説明

溶接用トーチ

【課題】溶接用トーチにおいて、ケーブルに要求される一般的な性能として、耐久性、耐熱性、柔軟性、耐屈曲性等が挙げられる。特にアルミニウムの溶接においては、ブローホールが発生する等、溶接欠陥を招く恐れがあるため、水分が溶接部に入ることを嫌い、ケーブルに対して耐吸水性も要求される。しかし、上記要求性能をすべて満足させたケーブルを製作することは非常に困難であり、いずれかの性能、特に耐吸水性を犠牲にしたケーブルが用いられており、ケーブル内で水分の発生を抑制することが困難であった。
【解決手段】溶接用トーチのケーブルを多層構造とし、ケーブルの最内層を耐吸水性の材質とすることにより、ケーブルの柔軟性、耐屈曲性等を損なうことなく、ケーブル内で水分が発生することを抑制し、アルミニウムの溶接等においても安定した品質で溶接ができる溶接用トーチを提供する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、操作者が手で持って使用する溶接用トーチや産業用ロボット等に取り付けられて使用される溶接用トーチに関するものである。
【背景技術】
【0002】
例えば図3(a)に示すように、従来の溶接用トーチ101としては、トーチボディ部102と、トーチボディ部102と接続されるノズル部103と、トーチボディ部102に接続されており少なくともガスや電力を供給するためのケーブル104と、トーチボディ部102とケーブル104との接続部の外側に設けられており操作者が片手で握って保持できるハンドル部105とを備えているものが知られている(例えば、特許文献1参照)。
【0003】
なお、ケーブル104の構造としては、例えば図3(a)のケーブル104のC−C断面を示す図3(b)に示すように、ブレード106を挟んで内層、外層ともに同材質の樹脂エラストマー107で構成され、内部に給電線108が配されているのが一般的である。なお、ブレード106は、ガスの圧力が上昇した場合の樹脂エラストマー107の膨らみを防止するための網目状の部材である。
【特許文献1】特開平6−47549号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
溶接用トーチ101において、ケーブル104に要求される一般的な性能としては、耐久性、耐熱性、柔軟性、耐屈曲性等が挙げられる。また、アルミニウムの溶接においては特に、ブローホールが発生する等の溶接欠陥を招く恐れがあるため、水分が溶接部に入ることを嫌う。そのため、ケーブル104に対しては耐吸水性も要求される。
【0005】
しかしながら、内層と外層に同じ材質を用いる従来のケーブルにおいて、上記要求性能をすべて満足させたケーブル104を製作することは非常に困難であり、いずれかの性能、特に耐吸水性を犠牲にしたケーブル104が用いられてきた。
【0006】
本発明は、ケーブルの柔軟性や耐屈曲性等を損なうことなく、ケーブル内で水分(結露等)が発生することを抑制し、例えばアルミニウムの溶接においても安定した品質で溶接を行うことができる溶接用トーチを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するために、本発明の溶接用トーチは、トーチボディと、前記トーチボディと接続されるノズルと、前記トーチボディに接続され少なくともガスを供給するためのケーブルとを備え、前記ケーブルは少なくとも最内層と最外層から成る多層構造であり、前記最内層は前記最外層よりも耐吸水性の優れた材料からなり、前記最外層は前記最内層よりも耐熱性の優れた材料からなるものである。
【0008】
また、本発明の溶接用トーチは、上記に加えて、ケーブルの最内層はスチレン系エラストマーとオレフィン系エラストマーを含み、前記ケーブルの最外層はスチレン系エラストマーまたはオレフィン系エラストマーを含むものである。
【0009】
また、本発明の溶接用トーチは、トーチボディと、前記トーチボディと接続されるノズルと、前記トーチボディに接続され少なくともガスを供給するためのケーブルとを備え、前記ケーブルは少なくとも最内層と前記最内層の外側に位置した第2の層と最外層から成る多層構造であり、前記最内層は前記第2の層よりも耐吸水性の優れた材料からなり、前記第2の層は前記最内層よりも耐熱性の優れた材料からなり、前記最外層と前記第2の層との間に給電線を備えたものである。
【0010】
また、本発明の溶接用トーチは、上記に加えて、ケーブルの最内層はスチレン系エラストマーとオレフィン系エラストマーを含み、前記ケーブルの第2の層はスチレン系エラストマーまたはオレフィン系エラストマーを含むものである。
【0011】
また、本発明の溶接用トーチは、上記に加えて、最外層は合成ゴムからなるものである。
【発明の効果】
【0012】
以上のように、本発明は、ケーブル内で水分(結露等)が発生することを抑制し、例えばアルミニウムの溶接においても安定した品質で溶接を行うことができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
以下、本発明を実施するための最良の形態について、図1と図2を用いて説明する。
【0014】
(実施の形態1)
図1は本実施の形態における溶接用トーチを示すものである。図1(a)は溶接用トーチ1の概略構成を示す図であり、図1(b)は図1(a)に示す溶接用トーチ1のケーブル4の断面の概略構成を示す図である。なお、図1(a)は非消耗電極を用いる溶接用トーチの例を示している。
【0015】
図1(a)において、溶接用トーチ1は、トーチボディ部2と、トーチボディ部2と接続されるノズル部3と、トーチボディ部2に接続され少なくともシールドガスや電力を供給するためのケーブル4と、トーチボディ部2とケーブル4との接続部分の外側に設けられ操作者が片手で握って溶接用トーチ1を保持するためのハンドル部5とを有している。
【0016】
また、図1(b)は、図1(a)に示すケーブル4のA−A断面を示している。図1(b)に示すように、ケーブル4は多層構造であり、ブレード6を境に最内層である内層樹脂エラストマー7と、最外層である外層樹脂エラストマー8に分かれている。なお、ブレード6は、ガスの圧力が上昇した場合の内層樹脂エラストマー7の膨らみを防止するための網目状の部材である。また、ケーブル4の中心部分には給電線9が配される構成となっている。また、内層樹脂エラストマー7の内側を、図示しないシールドガスが通るものである。
【0017】
そして、最内層である内層樹脂エラストマー7は、耐吸水性の材料からなり、最外層である外層樹脂エラストマー8よりも耐吸水性が優れたものである。また、最外層である外層樹脂エラストマー8は、高耐熱性の材料からなり、最内層である内層樹脂エラストマー7よりも耐熱性が優れたものである。そして、内層樹脂エラストマー7や外層樹脂エラストマー8はチューブ状の形状を有している。
【0018】
なお、最内層と最外層の耐熱性に関しては、例えば、最内層の耐熱温度は90℃以上であり、最外層の耐熱温度は200℃以上である。
【0019】
また、最内層と最外層の耐吸水性に関しては、例えば、露点温度測定でガス供給源内露点温度が−75℃であった場合において、最内層の露点温度が−70℃以下であり、最外層の露点温度が−50℃以下である。
【0020】
このような構成とすることで、各構成部材を結合して溶接用トーチ1を構成した際に、ケーブル4の耐久性、耐熱性、柔軟性、耐屈曲性等を損なうことなく、ケーブル4内で水分(結露等)が発生することを抑制することができる。
【0021】
より詳しくは、内層樹脂エラストマー7が耐吸水性の材料からなるので、ケーブル4の外部からケーブル4の内部へ、すなわち内層樹脂エラストマー7の内側への水分の移動が抑制され、その結果、ケーブル4の内外での温度差等による内層樹脂エラストマー7の内側での結露の発生が抑制される。
【0022】
従って、図示しないガスボンベ等から溶接用トーチ1へ供給される図示しないシールドガスに水分が含まれることを抑制でき、溶接部分におけるブローホールの発生を抑制した溶接を実現することができる。特にアルミニウムの溶接において安定した品質で溶接を行うことができる。
【0023】
なお、内層樹脂エラストマー7としては、スチレン系エラストマーとオレフィン系エラストマーを含むものを用いることが望ましく、外層樹脂エラストマー8としては、スチレン系エラストマーまたはオレフィン系エラストマーを含むものを用いることが望ましい。
【0024】
なお、本実施の形態では、操作者が手で持って使用する溶接用トーチの例について説明したが、これに限るものではなく、例えばハンドル部5を他の機器に取り付け可能な構成とし、産業用ロボット等に取り付けて溶接を行う溶接用トーチとして使用してもよい。
【0025】
(実施の形態2)
図2は本実施の形態における溶接用トーチを示す図である。図2(a)は溶接用トーチ10の概略構成を示す図であり、図2(b)は溶接用トーチ10のケーブル13の断面の概略構成を示す図である。なお、図2(a)は消耗電極を用いる溶接用トーチの例を示している。実施の形態1と異なる主な点は、ケーブル13の構造である。
【0026】
図2(a)において、溶接用トーチ10は、トーチボディ部11と、トーチボディ部11と接続されるノズル部12と、トーチボディ部11に接続され少なくともガスや電力を供給するためのケーブル13と、トーチボディ部11とケーブル13との接続部分の外側に設けられ操作者が手で持って溶接用トーチ10を保持するためのハンドル部14とを有している。
【0027】
また、図2(b)は、図2(a)に示すケーブル13のB−B断面を示している。図2(b)に示すように、ケーブル13は多層構造であり、最も内側に最内層としての内層樹脂エラストマー16が設けられており、内層樹脂エラストマー16の外側にブレード15が設けられおり、ブレード15の外側に第2の層として外層樹脂エラストマー17が設けられており、さらに、最外層として外層合成ゴム18が設けられている。また、外層樹脂エラストマー17と外層合成ゴム18との間には、給電線19と絶縁テープ20が設けられている。なお、内層樹脂エラストマー16の内側を図示しないシールドガスと図示しない溶接用ワイヤが通り、これらが溶接用トーチ10に供給されるものである。
【0028】
そして、最内層である内層樹脂エラストマー16は耐吸水性の材料からなり、第2の層である外層樹脂エラストマー17よりも耐吸水性が優れたものである。また、第2の層である外層樹脂エラストマー17は、高耐熱性の材料からなり、最内層である内層樹脂エラストマー16よりも耐熱性が優れたものである。そして、内層樹脂エラストマー16や外層樹脂エラストマー17や外層合成ゴム18は、チューブ状の形状を有している。
【0029】
なお、最内層と第2の層の耐熱性に関しては、例えば、最内層の耐熱温度は90℃以上であり、第2の層の耐熱温度は200℃以上である。
【0030】
また、最内層と第2の層の耐吸水性に関しては、例えば、露点温度測定でガス供給源内露点温度が−75℃であった場合において、最内層の露点温度が−70℃以下であり、第2の層の露点温度が−50℃以下である。
【0031】
このような構成とすることで、各構成部材を結合して溶接用トーチ10を構成した際に、ケーブル13の耐久性、耐熱性、柔軟性、耐屈曲性等を損なうことなく、ケーブル13内で水分(結露等)が発生することを抑制することができる。
【0032】
より詳しくは、内層樹脂エラストマー16が耐吸水性の材料からなるので、ケーブル13の外部からケーブル13の内部へ、すなわち内層樹脂エラストマー16の内側への水分の移動が抑制され、その結果、ケーブル13の内外での温度差等による内層樹脂エラストマー16の内側での結露の発生が抑制される。
【0033】
従って、図示しないガスボンベ等から溶接用トーチ10へ供給される図示しないシールドガスに水分が含まれることが抑制され、溶接部分におけるブローホールの発生を抑制した溶接を実現することができる。特にアルミニウムの溶接において安定した品質で溶接を行うことができる。
【0034】
なお、内層樹脂エラストマー16としては、スチレン系エラストマーとオレフィン系エラストマーを含むものを用いることが望ましく、外層樹脂エラストマー17としては、スチレン系エラストマーまたはオレフィン系エラストマーを含むものを用いることが望ましい。また、外層合成ゴム18としては、クロロプレンゴム等を用いることが望ましい。
【0035】
なお、本実施の形態では、操作者が手で持って使用する溶接用トーチの例について説明したが、これに限るものではなく、例えばハンドル部14を他の機器に取り付け可能な構成とし、産業用ロボット等に取り付けて溶接を行う溶接用トーチとして使用してもよい。
【産業上の利用可能性】
【0036】
本発明の溶接用トーチは、各構成部材を結合して溶接用トーチを構成した際に、ケーブルの耐久性、耐熱性、柔軟性、耐キンクを損なうことなく、かつケーブル内で水分が発生することもなく、特にアルミニウムの溶接を行う際に用いる溶接用トーチとして産業上有用である。
【図面の簡単な説明】
【0037】
【図1】(a)本発明の実施の形態1における溶接用トーチの概略構成を示す図(b)本発明の実施の形態1における溶接用トーチのケーブル断面を示す図
【図2】(a)本発明の実施の形態2における溶接用トーチの概略構成を示す図(b)本発明の実施の形態2における溶接用トーチのケーブル断面を示す図
【図3】(a)従来の溶接用トーチの概略構成を示す図(b)従来の溶接用トーチのケーブル断面を示す図
【符号の説明】
【0038】
1 溶接用トーチ
2 トーチボディ部
3 ノズル部
4 ケーブル
5 ハンドル部
6 ブレード
7 内層樹脂エラストマー
8 外層樹脂エラストマー
9 給電線
10 溶接用トーチ
11 トーチボディ部
12 ノズル部
13 ケーブル
14 ハンドル部
15 ブレード
16 内層樹脂エラストマー
17 外層樹脂エラストマー
18 外層合成ゴム
19 給電線
20 絶縁テープ
101 溶接用トーチ
102 トーチボディ部
103 ノズル部
104 ケーブル
105 ハンドル部
106 ブレード
107 樹脂エラストマー
108 給電線

【特許請求の範囲】
【請求項1】
トーチボディと、前記トーチボディと接続されるノズルと、前記トーチボディに接続され少なくともガスを供給するためのケーブルとを備え、
前記ケーブルは少なくとも最内層と最外層から成る多層構造であり、前記最内層は前記最外層よりも耐吸水性の優れた材料からなり、前記最外層は前記最内層よりも耐熱性の優れた材料からなる溶接用トーチ。
【請求項2】
ケーブルの最内層はスチレン系エラストマーとオレフィン系エラストマーを含み、前記ケーブルの最外層はスチレン系エラストマーまたはオレフィン系エラストマーを含む請求項1記載の溶接用トーチ。
【請求項3】
トーチボディと、前記トーチボディと接続されるノズルと、前記トーチボディに接続され少なくともガスを供給するためのケーブルとを備え、
前記ケーブルは少なくとも最内層と前記最内層の外側に位置した第2の層と最外層から成る多層構造であり、
前記最内層は前記第2の層よりも耐吸水性の優れた材料からなり、
前記第2の層は前記最内層よりも耐熱性の優れた材料からなり、
前記最外層と前記第2の層との間に給電線を備えた溶接用トーチ。
【請求項4】
ケーブルの最内層はスチレン系エラストマーとオレフィン系エラストマーを含み、前記ケーブルの第2の層はスチレン系エラストマーまたはオレフィン系エラストマーを含む請求項3記載の溶接用トーチ。
【請求項5】
最外層は合成ゴムからなる請求項3または4記載の溶接用トーチ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2010−167442(P2010−167442A)
【公開日】平成22年8月5日(2010.8.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−11536(P2009−11536)
【出願日】平成21年1月22日(2009.1.22)
【出願人】(000005821)パナソニック株式会社 (73,050)
【Fターム(参考)】