説明

溶接装置及びそれを用いた三次元溶接装置

【課題】熟練した技術を必要とせずに、金型に熱的悪影響を一切与えることなく、金型の極微細な傷や極僅かな変形を補修し、補修後の金型に高い耐久性を付与し得る手段を提供すること。
【解決手段】金属からなる母材32の溶接箇所の近傍に配設される1次電極15と、母材32に電気的に接続される2次電極16と、1次電極15と2次電極16との間にパルス状に電流を通電して1次電極15と母材32との間に断続的にアークを発生させる電源装置と、アークの発生による熱で溶融した母材32の中へアークが消える前に金属からなる溶加材25を差し込む溶加材送給装置14と、を具備する三次元溶接装置1の提供による。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、金属からなる母材に金属からなる溶加材を溶融接合する溶接装置と、立体的な母材の三次元位置に対して連続的に自動で溶接することが出来る三次元溶接装置に関する。
【背景技術】
【0002】
工業製品を大量生産する場合、精密な金型は不可欠で重要なものである。特に、近年の電子電気製品では、そのデザインとともに形態の微妙な仕上がりが評価の決め手となる場合があり、金型に対する要求は高まってきている。そのため、価格も高くなり、金型によっては、数億円のオーダーになる場合がある。
【0003】
このような金型は、多くの場合、高温の成形材料を受け入れ、冷却によって成形する、という温度変化の激しい成形工程で、繰り返し使用される。従って、その繰り返しの使用によって、成形材料が入り込んでパーティングラインに凹みが生じたり、キャビティに、カジリ、摩耗、ピンホール等の傷が生じたり、ダレや潰れ等の変形が生じる場合がある。このような金型に問題が僅かでも発生した場合には、得られる製品が形態の仕上がりの劣るものとなるため、それを使用して成形を続けることは出来ない。特に、形態の仕上がりに僅かな狂いも許されない携帯電話等の携帯電子機器の部品用の金型では、極微細な傷等の存在が、製品の歩留まりを大きく低下させるおそれがあるため、極微細な傷や極僅かな変形も存在しない金型を常に使用する必要がある。一方、上記の価格より、経済的に、金型を使い捨てにすることは出来ないため、定期的に補修が行われることになる。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところが、このような極微細な傷や極僅かな変形も許されない金型を補修するための適切な手段は存在していない、というのが現状である。従来、金型の補修手段として知られる一般的なTIG(タングステンイナートガス)溶接は、不活性ガス雰囲気中で、アークにより溶加材(溶接棒)を連続的に溶かして金型の補修箇所に形成した溶融池へ肉盛り溶接を施し凝固後に余肉を削除し研磨して仕上げる、という方法であるが、熟練した技術を必要とする上に、6000〜8000℃という高温のアーク熱を連続的に発生させて溶加材を溶かすため、金型に、ひけ、変形、変色等の熱的悪影響を及ぼし易く、補修したつもりがかえって悪化させることにもなり、極微細な傷等の補修には適用することは不可能である。
【0005】
又、銀ろう付け、メッキ肉盛り、及びたたき出し等の金型補修手段も知られているが、これらの方法は、同じく熟練した技術を必要とする上に、補修後の耐久性に劣るため、補修頻度が多くなって、成形する製品の生産性低下を招来することから、電子電気機器の部品用の金型を補修する手段として、適切ではない。
【0006】
本発明は、上記した事情に鑑みてなされたものであり、その目的とするところは、熟練した技術を必要とせずに、金型に熱的悪影響を一切与えることなく、金型の極微細な傷や極僅かな変形を補修し、補修後の金型に高い耐久性を付与し得る手段を提供することにある。検討が重ねられた結果、以下に示す手段により、上記目的を達成出来ることが見出された。
【課題を解決するための手段】
【0007】
即ち、先ず、本発明によれば、金属からなる母材の溶接箇所の近傍に配設される1次電極と、母材に電気的に接続される2次電極と、1次電極と2次電極との間にパルス状に電流を通電して1次電極と母材との間に断続的にアークを発生させる電源装置と、アークの発生による熱で溶融した母材の中へアークが消える前に金属からなる溶加材を差し込む溶加材送給手段と、を具備する溶接装置が提供される。
【0008】
換言すれば、本発明に係る溶接装置は、極短い時間だけアークを発生させ、そのアークが発生している間に、アークの発生に僅かに遅れて、アークの熱で溶融した母材の溶融池の中(即ち、母材に生じたアークプールの中へ)、素早く、一定量の溶加材を差し込み、母材の所定位置を、溶加材で、スポットで溶接する工程を実現する装置である。母材の金属としては、鉄、アルミニウム、銅等が例示されるが、限定されない。又、溶加材の金属は、通常は母材と同じ材料が選定され、鉄、アルミニウム、銅等が例示されるが、異なるものでもよく、これも限定されるものではない。本発明に係る溶接装置は、溶接対象である母材が、電子電気機器の部品用の金型をはじめ、各種の金型である場合に、好適に使用される。
【0009】
本発明に係る溶接装置においては、電流が、1〜300アンペア(A)であることが好ましい。この電流の大きさは、溶接対象となる母材の状態によって決まるが、電子電気機器の部材を成形する金型を補修する場合には、より好ましくは1〜200Aであり、特に好ましくは1〜100Aである。
【0010】
又、電流を通電する時間が、1/1000〜1秒(1〜1000msec.)であることが好ましい。電流を通電する時間は、アークを発生させる時間にあたり、この時間は、溶接対象となる母材の状態によって決まるが、電子電気機器の部材を成形する金型を補修する場合には、より好ましくは1〜500msec.であり、特に好ましくは1〜300msec.である。
【0011】
更に、金属からなる溶加材が、直線ワイヤー状を呈し、その太さが、0.1〜1.0mmφであることが好ましい。溶加材が、直線状ではない場合には、溶加材が溶融池の中へ一定して入らないので好ましくない。この直線ワイヤー状の溶加材の太さは、溶接対象となる母材の状態によって決まるが、電子電気機器の部材を成形する金型を補修する場合には、より好ましくは0.1〜0.6mmφであり、特に好ましくは0.1〜0.3mmφである。
【0012】
加えて、1次電極が、非消耗電極であることが好ましい。非消耗電極としては、例えば、タングステン電極が挙げられる。
【0013】
本発明に係る溶接装置においては、母材の溶接箇所の近傍の空間をシールするためにその空間へ不活性ガスを供給するシールドガス供給手段を、更に具備することが好ましい。不活性ガスとしては、アルゴンガス又はヘリウムガスが好適に採用される。
【0014】
次に、本発明によれば、上記した何れかの溶接装置と、母材に対する1次電極及び溶加材送給手段の相対的な位置を、三次元で任意の位置に自在に決定し得る三次元位置決め手段と、を具備する三次元溶接装置が提供される。1次電極及び溶加材送給手段によって、母材が溶加材と溶融接合されるから、母材に対する1次電極及び溶加材送給手段の相対的な位置とは、即ち、母材の溶接位置を指す。相対的な位置であるから、母材を、例えば、ステージに載せて、そのステージを移動させることによって、溶接位置の位置決めをしてもよいが、1次電極及び溶加材送給手段の方を移動させて、溶接位置の位置決めすることが好ましい。
【0015】
本発明に係る三次元溶接装置においては、三次元位置決め手段が、X軸、Y軸、及びZ軸からなる三次元座標軸上におけるそれぞれの位置決めを担う、3つの直線運動案内機器(LMガイド)で構成されることが好ましい。1次電極及び溶加材送給手段の方を移動させて母材に対し相対的に位置決めする場合(換言すれば、溶接位置を決める場合)には、例えば、1次電極及び溶加材送給手段を所定の保持板に保持させ、その保持板を3つの直線運動案内機器で移動させることによって、溶接位置を決めればよい。
【0016】
又、本発明に係る三次元溶接装置は、制御手段を、更に具備し、その制御手段が、母材に対する1次電極及び溶加材送給手段の位置の範囲(即ち、溶接(位置)の範囲)を、X軸、Y軸、及びZ軸の位置の範囲として、予め入力するとともに、断続的にアークを発生させるための電流を通電する時間を、予め入力し、三次元位置決め手段に指令を出して、入力された母材に対する1次電極及び溶加材送給手段の位置の範囲に従って、パルス状の電流の通電と通電の間の非通電のときであってアークが消えている間に、母材に対する1次電極及び溶加材送給手段の位置(即ち、溶接位置)を断続的に移動させるとともに、各位置において、電源装置に指令を出して、入力された電流を通電する時間に従って1次電極と2次電極との間にパルス状に電流を通電させ、1次電極と母材との間に断続的にアークを発生させ、且つ、溶加材送給手段に指令を出して、アークの発生による熱で溶融した母材の中へアークが消える前に金属からなる溶加材を差し込ませる工程を、繰り返し行い、母材の三次元の所定の範囲に、自動で、溶加材を溶融接合し得るものであることが好ましい。制御手段は、汎用のシーケンサや産業用コンピュータを利用してもよく、あるいは専用機として構築してもよい。
【0017】
次に、本発明によれば、金属からなる母材の近傍に配設された非消耗の1次電極と、母材に電気的に接続された2次電極と、の間に、通電の時間が1/1000〜1秒になるように、パルス状に1〜300アンペアの電流を通電して、1次電極と母材との間に断続的にアークを発生させるとともに、アークの発生による熱で溶融した母材の中へアークが消える前に、太さが0.1〜1.0mmφの直線ワイヤー状の金属からなる溶加材を差し込む工程を行い、母材の所定位置に溶加材を溶融接合する溶接方法が提供される。
【0018】
本発明に係る溶接方法においては、パルス状の電流の通電と通電の間の非通電のときであってアークが消えている間に、母材に対する1次電極の位置を動かして繰り返し上記工程を行い、母材の所定範囲に連続的に溶加材を溶融接合することが好ましい。
【発明の効果】
【0019】
本発明に係る溶接装置は、1次電極と2次電極との間にパルス状に電流を通電して1次電極と母材との間に断続的にアークを発生させる電源装置と、アークの発生による熱で溶融した母材の中へアークが消える前に金属からなる溶加材を差し込む溶加材送給手段と、を具備する装置であり、アークを連続して発生させずに溶接を行う。又、好ましい態様では溶接時の電流が1〜300アンペアであり、アーク熱は3000℃程度である。所定の溶接箇所を溶接する際に、熱は極短い時間にのみ発生し、温度は直ぐに低下するので、特段の熟練した技術を要さずとも、母材にひけ、変形、変色等の熱的悪影響を及ぼすことなく、溶接を行うことが可能である。
【0020】
本発明に係る溶接装置は、母材に溶加材を溶融接合する装置であるので、金型の極微細な傷や極僅かな変形を補修する場合に、補修後の金型に優れた耐久性を付与し得る装置である。即ち、本発明に係る溶接装置を使用して金型を補修すれば、高価な金型の寿命を延ばして使用することが可能であり、且つ金型の補修頻度を抑制することが出来、成形する製品の生産性低下を防止することが可能である。
【0021】
上記溶接装置を用いた本発明に係る三次元溶接装置は、母材に対する1次電極及び溶加材送給手段の相対的な位置(溶接位置)を、三次元で任意の位置に自在に決定し得る三次元位置決め手段を具備し、その好ましい態様においては、制御手段を具備し、母材の三次元の所定の範囲に対し、自動で、溶加材を溶融接合し得るものである。従って、本発明に係る三次元溶接装置を利用すれば、熟練した技術を必要とすることなく、何人も容易に、立体的な母材に、ひけ、変形、変色等の熱的悪影響を及ぼさせることなく、母材の三次元位置に、溶接を行うことが可能である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0022】
以下、本発明について、適宜、図面を参酌しながら、実施の形態を説明するが、本発明はこれらに限定されて解釈されるべきものではない。本発明の要旨を損なわない範囲で、当業者の知識に基づいて、種々の変更、修正、改良、置換を加え得るものである。例えば、図面は、好適な本発明の実施の形態を表すものであるが、本発明は図面に表される態様や図面に示される情報により制限されない。本発明を実施し又は検証する上では、本明細書中に記述されたものと同様の手段若しくは均等な手段が適用され得るが、好適な手段は、以下に記述される手段である。
【0023】
図1〜図3は、本発明に係る三次元溶接装置の一の実施形態を示す図であり、図1は制御手段を含む全体構成を示すブロック図であり、図2は正面図であり、図3は上面図である。尚、本発明に係る三次元溶接装置は本発明に係る溶接装置を含むので、以下の本発明に係る三次元溶接装置の説明を通じて、本発明に係る溶接装置について説明する。
【0024】
図1〜図3に示される三次元溶接装置1は、溶接装置本体部10、三次元位置決め装置20、制御装置2、及びシールドガス供給装置31で構成される。溶接装置本体部10は本発明に係る溶接装置に相当する部分であり、三次元位置決め装置20は三次元位置決め手段に相当する部分であり、シールドガス供給装置31はシールドガス供給手段に相当する部分である。又、制御装置2は、入力装置21を備えるとともに、制御手段の機能を含み、全体的な制御を行う装置である。
【0025】
溶接装置本体部10は、金属からなる母材32の溶接箇所の近傍に配設される1次電極15と、ステージ24に載置されたその母材32に電気的に接続される2次電極16と、1次電極15と2次電極16との間にパルス状に電流を通電して、1次電極15と母材32との間に断続的にアークを発生させる電源装置17と、アークの発生による熱で溶融した母材32の中へアークが消える前に金属からなる直線ワイヤー状の溶加材25を差し込む溶加材送給装置14と、を具備する。溶加材送給装置14は溶加材送給手段に相当する装置である。
【0026】
1次電極15は、融点が高く溶融し難い非消耗の電極であり、例えば、1次電極15としてタングステン電極が採用される。又、母材32の溶接箇所の近傍の空間は、溶接時には、図2には示されないシールドガス供給装置31によって、例えばアルゴンガスが供給されてシールされ、高温になった1次電極15と溶融した母材32が、大気中の窒素や酸素等と反応したり混入したりするのを防止する。
【0027】
三次元位置決め装置20は、X軸、Y軸、及びZ軸からなる三次元座標軸上におけるそれぞれの位置決めを担う、X軸位置決め機11、Y軸位置決め機12、及びZ軸位置決め機13で構成される。そして、X軸位置決め機11、Y軸位置決め機12、及びZ軸位置決め機13は、それぞれがLMガイドで構成される。
【0028】
三次元溶接装置1では、スタンド26(図3を参照、図2では省略)にZ軸位置決め機13が取り付けられ、そのZ軸位置決め機13にY軸位置決め機12が取り付けられ、更にY軸位置決め機12にX軸位置決め機11が取り付けられ、そのX軸位置決め機11に保持板22が固定されている。そして、1次電極15は、ホルダ23によって保持板22に固定されており、溶加材送給装置14も保持板22に固定されている。従って、三次元位置決め装置20によって、保持板22を任意の位置に位置決めすることが可能な構成になっており、三次元位置決め装置20で保持板22の位置を決めることによって、1次電極15及び溶加材送給装置14の位置を決めることが出来る。即ち、三次元位置決め装置20によって、溶接を行う1次電極15及び溶加材送給装置14を移動させ、母材32に対する所望の場所に位置決めすることが可能であり、これによって母材32の三次元の溶接範囲(立体的な溶接範囲)を、自在に決定することが可能である。
【0029】
次に、本発明に係る溶接方法について、上記した三次元溶接装置1を用いて、母材32の立体的な位置に溶接する場合を例にとって、説明する。図4は、溶接工程を示すタイムチャートである。溶接を行う前に、先ず、準備を行う。この準備は、以下の(1)〜(4)で構成される。
【0030】
(1)母材32をステージ24の所定の位置に載置し、例えば微細な傷の補修をするために、母材32に対し溶接する範囲を、入力装置21を用いて制御装置2に予め入力する。これは、具体的には、溶接を行う1次電極15及び溶加材送給装置14の位置の範囲を、X軸、Y軸、及びZ軸の各位置の範囲として入力することにより、行われる。例えば、図2の母材32に示されるように、X軸方向の中心にあたるA点から上面の角のB点を介して下面のC点まで溶接する場合には、溶接開始位置のA点、通過点のB点、終了点のC点の、それぞれのX軸、Y軸、及びZ軸上の位置を制御装置2に入力する。
【0031】
(2)断続的にアークを発生させるためにパルス状に電流を通電する時間T1(図4を参照)を、制御装置2に予め入力する。通電する時間T1は、母材32の溶接対象位置の状況によって、1/1000〜1秒の範囲で設定する。
【0032】
(3)電源装置17において、電流の大きさを設定する。電流は、母材32の溶接対象位置の状況によって、1〜300アンペアの範囲で設定する。
【0033】
(4)直線ワイヤー状の金属からなる溶加材25を溶加材送給装置14にセットする。溶加材25の材料(金属の種類)は、母材32の材料に基づいて選択する。ワイヤーの太さは、母材32の溶接対象位置の状況によって、0.1〜1.0mmφの範囲で選択する。
【0034】
上記準備を終えたら、制御装置2に備わる溶接開始ボタンを押して、溶接を開始させる。溶接が開始されると、制御装置2は、先ず、シールドガス(不活性ガス)を供給するように、シールドガス供給装置31へ指令を出す。指令を受けたシールドガス供給装置31は、例えば、シールドガスとしてアルゴンガスを、母材32の溶接箇所の近傍の空間に供給し、この空間をシールする(図4を参照)。
【0035】
次に、制御装置2は、予め入力された時間T1に従って、1次電極と2次電極との間にパルス状に電流を通電させるように、電源装置17に指令を出す(図4を参照)。通電によって、1次電極15と母材32との間にはアークが発生し、アークの発生による熱で母材32は部分的に溶融し、母材32にはアークプール(溶融した部分、溶融池)が生じる。そこで、制御装置2は、通電の指令に対し時間T2だけ遅らせて、溶加材送給装置14に指令を出し、アークプールの中へアークが消える前に溶加材25を送給し差し込ませ、母材32と溶融させる(図4を参照)。差し込む溶加材25の量は、0.1〜10mm程度である。アークが消えることにより母材32は空気で冷却され、母材32と溶加材25は完全に接合し、溶接部分は肉盛り状になる。
【0036】
次に、制御装置2は、三次元位置決め装置20に指令を出し、予め入力された母材32に対する溶接範囲(1次電極15及び溶加材送給装置14の位置の範囲)に従って、パルス状の電流の通電と通電の間の非通電のときであってアークが消えている間に、1次電極15及び溶加材送給装置14を、次の溶接位置に移動させる(図4を参照、溶接位置(1))。尚、1次電極15及び溶加材送給装置14の移動を、溶加材の送給と同時に行い、アークが発生しているときに、溶接位置を移動させてもよい(図4を参照、溶接位置(2))。
【0037】
溶接位置を移動したら、シールドガスの供給を継続したまま、最初の溶接位置と同様にして、1次電極15と2次電極16との間にパルス状に電流を通電させるように、電源装置17に指令を出し、溶接を行う。この工程を、A点からB点を介してC点まで、繰り返し行うことにより、立体的な母材32の、A点からC点までの三次元の範囲に、自動で、連続して、溶加材25を溶融接合することが可能である。C点まで溶接したら自動で溶接を終了する。溶接を終えたら、仕上げとして、公知の手段を用いて、溶接した肉盛り部分を削り取り、研磨すれば、母材32の微細な傷等は、元の通りに修復される。
【産業上の利用可能性】
【0038】
本発明に係る溶接装置及び三次元溶接装置は、合成樹脂成形用金型、ゴム成形用金型、ダイカスト金型等の、金型の潰れや傷の補修及び寸法補正を行う手段として、好適に利用される。特に、極微細な傷も許されない携帯電話をはじめとする各種電子電気機器の部品の成形用金型を補修する手段として、好適に用いられる。
【図面の簡単な説明】
【0039】
【図1】本発明に係る三次元溶接装置の一の実施形態を示す図であり、全体構成を示すブロック図である。
【図2】本発明に係る三次元溶接装置の一の実施形態を示す正面図である。
【図3】本発明に係る三次元溶接装置の一の実施形態を示す上面図である。
【図4】溶接工程を示すタイムチャートである。
【符号の説明】
【0040】
1 三次元溶接装置
2 制御装置
10 溶接装置本体部
11 X軸位置決め機
12 Y軸位置決め機
13 Z軸位置決め機
14 溶加材送給装置
15 1次電極
16 2次電極
17 電源装置
20 三次元位置決め装置
21 入力装置
22 保持板
23 ホルダ
24 ステージ
25 溶加材
31 シールドガス供給装置
32 母材

【特許請求の範囲】
【請求項1】
金属からなる母材の溶接箇所の近傍に配設される1次電極と、前記母材に電気的に接続される2次電極と、前記1次電極と2次電極との間にパルス状に電流を通電して前記1次電極と前記母材との間に断続的にアークを発生させる電源装置と、前記アークの発生による熱で溶融した母材の中へアークが消える前に金属からなる溶加材を差し込む溶加材送給手段と、を具備する溶接装置。
【請求項2】
前記電流が、1〜300アンペアである請求項1に記載の溶接装置。
【請求項3】
前記電流を通電する時間が、1/1000〜1秒である請求項1又は2に記載の溶接装置。
【請求項4】
前記金属からなる溶加材が、直線ワイヤー状を呈し、その太さが、0.1〜1.0mmφである請求項1〜3の何れか一項に記載の溶接装置。
【請求項5】
前記1次電極が、非消耗電極である請求項1〜4の何れか一項に記載の溶接装置。
【請求項6】
前記母材の溶接箇所の近傍の空間をシールするためにその空間へ不活性ガスを供給するシールドガス供給手段を、更に具備する請求項1〜5の何れか一項に記載の溶接装置。
【請求項7】
請求項1〜6の何れか一項に記載の溶接装置と、
前記母材に対する前記1次電極及び前記溶加材送給手段の相対的な位置を、三次元で任意の位置に自在に決定し得る三次元位置決め手段と、
を具備する三次元溶接装置。
【請求項8】
前記三次元位置決め手段が、X軸、Y軸、及びZ軸からなる三次元座標軸上におけるそれぞれの位置決めを担う、3つの直線運動案内機器で構成される請求項7に記載の三次元溶接装置。
【請求項9】
制御手段を、更に具備し、
その制御手段が、前記母材に対する前記1次電極及び前記溶加材送給手段の位置の範囲を、前記X軸、Y軸、及びZ軸の位置の範囲として、予め入力するとともに、断続的にアークを発生させるための前記電流を通電する時間を、予め入力し、
前記三次元位置決め手段に指令を出して、入力された前記母材に対する前記1次電極及び前記溶加材送給手段の位置の範囲に従って、前記パルス状の電流の通電と通電の間の非通電のときであってアークが消えている間に、前記母材に対する前記1次電極及び前記溶加材送給手段の位置を断続的に移動させるとともに、
各位置において、前記電源装置に指令を出して、入力された前記電流を通電する時間に従って前記1次電極と2次電極との間にパルス状に電流を通電させ、前記1次電極と前記母材との間に断続的にアークを発生させ、且つ、前記溶加材送給手段に指令を出して、アークの発生による熱で溶融した母材の中へアークが消える前に金属からなる溶加材を差し込ませる工程を、繰り返し行い、
前記母材の三次元の所定の範囲に、自動で、前記溶加材を溶融接合し得る請求項8に記載の三次元溶接装置。
【請求項10】
金属からなる母材の近傍に配設された非消耗の1次電極と、前記母材に電気的に接続された2次電極と、の間に、通電の時間が1/1000〜1秒になるように、パルス状に1〜300アンペアの電流を通電して、前記1次電極と前記母材との間に断続的にアークを発生させるとともに、前記アークの発生による熱で溶融した母材の中へアークが消える前に、太さが0.1〜1.0mmφの直線ワイヤー状の金属からなる溶加材を差し込む工程を行い、前記母材の所定位置に前記溶加材を溶融接合する溶接方法。
【請求項11】
前記パルス状の電流の通電と通電の間の非通電のときであってアークが消えている間に、前記母材に対する1次電極の位置を動かして繰り返し前記工程を行い、前記母材の所定範囲に連続的に前記溶加材を溶融接合する請求項10に記載の溶接方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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