説明

溶接方法

【課題】スパッタの発生を確実に抑制できる消耗電極による溶接方法を提供すること。
【解決手段】溶接ワイヤ11の先端と溶接ワーク200、300との間にアークを生じさせ、このアークにより溶接ワイヤ11の先端を溶融して溶滴14を発生させて、この溶滴14を溶接ワーク200、300の表面の溶融池400に移行させることで、溶接ワーク200、300を溶接する溶接方法である。この溶接方法では、溶接ワイヤ11の先端側を溶接方向Wに沿って振動させて、この振動サイクル毎に、溶接ワイヤ11の先端に発生させた溶滴14を、溶接ワーク200、300の表面の溶融池400に接触させる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、溶接方法に関する。詳しくは、消耗電極を用いた溶接方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、溶接ワークを溶接する方法として、消耗電極を用いたMIG溶接がある。このMIG溶接では、消耗電極の先端と溶接ワークとの間にアークを生じさせ、このアークにより消耗電極の先端を溶融して溶滴を発生させて、この溶滴を溶接ワーク表面の溶融池に移行させる(以降、溶滴移行と呼ぶ)ことで、溶接ワークを溶接する。
【0003】
ところで、上述の溶滴移行では、いわゆるヒューズ効果が生じ、スパッタが発生する場合がある。ヒューズ効果とは、溶滴が消耗電極から離れる瞬間に、この溶滴の消耗電極に繋がっている部分が局所的に細くなり、アーク電流が集中する現象である。
【0004】
この問題点を解決するために、消耗電極に超音波振動を加えつつ溶接を行う方法が提案されている(例えば、特許文献1参照)。特許文献1に示された方法では、消耗電極に超音波振動を加えることで、消耗電極を振動させて、溶接ワーク表面に溶滴を振り落とす。このため、溶滴が局所的に細くなるのを抑制して、ヒューズ効果の影響を小さくでき、溶滴移行の際に発生するスパッタを抑制できる。
【特許文献1】特開昭62−114772号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところが、特許文献1に示された方法では、溶滴を振り落とすためには、溶滴をある程度の大きさにまで成長させる必要があり、溶滴を十分には小さくできず、スパッタの発生を十分には抑制できない場合があった。
【0006】
本発明は、スパッタの発生を確実に抑制できる消耗電極による溶接方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の溶接方法は、消耗電極の先端と溶接ワークとの間にアークを生じさせ、このアークにより消耗電極の先端を溶融して溶滴を発生させて、この溶滴を前記溶接ワーク表面の溶融池に移行させることで、溶接ワークを溶接する溶接方法であって、前記消耗電極の先端側を溶接方向に沿って振動させて、この振動サイクル毎に、前記発生させた溶滴を前記溶接ワーク表面の溶融池に接触させることを特徴とする。
【0008】
この発明によれば、消耗電極を振動させて、消耗電極に発生させた溶滴を溶融池に接触させる。このため、溶滴が大きくなる前に溶融池に接触させることで、消耗電極を単に振動させる場合と比べて、溶滴移行の際の溶滴を小さくでき、スパッタの発生を確実に抑制できる。
【0009】
また、この発明によれば、消耗電極を振動させたので、消耗電極の先端が溶融池から離れた際に、消耗電極の先端と溶接ワークとの間にアークを生じさせることで、溶融池が吹き飛ばされるのを防止して、スパッタの発生をより確実に抑制できる。
【0010】
この場合、前記消耗電極の振幅を、0.5mm以上3.0mm以下とし、前記消耗電極の振動数を、70Hz以上150Hz以下とすることが好ましい。
【0011】
この場合、前記消耗電極の振動数を、90Hz以上100Hz以下とすることがさらに好ましい。
【0012】
この場合、前記消耗電極の先端側の振動方向の前記溶接方向に対する角度を、10°以上45°以下とし、前記溶接ワークを隅肉溶接することが好ましい。
【0013】
隅肉溶接する場合、振動方向の溶接方向に対する角度が10°未満では、消耗電極が上側のワークに接近しすぎて、溶滴を切り離すのが困難となるからである。一方、振動方向の溶接方向に対する角度が45°を超えると、消耗電極に発生した溶滴が溶融池に強く接触しすぎて、溶接が安定しないからである。
【0014】
この場合、前記振動方向の前記溶接方向に対する角度を、30°とすることがさらに好ましい。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、消耗電極を振動させて、消耗電極に発生させた溶滴を溶融池に接触させる。このため、溶滴が大きくなる前に溶融池に接触させることで、消耗電極を単に振動させる場合と比べて、溶滴移行の際の溶滴を小さくでき、スパッタの発生を確実に抑制できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
以下、本発明の実施形態について図面に基づいて説明する。
図1は、本発明の溶接方法が適用された溶接装置10と、この溶接装置10で溶接される溶接ワーク200、300と、の概略構成を示す斜視図である。
【0017】
溶接ワーク200、300は、それぞれ、高張力鋼からなる板材であり、溶接ワーク200の上に溶接ワーク300が重なっている。
これら溶接ワーク200、300は、溶接装置10により、溶接ワーク300の端縁(図1中WLで示す)に沿って隅肉溶接される。
【0018】
溶接装置10は、消耗電極としての溶接ワイヤ11と、溶接ワイヤ11の先端側を所定方向に所定周期で振動させる振動手段12と、を備える。
【0019】
溶接ワイヤ11は、図示しない送給手段により、連続的に送給される。
振動手段12は、溶接ワイヤ11の先端側を、振動方向Vに沿って、振動数100Hz、振幅0.4mmで振動させる。溶接方向をWとすると、振動方向Vの溶接方向Wに対する角度は、30°である。
【0020】
溶接装置10の動作について、図2、図3、図4、図5、および図6を用いて、以下に説明する。
【0021】
送給手段により、溶接ワイヤ11を連続的に送給しつつ、振動手段12により、溶接ワイヤ11の先端側を、振動方向Vに沿って、振動数100Hz、振幅0.4mmで振動させる。溶接ワーク200、300の表面には、溶融池400と、この溶融池400が凝固したビード401と、が形成されているものとする。
【0022】
まず、溶接ワイヤ11に電流を供給して、溶接ワイヤ11の先端と溶接ワーク200、300との間にアークを発生させ、このアークにより溶接ワイヤ11の先端を溶融して溶滴14を発生させる。そして、図2に示すように、溶接ワイヤ11の先端を溶融池400側に移動させつつ、この発生した溶滴14が大きくならないうちに溶融池400に接触させる。
【0023】
次に、溶接ワイヤ11の先端を溶融池400から離れる方向に移動させる。すると、図3に示すように、溶滴14が小さいのですぐに溶融池400に移行する。このとき、図4に示すように、スパッタ15が飛び散るが、このスパッタ15は少なくなる。
【0024】
次に、図5に示すように、溶接ワイヤ11の先端を溶融池400から離れる方向にさらに移動させて、溶接ワイヤ11に電流を供給し、溶接ワイヤ11の先端と溶接ワーク200、300との間にアーク13を再び発生させる。このアーク13により溶接ワイヤ11の先端が溶融して溶滴14が発生するが、溶接ワイヤ11の先端が溶融池400の真上から退避しているので、アーク13によるスパッタ15が少なくなる。
【0025】
次に、図6に示すように、溶接ワイヤ11の先端を溶融池400側に移動させつつ、溶接ワイヤ11に電流を供給して、溶滴14を成長させる。
その後、再び図2に示す状態に戻り、以上のサイクルを繰り返す。
【0026】
本実施形態によれば、以下のような効果がある。
(1)溶接ワイヤ11を振動させて、溶接ワイヤ11の先端に発生させた溶滴14を溶融池400に接触させる。このため、溶滴14が大きくなる前に溶融池400に接触させることで、溶接ワイヤ11を単に振動させる場合と比べて、溶滴移行の際の溶滴14を小さくでき、スパッタ15の発生を確実に抑制できる。
【0027】
(2)溶接ワイヤ11の先端を溶融池400から離れる方向に移動させて、溶接ワイヤ11の先端と溶接ワーク200、300との間にアーク13を発生させる。このため、溶接ワイヤ11の先端が溶融池400の真上から退避しているので、アーク13により溶融池400が吹き飛ばされるのを防止して、スパッタ15の発生をより確実に抑制できる。
【0028】
(3)振動方向Vの溶接方向Wに対する角度を30°として、溶接ワーク200、300を隅肉溶接する。このため、溶接ワイヤ11が溶接ワーク300に接近しすぎるのを防止して、溶滴14を溶接ワイヤ11から切り離すのが困難となるのを防止できる。また、溶接ワイヤ11の先端に発生した溶滴14が溶融池400に強く接触しすぎるのを防止して、溶接を安定させることができる。
【0029】
なお、本発明は、上述の実施形態に限定されるものではなく、本発明の目的を達成できる範囲での変形、改良等は、本発明に含まれるものである。
例えば、本発明は、MIG溶接に限らず、消耗電極を用いたその他の溶接方法にも有効である。
【図面の簡単な説明】
【0030】
【図1】本発明の溶接方法が適用された溶接装置と、この溶接装置で溶接される溶接ワークと、の概略構成を示す斜視図である。
【図2】溶接装置の動作を説明するための図である。
【図3】溶接装置の動作を説明するための図である。
【図4】溶接装置の動作を説明するための図である。
【図5】溶接装置の動作を説明するための図である。
【図6】溶接装置の動作を説明するための図である。
【符号の説明】
【0031】
10…溶接装置
11…溶接ワイヤ
12…振動手段
13…アーク
14…溶滴
15…スパッタ
200、300…溶接ワーク
400…溶融池
401…ビード

【特許請求の範囲】
【請求項1】
消耗電極の先端と溶接ワークとの間にアークを生じさせ、このアークにより消耗電極の先端を溶融して溶滴を発生させて、この溶滴を前記溶接ワーク表面の溶融池に移行させることで、溶接ワークを溶接する溶接方法であって、
前記消耗電極の先端側を溶接方向に沿って振動させて、この振動サイクル毎に、前記発生させた溶滴を前記溶接ワーク表面の溶融池に接触させることを特徴とする溶接方法。
【請求項2】
請求項1に記載の溶接方法において、
前記消耗電極の振幅を、0.5mm以上3.0mm以下とし、
前記消耗電極の振動数を、70Hz以上150Hz以下とすることを特徴とする溶接方法。
【請求項3】
請求項2に記載の溶接方法において、
前記消耗電極の振動数を、90Hz以上100Hz以下とすることを特徴とする溶接方法。
【請求項4】
請求項1から3のいずれかに記載の溶接方法において、
前記消耗電極の先端側の振動方向の前記溶接方向に対する角度を、10°以上45°以下とし、前記溶接ワークを隅肉溶接することを特徴とする溶接方法。
【請求項5】
請求項4に記載の溶接方法において、
前記振動方向の前記溶接方向に対する角度を、30°とすることを特徴とする溶接方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2008−229664(P2008−229664A)
【公開日】平成20年10月2日(2008.10.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−73178(P2007−73178)
【出願日】平成19年3月20日(2007.3.20)
【出願人】(000005326)本田技研工業株式会社 (23,863)
【Fターム(参考)】