本体
13a CPU
13b ROM
14 データベース
15 表示操作装置
15a ディスプレイ
P ポインタ
BA1〜BA6 バルーン
D1〜D6 溶接打点

【特許請求の範囲】
【請求項1】
スポット溶接の被溶接物と、この被溶接物にスポット溶接される溶接打点の打点位置と、この溶接打点の位置を指し示すと共に当該溶接打点の管理番号が表示されたバルーンとを画像表示装置に画像として表示する表示手段と、
前記被溶接物の実寸法に基づいて定義された第1の座標値で表された前記打点位置を示す打点データが、前記管理番号に対応して記憶格納された記憶手段と、
前記表示手段によって画像上に表示された溶接打点の打点位置から任意に選択した複数の溶接打点の打点位置に、対応するバルーンがそれぞれ配置されると、前記バルーンが配置された溶接打点の打点位置を、前記被溶接物の画像上に定義された第2の座標値として認識する座標認識手段と、
前記記憶手段から前記選択された複数の溶接打点の打点位置を示す打点データを読み出す読出手段と、
前記読出手段により読み出された打点データのうち、少なくとも2つの溶接打点間の第1の座標値の差分値と前記座標認識手段により認識された第2の座標値の差分値とに基づいて、前記被溶接物に対する前記被溶接物の画像の変形倍率を算出する倍率算出手段と、
前記変形倍率に基づいて、前記画像上に表示された溶接打点の打点位置のうち、選択されていない溶接打点の打点位置の第1の座標値を前記第2の座標値に変換する座標変換手段と、
前記変換された第2の座標値に基づいて前記選択されていない溶接打点の打点位置に対応するバルーンを、前記被溶接物の画像上の打点位置にそれぞれ配置する配置手段と、
を備えたことを特徴とする溶接打点の管理システム。
【請求項2】
前記倍率算出手段は、前記第1の座標値及び前記第2の座標値が定義された方向毎に前記変形倍率をそれぞれ算出し、
前記座標変換手段は、当該倍率算出手段により前記各方向毎に算出されたそれぞれの変形倍率に基づいて、選択されていない溶接打点の打点位置の第1の座標値を前記第2の座標値に変換することを特徴とする請求項1に記載の溶接打点の管理システム。
【請求項3】
請求項1または請求項2に記載の溶接打点の管理システムにおける前記各手段としてコンピュータシステムを機能させるためのプログラム。
【請求項4】
請求項1または請求項2に記載の溶接打点の管理システムにおける前記各手段としてコンピュータシステムを機能させるためのプログラムが記録されたコンピュータで読み取り可能な記録媒体。



【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2007−209991(P2007−209991A)
【公開日】平成19年8月23日(2007.8.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−29676(P2006−29676)
【出願日】平成18年2月7日(2006.2.7)
【出願人】(000110321)トヨタ車体株式会社 (1,272)
【Fターム(参考)】