説明

溶融スラグ吐出ポット

【目的】本発明の目的は、固形物が流出しない溶融スラグ吐出ポットを提供することにある。
【解決手段】溶融スラグ吐出ポット3は、逆円錐台形状のポット本体3Aからなり、該ポット本体3Aの側壁に溶融スラグ吐出口30が形成されている。さらに該ポット本体3Aの外壁面であって該溶融スラグ吐出口30の下端には、溶融スラグ案内部材35が配設され、溶融スラグ20が流れる溶融スラグ案内路37が形成されている。また、該溶融スラグ案内部材35の先端にはR加工された湾曲部38A,38Bが形成されている。また、前記ポット本体3Aの上端開口3Cであって、前記溶融スラグ吐出口30の上方には、スキンマー40が取り付けられている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、溶融スラグを水砕、風砕、又は風水砕処理する処理設備に配置された溶融スラグ吐出ポットに関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、電気炉製鋼で発生する溶融スラグの水砕、風砕、又は風水砕処理設備が提案されている(例えば、特許文献1,2参照)。そして、該処理設備には、基台に傾動可能に枢設されたポットが設けられている。該ポットは、投入された溶融スラグを一旦貯留すると共に、傾動することにより、投入された該溶融スラグを、隣接する溶融スラグ樋に注ぐものである。ここで、該ポットから注がれる溶融スラグは、傾動した該ポットの上縁から流れ出す。
【0003】
【特許文献1】特開2002−146412号公報(図1参照)
【特許文献2】特開2006−170513号公報(図2参照)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、上記特許文献に開示されるような従来構成では、次に示す問題があった。すなわち、前記ポットに投入された溶融スラグにあっては、時間が経過するにつれてその液面に球形粒状の固形物からなる薄膜(いわゆるスラグ表皮)が形成されてポット内で浮遊するところ、この状態で該ポットの上縁から溶融スラグを注ぐと、該固形物や不純物もいっしょに溶融スラグ樋へ流れ出てしまい、あるいは上縁付近で固形物が滞留して円滑な注ぎ出しができず、水砕、風砕、又は風水砕処理する際に歩留まりが低下してしまう、あるいは作業効率が低下してしまうということがあった。
【0005】
そこで、本発明は、上記問題を解決することができる溶融スラグ吐出ポットを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、基台に傾動可能に枢設されたポット本体を具備し、該ポット本体に溶融スラグが投入され、該ポット本体が傾動することにより、投入された該溶融スラグが、隣接する溶融スラグ樋に吐出される溶融スラグ吐出ポットであって、前記ポット本体の側壁部分には、貫通孔が開設されており、該貫通孔が、投入された溶融スラグを前記溶融スラグ樋へ吐出するための溶融スラグ吐出口とされていることを特徴とする溶融スラグ吐出ポットである。
前記溶融スラグ吐出口は、横幅約150mm〜約300mm、縦幅約100mm〜約200mmの矩形であることが望ましい。
前記ポット本体の外壁面であって前記溶融スラグ吐出口の下端からは、該溶融スラグ吐出口から吐出された溶融スラグを前記溶融スラグ樋に案内する溶融スラグ案内部材が差し出されている構成が望ましい。
また、前記溶融スラグ案内部材の先端部が、該溶融スラグ案内部材の差出方向に沿って湾曲加工されていることが望ましい。
前記ポット本体の上端縁であって前記溶融スラグ吐出口の上方位置には、該ポット本体の中心軸に向かって突き出され、該ポット本体に内在する固形物の流出を阻止する固形物流出阻止板が配設されてもよい。
前記ポット本体は、逆円錐台形状であることが望ましい。
前記ポット本体は、鋳鋼からなることが望ましい。
【発明の効果】
【0007】
〔作用〕
本発明の溶融スラグ吐出ポットにあって、投入された溶融スラグが前記溶融スラグ吐出口から注ぎ出される際には、該溶融スラグ吐出口の内壁側上縁に、液面に形成されている溶融スラグ固形物が引っかかって外に流れ出さない。このため、溶融状態にある溶融スラグのみが溶融スラグ樋に注がれることとなる。
前記溶融スラグ吐出口を横幅約150mm〜約300mm、縦幅約100mm〜約200mmの矩形で構成すると、溶融スラグ吐出口から吐出する溶融スラグ流が安定する。
溶融スラグを溶融スラグ樋に案内する案内部材を設けると、円滑に溶融スラグを溶融スラグ樋へ注ぐことが可能となり、作業効率が向上する。
また、該案内部材の先端部が、前記のように湾曲加工されていると、円滑に溶融スラグが溶融スラグ樋へ流下する。
前記固形物流出阻止板が配設されると、前記の固形物が該ポット本体の上端開口から外部へ流れ出てしまうことがない。
前記ポット本体が逆円錐台形状であると、該ポット本体が堅牢となると共に、内壁に付着した溶融スラグが容易に剥離するという利点がある。
前記ポット本体が鋳鋼であると、該ポット本体が非常に堅牢となると共に、内壁に付着した溶融スラグが容易に剥離し、メンテナンス性に優れるという利点がある。
【0008】
〔効果〕
本発明は、溶融スラグの固形物が流れ出さない溶融スラグ吐出ポットであるため、歩留まりの高い水砕、風砕又は風水砕処理が可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
本発明を詳細に説明する。なお、本発明は、風砕処理を例に説明しているが、水砕処理設備に適用してもよいし、風水砕処理設備に適用してもよい。
【0010】
図1に示すように、スラグ風砕処理設備1は、鉱滓車2Aが停車する溶融スラグ投入位置2を備えている。また、該溶融スラグ投入位置2に隣接して、溶融スラグ吐出ポット3が配置されている。さらに、該溶融スラグ吐出ポット3に隣接して、溶融スラグ樋6が配置されている。また、該溶融スラグ樋6の下方には、風砕処理用の気流を形成する風砕処理手段9が配置されている。
【0011】
前記の溶融スラグ吐出ポット3は、ポット本体3Aを有し、該ポット本体3Aが基台4に傾動可能に枢設されている。そして、該ポット本体3Aは、公知の傾動手段5により、通常位置から約90°までの範囲内で傾動する。なお、該ポット本体3Aの通常位置とは、ポット本体3Aの中心軸CL(図2a参照)が略鉛直方向となる位置である。
【0012】
前記スラグ風砕処理設備1にあって、鉱滓車2Aが溶融スラグ投入位置2に到着すると、該鉱滓車2Aの荷台に配置されたポット2Bが後方へ傾動し、通常位置にある前記溶融スラグ吐出ポット3内に、上端開口3Cを介して溶融スラグ20が投入される。さらに、図2aに示すように、該溶融スラグ吐出ポット3が傾動して、前記溶融スラグ樋6に溶融スラグ20が注ぎ出される。該溶融スラグ樋6に注ぎ出された溶融スラグ20は、下方に流下すると共に、前記風砕処理手段9により形成された気流によって所定方向へ吹き飛ばされて風砕処理される。
【0013】
〔溶融スラグ吐出ポット〕
前記溶融スラグ吐出ポット3は、鋳鋼性で、約80mm〜約100mmの肉厚で製造された逆円錐台形状のポット本体3Aを主体としている。また、該ポット本体3Aの側壁3B部分には、周囲が囲繞されてなる矩形の貫通孔が開口しており、該貫通孔が溶融スラグ吐出口30とされている。なお、図4に示すように、該溶融スラグ吐出口30は、横幅L1が約150mm〜約300mm、縦幅L2が約100mm〜約200mmである横長矩形とされるのが好ましい。また、該ポット本体3Aにおいて、該ポット本体3Aの上縁3Dと該溶融スラグ吐出口30の上縁30Aとの天端距離L3が約200mm〜約500mmとされるのが好ましい。
【0014】
また、図3に示すように、該ポット本体3Aの外壁面からは、溶融スラグ案内部材35が外向きに差し出されている。該溶融スラグ案内部材35は、前記溶融スラグ吐出口30の下端に配置され、溶融スラグ吐出口30の開口面に対して約20〜30度の角度で下方に傾斜した傾斜面35Aを有する。また、該溶融スラグ案内部材35は、該溶融スラグ吐出口30の左右両側に各々立設された案内壁36,36を備えている。そして、この案内壁36,36の間に、溶融スラグ20が流れる溶融スラグ案内路37が形成されている。
【0015】
また、該溶融スラグ案内部材35の先端部には、上側湾曲部38Aと下側湾曲部38Bとが設けられて丸みが施されている。すなわち、各湾曲部38A,38Bは、溶融スラグ20の流動方向(溶融スラグ案内部材35の差出方向)に沿って各々湾曲加工(R加工)されており、各湾曲部38A,38Bにおける曲率半径R(mm)は、約60〜約80に設定されている。
【0016】
また、図2,3に示すように、前記ポット本体3Aの上縁3Dであって、前記溶融スラグ吐出口30の上方位置には、内向き(ポット本体3Aの中心軸CL方向)に突き出されたスキンマー40(例えば多孔性じゃま板)が取り付けられている。なお、該スキンマー40により、本発明の固形物流出阻止板が構成される。
【0017】
これまでに述べた構成にあって、溶融スラグ20が内在した状態でポット本体3Aが傾動すると、該溶融スラグ20は、該溶融スラグ吐出口30から注ぎ出される。このとき、該溶融スラグ吐出口30の内壁側上縁には、図2aに示すように、液面に形成された溶融スラグ固形物20Aが引っかかって付着していく。このため、該固形物20Aは外部へ流出することがない。また、前記天端距離L3を少なくとも約200mm以上に設定したため、該溶融スラグ固形物20Aやその他の不純物が上端開口3Cから外部へ流出してしまうことがない。すなわち、該溶融スラグ吐出口30と上縁3Dとの間の上壁部3Eが、堰の役割を果たしている。
以上より、溶融状態にある溶融スラグ20のみが該溶融スラグ吐出口30から吐出されるから、風砕処理における歩留まりが向上し、品質向上につながる。
【0018】
なお、溶融スラグ吐出口30から吐出された溶融スラグ20は、次に前記溶融スラグ案内路37を流下し、下方に配された前記溶融スラグ樋6に注がれる。ここで、上述のように、該溶融スラグ案内路37の先端部には、湾曲部38A,38Bが配されているため、該溶融スラグ20は、該溶融スラグ案内部材35の先端部で滞留することなく円滑に、溶融スラグ樋6へ流れ落ちる。
【0019】
ところで、図2bに示すように、該ポット本体3A内の溶融スラグ20が少量となるにつれて順次該ポット本体3Aは大きく傾けられるが、前記スキンマー40により、固形物20Aの排出が阻止される。
更に詳述すると、ポット本体3Aが大きく傾いた状態においては、前記固形物20Aは、該スキンマー40と前記上壁部3Eとで挟まれた空間41に収集されることとなり、上端開口3Cから外部へ流出してしまうことがない。なお、該スキンマー40に配された複数の透孔により、該空間41に集められた溶融スラグ20が外部へ流出できるようにしている。
【0020】
上述した構成は、望ましい形態として説明したが、状況に応じて適宜変更可能である。例えば、前記溶融スラグ案内部材35は、鋳鋼性としてもよいし、あるいは溶接手段によってポット本体3Aへ取り付けてもよい。また、本発明の溶融スラグ吐出口30は、上記寸法に限定されず、また矩形に限定されることもない。なお、溶融スラグ吐出口30の寸法を適宜変更すると、吐出させる溶融スラグ20の流量を精度良く所望値に設定することができる。また、上記実施例は、固形物流出阻止板として前記スキンマー40を採用し、その透孔により溶融スラグ20の通過を可能としたものであるが、透孔を備えない板部材で固形物流出阻止板を構成してもよい。また、前記固形物流出阻止板は、ポット本体3Aに対して着脱可能としてもよく、作業状況に応じて取り外してもよい。また、上記した溶融スラグは、酸化スラグであってもよいし、還元スラグであってもよい。
【産業上の利用可能性】
【0021】
本発明にあっては、歩留まりの高い水砕、風砕、又は風水砕処理が提供されるものであり、産業上利用可能である。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【図1】風砕処理設備の説明図である。
【図2】a)は傾動したポット本体の断面図であり、b)はさらに傾動したポット本体の断面図である。
【図3】溶融スラグ吐出口を示す外観斜視図である。
【図4】溶融スラグ吐出口の正面図である。
【符号の説明】
【0023】
3 溶融スラグ吐出ポット
3A ポット本体
3B 側壁
3C 上端開口
3D 上端縁
4 基台
6 溶融スラグ樋
20 溶融スラグ
30 溶融スラグ吐出口
35 溶融スラグ案内部材
37 溶融スラグ案内路
38A,38B 湾曲部
40 スキンマー(固形物流出阻止板)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
基台に傾動可能に枢設されたポット本体を具備し、該ポット本体に溶融スラグが投入され、該ポット本体が傾動することにより、投入された該溶融スラグが、隣接する溶融スラグ樋に吐出される溶融スラグ吐出ポットであって、
前記ポット本体の側壁部分には、貫通孔が開設されており、
該貫通孔が、投入された溶融スラグを前記溶融スラグ樋へ吐出するための溶融スラグ吐出口とされていることを特徴とする溶融スラグ吐出ポット。
【請求項2】
前記溶融スラグ吐出口は、横幅約150mm〜約300mm、縦幅約100mm〜約200mmの矩形とされている請求項1記載の溶融スラグ吐出ポット。
【請求項3】
前記ポット本体の外壁面であって前記溶融スラグ吐出口の下端からは、該溶融スラグ吐出口から吐出された溶融スラグを前記溶融スラグ樋に案内する溶融スラグ案内部材が差し出されている請求項1又は請求項2記載の溶融スラグ吐出ポット。
【請求項4】
前記溶融スラグ案内部材の先端部が、該溶融スラグ案内部材の差出方向に沿って湾曲加工されている請求項3記載の溶融スラグ吐出ポット。
【請求項5】
前記ポット本体の上端縁であって前記溶融スラグ吐出口の上方位置には、該ポット本体の中心軸に向かって突き出され、該ポット本体に内在する固形物の流出を阻止する固形物流出阻止板が配設されている請求項1乃至請求項4のいずれか1項に記載の溶融スラグ吐出ポット。
【請求項6】
前記ポット本体は、逆円錐台形状である請求項1乃至請求項5のいずれか1項に記載の溶融スラグ吐出ポット。
【請求項7】
前記ポット本体は、鋳鋼からなる請求項1乃至請求項6のいずれか1項に記載の溶融スラグ吐出ポット。




【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2010−144228(P2010−144228A)
【公開日】平成22年7月1日(2010.7.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−323635(P2008−323635)
【出願日】平成20年12月19日(2008.12.19)
【出願人】(394026079)株式会社星野産商 (12)
【Fターム(参考)】