説明

溶接鋼管の製造方法及び溶接鋼管

【課題】優れた耐座屈性を有する溶接鋼管の製造方法を提供する。
【解決手段】本実施の形態による溶接鋼管の製造方法は、溶接素管を準備する工程と、記拡管ヘッドを用いて、式(1)で定義されるうねり波長比Dが0.8以下又は1.8以上となるように、溶接素管の全長を拡管して溶接鋼管にする工程とを備える。
D=p/λ (1)
ここで、pは溶接鋼管の軸方向のうねり波長であり、λは以下の式(2)で定義されるティモシェンコの座屈波長である。
λ=3.44×(r×t)1/2 (2)
ここで、rは溶接鋼管の内半径であり、tは溶接鋼管の肉厚である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、鋼管の製造方法及びその鋼管に関し、さらに詳しくは、溶接鋼管の製造方法及び溶接鋼管に関する。
【背景技術】
【0002】
石油、天然ガス等の輸送にはパイプラインが利用される。パイプラインは、複数のラインパイプで構成される。ラインパイプには例えば、UOE鋼管に代表される溶接鋼管が利用される。
【0003】
溶接鋼管はたとえば、以下の方法で製造される。鋼板の幅方向端部をCプレスにて曲げ加工する(C成形)。C成形された鋼板をUプレスにて曲げ加工する(U成形)。U成形された鋼板をOプレスにて曲げ加工する(O成形)。これにより、鋼板の幅方向端部同士が対向する略円形のオープンパイプが得られる。オープンパイプにおいて周方向で対向する幅方向端部同士を仮付溶接する。その後、オープンパイプに対して内面溶接及び外面溶接を行う。以上の工程により、溶接素管が得られる。溶接素管の真円度を高めるため、溶接素管を拡管機にて拡管する。これにより、目的とする溶接鋼管(本例はUOE鋼管)が製造される。
【0004】
拡管機はたとえば、特開2006−28439号公報に開示される。拡管機は、拡管ヘッドを備える。拡管ヘッドは溶接素管に対して相対的に溶接素管の軸方向に移動しながら、溶接素管の全長を拡管する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2006−289439号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
拡管された溶接鋼管がパイプラインに利用される場合、溶接鋼管は優れた耐座屈性を要求される。パイプラインは、カナダ等の寒冷地の永久凍土地域、又は、日本等の地震発生地域に設けられる場合がある。永久凍土が溶解したり、地震が発生したりすることにより地表面が上下方向に変動する場合、パイプラインを構成する溶接鋼管はこの変動を受ける。溶接鋼管がこのような変動を受けても、座屈の発生を抑制できる方が好ましい。
【0007】
本発明の目的は、優れた耐座屈性を有する溶接鋼管の製造方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の実施の形態による溶接鋼管の製造方法は、溶接素管を準備する工程と、拡管ヘッドを用いて、式(1)で定義されるうねり波長比Dが0.8以下又は1.8以上となるように、前記溶接素管の全長を拡管して溶接鋼管にする工程とを備える。
【0009】
D=p/λ (1)
ここで、pは前記溶接鋼管の軸方向のうねり波長であり、λは以下の式(2)で定義されるティモシェンコ(Timoschenko)の座屈波長である。
λ=3.44×(r×t)1/2 (2)
ここで、rは前記溶接鋼管の内半径であり、tは前記溶接鋼管の肉厚である。
【発明の効果】
【0010】
本発明の実施の形態による溶接鋼管の製造方法は、優れた耐座屈性を有する溶接鋼管を製造することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】図1は、溶接素管の断面図である。
【図2】図2は、拡管機の側面図である。
【図3】図3は、本実施の形態による溶接鋼管の拡管工程を示す一部断面図である。
【図4】図4は、製造された溶接鋼管の表面のうねりを示すグラフである。
【図5】図5は、典型的な曲げモーメントと曲げひずみとの関係を示すグラフである。
【図6】図6は、溶接鋼管の曲げモーメントと曲げひずみとの関係を示すグラフである。
【図7】図7は、図6のグラフを得るために利用したFEAモデルの模式図である。
【図8】図8は、図7のFEAモデルを用いて得られた、限界曲げひずみ比とうねり波長比との関係を示すグラフである。
【図9】図9は、図8と異なる条件のFEAモデルを用いて得られた、限界曲げひずみ比とうねり波長比との関係を示すグラフである。
【図10】図10は、図8及び図9と異なる条件のFEAモデルを用いて得られた、限界曲げひずみ比とうねり波長比との関係を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明者は、溶接鋼管の耐座屈性について調査及び検討した。その結果、本発明者は以下の知見を得た。
【0013】
(A)拡管機の拡管ヘッドを利用して溶接鋼管全長を拡管した場合、溶接鋼管は軸方向にうねりを有する。軸方向のうねりは周期性を有する。換言すれば、軸方向のうねりは波長を有する。軸方向のうねり波長は、拡管工程で形成される。拡管ヘッドの溶接素管に対する相対的な移動ピッチに基づいて、うねり波長が決まる。
【0014】
(B)溶接鋼管の耐座屈性は、うねり波長の影響を大きく受ける。具体的には、うねり波長が式(2)で定義されるティモシェンコ(Timoschenko)の座屈波長λ(mm)となる場合、溶接鋼管の耐座屈性は最も低くなる。
λ=3.44×(r×t)1/2 (2)
ここで、r(mm)は溶接鋼管の内半径である。tは溶接鋼管の肉厚(mm)である。
【0015】
(C)拡管工程において形成される溶接鋼管のうねり波長をティモシェンコの座屈波長λと異なる値にすれば、溶接鋼管の耐座屈性が高まる。
【0016】
(D)より具体的には、溶接鋼管のうねり波長をp(mm)とした場合、式(1)で定義されるうねり波長比Dが0.8以下又は1.8以上となるように、拡管工程において溶接素管全長を拡管することにより、溶接鋼管の耐座屈性を高めることができる。
D=p/λ (1)
【0017】
以上の知見に基づいて、本発明者は次の発明を完成した。
【0018】
本発明の実施の形態による溶接鋼管の製造方法は、溶接素管を準備する工程と、拡管ヘッドを用いて、式(1)で定義されるうねり波長比Dが0.8以下又は1.8以上となるように、溶接素管の全長を拡管して溶接鋼管にする工程とを備える。
【0019】
この場合、優れた耐座屈性を有する溶接鋼管が製造される。
【0020】
好ましくは、溶接素管の全長を拡管する工程は、うねり波長比が0.8以下又は1.8以上となるように拡管ヘッドの移動ピッチを設定する工程と、設定された移動ピッチで溶接素管の全長を拡管する工程とを含む。
【0021】
この場合、溶接鋼管に形成されるうねり波長pが、座屈波長λと異なる値になる。そのため、溶接鋼管の耐座屈性が高まる。
【0022】
本発明の実施の形態による溶接鋼管は、全長を拡管されて製造され、軸方向にうねりを有する。そして、式(1)で求められるうねり波長比Dが0.8以下又は1.8以上である。
【0023】
以下、本発明の実施の形態による溶接鋼管について、図面を参照しながら説明する。図中同一又は相当部分には、同一符号を付して、その説明は繰り返さない。
【0024】
[溶接鋼管の製造方法]
溶接鋼管の製造方法は、溶接素管を準備する工程と、溶接素管を拡管して溶接鋼管を製造する工程とを備える。溶接素管を準備する工程を「準備工程」といい、溶接素管を拡管して溶接鋼管を製造する工程を「拡管工程」という。各工程について詳述する。
【0025】
[準備工程]
初めに、図1に示す溶接素管12を準備する。本実施の形態では、溶接素管12はたとえば、UOE鋼管である。
【0026】
溶接素管12がUOE鋼管である場合、溶接素管12は以下の方法で製造される。先ず、鋼板を準備する。準備した鋼板に、C成形、U成形及びO成形をこの順番で実施する。これにより、鋼板の幅方向端部同士が対向する略円形のオープンパイプが得られる。
【0027】
オープンパイプにおいて周方向で対向する幅方向端部同士を仮付溶接する。その後、オープンパイプに内面溶接及び外面溶接を行う。これにより、溶接素管12(図1参照)が製造される。
【0028】
[拡管工程]
拡管機を利用して溶接素管12の全長を拡管する。図2は拡管機100の側面図である。拡管機100は、本体110と、アキシャルインフィード105とを備える。本体110は、主シリンダ101と、シャフト状のホーン102と、拡管ヘッド103とを備える。本体110は溶接素管12の一端12A側に配置される。アキシャルインフィード105は、溶接素管12の他端12B側に配置される。
【0029】
拡管ヘッド103の後端は、ホーン102の先端に取り付けられる。拡管ヘッド103の先端は、溶接素管12の端12Aと対向する。ホーン102の後端は、主シリンダ101に取り付けられる。
【0030】
拡管ヘッド103は円柱状であり、複数のダイス104が周方向に配置される。ホーン102内のドローバー(図示せず)が軸方向に引かれると、楔作用により、複数のダイス104が拡がる。より具体的には、ダイス104が拡管ヘッド103の径方向に移動して拡がる。このとき複数のダイス104が溶接素管12を押し広げ、拡管する。ドローバーを元に戻すと、複数のダイス104も元の位置に戻り、1回の拡管動作が終了する。
【0031】
アキシャルインフィード105は、溶接素管12の端12B側に配置される。アキシャルインフィード105は、グリッパ106を備える。グリッパ106は、溶接素管12の端12Bを把持する。アキシャルインフィード105は、グリッパ106により溶接素管12を把持しながら、軸方向に所定の移動ピッチで移動する。そのため、溶接素管12は、本体110側に軸方向に所定の移動ピッチで送り込まれる。その結果、拡管ヘッド103は、溶接素管12に対して相対的にアキシャルインフィード105側に移動する。
【0032】
アキシャルインフィード105が1回の移動ピッチ分だけ溶接素管12を送り込んだ後、拡管ヘッド103による1回の拡管動作を実施する。
【0033】
図3は、拡管動作の模式図である。図3を参照して、拡管ヘッド103は、上述のとおり、溶接素管12内を端12A側から端12B側へ相対的に移動する。図3は、nステップ目の拡管ヘッド103の位置と、(n+1)ステップ目の拡管ヘッド103の位置とを示す。nステップ目での拡管動作を終了した後、n+1ステップ目で、アキシャルインフィード105は、溶接素管12を移動ピッチPIだけ本体110側(端12A側)に送り込む。これにより、拡管ヘッド103は、溶接素管12に対して相対的に移動ピッチPIだけアキシャルインフィード105側(端12B側)に移動する。移動後、拡管ヘッド103の複数のダイス104を拡げ、溶接素管12を拡管する。上述の移動ピッチPIは、1回の拡管動作当たりの移動距離に相当する。
【0034】
移動ピッチPIは、例えば、拡管ヘッド103の形状、アキシャルインフィード105の駆動力(溶接素管12を送り込む外力)、溶接素管12の化学組成および強度グレード、溶接素管12の肉厚等によって、適宜変更される。
【0035】
拡管ヘッド103は、移動ピッチPI分だけ移動するごとに拡管動作を繰り返し、溶接素管12内を端12Aから端12Bへ相対的に移動する。以上の工程により、拡管ヘッド103は溶接素管12の全長を拡管し、溶接鋼管を製造する。
【0036】
図4は、製造された溶接鋼管外表面の軸方向のうねりを示す模式図である。図4の横軸は溶接鋼管の軸方向距離(溶接鋼管軸方向中央を「0」と規定する)であり、図4の縦軸は、うねり量を示す。図4に示すとおり、溶接鋼管の外表面性状は一定ではなく、軸方向に波長pのうねりを有する。以下、波長pを「うねり波長」と称する。
【0037】
うねり波長pは、移動ピッチPIに対応する。より具体的には、うねり波長pは、移動ピッチと実質的に同一である。
【0038】
上述の溶接鋼管表面のうねりは、以下の理由により発生すると推定される。図3に示すとおり、n+1回目の拡管領域の後部は、n回目の拡管領域の前部とオーバラップする。オーバラップしないように拡管する場合、n+1回目とn回目との間に拡管されていない部分が発生し得る。そのようなケースを発生しないよう、n+1回目とn回目の拡管部分は一部オーバラップするよう拡管される。このようなオーバラップ部分の存在により、溶接鋼管表面の軸方向にうねりが発生すると推定される。
【0039】
溶接鋼管において、うねり波長pが、式(2)で定義されるティモシェンコの座屈波長λと同じである場合、溶接鋼管の変形能が最も低下し、座屈が発生する。
λ=3.44×(r×t)1/2 (2)
【0040】
図5は、溶接鋼管に曲げモーメントを与えた場合の典型的な曲げモーメントと曲げひずみとの関係を示す図である。曲げモーメントが最大曲げモーメントMmaxに達したとき、座屈が発生する。最大曲げモーメントMmaxにおける曲げひずみを、限界曲げひずみεcと定義する。限界曲げひずみεcが大きい程、溶接鋼管の耐座屈性は高くなる。
【0041】
拡管工程では、製造された溶接鋼管において、式(1)で定義されるうねり波長比Dが0.8以下又は1.8以上になるように、溶接素管の全長を拡管する。そのため、製造された溶接鋼管の耐座屈性が向上する。その理由は以下の通りである。
【0042】
図6は、異なるうねり波長を有する溶接鋼管の曲げモーメントと曲げひずみとの関係を示す図である。図6は次の方法により求めた。図7に示すFEA(Finite Element Analysis)モデルを利用して、FEAを実施した。FEAには、汎用の弾塑性有限要素法解析ソフトMSC.Marcを使用した。FEAモデルでは、幾何学的対称性を考慮して、溶接鋼管の1/4部分(軸方向に1/2、径方向に1/2の部分)をモデル化した。溶接鋼管の軸方向長さは、溶接鋼管の直径ODの10倍(10OD)を想定した。図7中のFEAモデル10の左端10Lは、溶接鋼管の中央に相当した。FEAモデル10の右端10Rは、溶接鋼管の端に相当した。内圧として12MPaの圧力を想定した。右端10Rには、FEAモデル10の中心軸から下方に10ODの距離からFEAモデル10の軸方向に変位を付加した。図7に示すとおり、幾何学的初期不整として、溶接鋼管中央部の外表面には、中央部を振幅のピークとする3p/4のうねり波長を軸方向に形成した。
【0043】
FEAモデルである溶接鋼管の強度グレードはX80グレード(0.2%耐力が555MPa以上)とした。外径は1219mm(48インチ)とした。肉厚は24mmとした。式(2)に基づく座屈波長λは、408mmであった。
【0044】
うねり波長pを0.6λ及び1.0λに設定した2つのFEAモデルを解析し、各FEAモデルにおける曲げモーメント及び曲げひずみを求めた。このとき、FEAモデル10のうねりの振幅dは一定(0.73mm=0.06%OD)とした。得られた結果に基づいて、図6を作成した。
【0045】
図6を参照して、図6中の実線は、うねり波長p=0.6λの曲げモーメント−曲げひずみ曲線である。図6中の破線は、うねり波長p=1.0λの曲げモーメント−曲げひずみ曲線である。うねり波長p=0.6λの場合、うねり波長p=1.0λの場合と比較して、限界曲げひずみ量が大きくなった。つまり、うねり波長pが座屈波長λと異なる値である方が、溶接鋼管の耐座屈性が向上した。
【0046】
そこで、図7に示すFEAモデル10を用いてさらに、うねり波長pを0.6λ〜3.0λまで変化させ、各うねり波長pにおける限界曲げひずみを求めた。このとき、FEAモデル10における溶接鋼管を肉厚を24mmとした。また、他の条件は図6を得るためのFEA条件と同じとした。
【0047】
図8は、上記FEA結果を示す図である。図8の横軸は式(1)で定義されるうねり波長比D(単位は無次元)を示す。
うねり波長比D=p/λ (1)
【0048】
図8の縦軸は、式(3)で定義される限界曲げひずみ比(単位は無次元)を示す。
限界曲げひずみ比=うねり波長pにおける限界曲げひずみ/うねり波長p=1.0λの場合における限界曲げひずみ (3)
【0049】
図8を参照して、うねり波長比Dが1.0よりも大きくなるに従い、限界曲げひずみ比は徐々に増大し、うねり波長比Dが1.8以上になると、うねり波長比Dの増大とともに限界曲げひずみ比が顕著に増大した。一方、うねり波長比Dが1.0よりも小さくなるに従い、限界曲げひずみ比は増大し、うねり波長比Dが0.8以下になると、うねり波長比Dの低下とともに限界ひずみ比が顕著に増大した。
【0050】
さらに、後述の実施例で示すとおり、うねり波長比Dが0.8以下又は1.8以上であれば、溶接鋼管の肉厚が変化しても、優れた耐座屈性が得られた。
【0051】
したがって、拡管工程において、製造された溶接鋼管のうねり波長比Dが0.8以下又は1.8以上になるように、拡管ヘッド103を利用して溶接素管12の全長を拡管する。これにより、溶接鋼管の耐座屈性が向上する。
【0052】
うねり波長比Dを0.8以下又は1.8以上にするために、例えば、拡管工程は、移動ピッチ設定工程と、拡管動作工程とを含む。移動ピッチ設定工程では、拡管ヘッド103を移動させる移動ピッチPIを調整して、うねり波長比Dを0.8以下又は1.8以上になるように移動ピッチPIを設定する。拡管動作工程では、設定された移動ピッチPIで拡管ヘッド103を移動しながら、溶接素管12の全長を拡管する。
【0053】
上述のとおり、うねり波長pは移動ピッチPIに対応する。より具体的には、うねり波長pは移動ピッチPIと実質的に同じになる。
【0054】
したがって、移動ピッチPIを調整することにより、溶接鋼管のうねり波長pを容易に調整できる。
【0055】
さらに、拡管ヘッド103のダイス104の表面に、軸方向に延びるうねりを予め形成してもよい。この場合形成されたうねり波長pを0.8λ以下又は1.8λ以上にする。このようなダイス104を用いれば、ダイスの表面が溶接素管を押し広げるときに、ダイス104の表面のうねりが溶接素管に転写され、溶接素管の内面及び外面に0.8λ以下又は1.8λ以上のうねり波長pが形成される。
【0056】
好ましくは、拡管工程において、製造された溶接鋼管のうねり波長比Dが0.8以下となるように、溶接鋼管を拡管する。図8に示すとおり、うねり波長比Dが1.0よりも大きくなる場合よりも、うねり波長比が1.0未満になる場合の方が、うねり波長比の変動に伴う限界曲げひずみ比の変動が大きい。そのため、うねり波長比が0.8以下の場合、耐座屈性が顕著に増大する。うねり波長pが小さい方が、溶接鋼管の剛性が高くなるためと考えられる。
【実施例】
【0057】
[試験方法]
上述のFEA(有限要素法)を実施した。具体的には、表1に示すとおり、マーク1及びマーク2のFEAモデルを準備した。マーク1のFEAモデルの溶接鋼管の肉厚は18mmであった。マーク2のFEAモデルの溶接鋼管の肉厚は30mmであった。マーク1及びマーク2のFEAモデルの強度グレード及び外径は、上述の肉厚24mmのFEAモデルと同じであった。以下、肉厚24mmのFEAモデルをマーク3と称する。
【表1】

【0058】
具体的には、マーク1〜マーク3の強度グレードはX80(0.2%耐力が555MPa以上)であり、外径は1219mm(48インチ)であった。マーク1の座屈波長λは355mmであり、マーク2の座屈波長は454mmであった。解析により評価したうねり波長pの範囲は、肉厚24mmの場合と同様に、0.6λ〜3.0λとした。FEAにより、各うねり波長pにおける限界曲げひずみを求めた。そして、得られた限界曲げひずみを用いて、うねり波長比Dと限界曲げひずみ比との関係を示す図を作成した。
【0059】
[試験結果]
図9はマーク1のうねり波長比Dと限界曲げひずみとの関係を示す図である。図10は、マーク2のうねり波長比Dと限界曲げひずみとの関係を示す図である。
【0060】
図9(マーク1)、図10(マーク2)及び図8(マーク3)を参照して、マーク1〜3の何れにおいても、うねり波長比Dを0.8以下又は1.8以上とした場合、限界曲げひずみ比が顕著に増大した。そして、うねり波長比Dが0.8以下又は1.8以上である場合、限界曲げひずみ比は1.03以上になることが判明した。換言すれば、うねり波長比Dを0.8以下又は1.8以上とした場合に、溶接鋼管の耐座屈性が高まった。
【0061】
以上、本発明の実施形態について、詳述してきたが、これらはあくまでも例示であって、本発明は、上述の実施形態によって、何等、限定されない。
【産業上の利用可能性】
【0062】
本発明は、溶接鋼管の製造方法に広く利用でき、特に、パイプラインに利用される溶接鋼管の製造方法に適する。さらに具体的には、UOE鋼管の製造方法に好適である。
【符号の説明】
【0063】
12 溶接素管,100 拡管機,103 拡管ヘッド,104 ダイス

【特許請求の範囲】
【請求項1】
溶接素管を準備する工程と、
拡管ヘッドを用いて、式(1)で定義されるうねり波長比Dが0.8以下又は1.8以上となるように、前記溶接素管の全長を拡管して溶接鋼管にする工程とを備える、溶接鋼管の製造方法。
D=p/λ (1)
ここで、pは前記溶接鋼管の軸方向のうねり波長であり、λは以下の式(2)で定義されるティモシェンコの座屈波長である。
λ=3.44×(r×t)1/2 (2)
ここで、rは前記溶接鋼管の内半径であり、tは前記溶接鋼管の肉厚である。
【請求項2】
請求項1に記載の溶接鋼管の製造方法であって、
前記溶接素管の全長を拡管する工程は、
前記うねり波長比Dが0.8以下又は1.8以上となるように前記拡管ヘッドの前記溶接素管に対する相対的な移動ピッチを設定する工程と、
設定された前記移動ピッチで前記溶接素管の全長を拡管する工程とを含む、溶接鋼管の製造方法。
【請求項3】
全長を拡管されて製造され、
軸方向にうねりを有し、
下式(1)で求められるうねり波長比Dが0.8以下又は1.8以上である溶接鋼管。
D=p/λ (1)
ここで、pは溶接鋼管のうねり波長であり、λは以下の式(2)から求められるティモシェンコの座屈波長である。
λ=3.44×(r×t)1/2 (2)
ここで、rは前記溶接鋼管の内半径であり、tは前記溶接鋼管の肉厚である。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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