説明

溶接方法及び溶接装置

【課題】高い生産性を確保するとともに溶接箇所の外観品質を向上させることができる溶接方法及び溶接装置を提供する。
【解決手段】溶接予定部2を上に向けた状態で溶接予定部2が水平面Hに対して所定角度αをなすように母材1を傾斜させ、溶接予定部2に沿って該溶接予定部2の上部側から下部側へ母材1に対して溶接トーチ21を相対的に移動させて溶接予定部2をパルス溶接する。溶接予定部2が水平面に対してなす角度は60〜90度程度が好ましい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は溶接方法及び溶接装置に関する。
【背景技術】
【0002】
溶接方法の一つとして、炭酸ガス等を含む混合ガスを用いた混合ガス溶接が広く一般的に知られている(特許文献1等参照)。
【0003】
【特許文献1】特開2005−169414号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし、混合ガス溶接は溶着量の制御が難しいため、溶接ビードが凸状に形成され、また盛られた溶接ビードの表面にはうろこ状の縞模様が生じる傾向があることから、溶接箇所の外観品質を上げることが難しい。混合ガスの成分割合の調整で溶接ビードの高さをある程度抑制することはできるものの、平滑面に近いレベルまで抑制することは困難である。それに対し、プラズマ溶接のように溶着量を精度良く制御することで溶接ビードを比較的平滑に仕上げることができる方法もあるが、溶接作業に混合ガス溶接の2〜3倍程度の時間を要し生産性が悪い。
【0005】
本発明は上記に鑑みなされたものであり、高い生産性を確保するとともに溶接箇所の外観品質を向上させることができる溶接方法及び溶接装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
(1)上記目的を達成するために、本発明は、溶接予定部を上に向けた状態で前記溶接予定部が水平面に対して所定角度をなすように母材を傾斜させ、前記溶接予定部に沿って該溶接予定部の上部側から下部側へ前記母材に対して溶接トーチを相対的に移動させて前記溶接予定部をパルス溶接する。
【0007】
(2)上記(1)において、好ましくは、前記溶接予定部が水平面に対してなす角度が60〜90度である。
【0008】
(3)上記(2)において、好ましくは、前記溶接予定部が水平面に対してなす角度が60〜75度である。
【0009】
(4)上記(3)において、好ましくは、溶接ビームの照射軸が、前記溶接予定部に対して直角もしくは溶接方向後退側に傾斜している。
【0010】
(5)上記(4)において、好ましくは、突合せ溶接である。
【0011】
(6)上記(5)において、好ましくは、前記母材はダンプカーの荷箱の側壁である。
【0012】
(7)上記目的を達成するために、また本発明は、溶接予定部を上に向けた状態で前記溶接予定部が水平面に対して所定角度をなすように母材を傾斜させて支持する母材支持手段と、前記溶接予定部に沿って該溶接予定部の上部側から下部側へ前記母材に対して溶接トーチを相対的に移動させて前記溶接予定部をパルス溶接するパルス溶接機とを備える。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、高い生産性を確保するとともに溶接箇所の外観品質を向上させることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
以下に図面を用いて本発明の実施の形態を説明する。
【0015】
図1は本発明の溶接方法に用いる溶接装置の一構成例の概略図、図2は図1中のII−II断面による母材の断面図である。
【0016】
図1及び図2に示すように、本実施の形態における溶接装置は、母材を支持する母材支持手段10と、母材支持手段10に支持された母材1をパルス溶接するパルス溶接機20とを備えている。
【0017】
母材支持手段10は、軸11を支点にして傾動可能なフレーム12と、フレーム12に設けたクランプ13とを備えている。母材1は、溶接予定部2(図2参照)を上に向けた状態で、クランプ13によって押さえられてフレーム12上に固定されている。この溶接予定部2が軸11と概ね直交するようにフレーム12上に母材1を固定した場合、フレーム12が軸11を中心に傾動することで、軸11の中心軸方向から見て母材1の溶接予定部2が水平面Hに対してなす角(母材傾斜角)αを所定の角度範囲(例えば0〜90度)で調整することができる。これにより、溶接予定部2を上に向けた状態で溶接予定部2が水平面Hに対して所定の母材傾斜角αをなすように母材1を傾斜させて支持することができる(図1中の点線参照)。
【0018】
なお、溶接予定部2は直線状に延びる溶接予定線であり、本例では接合する母材の突合せ部を一例として示しているが、突合せ継手に限らずT型継手等の他の形状の継手であっても溶接予定線が直線状に延びる継手であれば良い。図1及び図2に示した母材1は、ダンプカーの荷箱の側壁、例えばリアゲートであるが、母材1の用途、種類等はこれに限られない。
【0019】
パルス溶接機20は、溶接トーチ21を保持した多軸アーム22の他、図示省略しているが、溶接トーチ21に給電する溶接電源、当該溶接電源へ各指令値を出力し溶接条件(電流、電圧及び速度)を制御する溶接コントローラ、多軸アーム22の動作を制御するアームコントローラ、溶接トーチ21へワイヤを送給するワイヤ送給装置等を備えている。溶接コントローラは、直流のバックグランド電流にパルス電流を重畳させて溶滴をスプレー移行させるスプレー移行型の溶接条件を記憶しており、当該溶接条件でパルス溶接を施工する。
【0020】
多軸アーム22は、xyz軸とθ軸の4軸を有している。y軸は軸11の延伸方向、x軸はフレーム12の母材載置面Iと平行でy軸に直交する方向、z軸は母材載置面Iと直交する方向にそれぞれとった軸であり、θ軸は軸11に平行な回転中心を持つ回転系である。
【0021】
多軸アーム22は、フレーム12に対してx軸方向に移動するスライダ23、スライダ23上に立設されたポスト24、ポスト24に対してスライド可能に設けたスライドアーム25、スライドアーム25に設けた揺動アーム26、揺動アーム26の先端に取り付けた上記溶接トーチ21を有している。スライドアーム25はポスト24に沿ってz軸方向に移動し、揺動アーム26はスライドアーム25に沿ってy軸方向に移動するとともにθ軸方向に回動する。これにより、多軸アーム22は、溶接予定部2に対する溶接トーチ21の角度(ビーム角度)β(図3参照)、溶接トーチ21と溶接予定部2との距離を調節し、x軸方向に走行することで、溶接予定部2に沿って溶接トーチ21を相対的に移動させて溶接予定部2を上部側から下部側へ下り傾斜にパルス溶接することができる。
【0022】
このとき、図3に示したように、ビーム角度βは軸11に直交する面(溶接予定部2を通る鉛直面)内でフレーム12の母材載置面Iと溶接トーチ21のビーム照射軸Jとの間になされる角である。本例では、このビーム角度βを90度以下とし、溶接予定部2を通る鉛直面内でビーム照射軸Jを溶接予定部2に対して直角もしくは溶接方向後退側(ビーム照射方向と逆方向に向かって溶接方向後退側)傾斜させる。また、図2に示したように、x軸方向から見た母材1の表面に対するビーム照射軸Jの角度γは90度程度とする。
【0023】
本実施の形態では、このような溶接装置を用い、溶接予定部2を上に向けた状態で溶接予定部2が水平面に対して所定角度αをなすように母材1を傾斜させ、溶接予定部2に沿って該溶接予定部2の上部側から下部側へ母材1に対して溶接トーチ21を相対的に移動させて溶接予定部2を下進パルス溶接する。
【0024】
本実施の形態によれば、溶接予定部2を傾けて下り方向に溶接することで、溶融池の溶接方向への流動を許容するので、ビード表面がならされる。さらに、パルス溶接によりアークをスプレー状にすることで、うろこ模様の発生や溶接ビードの盛り上がりを抑制することができ、高い生産性を確保するとともに溶接箇所の外観品質をさらに向上させることができる。
【0025】
なお、本実施の形態では、図1に示したように下進溶接に対応した溶接装置を用いて溶接を施工する場合を例に挙げて説明したが、これに限られない。軸11を中心に回動するフレーム12と一体となった溶接装置でなくても、何らかの固定手段で母材1を傾斜した姿勢で保持し、溶接予定部2に合わせて溶接トーチ21の角度や移動方向を適宜調整することができれば良い。また、溶接トーチを母材に対して移動させる構成に限らず、固定した溶接トーチに対して母材を動かして溶接トーチを溶接予定部に沿って移動させる構成、或いは両者を動かして溶接トーチを溶接予定部に沿って移動させる構成としても良い。
【0026】
図4は母材傾斜角による溶接ビードの高さの変化を表している。各ケース1−5の値は各々の条件で10回施工した平均値である。
【0027】
図4に示したように、ケース1−5では、溶接電流200A、溶接電圧20V、溶接速度900mm/minを共通の溶接条件としている。この条件で母材傾斜角αを0°、45°、60°、70°、75°と変えて下進パルス溶接を施工し、その際の溶接ビードの盛り上がり(母材表面からの高さ)を計測した。溶接ビードの幅は約8mmである。
【0028】
その結果、母材傾斜角αが0°(水平)のとき1.20mmだった溶接ビードの高さが、母材傾斜角αを45°にした場合には0.73mmに減少し、60°ではさらに0.25mmまで減少した。母材傾斜角αが60〜90°の範囲では溶接ビードの高さに大きな変化は見られなかった。
【0029】
この結果から、母材傾斜角αが60〜90°程度のとき特に効果が大きいことが判った。また、90度近くまで母材1を傾斜させると、母材1が長尺物である場合は溶接施工に要する高さスペースが大きくなる、溶融池の流動が必要以上に大きくなり制御が難しくなる。これらのことを考えた場合、効果が得られる範囲で母材傾斜角αは小さい方が良い。この場合、実用上、母材傾斜角αは60〜75°程度、例えば60度程度が好ましいと考えられる。
【図面の簡単な説明】
【0030】
【図1】本発明の溶接方法に用いる溶接装置の一構成例の概略図である。
【図2】図1中のII−II断面による母材の断面図である。
【図3】溶接施工時の母材傾斜角、ビーム傾斜角の説明図である。
【図4】母材傾斜角による溶接ビードの高さの変化を表す図である。
【符号の説明】
【0031】
1 母材
2 溶接予定部
10 母材支持手段
11 軸
12 フレーム
13 クランプ
20 パルス溶接機
21 溶接トーチ
22 多軸アーム
23 スライダ
24 ポスト
25 スライドアーム
26 揺動アーム
I 母材載置面
J ビーム照射軸
α 母材傾斜角
β ビーム角度
γ 角度

【特許請求の範囲】
【請求項1】
溶接予定部を上に向けた状態で前記溶接予定部が水平面に対して所定角度をなすように母材を傾斜させ、
前記溶接予定部に沿って該溶接予定部の上部側から下部側へ前記母材に対して溶接トーチを相対的に移動させて前記溶接予定部をパルス溶接する
ことを特徴とする溶接方法。
【請求項2】
請求項1の溶接方法において、前記溶接予定部が水平面に対してなす角度が60〜90度であることを特徴とする溶接方法。
【請求項3】
請求項2の溶接方法において、前記溶接予定部が水平面に対してなす角度が60〜75度であることを特徴とする溶接方法。
【請求項4】
請求項3の溶接方法において、溶接ビームの照射軸が、前記溶接予定部に対して直角もしくは溶接方向後退側に傾斜していることを特徴とする溶接方法。
【請求項5】
請求項4の溶接方法において、突合せ溶接であることを特徴とする溶接方法。
【請求項6】
請求項5の溶接方法において、前記母材はダンプカーの荷箱の側壁であることを特徴とする溶接方法。
【請求項7】
溶接予定部を上に向けた状態で前記溶接予定部が水平面に対して所定角度をなすように母材を傾斜させて支持する母材支持手段と、
前記溶接予定部に沿って該溶接予定部の上部側から下部側へ前記母材に対して溶接トーチを相対的に移動させて前記溶接予定部をパルス溶接するパルス溶接機と
を備えたことを特徴とする溶接装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2009−233739(P2009−233739A)
【公開日】平成21年10月15日(2009.10.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−86869(P2008−86869)
【出願日】平成20年3月28日(2008.3.28)
【出願人】(000002358)新明和工業株式会社 (919)
【Fターム(参考)】